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特開2020-97542アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法、表面処理組成物の製造方法、および表面処理された部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-97542(P2020-97542A)
(43)【公開日】2020年6月25日
(54)【発明の名称】アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法、表面処理組成物の製造方法、および表面処理された部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20200529BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20200529BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200529BHJP
【FI】
   C07F7/18 Q
   C09K3/18 104
   C09K3/18 102
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-236371(P2018-236371)
(22)【出願日】2018年12月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】平林 涼
【テーマコード(参考)】
4H020
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4H020AA01
4H020AA03
4H020AB01
4H020BA36
4H039CA99
4H039CF10
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ49
4H049VR21
4H049VR43
4H049VS48
4H049VT48
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】原料の入手および取り扱いが容易であるとともに、安全性が高い、アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】
式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させる、式(3)で表される化合物の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させる、式(3)で表される化合物の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、式(1−2)で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
Rf−Q−OCO−CH=CH (1−2)
式(1−2)中、各記号の意味は式(1)中におけるものと同じである。
【請求項3】
前記Rfが炭素数6以下のポリフルオロアルキル基を表す、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Qが直鎖状のアルキレン基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アミン化合物が3級アミンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させて、式(3)で表される化合物を製造する化合物製造工程、および、
前記化合物製造工程で製造された式(3)で表される化合物を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程を備える、表面処理組成物の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
【請求項7】
式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させて、式(3)で表される化合物を製造する化合物製造工程、
前記化合物製造工程で製造された式(3)で表される化合物を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程、および、
前記表面処理組成物製造工程で製造した表面処理組成物で部材の表面を処理する表面処理工程を備える、表面処理された部材の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法、表面処理組成物の製造方法、および表面処理された部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシリル基含有フッ素化合物は、シランカップリング剤、離型剤、防汚剤、表面改質剤などとして広く用いられている。これらの化合物として、式(A)で表される化合物〔以下、単に化合物(A)という場合がある。〕が広く用いられている。
Rf’−CHCH−Si(OR) (A)
ただし、式(A)中のRf’はフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。
【0003】
化合物(A)の製造方法として、従来、様々な方法が検討されてきた(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。代表的なものとして以下の「製法1」および「製法2」が挙げられる。
【0004】
「製法1」
Rf’−CH=CH + HSiCl (Ia)
→ Rf’−CHCH−SiCl (Ib)
→ Rf’−CHCH−Si(OR) (Ic)
ただし、式中、Rf’はフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。
【0005】
「製法2」
Rf’−I + CH=CH−Si(OR) (IIa)
→ Rf’−CH−CHI−Si(OR) (IIb)
→ Rf’−CHCH−Si(OR) (IIc)
ただし、式中、Rf’はフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。
【0006】
製法1は、工業的に広く用いられている方法である。また、製法2は、原料の不飽和シラン化合物の入手が容易であり、かつ、ヨウ化フルオロアルキル付加も困難でないという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−130278号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第10301997号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、製法1は、原料であるHSiClの入手が困難であり、安全性の面からも取扱いが容易ではない。また、製法2は、ヨウ化フルオロアルキル付加物のヨウ素部位を水素に置換する還元反応において、収率が低く、高コストであるという問題があり、さらに、ハイドロシランまたはパラジウム/カーボン等を用いて加圧条件で反応を行わなければならないことから、安全性の面からも取扱いが容易ではない。
【0009】
そこで、本発明は、原料の入手および取り扱いが容易であるとともに、安全性が高い、アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、表面処理組成物の製造方法および表面処理された部材の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成により上記課題を解決できることを知得した。
【0011】
[1] 式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させる、式(3)で表される化合物の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
[2] 前記式(1)で表される化合物が、式(1−2)で表される化合物である、上記[1]に記載の製造方法。
Rf−Q−OCO−CH=CH (1−2)
式(1−2)中、各記号の意味は式(1)中におけるものと同じである。
[3] 前記Rfが炭素数6以下のポリフルオロアルキル基を表す、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記Qが直鎖状のアルキレン基である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5] 前記アミン化合物が3級アミンである、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6] 式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させて、式(3)で表される化合物を製造する化合物製造工程、および、
前記化合物製造工程で製造された式(3)で表される化合物を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程を備える、表面処理組成物の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
[7] 式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを、アミン化合物存在下で反応させて、式(3)で表される化合物を製造する化合物製造工程、
前記化合物製造工程で製造された式(3)で表される化合物を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程、および、
前記表面処理組成物製造工程で製造した表面処理組成物で部材の表面を処理する表面処理工程を備える、表面処理された部材の製造方法。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
ただし、式中、
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表し、
は、水素原子またはメチル基を表し、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、互いに同一であっても相違していてもよく、
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表し、
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表し、
n=2または3である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原料の入手および取り扱いが容易であるとともに、安全性が高い、アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、表面処理組成物の製造方法および表面処理された部材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔表面処理組成物、表面処理剤〕
本発明において、「表面処理組成物」を「表面処理剤」と称する場合がある。
また、本発明において、式(x)で表される化合物を「化合物(x)」という場合がある。例えば、化合物(1)、化合物(2)および化合物(1−2)は、それぞれ、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物および式(1−2)で表される化合物を意味する。
【0014】
〔「〜」を用いて表される範囲〕
さらに、本発明において、「〜」を用いて表される範囲はその両端を含む範囲を意味する。例えば、「A、B、C、D、E、F、G、H」というアルファベット順に並べられた文字列に対して「B〜F」は「B」から「F」までの文字、すなわち、「B、C、D、E、F」を表す。
【0015】
〔アリーレン基〕
本発明において、「アリーレン基」はアレーンから2個の環炭素原子のそれぞれ1個の水素原子を除去することにより生成される2価基を意味する。ただし、「アレーン」は単環式または多環式の芳香族炭化水素を意味する。
【0016】
〔アルキレン基〕
本発明において、「アルキレン基」(広義のアルキレン基)は、アルカンから2個の水素原子を除去することにより生成される2価基(狭義のアルキレン基、鎖状のアルキレン基)またはシクロアルカンから環炭素原子の2個の水素原子を除去することにより生成される2価基(シクロアルキレン基、環状のアルキレン基)を意味する。
鎖状のアルキレン基(鎖状アルキレン基)は、特に断りが無い限り、直鎖状のアルキレン基(直鎖状アルキレン基)および分岐鎖状のアルキレン基(分岐鎖状アルキレン基)のいずれであってもよい。
【0017】
〔(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリレート〕
また、本発明において、「(メタ)アクリル基」は「アクリル基」および「メタクリル基」を意味し、「(メタ)アクリロイル基」は「アクリロイル基」および「メタクリロイル基」を意味し、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は「アクリロイルオキシ基」および「(メタ)アクリロイルオキシ基」を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を意味する。
【0018】
〔エステル結合〕
本発明において、下記式で表される二価の基を「−OCO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化1】
【0019】
また、本発明において、下記式で表される二価の基を「−COO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化2】
【0020】
〔アミド結合〕
本発明において、下記式で表される2価の基を「−CONH−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化3】
また、本発明において、下記式で表される2価の基(アミド結合)を「−NHCO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化4】
【0021】
[アルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法]
本発明のアルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、後述する式(1)で表される化合物(以下、単に「化合物(1)」という場合がある。)と、後述する式(2)で表される化合物(以下、単に「化合物(2)」という場合がある。)とを、アミン化合物存在下で反応させる、後述する式(3)で表される化合物(以下、単に「化合物(3)」という場合がある。)の製造方法である。
【0022】
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させる際に、溶媒を共存させてもよい。また、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させる際の温度(以下、「反応温度」という場合がある。)および時間(以下、「反応時間」という場合がある。)を特定範囲内のものとしてもよい。さらに、化合物(1)と化合物(2)とアミン化合物の存在下で反応させて化合物(3)を合成した後、アミン化合物を除去するために、精製(以下、「反応後の精製」という場合がある。)を行ってもよい。
【0023】
〈式(1)で表される化合物〉
式(1)で表される化合物〔化合物(1)〕について、以下に説明する。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CR=CH (1)
式(1)中の各記号について、以下に説明する。
【0024】
《Rf》
Rfは、フルオロアルキル基またはフルオロポリエーテル基を表す。
ポリフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を意味する。
フルオロポリエーテル基は、ポリフルオロアルキル基の炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を意味する。
【0025】
上記ポリフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子で置換されたものであり、直鎖状構造であってもよいし、分岐鎖構造であってもよい。分岐構造である場合には、分岐部分がRfの末端部分に存在するものが好ましい。
アルキル基は、特に限定されないが、主鎖の炭素数が1〜6のアルキル基が好ましい。このような主鎖の炭素数が1〜6のアルキル基のうち、直鎖構造のアルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基)、ペンチル基(n−ペンチル基)、およびヘキシル基(n−ヘキシル基)であり、分岐鎖構造のアルキル基の具体例は、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、2−メチルプロピル基(イソブチル基)、1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、3−メチルブチル基(イソペンチル基)、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1−メチルブチル基(sec−ペンチル基)、1−エチルプロピル基(3−ペンチル基)、および1,1−ジメチルプロピル基(tert−ペンチル基)であるが、これらに限定されるものではない。
なお、アルキル基において、「主鎖の炭素数」および「主鎖炭素数」は、いずれも、アルキル基中の炭素原子のうちアルキル基以外の原子団と結合する炭素原子を末端とする、アルキル基中の最長の炭素原子鎖の炭素原子数を意味する。
【0026】
上記ポリフルオロアルキル基は、炭素数6以下のポリフルオロアルキル基が好ましく、具体例として、CF(CF−、CF(CF−、CFCF−、CF−、および(CFCH−が挙げられる。
【0027】
上記ポリフルオロアルキル基は、炭素数6以下のアルキル基の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基がより好ましく、具体例として、CF(CF−、CF(CF−、CFCF−、およびCF−が挙げられ、なかでも、CF(CF−が特に好ましい。
【0028】
上記ポリフルオロエーテル基は、上述したポリフルオロアルキル基の炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたものであれば、特に限定されない。
ポリフルオロエーテル基の具体例は、CF−O−CH−、CF−O−CHCH−、CFCF−O−CH−、CFCHO−(CFCHO)−、CFCH(CH)O−〔CFCH(CH)O〕−、CFO−[(CFO)−(CF(CF)CFO)]−、およびCFO−[(CFO)n−(CFCFO)]−であるが、これらに限定されるものではない。なお、化学式中、nおよびmは1以上の整数である。
上記ポリフルオロエーテル基の好ましい例は、CFCH(CH)O−〔CFCH(CH)O〕−、CFO−[(CFO)−(CF(CF)CFO)]−、またはCFO−[(CFO)n−(CFCFO)]−であるが、である。これらのうちでも、CFO−[(CFO)n−(CFCFO)]−が特に好ましい。
【0029】
《R
は、水素原子またはメチル基を表す。
本発明の製造方法におけるチオール−エン反応の反応性が良いこと、得られるアルコキシシリル基含有フッ素化合物の撥液性能が優れることから、Rは、水素原子であることが好ましい。
【0030】
《X》
Xは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表す。
Xは、単結合、−O−、またはエステル結合であることが好ましく、エステル結合であることがより好ましい。
【0031】
《Y》
Yは、単結合、−O−、エステル結合、またはアミド結合を表す。
Yは、単結合、−O−、またはエステル結合であることが好ましく、単結合であることがより好ましい。
【0032】
《Q
は、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、またはアリーレン基を表す。
【0033】
上記直鎖状のアルキレン基の例は、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−CHCH−)、およびトリメチレン基(−CHCHCH−)であるが、これらに限定されるものではない。
上記分岐鎖状のアルキレン基の例は、プロパン−1,2−ジイル基(−CH(CH)CH−)、プロパン−2,2−ジイル基((CHC<)、2−メチルプロパン−1,2−ジイル基、2−メチルプロパン1,2−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、およびブタン−1,3−ジイル基であるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
上記アリーレン基の具体例は、フェニレン基(1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基)、およびナフチレン基(1,5−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基)であるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
《Q
は、単結合、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキレン基、またはアリーレン基を表す。
直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基およびアリーレン基は、Qについて説明したとおりである。
【0036】
(環状のアルキレン基)
環状のアルキレン基の例は、シクロブタン−1,2−ジイル基およびシクロブタン−1,3−ジイル基等のシクロブタンジイル基、シクロペンタン−1,2−ジイル基およびシクロペンタン−1,3−ジイル基等のシクロペンタンジイル基、シクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,3−ジイル基およびシクロヘキサン−1,4−ジイル基等のシクロヘキサンジイル基、シクロヘプタン−1,2−ジイル基、ならびにシクロヘプタン−1,3−ジイル基およびシクロヘプタン−1,4−ジイル基等のシクロヘプタンジイル基であるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
《Q
は、単結合、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。
直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基は、Qについて説明したとおりである。
【0038】
《好ましい化合物(1)》
化合物(1)としては、式(1−2)で表される化合物〔化合物(1−2)〕が好ましい。
Rf−Q−OCO−CH=CH (1−2)
式(1−2)中、各記号の意味は式(1)中におけるものと同じである。
【0039】
《化合物(1)の具体例》
上記化合物(1)の具体例を表1に示すが、化合物(1)はこれらに限定されるものではない。
【0040】
【表1】
【0041】
〈式(2)で表される化合物〉
式(2)で表される化合物〔化合物(2)〕について、以下に説明する。
HS−Q−Si(OR(R3−n (2)
式(2)中の各記号について、以下に説明する。
【0042】
《Q
は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表す。
直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基は、Qについて説明したとおりである。なお、QはQと無関係であり、Qに依存しない。
【0043】
は、直鎖状のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜6の直鎖状アルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3の直鎖状アルキレン基であることがさらに好ましい。炭素数1〜3の直鎖状アルキレン基の具体例は、メチレン基(炭素数1)、エチレン基(炭素数2)、およびトリメチレン基(炭素数3)である。
【0044】
《R
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
複数のRは、互いに同一であってもよいし、相違していてもよい。
炭素数1〜3のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基)、および1−メチルエチル基(イソプロピル基)である。
上記Rは、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0045】
《R
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
炭素数1〜3のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基)、および1−メチルエチル基(イソプロピル基)である。
上記Rは、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0046】
《n》
n=2または3であり、n=3であることが好ましい。
【0047】
《化合物(2)の具体例》
上記化合物(2)の具体例を表2に示すが、化合物(2)はこれらに限定されるものではない。
【0048】
【表2】
【0049】
《化合物(2)の使用量》
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とを反応させる際の化合物(2)の量は、特に限定されないが、化合物(1) 1モルに対して、0.9モル〜1.1モルが好ましく、0.95モル〜1.05モルがより好ましく、1モルが特に好ましい。
【0050】
〈式(3)で表される化合物〉
式(3)で表される化合物〔化合物(3)〕について、以下に説明する。
Rf−Q−X−Q−Y−Q−CHR−CH−S−Q−Si(OR(R3−n (3)
式(3)中の各記号の意味は、式(1)および式(2)中の同一の記号と同じ意味である。
【0051】
《化合物(3)の具体例》
上記化合物(3)の具体例を表3に示すが、化合物(3)はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【表3-1】
【0053】
【表3-2】
【0054】
〈アミン化合物〉
アミン化合物は、本発明の製造方法において、触媒として使用される。
上記アミン化合物は、化合物(1)と化合物(2)との反応の進行を阻害することがなければ、特に限定されないが、3級アミンが好ましく、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、および1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、トリエチルアミンがより好ましい。
アミン化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
《アミン化合物の使用量》
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とを反応させる際のアミン化合物の量は、特に限定されないが、化合物(1) 1モルに対して、0.05モル〜2モルが好ましく、0.5モル〜1モルがより好ましい。
【0056】
〈溶媒〉
本発明の製造方法においては、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させる際に、原料である化合物(1)および化合物(2)と、反応触媒であるアミン化合物とを、溶媒中で反応させてもよい。
上記溶媒は、化合物(1)、化合物(2)、およびアミン化合物のいずれとも化学反応を起こさないものであり、化合物(3)の合成反応を阻害しないものであれば、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルおよび酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶媒、ならびにテトラヒドロフランおよび4−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒が挙げられる。
溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、およびテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、化合物(1)と化合物(2)に相溶性があるときは、必ずしも溶媒を使用しなくてもよく、溶媒を用いない(無溶媒)で、化合物(1)と化合物(2)を反応させることが好ましい。
また、溶媒を使用した場合において、反応終了後に溶媒が残留しているときは、溶媒を除去することが好ましい。溶媒を除去するための方法については、後述する。
【0057】
〈反応温度〉
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させる際の反応温度は特定範囲内のものであってもよい。
反応温度は、化合物(1)、化合物(2)、およびアミン化合物の種類によって適宜設定することができ、特に限定されないが、5℃〜100℃が好ましく、15℃〜60℃がより好ましく、20℃〜40℃がさらに好ましい。
【0058】
〈反応時間〉
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させる際の反応時間は特定範囲内のものであってもよい。
反応時間は、化合物(1)、化合物(2)、およびアミン化合物の種類によって適宜設定することができ、特に限定されないが、1時間〜24時間が好ましい。
【0059】
〈反応後の精製〉
本発明の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)とをアミン化合物の存在下で反応させて化合物(3)を合成した後は、反応系からアミン化合物を除去することが好ましい。アミン化合物の除去方法としては、アミン化合物が液状であれば減圧下で留去する方法が挙げられ、固体状であれば溶剤留去後に濾別する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
化合物(3)をより高純度で取得するためには、蒸留または減圧蒸留を行って、精製することが好ましい。
【0060】
[表面処理組成物の製造方法]
本発明の表面処理組成物の製造方法は、化合物(1)と、化合物(2)とを、アミン化合物存在下で反応させて、化合物(3)を製造する化合物製造工程、および、化合物製造工程で製造された化合物(3)を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程を備える、表面処理組成物の製造方法である。
【0061】
〈化合物製造工程〉
化合物製造工程は、上述した本発明のアルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法によって、化合物(3)を製造する工程である。
【0062】
〈表面処理組成物製造工程〉
表面処理組成物製造工程は、化合物製造工程で製造された化合物(3)を用いて表面処理組成物を製造する工程である。
【0063】
表面処理組成物製造工程においては、溶質を溶媒に溶解することが好ましい。
溶質を溶媒に溶解する際の溶質の終濃度は、特に限定されないが、20.0質量%以下が好ましく、0.05質量%〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜5質量%がさらに好ましい。なお、溶質は、表面処理組成物における溶質全体であり、化合物(3)に限定されるものではなく、化合物(3)以外の溶質を含むときは、化合物(3)および化合物(3)以外の溶質を含む意味である。
【0064】
《溶媒》
アルコキシシリル基含有フッ素化合物である化合物(3)を溶解する溶媒は、特に限定されないが、例えば、フッ素系溶媒、アルコール系溶媒、およびフッ素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒を挙げることができる。
【0065】
フッ素系溶媒は、特に限定されないが、環境面への配慮から、オゾン破壊係数がないハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびハイドロフルオロオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。フッ素系溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
アルコール系溶媒は、特に限定されず、希釈性および/または乾燥性に合わせて選択することができるが、常温での乾燥性がよい、炭素数1〜3の1価のアルコールが好ましく、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。アルコール系溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
フッ素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒は、フッ素系溶媒とアルコール系溶媒を混合したものであればよく、フッ素系溶媒とアルコール系溶媒の含有量および混合割合は、特に限定されない。
【0068】
フッ素系溶媒の市販品の例としては、旭硝子株式会社製のアサヒクリンAC6000およびAE3000、ならびにスリーエムジャパン株式会社製のNovec7100およびNovec7200が挙げられる。
【0069】
《触媒》
表面処理組成物製造工程においては、溶質および溶媒に加えて、さらに、触媒を混合してもよい。
触媒としては、例えば、塩酸およびパラトルエンスルホン酸等の酸触媒、水酸化ナトリウムおよびアンモニア等のアルカリ触媒、ならびにチタンアルコキシドおよびアルミニウムアルコキシド等の金属触媒が挙げられる。
【0070】
表面処理組成物が触媒を含有すると、アルコキシシリル基含有フッ素化合物である化合物(3)の加水分解および縮合反応を促進し、基材表面に、高い撥水・撥油性を発揮する強固なコーティング被膜を形成させることが可能になる。
【0071】
《その他の添加剤》
表面処理組成物製造工程においては、さらに、その他の添加剤を混合してもよい。
その他の添加剤の種類および量は、本発明の目的を損なわず、安定性、性能および外観等に悪影響を与えない範囲であれば、特に限定されない。
その他の添加剤の具体例としては、pH調整剤、防錆剤、防かび剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、および帯電防止剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
[表面処理された部材の製造方法]
本発明の表面処理された部材の製造方法は、化合物(1)と、化合物(2)とを、アミン化合物存在下で反応させて、化合物(3)を製造する化合物製造工程、化合物製造工程で製造された式(3)で表される化合物を用いて表面処理組成物を製造する表面処理組成物製造工程、および、表面処理組成物製造工程で製造した表面処理組成物で部材の表面を処理する表面処理工程を備える、表面処理された部材の製造方法である。
【0073】
〈化合物製造工程〉
化合物製造工程は、上述した本発明のアルコキシシリル基含有フッ素化合物の製造方法によって、化合物(3)を製造する工程である。
【0074】
〈表面処理組成物製造工程〉
表面処理組成物製造工程は、上述した本発明の表面処理組成物の製造方法によって、表面処理組成物を製造する工程である。
【0075】
〈表面処理工程〉
表面処理工程は、表面処理組成物製造工程で製造された表面処理組成物を用いて部材の表面を処理する工程である。
【0076】
本発明の表面処理組成物の製造方法によって製造した表面処理組成物(以下、「本発明の表面処理剤」という場合がある。)は、撥水性、防水性および撥油性等の性能を付与したい部分に塗布して被膜を形成して利用できる。この被膜は、本発明の表面処理剤から溶媒が除去されて形成されるものであり、主として、本発明の表面処理剤の溶質成分から形成されるものである。
【0077】
部材の表面を処理する方法についての限定は特になく、スポンジ、不織布または刷毛等を用いた塗布、スプレー、ロールコート、スピンコート、ディップコート、ディスペンサーまたはジェットディスペンサー等の方法を適宜採用することが可能である。
塗布後の乾燥方法が特に限定されることはなく、常温での室温乾燥、ヒーターや赤外線等による加熱乾燥、もしくはこれらの乾燥方法を併用などが挙げられる。
ガラスなど透明性が重視される基材の場合には、乾燥前または乾燥後に、洗浄溶剤で洗浄する工程、またはふき取りなどの工程を加えてもよい。
【0078】
《部材(被処理材)》
本発明の表面処理剤は、各種被処理材の表面処理に適用可能である。被処理材の具体例としては、樹脂、ガラス、石材、および金属が挙げられる。
また、被処理材は密着性を向上させる観点から、被処理材の表面がヒドロキシ基を有することが好ましい。被処理材の表面がヒドロキシ基を有していると、アルコキシシリル基含有フッ素化合物のアルコキシシリル基が、空気中の湿気によりシラノール基に変化し、被処理材の表面のヒドロキシ基と脱水縮合反応を起こし、被処理材の表面に強固なコーティング被膜、具体的にはフッ素被膜を形成することができる。
また、表面にヒドロキシル基を有していない、プラスチックまたは金属等の被処理材であっても適用可能はであるが、その場合には、前処理として、酸性もしくはアルカリ性の溶液による洗浄、シランカップリング剤の塗布、表面改質成分を含む薬剤塗布、または火炎表面処理を行うことにより、被処理材の表面にヒドロキシ基を導入することが好ましい。
【0079】
本発明の表面処理組成物で処理される具体的な部材の例としては、家屋、ビルディングなどの建築物や自動車、電車などの車両に設けられている窓ガラス、車両のバックミラー、洗面所、浴室などの鏡、インプリンティング用金型、射出成型用金型、採光部材、光学部材(反射防止膜、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡レンズ、ビームスプリッター、プリズム、鏡等)、太陽電池、タッチパネル、感光ドラム、定着ドラム、輸送機材用窓ガラス、建築用窓ガラス、各種フィルム(フィルムコンデンサ、ガラス窓用反射防止フィルム等)、ディスプレイ(液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションテレビ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等)の表示画面の表面に適用される光学機能性部材、ディスプレイの表示画面の表面に該光学機能性部材を貼り合わせた表示装置等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
〈本発明の表面処理剤の用途〉
本発明の表面処理剤の用途の具体例は、防汚(汚れ防止、落書き防止、指紋付着防止など、)、防水、防湿、腐食防止、潤滑オイルの染み出し防止、フラックス這い上がり防止、油性又は水性インクの付着防止、剥離促離型剤及び離型剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
以下の実施例で表面処理剤および比較表面処理剤を調製するために使用した化合物は、市販の試薬として入手することができるものまたは既知の合成法によって容易に合成できるものである。
【0083】
また、以下の実施例において、特に断わりのない限り「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。混合溶剤および含フッ素重合体を合成するために使用した化合物は、市場から容易に入手することができる化合物である。
【0084】
[アルコキシシリル基含有フッ素化合物の合成例]
実施例で使用した原料化合物を以下の表に示す。なお、表4中、化合物1はフッ素化合物を、化合物2はアルコキシシリル基含有化合物を意味する。
【0085】
【表4】
【0086】
各化合物は試薬として購入可能であり、販売先の一例を以下に示す。
C6F−C2−A 大阪有機化学工業社製
C4F−C2−A 富士フイルム和光純薬社製
C2F−C1−A 富士フイルム和光純薬社製
C1F−C1−A 富士フイルム和光純薬社製
HFIP−A 富士フイルム和光純薬社製
KBM803 信越化学社製
【0087】
〈実施例1〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
フラスコに、C6F−C2−A(化合物1)とTEA(トリエチルアミン;C6F−C2−Aに対して2倍モル)を仕込み、撹拌子を用いて、混合液を撹拌した。
室温(25℃)で、混合液を撹拌しながら、滴下ロートを用いて、KBM803(化合物2;C6F−C2−Aに対して1倍モル)をゆっくりと滴下して、C6F−C2−AとKBM803の反応を開始させた。
24時間後の反応率をガスクロマトグラフィーで確認した(後述)。
反応終了後、減圧下、バス温度40℃でTEAを留去して、下記式(3A)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3A)を得た。
【0088】
【化5】
【0089】
2.反応率
C6F−C2−AとKBM803の反応を開始させてから24時間後の反応率を、以下の分析条件でガスクロマトグラフィーを用いて測定したエリア化率から、下記の式により算出した。
反応率[%] = 100×[化合物3のエリア比率]/([化合物1のエリア比率]+[化合物3のエリア比率])
算出した反応率を表5の「反応率[%]」の欄に示す。
【0090】
(ガスクロマトグラフィーの分析条件)
測定機種: GC−2014(島津製作所製)
検出器: FID(水素炎イオン化検出器)
カラム: キャピラリーカラム DB−1
インジェクタ(INJ)温度: 200℃
ディテクタ(DET)温度: 250℃
カラム温度: 50℃(5分保持)→昇温速度10℃/分→250℃(10分保持)
キャリアガス: ヘリウム
打ち込み量: 1μL(オートサンプラー使用)
【0091】
3.GC純度
触媒留去後の化合物3について、上記の分析条件でガスクロマトグラフィーを用いて測定したエリア化率を、TEA留去後の化合物3のGC純度とした。
得られた化合物3のGC純度を表5の「GC純度[%]」の欄に示す。
【0092】
〈実施例2〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
C6F−C2−AをC4F−C2−Aに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、下記式(3B)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3B)を得た。
【0093】
【化6】
【0094】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0095】
〈実施例3〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
C6F−C2−AをC2F−C1−Aに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、下記式(3C)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3C)を得た。
【0096】
【化7】
【0097】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0098】
〈実施例4〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
C6F−C2−AをC1F−C1−Aに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、下記式(3D)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3D)を得た。
【0099】
【化8】
【0100】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0101】
〈実施例5〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
C6F−C2−AをHFIP−Aに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、下記式(3E)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3E)を得た。
【0102】
【化9】
【0103】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0104】
〈実施例6〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
TEAの仕込み量を、C6F−C2−Aに対して0.1倍モルに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、上記式(3A)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3A)を得た。
【0105】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0106】
〈実施例7〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
TEAの仕込み量を、C6F−C2−Aに対して0.5倍モルに変更した点を除いて、実施例1と同様に合成を実施して、上記式(3A)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3A)を得た。
【0107】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびTEA留去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0108】
〈実施例8〉
1.アルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3)の合成
フラスコに、C6F−C2−A(化合物1)とDABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン;C6F−C2−Aに対して0.5倍モル)とアセトン(C6F−C2−Aと同質量)を仕込み、撹拌子を用いて、混合液を撹拌した。
室温(25℃)で、混合液を撹拌しながら、滴下ロートを用いて、KBM803(化合物2;C6F−C2−Aに対して1倍モル)をゆっくりと滴下して、C6F−C2−AとKBM803の反応を開始させた。
24時間後の反応率をガスクロマトグラフィーで確認した(後述)。
反応終了後、減圧下、バス温度40℃でアセトンを留去した後、5Cの定性濾紙を用いて、析出したDABCOを濾別・除去して、式(3A)で表されるアルコキシシリル基含有フッ素化合物(化合物3A)を得た。
【0109】
2.反応率・GC純度
24時間後の反応率およびDABCO除去後の化合物3のGC純度を、実施例1と同様にして求めた。
得られた反応率およびGC純度を、それぞれ、表5の「反応率[%]」の欄および「GC純度[%]」の欄に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
[比較合成例]
比較合成例で使用した原料化合物を表6に示す。なお、表6中、化合物Xはフッ素化合物を、化合物Yはアルコキシシリル基含有化合物を意味する。
【0112】
【表6】
【0113】
各化合物は試薬として購入可能であり、販売先の一例を以下に示す。
C6F−C2−AL 東京化成工業株式会社
C1F−C1−AL 富士フイルム和光純薬社製
KBE9007N 信越化学社製
【0114】
〈比較合成例1〉
・化合物3Aの従来合成法
フラスコに、C6F−C2−A(化合物1)、KBM803(化合物2;C6F−C2−Aに対して1倍モル)、メチルエチルケトン(C6F−C2−Aと同重量)、ラジカル発生剤V−601(C6F−C2−Aに対して0.01倍モル)を仕込み、撹拌子を用いて、混合液を撹拌した。
その後、70℃で5時間反応を行った。反応率をガスクロマトグラフィーで確認したところ、反応率は99%以上であったが、C6F−C2−Aの2量体とKBM803が反応した副生成物を確認した。
反応終了後、減圧下で、バス温度60℃でメチルエチルケトンの留去を試みたが、高粘度となり留去が困難であった。
そこで、GC分析の結果から、溶剤であるメチルエチルケトンのピークを除いて純度を算出したところ、化合物3Aの約60%(残り約40%は副生成物)であった。
【0115】
〈比較合成例2〉
・C6F-U-Si(化合物R)の合成
フラスコに、C6F−C2−AL(化合物X)とTEA(トリエチルアミン;C6F−C2−ALに対して2倍モル)を仕込み、撹拌子を用いて、撹拌した。
室温(25℃)で、混合液を撹拌しながら、滴下ロートを用いて、KBE9007N(化合物Y;C6F−C2−ALに対して1倍モル)をゆっくりと滴下して、C6F−C2−ALとKBE9007Nの反応を開始させた。
24時間後、減圧下、バス温度40℃でTEAを留去して、下記式で表される化合物C6F−U−Si(化合物R)を得た。
F(CF-(CH-OCO-NH-(CH-Si(OC
実施例1と同様にして算出された化合物RのGC純度は、93.7%であった。
【0116】
〈比較合成例3〉
・C1F−U−Si(化合物S)の合成
フラスコに、C1F−C1−AL(化合物X)とTEA(トリエチルアミン;C1F−C1−ALに対して2倍モル)を仕込み、撹拌子を用いて、撹拌した。
室温(25℃)で、混合液を撹拌しながら、滴下ロートを用いて、KBE9007N(化合物Y;C1F−C1−ALに対して1倍モル)をゆっくりと滴下して、C1F−C1−ALとKBE9007Nの反応を開始させた。
24時間後、減圧下、バス温度40℃でTEAを留去して、下記式で表される化合物C1F−U−Si(化合物S)を得た。
CF-CH-OCO-NH-(CH-Si(OC
実施例1と同様にして算出された化合物SのGC純度は、92.8%であった。
【0117】
[表面処理組成物の製造と評価]
〈実施例11〜23、比較例1〜9〉
表7(実施例11〜23)および表8(比較例1〜9)に示す各化合物をそれぞれの配合量で混合して、表面処理組成物を製造した。
【0118】
《接触角の測定》
(試験片の作成)
実施例11〜23および比較例1〜9の表面処理組成物のそれぞれについて、ガラス板を表面処理組成物に1分間浸漬して、取り出し、室温で乾燥させた。その後、120℃で5分間乾燥して、被膜を有するガラス板(被膜付ガラス板)を作製した。
【0119】
(水またはノルマルヘキサデカンに対する接触角の測定)
作製した被膜付ガラス板のそれぞれについて、表面に水3μLを着滴させ、自動接触角計OCA−20(データフィジックス社製)を用いて接触角を測定した。
同様にして、ノルマルヘキサデカン(HD)に対する接触角も測定した。
測定結果を表7および表8の「接触角[度」」の欄に示す。
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
表6、表7中の各化合物は以下のとおりである。
化合物3A 実施例1で合成した化合物3A
化合物3B 実施例2で合成した化合物3B
化合物3C 実施例3で合成した化合物3C
化合物3D 実施例4で合成した化合物3D
化合物3E 実施例5で合成した化合物3E
化合物P (1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロオクチル)トリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)
化合物Q 3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 KBM−7103)
化合物R 比較合成例2で合成した化合物R
化合物S 比較合成例3で合成した化合物S
D25 D−25(チタン系,信越化学社製)
DX9740 DX−9740(アルミ系,信越化学社製)
IPA イソプロピルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)
AE3000 アサヒクリンAE−3000(AGC社製)
7200 Novec 7200(3M社製)
AC6000 アサヒクリンAC−6000(AGC社製)
【0123】
[結果の説明]
Rf基(ポリフルオロアルキル基)の構造がC13である化合物3A、C6F−C2−Si、C6F−U−Siを比較する。
化合物3Aは、従来使用されているC6F−C2−Siに比べ、取り扱いやすく入手が容易な原材料を用いて、穏やかな条件で簡単に製造することができ、表面処理剤としたきの撥水撥油性能は同等以上である。
一方、C6F−U−Siは、化合物3A同様に容易に製造できるが、表面処理剤としたきの撥水撥油性能は化合物3AやC6F−C2−Siより劣る。このことから、同じRf基の構造(C13)を有しているが、化合物3AとC6F−U−Siでは、表面処理剤としたきの撥水撥油性能に差異があり、本発明から得られる化合物3Aの構造が優れていることがわかる。
【0124】
同様にRf基の構造がCFである化合物3D、C1F−C1−Si、C1F−U−Siの性能をしても、本発明から得られる化合物3Dは、表面処理剤としたきの撥水撥油性能はC1F−U−Siよりも優れ、C1F−C1−Siと同等以上であることが確認できる。
【0125】
本発明は、取り扱いやすく入手が容易な原材料を用いて、穏やかな条件で簡単にアルコキシシリル基含有フッ素化合物を得ることができ、また、本発明から得られる表面処理組成物は撥水撥油性も優れていることがわかる。