【解決手段】摩擦伝動式減速機100の太陽ローラ10は、回転軸9を中心として回転する。複数の遊星ローラ20は、太陽ローラの周囲に配置される。インタナルリング31、32は、円環状であり、複数の遊星ローラに接触する。軸受61、62は、複数の遊星ローラの各々の軸方向の先端部221、222を回転可能に支持する。キャリア70は、軸受を支持し、軸受が回転軸を中心として回転する回転数と同一の回転数で、回転軸を中心として回転する。また、遊星ローラは、外周部と、肩部223、224とを有する。外周部は、軸方向の中央部に位置し、太陽ローラと接触する。肩部は、軸方向において先端部と中央部との間に位置し、外周部よりも径方向の寸法が小さく、インタナルリングと接触する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、摩擦伝動式減速機の中心軸と平行な方向を「軸方向」、摩擦伝動式減速機の中心軸に直交する方向を「径方向」、摩擦伝動式減速機の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。
【0012】
<1.第1実施形態>
<1−1.摩擦伝動式減速機の全体構成>
以下では、
図1から
図3までを参照して実施形態に係る摩擦伝動式減速機100の全体的な構成について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る摩擦伝動式減速機100の縦断面図である。
図2は、
図1中の摩擦伝動式減速機100を軸方向の一方側からみたときの図である。
図3は、
図1中の摩擦伝動式減速機100を軸方向の他方側からみたときの図である。
【0013】
本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100は、モータ等の駆動源から得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に変換して、出力シャフト80を回転させるユニットである。摩擦伝動式減速機100は、モータ等の駆動源から太陽ローラ10に入力された回転運動を、減速させながら出力シャフト80に伝達する。この摩擦伝動式減速機100は、太陽ローラ10の表面と複数の遊星ローラ20の表面とを、互いに接触させながら回転させることによって動力を伝達する、いわゆるトラクション型の遊星減速機構を構成する。
図1に示すように、摩擦伝動式減速機100は、1つの太陽ローラ10、複数の遊星ローラ20、2つのインタナルリング30、加圧機構40、ハウジング50、複数の軸受60、キャリア70、出力シャフト80および規制部材(図示省略)を有する。
【0014】
図1および
図2に示す太陽ローラ10は、回転軸9と同軸に配置された、略円筒状の部材である。モータ等の駆動源の出力シャフト3は、太陽ローラ10の軸方向の一方側の中央から回転軸9に沿って延びる円孔に圧入される。これにより、太陽ローラ10が、出力シャフト3の外周面に固定される。モータ等の駆動源を駆動させると、出力シャフト3とともに太陽ローラ10も、回転軸9を中心として第1回転数で回転する。
【0015】
複数の遊星ローラ20は、太陽ローラ10の周囲に配置される。
図2および
図3に示すように、本実施形態では、太陽ローラ10の周囲に、3個の遊星ローラ20が等間隔に配置されている。ただし、摩擦伝動式減速機100が有する遊星ローラ20の数は、2個であってもよく、4個以上であってもよい。
【0016】
各遊星ローラ20は、円板部21と軸状部22とを含む形状を有する。円板部21は、軸方向の一方側または他方側からみたときに、円形状の部位である。円板部21の軸方向の一方側の端面および他方側の端面は、軸方向に対して略垂直に広がる。軸状部22は、円板部21の中央部から軸方向の一方側および他方側の両方に、軸方向に延びる概ね円柱状の部位である。円板部21の軸方向の一方側に延びる軸状部22の先端部には、円柱状の第1先端部(先端部)221が設けられる。円板部21の軸方向の他方側に延びる軸状部22の先端部には、円柱状の第2先端部(先端部)222が設けられる。
【0017】
円板部21の軸方向の一方側の端面と第1先端部221との間には、第1肩部(肩部)223が設けられる。第1肩部223は、円板部21に近づくにつれて径方向の寸法が拡大するテーパ状の外周面を有する。円板部21の軸方向の他方側の端面と第2先端部222との間には、第2肩部(肩部)224が設けられる。第2肩部224は、円板部21に近づくにつれて径方向の寸法が拡大するテーパ状の外周面を有する。
【0018】
インタナルリング30は、第1インタナルリング31と第2インタナルリング32とを有する。第1インタナルリング31は、入力側の肩部である第1肩部223の径方向外方に配置される。第2インタナルリング32は、出力側の肩部である第2肩部224の径方向外方に配置される。
【0019】
第1インタナルリング31は、回転軸9を中心とする円環状の部材である。第1インタナルリング31の内周面は、軸方向の一方側に向かうにつれて収束するテーパ状である。
図1に示すように、第1インタナルリング31の内周面は、第1肩部223の外周面に接触する。第2インタナルリング32は、回転軸9を中心とする円環状の部材である。第2インタナルリング32の内周面は、軸方向の他方側に向かうにつれて収束するテーパ状である。
図1に示すように、第2インタナルリング32の内周面は、第2肩部224の体周面に接触する。
【0020】
加圧機構40は、第1インタナルリング31を出力側へ加圧する機構である。加圧機構40は、複数のコイルばね41を有する。複数のコイルばね41は、第1インタナルリング31の軸方向の一方側の端面と、ハウジング50の軸方向の一方側の内面との間に、周方向に等間隔に配置される。各コイルばね41は、自然長よりも軸方向に圧縮されている。このため、コイルばね41の反発力によって、第1インタナルリング31が、出力側へ加圧される。
【0021】
第1インタナルリング31が出力側へ加圧されると、第1インタナルリング31の内周面が第1肩部223の外周面を押圧する。また、第2インタナルリング32の内周面が第2肩部224の外周面を押圧する。これにより、遊星ローラ20が径方向内方側へと加圧される。その結果、遊星ローラ20の円板部21の外周面(外周部)と、太陽ローラ10の外周面とが、互いに接触した状態に維持される。
【0022】
なお、加圧機構40に、コイルばね41に代えて、板バネや押圧カム等の他の弾性部材が用いられていてもよい。
【0023】
このように、複数の遊星ローラ20は、それぞれ、太陽ローラ10およびインタナルリング30の双方と、常に接触する。このため、太陽ローラ10が回転すると、複数の遊星ローラ20は、太陽ローラ10からの動力を受け、太陽ローラ10との間の摩擦によって自転する。また、複数の遊星ローラ20は、インタナルリング30との間の摩擦により、インタナルリング30に沿って、回転軸9の周囲を公転する。このとき、遊星ローラ20の公転の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0024】
ハウジング50は、複数の遊星ローラ20、インタナルリング30、および後述する軸受60の周囲を取り囲む、略円筒状の部材である。
【0025】
軸受60は、複数の第1軸受61と、複数の第2軸受62とを含む。第1軸受61は、遊星ローラ20の第1先端部221に取り付けられる。詳細には、本実施形態の第1軸受61は転がり玉軸受であり、内輪が第1先端部221の外周面に固定される。第2軸受62は、遊星ローラ20の第2先端部222に取り付けられる。詳細には、本実施形態の第2軸受62は転がり玉軸受であり、内輪が第2先端部222の外周面に固定される。第1軸受61と第2軸受62とは、各遊星ローラ20に対して設けられる。軸受60によって、遊星ローラ20が後述するキャリア70に対して回転(自転)可能に支持される。
【0026】
図1から
図3までに示すように、キャリア70は、入力キャリア71と、出力キャリア72と、複数の軸部材73とを有する。
【0027】
入力キャリア71は、太陽ローラ10の径方向外方、かつ、第1インタナルリング31の径方向内方に配置される。入力キャリア71は、概ね円板状であり、軸方向に対して垂直に配置される。
図2に示すように、入力キャリア71の周方向に沿う3箇所には、溝部710が設けられる。各溝部710は、入力キャリア71を軸方向に貫通するとともに、径方向に延びる。各溝部710の径方向外方側の端部は、開放されている。各溝部710の径方向内方側の端部は、軸方向の一方側からみたときに、中央に向かうにつれて徐々に幅が狭まる円弧状である。本実施形態の溝部710は、周方向に沿って120°おきに等間隔に設けられる。
【0028】
出力キャリア72は、第2インタナルリング32の径方向内方に配置される。出力キャリア72は、円板状であり、軸方向に対して垂直に配置される。
図3に示すように、出力キャリア72の周方向に沿う3箇所には、溝部720が設けられる。各溝部720は、出力キャリア72を軸方向に貫通するとともに、径方向に延びる。各溝部720の径方向外方側の端部は、開放されている。各溝部720の径方向内方側の端部は、軸方向の他方側からみたときに、中央に向かうにつれて徐々に幅が狭まる円弧状である。本実施形態の溝部720の位置は、軸方向にみたときに溝部710の位置と重なる。
【0029】
複数の軸部材73は、それぞれ軸方向に延びる円柱状である。
図1に示すように、軸部材73の軸方向の一方側の端部は、入力キャリア71に固定される。軸部材73の軸方向の他方側の端部は、出力キャリア72に固定される。
図2および
図3に示すように、軸部材73は、軸方向にみたときに、周方向に隣り合う溝部710(720)の中間の位置に配置される。軸部材73は、周方向に沿って120°おきに等間隔に設けられる。入力キャリア71と、出力キャリア72と、複数の軸部材73とを合わせたものは、いわゆる籠状となっている。
【0030】
出力キャリア72の軸芯部には、円柱状の出力シャフト80が接続されている。出力シャフト80は、出力キャリア72の軸方向の他方側の端面から、軸方向に延びている。出力シャフト80は、回転軸9と同軸上に配置される。
【0031】
図2に示すように、入力キャリア71の溝部710には、第1軸受61が収容される。詳細には、溝部710の両側壁に、第1軸受61の外輪が接触した状態とされる。別の言い方をすれば、溝部710の両側壁で、軸受61の外輪が保持されている。太陽ローラ10をキャリア70から取り外した状態としたとき、第1軸受61は、溝部710内を径方向にスライド可能である。
図3に示すように、出力キャリア72の溝部720には、第2軸受62が収容される。詳細には、溝部720の両側壁に、第2軸受62の外輪が接触した状態とされる。別の言い方をすれば、溝部720の両側壁で、軸受62の外輪が保持さている。太陽ローラ10をキャリア70から取り外した状態としたとき、第2軸受62は、溝部720内を径方向にスライド可能である。
【0032】
また、入力キャリア71の端面および出力キャリア72の端面には、軸受61,62の軸方向への移動を規制するための規制部材(図示省略)が取り付けられている。
【0033】
複数の遊星ローラ20が減速後の第2回転数で公転すると、それに伴い、複数の軸受61(62)も、回転軸9を中心として、第2回転数で回転する。また、複数の軸受61(62)が回転すると、軸受61(62)を支持するキャリア70も、回転軸9を中心として、第2回転数で回転する。その結果、出力シャフト80が第2回転数で回転する。こうして、減速後の回転が外部に出力される。
【0034】
<1−2.摩擦伝動式減速機の組付工程>
以下では、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100の組付工程について、順を追って説明する。
図4Aから
図4Dまでは、摩擦伝動式減速機100の組付工程を示している。
【0035】
図4Aに示すように、まず初めに、入力キャリア71と出力キャリア72と軸部材73とが、籠状に相互に組み付けられる。また、遊星ローラ20の第1先端部221に第1軸受61が組み付けられる。同様に、遊星ローラ20の第2先端部222に第2軸受62が組み付けられる。
【0036】
続いて、
図4Bに示すように、径方向外方側から、遊星ローラ20がキャリア70に組み付けられる。詳細には、入力キャリア71の溝部710の径方向内方側の端部で第1軸受61が受け止められるとともに、出力キャリア72の溝部720の径方向内方側の端部で第2軸受62が受け止められた状態とされる。これにより、遊星ローラ20は、組付完了時の位置よりも径方向内方側に一時的に配置される。
【0037】
続いて、
図4Cに示すように、遊星ローラ20が組付完了時の位置よりも径方向内方側に配置された状態を保ちつつ、第1インタナルリング31が軸方向の一方側から第1肩部223に嵌め込まれる。詳細には、第1インタナルリング31が、第1軸受61の径方向外方側を通過して、第1肩部223の径方向外方側に配置される。同様に、第2インタナルリング32が軸方向の他方側から第2肩部224に嵌め込まれる。詳細には、第2インタナルリング32が、第2軸受62の径方向外方側を通過して、第2肩部224の径方向外方側に配置される。
【0038】
続いて、第1軸受61が、入力キャリア71の溝部710の径方向外方側の端部にまでスライドされる。同様に、第2軸受62が、出力キャリア72の溝部720の径方向外方側の端部にまでスライドされる。別の言い方をすれば、複数の遊星ローラ20が、溝部710,720にガイドされながら、径方向外方側に押し広げられる。その結果、第1肩部223の外周面が、第1インタナルリング31の内周面に、接触する。また、第2肩部224の外周面が、第2インタナルリング32の内周面に、接触する。この状態で、
図4Dに示すように、複数の遊星ローラ20の径方向内方に、太陽ローラ10が挿入される。
【0039】
以上のようにして、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100の組付けが完了する。
【0040】
<1−3.まとめ>
以上に示したように、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100は、太陽ローラ10と、遊星ローラ20と、インタナルリング30と、軸受61,62と、キャリア70とを備える。軸受61,62は、複数の遊星ローラ20の各々の軸方向の先端部を回転可能に支持する。キャリア70は、軸受61,62を支持し、軸受61,62が回転軸9を中心として回転する回転数と同一の回転数で、回転軸9を中心として回転する。また、遊星ローラ20は、太陽ローラ10と接触する円板部(外周部)21と、円板部21よりも径方向の寸法が小さくインタナルリング31,32と接触する肩部223,224とを有する。この構成によれば、従来のように遊星ローラの軸芯部を貫通する貫通孔を設けてこれにキャリアピンを挿入する構成ではないため、肩部223,224の径方向の寸法を従来よりも小さくできる。さらに言えば、従来のようにキャリアピンをキャリアの孔に圧入する構成ではないため、キャリア70の径方向の寸法を小さくすることができる。そのため、組付けを考慮しても、インタナルリング31,32の径方向の寸法を従来よりも小さくできる。その結果、小型であり、かつ高減速比の摩擦伝動式減速機100が実現する。
【0041】
また、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100においては、キャリア70は、軸受61,62を周方向に相対回転不能に支持する。これにより、遊星ローラ20の公転が、キャリア70の回転軸9を中心とする回転として、精度よく出力される。
【0042】
また、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100においては、キャリア70は、軸受61,62を径方向に相対移動可能に支持する。これにより、必要に応じて軸受61,62をキャリア70に対して径方向に移動させること等により、摩擦伝動式減速機100の各部を組み付ける作業が容易となる。
【0043】
また、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100においては、キャリア71(72)が有する溝部710(720)に軸受61(62)が挿入される。軸受61(62)の溝部710(720)に対する挿入方向は、回転軸9に対して垂直である。そして、溝部710(720)の径方向外方側の端部は開放されている。これにより、摩擦伝動式減速機100の各部の組付け時に、先端部に軸受61,62を取り付けた状態の遊星ローラ20を、キャリア70の径方向外方側から、キャリア70に対し組み付けることができる。よって、組み付け性が向上する。
【0044】
また、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100においては、溝部710(720)の径方向内方側の端部は、軸方向にみたときに半円状である。これにより、先端部に軸受61,62を取り付けた状態の遊星ローラ20が、キャリア70に対し径方向内方側に深く嵌まり込んでしまって以後に径方向外方側に動かせなくなってしまう事態を防止することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る摩擦伝動式減速機100においては、キャリア70には、軸受61,62の軸方向への移動を規制する規制部材が取り付けられている。これにより、軸受61,62および遊星ローラ20の軸方向への位置ずれを防止することができる。その結果、摩擦伝動式減速機100を精度よく動作させることができる。
【0046】
また、
図1に示すように、溝部710(720)の径方向内方側の端部から軸受61(62)の径方向内方側の端部までの径方向の距離L1は、インタナルリング31(32)の径方向内方側の端部から軸受61(62)の径方向外方側の端部までの径方向の距離L2よりも大きい(L1>L2)。これにより、摩擦伝動式減速機100の各部の組付け時に、先端部に軸受61,62を取り付けた状態の遊星ローラ20を、太陽ローラ10を未だ取り付けていない状態のキャリア70に対し、当該キャリア70の径方向外方側から組み付けることができる。この際、軸受61,62を溝部710,720の径方向内方側の端部にまで押し込むことで、軸方向から遊星ローラ20の肩部223,224にインタナルリング31,32を嵌め込むことが可能となる。
【0047】
<2.変形例>
上記の実施形態では、遊星ローラ20をキャリア70に対して回転可能に支持する軸受61,62は、転がり玉軸受であるとしたが、これに限定されない。上記に代えて、軸受を例えばすべり軸受としてもよい。
【0048】
上記の実施形態では、規制部材は、キャリア70の端面に取り付けられているとしたが、これに限定されない。上記に代えて、規制部材とキャリア70とが単一の部材であってもよい。
【0049】
第1軸受61と第1先端部221とを合わせたものが、アッセンブリとして、第1肩部223に対して着脱可能であってもよい。同様に、第2軸受62と第2先端部222とを合わせたものが、アッセンブリとして、第2肩部224に対して着脱可能であってもよい。
【0050】
また、摩擦伝動式減速機100の細部の形状については、本願の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。