特開2020-94593(P2020-94593A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-94593軸受組立体およびその製造方法、推進軸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-94593(P2020-94593A)
(43)【公開日】2020年6月18日
(54)【発明の名称】軸受組立体およびその製造方法、推進軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/06 20060101AFI20200522BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20200522BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20200522BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20200522BHJP
   B60K 17/24 20060101ALI20200522BHJP
【FI】
   F16C27/06 B
   F16C19/06
   F16F15/08 K
   F16F15/08 Y
   F16C35/077
   B60K17/24
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-230494(P2018-230494)
(22)【出願日】2018年12月10日
(11)【特許番号】特許第6560809号(P6560809)
(45)【特許公報発行日】2019年8月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 祥
(72)【発明者】
【氏名】申 大珍
【テーマコード(参考)】
3D042
3J012
3J048
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AA08
3D042AB01
3D042DC04
3D042DC05
3D042DC07
3J012AB07
3J012BB01
3J012CB04
3J012DB08
3J012DB13
3J012FB10
3J012GB01
3J012HB01
3J048AA01
3J048AD11
3J048BA19
3J048CB05
3J048DA06
3J048EA32
3J117AA03
3J117CA02
3J117CA03
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB07
3J117DB09
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA77
3J701EA49
3J701FA01
3J701FA46
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】生産性を高めるとともに、防振性能を向上させる設計の自由度を高めた軸受組立体およびその製造方法、推進軸の製造方法を提供する。
【解決手段】軸受2と、屈伸部8と内環9と外環10とを備えて内環9が軸受2に軸心O方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材3A,3Bと、一対の第1防振部材3A,3Bに軸心O方向に挟持されて内環9の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔12を有する環状の第2防振部材4と、外環10に外嵌し、内側ピン孔12と重なるように外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔16を有する環状保持部材14と、を備える軸受組立体1とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記一対の第1防振部材に軸方向に挟持されて前記内環の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔を有する環状の第2防振部材と、
前記外環に外嵌し、前記内側ピン孔と重なるように外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔を有する環状保持部材と、
を備えることを特徴とする軸受組立体。
【請求項2】
前記第2防振部材がゴム材料で構成されている請求項1に記載の軸受組立体。
【請求項3】
前記第2防振部材に、径外方向に向けて傾斜し且つ次第に肉薄となる舌片部が全周にわたり形成されている請求項2に記載の軸受組立体。
【請求項4】
前記第2防振部材の端面に、周方向に画成された複数の凹部が形成されている請求項2に記載の軸受組立体。
【請求項5】
前記第2防振部材が発泡材料で構成されている請求項1に記載の軸受組立体。
【請求項6】
前記第1防振部材の外環が前記環状保持部材に圧入されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の軸受組立体。
【請求項7】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、
を備えた軸受組立体の製造方法であって、
前記ピン孔から、前記一対の第1防振部材間に第2防振部材を充填することを特徴とする軸受組立体の製造方法。
【請求項8】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、
を備えた軸受組立体に保持される推進軸の製造方法であって、
前記ピン孔から前記一対の第1防振部材間にノズルを挿入し、該ノズルから前記第2防振部材を充填し、
充填後に前記ノズルを抜き取ることで形成されるノズル抜き取り孔に、前記内環を保持する保持ピンを挿入して前記推進軸のバランス修正を行うことを特徴とする推進軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受組立体およびその製造方法、推進軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の推進軸は、車両前方の原動機で発生し変速装置で減速された動力を、車両後方に搭載された終減速装置に伝達するものである。推進軸は二つ以上の自在継手を有し、その間を鋼管で構成するほか、必要に応じて自在継手を増やし、中間軸受ユニットを設けて車体に取り付ける等の構造がとられている。中間軸受ユニットは、一般に、推進軸の軸部材を内嵌する軸受と、軸受を内嵌する防振部材(第1防振部材という)と、第1防振部材を内嵌するとともに車体フロアに取り付けられるブラケットと、を備えている。
【0003】
第1防振部材としては、軸方向に凸となるゴム製の屈伸部を背中合わせに形成し、その内周に一体成型した内環に軸受を内嵌するとともに、外周に一体成型した外環をブラケットに内嵌させたものがある。また、車両の発進時のように急激な径方向の偶力が作用した際に、屈伸部の変形が大きくなって底突きを起こした場合、不快な振動を生じることがある。そのため、第1防振部材の屈伸部の内部に別の防振部材(第2防振部材という)をストッパとして配置する構成が特許文献1に記載されている。
【0004】
推進軸は、組立が完了するとその全数にバランス修正の作業が行われる。その際に中間軸受ユニットの軸受の外径部を強固に保持する必要がある。そのため、軸受の外径部側を保持ピンで保持する必要があり、第1防振部材には保持ピンを通すための挿通孔が径方向に貫通して形成されている(例えば、特許文献2参照)。
また、中間軸受ユニットのブラケットに関する技術が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−175205号公報
【特許文献2】実開平6−78619号公報
【特許文献3】実公平1−38338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献2においては、第2防振部材は、推進軸のバランス修正の工程後に取り付けられることとなる。第2防振部材は、帯状に延びたものが円環状に弾性変形されて第1防振部材の内径部に巻き付けられる。そして、その円環状態を維持するため、第2防振部材に凹凸を設けるなどして固定する必要があり、手作業による組立作業が煩雑になりやすいという問題がある。
【0007】
また、第1防振部材をブラケットに圧入で内嵌させることは困難であることから、特許文献3に記載されているように、ブラケットは上下に二分割され、第1防振部材が上下のブラケットで挟持される構成となっている。しかし、この技術は、推進軸が完成してから車両に取り付けられるまでの間に上下のブラケットが分離しないように保持しておく必要があり、特許文献3にはクリップで仮止めする技術が記載されている。しかしながら、クリップを用いる方法は、組立作業が煩雑となりやすい。
【0008】
本発明は、以上のような問題を解決するために行われたもので、その目的は、生産性を高めるとともに、防振性能を向上させる設計の自由度を高めた軸受組立体およびその製造方法、推進軸の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、軸受と、環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、前記一対の第1防振部材に軸方向に挟持されて前記内環の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔を有する環状の第2防振部材と、前記外環に外嵌し、前記内側ピン孔と重なるように外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔を有する環状保持部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、次のような効果が奏される。
(1)環状の第2防振部材を一対の第1防振部材で挟持する簡単な構造の軸受組立体となり、組立作業性が向上する。
(2)環状保持部材を備えるため、従来のように保持部材を二分割した際にクリップで仮止めする作業が不要となり、軸受組立体の組立作業性が向上する。
(3)第2防振部材と環状保持部材とにそれぞれ内側ピン孔、外側ピン孔を設けたことにより、完成された軸受組立体が組み込まれた状態で、軸受に内嵌する軸部材のバランス修正を行うことが可能となり、軸部材の組立作業性が向上する。
(4)第2防振部材は予め環状に成型されているので、第2防振部材を帯状態から弾性変形させて組み付ける従来の構造に比して、第2防振部材の形状と材質選択の自由度が大きくなり、第2防振部材の振動減衰特性の設計自由度が向上する。
【0011】
前記第2防振部材はゴム材料で構成することが好ましい。
【0012】
前記第2防振部材に、径外方向に向けて傾斜し且つ次第に肉薄となる舌片部を全周にわたり形成すれば、屈伸部において径方向に過大な変位が生じた際、屈伸部の外周側が舌片部に接触すると、舌片部が径内方向にしなやかに撓むことでばね定数がなだらかに変化し、振動が減衰される。
【0013】
前記第2防振部材の端面に、周方向に画成された複数の凹部を形成しても、凹部が存在することにより第2防振部材の外周面がしなやかに撓んで、ばね定数がなだらかに変化し、振動が減衰される。
【0014】
また、前記第2防振部材を発泡材料で構成してもよい。
【0015】
前記第1防振部材の外環が前記環状保持部材に圧入される構成とすれば、組立作業性が一層向上する。
【0016】
また、本発明は、軸受と、環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、を備えた軸受組立体の製造方法であって、前記ピン孔から、前記一対の第1防振部材間に第2防振部材を充填することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、次のような効果が奏される。
(1)第2防振部材を一対の第1防振部材間に充填する簡単な方法で軸受組立体を製造できる。
(2)環状保持部材を備えるため、従来のように保持部材を二分割した際にクリップで仮止めする作業が不要となり、軸受組立体の組立作業性が向上する。
【0018】
また、本発明は、軸受と、環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、を備えた軸受組立体に保持される推進軸の製造方法であって、前記ピン孔から前記一対の第1防振部材間にノズルを挿入し、該ノズルから前記第2防振部材を充填し、充填後に前記ノズルを抜き取ることで形成されるノズル抜き取り孔に、前記内環を保持する保持ピンを挿入して前記推進軸のバランス修正を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、次のような効果が奏される。
(1)第2防振部材を一対の第1防振部材間に充填する簡単な方法で軸受組立体を製造できる。
(2)環状保持部材を備えるため、従来のように保持部材を二分割した際にクリップで仮止めする作業が不要となり、軸受組立体の組立作業性が向上する。
(3)完成された軸受組立体が組み込まれた状態で推進軸のバランス修正を行うことが可能となり、推進軸の組立作業性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸受組立体の生産性を高めるとともに、防振性能を向上させる設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の軸受組立体の側断面図である。
図2】第1実施形態の軸受組立体の正断面図である。
図3】第1実施形態の軸受組立体の正面図である。
図4】第1実施形態の軸受組立体を上方から見た平面図である。
図5】第1実施形態の軸受組立体を下方から見た平面図である。
図6】第2実施形態の軸受組立体の側断面図である。
図7】第2実施形態の軸受組立体の正断面図であり、ノズルを挿入して第2防振部材を充填した状態を示す。
図8】第2実施形態の軸受組立体の正断面図であり、第2防振部材の充填後、ノズルを抜いた状態を示す。
図9】第3実施形態の軸受組立体の側断面図である。
図10】第4実施形態の軸受組立体の側断面図である。
図11】第4実施形態の軸受組立体の正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「第1実施形態」
図1ないし図5を参照して第1実施形態を説明する。図1において、軸受組立体1は、軸受2と、一対の第1防振部材3A,3Bと、第2防振部材4と、保持部材5と、を備えている。
【0023】
軸受2には、例えば自動車の推進軸の一部を構成するスタブシャフトSが内嵌される。スタブシャフトSは、例えば、一端が図示しない等速ジョイントの動力伝達部材に連結し、他端が鋼管等の中空軸材に連結される中実の軸部材である。軸受2の軸心O方向の一端寄り、他端寄りには、軸受2への泥水や塵等の浸入を防止するシール部材6,7が設けられている。
【0024】
第1防振部材3A,3Bは、それぞれ、環状の屈伸部8と、屈伸部8の内周側に配置される内環9と、屈伸部8の外周側に配置される外環10とを備えている。第1防振部材3Aにおいて、屈伸部8は軸心O方向の一端側に向け略U字に突出するように形成されている。屈伸部8はゴム材で形成されている。第1防振部材3Aは、屈伸部8が弾性変形することで、スタブシャフトSからの振動を減衰し、車体への振動の伝達を低減させる。
【0025】
屈伸部8の内周側には内環接合部8Aが形成されており、この内環接合部8Aの内周に内環9が加硫接着されている。内環9は、軸受2の外輪の一端寄りに圧入で外嵌する外嵌筒部9Aと、外嵌筒部9Aの一端から径内方向に延び軸受2の外輪の端面に当接する鍔部9Bと、鍔部9Bの内端から屈伸部8の突端位置と同程度まで軸心O方向の一端側に延びるカバー筒部9Cと、を備えている。
【0026】
外嵌筒部9Aの外周に関して、一端寄りは内環接合部8Aの他端寄りに加硫接着されているが、他端寄りは、後述するバランス修正の作業時に保持ピン17を突き当てるため、内環接合部8Aと加硫接着されることなく露出している。内環接合部8Aの他端には、軸心Oと直交するように段差端面8Bが形成される。内環9は金属材料で形成されている。
【0027】
屈伸部8の外周には外環10が加硫接着されている。外環10は、後述する環状保持部材14の一端寄りに圧入で内嵌する内嵌筒部10Aと、内嵌筒部10Aの一端から径外方向に延び環状保持部材14の端面に当接する鍔部10Bと、を備えている。外環10も金属材料で形成されている。
【0028】
第1防振部材3Bは第1防振部材3Aと同一形状の部材であり、第1防振部材3Aに対し軸心O方向に逆向きに配置されて、内環9の外嵌筒部9Aが軸受2の外輪の他端寄りに外嵌し、外環10の内嵌筒部10Aが環状保持部材14の他端寄りに内嵌している。これにより、第1防振部材3A,3Bの各内環9が軸受2に軸心O方向の両側から外嵌することとなり、各屈伸部8はU字形状内の空間が対向して連通するように配置される。また、第1防振部材3A,3Bの各段差端面8B間には矩形状の溝11が形成される。
【0029】
第2防振部材4は、一対の第1防振部材3A,3Bに軸心O方向に挟持されて内環9の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔12を有する部材である。本実施形態では、内側ピン孔12は3つ形成されている。内側ピン孔12は、軸心Oの径方向に沿ってもよいし、径方向に対して傾斜してもよい。また、孔の形状は円形の他、角形であってもよい。第2防振部材4は、無端環状に成型されており、材質は、エチレンプロピレンゴム等のゴム材でもよいし、発泡材料等であってもよい。
【0030】
屈伸部8において径方向に過大な変位が生じ、屈伸部8の剛体部分同士が接触する、いわゆる底突きが生じると、ばね定数が急激に立ち上がることで、推進軸の振動がダイレクトに不快な振動として車体に伝達されるおそれがある。第2防振部材4は、これを防止するために設けられたストッパであり、屈伸部8の剛体部分同士が接触する前に屈伸部8に接触することで、ばね定数をなだらかに変化させ、振動を減衰する。
【0031】
第2防振部材4は、断面略矩形状を呈しており、内周側には軸心O方向の幅寸法が前記溝11の幅と同程度の嵌合部13が形成されている。第2防振部材4は、前後方向に第1防振部材3A,3Bの少なくとも一方と外環10が接着されている剛体部に対して、重なり代Lをもって重なるように配置されることで、底突き時の振動の減衰を行うようにしている。第2防振部材4は、嵌合部13が溝11に嵌合することで、第1防振部材3A,3Bの各段差端面8Bによって軸心O方向に挟持され、屈伸部8の内周側に装着される。
【0032】
保持部材5は、環状保持部材14と車体取付部材15とを備えている。環状保持部材14は、外環10が内嵌する短筒形状の環状部材である。車体取付部材15は、図3に示すように、環状保持部材14の下半分を囲うように軸心O方向視で半円弧状を呈する半円弧状部15Aと、半円弧状部15Aの左右の上端からそれぞれ左方、右方に延びる一対の締結部15Bと、を備えている。車体取付部材15は、各締結部15Bのボルト孔15Cに挿通されるボルト(図示せず)により車体に締結される。
【0033】
環状保持部材14には、第2防振部材4の3つの内側ピン孔12とそれぞれ直線状に重なるように、外周から内周にかけて貫通する3つの外側ピン孔16が形成されている。孔の形状は図4のように円形でもよいし、図5のように角形であってもよい。
【0034】
推進軸のバランス修正の作業時には、図2に示すように、3カ所の外側ピン孔16、内側ピン孔12に保持ピン17を挿入し、各ピンの先端を内環9に突き当てて軸受2を強固に保持する。
【0035】
以上のように、軸受2と、屈伸部8と内環9と外環10とを備えて内環9が軸受2に軸心O方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材3A,3Bと、一対の第1防振部材3A,3Bに軸心O方向に挟持されて内環9の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔12を有する環状の第2防振部材4と、外環10に外嵌し、内側ピン孔12と重なるように外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔16を有する環状保持部材14と、を備える構成とすれば、次のような効果が奏される。
【0036】
(1)環状の第2防振部材4を一対の第1防振部材3A,3Bで挟持する簡単な構造の軸受組立体1となり、組立作業性が向上する。
(2)環状保持部材14を備えるため、従来のように保持部材を二分割した際にクリップで仮止めする作業が不要となり、軸受組立体1の組立作業性が向上する。
(3)第2防振部材4と環状保持部材14とにそれぞれ内側ピン孔12、外側ピン孔16を設けたことにより、完成された軸受組立体1が組み込まれた状態で、軸受2に内嵌するスタブシャフトS、すなわち推進軸のバランス修正を行うことが可能となり、推進軸の組立作業性が向上する。
(4)第2防振部材4は予め環状に成型されているので、第2防振部材を帯状態から弾性変形させて組み付ける従来の構造に比して、第2防振部材4の形状と材質選択の自由度が大きくなり、第2防振部材4の振動減衰特性の設計自由度が向上する。
【0037】
また、第1防振部材3A,3Bの各外環10が環状保持部材14に圧入される構成とすれば、軸受組立体1の組立作業性が一層向上する。
【0038】
「第2実施形態」
図6ないし図8を参照して第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素については同一の符号を付して詳細な説明は省略する。図6において、軸受組立体1Aは、軸受2と、一対の第1防振部材3A,3Bと、第1防振部材3A,3Bの内部に充填される第2防振部材20と、保持部材5と、を備えている。第1防振部材3A,3Bと保持部材5の構成は第1実施形態と同じである。以下、第2防振部材20の充填方法を説明する。
【0039】
図7において、環状保持部材14には、第1実施形態と同様に3つの外側ピン孔16が形成されており、各外側ピン孔16から筒状のノズル21が第1防振部材3A,3B間に挿入される。ノズル21の先端面は内環9の外周に突き当てられる。ノズル21の先端側の周面には、複数の噴出口21Aが形成されている。ノズル21の基端側の外周には、外側ピン孔16とノズル21との隙間から第2防振部材20が漏れ出るのを防止するシール材23が取り付けられている。
【0040】
第2防振部材20がノズル21の噴出口21Aから噴出し、第1防振部材3A,3Bの内部に充填される。第2防振部材20は例えば発泡材料である。第2防振部材20の充填・固化後、ノズル21を抜き取ることにより、図8に示すように、第2防振部材20にはノズル抜き取り孔22が形成される。これにより、推進軸のバランス修正の作業時には、第1実施形態と同様にして、保持ピン17(図2)を3カ所の外側ピン孔16、ノズル抜き取り孔22に挿入し、各ピンの先端を内環9に突き当てて軸受2を強固に保持する。
【0041】
以上のように、軸受2と、屈伸部8と内環9と外環10とを備えて内環9が軸受2に軸心O方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材3A,3Bと、外環10に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔16を有する環状保持部材14と、を備え、外側ピン孔16から、一対の第1防振部材3A,3B間に第2防振部材20を充填する方法によれば、次のような効果が奏される。
【0042】
(1)第2防振部材20を一対の第1防振部材3A,3B間に充填する簡単な方法で軸受組立体1Aを製造できる。
(2)環状保持部材14を備えるため、従来のように保持部材を二分割した際にクリップで仮止めする作業が不要となり、軸受組立体1の組立作業性が向上する。
【0043】
また、外側ピン孔16から第1防振部材3A,3B間にノズル21を挿入し、ノズル21から第2防振部材20を充填し、充填後にノズル21を抜き取ることで形成されるノズル抜き取り孔22に、内環9を保持する保持ピン17を挿入して推進軸のバランス修正を行う推進軸の製造方法とすれば、完成された軸受組立体1Aが組み込まれた状態で推進軸のバランス修正を行うことが可能となり、推進軸の組立作業性が向上する。
【0044】
「第3実施形態」
図9を参照して第3実施形態を説明する。第3実施形態の軸受組立体1Bが第1実施形態の軸受組立体1と異なる点は、第2防振部材4に舌片部25を形成した点であり、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0045】
舌片部25は、断面形状が、第2防振部材4の外周面から軸心Oの径外方向に向けて傾斜し且つ次第に肉薄となっており、第2防振部材4の全周にわたって形成されている。このような舌片部25を設ければ、屈伸部8において径方向に過大な変位が生じた際、屈伸部8の外周側が舌片部25に接触すると、舌片部25が径内方向にしなやかに撓むことでばね定数がなだらかに変化し、振動が減衰される。
【0046】
「第4実施形態」
図10図11を参照して第4実施形態を説明する。第4実施形態の軸受組立体1Cが第1実施形態の軸受組立体1と異なる点は、第2防振部材4の端面に、周方向に画成された複数の凹部26を形成した点であり、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0047】
凹部26は、第2防振部材4の外周面が傾斜していることにより、端面での開口面積が最も大きく、奥に向かうにしたがって開口断面形状が小さくなっている。このような凹部26を設けることによっても、屈伸部8において径方向に過大な変位が生じた際、屈伸部8の外周側が第2防振部材4の外周面に接触すると、凹部26が存在することにより第2防振部材4の外周面がしなやかに撓んで、ばね定数がなだらかに変化し、振動が減衰される。
【符号の説明】
【0048】
1,1A〜1C 軸受組立体
2 軸受
3A,3B 第1防振部材
4 第2防振部材
5 保持部材
8 屈伸部
9 内環
10 外環
11 溝
12 内側ピン孔
14 環状保持部材
20 第2防振部材
21 ノズル
22 ノズル抜き取り孔
25 舌片部
26 凹部
S スタブシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2019年5月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記一対の第1防振部材に軸方向に挟持されて前記内環の径外側に配置され、外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔を有する環状の第2防振部材と、
前記外環に外嵌し、前記内側ピン孔と重なるように外周から内周にかけて貫通する複数の外側ピン孔を有する環状保持部材と、
を備え
前記第1防振部材は、前記外環の内周側に配置される外環保持部を有し、
前記第2防振部材は、前記外環保持部に対して軸方向の重なり代をもって径方向内側に重なるように配置されている
ことを特徴とする軸受組立体。
【請求項2】
前記第2防振部材がゴム材料で構成されている請求項1に記載の軸受組立体。
【請求項3】
前記第2防振部材に、径外方向に向けて傾斜し且つ次第に肉薄となる舌片部が全周にわたり形成されている請求項2に記載の軸受組立体。
【請求項4】
前記第2防振部材は、無端環状に構成され、
前記第2防振部材の端面に、周方向に画成された複数の凹部が形成されている請求項2に記載の軸受組立体。
【請求項5】
前記第2防振部材が発泡材料で構成されている請求項1に記載の軸受組立体。
【請求項6】
前記第1防振部材の外環が前記環状保持部材に圧入されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の軸受組立体。
【請求項7】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、
を備えた軸受組立体の製造方法であって、
前記ピン孔から、前記一対の第1防振部材間にノズルを挿入し、該ノズルから第2防振部材を充填し、
充填・固化後に前記ノズルを抜き取ることで形成されるノズル抜き取り孔にて、前記第2防振部材に外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔を設ける
ことを特徴とする軸受組立体の製造方法。
【請求項8】
軸受と、
環状の屈伸部と、前記屈伸部の内周側に配置される内環と、前記屈伸部の外周側に配置される外環とを備え、前記内環が前記軸受に軸方向の両側から外嵌する一対の第1防振部材と、
前記外環に外嵌し、外周から内周にかけて貫通する複数のピン孔を有する環状保持部材と、
を備えた軸受組立体に保持される推進軸の製造方法であって、
前記ピン孔から前記一対の第1防振部材間にノズルを挿入し、該ノズルから第2防振部材を充填し、
充填・固化後に前記ノズルを抜き取ることで形成されるノズル抜き取り孔にて、前記第2防振部材に外周から内周にかけて貫通する複数の内側ピン孔を設け、
前記内環を保持する保持ピンを前記ピン孔および前記内側ピン孔に挿入して前記推進軸のバランス修正を行うことを特徴とする推進軸の製造方法。