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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-97986(P2020-97986A)
(43)【公開日】2020年6月25日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20200529BHJP
【FI】
   F16F13/10 E
   F16F13/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-236005(P2018-236005)
(22)【出願日】2018年12月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 達也
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA03
3J047CA04
3J047CC02
3J047CD07
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる防振装置を提供すること。
【解決手段】当接部材40に片持ち状態で設けられ弾性体からなると共にリバウンド方向への変位の際の防振基体30の軌跡上に自由端側が位置される付加部材60を備え、リバウンド方向への変位の際、付加部材60の自由端側に防振基体30が当接された後、ストッパ50が当接部材40に当接されるので、ストッパ50が当接部材40に当接して、リバウンド方向への変位を規制し始める前に、付加部材60を弾性変形させる態様を形成できる。よって、リバウンド方向への変位をストッパ50が規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて配置される第1部材および第2部材と、
前記第1部材および第2部材の間を連結する弾性体からなる防振基体と、
前記第1部材に設けられ弾性体からなるストッパと、
前記第2部材に取り付けられる第3部材と、を備え、
前記第2部材に対して前記第1部材が変位したときに、前記ストッパが前記第3部材に当接してリバウンド方向の変位を規制する防振装置において、
前記第3部材に片持ち状態で設けられ弾性体からなると共に前記リバウンド方向への変位の際の前記防振基体の軌跡上に自由端側が位置される当接体を備え、
前記リバウンド方向への変位の際、前記当接体の前記自由端側に前記防振基体が当接された後、前記ストッパが前記第3部材に当接されることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記当接体の前記防振基体の外面と対面する第1面は、前記防振基体の外面との間の距離が前記自由端側ほど小さくされることを特徴とする請求項1記載の防振装置。
【請求項3】
前記当接体は、前記自由端側へ向けて厚み寸法が徐々に小さくされることを特徴とする請求項2記載の防振装置。
【請求項4】
前記当接体の基端側が連結され前記第3部材に圧入により固定される固定部材を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の防振装置。
【請求項5】
前記当接体は、前記防振基体の外周側に配置され、周方向に一様に連続する円環形状に形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防振装置に関し、特にリバウンド方向の変位を規制するストッパを備える防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に使用される防振装置として、特許文献1には、互いに間隔をあけて配置される第1部材および第2部材と、第1部材および第2部材の間を連結する弾性体からなる防振基体と、第1部材に設けられ弾性体からなるストッパと、第2部材に取り付けられる第3部材と、を備える防振装置が開示されている。この防振装置は、パワーユニット等の振動源側の部材と車体フレーム側の部材との間に、第1部材および第2部材を介して防振基体が配置される。防振装置は、第2部材に対して第1部材が変位したときに、ストッパが第3部材に当接してリバウンド方向の変位を規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−48838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の防振装置において、リバウンド方向の変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくする技術が求められている。
【0005】
本発明はこの要求にこたえるためになされたものであり、リバウンド方向の変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の防振装置は、互いに間隔をあけて配置される第1部材および第2部材と、前記第1部材および第2部材の間を連結する弾性体からなる防振基体と、前記第1部材に設けられ弾性体からなるストッパと、前記第2部材に取り付けられる第3部材と、を備え、前記第2部材に対して前記第1部材が変位したときに、前記ストッパが前記第3部材に当接してリバウンド方向の変位を規制するものであって、前記第3部材に片持ち状態で設けられ弾性体からなると共に前記リバウンド方向への変位の際の前記防振基体の軌跡上に自由端側が位置される当接体を備え、前記リバウンド方向への変位の際、前記当接体の前記自由端側に前記防振基体が当接された後、前記ストッパが前記第3部材に当接される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の防振装置によれば、第3部材に片持ち状態で設けられ弾性体からなると共にリバウンド方向への変位の際の防振基体の軌跡上に自由端側が位置される当接体を備え、リバウンド方向への変位の際、当接体の自由端側に防振基体が当接された後、ストッパが第3部材に当接されるので、ストッパが第3部材に当接して、リバウンド方向への変位を規制し始める前に、当接体を弾性変形させる態様を形成できる。よって、リバウンド方向への変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0008】
即ち、当接体は、第3部材に片持ち状態で設けられ、当接体の自由端側に防振基体が当接されるので、当接体の変形としてせん断を支配的として、そのバネ定数を比較的小さな値とすることができる。よって、リバウンド方向への変位において、当接体に防振基体が当接される前の荷重たわみ曲線の傾きに対し、当接体に防振基体が当接された後の荷重たわみ曲線の傾きを大きくしつつ、その当接体に防振基体が当接された後の荷重たわみ曲線の傾きを、ストッパが第3部材に当接された後の荷重たわみ曲線の傾きよりも小さくできる。その結果、リバウンド方向への変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0009】
請求項2記載の防振装置によれば、請求項1記載の防振装置の奏する効果に加え、当接体の防振基体の外面と対面する第1面は、防振基体の外面との間の距離が自由端側ほど小さくされるので、リバウンド方向への変位において、当接体に防振基体が当接する範囲を徐々に大きくできる。よって、当接体に防振基体が当接され始める際の荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。また、リバウンド方向への変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0010】
請求項3記載の防振装置によれば、請求項2記載の防振装置の奏する効果に加え、当接体は、自由端側へ向けて厚み寸法が徐々に小さくされるので、リバウンド方向への変位において、防振基体が当接されて変形する際の当接体のバネ定数を徐々に大きくできる。よって、当接体に防振基体が当接され始める際の荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。また、リバウンド方向への変位をストッパが規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0011】
請求項4記載の防振装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の防振装置の奏する効果に加え、当接体の基端側が連結され第3部材に圧入により固定される固定部材を備えるので、当接体と防振基体とを別体として形成できる。よって、当接体の設計の自由度を高めることができる。
【0012】
請求項5記載の防振装置によれば、請求項4記載の防振装置の奏する効果に加え、当接体は、防振基体の外周側に配置され、周方向に一様に連続する円環形状に形成されるので、リバウンド方向への変位において、当接体に防振基体を周方向略均一に当接させることができる。即ち、当接体に防振基体が当接される範囲が周方向の一部に偏ることを抑制できる。よって、当接体および防振基体の耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態における防振装置の断面図である。
図2】パワーユニットを支持した状態における防振装置の断面図である。
図3】当接部の第1当接面と第2ストッパとが当接した状態における防振装置の断面図である。
図4】当接部の第2当接面と第1部材に形成される規制部とが当接した状態における防振装置の断面図である。
図5】防振装置の荷重たわみ曲線を示す。
図6】連結部の内周面と第3ストッパとが当接した状態における防振装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における防振装置10の断面図である。図1は無負荷状態の防振装置10が図示されている。図1では当接部材40の一部の図示が省略されており、以下の図においても同様であるので、その説明は省略する。
【0015】
防振装置10は自動車のエンジン等のパワーユニットを弾性支持する装置である。防振装置10は、軸線Oの方向(軸方向)へ互いに離間した第1部材11及び第2部材20と、第1部材11と第2部材20との間を連結する防振基体30と、第2部材20に取り付けられた当接部材40と、を備えている。
【0016】
本実施形態では、第1部材11は振動源であるパワーユニット(図示せず)に取り付けられ、第2部材20は当接部材40を介して車体フレーム(図示せず)に取り付けられる。また、軸線O方向は、鉛直方向に一致する。本実施形態では、第1部材11の軸13(後述する)の軸線Oと鉛直線とが一致している。図1では、紙面下側を防振装置10の軸方向下側、紙面上側を軸方向上側という(図2から図4及び図6においても同じ)。
【0017】
第1部材11は、鉄系材料やアルミニウム合金等で一体成形された部材であり、防振基体30が連結される円板状の基盤12と、基盤12の中央から軸線O方向上側(図1上方向側)に突出する軸13と、軸13の端に設けられた取付部14と、を備えている。基盤12の軸は、軸線O方向に配設される。取付部14はねじ穴15に取り付けられたボルト(図示せず)によってパワーユニットに取り付けられる。
【0018】
第2部材20は、第1部材11の基盤12の外径よりも大きい内径を有する円筒状の金属製の部材であり、軸線O方向両端に開口部21,22が形成されている。第1部材11は、基盤12を開口部21側へ向けて、第2部材20の軸線O方向上側に離隔して配置される。第1部材11と第2部材20とが防振基体30により相互に連結される。
【0019】
防振基体30は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体からなり、軸線O方向上側(図1上方向側)の小径部31と軸線O方向下側(図1下方向側)の大径部32とを有する略円錐台状に形成されている。小径部31は、第1部材11の基盤12が接着される部位である。大径部32は、小径部31より外径が大きく形成される部位であり、第2部材20の開口部21側の内周面に大径部32の外周面が接着される。本実施形態では防振基体30はゴム製であり、第1部材11及び第2部材20に加硫接着されている。
【0020】
防振基体30は、大径部32から小径部31へ向けて凹設される凹所が形成され、これにより、小径部31と大径部32とを連結する脚部33が形成される。脚部33は、軸線O方向上側へ向かうにつれて次第に小径となる略擂鉢形状である。防振基体30は、大径部32の外周縁の全周に亘ってシール層34が設けられている。シール層34は、軸線O方向下側に延びる筒状の部位であり、第2部材20の内周面を覆っている。
【0021】
第2部材20の開口部22には、防振基体30の脚部33に対向して配置されるダイヤフラム23が取り付けられる。ダイヤフラム23は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体からなる略円形状の可撓性膜であり、外周縁に固定金具24が接着されている。固定金具24は略円環状に形成されている。固定金具24の内周面は、全周に亘ってダイヤフラム23の外周面に固着されている。ダイヤフラム23は、固定金具24が開口部22から第2部材20へ挿入された後、第2部材20を縮径加工することにより固定金具24を介して第2部材20に固定される。
【0022】
第2部材20、防振基体30及びダイヤフラム23により区画される密閉空間に液体(エチレングリコール等の非圧縮性流体)が封入され、液室が形成される。液室は、仕切部材25により、防振基体30が室壁の一部を構成する受圧室26と、ダイヤフラム23が室壁の一部を構成する平衡室27とに区画される。仕切部材25は、液室を受圧室26及び平衡室27に区画すると共に、受圧室26及び平衡室27を互いに連通するオリフィス28を形成するための略円板状の部材である。
【0023】
当接部材40は、圧入された第2部材20を保持する保持部41と、第1部材11の軸線O方向上側(図1上方向側)に配置される円板状の当接部42と、保持部41と当接部42とを連結する連結部43と、を備えている。当接部材40の保持部41、当接部42、連結部43及び取付部(図示せず)は、アルミニウム合金等の金属材料で一体成形されている。当接部材40の取付部は車体フレーム(図示せず)に取り付けられる。
【0024】
保持部41は円筒状に形成される。保持部41の軸線O方向上側の端部から当接部42へ向けて連結部43が延設される。当接部42の中央には、第1部材11の軸13が挿通する穴44が形成されている。穴44は、軸線Oを中心とした略円形状に穿設され、穴44の内径は、第1部材11の基盤12の外径よりも小さい。
【0025】
当接部42の第1当接面45は平坦であり、軸線O方向下側(図1下方向側)を向いている。当接部42の第2当接面46は平坦であり、軸線O方向上側(図1上方向側)を向いている。連結部43の内周面47は軸線Oに沿って形成される。
【0026】
保持部41と連結部43との境界には係止部48が形成される。係止部48は、軸線Oに垂直な面であり、軸線O方向視において略円環状に形成される。これにより、保持部41の内周面は、連結部43の内周面47よりも径方向外側に形成される。
【0027】
第1部材11の基盤12及び軸13には、ストッパ50が設けられている。ストッパ50は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体からなる。本実施形態では、ストッパ50は防振基体30と一体成形されている。
【0028】
ストッパ50は、軸13の外周に設けられた第1ストッパ51と、基盤12の軸線O方向上側の面に設けられた第2ストッパ52と、基盤12の外周面に設けられた第3ストッパ53と、基盤12の軸線O方向下側の面に設けられた背面部54と、を備えている。背面部54と小径部31とが連結する。
【0029】
第2ストッパ52は、第2部材20に対して第1部材11がリバウンド方向(本実施形態では軸線O方向上側、図1上方向側)に変位したときに、当接部材40の第1当接面45に当接して変位を規制する。第3ストッパ53は、第2部材20に対して第1部材11がリバウンド方向に垂直な方向に変位したときに、連結部43の内周面47に当接して変位を規制する。第2ストッパ52は、第2部材20に対する第1部材11のリバウンド方向への変位を所定以下とすることで防振基体30に作用する引張応力を抑制して防振基体30の耐久性を確保し、さらに受圧室26に生じる負圧を抑制し、異音発生の原因となるキャビテーションを抑制する。
【0030】
第1ストッパ51と当接部42に形成される穴44の内周面との対向間距離は、第3ストッパ53と連結部43の内周面47との対向間距離よりも大きく形成される。これにより、第1ストッパ51と穴44の内周面とが当接するよりも先に第3ストッパ53と連結部43の内周面47とが当接し、第2部材20に対する第1部材11の変位を規制できる。
【0031】
第2部材20の軸線O方向上側における保持部41の内周面には、付加部材60が設けられている。これにより、付加部材60が保持部41の外周面に設けられる場合に比べ、小石等の物体に衝突し、付加部材60が破損することを抑制できる。
【0032】
付加部材60は、脚部33の変形(第1部材11の変位)に必要な荷重を増やす部材であり、第1部材11が変位することで脚部33に係合(当接)する係合部材61と、係合部材61を保持部41に保持する円環部材62と、を備える。
【0033】
係合部材61は、ゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体からなり、径方向内側に向けて突出する。係合部材61の上面63は、径方向内側に進むにつれて軸線O方向上側に傾いて形成される。係合部材61は、径方向内側に進むにつれて軸線O方向における厚み寸法が次第に小さくなる、段面視において略三角形状である。なお、係合部材61は、径方向において軸線O方向の厚み寸法が一定に形成されても良い。
【0034】
係合部材61は、周方向においてその断面形状が一定に形成される。なお、周方向において係合部材61の断面形状が変化する、又は、係合部材61が分断されても良い。
【0035】
係合部材61は、径方向外側の面が円環部材62に加硫接着され、片持ち状に配設されている。これにより、係合部材61は、径方向内側に進むにつれてせん断変形し易くなる。
【0036】
係合部材61は、脚部33及び背面部54から離間して配設される。なお、係合部材61を脚部33或いは背面部54に当接(係合)させても良い。
【0037】
係合部材61は、円環部材62の軸線O方向上側(図1上方向側)に偏って配設され、脚部33の軸線O方向上側(小径部31側)において係合部材61と脚部33とが対向する。脚部33は軸線O方向上側へ向かうにつれて次第に小径となるので、係合部材61を軸線O方向上側に配設することで、係合部材61の突出量を大きくできる。
【0038】
係合部材61を防振基体30(ストッパ50)とは別に加硫成形し、防振装置10に防振基体30と付加部材60とをそれぞれ配設することで、係合部材61と防振基体30(脚部33)又はストッパ50(背面部54)との距離を小さくできる。或いは、係合部材61と防振基体30又はストッパ50とを当接できる。これにより、第1部材11が変位し、係合部材61と防振基体30或いはストッパ50とが当接するタイミングの調整幅を大きくできる。
【0039】
係合部材61と防振基体30とを一体に形成する場合、防振基体30とストッパ50との間において係合部材61が径方向内側に突出するため、型成形後の離型が困難となる。これに対し、本実施形態では、係合部材61と防振基体30とが別々に形成されるので、係合部材61の形状の自由度を高めることができる。また、係合部材61及び防振基体30の型成形を容易にでき、製造コストを低減できる。
【0040】
また、係合部材61と防振基体30とのバネ定数を異ならせることができ、既存設備を有効に活用して様々な荷重たわみ曲線を有する防振装置10を提供できる。なお、係合部材61と防振基体30とを一体に形成しても良い。
【0041】
円環部材62は、第2部材20の外径と略同一の外径を有する略円環状の金属製の部材であり、圧入により保持部41に保持される。円環部材62の内周面に係合部材61が加硫接着され、係合部材61を保持する。
【0042】
円環部材62を軸線O方向下側から上側へ向けて挿入し、円環部材62の軸線O方向上側の面を係止部48に当接させることで、保持部41に対する円環部材62の位置決めを容易に行うことができる。また、円環部材62の軸線O方向下側の面に第2部材20が当接することで、円環部材62が当接部材40(保持部41)に対して変位することを抑制できる。
【0043】
図2は、パワーユニット(図示せず)を支持した状態(以下「負荷状態」と称す)における防振装置10の断面図であり、パワーユニットの重量により防振基体30が圧縮変形し、図1と比較して第1部材11が軸線O方向下側(図2下方向側)に位置する。
【0044】
図2に示すように、負荷状態において第1当接面45とストッパ50の第2ストッパ52との間の第1距離D1は、係合部材61の下面64と脚部33との間の第2距離D2よりも大きく形成される。
【0045】
係合部材61の上面63とストッパ50の背面部54との間の第3距離D3は、係合部材61の下面64と脚部33との第2距離D2よりも大きく形成され、本実施形態では略1.5倍の大きさに形成される。これにより、軸線O方向上側と他側とで、脚部33或いは背面部54と係合部材61とが係合(当接)するまでの第1部材11の変位量が異なる。なお、係合部材61の上面63と背面部54との間の距離と係合部材61の下面64と脚部33との間の距離とが等しくても良い。
【0046】
第1部材11に形成される規制部(図示せず)と第2当接面46との間の距離は、係合部材61の上面63と背面部54との間の第3距離D3よりも大きく形成される。なお、第1部材11に形成される規制部には、第2当接面46との当接による破損を抑制するためのゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体から形成される保護部材(図示せず)が被覆され、保護部材を介して規制部と第2当接面46とが当接する。
【0047】
負荷状態において、係合部材61の下面64は、径方向内側に進むにつれて脚部33との間の距離が小さくなる方向に傾いている。なお、係合部材61の下面64と脚部33との間の距離が径方向において一定となるように係合部材61を配設しても良い。
【0048】
図3から図5を参照して第2部材20に対して第1部材11がリバウンド方向、或いは、バウンド方向に変位した状態における防振装置10の動作を説明する。図3は、当接部42の第1当接面45と第2ストッパ52とが当接した状態における防振装置10の断面図であり、図4は、当接部42の第2当接面46と第1部材11に形成される規制部(図示せず)とが当接した状態における防振装置10の断面図である。
【0049】
図5は、防振装置10の荷重たわみ曲線を示す。図5の横軸は、第2部材20に対する第1部材11の軸方向の変位(mm)であり、縦軸は荷重(N)である。詳細には、図5の紙面右方向は、第2部材20に対する第1部材11のリバウンド方向(軸線O方向上側、図1上方向側)の変位であり、図5の紙面左方向は、第2部材20に対する第1部材11のバウンド方向(軸線O方向下側、図1下方向側)の変位である。
【0050】
図5に示す変位0は、負荷状態において第2部材20に対して第1部材11が変位する前の状態を示す。変位Aにおいて、脚部33が係合部材61の下面64に当接する。変位0と変位Aとの間は、脚部33が係合部材61に当接するまでの、防振基体30の引張変形による線形区間である。
【0051】
変位Bにおいて、第2ストッパ52が第1当接面45に当接する(図3参照)。変位Aと変位Bとの間は、防振基体30の引張変形および係合部材61のせん断変形による非線形区間である。変位Bと変位Cとの間は、防振基体30の引張変形および係合部材61のせん断変形に加え、第2ストッパ52の圧縮変形による非線形区間である。
【0052】
変位Cは、想定される最大入力荷重における最大変位である。即ち、変位Cにおいて、第2ストッパ52により第2部材20に対する第1部材11の変位が制限される。
【0053】
変位Dにおいて、背面部54が係合部材61の上面63に当接する。変位0と変位Dとの間は、背面部54が係合部材61に当接するまでの、防振基体30の圧縮変形による線形区間である。
【0054】
変位Eにおいて、第1部材11に形成される規制部(図示せず)が第2当接面46に当接する(図4参照)。変位Dと変位Eとの間は、防振基体30の圧縮変形および係合部材61のせん断変形による非線形区間である。変位Eと変位Fとの間は、防振基体30の圧縮変形および係合部材61のせん断変形に加え、第1部材11に形成される規制部の圧縮変形による非線形区間である。
【0055】
変位Fは、想定される最大入力荷重における最大変位である。即ち、変位Fにおいて、第1部材11に形成される規制部により第2部材20に対する第1部材11の変位が制限される。
【0056】
負荷状態において、第2ストッパ52と第1当接面45との間の第1距離D1は、係合部材61の下面64と脚部33との間の第2距離D2よりも長い。よって、変位Aにおいて第2ストッパ52と第1当接面45とが当接するよりも先に係合部材61と脚部33とが当接し、リバウンド方向の変位を規制し始める。
【0057】
これに対し係合部材61が無い場合は、図5の破線に示すように、変位0と変位Bとの間は防振基体30の変形による線形区間である。変位Bにおいて第2ストッパ52が第1当接面45に当接し、変位Bを超えると急激に荷重が増加して、防振装置10の荷重たわみ曲線と点Gで交わる。
【0058】
従って、防振装置10は、変位Aから変位Bまでの荷重たわみ曲線の傾きを、係合部材61が無い場合(図5破線)の変位Aから変位Bまでの荷重たわみ曲線の傾きよりも大きくでき、変位Bから点Gまでの荷重たわみ曲線の傾きを、係合部材61が無い場合(図5破線)の変位Bから点Gまでの荷重たわみ曲線の傾きよりも小さくできる。これにより、リバウンド方向への変位を規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。その結果、乗り心地を向上できる。
【0059】
防振装置10は係合部材61があるので、点Gにおける荷重よりも荷重が小さいときは(図5参照)、係合部材61が無い場合(図5破線)に比べて変位を小さくできる。係合部材61が無い場合に比べて、変位0から点Gまでの間に、防振基体30に生じる引張応力を抑制できるので、防振基体30の耐久性を向上できる。
【0060】
負荷状態において、第1部材11に形成される規制部(図示せず)と第2当接面46との間の距離は、係合部材61の上面63と背面部54との間の第3距離D3よりも長い。よって、変位Dにおいて第1部材11に形成される規制部と第2当接面46とが当接するよりも先に係合部材61と背面部54とが当接し、バウンド方向の変位を規制し始める。
【0061】
これに対し係合部材61が無い場合は、図5の破線に示すように、変位0と変位Eとの間は防振基体30の変形による線形区間である。変位Eにおいて第1部材11に形成される規制部が第2当接面46に当接し、変位Eを超えると急激に荷重が増加して、防振装置10の荷重たわみ曲線と点Hで交わる。
【0062】
従って、防振装置10は、変位Dから変位Eまでの荷重たわみ曲線の傾きを、係合部材61が無い場合(図5破線)の変位Dから変位Eまでの荷重たわみ曲線の傾きよりも大きくでき、変位Eから点Hまでの荷重たわみ曲線の傾きを、係合部材61が無い場合(図5破線)の変位Eから点Hまでの荷重たわみ曲線の傾きよりも小さくできる。これにより、リバウンド方向への変位を規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。その結果、乗り心地を向上できる。
【0063】
防振装置10は係合部材61があるので、点Hにおける荷重よりも荷重が小さいときは(図5参照)、係合部材61が無い場合(図5破線)に比べて変位を小さくできる。係合部材61が無い場合に比べて、変位0から点Hまでの間に、防振基体30に生じる圧縮応力を抑制できるので、防振基体30の耐久性を向上できる。
【0064】
図3及び図4に示すように、係合部材61が脚部33或いは背面部54に係合(当接)することで係合部材61はせん断変形し、脚部33或いは背面部54にせん断応力を作用させることができる。係合部材61に作用するせん断応力は、第2ストッパ52或いは第1部材11に形成される規制部を被覆する保護部材に作用する圧縮応力と比較して十分小さいので、変位Cから点G或いは変位Fから点Hまでの間で、荷重たわみ曲線の傾きが過大となることを抑制できる。
【0065】
係合部材61は、周方向においてその断面形状が一定に形成されるので、脚部33或いは背面部54に作用するせん断応力(バネ定数)を周方向において一定にできる。これにより、第2部材20に対し第1部材11が傾くことを抑制できる。また、リバウンド方向、或いは、バウンド方向への変位において、係合部材61に脚部33或いは背面部54が当接される範囲が周方向の一部に偏り、ひずみが集中することを抑制できる。これにより、係合部材61、脚部33及び背面部54の耐久性を向上できる。
【0066】
係合部材61は、円環部材62に片持ち状に配設され、脚部33或いは背面部54との係合(当接)によりせん断応力が生じる。これにより、係合部材61と脚部33或いは背面部54との係合により圧縮・引張応力が生じる場合と比較して変位A或いは変位Dにおける荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0067】
負荷状態において、径方向内側に進むにつれて係合部材61の下面64と脚部33との間の距離は小さくされるので、第1部材11がリバウンド方向に変位するにつれて脚部33は、係合部材61の径方向外側における部位と新たに係合(当接)する。即ち、脚部33は、係合部材61との係合面積が次第に増える。同様に、係合部材61の上面63は、径方向内側に進むにつれて軸線O方向上側に傾いて形成されるので、第1部材11がバウンド方向に変位するにつれて背面部54は、係合部材61との係合面積が次第に増える。
【0068】
これにより、第1部材11が脚部33或いは背面部54に係合し始める際の荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくでき、第1部材11のリバウンド方向、或いは、バウンド方向への変位量が大きくなるにつれて脚部33或いは背面部54に作用するせん断応力(バネ定数)を大きくでき、荷重たわみ曲線の傾きを大きくできる。その結果、リバウンド方向、或いは、バウンド方向への変位を規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0069】
係合部材61は、径方向内側に進むにつれて軸線O方向における厚み寸法が次第に小さい、即ち、径方向外側に進むにつれて軸線O方向における厚み寸法が次第に大きいので、第1部材11がリバウンド方向、或いは、バウンド方向へ変位するにつれて、新たに脚部33或いは背面部54と係合(当接)する位置における軸線O方向の厚み寸法が厚くなる。
【0070】
これにより、第1部材11のリバウンド方向、或いは、バウンド方向への変位量が大きくなるにつれて脚部33或いは背面部54に作用するせん断応力(バネ定数)を大きくでき、荷重たわみ曲線の傾きを大きくできる。その結果、リバウンド方向、或いは、バウンド方向への変位を規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。
【0071】
係合部材61を脚部33或いは背面部54に係合(当接)させる、即ち、防振基体30或いはストッパ50の既存部位に係合させることで、防振基体30又はストッパ50に係合部材61と係合するための部位を新たに設けることが抑制できる。これにより、新たな防振基体あるいはストッパを必要とせず、既存設備を有効活用でき、製造コストを低減できる。また、係合部材61と係合するための部位を新たに設ける必要が無いので、防振装置10が大型化することを抑制できる。
【0072】
係合部材61の上面63と背面部54との間の第3距離D3は、係合部材61の下面64と脚部33との間の第2距離D2よりも大きく形成されるので、リバウンド方向とバウンド方向とで係合部材61に生じるせん断応力が第1部材11に作用するタイミングを異ならせることができる。
【0073】
係合部材61が非配設の場合、第1部材11がリバウンド方向へ変位した際、脚部33の変形量が最も大きくなる位置は脚部33の略中央となる。本実施形態において、係合部材61は、軸線O方向において脚部33の軸線O方向上側(小径部31側)に配設されるので、係合部材61との係合(当接)によりせん断応力が作用する位置を脚部33の変形量が最も大きくなる位置と異ならせることができる。これにより、脚部33が破損することを抑制できる。
【0074】
図6は、連結部43の内周面47と第3ストッパ53とが当接した状態における防振装置10の断面図である。図6に示すように、係合部材61が脚部33又は小径部31に係合(当接)することで係合部材61はせん断変形し、脚部33又は小径部31にせん断応力を作用させることができる。係合部材61に作用するせん断応力は、第3ストッパ53に作用する圧縮応力と比較して十分小さいので、内周面47と第3ストッパ53とが当接してから第1部材11の変位が規制されるまでの間で、荷重たわみ曲線の傾きが過大となることを抑制できる。
【0075】
これにより、リバウンド方向(軸線O方向上側、図1上方向側、図3参照)、或いは、バウンド方向(軸線O方向下側、図1下方向側、図4参照)への第2部材20に対する第1部材11の変位と同様、係合部材61が無い場合と比較して、軸線Oに垂直な方向への変位を規制し始める前後において、荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくできる。また、係合部材61が無い場合に比べて、防振基体30に生じる圧縮応力を抑制できるので、防振基体30の耐久性を向上できる。
【0076】
なお、第1部材11がリバウンド方向へ変位する場合に係合部材61を作用させ、第1部材11がバウンド方向または軸線Oに垂直な方向へ変位する場合に、係合部材61とは異なる部材を作用させて荷重たわみ曲線の傾きの変化を小さくしても良い。
【0077】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0078】
実施形態では、第2部材20に固定された当接部材40が車体フレームに取り付けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、車体フレームと第2部材20との間を連結する固定部材(図示せず)を用いても良い。この場合、当接部材40の取付部(図示せず)を省略し、その代わりに、固定部材(図示せず)に車体フレームに取り付けられる部位が設けられる。これにより固定部材を介して第2部材20が車体フレームに固定される。当接部材40は、固定部材(図示せず)を介して第2部材20に取り付けられる、又は、第2部材20に直接取り付けられる。
【0079】
実施形態では、パワーユニット等の振動源に第1部材11が取り付けられ、車体フレームに第2部材20が取り付けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これと反対に、振動源に第2部材20を取り付け、車体フレームに第1部材11を取り付けても良い。
【0080】
実施形態では、防振基体30とダイヤフラム23との間に液体が封入される液封入式防振装置の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ダイヤフラム23及び仕切部材25を省略して、防振基体30(弾性体の特性)だけを利用する非液封入式(コンベタイプ)の防振装置に適用しても良い。
【0081】
実施形態では、防振基体30と第2ストッパ52とが一体成形される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。防振基体30と第2ストッパ52とを別体にしても良い。
【0082】
実施形態では、防振基体30と第2ストッパ52とが同一の材質から成形される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2ストッパ52の弾性体の材質を防振基体30の弾性体と異なる材質から形成しても良い。
【符号の説明】
【0083】
10 防振装置
11 第1部材
20 第2部材
30 防振基体
40 当接部材(第3部材)
50 ストッパ
60 付加部材(当接体)
62 円環部材(固定部材)
64 下面(第1面)

図1
図2
図3
図4
図5
図6