【解決手段】柑橘類果実を、プロトペクチナーゼを含む酵素剤により酵素処理する酵素処理工程と、酵素処理工程と同時に、又は酵素処理工程より後に行われ、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる酸処理工程と、を備える、柑橘類果実の加工品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る柑橘類果実の加工品の製造方法は、柑橘類果実を、プロトペクチナーゼを含む酵素剤により酵素処理する酵素処理工程(第1の酵素処理工程)と、酵素処理工程と同時に、又は酵素処理工程より後に行われ、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる酸処理工程と、を備える。
【0015】
柑橘類果実は、果皮、種子、じょうのう膜及びさのう等で構成されている。柑橘類は、ミカン科のミカン属、キンカン属及びカラタチ属に属する植物を含む。柑橘類としては、例えば、レモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボス、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ミカン(温州ミカン)、イヨカン、ポンカン、あま夏、ブンタン等が挙げられる。柑橘類はレモンであることが好ましい。原料として使用される柑橘類果実は、物理的な処理が施されていてよい。例えば、柑橘類の果実は、果皮の一部を除去されていてもよい。
【0016】
柑橘類の加工品とは、柑橘類果実を原料として、剥皮及び実割を経て製造されるものであり、柑橘類果実から果皮及びじょうのう膜を除去して得られるセグメント、セグメントを分解して得られるさのう等が含まれる。
【0017】
第1の酵素処理工程は、柑橘類果実を、プロトペクチナーゼを含む酵素剤により酵素処理する工程である。酵素剤は、プロトペクチナーゼ以外の酵素を含んでいてもよい。酵素剤の使用量(添加量)は、使用する酵素剤の種類等に応じて、適宜設定することができる。酵素剤は、柑橘類果実100質量部に対して、0.01〜1.0質量部又は0.1〜0.5質量部であってよい。
【0018】
第1の酵素処理工程では、まず、柑橘類果実とプロトペクチナーゼを含む酵素とを接触させる。柑橘類果実は、プロトペクチナーゼを含む酵素剤を含有する水性媒体(含浸液)に浸漬させることによって、プロトペクチナーゼ等の酵素と接触させてよい。柑橘類果実は、減圧下で含浸液に浸漬させることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、酵素処理前に、柑橘類果実を減圧下で酵素剤を含む水性媒体に浸漬させることを含んでいてよい。この場合、含浸液中のプロトペクチナーゼ等の酵素を柑橘類果実(特に、柑橘類果皮)にしみ込ませることができ、これによって、柑橘類果実に対し、より効果的に酵素を作用させることが可能となり、製造工程における剥皮及び実割がより一層容易になる。柑橘類果実を減圧下で含浸液に浸漬させる際の圧力は、例えば、−0.05MPa以下、又は−0.09MPa以下であってよい。柑橘類果実を減圧下で含浸液に浸漬させる時間は、例えば、1〜20分、又は5〜15分であってよい。なお、水性媒体とは、水を含む媒体であり、水以外の成分(他の成分)を含んでいてよい。他の成分としては、例えば、エタノール、乳化剤、ミネラル等が挙げられる。
【0019】
第1の酵素処理工程では、次に、柑橘類果実と接触させた酵素による酵素反応を進行させる。酵素反応は、プロトペクチナーゼを含む酵素と接触させた柑橘類果実を、酵素の至適温度付近の反応温度に保持することにより行うことができる。酵素反応は、柑橘類果実を含浸液に浸漬させた後、そのまま含浸液中で行ってもよいし、含浸液に浸漬させた柑橘類果実を含浸液から取り出してから、水に浸漬させ、水中で行ってもよい。柑橘類果実を減圧下で含浸液に浸漬させる場合には、常圧に戻してから、酵素反応を行ってよい。
【0020】
酵素反応の反応温度は、例えば、20〜60℃、30〜55℃、又は35〜45℃であってよい。酵素反応の反応時間(上記反応温度に保持する時間)は、例えば、5〜120分、10〜90分、20〜80分、30〜70分、又は40〜60分であってよい。
【0021】
プロトペクチナーゼを含む酵素剤において、プロトペクチナーゼ活性は、柑橘類果実の質量を基準として、2.5IU/g以上、50IU/g以上、又は125IU/g以上であってよい。プロトペクチナーゼ活性は、次の方法により測定することができる。すなわち、ペクチン標準溶液を0.6mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH10.5)中に懸濁し、プロトペクチナーゼ活性を含む溶液を添加して30℃60分間反応させ、その反応液を遠心分離し、上清中に遊離したペクチンをカルバゾール硫酸法にて測定する。
【0022】
酵素剤は、プロトペクチナーゼ以外の酵素を1種又は2種以上含んでいてもよい。プロトペクチナーゼ以外の酵素としては、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等が挙げられる。酵素剤は、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを更に含むことが好ましく、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを更に含むことがより好ましい。すなわち、酵素剤は、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含むことが好ましい。プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの由来は特に制限されず、例えば、微生物由来であってよい。
【0023】
セルラーゼを含む酵素剤において、セルラーゼ活性は、柑橘類果実の質量を基準として、2.5U/g以上、50U/g以上、又は125U/g以上であってよい。セルラーゼ活性は、CMCase法により測定することができる。
【0024】
ヘミセルラーゼは、キシラン、マンナン(例えば、ガラクトマンナン)等のヘミセルロースを分解する酵素の総称である。ヘミセルラーゼとしては、例えば、キシラナーゼ、マンナナーゼ(例えば、ガラクトマンナナーゼ)が挙げられる。
【0025】
酵素剤は、上述した酵素以外の成分を含んでいてよい。酵素剤は、例えば、エタノール、乳化剤、ミネラル等を含んでいてもよい。
【0026】
酵素剤としては、市販品を使用してもよい。主にプロトペクチナーゼを含む酵素剤としては、スミチームMC(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。主にプロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素剤としては、例えば、プロトペクチナーゼIGA−C(IGAバイオリサーチ株式会社)が挙げられる。主にプロトペクチナーゼを含む酵素と、主にセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素剤とを組み合わせて、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素剤としてもよい。主にセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素剤としては、例えば、アクレモセルラーゼKM(協和化成株式会社)が挙げられる。
【0027】
第1の酵素処理工程後に、必要に応じて、酵素剤に含まれる酵素を、加熱等することにより、失活させてもよい。失活させる際の加熱温度及び加熱時間は、酵素剤の種類に応じて、適宜設定することができる。失活させる際の加熱温度及び加熱時間は、例えば、70〜100℃で10〜120分間とすることができる。
【0028】
酸処理工程は、第1の酵素処理工程と同時に、又は第1の酵素処理工程より後に行われ、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる工程である。
【0029】
酸処理工程が第1の酵素処理工程と同時に行われる場合、第1の酵素処理工程では、酸存在下で、柑橘類果実とプロトペクチナーゼを含む酵素とを反応させる。酸処理工程が、第1の酵素処理工程と同時に行われる場合には、柑橘類果実を含浸させる含浸液として、プロトペクチナーゼを含む酵素剤を含有するpH1〜3の水性媒体が用いられる。すなわち、この場合、酸処理工程では、まず、柑橘類果実を、プロトペクチナーゼを含む酵素剤を含有するpH1〜3の水性媒体に浸漬させて、pH1〜3の水性媒体中で、柑橘類果実と、プロトペクチナーゼを含む酵素とを接触させる。次に、柑橘類果実と接触させた酵素による酵素反応を進行させる。柑橘類果実を浸漬液に浸漬させる条件、酵素反応の条件等は、上述したとおりであってよい。
【0030】
酸処理工程が、酵素処理工程より後に行われる場合、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる条件(温度、時間等)は、柑橘類の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる温度(接触温度)及び時間(接触時間)は、上記酵素処理の条件として例示した条件であってもよい。接触温度及び接触時間は、それぞれ酵素反応の反応温度及び反応時間と同じであっても、異なっていてもよい。
【0031】
酸処理工程が酵素処理工程より後に行われる場合、酸処理工程では、柑橘類果実をpH1〜3の水性媒体に浸漬させることによって、柑橘類果実とpH1〜3の水性媒体とを接触させる。ここで、柑橘類果実は、減圧下で、pH1〜3の水性媒体に浸漬させてもよい。柑橘類果実を減圧下でpH1〜3の水性媒体に浸漬させる場合、pH1〜3の水性媒体を柑橘類果実(特に、柑橘類果皮)にしみ込ませることができ、これによって、製造工程における剥皮及び実割がより一層容易になる。柑橘類果実を浸漬させる際の圧力及び時間は、上述した柑橘類果実を含浸液に浸漬させる際の条件と同様であってよい。酸処理工程では、柑橘類果実をpH1〜3の水性媒体に浸漬させた後、水に浸漬させて、例えば、20〜60℃、30〜55℃、又は35〜45℃の条件で、30〜70分又は40〜60分間保持してよい。
【0032】
酸処理工程が、酵素処理工程より後に行われる場合、酵素を失活させた後に、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させてもよく、酵素を失活させることなく、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させてもよい。
【0033】
pH1〜3の水性媒体とは、水に酸を添加して、25℃におけるpHが1〜3の範囲内となるように調整した媒体である。すなわち、pH1〜3の水性媒体は、水及び酸を含む。当該水性媒体に含まれる酸としては、塩酸(塩化水素)、リン酸等が挙げられる。これらの酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
水性媒体のpHは、1〜3であり、1.0〜2.5、又は1.5〜2.0であってよい。水性媒体中のpHは、pHメーター(LAQUA F−73 ガラス電極式水素イオン濃度指示計、株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0035】
水性媒体は、塩酸又はリン酸を含むことが好ましい。塩酸及び/又はリン酸を用いることにより、水性媒体のpH調整をより容易に行うことができる。製造設備に対する腐食性の観点から、pH調整は、リン酸を用いることが好ましい。水性媒体が塩酸を含む場合、水性媒体中の塩化水素の含有量は、例えば、0.1〜0.5質量%、又は0.1〜0.3質量%であってよい。水性媒体がリン酸を含む場合、水性媒体中のリン酸の含有量は、0.1〜2.0質量%、又は0.1〜1.0質量%であってよい。
【0036】
水性媒体の使用量は、柑橘類果実100gあたり、50〜1000mL、又は100〜500mLであってよい。
【0037】
酸処理工程が酵素処理工程と同時に行われる場合、内皮がより一層効果的に溶解するため、剥皮がより一層容易になる。また、この場合、房同士の結着が弱くなるため、実割がより一層容易になる。したがって、酸処理工程は、酵素処理工程と同時に行われることが好ましい。
【0038】
酸処理工程が酵素処理工程と同時に行われる場合、これらの工程を複数回(例えば、2〜3回)繰り返して実施してよい。また、酸処理工程が、酵素処理工程より後に行われる場合、酸処理工程及び酵素処理工程は、この順で複数回(例えば、2〜3回)繰り返して実施してよい。
【0039】
柑橘類果実の加工品の製造方法は、酵素処理工程及び酸処理工程後に得られる柑橘類果実の果皮を除去する工程(剥皮工程)と、果皮が除去された柑橘類果実(剥皮工程後の柑橘類果実)を実割(房分け)する工程(実割工程)とを備えていてよい。
【0040】
本実施形態に係る製造方法は、酵素処理工程及び酸処理工程を備えるため、剥皮工程及び実割工程を容易に行うことができる。柑橘類果実の剥皮及び実割は、従来手作業により行われる場合が多かったが、本実施形態に係る製造方法によれば、剥皮工程及び実割工程を容易に行うことができ、これらの工程を機械的な処理へ代替することで、製造工程の自動化が可能となる。
【0041】
柑橘類果実の加工品の製造方法は、上述した工程以外の工程(他の工程)として、実割工程後にじょうのう膜を溶解してセグメントを得る工程(溶解工程)、溶解工程後にセグメントを分解してさのうを得る工程(分解工程)等を更に備えていてもよい。
【0042】
溶解工程では、果皮が除去され、実割(房分け)された柑橘類果実のじょうのう膜を溶解する。溶解工程におけるじょうのう膜の溶解は、例えば、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等によって実施することができる。
【0043】
分解工程では、溶解工程後にセグメントを分解してさのうを得る。分解工程におけるセグメントの分解は、例えば、水圧、撹拌等による機械的、物理的手段を用いることができる。
【0044】
一実施形態に係る柑橘類果実の加工品の製造方法では、上述した酵素処理工程及び酸処理工程を備える製造方法において、原料として、柑橘類果実に代えて、剥皮された柑橘類果実(果皮が除去された柑橘類果実)を用いることができる。この場合、酵素処理及び酸処理工程後に得られる果実原料に対して、水圧、撹拌等による機械的、物理的手段を用いることで、さのうを得ることができる。すなわち、原料として、剥皮された柑橘類果実を用いた場合には、実割、じょうのう膜の溶解等を行うことなく、さのうを製造することができる。なお、剥皮された柑橘類果実は、例えば、酵素等を用いて、柑橘類果実から果皮を除去したものであってもよく、手作業により柑橘類果実から果皮を除去したものであってもよい。
【0045】
すなわち、他の実施形態に係る柑橘類果実の加工品の製造方法は、剥皮された柑橘類果実(果皮が除去された柑橘類果実)を、プロトペクチナーゼを含む酵素剤により酵素処理する酵素処理工程(第2の酵素処理工程)と、酵素処理工程と同時に、又は酵素処理工程より後に行われ、柑橘類果実及びpH1〜3の水性媒体を接触させる酸処理工程と、を備える。第2の酵素処理工程は、第1の酵素処理工程と同様の条件で実施することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0047】
[試験例1:剥皮及び実割に対する酵素及び酸の影響]
(処理条件1:酵素処理及び酸処理をこの順に実施する条件)
両端をカットしたレモン果実を酵素剤(プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社)を含む水溶液(pH5.6)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(第1の含浸処理)。これによりレモン果皮に酵素剤を含む水溶液をしみこませた。常圧に戻してから、第1の含浸処理後のレモン果実を、酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で、50分間保持した。これにより、レモン果皮にしみこんだ酵素による酵素反応を進行させた(酵素処理)。酵素処理後のレモン果実は、水ですすいだ後5分間水切りした。次いで、水切り後のレモン果実を、pH1.2の水溶液(水溶液の全質量に対する塩化水素濃度:0.3質量%)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(第2の含浸処理)。これにより、pH1.2の水溶液をレモン果皮にしみこませた。常圧に戻してから、第2の含浸処理後のレモン果実をpH1.2の水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で、50分間保持した。これにより、レモン果皮に酸を作用させた(酸処理)。以上の操作により得られたレモン果実を試験用のサンプル1−1とした。
【0048】
(処理条件2:酸処理及び酵素処理をこの順に実施する条件)
両端をカットしたレモン果実をpH1.2の水溶液(水溶液の全質量に対する塩化水素(HCl)濃度:0.3質量%)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(第1の含浸処理)。これによりレモン果皮にpH1.2の水溶液をしみこませた。常圧に戻してから、第1の含浸処理後のレモン果実を、pH1.2の水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で50分間保持した。これによりレモン果皮に酸を作用させた(酸処理)。酸処理後のレモン果実は、水ですすいだ後5分間水切りした。次いで、水切り後のレモン果実を、酵素剤(プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社)を含む水溶液(pH5.6)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で、10分間保持した(第2の含浸処理)。これにより、レモン果皮に酵素剤を含む水溶液をしみこませた。常圧に戻してから、第2の含浸処理後のレモン果実を、酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で50分間保持した。これにより、レモン果皮にしみこんだ酵素による酵素反応を進行させた。以上の操作により得られたレモン果実を試験用のサンプル1−2とした。
【0049】
(処理条件3:酵素処理及び酸処理を同時に実施する条件)
両端をカットしたレモン果実を、pH1.8の酵素剤(プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社)を含む水溶液(水溶液全質量に対する塩化水素濃度:0.3質量%)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(含浸処理)。これにより、pH1.8の酵素剤を含む水溶液をレモン果皮にしみこませた。常圧に戻してから、含浸処理後のレモン果実を、pH1.8の酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で50分間保持した。これにより、酸存在下で、レモン果皮にしみこんだ酵素による酵素反応を進行させた(酵素及び酸処理)。酵素及び酸処理後のレモン果実は、水ですすいだ後、5分間水切りした。次いで、得られたレモン果実を用いて、上記操作を再度実施した。以上の操作により得られたレモン果実を試験用のサンプル1−3とした。
【0050】
pHの測定は、25℃において、LAQUA F−73 ガラス電極式水素イオン濃度指示計(株式会社堀場製作所製)を用いて実施した。
【0051】
(剥皮及び実割の評価)
試験用サンプルの剥皮及び実割を手作業で行い、「剥皮」及び「実割」の項目について、4段階で評価を実施した。剥皮の評価では、かなり容易に剥皮が可能である場合「◎」、容易に剥皮が可能である場合「〇」、剥皮がやや困難である場合「△」、剥皮が困難である場合「×」とした。実割は、房同士の結着が弱く、かなり容易に実割可能であった場合「◎」、房同士の結着がやや弱く、容易に実割可能であった場合「〇」、房防止の結着がやや強く、実割がやや困難であった場合「△」、房同士の結着が強く、実割が困難であった場合「×」と評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
酸処理及び酵素処理を同時に行うか、又は酵素処理後に、酸処理を行った場合、剥皮及び実割がより容易になった(サンプル1−1及び1−3とサンプル1−2との対比)
【0054】
図1Aは、かなり容易に剥皮が可能であった試験用サンプル1−3の写真を示す。
図1Aに示す試験用サンプル1−3では、皮自体軟化し、内皮はほぼ溶解していた。
図1Bは、かなり容易に実割が可能であった試験用サンプル1−3の写真を示す。
図1Bに示す試験用サンプル1−3では、房同士の結着が弱く、かなり容易に実割が可能であった。
【0055】
なお、含浸処理後に水に浸漬させて40℃に保持した場合であっても、含浸処理後にそのまま含浸液(含浸処理に用いた液)に浸漬させて40℃に保持した場合であっても、剥皮及び実割の評価は同様の結果となった。
【0056】
[試験例2:酵素の種類による効果]
以下の酵素剤A〜Dを準備した。
酵素剤A:プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社、含有酵素の種類:プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼ
酵素剤B:プロトペクチナーゼ IGA、IGAバイオリサーチ株式会社、含有酵素の種類:プロトペクチナーゼ
酵素剤C:スミチームMC、新日本化学工業株式会社、含有酵素の種類:プロトペクチナーゼ
酵素剤D:アクレモセルラーゼKM、協和化成株式会社、含有酵素の種類:セルラーゼ及びヘミセルラーゼ
【0057】
両端をカットしたレモン果実を、pH1.8の酵素剤Aを含む水溶液(水溶液全質量に対する塩化水素濃度:0.3質量%)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(含浸処理)。これにより、pH1.8の酵素剤Aを含む水溶液をレモン果皮にしみこませた。常圧に戻してから、含浸処理後のレモン果実を、pH1.8の酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で50分間保持した。これにより、酸存在下で、レモン果皮にしみこんだ酵素による酵素反応を進行させた(酵素及び酸処理)。酵素及び酸処理後のレモン果実は、水ですすいだ後、5分間水切りした。次いで、得られたレモン果実を用いて、上記操作を再度実施した。以上の操作により得られたレモン果実を試験用のサンプル2−1とした。
【0058】
酵素剤を、それぞれ酵素剤B〜Dに変更したこと以外は、試験用サンプル2−1と同様の手順で、それぞれ試験用のサンプル2−2〜2−4を調製した。酵素剤を酵素剤B及びD(酵素剤B:酵素剤D=50:50(質量比))に変更したこと以外は、サンプル2−1と同様の手順でサンプル2−5を調製した。
【0059】
得られた試験用のサンプル2−1〜2−5の剥皮及び実割の評価は、試験例1と同様にして行った。
【0060】
【表2】
【0061】
プロトペクチナーゼを含む酵素剤により酵素処理した場合に、剥皮及び実割が容易になることが示された。プロトペクチナーゼに加えて、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを更に含む酵素剤を用いた場合、剥皮及び実割がより一層容易になることが示された。
【0062】
[試験例3:果皮を除去した果実を用いた場合の効果]
(処理条件3−1)
剥皮されたレモン果実の冷凍品(南アフリカ産)を約60℃の湯に3分間浸漬して解凍した。次いで、このレモン果実を、酵素剤(プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社)を含む水溶液(pH5.6)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(含浸処理)。これにより、酵素剤を上記レモン果実にしみこませた。常圧に戻してから、含浸処理後の上記レモン果実を、酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で30分間保持した。これにより、上記レモン果実にしみこませた酵素による酵素反応を進行させた(酵素処理)。上記レモン果実に水道水をシャワー状に照射して、試験用のサンプル3−1を得た。
【0063】
(処理条件3−2)
剥皮されたレモン果実の冷凍品を約60℃の湯に3分間浸漬して解凍した。次いで、このレモン果実をpH1.8の酵素剤(プロトペクチナーゼ IGA−C、IGAバイオリサーチ株式会社)を含む水溶液(水溶液の全質量に対する塩化水素濃度:0.3質量%)に浸漬し、減圧下(−0.09MPa以下)で10分間保持した(含浸処理)。これにより、上記レモン果実に、pH1.8の酵素剤を含む水溶液をしみこませた。常圧に戻してから、含浸処理後の上記レモン果実を、pH1.8の酵素剤を含む水溶液から取り出し、その後、水に浸漬させ、40℃で、30分間保持した。これにより、酸存在下で、上記レモン果実にしみこんだ酵素による酵素反応を進行させた(酵素及び酸処理)。その後、上記レモン果実に、水道水をシャワー状に照射して、試験用のサンプル3−2を得た。
【0064】
試験に用いた上記レモンの酵素処理、又は酵素及び酸処理後の果実を
図2A及び
図2Cに示し、これらを用いて得られた試験用サンプル3−1及び3−2をそれぞれ
図2B及び
図2Dに示す。
【0065】
酵素処理と同時に酸処理を実施しなかった試験用サンプル3−1では、じょうのう膜へのさのうの結着が強く、さのうを分離しにくかった(
図2Bの矢印で示す箇所)。これに対し、酵素処理及び酸処理を同時に実施した試験用サンプル3−2では、じょうのう膜からさのうが外れやすく、分離が容易であった(
図2Dの矢印で示す箇所)。