【課題】 この発明は、打設コンクリートの外縁部だけでなく内部に対しても給熱して養生温度を上げることにより、打設コンクリート全体の水和反応を促進して養生期間を短縮することができる寒中コンクリートの給熱養生方法及びこれを用いたコンクリート製品の製造方法並びに寒中コンクリートの給熱養生装置を得ることを課題とする。
【解決手段】 この発明は、寒中コンクリートの給熱養生方法であって、コンクリートCが打設される型枠4内に中空パイプ5を配設し、前記型枠4内にコンクリートCを打設した後、前記中空パイプ5に温水を送水して前記型枠4内に打設されたコンクリートCの全体を加熱するものとして構成する。
請求項1ないし3の何れか記載の寒中コンクリートの給熱養生方法を用いてコンクリートを養生した後、前記コンクリートに埋設された中空パイプ内に充填材を充填することを特徴とする、コンクリート製品の製造方法。
型枠内に配設される中空パイプは、配設間隔が外縁部領域において密、中心部領域において粗となるように、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に次第に間隔を拡げて配設された、
請求項5記載の寒中コンクリートの給熱養生装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、冬季など日平均気温が4℃より低い環境下でコンクリートを施工する場合、セメントの水和反応が阻害されて硬化が遅れ、コンクリートの強度発現が遅くなることが知られている。また、コンクリート硬化の初期段階において、コンクリート温度が−0.5〜−2℃程度まで下がると、コンクリートが凍結して初期凍害が発生するおそれがある。低温によるコンクリートの強度発現の遅れは工期の遅れに直結し、また、初期凍害が発生したコンクリートは強度や耐久性等の品質の面で劣るものとなるという問題がある。
【0003】
このため、日平均気温が4℃以下になることが予想される場合、寒中コンクリートとして施工を行うものとされており、低温の影響からコンクリートを守るために、通常、保温養生や給熱養生が行われている。
【0004】
保温養生は、打設したコンクリートをシートや断熱材で覆い、セメントの水和反応によって発生する熱(水和熱)を利用して所定の強度が得られるまで保温する方法であるが、気温が著しく低い場合には熱量が不足して、適温に保つことが困難である。
【0005】
給熱養生は、保温のみでは養生温度を確保できない場合や、コンクリートが凍結するおそれがある場合に、コンクリートに熱を与えて養生する方法である。具体的には、打設コンクリートを断熱防水シートなどで覆い、さらにこの打設コンクリート全体を覆うように養生上屋を仮設し、その内部空間をジェットヒーターやストーブ等の加熱装置を用いて暖めることによって打設コンクリートを加熱する方法が一般的である。
【0006】
しかしながら、このような従来の給熱養生方法は、養生上屋の設置や解体に手間がかかるうえ、その内部空間全体を加熱しなければならないため熱効率が悪く、さらには、内部空間全体を均一な温度にすることも困難であるため、部分的に温度差ができてコンクリートにクラックが発生するおそれもある。
【0007】
この点、特開平7−243260号公報には、コンクリートを打設施工する際、打設コンクリートの中心部に熱移送体を通過させて当該コンクリートのセメント水和反応により生じる水和熱をこの熱移送体に吸収させ、水和熱を吸収して暖まった熱移送体を打設コンクリートの周辺部に通過させて打設コンクリート周辺部を加熱するコンクリートの養生方法、および、打設コンクリートの中心部に発生する水和熱を吸収した熱移送体をヒーターで加熱してさらに温度を上げた状態にして打設コンクリート周辺部を通過させて打設コンクリート周辺部を加熱する養生方法が開示されている。
【0008】
このコンクリート養生方法によれば、打設コンクリート周辺部は、中心部に発生した水和熱(あるいはこの水和熱をヒーターで暖めた熱)を利用して加熱されるので、熱効率よく凍結を防止することができる。また、打設コンクリート中心部に発生した水和熱が周辺部に移送されるので、打設コンクリートの中心部と周辺部の温度差も小さくなり、クラックの発生を可及的に防止することもできる。
【0009】
しかしながら、このコンクリート養生方法では、打設コンクリートの周辺部の凍結を防止することができても、打設コンクリート全体の水和反応は促進されないため、打設コンクリートの強度発現に時間がかかり、養生期間を短縮することができない。すなわち、冬場などの低温時には、セメントの水和反応が低下するところ、打設コンクリートの中心部に発生する水和熱の一部を周辺部に移送することにより、凍結を防止できる程度に打設コンクリート周辺部を暖めることができたとしても、中心部に対して給熱が行われることがないため、打設コンクリート全体の養生温度は低温のままとなり、水和反応を促進することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、打設コンクリートの外縁部だけでなく内部に対しても給熱して養生温度を上げることにより、打設コンクリート全体の水和反応を促進して養生期間を短縮することができる寒中コンクリートの給熱養生方法及びこれを用いたコンクリート製品の製造方法並びに寒中コンクリートの給熱養生装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、寒中コンクリートの給熱養生方法であって、コンクリートが打設される型枠内に中空パイプを配設し、前記型枠内にコンクリートを打設した後、前記中空パイプに温水を送水して前記型枠内に打設されたコンクリートの全体を加熱するものとして構成する。
【0013】
請求項2の発明は、型枠内に打設されたコンクリートを、前記打設コンクリートの中心からの距離に応じて中心部領域、中間部領域、外縁部領域に区画分けし、中空パイプの配管経路を、前記打設コンクリートの外縁部から中心部に向けて、前記外縁部領域、前記中間部領域、前記中心部領域の順に温水が送水されるように設定することを特徴とする。
【0014】
前記打設コンクリートの区画分けは、前記型枠の内周の平面視形状に応じて、中心部領域、中間部領域、外縁部領域を同心上に設定したり、前記型枠内周の平面視形状を中心線で二等分し、中心線から外縁方向に向かって中心部領域、中間部領域、外縁部領域をそれぞれ短冊状に設定することなどが考えられる。例えば、型枠内周の平面視形状が正方形である場合には、型枠内周よりも小さい正方形状の中心部領域を型枠内周の中心に設定し、この中心部領域の外側に一回り大きなロ字状の中間部領域を、さらにその外側にもう一回り大きなロ字状の外縁部領域を設定することなどが考えられ、また、型枠内周の平面視形状が長方形である場合には、当該長方形を長手方向の中心位置で二等分し、その中心線から外縁方向に向かって中心部領域、中間部領域、外縁部領域を所定幅の短冊状に設定することなどが考えられる。
【0015】
請求項3の発明は、打設コンクリートの養生温度が60℃以上にならないようにしたことを特徴とする。ここで、養生温度とは、打設コンクリートの養生時の雰囲気温度ないしコンクリート内部の温度をいう。前記養生温度が60℃以上にならないようにする方法としては、例えば、前記打設コンクリートの内部や表面に温度センサーを配設し、この温度センサーで測定した養生中の打設コンクリートの内部温度や表面温度に応じて、中空パイプに送水される温水の温度や送水量を制御することが考えられる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れか記載の寒中コンクリートの給熱養生方法を用いてコンクリートを養生した後、前記コンクリートに埋設された中空パイプ内に充填材を充填することを特徴とするコンクリート製品の製造方法として構成する。前記充填材としては、前記中空パイプ内に充填された後、硬化するものであればよく、例えば、モルタルや合成樹脂、建築用接着材等を用いることが考えられる。
【0017】
請求項5の発明は、コンクリートが打設される内部空間に中空パイプが配設された型枠と、前記中空パイプに温水を送水するための温水供給手段とを備え、前記型枠の内部空間は、前記内部空間の中心からの距離に応じて中心部領域、中間部領域、外縁部領域に区画分けし、前記中空パイプは、前記外縁部領域、前記中間部領域、前記中心部領域の順に前記温水が送水されるように配設した寒中コンクリートの給熱養生装置として構成する。
【0018】
前記型枠の内部空間の区画分けは、前記型枠の内周の平面視形状に応じて、中心部領域、中間部領域、外縁部領域を同心上に設定したり、前記型枠内周の平面視形状を中心線で二等分し、中心線から外縁方向に向かって中心部領域、中間部領域、外縁部領域をそれぞれ短冊状に設定することなどが考えられる。例えば、型枠内周の平面視形状が正方形である場合には、型枠内周よりも小さい正方形状の中心部領域を型枠内周の中心に設定し、この中心部領域の外側に一回り大きなロ字状の中間部領域を、さらにその外側にもう一回り大きなロ字状の外縁部領域を設定したり、また、型枠内周の平面視形状が長方形である場合には、当該長方形を長手方向の中心位置で二等分し、その中心線から外縁方向に向かって中心部領域、中間部領域、外縁部領域を所定幅の短冊状に設定したりすることなどが考えられる。
【0019】
前記温水供給手段は、型枠内に配設された中空パイプに温水を送水することができるものであればよいが、温水を沸かすためのヒーターを備えていてもよい。また、型枠内に配設された中空パイプに送水され、打設コンクリートの外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に流れて各領域に給熱して温度が下がった温水、すなわち、前記型枠内に打設されたコンクリートの給熱養生に一旦使用された温水を回収して加熱したうえで再度中空パイプに送水することができる循環式温水ヒーターを用いることもできる。
【0020】
請求項6の発明は、前記型枠内に配設される中空パイプは、配設間隔が外縁部領域において密、中心部領域において粗となるように、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に次第に間隔を拡げて配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、コンクリートが打設される型枠内に中空パイプを配設し、前記型枠内にコンクリートを打設した後、前記中空パイプに温水を送水して前記型枠内に打設されたコンクリートの全体を加熱するようにしたので、打設コンクリートの外縁部だけでなく内部に対しても給熱して養生温度を上げることができ、これにより、打設コンクリート全体の水和反応を促進させて養生期間を短縮することができる。また、打設コンクリート内に配設された中空パイプに温水を送水することにより打設コンクリートの内部から直接打設コンクリートに給熱しているので、熱効率がよく、養生上屋を設ける必要もない。
【0022】
請求項2の発明によれば、型枠内に打設されたコンクリートを、前記打設コンクリートの中心からの距離に応じて中心部領域、中間部領域、外縁部領域に区画分けし、中空パイプの配管経路を、前記打設コンクリートの外縁部から中心部に向けて、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に温水が送水されるように設定したので、打設コンクリートの内部に生じる水和熱の温度分布に応じて適切な給熱を行うことができる。すなわち、セメントの水和反応によって生じる水和熱は、打設コンクリートの外縁側ほど放熱されやすく、型枠内に打設されたコンクリートは中心側から外縁側にかけて次第に温度が低くなるような温度分布となっているところ、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に温度の低い方から比較的高い方に向かって温水を送水することで、最も温度の低い外縁部領域において、最も温度の高い状態の温水を用いて熱交換が行われ、次いで、外縁部領域よりも温度の高い中間部領域において、外縁部領域における熱交換により若干温度が低下した温水を用いて熱交換が行われ、最後に、水和熱によって比較的温度の高い中心部領域において、中間部領域での熱交換によってさらに温度が低下した温水を用いて熱交換が行われることになる。このとき、水和熱によって他の領域よりも温度が高くなっている中心部領域を通過する温水の温度は、外縁部領域及び中間部領域における熱交換によって十分低下しているので、中心部領域に対して過度な給熱が行われることはない。これにより、打設コンクリートの各領域の温度に応じて適切な熱量の給熱を行いつつ、各領域間の温度の平準化を行うことができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、 打設コンクリートの養生温度が60℃以上にならないようにしたので、コンクリートの圧縮強度の低下を回避することができる。すなわち、打設コンクリートの養生温度が60℃になると、エトリンガイド遅延生成やエトリンガイドからモノサルフェートへの転移等が生じてコンクリートの圧縮強度が弱くなることから、養生温度が60℃以上にならないように温度制御することで、コンクリートの圧縮強度の低下を防止することができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3の何れか記載の寒中コンクリートの給熱養生方法を用いてコンクリートを養生した後、前記コンクリートに埋設された中空パイプ内に充填材を充填してコンクリート製品を製造するようにしたので、コンクリート内の中空パイプの内部空間を塞ぐことで、コンクリート製品の強度の低下を防止することができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、コンクリートが打設される内部空間に中空パイプが配設された型枠と、前記中空パイプに温水を送水するための温水供給手段とを備え、前記型枠の内部空間は、前記内部空間の中心からの距離に応じて中心部領域、中間部領域、外縁部領域に区画分けし、前記中空パイプは、前記外縁部領域、前記中間部領域、前記中心部領域の順に前記温水が送水されるように配設して寒中コンクリートの給熱養生装置を構成したので、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に温度の低い方から比較的高い方に向かって温水を送水することで、最も温度の低い外縁部領域に最も温度の高い状態の温水を、次いで、外縁部領域よりも温度の高い中間部領域に外縁部領域での熱交換により若干温度が低下した温水を、最後に、中間部領域よりも温度の高い中心部領域に中間部領域での熱交換によってさらに温度が低下した温水を通過させて熱交換を行うことができる。このとき、水和熱によって他の領域よりも温度が高くなっている中心部領域を通過する温水の温度は、外縁部領域及び中間部領域における熱交換によって十分低下しているので、中心部領域に対して過度な給熱が行われることはない。これにより、打設コンクリートの各領域の温度に応じて適切な熱量の給熱を行いつつ、各領域間の温度の平準化を行うことができる。
【0026】
請求項6の発明によれば、型枠内に配設される中空パイプは、配設間隔が外縁部領域において密、中心部領域において粗となるように、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に次第に間隔を拡げて配設したので、厚さが600mm以上となるような厚みのあるコンクリートを打設する際に好適である。すなわち、セメントの水和反応によって生じる水和熱は、コンクリートの厚さが厚いほど外部に放出されにくくなるのに対して外縁部は外気によって常時冷やされるため、打設コンクリートの中心部と外縁部との温度差が大きくなるところ、温水の通り道となる中空パイプの配設間隔を、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の順に次第に密から粗となるように配設しておくことで、中空パイプを流れる温水から打設コンクリートの各領域への給熱量を、外縁部領域においてより大きく、中心部領域においてより小さくすることができる。これにより、打設コンクリートの中心部と外縁部との温度差が大きい場合でも、外縁部領域、中間部領域、中心部領域の各領域間の温度の平準化を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、この発明の寒中コンクリート給熱養生方法の第1の実施例に用いられる給熱養生装置1の概要を示す図である。
【0029】
1枚の長方形状の底板2の長辺側に長辺側側板31,31を、短辺側に短辺側側板32,32をそれぞれ取り付けることにより、上部が開口した箱状の型枠4が構成されている。コンクリートCが打設されるこの型枠4の内部空間は、長辺側の長さが約3000mm、短辺側の長さが約2000mm、高さが約300mmの大きさに形成され、長辺側の垂直中心線Mから両側の短辺22,22側方向に、垂直中心線Mからの距離に応じてそれぞれ中心部領域41,41、中間部領域42,42、外縁部領域43,43に仮想的に区画分けされている。
【0030】
この中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域には、樹脂製の中空パイプ5が、2本ずつ等間隔に、各中空パイプ5の両端が長辺側側板31,31の外側に突出した状態となるようにして、長辺側側板31,31間に掛け渡して取り付けられている。すなわち、型枠4の長辺側側板31には、中空パイプ5を挿通するための孔(図示は省略)が形成されており、この孔に中空パイプ5を挿入することによって、中空パイプ5が長辺側側板31,31間に掛け渡して取り付けられている。
【0031】
そして、中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域に配設された中空パイプ5は、外縁部領域43から中間部領域42、中間部領域42から中心部領域41にかけて一本の流路が構成されるよう、型枠4の外側に突出した中空パイプ5の隣り合う端部同士が連結パイプ6を用いて連結されている。
【0032】
さらに、外縁部領域43に配設された最も短辺側側板32側の中空パイプ5の一端53に給水ホース7が、中心部領域41に配設された最も垂直中心線M側の中空パイプ5の一端51に排水ホース8が、それぞれ接続されている。また、給水ホース7の他端は循環式温水ヒーター9の出力側に、排水ホース8の他端は循環式温水ヒーター9の入力側に、それぞれ接続されている。
【0033】
循環式温水ヒーター9は、温水を沸かして型枠4内の中空パイプ5に送水するための装置であり、出力側に接続された給水ホース7に温水を出力し、入力側に接続された排水ホース8から入力された排水を沸かし直し、沸かし直された温水を再び出力側から給水ホース7に出力するようにしてある。
【0034】
また、循環式温水ヒーター9には、打設コンクリートの所定位置に配設して養生温度を測定するための温度センサーSが複数接続されており、この温度センサーSで測定された温度に応じて、出力される温水の温度や送水量(停止や停止後の再送水も含む)を自動的に調整する機能を備えている。なお、温度センサーSと循環式温水ヒーター9との接続は無線で行うようにしてもよい。
【0035】
以下、この発明の寒中コンクリート給熱養生方法の第1の実施例を説明する。
まず、型枠4の内部空間にコンクリートCを打設し、打設されたコンクリートCの中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の内部と表面にそれぞれ温度センサーSを配設した後、断熱シート10で型枠4ごと打設コンクリートCの全体を覆う。ここで、コンクリートCの内部に配設された温度センサーSは打設コンクリートCの内部温度の測定を、表面に配設された温度センサーSは打設コンクリートC表面の雰囲気温度の測定をそれぞれ担当する。
【0036】
次いで、給熱養生装置1の循環式温水ヒーター9を稼働して約60℃の温水を沸かし、出力側から給水ホース7を介して型枠4の外縁部領域43の短辺側側板32側に配設された中空パイプ5に送水する。型枠4の各領域内に配設された中空パイプ5は、連結パイプ6でそれぞれ連結され、外縁部領域43から中間部領域42、中間部領域42から中心部領域41にかけて一本の流路が構成されているので、外縁部領域43の短辺側側板32側に配設された中空パイプ5に送水された温水は、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に各領域内を流れ、中心部領域41の最も垂直中心線M側に配設された中空パイプ5の端部51から排水されて、排水ホース8を介して循環式温水ヒーター9の入力側に戻される。そして、循環式温水ヒーターに戻された排水をヒーターで加熱して約60℃の温水を作り、再び出力側から給水ホース7を介して型枠4の外縁部領域43の短辺側側板32側に配設された中空パイプ5に送水する。
【0037】
また、循環式温水ヒーター9は、型枠4に打設されたコンクリートCの中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の内部と表面にそれぞれ配設された温度センサーSが測定した温度の測定値に基づいて温水の温度や送水量を調節する機能を備えており、養生温度が60℃以上とならないよう、例えば、温度センサーSの測定値が一つでも50℃を超えた場合に、出力する温水の温度を下げたり、一時的に送水を停止させたりするなどして、温水の温度や送水量を自動的に制御するようになっている。
【0038】
図2は、給熱養生装置1を稼働する前の打設コンクリートC内部の温度分布を示す図である。
図2(a)は平面側から見た概要図、
図2(b)は(a)図のA−A断面の概要図である(以下、(a)図と(b)図の関係は、
図3以下の各図において同じ。)。
すなわち、型枠4に打設されたコンクリートCは、セメントの水和反応により水和熱が発生するが、外気温の影響を受ける外縁側ほど水和熱がコンクリートCの外部に放出されやすいため、中心部から外縁側にかけて次第に温度が低くなるような温度分布となっている(図中、温度分布は濃淡のグラデーションで示しており、色が濃いほど温度が高いことを表している。以下、温度分布を示す各図において同じ。)。
【0039】
図3は、給熱養生装置1を稼働して温水を送水し、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に温水を通過させることにより打設コンクリートC内部に与える熱量の分布を示す図である。すなわち、循環式温水ヒーター9から出力された温水は、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に温度の低い方から比較的高い方に向かって送水されるので、各領域においてコンクリートCとの間で熱交換が行われて温水の温度が次第に低下する。このため、中空パイプ5を通る温水の各領域のコンクリートCに対する給熱量は、外縁部領域43で最も大きく、中間部領域42、中心部領域41の順に次第に小さくなっていく(図中、熱量分布は濃淡のグラデーションで示しており、色が濃いほど熱量が大きいことを表している。以下、熱量分布を示す図において同じ。)。
【0040】
このように、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に温度の低い方から高い方に向かって温水を送水することで、最も温度の低い外縁部領域43において、最も温度の高い状態の温水を用いて熱交換を行い、次いで、外縁部領域43よりも温度の高い中間部領域42において、外縁部領域43における熱交換により若干温度が低下した温水を用いて熱交換を行い、最後に、水和熱によって比較的温度の高い中心部領域41において、中間部領域42での熱交換によってさらに温度が低下した温水を用いて熱交換を行うことができる。このとき、他の領域よりも温度が高い中心部領域41を通過する温水の温度は、外縁部領域43及び中間部領域42における熱交換によって十分低下しているので、中心部領域41に対して過度な給熱が行われることはない。これにより、
図4に示すように、打設コンクリートCの各領域の温度に応じて適切な熱量の給熱を行いつつ、各領域間の温度の平準化を行うことができる。
【0041】
そして、打設コンクリートCの外縁側だけでなく内部に対しても給熱して全体の養生温度を上げることができるので、打設コンクリートCの水和反応が促進されて初期強度の発現が早まり、養生期間を短縮することができる。
【0042】
また、打設コンクリートCに対する給熱は、打設コンクリートC内部の中空パイプ5から熱が直接打設コンクリートCに伝搬するように行われているので、熱効率がよく、養生する際に養生上屋を仮設する必要もない。
【0043】
さらに、打設コンクリートCの養生温度が60℃以上にならないようにしてあるので、エトリンガイド遅延生成やエトリンガイドからモノサルフェートへの転移等の発生が未然に防止され、コンクリートCの圧縮強度の低下を回避することができる。
【0044】
図5は、養生終了後に型枠4を解体して得たコンクリート製品の図である。すなわち、打設コンクリートCの養生の完了後、連結パイプ6、給水ホース7、排水ホース8を取り外して型枠4を解体することにより、硬化したコンクリートCが得られる。このコンクリートCは、中空パイプ5が埋設された状態で硬化しており、そのままではコンクリートCの強度に影響を及ぼすおそれがあることから、中空パイプ5にモルタルなどの充填材Fを充填して中空パイプ5の内部空間を塞いでコンクリート製品を完成させる。このように中空パイプ5内を充填材Fで塞ぐことにより、養生終了後にコンクリートC内に残置された中空パイプ5によってコンクリートCの強度が低下することを防ぐことができる。また、温度センサーSもコンクリートC内に残置したままとしてあるが、この温度センサーSは小さいのでコンクリートCの強度にほとんど影響することはない。
【0045】
図6ないし8は、第1の実施例(中心部領域、中間部領域、外縁部領域の区画分けを短冊状に設定した場合の給熱養生方法及び給熱養生装置)における型枠4への中空パイプ5の配設構成の変形例1ないし3の概要を示す図である。なお、各図において温度センサーSの図示は省略してある。
【0046】
図6は変形例1の概要を示す図であり、型枠4内に配設される中空パイプ5が略つづら折り状に屈曲した一本のパイプからなり、その直線部分が外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の各領域においてそれぞれ2本ずつ配設され、給水ホース7に接続される中空パイプ5の給水側端部53と排水ホース8に接続される中空パイプ5の排水側端部51とがそれぞれ型枠4の開口部上方に屈曲して打設コンクリート面から突出するようにして構成したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0047】
この変形例によれば、中空パイプ5を型枠4内に配設するに際し、型枠4の側板に孔を形成して中空パイプ5を挿通して掛け渡したり、中空パイプ5の端部同士を連結パイプ6で連結したりする必要がなく、また、養生後に型枠4を解体する際も容易に解体作業を行うことができる。その他の効果は実施例1と同じである。
【0048】
図7は変形例2の概要を示す図であり、型枠4内に配設される中空パイプ5が略つづら折り状に屈曲した一本のパイプからなり、その直線部分が外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の各領域においてそれぞれ2本ずつ配設された点は上記変形例1と同様であるが、給水ホース5と接続される中空パイプ5の給水側端部53と排水ホース8と接続される排水側端部51とをそれぞれ型枠4の長辺側側板31の外側に突出させて構成したものである。その他の構成は変形例1と同様である。
【0049】
この変形例によれば、中空パイプ5を型枠4内に配設するに際し、型枠4の側板に孔を形成して中空パイプ5を挿通して掛け渡したり、中空パイプ5の端部同士を連結パイプ6で連結したりする必要がなく、また、養生後に型枠4を解体する際には、長辺側側板31の外側に突出した2本の中空パイプ5を切断するだけでよい。また、型枠4の高さを増して厚みのあるコンクリート製品を製造する際、中空パイプ5を上下方向に複数段配設することもできる。その他の効果は実施例1と同様である。
【0050】
図8は変形例3の概要を示す図であり、型枠4内に配設される中空パイプ5が略つづら折り状に屈曲した一本のパイプからなり、その両端部がそれぞれ型枠4の開口部上方に屈曲して打設コンクリート面から突出するようにした点は上記変形例1と同様であるが、型枠4の内部空間の高さを600mm程度とし、中空パイプ5の直線部分が外縁部領域43において3本、中間部領域42において2本、中心部領域41において1本ずつ、その配設間隔が外縁部領域43から中心部領域41にかけて次第に密から粗になるように構成されている。
【0051】
この変形例によれば、中空パイプ5を流れる温水から打設コンクリートCの各領域に供給される給熱量を、外縁部領域43においてより大きく、中心部領域41においてより小さくすることができる。これにより、厚みの影響などにより打設コンクリートの中心部と外縁部との温度差が大きい場合でも、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の各領域間の温度の平準化を行うことができる。その他の効果は変形例1と同じである。
【0052】
図9は、この発明の寒中コンクリート給熱養生方法の第2の実施例における中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の区画分け及び中空パイプ5の配設の概要を示す図である。
【0053】
1枚の正方形状の底板2の各辺に4枚の側板3をそれぞれ取り付けることにより、上部が開口した箱状の型枠4が構成されている。コンクリートCが打設されるこの型枠4の内部空間は、平面視4辺の長さがそれぞれ約2000mm、高さが約300mmの大きさに形成され、平面視中心から外縁側方向に、中心点Oからの距離に応じて正方形状の中心部領域41、ロ字状の中間部領域42、ロ字状の外縁部領域43に仮想的に区画分けされている。
【0054】
この型枠4の内部空間には、1本の樹脂製の中空パイプ5が、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に各領域の形状に沿って渦を巻くようにして配設されている。この中空パイプ5の一端53は外縁部領域43の隅部において、他端51は中心部領域41の一側において、それぞれ型枠4の開口部上方に屈曲して打設コンクリート面から突出するようになっている。
【0055】
そして、この中空パイプ5の外縁部領域43側端部53には給水ホース7が、中心部領域41側端部51には排水ホース8がそれぞれ接続され、給水ホース7の他端は循環式温水ヒーター9の出力側に、排水ホース8の他端は循環式温水ヒーター9の入力側にそれぞれ接続されている。循環式温水ヒーター9の構成は実施例1と同様である。
【0056】
さらに、型枠4に打設されたコンクリートCの中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の内部と表面には、それぞれ温度センサーSが平面視十字状に配設され、コンクリートC内部に配設された温度センサーSは打設コンクリートCの内部温度を、表面に配設された温度センサーSは打設コンクリートC表面の雰囲気温度を、それぞれ測定するようにしてある。
【0057】
上述の通り、第2の実施例の寒中コンクリート給熱養生方法にあっては、中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の区画の分け方と、中空パイプ5の配設方法とが第1の実施例と異なるものの、循環式温水ヒーター9を稼働させて外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に温水を送水することで、型枠4の内部空間に打設されたコンクリートCに対して給熱養生を行う点は第1の実施例の場合と同様である。
【0058】
図10は、給熱養生装置1を稼働する前の打設コンクリートC内部の温度分布を示す図であり、また、
図11は、給熱養生装置1を稼働して温水を送水し、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の順に温水を通過させることで打設コンクリートC内部に給熱される熱量の分布を示す図である。そして、
図12は、この実施例の給熱養生方法による打設コンクリートC内部の温度上昇の様子を示す図である。
【0059】
本実施例の場合、中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域が中心点Oの同心上に区画分けされるとともに、中空パイプ5が、外縁部から中心部に向かって各領域の形状に沿って渦を巻くように配設されているので、打設コンクリートCの4つの周縁部から中心方向に向かって給熱することができ、打設コンクリートCの温度分布(外縁部は低く、中心部にかけて次第に高くなっていくという温度分布)に適切に対応することができる。その他の効果は、第1の実施例と同様である。
【0060】
図13ないし16は、第2の実施例(中心部領域、中間部領域、外縁部領域の区画分けを同心上に設定した場合の給熱養生方法及び給熱養生装置)における型枠4への中空パイプ5の配設構成の変形例1ないし3の概要を示す図である。
【0061】
図13は変形例1の概要を示す図であり、型枠4の形状を平面視長方形状に構成し、中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の平面視形状を型枠4の平面視形状に応じて変更した点以外は実施例2と同様である。
【0062】
この変形例によれば、垂直中心線M近傍の外縁部領域43においても高い温度の温水を通すことができるので、実施例1と比較して温度ムラが生じにくい(
図14参照)。
【0063】
図15は変形例2の概要を示す図であり、型枠4の形状を平面視長方形状に構成し、中心部領域41、中間部領域42、外縁部領域43の各領域の平面視形状が型枠4の平面視形状に応じて変更した点は上記変形例1と同様であるが、型枠4の長辺側垂直中心線Mで型枠4の内部空間を二等分し、この垂直中心線Mを挟んで線対称に中空パイプ5を配設して構成されている。この変形例において、中空パイプ5は、外縁部領域43の垂直中心線M側を基端として外縁部領域43の形状に沿って反対側の垂直中心線M側まで配設されて中間部領域42側に屈曲し、次に中間部領域42の形状に沿って反対側の垂直中心線M側まで配設されて中心部領域41側に屈曲し、さらに中心部領域41の周縁形状に沿って反対側の垂直中心線M側まで配設されている。そして、この中空パイプ5の両端53,51は、それぞれ型枠4の開口部上方に屈曲して打設コンクリート上面から突出するようにしてある。その他の構成は変形例1と同様である(ただし、温度センサーSの図示は省略してある。)。
【0064】
この変形例によれば、型枠4の長辺側垂直中心線Mで型枠4の内部空間を二等分し、この垂直中心線Mを挟んで線対称に中空パイプ5を配設してあるので、実施例2による給熱養生においても給熱温度の偏りが生じにくく、バランスよく給熱養生を行うことができる。すなわち、実施例2の給熱養生方法にあっては、中空パイプ5が一方向に渦を巻くように配設されているため、中空パイプ5の給水側端部53が配設されている側(
図9(a)のA−A線よりも右側)が、反対側(
図9(a)のA−A線よりも左側)よりも給熱温度が高くなってしまいがちなところ、この変形例によれば、中空パイプ5は各領域の端部で折り返されて隣接する領域に入るため、各領域の両端部における温水の温度の高低差が隣り合う領域の両端部における温水の温度の高低差と逆になり、バランスを取ることができる。また、垂直中心線M近傍の外縁部領域43においても高い温度の温水を通すことができるので、実施例1よりも温度ムラが生じにくい。
【0065】
図16は変形例3の概要を示す図であり、型枠4の長辺側垂直中心線Mで型枠4の内部空間を二等分し、この垂直中心線Mを挟んで線対称に中空パイプ5を配設した点は上記変形例2と同様であるが、型枠4の内部空間の高さを600mm程度とし、中空パイプ5の直線部分が外縁部領域43において3本、中間部領域42において2本、中心部領域41において1本ずつ、その配設間隔が外縁部領域43から中心部領域41にかけて次第に密から粗になるように構成されている。
【0066】
この変形例によれば、中空パイプ5を流れる温水から打設コンクリートCの各領域に供給される給熱量を、外縁部領域43においてより大きく、中心部領域41においてより小さくすることができる。これにより、厚みの影響などにより打設コンクリートの中心部と外縁部との温度差が大きい場合でも、外縁部領域43、中間部領域42、中心部領域41の各領域間の温度の平準化を行うことができる。その他の効果は変形例2と同じである。