【解決手段】波動歯車装置1は、入力部20と、波動発生器30と、可撓性外歯歯車40と、剛性内歯歯車50とを有する。入力部および波動発生器は、減速前の第1回転数で回転する。可撓性外歯歯車は、可撓性の筒状部41を有する。筒状部の外周面には、複数の外歯が設けられている。剛性内歯歯車は、筒状部の径方向外側に位置する。剛性内歯歯車の内周面には、複数の内歯51が設けられている。複数の外歯のうちの一部の外歯は、波動発生器に押されることによって、内歯と噛み合う。そして、波動発生器の回転に伴い、内歯と外歯との噛み合い位置が、第1回転数で周方向に変化する。その結果、内歯と外歯との歯数の差によって、剛性内歯歯車に対して可撓性外歯歯車が、減速後の第2回転数で相対回転する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。
【0011】
<1.第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置1の縦断面図である。
図2は、
図1のII−II位置から見た波動歯車装置1の横断面図である。この波動歯車装置1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に変速(減速)させつつ、後段へ伝達する装置である。波動歯車装置1は、例えば、小型ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、本発明の波動歯車装置は、アシストスーツ、ターンテーブル、工作機械の割出盤、車椅子、無人搬送車などの他の機器に用いられるものであってもよい。
【0012】
図1および
図2に示すように、本実施形態の波動歯車装置1は、フレーム10、入力部20、波動発生器30、可撓性外歯歯車40、剛性内歯歯車50、および弾性リング60を備えている。
【0013】
フレーム10は、波動歯車装置1の後述する各部を直接または間接的に支持する部材である。フレーム10は、波動歯車装置1が搭載される装置の枠体に固定される。本実施形態のフレーム10は、第1フレーム11と、第2フレーム12とを有する。第1フレーム11は、中心軸9を中心とする略円筒状の部材である。第2フレーム12は、第1フレーム11の軸方向一方側の端部の内側に位置する円環状の部材である。第1フレーム11と第2フレーム12とは、ボルト71により互いに固定されている。ただし、フレーム10は、単一の部材で形成されていてもよい。
【0014】
入力部20は、減速前の第1回転数で回転する部位である。本実施形態の入力部20は、中心軸9に沿って延びる円柱状の入力シャフト21を有する。入力シャフト21の軸方向一方側の端部(基端部)は、第2フレーム12よりも軸方向一方側へ突出する。入力シャフト21の軸方向他方側の端部(先端部)は、第1フレーム11の径方向内側に位置する。第2フレーム12と入力シャフト21との間には、第1軸受13が設けられている。入力シャフト21は、この第1軸受13によって、中心軸9を中心として回転可能に支持される。入力シャフト21の基端部は、図外のモータと、直接またはギア等の動力伝達機構を介して接続される。モータを駆動させると、入力シャフト21が、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。
【0015】
波動発生器30は、後述する可撓性外歯歯車40の筒状部41に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。上述したモータを駆動させると、入力部20とともに波動発生器30も、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。本実施形態の波動発生器30は、円環状のローラ支持部材31と、2本の支持ピン32と、2つのローラ33とを有する。ローラ支持部材31は、第1フレーム11の径方向内側において、入力シャフト21に固定されている。2本の支持ピン32は、中心軸9に対して互いに反対側に位置する。各支持ピン32は、中心軸9に対して平行な姿勢で、その軸方向一方側の端部が、ローラ支持部材31に固定される。
【0016】
2つのローラ33は、それぞれ、支持ピン32の軸方向他方側の端部に、第2軸受34を介して取り付けられる。したがって、各ローラ33は、支持ピン32を中心として回転(自転)することが可能である。すなわち、本実施形態のローラ33は、中心軸9と平行な回転軸91を中心として回転する。
図1に示すように、本実施形態のローラ33は、回転軸91を中心とする円錐台状である。各ローラ33の外周面は、軸方向一方側へ向かうにつれて、漸次に拡径する。
【0017】
可撓性外歯歯車40は、撓み変形可能な薄型の歯車である。本実施形態の可撓性外歯歯車40は、筒状部41と平板部42とを有する。筒状部41は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。筒状部41の軸方向一方側の端部は、波動発生器30の径方向外側、かつ、後述する剛性内歯歯車50の径方向内側に位置する。平板部42は、筒状部41の軸方向他方側の端部から、径方向内側へ向けて広がる円板状の部分である。平板部42の中央には、図示を省略した出力シャフトが固定される。可撓性外歯歯車40および出力シャフトは、中心軸9を中心として回転可能に支持される。
【0018】
筒状部41および平板部42のうち、少なくとも筒状部41は、可撓性を有する。ただし、筒状部41の軸方向一方側の端部は、自由端であるため、特に径方向に変位しやすい。筒状部41の軸方向他方側の端部は、平板部42に繋がる固定端であるため、軸方向一方側の端部に比べて径方向に変位しにくい。
【0019】
図2に示すように、可撓性外歯歯車40は、複数の外歯43を有する。複数の外歯43は、筒状部41の上述した軸方向一方側の端部付近の外周面から、径方向外側へ向けて突出する。また、複数の外歯43は、周方向に一定のピッチで配列されている。筒状部41は、周方向の2箇所において、波動発生器30のローラ33により、径方向外側に押圧される。これにより、周方向の2箇所において、筒状部41の外歯43が、後述する剛性内歯歯車50の内歯51と噛み合う。以下では、この外歯43と内歯51とが噛み合う周方向の位置を、「噛み合い位置」と称する。
【0020】
図1に示すように、可撓性外歯歯車40の筒状部41は、少なくとも噛み合い位置において、中心軸9に対して傾斜する。具体的には、筒状部41が、噛み合い位置において、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径する。筒状部41のうち、噛み合い位置以外の部分は、軸方向一方側へ向かうにつれて噛み合い位置よりも緩やかに拡径していてもよく、中心軸9に対して平行であってもよく、あるいは、軸方向一方側へ向かうにつれて僅かに縮径していてもよい。すなわち、外力が作用していない単体の部品の状態では、筒状部41は、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径するコーン状であってもよいし、あるいは、中心軸9に対して平行な円筒状であってもよい。
【0021】
剛性内歯歯車50は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の径方向外側に位置する円環状の歯車である。剛性内歯歯車50は、中心軸9と同軸に配置される。剛性内歯歯車50は、第1フレーム11の軸方向他方側の端部に、例えばねじ止めで固定される。剛性内歯歯車50の剛性は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の剛性よりも、はるかに高い。このため、剛性内歯歯車50は、実質的に剛体とみなすことができる。
【0022】
剛性内歯歯車50は、中心軸9を中心とする円環状であり、かつ、中心軸9に対して傾斜する、コーン状の内周面を有する。具体的には、
図1に示すように、剛性内歯歯車50の内周面は、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径する。また、
図2に示すように、剛性内歯歯車50は、複数の内歯51を有する。複数の内歯51は、剛性内歯歯車50の上述した内周面から、径方向内側へ向けて突出する。また、複数の内歯51は、周方向に一定のピッチで配列されている。上述した可撓性外歯歯車40が有する外歯43の数と、剛性内歯歯車50が有する内歯51の数とは、僅かに相違する。
【0023】
弾性リング60は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の不要な変形を抑制するための、環状の部材である。「不要な変形」とは、筒状部41が、噛み合い位置以外の周方向位置において、非楕円形状に変形し、うねりや凹みが生じる状態を指す。このような不要な変形が生じると、ローラ33の滑らかな周方向移動が阻害され、内歯51と外歯43の噛み合いが不安定となる。弾性リング60は、筒状部41と、波動発生器30の2つのローラ33との間に位置する。弾性リング60の外周面は、筒状部41の内周面に接触する。弾性リング60の内周面は、周方向の2箇所において、ローラ33に接触する。したがって、ローラ33は、弾性リング60を介して、筒状部41を径方向外側へ押圧する。なお、
図1に示すように、本実施形態の弾性リング60の断面形状は、軸方向に長い扁平の平行四辺形である。
【0024】
このような波動歯車装置1において、モータの駆動力により入力部20が第1回転数で回転すると、入力部20とともに波動発生器30も、第1回転数で回転する。そうすると、ローラ33による筒状部41の押圧位置、すなわち、外歯43と内歯51との噛み合い位置も、第1回転数で周方向に変化する。また、上述の通り、可撓性外歯歯車40の外歯43の数と、剛性内歯歯車50の内歯51の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、波動発生器30の1回転ごとに、外歯43と内歯51との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、剛性内歯歯車50に対して可撓性外歯歯車40が、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、可撓性外歯歯車40に固定された出力シャフトから、減速された第2回転数の回転運動を、取り出すことができる。
【0025】
特に、この波動歯車装置1では、剛性内歯歯車50の内歯51が、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径している。また、少なくとも噛み合い位置において、可撓性外歯歯車40の外歯43が、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径している。したがって、可撓性外歯歯車40の外歯43と、剛性内歯歯車50の内歯51とが、少なくとも噛み合い位置において、中心軸9に対して傾斜している。このようにすれば、内歯51と、波動発生器30により変形された外歯43とを、互いに平行に近い状態で接触させることができる。より厳密には、内歯51の歯筋の延長線と、噛み合い位置における外歯43の歯筋の延長線とが、中心軸9上の一点で交差することが好ましい。これにより、外歯43および内歯51の応力集中を抑制し、両者の噛み合いを安定させることができる。その結果、波動歯車装置1を、高効率化および長寿命化しやすくなる。また、剛性内歯歯車50の軸方向の位置を調整することで、外歯43と内歯51との噛み合いの深さを調節できる。これにより、バックラッシの少ない波動歯車装置1を実現できる。
【0026】
また、本実施形態の波動歯車装置1は、複数のシム70を有する。複数のシム70は、ボルト71による固定箇所において、第1フレーム11の軸方向他方側の面と、第2フレーム12の軸方向一方側の面との間に、介在する。シム70は、円環状の薄板である。複数のシム70は、軸方向に重ねて配列される。このシム70の枚数または各シム70の軸方向の厚みを調整し、ボルト71を締め付けることで、第2フレーム12および剛性内歯歯車50に対するローラ33の軸方向の位置を、微調整できる。すなわち、複数のシム70は、剛性内歯歯車50に対するローラ33の軸方向の位置を微調整する調整機構として機能する。その結果、外歯43と内歯51との噛み合いの深さを調節できる。
【0027】
また、可撓性外歯歯車40が樹脂成形品である場合には、
図1において、可撓性外歯歯車40の筒状部41の母線に対して、外歯43の歯底を径方向外側に位置させることが好ましい。これにより、可撓性外歯歯車40を成形加工するときに、成形用の型を、軸方向の一方側および他方側に分割させることができる。したがって、成形加工が容易になる。
【0028】
また、この波動歯車装置1では、波動発生器30の2つのローラ33と、可撓性外歯歯車40の筒状部41との間に、弾性リング60が設けられている。これにより、筒状部41の不要な変形を抑制できる。その結果、外歯43と内歯51との噛み合いをより安定させることができる。また、弾性リング60は、ローラ33のコーン状の外周面と、少なくとも噛み合い位置において傾斜した筒状部41との間に挟まれて保持される。これにより、弾性リング60の軸方向の位置ずれが抑制される。
【0029】
波動発生器30の2つのローラ33は、なるべく大きい外径を有することが好ましい。例えば、波動発生器30の2つのローラ33は、弾性リング60の内周面の半径と略同一の外径を有することが好ましい。これにより、外歯43と内歯51の噛み合いの歯数を増加させることができる。したがって、回転運動の伝達能力を向上させることができるとともに、外歯43と内歯51の噛み合い状態を安定させることができる。
【0030】
可撓性外歯歯車40の材料は、金属であってもよいし、樹脂であってもよい。樹脂を用いれば、金属の場合よりも、可撓性外歯歯車40を軽量化できる。ただし、樹脂製の可撓性外歯歯車40の筒状部41には、不要な変形が生じやすい。このような場合に、弾性リング60は特に有用である。筒状部41の内周面を弾性リング60で支持することで、筒状部41の不要な変形を抑制できる。筒状部41の不要な変形をより抑制するために、弾性リング60の材料には、可撓性外歯歯車40よりもヤング率の高い(硬い)材料を用いることが好ましい。例えば、可撓性外歯歯車40の材料が樹脂である場合、弾性リング60の材料には、当該樹脂よりもヤング率の高い樹脂または金属を用いることが好ましい。これにより、可撓性外歯歯車40を軽量化しつつ、筒状部41の不要な変形を抑制できる。
【0031】
また、
図1に示すように、本実施形態では、弾性リング60の軸方向一方側の端部60aが、筒状部41の軸方向一方側の端部41aよりも、軸方向他方側に位置する。すなわち、筒状部41の軸方向一方側の端部41aは、弾性リング60と接触しない。このようにすれば、筒状部41の軸方向一方側の端部41aが、径方向に撓みやすくなる。したがって、筒状部41の軸方向一方側の端部41aにおいて、外歯43を、内歯51に沿う角度に変形させやすくなる。その結果、外歯43および内歯51の応力集中をより抑制して、両者の噛み合いをより安定させることができる。
【0032】
<2.第2実施形態>
図3は、第2実施形態に係る波動歯車装置1Aの縦断面図である。
図3の波動歯車装置1Aは、主として波動発生器30Aの構造が、上記の第1実施形態と異なる。
【0033】
この波動歯車装置1Aの波動発生器30Aは、円環状のローラ支持部材31Aと、2本の支持ピン32Aと、2つのローラ33Aとを有する。ローラ支持部材31Aは、可撓性外歯歯車40Aの筒状部41Aの径方向内側において、入力シャフト21Aに固定されている。2本の支持ピン32Aは、中心軸9Aに対して互いに反対側に位置する。各支持ピン32Aは、中心軸9Aに対して傾斜した姿勢で、ローラ支持部材31Aに固定される。具体的には、支持ピン32Aの軸方向一方側の端部は、支持ピン32Aの軸方向他方側の端部よりも、中心軸9Aから離れている。そして、支持ピン32Aの軸方向他方側の端部が、ローラ支持部材31Aに固定されている。
【0034】
2つのローラ33Aは、それぞれ、支持ピン32Aの軸方向一方側の端部に取り付けられた第2軸受34Aの外輪である。したがって、各ローラ33Aは、支持ピン32Aを中心として回転(自転)することが可能である。すなわち、本実施形態のローラ33Aは、軸方向一方側へ向かうにつれて中心軸9Aからの距離が広がるように、中心軸9Aに対して傾斜した回転軸92Aを中心として回転する。
図3に示すように、本実施形態のローラ33Aは、回転軸92Aを中心とする円筒状である。各ローラ33Aの外周面の径は、軸方向の位置によらず一定である。
【0035】
このような構造でも、ローラ33Aによって、可撓性外歯歯車40Aの筒状部41Aを、径方向に対して斜めに押圧することができる。したがって、剛性内歯歯車50Aの内歯51Aに対して、可撓性外歯歯車40Aの外歯43Aを、軸方向に対して傾斜した姿勢で噛み合わせることができる。したがって、第1実施形態と同様に、外歯43Aと内歯51Aとの噛み合いを安定させることができる。
【0036】
また、本実施形態の波動歯車装置1Aは、第1軸受13Aの軸方向一方側の端部と、フレーム10Aとの間に、複数のシム70Aを有する。シム70Aは、円環状の薄板である。複数のシム70Aは、軸方向に重ねて配列される。このシム70Aの枚数または各シム70Aの軸方向の厚みを変更することで、フレーム10Aおよび剛性内歯歯車50Aに対するローラ33Aの軸方向の位置を微調整できる。すなわち、複数のシム70Aは、剛性内歯歯車50Aに対するローラ33Aの軸方向の位置を微調整する調整機構として機能する。その結果、外歯43Aと内歯51Aとの噛み合いの深さを調節できる。
【0037】
また、本実施形態の波動歯車装置1Aも、可撓性外歯歯車40Aの筒状部41Aと波動発生器30Aのローラ33Aとの間に、環状の弾性リング60Aを有する。これにより、筒状部41Aの不要な変形を抑制できる。また、弾性リング60Aは、中心軸9Aに対して傾斜したローラ33Aと、中心軸9Aに対して傾斜した筒状部41Aとの間に挟まれて保持される。これにより、弾性リング60Aの軸方向の位置ずれが抑制される。
【0038】
<3.第3実施形態>
図4は、第3実施形態に係る波動歯車装置1Bの縦断面図である。
図4の波動歯車装置1Bは、円環状の出力部80Bを有する点と、可撓性外歯歯車40Bの構造とが、上記の第1実施形態および第2実施形態と異なる。
【0039】
図4に示すように、出力部80Bは、第1出力部材81B、第2出力部材82B、および第3出力部材83Bを有する。第1出力部材81Bは、剛性内歯歯車50Bよりも径方向外側において、軸方向に延びる円筒状の部材である。第1出力部材81Bは、剛性内歯歯車50Bに固定されたフレーム10Bの外周面に、第3軸受84Bを介して、回転可能に支持されている。第2出力部材82Bは、可撓性外歯歯車40Bの軸方向一方側に位置する円板状の部材である。第2出力部材82Bの外周部は、第1出力部材81Bに対して、例えばねじ止めで固定される。第3出力部材83Bは、第2出力部材82Bの内周部に固定された円環状の部材である。第3出力部材83Bと入力シャフト21Bとの間には、第4軸受85Bが介在する。したがって、出力部80Bは、入力シャフト21Bとは異なる回転数で、回転することが可能である。
【0040】
可撓性外歯歯車40Bは、筒状部41Bと平板部42Bとを有する。筒状部41Bは、中心軸9Bの周囲において、軸方向に筒状に延びる。平板部42Bは、筒状部41Bの軸方向一方側の端部から、径方向外側へ向けて広がる円板状の部分である。平板部42Bの外周部は、第1出力部材81Bと第2出力部材82Bとの間に挟まれるとともに、例えばねじ止めで、第1出力部材81Bおよび第2出力部材82Bに固定されている。筒状部41Bの軸方向他方側の端部は、波動発生器30Bの径方向外側、かつ、剛性内歯歯車50Bの径方向内側に位置する。
【0041】
筒状部41Bおよび平板部42Bのうち、少なくとも筒状部41Bは、可撓性を有する。ただし、筒状部41Bの軸方向他方側の端部は、自由端であるため、特に径方向に変位しやすい。筒状部41Bの軸方向一方側の端部は、平板部42Bに繋がる固定端であるため、軸方向他方側の端部に比べて変位しにくい。
【0042】
可撓性外歯歯車40Bは、複数の外歯43Bを有する。複数の外歯43Bは、筒状部41Bの上述した軸方向他方側の端部付近の外周面から、径方向外側へ向けて突出する。また、複数の外歯43Bは、周方向に一定のピッチで配列されている。筒状部41Bは、周方向の2箇所において、波動発生器30Bのローラ33Bにより、径方向外側に押圧される。これにより、周方向の2箇所において、筒状部41Bの外歯43Bが、剛性内歯歯車50Bの内歯51Bと噛み合う。
【0043】
本実施形態の波動歯車装置1Bにおいても、入力部20Bとともに波動発生器30Bが第1回転数で回転すると、外歯43Bと内歯51Bとの噛み合い位置が変化することにより、剛性内歯歯車50Bに対して可撓性外歯歯車40Bが、減速後の第2回転数で回転する。ただし、本実施形態では、可撓性外歯歯車40Bとともに、円環状の出力部80Bが、第2回転数で回転する。そして、この出力部80Bから、減速後の第2回転数の回転運動が取り出される。
【0044】
本実施形態においても、可撓性外歯歯車40Bの筒状部41Bは、少なくとも周方向の噛み合い位置において、中心軸9Bに対して傾斜する。具体的には、筒状部41Bが、噛み合い位置において、軸方向一方側へ向かうにつれて漸次に拡径する。剛性内歯歯車50Bの内歯51Bも、中心軸9Bに対して傾斜している。したがって、剛性内歯歯車50Bの内歯51Bに対して、可撓性外歯歯車40Bの外歯43Bを、軸方向に対して傾斜した姿勢で噛み合わせることができる。したがって、第1実施形態と同様に、外歯43Bと内歯51Bとの噛み合いを安定させることができる。
【0045】
また、本実施形態の波動歯車装置1Bでは、第2出力部材82Bの内周面と、第3出力部材83Bの外周面とに、それぞれ螺旋状のねじ溝が設けられている。そして、第2出力部材82Bと第3出力部材83Bとが、これらのねじ溝の螺合によって、固定されている。このような構造を採れば、第2出力部材82Bの内側で、第3出力部材83Bを回転させることにより、第2出力部材82Bと第3出力部材83Bとの軸方向の相対位置を微調整することができる。したがって、剛性内歯歯車50Bに対するローラ33Bの軸方向の位置を微調整できる。すなわち、第2出力部材82Bおよび第3出力部材83Bのねじ溝は、剛性内歯歯車50に対するローラ33の軸方向の位置を微調整する調整機構として機能する。その結果、外歯43Bと内歯51Bとの噛み合いの深さを調節できる。また、調整後には、第2出力部材82Bの軸方向の一方側に、ナット86Bを締結することで、第2出力部材82Bと第3出力部材83Bとの位置関係を一定に維持することができる。
【0046】
また、本実施形態の波動歯車装置1Bも、可撓性外歯歯車40Bの筒状部41Bと波動発生器30Bのローラ33Bとの間に、環状の弾性リング60Bを有する。これにより、筒状部41Bの不要な変形を抑制できる。また、弾性リング60Bは、中心軸9Bに対して傾斜したローラ33Bと、中心軸9Bに対して傾斜した筒状部41Bとの間に挟まれて保持される。これにより、弾性リング60Bの軸方向の位置ずれが抑制される。
【0047】
また、可撓性外歯歯車40Bが樹脂成形品である場合には、
図4において、可撓性外歯歯車40Bの筒状部41Bの母線に対して、外歯43Bの歯先を径方向内側に位置させることが好ましい。これにより、可撓性外歯歯車40Bを成形加工するときに、成形用の型を、軸方向の一方側および他方側に分割させることができる。したがって、成形加工が容易になる。
【0048】
<4.第4実施形態>
図5は、第4実施形態に係る波動歯車装置1Cの縦断面図である。
図5の波動歯車装置1Cは、入力シャフト21Cがカップリングの機能を有する点が、上記の第1実施形態〜第3実施形態と異なる。
【0049】
図5に示すように、波動歯車装置1Cの入力シャフト21Cは、その軸方向一方側の端部に、カップリング部22Cを有する。カップリング部22Cは、軸方向一方側の端面から、軸方向他方側へ向けて凹む締結穴220Cを有する。モータ100Cの回転シャフト110Cは、この締結穴220Cに挿入される。また、カップリング部22Cの周方向の一部分には、スリット221Cが設けられている。このスリット221Cを、例えばねじによって周方向に締め付けることで、モータ100Cの回転シャフト110Cとカップリング部22Cとが締結される。さらに、波動歯車装置1Cのフレーム10Cと、モータ100Cのフレーム120Cとを、円筒状の筒状フレーム14Cを介して、ボルトで締結する。これにより、モータ100Cと波動歯車装置1Cとを、容易に連結できる。
【0050】
<5.第5実施形態>
図6は、第5実施形態に係る波動歯車装置1Dの部分縦断面図である。
図6の波動歯車装置1Dの全体の構造は、第1実施形態の波動歯車装置1と同等であるため、重複説明を省略する。
図6の波動歯車装置1Dは、可撓性外歯歯車40Dの筒状部41Dの形状が、第1実施形態の波動歯車装置1と異なる。
【0051】
図6に示すように、この可撓性外歯歯車40Dの筒状部41Dは、接触面44Dと、突出部45Dとを有する。接触面44Dは、筒状部41Dの内周面のうち、弾性リング60Dの外周面と接触する領域である。接触面44Dは、複数の外歯43Dの裏側において、環状に広がる。突出部45Dは、接触面44Dよりも軸方向他方側に位置し、接触面44Dよりも径方向内側へ突出する。
【0052】
突出部45Dの軸方向一方側の端部は、弾性リング60Dの軸方向他方側の端部と接触する。これにより、弾性リング60Dの位置が、軸方向他方側へずれることを、より抑制できる。仮に、弾性リング60Dの位置が、軸方向他方側へ僅かにずれた場合、筒状部41Dは、径方向外側へ開く方向の力を受ける。このため、可撓性外歯歯車40Dの外歯43Dと、剛性内歯歯車の内歯との噛み合いが過剰に深くなってしまう。しかしながら、
図6の構造では、弾性リング60Dの軸方向他方側への位置ずれを抑制できるため、外歯43Dと内歯との噛み合いの深さを、より適正な状態に保つことができる。
【0053】
ただし、接触面44Dに対する突出部45Dの径方向内側への突出量d1が大き過ぎると、筒状部41Dの可撓性が低下する。このため、突出部45Dの突出量d1は、過度に大きくしない方がよい。突出部45Dの突出量d1は、例えば、弾性リング60Dの厚みd2よりも、小さいことが好ましい。
【0054】
図6の例では、突出部45Dの軸方向一方側の端面と、弾性リング60Dの軸方向他方側の端面とが、面接触している。ただし、突出部45Dと弾性リング60Dとは、必ずしも面接触していなくてもよい。突出部45Dと弾性リング60Dとは、少なくとも一部が接触していればよい。
【0055】
図7は、本実施形態の可撓性外歯歯車40Dを、軸方向一方側から視た図である。
図7に示すように、本実施形態の突出部45Dは、円環状である。すなわち、突出部45Dは、筒状部41Dの内周面の全周にわたって設けられている。このため、突出部45Dが周方向の一部分のみに設けられている場合と比べて、筒状部41Dの可撓性を、全周にわたって均一に保つことができる。
【0056】
ただし、
図8に示すように、突出部45Dは、筒状部41Dの内周面の全周のうちの一部分に、局所的に複数設けられていてもよい。
図8の例では、筒状部41Dの内周面の3箇所に、突出部45Dが設けられている。このような形態であっても、3つの突出部45Dにより、弾性リング60Dの軸方向他方側への位置ずれを抑制できる。また、突出部45Dを局所的に設けることにより、円環状の突出部45Dを設ける場合よりも、筒状部41Dの可撓性が低下することを抑制できる。したがって、弾性リング60Dの位置ずれの防止と、筒状部41Dの可撓性の確保とを、両立させることができる。
【0057】
なお、
図8のように、複数の突出部45Dは、周方向に略等間隔に設けられることが好ましい。ただし、各突出部45Dは、筒状部41Dの全周のうち、外歯43Dが位置する周方向位置に設けられることが好ましい。すなわち、各突出部45Dは、外歯43Dの径方向内側に設けられることが好ましい。このようにすれば、筒状部41Dの隣り合う外歯43Dの間の薄肉部における可撓性が低下しにくい。したがって、筒状部41Dの可撓性が低下することを、より抑制できる。
【0058】
また、
図6の例では、突出部45Dが段差状であった。すなわち、突出部45Dが、接触面44Dに対しては径方向内側へ突出しているものの、突出部45Dよりも軸方向他方側の部分は、筒状部41Dに対して径方向内側への突出が認められない。しかしながら、
図9のように、突出部45Dは、軸方向の両側の領域に対して径方向内側へ突出する突起であってもよい。
【0059】
<6.第6実施形態>
図10は、第6実施形態に係る波動歯車装置1Eの部分縦断面図である。
図10の波動歯車装置1Eの全体の構造は、第1実施形態の波動歯車装置1と同等であるため、重複説明を省略する。
図10の波動歯車装置1Eは、弾性リング60Eの形状が、第1実施形態の波動歯車装置1と異なる。
【0060】
図10に示すように、この弾性リング60Eは、突起部61Eを有する。突起部61Eは、弾性リング60Eの軸方向一方側の端部の外周部から、径方向外側へ突出する。突起部61Eの先端は、筒状部41Eの内周面よりも、径方向外側に位置する。突起部61Eの軸方向他方側の端部は、筒状部41Eの軸方向一方側の端部と接触する。これにより、弾性リング60Eの位置が、軸方向他方側へずれることを、抑制できる。したがって、第5実施形態と同様に、外歯43Eと内歯との噛み合いの深さを、適正な状態に保つことができる。
【0061】
図10の例では、突起部61Eの軸方向他方側の端面と、筒状部41Eの軸方向一方側の端面とが、面接触している。ただし、突起部61Eと筒状部41Eとは、必ずしも面接触していなくてもよい。突起部61Eと筒状部41Eとは、少なくとも一部が接触していればよい。また、突起部61Eは、弾性リング60Eの軸方向一方側の端部の全周にわたって、環状に設けられていてもよく、あるいは、周方向の一部分のみに設けられていてもよい。
【0062】
<7.変形例>
以上、本発明の第1実施形態〜第5実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0063】
上記の各実施形態では、波動発生器が、2つのローラを有していた。しかしながら、波動発生器は、3つ以上のローラを有していてもよい。また、本願の各図では、ローラが、転がり軸受により回転可能に支持されているか、または、転がり軸受自体の外輪であった。しかしながら、ローラは、滑り軸受などの転がり軸受以外の手段により、回転可能に支持されていてもよい。また、波動発生器は、軸方向視において楕円等の非真円形状を有するカムの回転により、可撓性外歯歯車の筒状部を撓ませるものであってもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、剛性内歯歯車を非回転に固定し、可撓性外歯歯車を、減速後の第2回転数で回転させていた。しかしながら、可撓性外歯歯車を非回転に固定し、剛性内歯歯車を、減速後の第2回転数で回転させてもよい。すなわち、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とは、いずれか一方が、他方に対して、第2回転数で相対回転すればよい。
【0065】
また、上記の第1実施形態、第2実施形態、および第4実施形態では、可撓性外歯歯車の平板部が、筒状部の軸方向他方側の端部から、径方向内側へ向けて広がっていた。しかしながら、可撓性外歯歯車の平板部は、筒状部の軸方向一方側の端部から、径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0066】
また、上記の第3実施形態では、可撓性外歯歯車の平板部が、筒状部の軸方向一方側の端部から、径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、可撓性外歯歯車の平板部は、筒状部の軸方向他方側の端部から、径方向外側へ向けて広がるものであってもよい。
【0067】
また、波動歯車装置の細部の形状については、上述の実施形態の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の各実施形態および各変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態〜第4実施形態の波動歯車装置の可撓性外歯歯車に、第5実施形態の突出部または第6実施形態の突起部を組み合わせてもよい。