【解決手段】ステアリング装置は、電動モータのn相の巻線それぞれに対応し、直列に接続された2つのスイッチング素子からなるn個のアームを有し、スイッチング素子の高電位側と低電位側とを交互に切り替えることにより、対応する巻線に電流を供給して、電動モータを駆動させるモータ駆動部と、高電位側と低電位側との切り替えの際に各々のスイッチング素子をオフにするデッドタイムを考慮したPWM信号を出力するPWM信号生成部と、デッドタイムによる電力不足分を補償する補償量を巻線に供給される目標電流と電動モータに要求される要求出力とに基づいて決定する補償量決定部310と、補償量を目標電圧に応じた制御量に加算して補償後の制御量をPWM信号生成部に出力する補償後電圧算出部320と、を備える。
前記補償量決定部は、前記目標電流の絶対値が基準値以下である場合には、前記補償量を、予め定められた所定補償量以下とし、前記要求出力が小さいほど、前記基準値を大きく設定する
請求項1に記載のステアリング装置。
前記補償量決定部は、前記目標電流の絶対値が、前記基準値より小さい第二基準値以下の場合には、前記補償量を0にし、前記目標電流の絶対値が、前記第二基準値よりも大きく前記基準値以下である場合には、前記目標電流の絶対値が前記第二基準値に近いほど前記補償量を小さくする
請求項2に記載のステアリング装置。
前記補償量決定部は、前記目標電流の絶対値が、前記第二基準値よりも大きく前記基準値以下である場合には、前記補償量を、前記所定補償量を前記基準値で除算した値に前記目標電流を乗算した値とする
請求項5に記載のステアリング装置。
前記補償量決定部は、前記目標電流の絶対値が、前記第二基準値よりも大きく前記基準値以下である場合には、前記補償量を、前記所定補償量を前記基準値から前記第二基準値を減算した値で除算した値に前記目標電流を乗算した値とする
請求項5に記載のステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車1に適用した構成を例示している。なお、
図1は、自動車1を前方から見た図である。
【0009】
ステアリング装置100は、自動車1の進行方向を変えるために運転者が操作する輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0010】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150それぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。
【0011】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。ステアリングギヤボックス107の内部には、トーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTを検出するトルクセンサ109が設けられている。
【0012】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度であるモータ回転角度θmに連動した回転角度信号を出力するレゾルバ120と、3相の巻線とを有する3相ブラシレスモータである。
【0013】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車1に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車1の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170からの出力信号などが入力される。また、制御装置10には、レゾルバ120からの電動モータ110の回転角度(以下「モータ回転角度θm」と称する場合がある。)に応じた出力信号が入力される。
【0014】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した操舵トルクTに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の駆動力(発生トルク)をピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の駆動力(発生トルク)が、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵をアシストする。
【0015】
(制御装置10)
図2は、制御装置10の概略構成図である。
図3は、目標電流設定部21、F/B制御部22の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10は、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部20と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部30と、電動モータ110に実際に流れる実電流を検出するモータ電流検出部40とを有している。また、制御装置10は、レゾルバ120からの出力信号に基づいて実際のモータ回転角度θmを算出するモータ回転角度算出部50を有している。また、制御装置10は、モータ回転角度算出部50で算出されたモータ回転角度θmに基づいて電動モータ110の回転速度(以下「モータ回転速度ωm」と称する場合がある。)を算出するモータ回転速度算出部51を有している。
【0016】
(モータ駆動制御部20)
モータ駆動制御部20は、電動モータ110に供給する目標電流を設定する目標電流設定部21を有している。また、モータ駆動制御部20は、目標電流設定部21にて設定された目標電流と、モータ電流検出部40にて検出された電動モータ110へ供給される実電流との偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部22とを有している。また、モータ駆動制御部20は、F/B制御部22からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力するPWM信号生成部23を有している。
目標電流設定部21、F/B制御部22及びPWM信号生成部23については後で詳述する。
【0017】
(モータ駆動部30)
モータ駆動部30は、バッテリBからの直流電力を交流電力に変換して、電動モータ110に供給するためのインバータ回路である。モータ駆動部30は、ブリッジ回路により構成され、複数組のスイッチング素子として6個の独立したトランジスタ31〜36を備えている。モータ駆動部30は、電動モータ110の各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれについて一対のトランジスタを有している。具体的には、U相用のトランジスタ31及びトランジスタ32、V相用のトランジスタ33及びトランジスタ34、W相用のトランジスタ35及びトランジスタ36を有している。トランジスタ31,33,35のエミッタと、トランジスタ32,34,36のコレクタとが、電動モータ110の各相のコイルにそれぞれ接続されている。また、トランジスタ31,33,35のコレクタは電源の正極側ラインと接続され、トランジスタ32,34,36のエミッタは電源の負極側(アース)ラインと接続されている。トランジスタ31〜36のそれぞれは、モータ駆動制御部20から出力される制御信号に従ってON/OFF動作する。
このように、モータ駆動部30は、n相(本実施形態においては3相)の巻線それぞれに対応し、直列に接続された2つのスイッチング素子からなるn個のアームを有し、スイッチング素子の高電位側(上アーム)と、スイッチング素子の低電位側(下アーム)とを交互に切り替えることにより、対応する巻線に電流を供給して、電動モータ110を駆動させる。
【0018】
(モータ電流検出部40)
モータ電流検出部40は、電動モータ110のU相に実際に流れる電流であるU相実電流Iuaを検出するためのU相電流検出部41と、電動モータ110のV相に実際に流れる電流であるV相実電流Ivaを検出するためのV相電流検出部42と、電動モータ110のW相に実際に流れる電流であるW相実電流Iwaを検出するためのW相電流検出部43とを有している。U相電流検出部41、V相電流検出部42及びW相電流検出部43は、それぞれ電動モータ110のU相,V相,W相に接続されたいわゆるシャント抵抗の両端に生じる電圧から各相に流れる実電流の値を検出する。
【0019】
(目標電流設定部21)
目標電流設定部21は、d−q座標系のq軸目標電流Iqtを設定するq軸目標電流設定部211と、d−q座標系のd軸目標電流Idtを設定するd軸目標電流設定部212とを有している。
q軸目標電流設定部211は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTと、車速センサ170にて検出された車速Vcとに基づいてq軸目標電流Iqtを設定する。操舵トルクTがプラスである場合にはq軸目標電流Iqtはプラス、操舵トルクTがマイナスである場合にはq軸目標電流Iqtはマイナスとすることを例示することができる。また、q軸目標電流Iqtは、操舵トルクTの絶対値が同じである場合には、車速Vcが低速であるほどq軸目標電流Iqtの絶対値が大きくなる。
d軸目標電流設定部212は、q軸目標電流設定部211が設定したq軸目標電流Iqtと、モータ回転速度算出部51が算出したモータ回転速度ωmとに基づいてd−q座標系のd軸目標電流Idtを算出する。
【0020】
(F/B制御部22)
F/B制御部22は、
図3に示すように、モータ電流検出部40によって検出された電流をd−q座標系の電流に変換する3相2軸変換部221を有している。3相2軸変換部221には、モータ電流検出部40にて検出されたU相実電流Iua,V相実電流Iva,W相実電流Iwa、及び、モータ回転角度算出部50にて算出されたモータ回転角度θmが入力される。そして、3相2軸変換部221は、予め定められた式に従って、U相実電流Iua,V相実電流Iva,W相実電流Iwaをd−q座標系の値であるd軸実電流Idaとq軸実電流Iqaとに変換し、変換したd軸実電流Ida,q軸実電流Iqaを出力する。
【0021】
また、F/B制御部22は、目標電流設定部21にて設定されたd軸目標電流Idtから、3相2軸変換部221にて算出されたd軸実電流Idaを減算するd軸減算部222dを有している。また、F/B制御部22は、目標電流設定部21にて算出されたq軸目標電流Iqtから、3相2軸変換部221にて設定されたq軸実電流Iqaを減算するq軸減算部222qを有している。
【0022】
また、F/B制御部22は、d軸減算部222dにて算出された偏差(Idt−Ida)に基づいてd軸目標電流Idtとd軸実電流Idaとが一致するようにPI(比例積分)制御を行い、d軸目標電圧Vdtを算出するd軸PI制御部223dを有している。また、F/B制御部22は、q軸減算部222qにて算出された偏差(Iqt−Iqa)に基づいてq軸目標電流Iqtとq軸実電流Iqaとが一致するようにPI(比例積分)制御を行い、q軸目標電圧Vqtを算出するq軸PI制御部223qを有している。
【0023】
d軸減算部222d,q軸減算部222qおよびd軸PI制御部223d,q軸PI制御部223qは、電動モータ110に供給する目標電流(d軸目標電流Idt,q軸目標電流Iqt)と電動モータ110に供給される実電流(d軸実電流Ida,q軸実電流Iqa)との偏差が零となるようにフィードバック制御を行う。
【0024】
また、F/B制御部22は、d軸PI制御部223d及びq軸PI制御部223qにて算出されたd軸目標電圧Vdt,q軸目標電圧Vqtを、3相交流座標系のU相目標電圧Vut,V相目標電圧Vvt,W相目標電圧Vwtに変換する第一2軸3相変換部224を有している。U相目標電圧Vut,V相目標電圧Vvt及びW相目標電圧Vwtを、区別して表現する必要がない場合には、これらをまとめてx相目標電圧Vxtと称する場合もある。なお、xは、U、V及びWのいずれかである。
【0025】
また、F/B制御部22は、d軸目標電流Idt,q軸目標電流Iqtを、3相交流座標系のU相目標電流Iut,V相目標電流Ivt,W相目標電流Iwtに変換する第二2軸3相変換部225を有している。U相目標電流Iut,V相目標電流Ivt及びW相目標電流Iwtを、区別して表現する必要がない場合には、これらをまとめてx相目標電流Ixtと称する場合もある。なお、xは、U、V及びWのいずれかである。
【0026】
また、F/B制御部22は、第一2軸3相変換部224から出力されたx相目標電圧Vxtと、第二2軸3相変換部225から出力されたx相目標電流Ixtとに基づいて、デッドタイムを補償するデッドタイム補償部300を有している。デッドタイム補償部300は、U相目標電圧Vut,V相目標電圧Vvt,W相目標電圧Vwtを補償した後の目標電圧であるU相補償後電圧Vur,V相補償後電圧Vvr,W相補償後電圧Vwrを出力する。U相補償後電圧Vur,V相補償後電圧Vvr及びW相補償後電圧Vwrを、区別して表現する必要がない場合には、これらをまとめてx相補償後電圧Vxrと称する場合もある。なお、xは、U,V及びWのいずれかである。
デッドタイム補償部300については後で詳述する。
【0027】
(PWM信号生成部23)
図4は、信号波、搬送波、制御信号P1〜P6の相関関係を示す図である。
PWM信号生成部23は、U相補償後電圧Vur,V相補償後電圧Vvr,W相補償後電圧Vwrに対応するように、トランジスタ31〜36のON/OFFを制御するための制御信号P1〜P6を生成する。PWM信号生成部23は、U相補償後電圧Vur,V相補償後電圧Vvr,W相補償後電圧Vwrの信号波と、搬送波である三角波PH1,PH2との比較に基づき制御信号P1〜P6を生成する。PWM信号生成部23は、上下にシフトされた位相の等しい二つの三角波PH1,PH2(PH1>PH2)を用いることにより、短絡(デッドショート)による貫通電流の発生を回避するためのデッドタイムTdを設定する。
【0028】
より具体的には、PWM信号生成部23は、上側に位置する三角波PH1の値よりもx相補償後電圧Vxrの方が大きい場合には、x相に対応する高電位側のトランジスタ31,33,35をONさせ、小さい場合には、各トランジスタ31,33,35をOFFさせるような制御信号P1,P3,P5を生成する。また、PWM信号生成部23は、下側に位置する三角波PH2の値よりもx相補償後電圧Vxrの方が小さい場合には、x相に対応する低電位側のトランジスタ32,34,36をONさせ、大きい場合には、各トランジスタ32,34,36をOFFさせるような制御信号P2,P4,P6を生成する。これにより、PWM信号生成部23は、各相の高電位側のトランジスタ及び低電位側のトランジスタのON/OFFの切り替え時に、各相の高電位側のトランジスタ及び低電位側のトランジスタが共にOFFとなるデッドタイムTdを設ける。
【0029】
なお、上述したPWM信号生成部23は、上下にシフトされた位相の等しい二つの三角波PH1,PH2を用いてデッドタイムを設定しているが、特にかかる態様に限定されない。PWM信号生成部23は、他の方法にてデッドタイムTdを設定しても良い。例えば、PWM信号生成部23は、以下のようにしてデッドタイムTdを設定しても良い。一つの三角波(例えば上記三角波PH1)を用い、この三角波の値よりもx相補償後電圧Vxrの方が大きくなったときに、低電位側のトランジスタ32,34,36の内、x相に対応するトランジスタをOFFさせ、このトランジスタをOFFさせたときから予め定められたデッドタイムTd後に、高電位側のトランジスタ31,33,35の内、x相に対応するトランジスタをONさせる。その後、この三角波の値よりもx相補償後電圧Vxrの方が小さくなったときに、高電位側のトランジスタ31,33,35の内、x相に対応するトランジスタをOFFさせ、このトランジスタをOFFさせたときから予め定められたデッドタイムTd後に、低電位側のトランジスタ32,34,36の内、x相に対応するトランジスタをONさせる。
【0030】
(デッドタイム補償部300)
デッドタイム補償部300は、
図3に示すように、補償量Rを決定する補償量決定部310を有している。また、デッドタイム補償部300は、補償量決定部310が決定した補償量Rと、x相目標電圧Vxtと、を用いて補償後の目標電圧であるx相補償後電圧Vxrを算出する補償後電圧算出部320を有している。
【0031】
図5は、要求出力Odと基準電流値Ibとの相関関係を示す図である。
補償量決定部310は、モータ回転速度算出部51が算出したモータ回転速度ωmとトルクセンサ109が検出した操舵トルクTとを用いて、電動モータ110に要求される要求出力Odを推定するとともに、要求出力Odを考慮して補償量Rを決定する。
【0032】
補償量決定部310は、先ず、モータ回転速度算出部51が算出したモータ回転速度ωmの絶対値|ωm|とトルクセンサ109が検出した操舵トルクTの絶対値|T|とを乗算することにより得た乗算値|ωm|×|T|を用いて要求出力Odの大小を推定する。本実施形態においては、要求出力Od=乗算値|ωm|×|T|として、乗算値|ωm|×|T|が大きいほど要求出力Odが大きいと推定する。つまり、モータ回転速度ωmの絶対値|ωm|が大きく、かつ、操舵トルクTの絶対値|T|が大きいほど、要求出力Odが大きいと推定し、モータ回転速度ωmの絶対値|ωm|が小さく、かつ、操舵トルクTの絶対値|T|が小さいほど、要求出力Odが小さいと推定する。なお、補償量決定部310は、モータ回転速度算出部51からの出力信号の値(例えば電圧値)と、トルクセンサ109からの出力信号の値(例えば電圧値)とを用いて要求出力Odを推定しても良い。また、補償量決定部310は、モータ回転速度算出部51が算出したモータ回転速度ωmの絶対値|ωm|と、トルクセンサ109が検出した操舵トルクTの絶対値|T|との、いずれか一方の値を用いて要求出力Odの大小を推定しても良い。例えば、補償量決定部310は、モータ回転速度ωmの絶対値|ωm|を用いて要求出力Odの大小を推定する場合には、絶対値|ωm|が大きいほど要求出力Odが大きいと推定し、絶対値|ωm|が小さいほど要求出力Odが小さいと推定しても良い。また、補償量決定部310は、操舵トルクTの絶対値|T|を用いて要求出力Odの大小を推定する場合には、絶対値|T|が大きいほど要求出力Odが大きいと推定し、絶対値|T|が小さいほど要求出力Odが小さいと推定しても良い。
【0033】
そして、補償量決定部310は、
図5に示すような要求出力Odと、基準値の一例としての基準電流値Ibとの相関関係に基づく制御マップや算出式に、要求出力Odを代入することにより基準電流値Ibを決定する。
図5に示した制御マップにおいては、要求出力Odが予め定められた所定要求出力Od0より大きい場合には基準電流値Ibは0となるように設定されている。また、要求出力Odが、0以上所定要求出力Od0以下である場合には、基準電流値Ibは、要求出力Odが大きくなるのに従って、予め定められた所定電流値I1から0まで減少するように設定されている。なお、所定要求出力Od0は、例えば、ステアリングホイール101の操舵角度を0に保持して直進するセンター保持時に要求される要求出力よりも大きな値であって、旋回時に要求される要求出力よりも小さな値であることを例示することができる。
【0034】
図6は、x相目標電流Ixt、基準電流値Ib及び補償量Rの関係を示す図である。なお、電流の符号が+である場合に電動モータ110を一方の回転方向に回転させ、電流の符号が−である場合に電動モータ110を他方の回転方向に回転させる。
補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibよりも大きい場合(Ixt>Ib)には、補償量Rを、予め定められた所定補償量の一例としての所定電圧Vrに決定する(R=Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ibよりも小さい場合(Ixt<−Ib)には、補償量Rを、所定電圧Vrに−1を乗算した値−Vrに決定する(R=−Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが0である場合(Ixt=0)には、補償量Rを0に決定する(R=0)。
【0035】
そして、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが0より大きくて基準電流値Ib以下である場合(0<Ixt≦Ib)、及び、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ib以上0未満である場合(−Ib≦Ixt<0)には、補償量Rを以下の値に決定する。すなわち、補償量決定部310は、所定電圧Vrを基準電流値Ibで除算した値にx相目標電流Ixtを乗算した値を補償量Rとして決定する(R=Vr/Ib×Ixt)。
【0036】
補償後電圧算出部320は、補償量決定部310が決定した補償量Rを、x相目標電圧Vxtに加算することによりx相補償後電圧Vxrを算出する(Vxr=Vxt+R)。
【0037】
以上のように構成されたデッドタイム補償部300は、要求出力Odが所定要求出力Od0よりも大きい場合には、基準電流値Ibは0であることから、x相目標電流Ixtが0よりも大きい場合(Ixt>0)には、x相補償後電圧Vxrは、x相目標電圧Vxtに所定電圧Vrを加算した値になる(Vxr=Vxt+Vr)。他方、x相目標電流Ixtが0よりも小さい場合(Ixt<0)には、x相補償後電圧Vxrは、x相目標電圧Vxtに、所定電圧Vrに−1を乗算した値−Vrを加算した値になる(Vxr=Vxt−Vr)。これにより、x相目標電流Ixtの値に関わらず、デッドタイムTdを設定することによる電力不足分が補償されるので、電動モータ110に実際に流れる実電流と、目標電流との誤差が生じ難くなる。つまり、電動モータ110に供給される電流に歪みが生じ難くなる。その結果、デッドタイムTdを設けていることに起因して生じる電動モータ110のトルク脈動が抑制されるので、振動が抑制される。
【0038】
一方、要求出力Odが所定要求出力Od0以下である場合(例えば電動モータ110の目標トルクが低く、かつ、モータ回転速度ωmが小さい場合)には、要求出力Odが小さくなるのに従って基準電流値Ibが大きくなる。その結果、要求出力Odが小さいほど、補償量Rの絶対値が所定電圧Vrよりも小さくなるx相目標電流Ixtの領域が大きくなるとともに、その領域では、x相目標電流Ixtの絶対値が小さくなるほど補償量Rの絶対値が小さくなる。そのため、x相目標電流Ixtの絶対値が0に近いほど、補償量Rの絶対値が小さくなり、x相補償後電圧Vxrは、x相目標電圧Vxtの値に近くなる。その結果、電動モータ110に供給する目標電流のゼロクロス時においても極性がなめらかに変わるので、実電流が0付近で暴れること、つまり、電流が0付近で急変して0を超えたり下回ったりすることが抑制される。すなわち、例えば電動モータ110の目標トルクが低く、かつ、モータ回転速度ωmが小さい場合等、目標電流がゼロクロス付近での停滞し易い操舵状況において、実電流が0付近で暴れることが抑制される。
【0039】
上述したように、第1の実施形態に係るステアリング装置100は、n相の巻線を有する電動モータ110と、n相の巻線それぞれに対応し、直列に接続された2つのスイッチング素子(トランジスタ31と32、トランジスタ33と34、トランジスタ35と36)からなるn個のアームを有し、スイッチング素子の高電位側(トランジスタ31,33,35)と、スイッチング素子の低電位側(トランジスタ32,34,36)とを交互に切り替えることにより、対応する巻線に電流を供給して、電動モータ110を駆動させる駆動部の一例としてのモータ駆動部30と、を備える。また、ステアリング装置100は、モータ駆動部30に対してスイッチング素子の高電位側とスイッチング素子の低電位側との切り替えの際に各々のスイッチング素子をオフにするデッドタイムTdを考慮したPWM信号を出力する出力部の一例としてのPWM信号生成部23を備える。そして、ステアリング装置100は、デッドタイムTdによる電力不足分を補償する補償量Rを巻線に供給されるx相目標電流Ixtと電動モータ110に要求される要求出力Odとに基づいて決定する補償量決定部310を備える。また、ステアリング装置100は、補償量Rをx相目標電流Ixtから算出される巻線の目標電圧に応じた制御量の一例としてのx相目標電圧Vxtに加算して補償後の制御量をPWM信号生成部23に出力する加算部の一例としての補償後電圧算出部320を備える。
【0040】
上述したように、このように構成されたステアリング装置100によれば、要求出力Odが所定要求出力Od0よりも大きい場合には、電動モータ110に供給される電流に歪みが生じ難くなるので、デッドタイムTdを設けていることに起因して生じる電動モータ110の振動が抑制される。また、要求出力Odが所定要求出力Od0以下である場合には、実電流が0付近で暴れることが抑制される。それゆえ、いかなる操舵状況においても、デッドタイム補償に起因する操舵フィーリングの悪化が抑制される。
【0041】
なお、上述した実施形態において、デッドタイム補償部300は、x相目標電圧Vxtに応じたデューティ比を補償する補償量を決定するとともに、この補償量を、x相目標電圧Vxtに応じたデューティ比に加算しても良い。そして、PWM信号生成部23は、デッドタイム補償部300にて補償された後のデューティ比に応じたPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力しても良い。かかる場合には、デッドタイム補償部300は、デッドタイムTdによる電力不足分を補償する補償量を電動モータ110の目標電圧に応じた制御量の一例としてのデューティ比に加算することにより得た補償後のデューティ比量をPWM信号生成部23に出力する。
【0042】
<第2の実施形態>
第2の実施形態においては、第1の実施形態に対して、補償量決定部310が補償量Rを決定する補償量決定手法が異なる。以下、第1の実施形態に係る補償量決定手法と異なる点について説明する。
【0043】
図7は、第2の実施形態に係る補償量決定手法に用いる、x相目標電流Ixt、基準電流値Ib及び補償量Rの関係を示す図である。
第2の実施形態に係る補償量決定手法においても、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibよりも大きい場合(Ixt>Ib)には、補償量Rを、予め定められた所定電圧Vrに決定する(R=Vr)。また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ibよりも小さい場合(Ixt<−Ib)には、補償量Rを、所定電圧Vrに−1を乗算した値−Vrに決定する(R=−Vr)。
一方、第2の実施形態に係る補償量決定手法においては、x相目標電流Ixtの絶対値が基準電流値Ib以下である場合(−Ib≦Ixt≦Ib)には、補償量Rを0に決定する(R=0)。
【0044】
補償量決定部310が、第2の実施形態に係る補償量決定手法を用いて補償量Rを決定することにより、要求出力Odが小さいほど、補償量Rの絶対値が所定電圧Vrよりも小さくなるx相目標電流Ixtの領域が大きくなるとともに、その領域においては、補償量Rは0になる。その結果、電動モータ110に供給する目標電流のゼロクロス時において、実電流が暴れる要因となる補償そのものが休止されるので、実電流が暴れることが抑制される。それゆえ、いかなる操舵状況においても、デッドタイム補償に起因する操舵フィーリングの悪化が抑制される。
【0045】
<第3の実施形態>
第3の実施形態においては、第1の実施形態に対して、補償量決定部310が補償量Rを決定する補償量決定手法が異なる。以下、第1の実施形態に係る補償量決定手法と異なる点について説明する。
【0046】
図8は、要求出力Od、基準電流値Ib及び第二基準電流値Ib2の相関関係を示す図である。
第3の実施形態に係る補償量決定手法においては、補償量決定部310は、先ず、
図8に示すような要求出力Od、基準電流値Ib、及び、第二基準値の一例としての第二基準電流値Ib2との相関関係に基づく制御マップや算出式に、要求出力Odを代入することにより基準電流値Ib及び第二基準電流値Ib2を決定する。
図8に示した制御マップにおいては、要求出力Odと基準電流値Ibとの相関関係は、
図5に示した制御マップと同様である。加えて、
図8に示した制御マップにおいては、要求出力Odが所定要求出力Od0より大きい場合には第二基準電流値Ib2は0となるように設定されている。また、要求出力Odが、0以上所定要求出力Od0以下である場合には、第二基準電流値Ib2は、要求出力Odが大きくなるのに従って、予め定められた第二所定電流値I2から0まで減少するように設定されている。なお、第二所定電流値I2は、所定電流値I1よりも小さな値である。
【0047】
図9は、第3の実施形態に係る補償量決定手法に用いる、x相目標電流Ixt、基準電流値Ib、第二基準電流値Ib2及び補償量Rの関係を示す図である。
補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibよりも大きい場合(Ixt>Ib)には、補償量Rを、予め定められた所定電圧Vrに決定する(R=Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ibよりも小さい場合(Ixt<−Ib)には、補償量Rを、所定電圧Vrに−1を乗算した値−Vrに決定する(R=−Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2以下である場合(−Ib2≦Ixt≦Ib2)には、補償量Rを0に決定する(R=0)。
【0048】
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが第二基準電流値Ib2より大きくて基準電流値Ib以下である場合(Ib2<Ixt≦Ib)、及び、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ib以上、第二基準電流値Ib2に−1を乗算した値−Ib2未満である場合(−Ib≦Ixt<−Ib2)には、補償量Rを以下の値に決定する。すなわち、補償量決定部310は、所定電圧Vrを基準電流値Ibで除算した値にx相目標電流Ixtを乗算した値を補償量Rとして決定する(R=Vr/Ib×Ixt)。
【0049】
補償量決定部310が、第3の実施形態に係る補償量決定手法を用いて補償量Rを決定することにより、要求出力Odが小さいほど、補償量Rの絶対値が所定電圧Vrよりも小さくなるx相目標電流Ixtの領域が大きくなる。また、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2以下である場合には補償量Rは0になる。また、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2よりも大きく基準電流値Ib以下である場合には、補償量Rは、x相目標電流Ixtが大きくなるのに応じて、所定電圧Vrを基準電流値Ibで除算した値に比例する値となる。その結果、電動モータ110に供給する目標電流のゼロクロス時において、実電流が暴れる要因となる補償そのものが休止されるとともに、その周辺においても極性がややなめらかに変わるので、実電流が0付近で暴れることが抑制される。それゆえ、いかなる操舵状況においても、デッドタイム補償に起因する操舵フィーリングの悪化が抑制される。
【0050】
<第4の実施形態>
第4の実施形態においては、第3の実施形態に対して、補償量決定部310が補償量Rを決定する補償量決定手法が異なる。以下、第3の実施形態に係る補償量決定手法と異なる点について説明する。
【0051】
図10は、第4の実施形態に係る補償量決定手法に用いる、x相目標電流Ixt、基準電流値Ib、第二基準電流値Ib2及び補償量Rの関係を示す図である。
第4の実施形態に係る補償量決定手法においても、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibよりも大きい場合(Ixt>Ib)には、補償量Rを、予め定められた所定電圧Vrに決定する(R=Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ibよりも小さい場合(Ixt<−Ib)には、補償量Rを、所定電圧Vrに−1を乗算した値−Vrに決定する(R=−Vr)。
また、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2以下である場合(−Ib2≦Ixt≦Ib2)には、補償量Rを0に決定する(R=0)。
【0052】
そして、第4の実施形態に係る補償量決定手法においては、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtが第二基準電流値Ib2より大きくて基準電流値Ib以下である場合(Ib2<Ixt≦Ib)、及び、x相目標電流Ixtが基準電流値Ibに−1を乗算した値−Ib以上、第二基準電流値Ib2に−1を乗算した値−Ib2未満である場合(−Ib≦Ixt<−Ib2)には、補償量Rを以下の値に決定する。すなわち、補償量決定部310は、所定電圧Vrを、基準電流値Ibから第二基準電流値Ib2を減算した値(Ib−Ib2)で除算した値にx相目標電流Ixtを乗算した値を補償量Rとして決定する(R=Vr/(Ib−Ib2)×Ixt)。
【0053】
補償量決定部310が、第4の実施形態に係る補償量決定手法を用いて補償量Rを決定することにより、要求出力Odが小さいほど、補償量Rの絶対値が所定電圧Vrよりも小さくなるx相目標電流Ixtの領域が大きくなる。また、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2以下である場合には補償量Rは0になる。また、x相目標電流Ixtの絶対値が第二基準電流値Ib2よりも大きく基準電流値Ib以下である場合には、補償量Rは、x相目標電流Ixtが大きくなるのに応じて、0から所定電圧Vrまで徐々に大きくなる。その結果、電動モータ110に供給する目標電流のゼロクロス時において、実電流が暴れる要因となる補償そのものが休止されるとともに、その周辺においても極性がなめらかに変わるので、実電流が0付近で暴れることが抑制される。それゆえ、いかなる操舵状況においても、デッドタイム補償に起因する操舵フィーリングの悪化が抑制される。
【0054】
なお、上述した第1、第3及び第4の実施形態に係る補償量決定手法においては、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtの絶対値が大きくなるのに応じて、補償量Rの絶対値を直線的に増加させているが、特にかかる態様に限定されない。例えば、補償量決定部310は、x相目標電流Ixtの絶対値が大きくなるのに応じて、補償量Rの絶対値を段階的に増加させても良い。
【0055】
なお、上述した各実施形態における制御装置10の構成要素は、ハードウェアによって実現されていても良いし、ソフトウェアによって実現されていても良い。また、本発明の構成要素の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等の外部記憶装置も含む。