【解決手段】無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)及び水溶性高分子(D)を必須に含むタイヤ内面用離型剤組成物であって、前記繊維状物質(C)及び前記水溶性高分子(D)の合計重量に対する前記繊維状物質(C)の重量割合〔C/(C+D)〕が0.3〜0.9であり、前記繊維状物質(C)が、ワラスナイト、アタパルジャイト、セピオライト及びセルロースから選ばれる少なくとも1種を含む、タイヤ内面用離型剤組成物。
前記無機粉末(A)、前記シリコーン成分(B)、前記繊維状物質(C)及び前記水溶性高分子(D)の合計重量に対して、前記無機粉末(A)の重量割合が10〜95重量%、前記シリコーン成分(B)の重量割合が3〜30重量%、前記繊維状物質(C)の重量割合が0.1〜10重量%、前記水溶性高分子(D)の重量割合が0.1〜10重量%である、請求項1に記載のタイヤ内面用離型剤組成物。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造工程において、未加硫生タイヤの加硫成型は、通常、ブラダーと呼ばれるゴム製袋を生タイヤ内側で温風、熱水又は蒸気で膨張させることで、金型内に未加硫生タイヤを圧入成型することによって行われる。
通常、この工程を円滑に行うために生タイヤのインナーライナー面(以下、生タイヤ内面)にあらかじめ離型剤(タイヤ内面用離型剤)が塗布される。タイヤ内面用離型剤には主に、生タイヤ内面とブラダーとの間に良好な潤滑性を与える性能(平滑性)、ブラダーと生タイヤ内面に入り込んだ空気を逃し両者を密着させる性能(空気透過性)が必要であり、また、加硫終了後にブラダーを収縮させるときにはブラダーと生タイヤ内面とが円滑にはがれる性能(離型性)が求められる。
タイヤ内面用離型剤としてはマイカやタルクなどの無機粉末とシリコーンの水性エマルジョンからなる組成物が主に使用されている。
【0003】
特許文献1では、シリコーンの水性エマルジョンと特定の粒子径を持つマイカからなる組成物が開示されている。マイカの平均粒径を特定することで、離型性と潤滑性を向上させている。しかし、経時的にマイカが沈降凝集する問題がある。
特許文献2では、脂肪酸エステルとワックスが主成分で実質的に無機粉末を使用しない組成物が開示されている。無機粉末を使用していないため分散安定性には優れるが、乳化物の平均粒子径が50〜2000nmと小さいため、空気透過性が不足し、十分な離型性を得るには塗布量を大きくする必要があり作業性が悪い。
以上のように、様々な離型剤組成物が特許文献1、2のように示されているが、無機粉末を使用しながら、離型性と静置安定性を同時に満たすものはない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔タイヤ内面用離型剤組成物〕
本発明のタイヤ内面用離型剤組成物は、無機粉末(A)と、シリコーン成分(B)と、繊維状物質(C)と、水溶性高分子(D)を含む離型剤である。
また、前記繊維状物質(C)及び前記水溶性高分子(D)の合計重量に対する前記繊維状物質(C)の重量割合〔C/(C+D)〕が0.3〜0.9である。0.3未満では、離型性と静置安定性が不足する。0.9を超えると、静置安定性が不足する。
以下、各成分を詳しく説明する。
【0011】
〔無機粉末(A)〕
無機粉末(A)は、本発明に必須の成分であり、離型性と空気透過性を有する。
前記無機粉末(A)としては、特に限定はないが、たとえば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト;ベントナイト;ジ−バーミキュライト、トリ−バーミキュライト等のバーミキュライト;ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト、クリソタイル等のカオリン;タルク、パイロフィライト、マイカ(マスコバイト、セリサイト)、マーガライト、クリントナイト、白雲母、黒雲母、金雲母、合成雲母、フッ素雲母、パラゴライト、フロゴパイト、レピドライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等のフィロ珪酸塩;アンチゴライト等のジャモン石;ドンパサイト、スドウ石、クッカイト、クリノクロア、シャモサイト、クロライト、ナンタイト等の緑泥石等;(重質)炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄等の金属水酸化物;ベンガラ;珪藻土;珪酸アルミニウム;カーボンブラック;グラファイト等を挙げることができる。これらの成分は、1種または2種以上を併用してもよい。
無機粉末(A)が、マイカおよびタルクから選ばれる少なくとも1種であると、ゴム表面への付着が良く離型性が高いために好ましい。
【0012】
無機粉末(A)の平均粒子径については、特に限定はないは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜90μm、さらに好ましくは10〜90μm、特に好ましくは15〜85μm、最も好ましくは20〜80μmである。無機成分の平均粒子径が1μmより小さい場合は、タイヤ内面用離型剤を調製する際に、無機粉末の分散不良、タイヤ加硫時には空気透過性不足が生じる場合がある。一方、無機成分の平均粒子径が100μmより大きい場合は、タイヤ加硫時の平滑性不足が発生することがある。
【0013】
また、前記無機粉末(A)は、不純物として結晶性シリカを含有することがあるが、結晶性シリカは親水性が低く分散性が悪いため、その含有量は、なるべく少ないことが好ましい。結晶性シリカとしては、石英、クリストバライト、トリジマイト、コーサイト、ステイショバライト等が挙げられる。結晶性シリカ含有量は無機粉末(A)を100重量%としたときに、好ましくは20重量%未満、特に好ましくは10重量%未満、最も好ましくは5重量%未満である。20重量%以上であると、無機粉末の分散性が悪化し、ゴム表面への付着が不均一となるので離型性が悪化する。
無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)及び水溶性高分子(D)の合計重量に対して、無機粉末(A)の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは10〜95重量%である。さらに好ましくは12.5〜92.5重量%、特に好ましくは15〜90重量%、最も好ましくは、17.5〜87.5重量%である。無機粉末(A)の重量割合が少ないと離型性が悪化し、多過ぎると静置安定性が悪化する。
【0014】
〔シリコーン成分(B)〕
シリコーン成分(B)は、本発明に必須の成分であり、タイヤ内面用離型剤に離型性や潤滑性を付与する主要な成分である
シリコーンは、オルガノポリシロキサン類の総称であって、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂を含む概念である。シリコーン成分(B)はこれらのシリコーンを含む。
【0015】
オルガノポリシロキサン類としては、たとえば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサン等のジアルキルポリシロキサン;メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等のアルキルフェニルポリシロキサン;メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサン等のアルキルアラルキルポリシロキサン;3,3,3−トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0016】
シリコーン成分(B)としては、離型性の点からは、分子構造が直鎖状で、重合度が低く常温で流動性を有するシリコ−ンオイル等が好ましい。その粘度については、特に限定はないが、離型性と製品安定性のバランスの点で、25℃における粘度が、好ましくは100〜50万cSt、さらに好ましくは300〜10万cStである。
シリコーン成分(B)は、タイヤ内面用離型剤の製造の際に、シリコーンの乳化物を使用してもよい。
【0017】
無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)及び水溶性高分子(D)の合計重量に対して、シリコーン成分(B)の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは3〜30重量%である。さらに好ましくは4〜29重量%、特に好ましくは5〜28重量%、最も好ましくは、6〜27重量%である。シリコーン成分(B)の重量割合が3重量%未満では離型性が悪化することがあり、30重量%超では静置安定性が悪化することがある。
【0018】
〔繊維状物質(C)〕
繊維状物質(C)は、本発明に必須の成分であり、水溶性高分子(D)との相乗効果により、タイヤ内面用離型剤組成物の水分散液にチキソトロピー性を付与し、離型性と静置安定性を向上させる。
【0019】
水溶性高分子(D)との相乗効果については、必ずしも明らかではないが、水溶性高分子(D)により粘性付与された水溶液内において、繊維状物質(C)同士あるいは繊維状物質(C)と無機粉末(A)がネットワークを形成し、チキソトロピー性が付与されるものと考える。
繊維状物質(C)は、ワラスナイト、アタパルジャイト、セピオライト及びセルロースから選ばれる1種である。2種以上を含んでも良い。
本発明における繊維状物質(C)とは、平均長さ0.10〜5.0μm、平均直径1nm〜100nmである物質をいう。平均長さ及び平均直径は、電子顕微鏡の撮影像から個別の一次粒子の長さと直径を測定し、その平均値を算出することにより求めた値である。
【0020】
無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)及び水溶性高分子(D)の合計重量に対して、特定の繊維状物質(C)の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは0.1〜10重量%である。さらに好ましくは0.12〜9.98重量%、特に好ましくは0.14〜9.96重量%、最も好ましくは、0.18〜9.94重量%である。特定の繊維状物質(C)の重量割合が0.1重量%未満ではチキソトロピー性が低く、付着性不足による離型性悪化と静置安定性悪化を引き起こしたりし、10重量%超ではチキソトロピー性が高過ぎて水分散液の作業性が大きく悪化する。
【0021】
〔水溶性高分子(D)〕
水溶性高分子(D)はタイヤ内面用離型剤組成物の水分散液に粘性を付与し、静置安定性を向上させる成分である。
水溶性高分子(D)としては、特に限定はないが、たとえば、酸化でんぷん、酢酸でんぷん、燐酸でんぷん、カルボキシメチルスターチ、カルボキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、陽性でんぷん、シアノエチル化でんぷん、ジアルデヒドでんぷん等のでんぷん類;マンナン;アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類;タラカントガム、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、ブリティッシュガム、グルコマンナン、ジェランガム、タラガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等の天然ガム類;ポリアクリル酸ソーダ;ポリビニルアルコール;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;水溶性アクリル樹脂;水溶性ウレタン樹脂;水溶性メラミン樹脂;水溶性エポキシ樹脂;水溶性ブタジエン樹脂;水溶性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0022】
無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)及び水溶性高分子(D)の合計重量に対して、水溶性高分子(D)の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは0.1〜10重量%である。さらに好ましくは0.15〜9.95重量%、特に好ましくは0.2〜9.90重量%、最も好ましくは、0.25〜9.85重量%である。特定の水溶性高分子(D)の重量割合が0.1重量%未満ではチキソトロピー性が低く付着性と静置安定性が悪化したりすることがあり、10重量%超ではチキソトロピー性が高過ぎて水分散液の作業性が大きく悪化することがある。
【0023】
本発明のタイヤ内面用離型剤組成物は、上記で説明した成分以外に、下記成分をその他成分として、さらに含有していてもよい。
【0024】
〔多価アルコール〕
多価アルコールは未加硫タイヤ内面に付着し、未加硫タイヤ内面とブラダー間に潤滑性を付与し、摩擦を軽減する成分である。
多価アルコールとしては特に限定はないが、たとえば、グリセリン、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、マルトトリオース、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース等が挙げられ、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
〔消泡剤〕
消泡剤としては、たとえば、ポリメチルシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系消泡剤;ヒマシ油、ゴマ油、アマニ油、動植物油等の油脂系消泡剤;ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸系消泡剤;ステアリン酸イソアミル、コハク酸ジステアリル、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル系消泡剤;ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコールジ−t−アミルフェノキシエタノール、3−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系消泡剤;ジ−t−アミルフェノキシエタノール3−ヘプチルセロソルブノニルセロソルブ3−ヘプチルカルビトール等のエーテル系消泡剤;トリブチルオスフェート、トリス(ブトキシエチル)フオスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;ジアミルアミン等のアミン系消泡剤;ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミン等のアミド系消泡剤;ラウリル硫酸エステルナトリウム等の硫酸エステル系消泡剤;ポリオキシアルキレン系消泡剤;鉱物油等が挙げられる。
【0026】
〔防腐剤〕
防腐剤としては、たとえば、チアゾール、2−メルカプトチアゾール等のチアゾール類;メチレンビスチオシアネート、アンモニウムチオシアネート等のチオシアネート類;o−ベンゾイックスルフィミド、フェニルマーキュリック−o−ベンゾイックスルフィミド等のスルフィミド類;メチルジメチルチオカルバメート、エチルジエチルジチオカルバメート等のアルキルジアルキルチオカルバメート類;テトラメチルチラウムスルフィド、テトラエチルチラウムスルフィド等のチラウムスルフィド類;テトラメチルチラウムジスルフィド、テトラエチルチラウムジスルフィド等のチラウムジスルフィド類;フェリックジエチルジチオカルバメート、リードジメチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;o−トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルフォンアニリド等のスルファミド類;1−アミノナフチル−4−スルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸等のアミノスルホン酸類;ペンタクロロフェノール、o−フェニルフェノール等のフェノール類及びこれらのアルカリ金属塩類;;テトラクロロ−p−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン等の塩化キノン類;ジニトロカプリルフェニルクロトネート、ジニトロ−o−クレゾール等のニトロ基含有化合物類;1,3,5−トリヒドロキシエチルヘキサハイドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリエチルヘキサハイドロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン類;フェニルマーキュリックフタレート、o−ヒドロキシフェニルマーキュリッククロライド等の有機水銀化合物;p−アミノアゾベンゼン、ジフェニルアミン等のアミン類;シンナムアニリド等のアミド類;1,3−ジヨード−2−プロパノール等のヨウ素含有化合物等が挙げられる。
【0027】
〔水〕
水は、水道水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよく、特に限定はないが、イオン交換水や蒸留水等が好ましい。また、水の硬度の観点からは、水が軟水であると、品質管理の観点から好ましい。
【0028】
〔タイヤ内面用離型剤組成物の製造方法〕
本発明のタイヤ内面用離型剤組成物の製造方法については、無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)、水溶性高分子(D)、さらにその他の成分等を混合する工程を含むものであれば、混合順序や使用する混合設備等について特に限定はない。タイヤ内面用離型剤組成物は、たとえば、リボン型混合機等の粉末混合機に各成分を順次添加し、混合することで製造することができる。
【0029】
〔タイヤ内面用離型剤組成物の水分散液の製造方法〕
タイヤ内面用離型剤組成物の水分散液の濃度は、良好な離型性と静置安定性を発揮しやすい観点から、20〜70%が好ましく、25〜65%がより好ましく、30〜60%がさらに好ましい。20%未満では、すべての性能が悪化する可能性があり、70%超では、分散液の粘度が高くなりすぎて作業性が悪化する可能性がある。
【0030】
〔タイヤ内面用離型剤組成物を使用したタイヤの製造方法〕
本発明のタイヤは、上記で説明したタイヤ内面用離型剤を生タイヤ内面に付着させ、加硫して得られる。
本発明のタイヤは、たとえば、以下に示す付着工程と加硫工程とを経て製造することができる。
【0031】
〔付着工程〕
付着工程では、まず、未加硫のゴムを主体にビードワイヤーやタイヤコード等の必要な部材を組み合わせ接着して、生タイヤと呼ばれるタイヤ原形を準備する。
次いで、本発明のタイヤ内面用離型剤をこの生タイヤ内面に付着させる。タイヤ内面用離型剤の付着方法は、エアガンやエアレスガンによる吹き付けが一般的であるが、刷毛塗りや遠心塗装機等を用いてもよい。タイヤ内面用離型剤の付着量は、タイヤ製品の用途やサイズなどによりさまざまであるが、乾燥後に10〜50g/m
2であると好ましい。タイヤ内面用離型剤の付着量が少ない場合は十分な離型剤性能が得られない。一方、付着量が多すぎる場合は離型剤成分が多く脱落し周辺を汚すことがある。その後、内面に付着したタイヤ内面用離型剤が十分乾燥するまでの間、室温にて数十分から長い場合は数日間、生タイヤは放置される。
【0032】
〔加硫工程〕
上記付着工程で得られた乾燥した生タイヤに対して、次のように加硫が行われる。まず、生タイヤを金型内に設置し、その内側からブラダーと呼ばれるゴム製のバッグを水蒸気等で高温加圧し、生タイヤを金型に押し付け、最終的なタイヤ形状やトレッドパターン等となるように加硫する。加硫時のブラダー表面温度(金型温度)については、好ましくは110〜190℃、圧力については、好ましくは12〜30kg/cm
2である。
【0033】
本発明を用いると、離型剤分散液の取り扱いが良好となるし、離型性が向上するため、従来技術のタイヤと比較して、生産効率が向上する。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例及び比較例を示して具体的に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における各物性の評価は、以下のようにして行った。
【0035】
[離型性]
4cm×7cm×0.5cmの未加硫ゴムシート上に、乾燥後重量が15g/平方メートルとなるように、この上面のみにタイヤ内面用離型剤を噴霧機で付着させた。次いで、この評価用未加硫ゴムに、4cm×7cm×0.5cmのブラダーゴムシートを重ね合わせ、卓上型テストプレス機にセットし、温度180℃、圧力20kg/平方センチメートルで20分間加圧して加硫し、加硫済み評価ゴムを得た。加硫終了後、離型性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
加硫済み評価ゴムとブラダーゴムシートを90度に引き剥がしその際に必要な剥離荷重を引っ張り試験機で測定して、離型性を評価した。離型性の評価基準は次のとおりであり、◎及び○を合格とした。なお、加硫終了時に既に剥離している場合は、引っ張り試験はできないが、離型性は言うまでもなく優れているから、◎と評価する。
0.5N未満の引っ張り荷重で剥離(指標は◎)
0.5N以上1.5N以下の引っ張り荷重で剥離(指標は○)
1.5N以上の引っ張り荷重で剥離(指標は△)
密着して測定不可(指標は×)
【0036】
[静置安定性]
タイヤ内面用離型剤組成物を、40℃の恒温槽に1ヶ月間静置し、分離や沈降の有無を確認する。
分離や沈降がない:静置安定性は良好(指標は○)
分離または沈降がある:静置安定性はやや不良(指標は△)
分離および沈降がある:静置安定性は不良(指標は×)
【0037】
〔実施例1〕
(タイヤ内面用離型剤の調製及び評価)
容量200リットルのリボンブレンダーに、マイカを38部、タルク48部、セピオライト0.75部、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.75部を加え、30分間混合した。その後、混合物を容量200リットルのナウターミキサーに移し、混合を行いながら、30分間混合を続けた後、ジメチルポリシロキサン12.5部を、混合しながら徐々に添加し、さらに90分間混合を行い、タイヤ内面用離型剤を得た。
【0038】
得られたタイヤ内面用離型剤粉体52部を、200リットルのステンレス製寸胴に入れ、水道水48部をこれに添加し、高速せん断装置であるホモディスパー(1000rpm)で30分間溶解分散させ、タイヤ内面用離型剤液(離型剤A)を得た。得られた離型剤Aの20℃における粘度は450mPa・sであった。
この離型剤Aについて、以下に示すゴム試片を用いた離型性と静置安定性を評価した。評価の結果は表1に示すとおり、離型性は◎、静置安定性は○であり、いずれも良好であった。
【0039】
〔実施例2〜9〕
実施例2〜9では、表1に示すように組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてタイヤ内面用離型剤組成物の水分散液を得て、評価した。評価の結果は表1に示す。
【0040】
〔比較例1〕
容量200リットルのリボンブレンダーに、セルロースを35部、ワラスナイトを17部、ポリビニルアルコール20部を加え、30分間混合した。その後、混合物を容量200リットルのナウターミキサーに移し、混合を行いながら、ジメチルポリシロキサン28部添加し、30分間混合を行い、タイヤ内面用離型剤を得た。
【0041】
得られたタイヤ内面用離型剤粉体52部を、200リットルのステンレス製寸胴に入れ、水道水48部をこれに添加し、高速せん断装置であるホモディスパー(1000rpm)で30分間溶解分散させ、タイヤ内面用離型剤液(離型剤B)を得た。得られた離型剤Bの20℃における粘度は1200mPa・sであった。
この離型剤Bについて、以下に示すゴム試片を用いた離型性と静置安定性を評価した。評価の結果は表2に示すとおり、離型性は△、静置安定性は○であり、離型性が悪かった。
【0042】
〔比較例2〜6〕
比較例2〜6では、表2に示すように組成を変更した以外は、比較例1と同様にしてタイヤ内面用離型剤組成物の水分散液を得て評価した。その結果を表2にそれぞれ示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1および2から分かるように、実施例1〜8までのタイヤ内面用離型剤組成物は、無機粉末(A)、シリコーン成分(B)、繊維状物質(C)、水溶性高分子(D)を必須に含み、(繊維状物質(C))/(繊維状物質(C)+水溶性高分子(D))で表される重量割合が0.3〜0.9であるために、離型性と静置安定性に優れる。
一方、無機粉末(A)がない場合(比較例1)、シリコーン成分(B)がない場合(比較例2)、繊維状物質(C)がない場合(比較例3)、水溶性高分子(D)がない場合(比較例4)、(繊維状物質(C))/(繊維状物質(C)+水溶性高分子(D))で表される重量割合が0.3〜0.9でない場合(比較例5、6)、離型性、静置安定性のうち少なくともいずれか一つを充足しなかった。