特開2020-93248(P2020-93248A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-93248電界効果を用いた触媒反応装置、電界効果を用いた触媒機能制御方法、触媒反応装置の使用方法、及び、生成物の分子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-93248(P2020-93248A)
(43)【公開日】2020年6月18日
(54)【発明の名称】電界効果を用いた触媒反応装置、電界効果を用いた触媒機能制御方法、触媒反応装置の使用方法、及び、生成物の分子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/24 20060101AFI20200522BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20200522BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20200522BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20200522BHJP
   C07C 5/03 20060101ALI20200522BHJP
   C07C 9/06 20060101ALI20200522BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200522BHJP
【FI】
   B01J19/24 A
   B01J35/04 351
   B01J37/34
   B01J23/42 M
   B01J23/42 Z
   C07C5/03
   C07C9/06
   C07B61/00 C
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-129836(P2019-129836)
(22)【出願日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-223586(P2018-223586)
(32)【優先日】2018年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】川崎 聖治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英樹
【テーマコード(参考)】
4G075
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G075AA03
4G075AA13
4G075AA62
4G075BA10
4G075BD14
4G075CA14
4G075CA51
4G075CA54
4G075DA02
4G075FA02
4G075FA03
4G075FC15
4G169AA02
4G169AA14
4G169BB02B
4G169BC75B
4G169CB02
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA12
4G169FA10
4G169FB58
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC11
4H006BA26
4H006BA80
4H006BD81
4H006BE20
4H039CA19
4H039CB10
(57)【要約】
【課題】触媒近傍の分子・原子レベルでの反応場の環境(特に電界効果を生ずる電位)を制御することで、触媒機能を最適化した触媒反応装置を提供する。
【解決手段】表面を有する触媒(2)と、この触媒の表面を帯電させる帯電化手段(4、6、8)とを備え、反応物の分子をこの触媒の表面に供給して、触媒反応により、生成物の分子を生成することを特徴とする。
前記帯電化手段は、例えば、制御電圧が印加されるゲート電極(4)と、前記触媒の表面と前記ゲート電極との間に設けられた誘電体層(6)を有するとよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する触媒と、
この触媒の表面を帯電させる帯電化手段とを備え、
反応物の分子をこの触媒の表面に供給して、触媒反応により、生成物の分子を生成することを特徴とする触媒反応装置。
【請求項2】
前記帯電化手段は、制御電圧が印加されるゲート電極と、前記触媒の表面と前記ゲート電極との間に設けられた誘電体層を有することを特徴とする請求項1記載の触媒反応装置。
【請求項3】
前記誘電体層は、イオン液体、有機絶縁体、無機絶縁体、気体、又は真空の何れか一つあるいは複数であり、
前記反応物の分子が前記誘電体層中を移動すると共に、前記触媒の表面での触媒反応により生成物の分子に変換されることを特徴とする請求項2記載の触媒反応装置。
【請求項4】
さらに、前記帯電化手段は、前記ゲート電極の電位と前記触媒の表面の電位との間に電位差を生成する制御電圧源を有することを特徴とする請求項2又は3記載の触媒反応装置。
【請求項5】
前記制御電圧源は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位に保持することを特徴とする請求項4記載の触媒反応装置。
【請求項6】
前記制御電圧源は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位と、前記触媒反応での触媒機能が低い状態を保持する電位に保持する電位との間で、前記電位差を制御することを特徴とする請求項4記載の触媒反応装置。
【請求項7】
前記触媒は、網目状構造又は貫通孔を有する細孔構造を有し、
前記反応物の分子は、前記触媒の網目状構造又は貫通孔を有する細孔構造を通過して、前記触媒の表面での触媒反応により生成物の分子に変換されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の触媒反応装置。
【請求項8】
前記イオン液体が、重合性の官能基を有するイオン液体を重合して得られた流動性のないイオン性高分子であることを特徴とする請求項3に記載の触媒反応装置。
【請求項9】
前記触媒反応の反応温度が、前記イオン液体の凝固温度以上で、前記イオン液体の分解温度以下であること特徴とする請求項3に記載の触媒反応装置。
【請求項10】
前記触媒反応が、CO酸化反応、NO還元反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)の部分酸化反応及び完全酸化反応、オレフィンの水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン)の脱水素反応、芳香族の水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)のハロゲン化反応、水蒸気改質、炭酸ガス改質、メタンの酸化カップリング反応、アンモニア合成反応、COからのメタノール合成反応、二酸化炭素の水素化、水性ガスシフト反応、逆シフト反応、水素のオルト-パラ変換反応、アルケンのエポキシ化反応、アンモ酸化反応の何れか1種類であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の触媒反応装置。
【請求項11】
前記帯電化手段は、前記表面付近に電場を印加して、前記触媒反応を促進することを特徴とする、請求項1乃至10の何れか1項に記載の触媒反応装置。
【請求項12】
前記表面と前記反応物の分子との間の電荷分布を変化させるよう、前記電場が印加されることを特徴とする、請求項11に記載の触媒反応装置。
【請求項13】
前記電荷分布の変化により、前記反応物の分子の前記表面への吸着量が変化することを特徴とする、請求項12に記載の触媒反応装置。
【請求項14】
触媒の表面とゲート電極との間に設けられた誘電体層に反応物の分子を供給する工程と、
前記触媒の表面で、前記反応物の分子が、触媒反応により生成物の分子を生成する工程と、
前記生成物の分子が前記触媒の表面から離脱する工程と、
前記ゲート電極の電位と前記触媒の表面の電位との電位差を、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位を含んで制御する工程と、
を備える触媒機能制御方法。
【請求項15】
前記制御工程は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位と、前記触媒反応での触媒機能が低い状態を保持する電位との間で、前記電位差を制御することを特徴とする請求項14記載の触媒機能制御方法。
【請求項16】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の触媒反応装置の使用方法であって、
前記反応物の分子は単一種類の反応物の分子であり、
前記生成物の分子は単一種類の生成物の分子であることを特徴とする触媒反応装置の使用方法。
【請求項17】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の触媒反応装置の使用方法であって、
前記反応物の分子は第1の反応物の分子と第2の反応物の分子であり、
前記生成物の分子は単一種類の生成物の分子であることを特徴とする触媒反応装置の使用方法。
【請求項18】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の触媒反応装置の使用方法であって、
前記反応物の分子は、第1の反応物の分子と第2の反応物の分子であり、
前記生成物の分子は第1の生成物の分子と第2の生成物の分子であることを特徴とする触媒反応装置の使用方法。
【請求項19】
触媒の表面とゲート電極との間に設けられた誘電体層に反応物の分子を供給することと、前記表面付近に電場を印加して、前記反応物の分子の持つ双極子モーメント、及び/又は、吸着エネルギーを変化させることと、前記触媒の表面で、前記反応物の分子が触媒反応により生成物の分子を生成することと、前記生成物の分子が前記触媒の表面から離脱することと、を有する生成物の分子の製造方法。
【請求項20】
前記電場の印加は、前記反応物の分子の化学結合の方向と電場ベクトルの方向が一致するようになされる請求項19に記載の生成物の分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界効果を用いた触媒反応装置及び触媒機能制御方法に関し、特に電界効果の反応場としてイオン液体を使用した触媒反応装置及び触媒機能制御方法に関する。また、本発明は電界効果を用いた触媒反応装置の使用方法、及び、生成物の分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、化学反応制御に不可欠な材料であり、現代社会の基盤材料として重要な役割を担っている。また、高効率なエネルギー変換・物質変換に繋がる触媒は、地球温暖化や資源の枯渇問題を克服する上でもますます重要性を増している。そのため、より高活性な触媒の開発は、持続可能な社会の発展に必要不可欠な課題である。
【0003】
触媒反応では、Sを基質(反応物)、Pを生成物、Cを触媒とすると、次のような反応式が成立している。
S+C→P+C (1)
また化学反応における触媒の役割を抽象化すると、例えば図9に示すように、
(1)反応物の触媒表面への吸着(C1→C2)、
(2)表面での吸着分子の反応(C2→C3)、
(3)反応生成物の表面からの脱離(C3→C1)、
の3段階の反応に関与することで、触媒が化学反応を促進していることがわかる。そのため、触媒活性の良し悪しは表面への反応物の吸着特性に密接に関係していることが、火山型序列(Volcano plot)としても知られており、高い触媒活性には強すぎず弱すぎない反応物の吸着能が必要である。すなわち、触媒と反応物との間の相互作用が弱すぎると、反応物は触媒に結合できず、反応は起こらない。他方、触媒と反応物との間の相互作用が強すぎる場合、反応生成物は解離しない(非特許文献1参照)。
【0004】
このような触媒反応の一例として、例えばCO酸化反応[CO+(1/2) O→CO]について、各種触媒を用いて促進することが知られている(例えば、特許文献1の背景技術、非特許文献2参照)。すなわち、燃料として水素分子を使用する燃料電池においては、高純度の水素ガスが必要になる。そこで、高純度の水素を製造するために、炭化水素系化合物の水蒸気改質の後で水性ガスシフト反応(CO+HO←→CO+H)により一酸化炭素濃度を数百ppmにし、さらにその後段に一酸化炭素選択酸化反応(2CO+O→2CO)を実施して一酸化炭素濃度を10ppm以下にしている。
【0005】
ところで、従来の触媒開発の現場では、触媒の組成やナノ構造を最適化させるアプローチが基本である。しかしながら、触媒近傍の分子・原子レベルでの反応場の環境を制御することで、触媒活性を最適化する試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−17972号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】『キャタリストインフォマティクス』、長谷川淳也、CICSJ Bulletin Vol.34 No.4 (2016) p.109-111
【非特許文献2】L. Robert Baker, et. al., dx.doi.org/10.1021/nl3007787 | Nano Lett. 2012, 12, 2554-2558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、触媒近傍の分子・原子レベルでの反応場の環境を制御することで、触媒機能を最適化した触媒反応装置及び触媒機能制御方法を提供することを目的とする。特に、本発明では、電界効果による触媒機能の電界制御を用いた触媒反応装置及び触媒機能制御方法を提供することを目的とする。
また、本発明では、電界効果による触媒機能の電界制御を用いた触媒反応装置の使用方法、及び、生成物の分子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、反応分子の吸着能を決めるのは、反応分子と固体表面の電子的な相互作用であることを前提として、固体表面を正や負に帯電させることで、その電子的な相互作用に摂動を加えて、触媒機能を表面の帯電量によって制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
〔1〕本発明の触媒反応装置は、例えば図1に示すように、表面を有する触媒(2)と、この触媒の表面を帯電させる帯電化手段(4、6、8)とを備え、反応物の分子をこの触媒の表面に供給して、触媒反応により、生成物の分子を生成することを特徴とする。
〔2〕前記帯電化手段は、例えば図1に示すように、制御電圧が印加されるゲート電極(4)と、前記触媒の表面と前記ゲート電極との間に設けられた誘電体層(6)を有することを特徴とする〔1〕記載の触媒反応装置。
〔3〕前記誘電体層は、イオン液体、有機絶縁体、無機絶縁体、気体、又は真空の何れか一つあるいは複数であり、前記反応物の分子が前記誘電体層中を移動すると共に、前記触媒の表面での触媒反応により生成物の分子に変換されることを特徴とする〔2〕記載の触媒反応装置。
【0011】
〔4〕さらに、前記帯電化手段は、前記ゲート電極の電位と前記触媒の表面の電位との間に電位差を生成する制御する制御電圧源を有することを特徴とする〔2〕又は〔3〕記載の触媒反応装置。
〔5〕前記制御電圧源は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位に保持することを特徴とする〔4〕記載の触媒反応装置。
〔6〕前記制御電圧源は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位と、前記触媒反応での触媒機能が低い状態を保持する電位に保持する電位との間で、前記電位差を制御することを特徴とする〔4〕記載の触媒反応装置。
〔7〕前記触媒は、網目状構造又は貫通孔を有する細孔構造を有し、前記反応物の分子は、前記触媒の網目状構造又は貫通孔を有する細孔構造を通過して、前記触媒の表面での触媒反応により生成物の分子に変換されることを特徴とする〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載の触媒反応装置。
【0012】
〔8〕前記イオン液体が、重合性の官能基を有するイオン液体を重合して得られた流動性のないイオン性高分子であることを特徴とする〔3〕に記載の触媒反応装置。
〔9〕前記触媒反応の反応温度が、前記イオン液体の凝固温度以上で、前記イオン液体の分解温度以下であること特徴とする〔3〕に記載の触媒反応装置。
〔10〕前記触媒反応が、CO酸化反応、NO還元反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)の部分酸化反応及び完全酸化反応、オレフィンの水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン)の脱水素反応、芳香族の水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)のハロゲン化反応、水蒸気改質、炭酸ガス改質、メタンの酸化カップリング反応、アンモニア合成反応、COからのメタノール合成反応、二酸化炭素の水素化、水性ガスシフト反応、逆シフト反応、水素のオルト-パラ変換反応、アルケンのエポキシ化反応、アンモ酸化反応の何れか1種類であることを特徴とする〔1〕乃至〔9〕の何れか1に記載の触媒反応装置。
【0013】
〔11〕 前記帯電化手段は、前記表面付近に電場を印加して、前記触媒反応を促進することを特徴とする、〔1〕乃至〔10〕の何れか1に記載の触媒反応装置。
〔12〕 前記表面と、前記反応物の分子との間の電荷分布を変化させるよう、前記電場が印加されることを特徴とする、〔11〕に記載の触媒反応装置。
〔13〕 前記電子分布の変化により、前記反応物の分子の前記表面への吸着量が変化することを特徴とする、〔12〕に記載の触媒反応装置。
【0014】
〔14〕本発明の触媒機能制御方法は、触媒の表面とゲート電極との間に設けられた誘電体層に反応物の分子を供給する工程と、前記触媒の表面で、前記反応物の分子が、触媒反応により生成物の分子を生成する工程と、前記生成物の分子が前記触媒の表面から離脱する工程と、前記ゲート電極の電位と前記触媒の表面の電位との電位差を、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位を含んで制御する工程とを備える。
〔15〕前記制御工程は、前記触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位と、前記触媒反応での触媒機能が低い状態を保持する電位との間で、前記電位差を制御することを特徴とする〔14〕に記載の触媒機能制御方法。
【0015】
〔16〕本発明の〔1〕乃至〔13〕の何れか1に記載の触媒反応装置の使用方法は、前記反応物の分子は、単一種類の反応物の分子(A)であり、前記生成物の分子は単一種類の生成物の分子(C)であることを特徴とする。
〔17〕本発明の〔1〕乃至〔13〕の何れか1に記載の触媒反応装置の使用方法は、前記反応物の分子は、第1の反応物の分子(A)と第2の反応物の分子(B)であり、前記生成物の分子は単一種類の生成物の分子(C)であることを特徴とする。
〔18〕本発明の〔1〕乃至〔13〕の何れか1に記載の触媒反応装置の使用方法は、前記反応物の分子は、第1の反応物の分子(A)と第2の反応物の分子(B)であり、前記生成物の分子は第1の生成物の分子(C1)と第2の生成物の分子(C2)であることを特徴とする。
〔19〕本発明の生成物の分子の製造方法は、触媒の表面とゲート電極との間に設けられた誘電体層に反応物の分子を供給することと、前記表面付近に電場を印加して、前記反応物の分子の持つ双極子モーメント、及び/又は、吸着エネルギーを変化させることと、前記触媒の表面で、前記反応物の分子が触媒反応により生成物の分子を生成することと、前記生成物の分子が前記触媒の表面から離脱することと、を有することを特徴とする。
〔20〕〔19〕の生成物の分子の製造方法において、前記電場の印加は、反応物の分子の化学結合の方向と電場ベクトルの方向が一致するようになされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の触媒反応装置によれば、帯電化手段により、触媒近傍の分子・原子レベルでの反応場の環境を制御することで、触媒機能を最適化した触媒反応装置を提供できる。特に、電界効果による触媒機能を用いた触媒反応装置において、触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位に保持することで、触媒反応の最適な範囲で、反応物の分子から生成物の分子を効率的に生成できる。
本発明の触媒機能制御方法によれば、ゲート電極の電位と触媒の表面の電位との電位差を、触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位に保持することで、触媒反応の最適な範囲で、反応物の分子から生成物の分子を効率的に生成できる。
本発明の触媒反応装置の使用方法によれば、反応物の分子から生成物の分子を生成する態様として、各種類型の触媒反応に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す触媒反応装置の要部構成図である。
図2】本発明の一実施形態を示す触媒反応システムの概略構成図である。
図3】本発明の一実施形態を示す触媒反応セルの要部構成図である。
図4】(a)はPt触媒のCO酸化活性、(b)は活性化エネルギーの電位依存性を示す図である。
図5】(a)はCO酸化活性の24時間安定性、(b)は生成されたCOがCOからで、イオン液体の分解からではないことを示す図である。
図6】CO酸化活性の温度依存性を説明する図である。
図7】(a)はCO酸化活性のアーレニウスプロット図、(b)は触媒印加電圧とCO酸化反応の活性化エネルギーEaの関係を示している。
図8】本発明の一実施形態を示す触媒反応の火山型序列の詳細説明図で、例えば図6に示す火山型の曲線が対応している。
図9】化学反応における触媒の役割を抽象化した説明図で、(a)は触媒反応サイクル、(b)は火山型序列(Volcano plot)を示す図である。
図10】Pt(111)表面へのCO吸着に対する電場の影響を示す図である。
図11】Pt(111)表面へのO吸着に対する電場の影響を示す図である。
図12】電場印加下におけるPt(111)表面に吸着するCOとOの吸着エネルギーを比較したものである。
図13】Ptメッシュを触媒としたときのエチレンの水素化(エチレンと水素からエタンを生成する反応)において、触媒印加電圧(E(V vs. Pt−QRE))とエチレン水素化活性(d[C]/dt(mol/h))の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す触媒反応装置の要部構成図である。図において、本発明の触媒反応装置は、表面を有する触媒2と、触媒2の表面を帯電させる帯電化手段(4、6、8)とを備え、反応物の分子を触媒2の表面に供給して、触媒反応により、生成物の分子を生成する構造となっている。
【0019】
なお、本明細書において、「表面を有する触媒」とは、反応物の分子との間で不均一系を成して、典型的には界面反応を惹起しうる触媒を意味し、後述するような金属単体、金属錯体、及び、無機化合物等に加えて、基材(例えば、金属)表面に固定された分子触媒等も含む。
【0020】
触媒2は、触媒反応により、反応物の分子から生成物の分子を効果的に生成するものであればよく、反応物と生成物との間の化学反応に応じた触媒材料が用いられる。触媒反応としては、例えば、CO酸化反応、NO還元反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)の部分酸化反応及び完全酸化反応、オレフィンの水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン)の脱水素反応、芳香族の水素化反応、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、芳香族)のハロゲン化反応、水蒸気改質、炭酸ガス改質、メタンの酸化カップリング反応、アンモニア合成反応、COからのメタノール合成反応、二酸化炭素の水素化、水性ガスシフト反応、逆シフト反応、水素のオルト-パラ変換反応、アルケンのエポキシ化反応、アンモ酸化反応があるが、これら特掲した触媒反応に限定されるものではなく、各種の触媒反応が含まれる。
【0021】
帯電化手段は、制御電圧が印加されるゲート電極4と、触媒2の表面とゲート電極4との間に設けられた誘電体層6と、制御電圧を供給する制御電圧源8を備える。
ゲート電極4は、導電性があって、誘電体層6に対して不活性な材料であればよく、例えば金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属材料が用いられるが、有機質の導電材料でもよい。
誘電体層6は、イオン液体、有機絶縁体、無機絶縁体、気体、又は真空の何れか一つあるいは複数であればよく、反応物の分子が誘電体層6中を移動すると共に、触媒2の表面での触媒反応により生成物の分子に変換される。生成物の分子は、触媒2の表面から離脱して誘電体層6中を移動し外部に排出される。有機絶縁体としては、プラスチック、油等があげられる。無機絶縁体としては、ガラス、セラミックス、粘土鉱物等があげられる。
【0022】
制御電圧源8は、ゲート電極4の電位と触媒2の表面の電位との間に電位差を生じさせるものである。制御電圧源8から供給される制御電圧は、触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位に保持するものや、触媒反応での触媒機能が高い状態を保持する電位と、触媒反応での触媒機能が低い状態を保持する電位との間で、電位差を適宜に切り替えて制御するものが用いられる。
【0023】
例えば、本発明の対象となる化学反応の反応物の分子は、単一種類の反応物の分子(A)であり、生成物の分子は単一種類の生成物の分子(C)である触媒反応として、オルト水素をパラ水素に変換する反応(Hオルト→Hパラ)がある。この場合の触媒には、例えば常磁性物質である酸素、ナトリウム、アルミニウム、白金等が用いられる。
A→C (2)
【0024】
また、反応物の分子は、第1の反応物の分子(A)と第2の反応物の分子(B)であり、前記生成物の分子は単一種類の生成物の分子(C)である触媒反応として、CO酸化反応がある。この場合の触媒には、例えばホプカライト等酸化物触媒(CuMn、CuZnO等)、担持貴金属触媒(Pt/SiO、Pd/Al等)、貴金属-易還元酸化物(Pt/SnO、Pd/CeO等)、貴金属担持光触媒(Pt/TiO等)、担持Wacker型触媒(PdCl―CuCl/C等)、金ナノ粒子触媒(Au/TiO、Au/Fe等)がある。
A+B→C (3)
【0025】
さらに、反応物の分子は、第1の反応物の分子(A)と第2の反応物の分子(B)であり、前記生成物の分子は第1の生成物の分子(C1)と第2の生成物の分子(C2)である触媒反応として、メタンの酸化反応(CH+2O→CO+2HO)がある。この場合の触媒には、例えば担持Pdナノ粒子やAl担持Pd ナノ粒子(Pd/Al)等が用いられる。
A+B→C1+C2 (4)
【0026】
図2は、図1に示す発明の一実施形態を示す触媒反応システムの概略構成図である。図において、反応室36は、例えば図1に示す誘電体層6を収容するもので、例えば後述する図3に示すような触媒反応セルが用いられる。反応室36は、網状触媒層18を挟んで原料(反応気体)側の第一室36aと、生成物側の第二室36bがある。供給弁38は、例えば図3に示すような反応ガス供給管14に設けられるもので、原料と第一室36aの間に設けられる。出口弁40は、例えば図3に示すような生成物ガス出口管16に設けられるもので、第二室36bと生成物の間に設けられる。電源34は、作用電極26と対極30(ゲート電極)の間に設けられる制御電圧源で、直流電圧を印加する。印加する直流電圧は、例えば網状触媒層18での触媒反応が最適化される直流電圧に選定されるとよく、またバッチ式で触媒反応を行わせる場合は触媒反応が最適化される直流電圧と触媒反応を停止させる直流電圧とを切り替えるものでもよい。
【0027】
反応室36に収容する誘電体層としては、例えばイオン液体を用いる。イオン液体はイミダゾリウム、ピリジニウム、第4級アンモニウム、第4級ホスホニウムなどの陽イオンと、ハロゲン、トリフラート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートなどの陰イオンから成る塩で、比較的低温で液体状態となる。その特徴としては蒸気圧がほとんどない、引火性がない、可燃性がない、熱安定性が高い、比較的低粘性である、液体温度範囲が広い、イオン伝導性が高いなどが挙げられる。イオン液体を反応溶媒として用いた場合、溶質はイオンのみに溶媒和され、水や通常の有機溶媒を用いた時とは全く異なった環境下で反応が進行する。
イオン液体は、重合性の官能基を有するイオン液体を重合して得られた流動性のないイオン性高分子であってもよい。これは、ポリマー状のイオン液体(イオン液体ポリマーと呼ばれる)、又はイオン液体をポリマーに染み込ませたもの(イオンゲルと呼ばれる)を固体電解質と使用し、その表面に触媒を担持したものである。
【0028】
ここで、触媒機能について、説明する。触媒機能は、例えばサバチエの原理(Sabatier principle)としても知られるもので、例えば触媒活性、選択性、触媒自身の環境負荷やリサイクル性や寿命が含まれる。ここで、触媒活性は反応速度を早める度合いである。選択性は、特定の目的物を得る意味で、例えば不純物の含有割合や収率がある。
【0029】
帯電化手段は、触媒の表面付近に電場を印加して、上記触媒反応を促進することが好ましい。表面付近とは、表面、及び/又は、表面近傍を意味し、典型的には、表面、及び、誘電体層を意味する。
一般に、分子に対して電場を印加すると、分子内の化学結合強度が変化することは、赤外吸収分光などで観測されており、Stark効果として知られている。
ここでは、一例として触媒がPtであるときの、Pt表面への反応物の分子の吸着について、電場の影響を考える。
【0030】
まず、Pt表面に対して電場を印加すると、電界効果によってPt表面の電荷密度が変化するが、それとともに、反応物の分子とPt表面の間での電荷分布も変化する。
そのため、反応物の分子の持つ双極子モーメント、及び/又は、吸着エネルギーが変化する。
図10は、Pt(111)表面へのCO吸着に対する電場の影響を示す図である。これは、電場印加下におけるPt(111)表面へのCOの安定吸着状態を理論計算して得られたものである。図10によれば、Pt表面を正に帯電させると(Surface Chargeがよりpositiveとなるような電場を印加すると)、CO分子の吸着がより弱くなり、負に帯電させると(Surface Chargeがよりnegativeとなるような電場を印加すると)、CO分子の吸着がより強くなる。
【0031】
これは、Ptを負に帯電させるこよにより、PtからCOへの電子供与がより大きくなり、Pt−C結合がより強くなるためである。
また、図10からは、吸着がより強くなるに従い、安定吸着サイトがTopサイトからHollowサイトに変化する様子も確認された。この結果は、既報の実験結果(例えば、Y. Yang et al., J. Phys. Chem. Lett. 2013, 4, 1582−1586.)とも定性的な一致をしている。
【0032】
一方で、Oの場合を調べたのが、図11である。図11は、Pt(111)表面へのO吸着に対する電場の影響を示す図である。COの場合と同様に、Oの吸着についてもPt表面を負に帯電させるほど吸着が強くなる。しかし、その変化の様子はCOの場合とは異なり、Pt表面を正に帯電させると吸着の弱い物理吸着となり、負に帯電させていくと解離吸着へと変化する様子が見られた。このようにOの方がCOよりも大きく電場の影響を受けるのは、OのLUMOのエネルギー準位がCOよりも低い位置にあるためである。分子吸着の強さは、触媒と分子の電子的な相互作用の強さで決まるため、CO及びOに限らず、どのような分子に対しても、大なり小なり電場効果が起こりうる。
【0033】
また、電場ベクトルの方向が化学結合の方向と一致する場合に、最も大きな電場効果が起こる。このことは、電場を掛ける強度や方向を操作することで、触媒に吸着する分子の吸着強度やその分子の反応性を制御できることを示唆する。
【0034】
次に、電場がCO酸化反応に与える影響を考察する。図12は、電場印加下におけるPt(111)表面に吸着するCOとOの吸着エネルギーを比較したものである。Pt表面を正に帯電させると、COは吸着するのに対して、Oの吸着は起こりにくくなる。一方で、負に帯電させると、CO以上にOの吸着が強くなっていく。CO酸化反応の反応速度は、触媒表面におけるCOとOの被覆率の積によって決まるため、Ptが少し負に帯電した時にCO酸化活性は最大化すると予想される(図8)。
【0035】
上記のとおり、生成物の分子の製造方法は、触媒の表面とゲート電極との間に設けられた誘電体層に反応物の分子を供給することと、上記表面付近に電場を印加して、反応物の分子の持つ双極子モーメント、及び/又は、吸着エネルギーを変化させることと、上記触媒の表面で、上記反応物の分子が触媒反応により生成物の分子を生成することと、上記生成物の分子が上記触媒の表面から離脱することと、を有する生成物の分子の製造方法であることが好ましい。
【0036】
このとき、より簡便に生成物の分子を製造できる点で、電場の印加は、反応物の分子の化学結合の方向と電場ベクトルの方向が一致するようになされることが好ましい。このようにすることで、より大きな電場効果が惹起され、より簡便に生成物の分子が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
電界効果によって帯電した金属の触媒活性を測定するために、図3に示す触媒反応セルを用いた。図において、外部筐体10は、イオン液体収容管12、フィルター15、網状触媒18を内部に収容すると共に、筐体壁面に反応ガス供給管14、生成物ガス出口管16、参照電極28の取付管34、対極30の取付管36、作用電極26の取付管38が取り付けられている。
【0038】
反応ガス供給管14や生成物ガス出口管16は、例えばガラス管や金属管が用いられ、反応ガスや生成物ガスとの反応性が低いものが使用される。反応ガス供給管14や生成物ガス出口管16は、外部筐体10に対する保持を確実にするために、例えばゴム製のガスケットや管材を通す貫通孔が設けられたゴム栓によって、外部筐体10に装着されている。反応ガスには、例えばCOとOの混合ガスがあり、生成物ガスには、例えばCOがある。
【0039】
イオン液体20は、誘電体層に相当するもので、イオン液体収容管12に収容されている。反応気体22は、反応ガス供給管14からイオン液体収容管12に送られ、フィルター15と網状触媒18を経由して、生成物気体24として生成物ガス出口管16から外部に送られる。イオン液体20には、例えば1-Ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imideがある。フィルター15には、例えばガラスフィルターや一方向からのみ開く弁がある。
イオン液体収容管12には、参照電極28と対極30が取り付けられている。網状触媒18には、作用電極26が取り付けられており、触媒への導線32が接続されている。網状触媒18には、例えば白金(Pt)がある。作用電極26、参照電極28、対極30には、例えば白金(Pt)、金(Au)がある。
【0040】
このように構成された装置においては、イオン液体20を誘電体層として、導電性の触媒(作用電極26)と対極30の間に電圧を印加させることで触媒層18を帯電させる。電圧印加方式は、作用電極26と対極30のみの2電極式でも、参照電極28をさらに用いた3電極式でもどちらでも良い。反応気体22は触媒層18に接触することで化学反応を起こす。対極30や参照電極28に反応気体22が接触する必要はない。
【0041】
図4は、発明の一実施形態を示すCO酸化反応での触媒反応の反応状況を説明する図で、(a)はPt触媒のCO酸化活性、(b)は活性化エネルギーの電位依存性を示している。CO酸化反応は次の化学反応式で示される。
CO+(1/2) O→CO (5)
触媒としては、金属白金(Pt)を用いている。イオン液体としては、(1-Ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide (EMI-TFSI))を用いている。
【0042】
このイオン液体に浸漬したPt触媒(メッシュ状の金属Pt)を作用電極とし、作用電極と対極の間に電圧を印加し、Pt触媒を帯電させた。電圧印加方式には3電極式を採用し、対極にはPtメッシュ、参照電極にはPt線を用いた。帯電したPt触媒に対して、温度120℃の条件で、COとOの混合ガス(CO:O=2:1、圧力100kPa)を流通させ、発生したCO量の経時変化から触媒活性を算出した。
【0043】
CO生成量をPt触媒の電位に対して、まとめた結果が図4(a)である。Ptに電圧を印加していない状態では、CO発生量が約0.02x10−6(mol/h)と、ほとんど活性が見られない。これに対して、Pt触媒の電位を参照電極に対して−1.2Vにすることで、CO発生量が約4.4x10−6(mol/h)と、CO酸化活性を200倍以上向上させることに成功した。それ以上に負に帯電させても正に帯電させても、触媒活性は低下した。
Pt触媒を帯電させることで、活性化エネルギーが変化する様子が観察され、触媒活性が最大となった−1.2V付近で、活性化エネルギーも約45(kJ/mol)と、極小値となった(図4(b))。
【0044】
触媒については、イオン液体に浸漬した導電性触媒(金属電極、あるいはカーボンファイバーのような導電性担体にナノ粒子触媒を担持したものなど)、イオン液体をゲル化あるいはポリマー化した担体に担持した触媒、を用いることができる。
【0045】
なお、図2に示す反応室や図3に示す触媒反応セルは、電気化学類似の装置であるが、CO酸化反応は電気化学反応ではなく、流れる電流と生成物の量は比例関係にはない。図2に示す反応室や図3に示す触媒反応セルでは、触媒層が帯電することが重要な点である。触媒層が帯電することによって、触媒表面における分子の吸着能が変化するため、触媒活性が変化する。
【0046】
図5(a)はCO酸化活性の24時間安定性、図5(b)は生成されたCOがCOからで、イオン液体の分解からではないことを示す図で、炭素の同位元素である13Cと12Cをガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)により測定したものである。CO酸化活性は少なくとも24時間安定であった。図5(b)に示すように、10時間の測定の間に13COの量は増加したが、12COの量は増加しなかった。このガスクロマトグラフ質量分析計は、明らかに、生成されたCOがCOからであったが、イオン液体の分解からではなかったことを示している。
【0047】
図6は、CO酸化活性の温度依存性を説明する図である。CO酸化活性は、120〜180℃の温度範囲で、触媒印加電圧―1.2Vで最大化された。
図7(a)はCO酸化活性のアーレニウスプロット図、図7(b)は触媒印加電圧とCO酸化反応の活性化エネルギーEaの関係を示している。ここで、アーレニウスの式は、次式で表される。
TOF=Aexp(−E/RT) (6)
ここで、TOFは化学反応の速度(ターンオーバー数、Turnover Frequency)、Aは定数、Eaは活性化エネルギー(1molあたり)、Rは気体定数0(8.31446261815324J・K・mol)、Tは絶対温度である。
【0048】
CO酸化反応の活性化エネルギーEaは75.5kJ/mol(白金触媒、イオン液体なし)であるが、白金触媒、イオン液体あり、触媒印加電圧−1.4Vで45.6kJ/molとなっている。すなわち、CO酸化反応の活性化エネルギーEaは、約―1.5Vで最小化された表面を負に帯電させることによって減少した。これはPt表面を負に帯電させることによって律速段階が変化したことを示している。
【0049】
図8は、本発明の一実施形態を示す触媒反応の火山型序列の詳細説明図で、例えば図6に示す火山型の曲線が対応している。火山型の曲線のピーク左側は、表面が多くのOで覆われており、CO吸着工程は反応速度を決定している。これに対して、火山型の曲線のピーク右側は、表面は多くのCOで覆われており、O吸着工程は反応速度を決定している。
【0050】
次に、制御電圧源8や電源34の制御電圧について、図8を用いて説明する。
触媒反応の火山型序列では、触媒活性が最大値CAmaxとなる触媒表面の帯電電位は、最適帯電電位Voptとなっている。上述のCO酸化反応にあてはめると、触媒印加電圧−1.4Vが最適帯電電位Voptに対応している。そして、例えば触媒活性の最適範囲として、例えば触媒活性の最大値CAmaxに対して、一定範囲の触媒活性、例えば最大値CAmaxの半分程度の値CAmidを与えるような、触媒表面の帯電電位の下限帯電電位VLLと上限帯電電位VHLとの間で、触媒表面の帯電電位を制御するとよい。上述のCO酸化反応にあてはめると、例えば触媒印加電圧−1.8Vが下限帯電電位VLLに対応し、触媒印加電圧−1.0Vが上限帯電電位VHLに対応させるとよい。
すなわち、制御電圧源8の制御電圧の制御範囲は、例えば−5Vから+5Vの範囲であって、制御対象の触媒反応と誘電体層に適合した最適帯電電位とするのがよい。また制御電圧の電圧制御の精度は、例えば1mVから0.1V程度であるとよい。
【0051】
温度や圧力を変えると、イオン液体の流動性が変化するため、電位による帯電量や反応ガスの拡散速度などが変化するものと考えられる。しかし、イオン液体が分解しない温度でなら本装置を使用可能である。温度について、上限は300℃程度であるが、下限はイオン液体が固化する温度である。圧力については、超高真空から大気圧以上まで可能であり、特に制限はない。
【0052】
なお、本発明の実施例として、Pt触媒を用いたCO酸化反応において、帯電化装置としてイオン液体と直流電源を用いた場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の実施態様が、当業者に自明な範囲で考えられるため、このような自明な範囲も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、触媒表面への分子吸着を経由して起こる化学反応に対して、触媒の帯電量を制御することを基軸として化学反応制御を行う化学反応装置がある。
【0053】
図13は、Ptメッシュを触媒としたときのエチレンの水素化(エチレンと水素からエタンを生成する反応)において、触媒印加電圧(E(V vs. Pt−QRE))とエチレン水素化活性(d[C]/dt(mol/h))の関係を表す図である。但し、実験条件は、T=30℃、C:H:He=5:15:80(〜100kPa)である。
【0054】
図13によれば、触媒表面を正に帯電させることによって反応が促進されることがわかる。これは、水素分子の触媒表面への吸着を増やすことにより反応が促進されるためだと推測される。エチレンの水素化はの反応速度rは、
r=k[C−0.6[H+1.3 (但しkは速度定数)
(F. Zaera, G. A. Somorjai, J. Am. Chem. Soc. 1984, 106, 2288−2293)で表されることが知られており、上記からも支持される。
【0055】
触媒表面を正に帯電することで、水素分子の吸着が増加するのは、水素が還元的に吸着しやすい、すなわち、水素から電子を供給する形態で吸着しやすいためであると推測される。
上記のとおり、触媒表面を帯電させ、電場を印加することによって分子吸着を制御可能であり、結果として、所望の反応を選択的に促進できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、触媒近傍の分子・原子レベルでの反応場の環境を制御することで、触媒活性を最適化した触媒反応装置を提供できる。特に、電界効果による触媒機能の電界制御を用いた触媒反応装置において、触媒反応での触媒活性が高い状態を保持する電位に保持することで、触媒反応の最適な範囲で反応物の分子から生成物の分子を生成できる。
【符号の説明】
【0057】
2 触媒
4 ゲート電極
6 誘電体層
8 制御電圧源
10 外部筐体
12 イオン液体収容管
14 反応ガス供給管
15 フィルター
16 生成物ガス出口管
18 網状触媒
20 イオン液体
22 反応ガス
24 生成物ガス
26 作用電極
28 参照電極
30 対極(ゲート電極)
32 触媒への導線
34 電源
36 反応室
38 供給弁
40 出口弁


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13