【課題】複数部位で測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音を測定することが可能であるとともに、一部位のみでもコロトコフ音を測定して血圧を測定することが可能な血圧測定装置の提供。
【解決手段】動脈を圧迫する複数の動脈圧迫用嚢としての第1、第2主ゴム嚢1A,1Bと、第1、第2主ゴム嚢1A,1Bにそれぞれ導管1C,1Dを介して1つずつ接続される複数のコロトコフ音測定用嚢としての第1、第2副ゴム嚢2A,2Bと、第1、第2副ゴム嚢2A,2Bにそれぞれ接続されたマイクロホン3A,3Bと、第1、第2主ゴム嚢1A,1Bにそれぞれ接続される圧力供給管1E,1Fと、圧力供給管1E,1Fの途中にそれぞれ設けられる電磁エアーバルブ11A,11Bと、電磁エアーバルブ11A,11Bをそれぞれ開閉することにより第1、第2主ゴム嚢1A,1Bを同時に、または特定の主ゴム嚢のみを加減圧可能とするCPU7とを有する。
前記制御手段は、前記複数の電磁エアーバルブを開いて前記複数の測定部位の血圧を同時に測定した後、特定の電磁エアーバルブのみを開いて特定の測定部位の血圧を測定するものである請求項1記載の血圧測定装置。
前記導管は、前記複数のコロトコフ音測定用嚢により複数部位で測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音が前記複数の動脈圧迫用嚢に伝播する際に、所定レベル以下に減衰するように開口面積が設定されたものである請求項1または2に記載の血圧測定装置。
前記導管の開口面積は、前記複数のコロトコフ音測定用嚢から前記複数の動脈圧迫用嚢に伝播するコロトコフ音の減衰率が10分の1以下になるように設定されたものである請求項3記載の血圧測定装置。
【背景技術】
【0002】
血圧測定時において、カフ内に空気を圧送して動脈を圧迫することにより阻血した後、徐々に動脈の圧迫圧を緩めることにより動脈の圧迫圧と動脈内の血圧が等しくなると、血流が再開することにより動脈流音であるコロトコフ音が生じる。このコロトコフ音は動脈の圧迫圧をさらに緩めることにより、血流量の増大と共に増大する。このようなコロトコフ音の強度は血流量を反映しており、またコロトコフ音の強度変化パターンは心臓や血管系の機能を反映すると言われている。
【0003】
ところで、血圧測定において複数部位におけるコロトコフ音を測定するためには、複数部位で同一の圧力で血管を圧迫して同一心臓収縮時における血流の状況をコロトコフ音で比較することが望ましい。しかしながら、従来のコロトコフ音を測定する装置は、マイクロホンを直接腕や足の動脈上に当てることにより測定する構成であるため、複数部位を同時に測定して得られる複数のコロトコフ音の干渉を避けるために、部位毎に測定時間をずらして別個独立に測定を行っている。
【0004】
そこで、本出願人は、心臓の同一収縮によるコロトコフ音を複数部位で測定できるコロトコフ音測定装置を開発している(例えば、特許文献1参照。)。
図8は従来のコロトコフ音測定装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図8に示すように、従来のコロトコフ音測定装置は、動脈の圧迫時に生じるコロトコフ音を測定するための複数のコロトコフ音測定用嚢2A,2Bと、複数のコロトコフ音測定用嚢2A,2Bに導管1C,1Dを介して1つずつ接続されると共にそれぞれが圧力供給管1E,1Fを介して接続され、圧力供給管1E,1Fを介して加圧されることにより動脈を圧迫する動脈圧迫用嚢1A,1Bと、各コロトコフ音測定用嚢2A,2Bに接続されたマイクロホン3A,3Bとを備える。
【0005】
このコロトコフ音測定装置では、各コロトコフ音測定用嚢2A,2Bにより複数部位で測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音が各動脈圧迫用嚢1A,1Bに伝播する際に、所定レベル以下に減衰するように導管1C,1Dの開口面積を設定することにより、各動脈圧迫用嚢1A,1B間においてコロトコフ音の干渉が生じても、その干渉によってマイクロホン3A,3Bによるコロトコフ音の測定に支障を来すことなく、複数部位で測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音を高精度に測定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の実施の形態における血圧測定装置の構成を概略的に示すブロック図、
図2は
図1の血圧測定装置の要部を拡大して示す概略図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施の形態における血圧測定装置は、複数の測定部位にそれぞれ装着して動脈を圧迫する複数の動脈圧迫用嚢としての第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bと、動脈の圧迫時に生じる動脈音であるコロトコフ音を測定するための複数のコロトコフ音測定用嚢としての第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bとを備える。
図2に示すように、第1主ゴム嚢1Aおよび第1副ゴム嚢2Aと、第2主ゴム嚢1Bおよび第2副ゴム嚢2Bとは、それぞれ十分に細い導管1C,1Dを介して接続されている。第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bは、薄型の略直方体で構成されている。
【0017】
なお、以下では、説明の便宜上、第1主ゴム嚢1A、第2主ゴム嚢1B、第1副ゴム嚢2A、または、第2副ゴム嚢2Bの断面積と記した場合は、導管1C,1Dの長手方向に垂直な(径方向の)断面の開口面積を示すものとする。同様に、導管1C,1Dの断面積と記した場合も、特に断らない限り、長手方向に垂直な(径方向の)断面の開口面積を示すものとする。
【0018】
第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの断面積は、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bの断面積と同一の面積に設定されている。また、導管1C,1Dの断面積は、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bにより測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音が第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに伝播する際に、所定レベル以下に減衰するように、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの断面積の10分の1(減衰率10分の1)に設定されている。なお、第1主ゴム嚢1Aおよび第1副ゴム嚢2Aは第1カフを構成し、第2主ゴム嚢1Bおよび第2副ゴム嚢2Bは第2カフを構成する。
【0019】
第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bには、それぞれコロトコフ音測定用の複数のマイクロホン3A,3Bがそれぞれ接続されている。これらのマイクロホン3A,3Bは、それぞれ信号増幅回路4A,4Bを介して後述する制御手段としてのCPU7に接続されている。
【0020】
また、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bには、それぞれ圧力供給管1E,1Fを介して、加圧装置5、排気制御装置6および圧力検出回路10が接続されている。加圧装置5、排気制御装置6および圧力検出回路10は、全てCPU7に接続されており、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内の圧力を圧力検出回路10で検出してCPU7で加圧装置5および排気制御装置6を駆動制御することにより、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内の圧力を任意に設定できるように構成されている。
【0021】
また、圧力供給管1E,1Fの途中には、それぞれCPU7で制御される電磁エアーバルブ11A,11Bが接続されている。CPU7は、電磁エアーバルブ11A,11Bをそれぞれ開閉することにより、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bを同時に、または特定のもののみを加減圧することが可能となっている。すなわち、CPU7は、これらの電磁エアーバルブ11A,11Bの開閉を切り替えることにより、複数個所の同時測定や単独測定を選択できるようになっている。なお、電磁エアーバルブ11A,11Bが開のとき、
図1に斜線で示す部分で構成される空気系は、全て同圧に保持されるように構成されている。
【0022】
また、CPU7には、表示装置8および記録装置9が接続されている。表示装置8では、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2B内で測定するコロトコフ音を後述する表示方法により表示することができる。さらに、記録装置9では、この測定したコロトコフ音を記録することができる。
【0023】
本実施形態における血圧測定装置では、コロトコフ音を測定するために従来のようにマイクロホンを直接腕や足の動脈上に当てるのではなく、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bで動脈を圧迫すると共に、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bを測定する腕や足の動脈上に巻き付け、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2B内に空気伝導するコロトコフ音を同時同圧で測定する。
【0024】
すなわち、第1主ゴム嚢1Aおよび第1副ゴム嚢2Aと、第2主ゴム嚢1Bおよび第2副ゴム嚢2Bとでそれぞれ構成される第1カフおよび第2カフを、周知の血圧測定装置のカフを巻き付ける要領で人体の上肢や下肢の別々の複数の測定部位にそれぞれ巻きつけ、電磁エアーバルブ11A,11Bを開いた状態で加圧装置5により加圧すると、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bが膨張し、動脈を阻血する。このとき、導管1C,1Dを通じて第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bも加圧される。
【0025】
動脈を阻血した後、排気制御装置6を駆動制御して第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内の空気を徐々に排気して減圧していくと、動脈内にコロトコフ音が出現する。このコロトコフ音を第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで検出する。マイクロホン3A,3Bで測定された音波であるコロトコフ音は、信号増幅回路4A,4Bで増幅処理および波形処理が行われた後にCPU7に伝送される。CPU7では、伝送されたコロトコフ音と、そのコロトコフ音発生時に圧力検出回路10で検出した圧力データとをデータ処理して表示装置8に表示し、表示したデータを記録装置9に記録する。
【0026】
ここで、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2B内に発生した空気振動が第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内に生ぜしめる空気振動(コロトコフ音)の強度は、次式で表される。
なお、この(1)式は、第2主ゴム嚢1B、導管1Dおよび第2副ゴム嚢2Bについても同様に成立する。
【0027】
上述したように第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bは、断面積が10分の1の導管1C,1Dを介して、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bに接続されている。そのため、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで検出されたコロトコフ音は、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに伝播される際には約10分の1程度の信号強度に減衰されている。
【0028】
したがって、心臓の同一の収縮によるコロトコフ音を第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで測定することができる。一方、空気系の一部である圧力供給管1Eを介して接続された第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bには、導管1C,1Dを介して第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで検出されたコロトコフ音が10分の1に減衰して伝播する。そのため、空気系を共用する第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内で相互の空気振動ないしコロトコフ音の干渉による弊害を測定に支障を来さない程度に抑えることができる。
【0029】
すなわち、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2B内における空気伝導を利用して複数部位のコロトコフ音を同時に測定していることから、一般的には双方の第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで測定したコロトコフ音同士が干渉し、それぞれのコロトコフ音を正確に測定できなくなる恐れがある。しかし、本実施形態における血圧測定装置では、動脈圧迫用嚢である第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに対して断面積が十分に小さい導管1C,1Dを用いてコロトコフ音検出用嚢である第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bを第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに接続しているので、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで測定されたコロトコフ音は空気系を共にする第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに伝播する際には10分の1に減衰しており、空気系を共用する第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内で相互の空気振動ないしコロトコフ音の干渉による弊害を測定に支障を来さない程度に抑えることができる。
【0030】
また、本装置においては圧力供給管1E,1Fに電磁エアーバルブ11A,11Bが組み込まれており、これらをCPU7で制御することにより左右腕同時測定または左右腕単独での測定も可能であり、さらには、左右同時加圧後の排気も左右腕同時にまたは左右腕のどちらかの排気のみを行うような制御が可能である。
【0031】
次に、表示装置8への表示方法について説明する。
図3は、血圧測定時のカフによる圧迫圧(以下、「動脈圧迫圧」とも称する。)とコロトコフ音を示す特性図であり、血圧測定時に生じるコロトコフ音とカフによる圧迫圧との関係を表している。
図4は、カフによる圧迫圧と半波検出後のコロトコフ音の関係を示すコロトコフ音を示す特性図であり、
図3に示すコロトコフ音を半波検出し、各振幅を直線の長さにより表現した特性図である。
【0032】
図5に示すように、表示装置8には、縦軸に血圧、横軸にコロトコフ音の強度をとり、中心軸または圧力スケールを挟んで第1カフおよび第2カフでそれぞれ測定されたコロトコフ音を左右対称に表示する。このようにして複数部位で同時に測定したコロトコフ音を容易に比較できるようにする。すなわち、本装置では、
図4の表示方法によって得られるデータの一部を抽出して、
図5のように表示する。
【0033】
血圧測定時における動脈圧迫圧とコロトコフ音の発生の関係は
図3に示す通りである。すなわち、第1カフまたは第2カフを加圧装置5で加圧して動脈を阻血するに足りる十分の圧力で圧迫した後、排気制御装置6を駆動制御して徐々に圧迫圧を減じていくと、最高血圧と動脈圧迫圧がほぼ等しくなった時に、動脈内の血流が再開する。動脈を圧迫した状態で血流が再開すると、動脈内で乱流が生じコロトコフ音が発生する。このコロトコフ音は減圧が進むことによる血流量の増大とともに増強されるが、さらに減圧され動脈圧迫圧が血流に障害を与えない圧力になった時に、コロトコフ音は消滅する。
【0034】
したがって、本実施形態における血圧測定装置では、
図3に示すように得られるコロトコフ音を半波検出して
図4に示すように各振幅を直線の長さにより表現し、
図4に示す半波検出されたコロトコフ音を抽出して縦軸に動脈圧迫圧、横軸にコロトコフ音の強度をとり、第1カフおよび第2カフでそれぞれ同時に別の部位で測定したコロトコフ音を
図5に示すように中心軸または中心に描画された圧力スケールを挟んで対称的に表示することができる。この結果、複数部位で測定された心臓の同一収縮に基づくコロトコフ音を容易に比較することができる。
【0035】
また、このときの各心拍におけるコロトコフ音のピークを結ぶ線で囲まれた面積は、測定部位における血流量に比例する。
【0036】
以上のように、本実施形態における血圧測定装置によれば、動脈を阻血するためのゴム嚢である第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bと、コロトコフ音を測定するためのゴム嚢である第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bとを別体とし、かつ、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで測定されて第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに伝播したコロトコフ音が十分に減衰する程度に導管1C,1Dの断面積を小さく設定したので、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B内で生じるコロトコフ音の干渉を最小限に抑えることができる。この結果、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bでそれぞれ検出したコロトコフ音をマイクロホン3A,3Bで測定する際に、コロトコフ音の干渉による影響を無視でき、心臓の同一の収縮によって生じるコロトコフ音を高精度に複数部位で同時に測定することができる。さらに、この血圧測定装置では、電磁エアーバルブ11A,11BをCPU7で制御することにより、複数個所の測定部位を同時同圧ではかるだけではなく、特定の測定部位だけを加圧・排気することにより加減圧することも可能である。
【0037】
また、本実施形態における血圧測定装置では、複数箇所におけるコロトコフ音を同一条件下で同時に測定できるので、各部位間の血圧や血流量を比較することができ、動脈硬化等の診断に有用である。また、複数部位で同時に測定したコロトコフ音を同一表示画面上に左右対称に表示できるため、比較検討を容易に行うことができる。さらに、第1カフと第2カフとで空気系を共有することができるので、装置の製造コストを低減でき、測定工程の簡略化を図ることができる。
【0038】
なお、以上の説明では、導管1C,1Dの断面積が第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの容積の10分の1以下である場合について説明したが、これらの断面積の比は上述の説明で用いた値に限定されるものではなく、導管1C,1Dの断面積は、コロトコフ音が十分に測定できるように第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの容積よりも十分に小さければよいものである。
【0039】
また、以上の説明では、このような第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの断面積と、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bの断面積とが同一の面積に設定されている場合について説明したが、これらの断面積は異なっていてもよく、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで検出されたコロトコフ音を所望の減衰比率で減衰させた音を検出できるように構成されていればよい。
【0040】
さらに、以上の説明では、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bで測定されたコロトコフ音が第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bに伝播する際に減衰するようにしたことについて説明したが、動脈圧迫用嚢である第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B側でもコロトコフ音や若干の干渉波が生じる場合があり得る。しかし、第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bの断面積は第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの断面積と同一に設定されており、導管1C,1Dの断面積は第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1Bの容積の10分の1であるので、第1主ゴム嚢1Aおよび第2主ゴム嚢1B側でコロトコフ音や若干の干渉波が第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bに伝播しても第1副ゴム嚢2Aおよび第2副ゴム嚢2Bに接続されたマイクロホン3A,3Bにおけるコロトコフ音の測定には影響を来さない。
【0041】
なお、本実施形態における血圧測定装置を用いて血管内皮機能評価を行うことが可能である。血管内皮機能評価の際は、安静時左右同時に血圧測定を行い、そのときの左右のコロトコフ音圧を同時に記録する。被験者により左右のコロトコフ音圧に差が有る場合があるので、安静時の左右同時同圧測定における際のコロトコフ音圧の比率S1を記憶させる。
【0042】
安静時の左右同時測定終了後、血管内皮機能検査する側の血管を血管内圧より十分に高い圧迫圧で一定時間阻血した後、圧迫圧を一気に開放し、そのほぼ直後に左右同時に血圧測定を行い、その際の左右のコロトコフ音を比較することにより血管内皮機能の評価を行う。
【0043】
コロトコフ音は、心臓から拍出された血液と圧迫圧により静脈が閉塞され鬱血状態にある血液との衝突により生ずる渦流によって発生すると言われている。その運動エネルギーの式は以下のように表現される。
【0044】
速度v、質量m
1の物体Aが、速度0、質量m
2の物体Bに衝突する前の力学的エネルギーは、
である。
【0045】
運動量保存の法則式で上式(2)を展開すると、衝突エネルギーは、
となる。
【0046】
つまり、左右の血流速度v
2が同じで、また、左右腕の貯血容量(阻血時のうっ血量)m
2が同じだとすれば、衝突エネルギーにより生じた渦流により発生するコロトコフ音は血管径による血流量m
1に依存する。
【0047】
一般的に、同一被験者の血流速度は特別な疾患が無い限り左右同じであり、また阻血された末梢の貯血容量m
2も同じと考えてよい。ゆえに、左右同時圧で血圧を測定した際のコロトコフ音の音圧は血管径に依存する。
【0048】
次に、本実施形態における血圧測定装置を用いた血管内皮機能評価の具体的手順について説明する。
【0049】
仮に、右上腕に第1カフを装着し、左上腕に第2カフを装着し、電磁エアーバルブ11A,11Bを両方開き、最初に左右同時同圧で血圧測定を行い、測定中に発生するコロトコフ音を記録する(
図5参照。)。被験者によっては安静時においても左右のコロトコフ音圧に差があるためである。このとき、
図6に示すように左右の心拍ごとに発生したコロトコフ音のピークをつないだ線で囲まれた面積の左右比(面積比S1=右のコロトコフ音の面積a1/左のコロトコフ音の面積a2)を算出する。この面積比S1が左右のコロトコフ音圧の比率S1であり、左右腕の血流量の比に相関している。
【0050】
次に、右上腕の血管内皮機能を評価する場合は、左腕に装着した第2カフへの圧力供給管1Fの途中に設置された電磁エアーバルブ11Bを閉じ、第2カフへの圧力の供給を遮断する。右上腕に装着した第1カフへは、電磁エアーバルブ11Aが開かれているので、圧力供給管1Eから圧力が供給される。そして、最初に測定した右腕における最高血圧より十分に高い圧で一定時間圧迫した後、排気制御装置6を開き、急速に圧を開放する。第1カフの圧力が完全に抜けた時点で電磁エアーバルブ11Bを開き、排気制御装置6を閉じ、再度左右腕を同時同圧で血圧測定を行う。この血圧測定時に発生する左右のコロトコフ音を
図7に示すように左右の心拍ごとのコロトコフ音のピークを結ぶ線内の面積比S2(=右のコロトコフ音の面積b1/左のコロトコフ音の面積b2)を算出する。
【0051】
血管の内皮機能とは、阻血後いっきに阻血を開放すると、そのとき発生する血流によるずり応力で血管内皮細胞から一酸化窒素が放出され血管を拡張する機能である。左右同時同圧血圧測定において、一定時間阻血後の右腕のコロトコフ音圧と、阻血をしていない左腕のコロトコフ音圧とを比較することにより血管内皮機能の評価ができる。
【0052】
ただし、被験者によっては、元々左右のコロトコフ音の大きさに差がある人もあるので、
図6に示す安静時測定の際の左右のコロトコフ音面積比S1で
図7に示す右腕だけを圧迫した時の左右のコロトコフ音面積比S2を次式(4)のように補正する必要がある。
【0053】
左右同時同圧で測るのは、自律神経反射における血管の収縮の影響を排除するためである。すなわち、動脈は自律神経に支配されており、その影響で瞬時に血管径が変化することもあるが、この影響は左右同時に作用するため、左右を同時同圧で測定した場合、この自律神経の影響は排除できる。また、心臓の収縮は必ずしも一定ではなく、収縮ごとにその強度にばらつきがある場合もあるので、同一の収縮における左右のコロトコフ音圧を比較しなければ正確な結果は得られないからである。
【0054】
血管内皮機能の評価は、阻血を瞬時に開放したときのずり応力により、血管内皮細胞から一酸化炭素が放出され、血管が拡張する際の拡張度合いを評価する検査であり、通常、超音波で血管の直径が6%以上拡大するものを正常とする。前述のように、
図5および
図6に示す左右のコロトコフ音圧の比率(コロトコフ音の面積比)S1は血流量に比例しており、すなわち血管径を反映しているということができるので、本実施形態における血圧測定装置では、血管径の変化ではなく、血流量の変化で血管内皮機能を評価する。
【0055】
例えば、血管の直径が6%増えるということは、断面積では12%増えることになるため、安静時の断面積に対して阻血後のコロトコフ音の面積比S1が112%以上になれば血管内皮は正常であると評価することができる。すなわち、本実施形態における血圧測定装置では、血圧測定時のコロトコフ音から血管径の拡大を推測することができ、血管内皮機能評価を行うことが可能である。
【0056】
以上のように、本実施形態における血圧測定装置を用いることにより、血管内皮機能を非観血に、かつ容易に評価することが可能となる。