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特開2020-95320FEMモデルデータの生成方法、システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-95320(P2020-95320A)
(43)【公開日】2020年6月18日
(54)【発明の名称】FEMモデルデータの生成方法、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20200522BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20200522BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20200522BHJP
【FI】
   G06F17/50 612J
   G06F17/50 680Z
   B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-230761(P2018-230761)
(22)【出願日】2018年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大段 冬子
【テーマコード(参考)】
3D131
5B046
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA31
5B046AA04
5B046JA08
(57)【要約】
【課題】計算コストの低減と、精度の維持とを両立可能なFEMモデルデータの生成方法を提供する。
【解決手段】モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータD1を取得するステップ(ST1)と、部材定義モデルデータD1における隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にするステップ(ST2)と、結合後の部材の部材境界線に基づき、構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータD2を生成するステップ(ST3)と、FEMモデルデータD2における各々の面要素の材料物性値を、面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出するステップ(ST4)と、を含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、前記部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータを取得するステップと、
前記部材定義モデルデータにおける隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にするステップと、
結合後の部材の部材境界線に基づき、前記構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータを生成するステップと、
前記FEMモデルデータにおける各々の面要素の材料物性値を、前記面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出するステップと、
を含む、FEMモデルデータの生成方法。
【請求項2】
前記面要素を構成する結合前の部材に、繊維コード及び前記繊維コードを被覆する被覆体を有する繊維部材が含まれる場合には、前記面要素の材料物性を、前記繊維部材の繊維コードの材料物性を用いずに前記被覆体の材料物性値を用いて算出し、
更に、前記繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成し、生成した線要素を前記面要素に重なるように配置し、且つ前記線要素と前記面要素とを関連付けるデータを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線要素を、前記繊維部材の厚み中心に対応する位置に配置する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記FEMモデルデータは、前記面要素に対してグループが設定され、グループに対して材料物性が設定されており、
前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセント以下である面要素同士は、同じグループに設定し、
前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが異なる面要素同士は、別グループに設定し、
前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が前記所定パーセントを超える面要素同士は、別グループに設定する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記構造物は空気入りタイヤである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、前記部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータを取得する部材定義モデルデータ取得部と、
前記部材定義モデルデータにおける隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にする部材結合部と、
結合後の部材の部材境界線に基づき、前記構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータを生成するFEMモデルデータ生成部と、
前記FEMモデルデータにおける各々の面要素の材料物性値を、前記面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出する面要素材料物性値算出部と、
を備える、FEMモデルデータの生成システム。
【請求項7】
前記面要素材料物性値算出部は、前記面要素を構成する結合前の部材に、繊維コード及び前記繊維コードを被覆する被覆体を有する繊維部材が含まれる場合には、前記面要素の材料物性を、前記繊維部材の繊維コードの材料物性を用いずに前記被覆体の材料物性値を用いて算出し、
前記システムは、更に、前記繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成し、生成した線要素を前記面要素に重なるように配置し、且つ前記線要素と前記面要素とを関連付けるデータを生成する線要素生成部を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記線要素を、前記繊維部材の厚み中心に対応する位置に配置する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記FEMモデルデータは、前記面要素に対してグループが設定され、グループに対して材料物性が設定されており、
前記面要素材料物性値算出部は、前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセント以下である面要素同士は、同じグループに設定し、
前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが異なる面要素同士は、別グループに設定し、
前記面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が前記所定パーセントを超える面要素同士は、別グループに設定する、請求項6〜8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記構造物は空気入りタイヤである、請求項6〜9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤやその他構造物をFEM(Finite Element Method;有限要素法)解析するために用いるFEMモデルデータの生成方法、システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に用いられるFEMモデルデータは、解析対象となる構造物を複数の要素に分割したメッシュモデルであり、構造物を構成する部材、部材境界線、要素、節点、部材の材料物性などが定義されている。二次元モデルにおける面要素及び三次元モデルにおけるソリッド要素の要素数が多くなれば、計算コストが増大することが知られている。
【0003】
特許文献1には、三次元モデルにおける計算コストを減らし且つタイヤ性能を精度よくシミュレーションするために、インナーライナー及び繊維部材を膜要素として定義し、それ以外の部材をソリッド要素として定義することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−56393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の通り、計算コストを減らすために、三次元モデルにおけるソリッド要素を膜要素に置換すれば、膜要素はソリッド要素に比べて計算コストが低いため、モデル全体としての計算コストを低減することができる。しかしながら、実際には厚みがある部材を厚みがない膜要素に置換しているので、構造物であるタイヤを忠実に再現しているとは言い難い。
【0006】
本開示は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、計算コストの低減と、精度の維持とを両立可能なFEMモデルデータの生成方法、システム及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のFEMモデルデータの生成方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、前記部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータを取得するステップと、
前記部材定義モデルデータにおける隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にするステップと、
結合後の部材の部材境界線に基づき、前記構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータを生成するステップと、
前記FEMモデルデータにおける各々の面要素の材料物性値を、前記面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出するステップと、
を含む。
【0008】
このようにすれば、2以上の部材が一つの部材に結合されて部材境界線が減るので、要素数を減らすことができ、シミュレーションの計算コストを低減することが可能となる。それでいて、各々の要素の材料物性値は、要素を構成する結合前の部材の材料特性値及び面積比に基づき算出するので、結合前の部材の材料物性値が面積比で継承され、シミュレーションの精度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示のFEMモデルデータの生成システムを示すブロック図
図2】タイヤがTOS構造である部材定義モデルデータの一例を示す図
図3A】部材を結合した後の部材定義モデルデータの一例を示す図
図3B】インナーライナーと、隣接するカーカスプライ以外の部材とを結合した後の部材定義モデルデータの一例を示す図
図3C】ビード部を内外に分割し、カーカスプライからインナーライナーまでの部材を結合した後の部材定義モデルデータの一例を示す図
図4】タイヤがSWOT構造である部材定義モデルデータの一例を示す図
図5図3Aに示す部材結合後のデータに基づき作成したFEMモデルデータを示す図
図6】部材の形状特定、部材の面積計算、及び含有率の算出に関する説明図
図7】グループの設定に関する説明図
図8】線要素の生成に関する説明図
図9】システムが実行するFEMモデルデータの生成処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
[FEMモデルデータの生成システム]
本開示に係るシステム1は、部材定義モデルデータに基づきFEMモデルデータを生成するシステムである。部材定義モデルデータD1は、図2に示すように、モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線にて表され、部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として定義され、部材毎に材料物性値が設定されているデータである。図2は、構造物として空気入りタイヤの子午線断面図であり、部材境界線が実線で表されている。
【0012】
図1に示すように、システム1は、部材定義モデルデータ取得部10と、部材結合部11と、FEMモデルデータ生成部12と、面要素材料物性値算出部13と、線要素生成部14と、を有する。これら各部10〜14は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいてプロセッサが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0013】
<部材定義モデルの取得>
図1に示す部材定義モデルデータ取得部10は、図2に示す部材定義モデルデータD1を取得する。部材定義モデルデータ取得部10は、外部から部材定義モデルデータD1を取得してもよいし、部材境界線を有する図面データから所定手順に基づき部材の定義及び材料物性値の設定を行って部材定義モデルデータD1を生成により取得してもよい。図2の例では、タイヤ赤道CLにおいて、タイヤ径方向内側RD2からタイヤ径方向外側RD1に向けてインナーライナー20、カーカスプライ21、第1ベルト22、第2ベルト23、トレッドベース24、トレッドキャップ25が配置されている。各部材には材料物性値が定義されている。材料物性値の例は、ヤング率やポアソン比、比重などが挙げられる。
【0014】
<部材の結合>
図1に示す部材結合部11は、部材定義モデルデータD1における隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にする。部材を結合する目的は、要素数の減少であるが、同時に部材をある程度の大きさ以上にすることで生成される要素の大きさもある程度以上となり、陽解法を用いたときのクーラン条件を満たすようにするためである。クーラン条件は解の安定性を保証するための条件であり、空気入りタイヤの解析においては要素が1mm以上になればよい場合が多い。勿論、1mmというのは一例であり、解析に応じて変わるので、これに限定されない。所定条件、すなわち結合アリゴリズムは種々採用可能であるが、本実施形態では構造物を貫通する所定基準ラインCL(タイヤではタイヤ赤道CL)と、結合を禁止する部材の組み合わせを示す所定の禁止リストとに基づき結合処理を行う。具体的には、タイヤ赤道CLが通る部材を抽出し、抽出した部材について隣接する部材との結合可否判定を所定の禁止リストを参照して行う。
【0015】
本実施形態では、タイヤ赤道CLに沿ってタイヤ径方向外側RD1からタイヤ径方向内側RD2に向けて順に結合可否判定を行う。所定の禁止リストの一例として、図2にて矢印が指す部材境界線を挟んで部材が結合されることを禁止することを表している。
まず、トレッドキャップ25は、所定の禁止リストに含まれるため、結合可否判定をスキップする。
次に、トレッドベース24と他の部材との結合可否判定を行う。トレッドベース24はトレッドストリップ26のみと結合可能となるように禁止リストが設定されている。図2に示す例では、トレッドベース24がトレッドストリップ26に隣接しているので、トレッドベース24とトレッドキャップ25を結合する。結合したトレッドキャップ25は他の部材に結合されないように禁止リストに含められる。
次に、第2ベルト23と他の部材との結合可否判定を行う。第2ベルト23は、トレッドベース24及び第1ベルト22との結合が禁止されている。図2の例では、第2ベルト23に隣接するエッジプライ27及びトッピング28aを結合する。なお、第2ベルト23とトレッドベース24の間に他の部材が存在する場合には、その部材は第2ベルト23と結合される。
次に、第1ベルト22と他の部材との結合可否判定を行う。タイヤがSWOT(SideWall On Tread)の場合には、第1ベルト22が他の部材と結合しないように禁止リストが設定されている。タイヤがTOS(Tread On Sidewall)の場合には、隣接する部材が結合されるように禁止リストが設定されており、更に、サイドウォールを結合するように設定されている。図2の例は、タイヤがTOSであり、第1ベルト22とトッピング28bとベルト下パッド29とサイドウォール30とが結合される。SWOTであるか又はTOSであるかの判定は、トレッドベース24の最もタイヤ径方向内側RD2(座標ではYが小さい)の点P1を抽出し、この点P1を通るタイヤ径方向内側RD2の部材境界線31aに隣接する部材がサイドウォール30である場合には、TOSであると判定する。一方、図4に示すように、トレッドベース24の最もタイヤ径方向内側RD2(座標ではYが小さい)の点P1を抽出し、この点P1を通るタイヤ径方向外側RD1の部材境界線31bに隣接する部材がサイドウォール30である場合には、SWOTであると判定する。
次に、カーカスプライ21からインナーライナー20までの部材を結合する。カーカスプライ21からインナーライナー20までの部材は、ビードコア33とビードフィラー32とリムストリップ34と結合が禁止リストにより禁止されている。まず、図2に示すように、プライトッピング21a、21bがタイヤ内側に結合されることを防止するために、タイヤ内側と外側に分割する。そのため、図3Bに示すように、インナーライナー20と、インナーライナー20と隣接するカーカスプライ21以外の部材とを結合する。図2の例では、チェーハ35、チェーハトッピング35a、35b、35cである。結合後の部材をハッチングにて図3Bに示している。ハッチングが異なれば異なる部材として結合されたことを示している。
次に、ビードコア33から分割線36を引く。図3Cの例では、分割線36はビードコア33からトウまでを結んでいるが、これに限定されない。例えば、分割線36がビードコア33から真下に延びていてもよいし、分割線36がビードコア33からタイヤ幅方向内側へ延びていてもよいし、分割線36がビードコア33からタイヤ幅方向外側へ延びていてもよい。次に、分割線36のタイヤ外側にある結合後の部材とカーカスプライ21とそれらに隣接する部材を結合する。図3Cの例では、カーカスプライ21とプライトッピング21aとが更に結合される。分割線36のタイヤ内側にある結合後の部材とカーカスプライ21とそれらに隣接する部材を結合する。図3Cの例では、カーカスプライ21が更に結合される。
【0016】
<FEMモデルデータの生成>
図1に示すFEMモデルデータ生成部12は、結合後の部材の部材境界線に基づき、構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータD2を生成する。FEMモデルデータD2は、解析対象となる構造物を複数の面要素で分割したモデルであり、構造物を構成する結合後の部材、部材の情報(部材名、材料物性値を含む)、節点、節点で構成される面要素などが定義される。面要素は、二次元断面において三角形や四角形等の多角形で表され、三次元空間において六面体、四面体、ピラミッド、三角柱等のソリッド要素として表現される。FEMモデルデータ生成部12がFEMモデルデータD2を生成した時点では、材料物性値が定義されていないが、後の工程で設定する。図5は、図3Aに示す部材を結合した後のデータに基づき作成したFEMモデルデータを示す。図5では、節点を”○”で示し、3つ又は4つの節点で構成される要素を点線で示し、部材境界線を実線で示している。
【0017】
<面要素の材料物性値の算出>
図1に示す面要素材料物性値算出部13は、FEMモデルデータD2における各々の面要素の材料物性値を、面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出する。まず、面要素材料物性値算出部13は、面要素を占める結合前の部材の形状を特定する。その次に、面要素材料物性値算出部13は、特定した形状に基づき各々の結合前の部材の面積を算出し、面積による含有率を算出する。次に、面要素材料物性値算出部13は、各々の結合前の部材の材料物性値と含有率とに基づき面要素の材料物性値を算出する。以下具体例を挙げて説明する。
【0018】
図6に示すように、面要素(el#1)を構成する4つの辺(f1、f2、f3、f4)のうち、タイヤ内面形状(又はタイヤ内面側の辺f1)に対して法線方向となる2つの辺(f2、f4)を特定する。面要素(el#1)を構成する部材(インナーライナー20、カーカスプライ21)の部材境界線を抽出する。部材境界線は、時計回り又は反時計回りに並びを有する複数の曲線で構成されている。1つの曲線は複数の点列で構成されている。辺f2と交差する曲線、辺f4と交差する曲線を特定する。タイヤ内側から外側に向かって辺f2との交点をP2−1、P2−2とし、辺f4との交点をP4−1、P4−2とする。2つの辺f2、f4との交点がそれぞれ2つずつある場合には、交点P4−1から交点P2−1に向けて部材境界線を構成する複数の曲線を並び替えることにより、図6の中段に示すように、結合前の部材境界線のうち面要素に重なる部分の形状のみを抽出できる。なお、これは一例であり、これに限定されない。交点が2つあるが同一点の場合には、曲線と交点との角度に基づき形状を認識するようにしてもよい。
【0019】
次に、面要素材料物性値算出部13は、図6の下段に示すように、面要素(el#1)を構成する結合前の部材(インナーライナー20、カーカスプライ21)の面積を算出し、結合前の全ての部材の面積の合計に対する含有率を算出する。図6の下段において、インナーライナー20の面積は左下から右上に向かう斜線で示し、カーカスプライ21の面積は左上から右下に向かう斜線で示している。インナーライナー20の面積がS1とし、カーカスプライ21の面積がS2とすれば、インナーライナー20の面積による含有率[%]は、S1/(S1+S2)×100である。カーカスプライ21の面積による含有率[%]は、S2/(S1+S2)×100である。
【0020】
<面要素の材料物性値の算出>
次に、面要素材料物性値算出部13は、各々の結合前の部材の材料物性値と含有率とに基づき面要素の材料物性値を算出する。図6の例で説明すると、材料物性値としてヤング率が設定されていたとする。図6に示す部材結合後の面要素のヤング率は、インナーライナー20の含有率×インナーライナー20のヤング率+カーカスプライ21の含有率×カーカスプライ21のヤング率 で計算可能である。FEMモデルデータD2は、面要素に対してグループが設定され、グループに対して材料物性値が設定される。よって、新しい面要素に対して新たなグループを設定し、新たなグループに対して上記計算されたヤング率が設定される。なお、面要素を構成する部材が一つしかない場合には、当該部材の材料物性値がそのまま面要素の材料物性値に設定される。ここでは、材料物性値としてヤング率を例に挙げているが、これに限定されず、例えば比重などの種々の物性値が利用できる。
【0021】
上記処理によれば、面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じであっても、各々の部材の含有率が少しでも異なれば、面要素に設定される材料物性値が当然異なることになる。そうすれば、グループ数が非常に多くなり、後処理でのデータの取り扱いが面倒になるというデメリットが生じる。そこで、本実施形態では、面要素材料物性値算出部13は、面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じであり且つ各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセント以下である面要素同士を同じグループとして、同じ材料物性値を設定する。一方、面要素材料物性値算出部13は、面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが異なる面要素同士は、別のグループを設定する。各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセントを超える面要素同士も異なるグループを設定する。このようにすれば、閾値である上記所定パーセントを適切に設定すれば、精度に悪影響を与えない範囲で、グループの数を減らすことができる。グループ数が少なければ、所定処理において取り扱いやすさと分かりやすさが向上し、ユーザフレンドリーだからである。以下、具体例を挙げて説明する。
【0022】
図7は、ビード部付近を示す図である。図7では、説明に用いる面要素(el#84、85、94、95)を点線で示し、結合後の部材の部材境界線を実線で示し、結合前の部材の部材境界線を一点鎖線で示している。
【0023】
図7における面要素(el#84、85)について説明する。この2つの面要素(el#84、85)は、結合前の部材がインナーライナー20及びカーカスプライ21であり、結合前の部材の組み合わせが同じである。インナーライナー20について、面要素(el#84)における面積は8.326で含有率が57.7%であり、面要素(el#85)における面積は8.376で含有率が58.9%である。含有率の差は、1.2%であり、閾値の所定パーセント(10%)以内である。同様に、カーカスプライ21について、面要素(el#84)における面積は6.108で含有率が42.3%であり、面要素(el#85)における面積は5.842で含有率が41.1%である。含有率の差は、1.2%であり、閾値の所定パーセント(10%)以内である。したがって、2つの面要素(el#84、85)を構成する全ての結合前の部材について含有率の差が所定パーセント以下であるので、2つの面要素(el#84、85)は同じグループに設定され、同じ材料物性値が設定される。なお、閾値としての所定パーセントとして10%としているが、これは適宜変更可能である。
【0024】
図7における面要素(el#94、95)について説明する。この2つの面要素(el#94、95)は、結合前の部材がインナーライナー20、チェーハトッピング35a及びカーカスプライ21であり、結合前の部材の組み合わせが同じである。インナーライナー20について、面要素(el#94)における面積は7.451で含有率が56.4%であり、面要素(el#95)における面積は7.547で含有率が48.2%である。含有率の差は、8.1%であり、閾値の所定パーセント(10%)以内である。カーカスプライ21について、面要素(el#94)における面積5.149で含有率が38.9%であり、面要素(el#95)における面積は5.040で含有率が32.2%である。含有率の差は、6.7%であり、閾値の所定パーセント(10%)以内である。チェーハトッピング35aについて、面要素(el#94)における面積は0.621で含有率が4.7%であり、面要素(el#95)における面積は3.066で含有率が19.6%である。含有率の差は、14.9%であり、閾値の所定パーセント(10%)を超えている。図7を参照しても、チェーハトッピング35aが先細り形状であるので、含有率の差が大きくなることが理解できる。したがって、2つの面要素(el#94、95)を構成する少なくとも1つの結合前の部材について含有率の差が所定パーセントを超えるで、2つの面要素(el#94、95)は別グループに設定され、それぞれ別の材料物性値が設定される。結合前の部材が異なる面要素は当然ながら物性値が異なるので、別グループが設定され、別の材料物性値が設定される。同じグループにするか否かを判定する上記処理は、結合前の部材の組み合わせが同じ面要素同士で行われる。
【0025】
カーカスプライ21、第1ベルト22、第2ベルト23、チェーハ35等の繊維部材は、ナイロンコードやスチールコードなどの繊維コードと、繊維コードを被覆するゴムなどの被覆体とを有する部材である。繊維コードは、方向に応じて材料特性が変化する異方性材料である。被覆体は方向によらず材料特性が同じ等方性材料である。面要素に設定される材料物性値は等方性材料として定義される。よって、面要素材料物性値算出部13は、面要素を構成する結合前の部材に繊維部材が含まれる場合には、面要素の材料物性値を、繊維部材の線コードの材料物性を用いずに被覆体の材料物性値を用いる。例えば、図7において面要素(el#85)を構成する結合前の部材は、インナーライナー20及びカーカスプライ21であるので、面要素(el#85)のグループに設定される材料物性値は、インナーライナー20の材料物性値と、カーカスプライ21の被覆体(ゴム)の材料物性値を用いる。ここで、カーカスプライ21の繊維コードの材料物性値は利用しない。
【0026】
具体的には、図8に示すように、面要素(el#85)は、インナーライナー20とカーカスプライ21とで構成される。カーカスプライ21には、繊維コードと、被覆体とが含まれる。面要素(el#85)の材料物性値は、インナーライナー20の材料物性値(ヤング率など)と、カーカスプライ21の被覆体の材料物性値(ヤング率など)が用いられ、カーカスプライ21の繊維コードの材料物性値は利用されない。
【0027】
<線要素の生成>
図1に示す線要素生成部14は、繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成する。線要素は、二次元断面において線で表され、三次元空間において面となる膜要素(シェル要素とも呼ばれる)として表現される。線要素生成部14は、生成した線要素を面要素に重なるように配置し、且つ、線要素と面要素とを関連付ける。
【0028】
具体的には、図8に示すように、面要素(el#85)は、インナーライナー20とカーカスプライ21とで構成される。カーカスプライ21は繊維部材であるので、カーカスプライ21の繊維コードの材料物性値を有する線要素(el#185)を生成する。線要素生成部14は、生成した線要素(el#185)を面要素(el#85)に重なるように配置し、線要素(el#185)と面要素(el#85)とを関連付けるデータを生成する。関連付けデータは、FEMモデルデータを処理するソルバーが参照するために用いられ、これにより、面要素(el#85)と共に線要素(el#185)を処理可能となる。線要素は、節点間の線の向きに応じて物理的性質が異なる材料物性値が設定されるため、節点の定義順に応じて節点間の線の向きが設定される。同じ部材を構成する全ての線要素は向きが連なるように設定される。図8では、矢印で線の向きを表現しており、カーカスプライ21の線要素(el#184、185、194、195)を、タイヤ赤道側から巻き上げ端に向けて向きが連なるように設定される。
【0029】
図8に示すように、線要素生成部14は、線要素(el#184、185、194、195)を、繊維部材(カーカスプライ21)の厚み中心に対応する位置に配置することが好ましい。FEMモデルデータとしては、線要素が面要素に関連付けられていれば、位置関係は問われないが、繊維部材の厚み中心に線要素が配置されていれば、モデルの構成が見た目で把握しやすくなるからである。勿論、線要素を配置する位置は、対応する面要素と重なっていれば繊維部材の厚み中心に限定されず、配置位置が可能である。
【0030】
[FEMモデルデータの生成方法]
上記システム1が実行する、FEMモデルデータの生成方法を、図9を用いて説明する。
【0031】
まず、ステップST1において、部材定義モデルデータ取得部10は、モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータD1を取得する。
【0032】
次のステップST2において、部材結合部11は、部材定義モデルデータにおける隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し一つの部材にする。
【0033】
次のステップST3において、FEMモデルデータ生成部12は、結合後の部材の部材境界線に基づき、構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータD2を生成する。
【0034】
次のステップST4において、面要素材料物性値算出部13は、FEMモデルデータD2における各々の面要素の材料物性値を、面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出する。ここで、結合前の部材に繊維部材が含まれている場合には、面要素材料物性値算出部13は、面要素の材料物性を、繊維部材の繊維コードの材料物性を用いずに被覆体の材料物性値を用いて算出する。
【0035】
次のステップST5において、結合前の部材に繊維部材が含まれているか否かを判定する。ステップST5において、結合前の部材に繊維部材が含まれていないと判定された場合(ST5:NO)には、処理を終了する。一方、ステップST5において、結合前の部材に繊維部材が含まれていると判定された場合(ST5:YES)には、次のステップST6において、線要素生成部14は、繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成し、生成した線要素を面要素に重なるように配置し、且つ線要素と面要素とを関連付けるデータを生成する。
【0036】
以上のように、本実施形態のFEMモデルデータの生成方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータD1を取得するステップ(ST1)と、
部材定義モデルデータD1における隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にするステップ(ST2)と、
結合後の部材の部材境界線に基づき、構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータD2を生成するステップ(ST3)と、
FEMモデルデータD2における各々の面要素の材料物性値を、面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出するステップ(ST4)と、
を含む。
【0037】
本実施形態のFEMモデルデータの生成システムは、
モデル化対象の構造物が断面にて部材境界線で表され、前記部材境界線で包囲される閉領域が1つの部材として設定され、部材毎に材料物性値が設定されている部材定義モデルデータを取得する部材定義モデルデータ取得部10と、
前記部材定義モデルデータにおける隣接する2以上の部材を所定条件に基づき結合し、一つの部材にする部材結合部11と、
結合後の部材の部材境界線に基づき、前記構造物を複数の面要素で表したFEMモデルデータを生成するFEMモデルデータ生成部12と、
前記FEMモデルデータにおける各々の面要素の材料物性値を、前記面要素を構成する結合前の部材の材料物性値及び面積による含有率に基づき算出する面要素材料物性値算出部13と、
を備える。
【0038】
このようにすれば、2以上の部材が一つの部材に結合されて部材境界線が減るので、要素数を減らすことができ、シミュレーションの計算コストを低減することが可能となる。それでいて、各々の要素の材料物性値は、要素を構成する結合前の部材の材料特性値及び面積比に基づき算出するので、結合前の部材の材料物性値が面積比で継承され、シミュレーションの精度を維持することが可能となる。
【0039】
本実施形態の方法において、面要素を構成する結合前の部材に、繊維コード及び前記繊維コードを被覆する被覆体を有する繊維部材が含まれる場合には、面要素の材料物性を、繊維部材の繊維コードの材料物性を用いずに被覆体の材料物性値を用いて算出し、
更に、繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成し、生成した線要素を面要素に重なるように配置し、且つ線要素と面要素とを関連付けるデータを生成するようにすることが好ましい。
【0040】
本実施形態のシステムにおいて、前記面要素材料物性値算出部は、前記面要素を構成する結合前の部材に、繊維コード及び前記繊維コードを被覆する被覆体を有する繊維部材が含まれる場合には、前記面要素の材料物性を、前記繊維部材の繊維コードの材料物性を用いずに前記被覆体の材料物性値を用いて算出し、
前記システムは、更に、前記繊維部材の繊維コードの材料物性値を有する線要素を生成し、生成した線要素を前記面要素に重なるように配置し、且つ前記線要素と前記面要素とを関連付けるデータを生成する線要素生成部14を有することが好ましい。
【0041】
このようにすれば、等方性材料である部材を面要素として定義し、異方性材料である部材を線要素としても定義可能となる。
【0042】
本実施形態において、線要素を、繊維部材の厚み中心に対応する位置に配置する。
【0043】
このように、繊維部材の厚み中心に線要素が配置されていれば、モデルの構成が見た目で把握しやすくなるからである。
【0044】
本実施形態の方法又はシステムにおいて、前記FEMモデルデータは、前記面要素に対してグループが設定され、グループに対して材料物性が設定されており、
面要素材料物性値算出部13は、面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセント以下である面要素同士は、同じグループに設定し、
面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが異なる面要素同士は、別グループに設定し、
面要素を構成する結合前の部材の組み合わせが同じ且つ各々の結合前の部材の含有率の差が所定パーセントを超える面要素同士は、別グループに設定することが好ましい。
【0045】
この構成によれば、精度に悪影響を与えない範囲で、グループの数を減らすことができる。
【0046】
本実施形態の方法又はシステムにおいて、構造物は空気入りタイヤであることが好ましい。
【0047】
本実施形態のプログラムは、上記方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0048】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0049】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0050】
例えば、図1に示す各部10〜14は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用回路で構成してもよい。本実施形態では1つのコンピュータにおけるプロセッサが各部10〜14を実装しているが、少なくとも1又は複数のプロセッサに分散して実装してもよい。
【0051】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 部材定義モデルデータ取得部
11 部材結合部
12 FEMモデルデータ生成部
13 面要素材料物性値算出部
14 線要素生成部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9