【解決手段】試験路面にゴム試験片を押し当てて滑らせて摩擦係数を求める工程を含む摩擦評価方法において、実路面の凹凸を再現した模擬路面を作成する工程と、前記模擬路面からミクロな凹凸を除去して前記試験路面を作成する工程と、濡らした前記試験路面に前記ゴム試験片を押し当てて滑らせて摩擦係数を求める工程とを含む。
路面形状データに含まれる波長成分のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長に対応する周波数をカットオフ周波数としてローパスフィルタ及びハイパスフィルタを設定し、
測定で得られた前記模擬路面の路面形状データに対してローパスフィルタをかけて得られた波形の表面粗さと、測定で得られた前記試験路面の路面形状データに対してローパスフィルタをかけて得られた波形の表面粗さとの差が5%以下であり、かつ、測定で得られた前記試験路面の路面形状データに対してハイパスフィルタをかけて得られた波形の表面粗さが10μm以下となるように、
前記模擬路面からミクロな凹凸を除去して前記試験路面を作成する、請求項1又は2に記載の摩擦評価方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、実路面を模擬した試験路面にタイヤのトレッド部を模擬したゴム試験片を押し当てて滑らせることにより、試験路面とゴム試験片との間の摩擦力や摩擦係数を測定することが行われている。このような試験において測定される摩擦力は、主に、試験路面とゴムとの間の凝着の項と、試験路面とゴム試験片との間のヒステリシスの項とからなる。
【0003】
実路面やそれを模擬した試験路面には、実路面を構成する骨材の形状等に基づくマクロな凹凸と、実路面を構成するアスファルトの表面の凹凸や骨材の表面の微小な凹凸等に基づくミクロな凹凸が存在する。上記のヒステリシスの項は、主にミクロな凹凸とゴム試験片との相互作用により生じる。また、トレッド部に形成されたサイプは、マクロな凹凸との相互作用により摩擦力を生じさせる。
【0004】
ところで、ゴム試験片とマクロな凹凸との相互作用の摩擦への寄与、具体例としてはサイプとマクロな凹凸との相互作用の摩擦への寄与を明らかにしたいという要求が従来からあった。ところが、従来の方法で試験を行うと、測定される摩擦力において凝着の項及びヒステリシスの項が大き過ぎるため、ゴム試験片とマクロな凹凸との相互作用の摩擦への寄与が見えにくいという問題があった。
【0005】
これに対して、特許文献2に記載されているように、界面活性剤を含む水を試験路面に散水して粘着摩擦の発生を抑えることが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
1.摩擦評価試験機
図1に、本実施形態の摩擦評価において使用される摩擦評価試験機の一例を示す。摩擦評価試験機10は、ゴム試験片12を保持具14で保持して試験路面16に押し付けて一定の速度で滑らせ、そのときゴム試験片12に作用する荷重を荷重測定器18で測定し、制御装置20で摩擦係数を求める装置である。
【0013】
ゴム試験片12の形状は、限定されず、例えば直方体形状、円筒体形状、又はタイヤのトレッド部のブロック形状である。また、ゴム試験片12として、サイプのあるものと無いもの、サイプの形状の異なるもの、ゴムの種類が異なるもの、等の複数種類が準備される。
【0014】
ゴム試験片12を保持する保持具14は第1駆動装置22に保持されている。第1駆動装置22が駆動することにより保持具14が試験路面16に垂直な方向(
図1の上下方向)に上下動する。保持具14が下降するとゴム試験片12が試験路面16に押し付けられる。
【0015】
第1駆動装置22は第2駆動装置24に保持されている。第2駆動装置24が駆動することにより、第1駆動装置22が試験路面16に水平な方向(
図1の左右方向)に移動する。第1駆動装置22が移動すると、それに保持されている保持具14及びゴム試験片12も試験路面16に水平な方向に移動する。ゴム試験片12が試験路面16に押し付けられた状態で第2駆動装置24が駆動すると、ゴム試験片12が試験路面16に押し付けられたまま滑り、ゴム試験片12と試験路面16との間で摩擦力が生じる。
【0016】
保持具14には荷重測定器18が取り付けられている。荷重測定器18は、ゴム試験片12に作用する上下方向の荷重と、ゴム試験片12の移動方向の荷重とを測定する。ゴム試験片12の移動方向の荷重が摩擦力で、それをゴム試験片12に作用する上下方向の荷重で割った値が摩擦係数である。
【0017】
制御装置20は、制御部26、演算部28、入力部30、表示部32等を備えている。第1駆動装置22、第2駆動装置24及び荷重測定器18は制御装置20に接続されている。制御部26が第1駆動装置22及び第2駆動装置24を駆動させる。また、荷重測定器18の測定値が演算部28に取り込まれ、演算部28がゴム試験片12と試験路面16との間の摩擦係数を計算する。摩擦係数として静止摩擦係数や動摩擦係数が計算される。入力部30は試験者が試験条件等を入力する部分で、表示部32は摩擦力や摩擦係数が表示される部分である。
【0018】
2.摩擦評価の流れ
本実施形態の摩擦評価方法は、
図2に示すように、実路面の凹凸を再現した模擬路面を作成する模擬路面作成工程(S1)と、模擬路面からミクロな凹凸を除去して試験路面を作成する試験路面作成工程(S2)と、摩擦評価試験機において濡らした試験路面にゴム試験片を押し当てて摩擦係数を求める摩擦係数計算工程(S3)と、種類の異なる複数のゴム試験片についてのそれぞれの摩擦係数の差分を求め評価を行う評価工程(S4)とを含む。
【0019】
3.模擬路面作成工程
模擬路面作成工程で作成される模擬路面は例えば金属製である。金属として例えばアルミニウムが選択される。実路面の凹凸がシリコンに転写され、そのシリコンに基づき石膏の型が作製され、その石膏の型に金属が流し込まれて模擬路面が出来る。なお模擬路面は樹脂製であっても良い。
【0020】
このようにして出来た模擬路面では、実路面の凹凸が数μmオーダーで再現されている。
【0021】
実路面及び模擬路面にはマクロな凹凸とミクロな凹凸とが存在する。マクロな凹凸は、実路面を構成する骨材の形状等に基づく凹凸である。マクロな凹凸による表面粗さは、骨材よりも相当長い距離の表面粗さを測定することにより求めることができ、その値は算術平均粗さ(JIS B 0601)で例えばR
a=1〜4mm程度である。また、ミクロな凹凸は、実路面を構成するアスファルトの表面の凹凸や骨材の表面の微小な凹凸等に基づく凹凸である。ミクロな凹凸による表面粗さは、例えば骨材の表面の表面粗さを測定することにより求めることができ、その値は算術平均粗さで例えばR
a=10〜50μm程度である。
【0022】
4.試験路面作成工程
試験路面作成工程では、模擬路面が研磨されることにより、マクロな凹凸及びミクロな凹凸を有していた模擬路面からミクロな凹凸が除去されて試験路面となる。研磨には目の細かい(例えば3000番手又はそれより細かい)研磨布が使用される。一例としては、試験路面では、ミクロな凹凸の最大高さが1μm以下になるまで研磨されている。このようにして出来た試験路面が、摩擦評価試験機の試験路面として使用される。
【0023】
摩擦力は主に凝着の項とヒステリシスの項とからなるが、ヒステリシスの項にはミクロな凹凸が効くことがわかっている。模擬路面からミクロな凹凸が除去されることにより、試験路面ではヒステリシスの項が小さくなる。
【0024】
適正な試験路面が作成されたことは
図3に示す方法で確認される。まず、上記の通り模擬路面からミクロな凹凸が除去されて試験路面が作成される(S2−1)。
【0025】
次に、模擬路面及び試験路面の路面形状(路面波形)がそれぞれ測定される(S2−2)。測定には例えばレーザー式又は接触式の表面粗さ計が使用される。
【0026】
ここで、路面形状データを周波数分析して得られる波長成分のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長が基準波長とされ、基準波長より大きな波長の波がマクロな凹凸によるもので、基準波長より小さな波長の波がミクロな凹凸によるものであると考えることとする。この考えに基づき、路面形状データに含まれる波長成分のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長に対応する周波数が、カットオフ周波数として設定される。カットオフ周波数より低い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より高い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ローパスフィルタとして設定される(S2−3)。また、カットオフ周波数より高い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より低い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ハイパスフィルタとして設定される(S2−3)。
【0027】
次に、模擬路面の路面形状データに対してローパスフィルタがかけられ、波長の大きな波が取得される。そして前記のローパスフィルタ後の波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−4)。その計算結果は模擬路面のマクロな凹凸に基づく表面粗さ(マクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。同様に、試験路面の路面形状データに対してローパスフィルタをかけて得られた波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−4)。
【0028】
次に、模擬路面の路面形状データに対してローパスフィルタをかけて得られた波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)と、試験路面の路面形状データに対してローパスフィルタをかけて得られた波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)とが比較される。そして、両者の差が5%以下の場合、すなわち両者の差がいずれか一方の値の5%以下の場合(S2−5のYES)、模擬路面と試験路面とでマクロな凹凸がほとんど変化していないと判断され、試験路面のマクロな凹凸が適正であると判断される。
【0029】
次に、試験路面の路面形状データに対してハイパスフィルタがかけられ、波長の小さな波が取得される。そして前記のハイパスフィルタ後の波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2−6)。その計算結果は試験路面のミクロな凹凸に基づく表面粗さ(ミクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。この表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が10μm以下の場合(S2−7のYES)、試験路面がミクロな凹凸が除去されたものであると判断され、試験路面のミクロな凹凸が適正であると判断される。
【0030】
試験路面のマクロな凹凸又はミクロな凹凸が適正でないと判断された場合(S2−5のNO、S2−7のNO)は、各凹凸が適正になるように試験路面が作成し直される(S2−1)。
【0031】
なお、ゴム試験片は、試験路面の凹凸の凸部の所に主に接触し、凹部の底には接触しない。そのため、試験路面の凹凸の凸部の所においてマクロな凹凸とミクロな凹凸が適正になっていれば十分である。そこで、路面形状データから試験路面の凹部(
図4に路面の凹凸の測定結果の例を示すが、この図において斜線でマスキングしてある範囲の部分)のデータが除去されてその後の処理(すなわち、
図3におけるS2−3以降の処理)が行われても良い。除去されるのは、具体例としては、凹凸の平均高さより低い部分のデータである。
【0032】
また、S2−4からS2−5までの工程と、S2−6からS2−7までの工程とは、順序が入れ替わっても良い。
【0033】
S2−3からS2−7までの工程は、周波数分析装置又はそれに接続されたコンピュータにより実行される。
【0034】
5.摩擦係数計算工程
上記のようにして完成した試験路面が摩擦評価試験機に備え付けられる。そして、試験路面が濡らされていわゆるWET条件とされる。具体的には、水道水や純水等の水、又は界面活性剤入りの水が、試験路面に散水される。WET条件となることにより、摩擦力における凝着の項が小さくなる。
【0035】
次に、摩擦評価試験機において、WET条件下の試験路面にゴム試験片が押し付けられて一定の速度で滑らされる。そしてそのときの試験路面とゴム試験片との間の摩擦力が測定され、摩擦係数(例えば動摩擦係数)が計算される。
【0036】
ここで、試験路面がWET条件となっているうえミクロな凹凸が除かれているため、ゴム試験片と試験路面との間の摩擦力において、凝着の項及びヒステリシスの項が小さくなっている。そのため、測定される摩擦力において、ゴム試験片とマクロな凹凸との相互作用(例えば、ゴム試験片にサイプが形成されている場合は、そのサイプとマクロな凹凸との引っ掛かり)による摩擦力の割合が大きくなっている。また、計算される摩擦係数には、ゴム試験片とマクロな凹凸との相互作用が大きく寄与している。
【0037】
このような摩擦係数の計算が、複数のゴム試験片について行われる。例えば、サイプのあるものと無いもの、サイプの形状の異なるもの、ゴムの種類が異なるもの、等の異なるゴム試験片について摩擦係数が計算される。
【0038】
6.評価工程
次に、異なるゴム試験片についての摩擦係数の差分が求められる。すなわち、あるゴム試験片と試験路面との摩擦係数から、別のゴム試験片と試験路面との摩擦係数が減算される。そしてこの差分(すなわち減算結果)に基づき、ゴム試験片の違いによる、マクロな凹凸との相互作用の摩擦力への影響が評価される。
【0039】
例えば、サイプがあるゴム試験片とサイプがないゴム試験片のそれぞれの摩擦係数を求めてその差分を求めることにより、サイプがマクロな凹凸に引っ掛かることによる摩擦力への影響を評価することができる。
【0040】
また、サイプの形状が異なる複数のゴム試験片についてのそれぞれの摩擦係数を求めて差分を求めることにより、サイプの形状の違いが摩擦に及ぼす影響について評価することができる。
【0041】
サイプは主にマクロな凹凸との相互作用により摩擦力を生じさせるため、本実施形態の方法でマクロな凹凸との相互作用による摩擦力を見ることによって、初めて、サイプの有無やサイプの形状の違いが摩擦に及ぼす影響について正しく評価することができる。
【0042】
また、ゴムの種類が異なる複数のゴム試験片についてのそれぞれの摩擦係数を求めて差分を求めることにより、ゴムの種類の違いが摩擦に及ぼす影響について評価することができる。
【0043】
7.効果
本実施形態では、上記のように、実路面の凹凸を再現した模擬路面からミクロな凹凸が除去されて試験路面が作成され、その試験路面が濡らされて摩擦評価試験が行われるため、試験路面とゴム試験片との間の摩擦力においてヒステリシスの項及び凝着の項が小さくなる。そのため、ゴム試験片とマクロな凹凸との相互作用の摩擦への寄与を評価することができる。
【0044】
さらに、本実施形態の方法において、種類の異なる複数のゴム試験片についてのそれぞれの摩擦係数が求められ、それらの摩擦係数の差分が求められることにより、マクロな凹凸により生じる摩擦力(具体例としては、サイプがマクロな凹凸に引っ掛かることによる摩擦力)の変化を評価することができる。
【0045】
8.実施例
実際に行った評価について説明する。
【0046】
R
A、R
Bの2種類のゴムでそれぞれ3つのゴム試験片が作成された。ゴムR
AとゴムR
Bのそれぞれについて、サイプ無しのゴム試験片、サイプS
Aが形成されたゴム試験片及びサイプS
Bが形成されたゴム試験片が作成された。サイプS
AとサイプS
Bとは形状が異なるものであった。それぞれのゴム試験片について、上記実施形態の方法で試験路面との間の摩擦係数が求められた。
【0047】
その結果は
図5の通りであった。
図5において、サイプ無しのゴム試験片の摩擦係数が100となる指数で、それぞれのゴム試験片の摩擦係数が表されている。指数が大きいほど摩擦係数が大きいことを意味している。
【0048】
図5から、ゴムR
Aに関しては、サイプS
A、サイプS
B、サイプ無しの順で摩擦係数が大きいことがわかった。また、ゴムR
Bに関しては、サイプS
B、サイプS
A、サイプ無しの順で摩擦係数が大きいことがわかった。この結果から、タイヤのトレッド部のゴムとしてゴムR
Aが用いられる場合は、トレッド部に形成されるサイプとしてサイプS
Aが適しており、タイヤのトレッド部のゴムとしてゴムR
Bが用いられる場合は、トレッド部に形成されるサイプとしてサイプS
Bが適していると言える。