【解決手段】ニッケル水素電池用の筐体1の外側面に設けられる多層フィルムであって、筐体1が、ポリプロピレン系樹脂を含有しており、多層フィルム10は、筐体1の外側面に一体化される第一フィルムと、第二フィルムと、を備えており、第一フィルムと第二フィルムとの間には、接着層14を介して金属箔11が積層されており、第一フィルムおよび第二フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有しており、接着層14は、酸変性ポリオレフィン系樹脂と、複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、を含有する接着剤から形成されており、接着剤を硬化させた状態における引張弾性率が、160MPa以上である。耐クラック機能および高い剥離強度を長期間にわたって発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルムは、ニッケル水素電池用の筐体の外側面に設けられる多層フィルムであって、多層フィルムの金属箔のクラック現象の発生を抑制することによって、ガスバリア機能を適切に発揮させることができるようにしたことに特徴を有している。
【0012】
なお、金属箔におけるクラック現象とは、多層フィルムに引張応力等が加わった際に多層フィルム中の金属箔に割れや、ヒビ、裂け目などが発生する現象をいい、かかるクラック現象の発生を抑制する機能を耐クラック機能という。
【0013】
(ニッケル水素電池EM)
本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルム10を説明する前に、ニッケル水素電池EMについて簡単に説明する。
【0014】
図3(A)には、ニッケル水素電池EMの一例を示している。このニッケル水素電池EMは、内部に中空な収容空間1h(或いは電槽)を有する平面視長方形状の筐体1と、この筐体1の上方に形成された開口に設けられた蓋体2とを備えている。具体的には、
図3に示すように、この筐体1は、長方形状の正面壁1aと背面壁1bと、両者の端縁同士を連結する一対の側壁1c、1dと、底壁1eとを備えている。つまり、
図3(B)および
図2に示すように、この筐体1は、その内部に5つの壁1a〜1eで囲まれた中空な収容空間1hが形成されており、その上方に4つの壁(正面壁1aと背面壁1bと側壁1c、1d)の上端縁によって囲まれた長方形状の開口が形成されている。そして、この筐体1の開口には、
図2および
図3に示すように、蓋体2が設けられている。
【0015】
図3(B)および
図2に示すように、筐体1は、内部の収容空間1hが複数の隔壁1fによって間仕切りされており、この各部屋(或いは電槽)内には、複数の正極板、複数の負極板がセパレータを介して積層された極板群からなる単電池3が収容されている。そして、筐体1の収容空間1h内には、この単電池3が浸漬するように電解液Lが充填されている。この電解液Lは、例えば、水酸化カリウム水溶液等の強アルカリ水溶液である。
筐体1は、内部の収容空間1h内に収容した電解液Lで腐食されないように、電解液Lに接する部分は少なくとも耐アルカリ性を有する素材で形成されている。例えば、筐体1の各壁1a〜1fおよび蓋体2は、ポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とのポリマーアロイ等で形成されている
【0016】
(本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルム10)
本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルム10(以下、単にニッケル水素電池筐体用フィルム10という)の概略を説明する。
【0017】
図2および
図3に示すように、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、ニッケル水素電池EMの筐体1の外側面に設けられる多層フィルムであり、外側面に設けることによって、筐体1の収容空間1h内で発生したガス(例えば、水素)が筐体1を構成する壁を透過して内部から外部へ漏洩するのを防止する機能を有するものである。
【0018】
なお、筐体1の外側面とは、筐体1の外方に位置する面を意味し、例えば、
図3に示すような矩形状の筐体1であれば、筐体1を構成する各壁1a〜1eの外方に位置する各面が相当する。
また、ニッケル水素電池筐体用フィルム10を筐体1の外側面に設ける位置や領域は、ニッケル水素電池筐体用フィルム10が有するガスバリア性を発揮し得る位置等であれば、とくに限定されない。例えば、
図3に示すような矩形状の筐体1であれば、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、正面壁1a或いは背面壁1bにおける筐体1の内部の収容空間1hに相当する箇所を覆うよう設けられていればよく、形状を筐体1の正面壁1aまたは背面壁1bと略相似形とし、面積を正面壁1aまたは背面壁1bと同等かやや小さくなるように形成することができる。
【0019】
図1および
図2に示すように、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、金属箔11が、ポリプロピレンフィルム12、13(以下、単にPPフィルム12、13という)で挟まれるようにして積層して形成された多層フィルムである。つまり、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、一の面がPPフィルム12で形成された場合、他の面がPPフィルム13で形成されるように積層されている。そして、金属箔11とPPフィルム12、13とは接着剤から形成される接着層14によって接着されている。つまり、PPフィルム12、金属箔11、PPフィルム13は、接着層14を介して積層された多層構造となっている。
【0020】
例えば、
図1に示すように、PPフィルム12の背面(
図1では金属箔11に対向する面)が接着層14によって金属箔11の表面(
図1ではPPフィルム12の背面に対向する面)に接着されており、金属箔11の背面(
図1ではPPフィルム13に対向する面)が接着層14によってPPフィルム13の表面(
図1では金属箔11の背面に対向する面)に接着されている。
【0021】
ニッケル水素電池筐体用フィルム10の金属箔11は、水素、酸素などのガスが透過しにくい金属を薄く成形した金属箔である。
ニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム12、13は、ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するフィルムである。
ニッケル水素電池筐体用フィルム10の接着層14は、酸変性ポリオレフィン系樹脂と、複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、を含有する接着剤から形成されるものであり、かかる接着剤が硬化した状態における引張弾性率が所定の引張弾性率となるように形成されている。
【0022】
なお、金属箔11、PPフィルム12、13および接着層14の詳細は後述する。
【0023】
図2および
図3に示すように、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、ニッケル水素電池EMの筐体1の外側面に一体化するように設けられる。
【0024】
ニッケル水素電池筐体用フィルム10を筐体1の外側面に設ける方法は、筐体1の外側面とニッケル水素電池筐体用フィルム10が一体化するように設けることができれば、その方法はとくに限定されない。例えば、インサート成形で筐体1と一体化して成形してもよいし、筐体1を成形した後に外側面に接着剤を介して貼り合わせて一体となるように成形してもよい。
【0025】
以下では、インサート成形により筐体1と一体化する場合を代表として説明する。
なお、成形する筐体1は、
図3に示すような平面視長方形の矩形状とし、表面(
図3では正面壁1aの表面)と背面(
図3では背面壁1bの表面)に、上述したニッケル水素電池筐体用フィルム10を一体化するように設ける場合を代表として説明する。
【0026】
まず、金型の筐体1の正面壁1aと背面壁1bに相当する箇所にニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム12が位置するように配置する。
【0027】
ついで、かかる状態の金型内に筐体1の原料であるポリプロピレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とのポリマーアロイ等の溶融物を流し込む。
筐体1の原料の溶融物と接触するニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム12には、上述したように筐体1と熱融着性を示すポリプロピレン系樹脂が含有されている。このため、筐体1の原料の溶融物の熱によってPPフィルム12中のポリプロピレン系樹脂が溶融し、両者を一体化させることができる(
図2参照)。
【0028】
ついで、筐体1の原料の溶融物の流し込みが完了し、溶融物が固化した後に金型から取り出せば、
図2および
図3に示すように、筐体1の正面壁1aおよび背面壁1bにそれぞれニッケル水素電池筐体用フィルム10が適切に一体化して設けられた筐体1を成形することができる。
なお、
図2では、符号IFがニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム12と筐体1の正面壁1aとの界面を示す。
【0029】
ここで、ニッケル水素電池筐体用フィルム10を一体化して設けられた筐体1は、その用途上、砂漠等の高温地域や寒冷地域等の過酷な環境下で使用されるとともに、充放電にともなう温度上昇も相まって急激な加熱または冷却による熱応力がかかる。
このため、従来の多層フィルムの場合、このような環境下における筐体の伸縮等に多層フィルム中の金属箔が追従することにより、金属箔にクラック現象が多発している。そして、金属箔に生じたクラックから筐体内で発生する水素等のガスが筐体から漏洩してニッケル水素電池の性能が劣化してしまい、長期間の使用が行えない状態である。
【0030】
しかし、ニッケル水素電池筐体用フィルム10の場合には、金属箔11とPPフィルム12、13とを接着する接着層14として、硬化させた状態における引張弾性率が高く、硬い接着剤を用いているため、筐体1の伸縮等に金属箔11が追従することを低下させ、金属箔11にクラック現象が発生することを抑制することができる。更に、PPフィルム12、13として、引張弾性率が高いポリプロピレンフィルムを選定することにより、筐体1の伸縮等に金属箔11が追従することをより低下させることができ、金属箔11にクラック現象が発生することをより顕著に抑制することができる。
【0031】
したがって、ニッケル水素電池筐体用フィルム10を一体化して設けられた筐体1を上記のごとき過酷環境下で使用したとしても、長時間にわたってガスバリア性の低下を防止することができるので、ニッケル水素電池EMの性能を長期間に渡って維持させることができる。つまり、ニッケル水素電池EMを使用する温度下においても、ニッケル水素電池筐体用フィルム10中の金属箔11の耐クラック機能を向上させることができるので、ニッケル水素電池EMに対して優れたガスバリア性を長期間にわたって適切に保持させることができる。
【0032】
また、従来の多層フィルムの場合、筐体を上記のごとき過酷環境下で使用した際には、金属箔とポリプロピレンフィルムの線膨張率の違いによる応力が両者間の積層界面にかかり、両者間の接着強度が不足して剥離が生じてしまう。
しかし、ニッケル水素電池筐体用フィルム10の場合には、接着層14を形成する接着剤として、金属箔11及びPPフィルム12、13と接着性に優れる酸変性ポリオレフィン系樹脂と複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物とを含有する接着剤を採用している。
このため、ニッケル水素電池筐体用フィルム10を一体化して設けられた筐体1を上記のごとき過酷環境下で使用したとしても、金属箔11とPPフィルム12、13間に剥離が生じるのを抑制することができるようになる。
つまり、過酷環境下においても、上述した接着層14を介して金属箔11とPPフィルム12、13を積層させることによって、金属箔11とPPフィルム12、13との間でデラミが発生することを防止することができるので、ニッケル水素電池EMに高いガスバリア性を付与することができるという利点も得られる。このため、ニッケル水素電池EMを使用する温度下においてもニッケル水素電池EMに対して優れたガスバリア性を長期間にわたって適切に保持させることができる。
【0033】
なお、上述した説明において、筐体1の正面壁1aまたは背面壁1bの外方に位置する面が特許請求の範囲にいう「外側面」に相当し、これらの壁1a、1bと一体化するニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム12が、特許請求項の範囲にいう「第一フィルム」に相当し、ニッケル水素電池筐体用フィルム10のPPフィルム13が特許請求の範囲にいう「第二フィルム」に相当する。
また、特許請求の範囲にいう「外側面」は、筐体1の外方に位置する面であればよく、上記筐体1の正面壁1aまたは背面壁1bに限定されないのは言うまでもない。
【0034】
(金属箔11、PPフィルム12、13および接着層14の詳細)
つぎに、ニッケル水素電池筐体用フィルム10の金属箔11、PPフィルム12、13および接着層14について詳細に説明する。
【0035】
まず、ニッケル水素電池筐体用フィルム10は、上述したように、金属箔11が、PPフィルム12、13で挟まれるようにして積層して形成された多層フィルムであり、金属箔11とPPフィルム12、13とは接着層14の接着剤によって接着されている。
このニッケル水素電池筐体用フィルム10を形成する方法は、とくに限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ドライラミネーション法、押出ラミネート法などが挙げられ、好ましくはドライラミネーション法が挙げられる。
以下、ニッケル水素電池筐体用フィルム10を構成する金属箔11、PPフィルム12、13および接着層14について、順に詳細を説明する。
【0036】
(金属箔11の詳細)
金属箔11は、水素等が透過するのを防止する(つまりバリア性を発揮させる)機能を有するものであり、金属または合金を薄く展延したものであれば特に限定されるものではない。金属箔11としては、上記機能を有していれば、とくに限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、鉛、亜鉛、鉄、ニッケル、チタン、クロム等の金属箔、アルミニウム合金、ステンレス合金等の合金箔などを挙げることができる。とくに、生産性やコストの観点から、アルミニウムを主原料とするアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔を採用するのが好ましい。
なお、金属箔11は、耐腐食性を向上させるという観点から、クロメート処理等の表面処理を施したものを採用してもよい。このような処理としては、例えば、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等を用いた非クロム系(塗布型)化成処理等が挙げられる。これらの処理は単独で行ってもよいし、適宜、有機バインダー成分を併用して処理してもよい。
【0037】
金属箔11の厚みは、上記機能を発揮すれば、とくに限定されない。例えば、1μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは6μm以上35μm以下である。
【0038】
(PPフィルム12、13の詳細)
PPフィルム12およびPPフィルム13は、ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有するフィルムである。より好ましくは、所定の引張弾性率を有するフィルムである。
【0039】
PPフィルム12、13の引張弾性率は、450MPa以上が好ましく、より好ましくは500MPa以上であり、さらに好ましくは550MPa以上であり、特に好ましくは600MPa以上である。
PPフィルム12、13の引張弾性率が450MPa以上であれば、熱応力を受けた際における筐体1の伸縮等に金属箔11が追従することを低下させることができる。
PPフィルム12、13の引張弾性率の上限は特に制限するものではないが、その引張弾性率が1000MPa程度のものまで入手可能であり、これが本発明における現時点での上限となる。PPフィルム12、13の引張弾性率の上限としては、例えば、1000MPa以下が好ましく、より好ましくは950MPa以下であり、さらに好ましくは900MPa以下である。
【0040】
ここで、本発明において、「主成分とする」とはフィルムを構成する樹脂成分のうち、構成比率が50質量%以上であることを意味するものであり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。
【0041】
PPフィルム12およびPPフィルム13に含有するポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィンランダムコポリマー(いわゆるランダムポリプロピレン)、ホモポリプロピレン中にポリエチレンやエチレン−プロピレンゴム(EPR)等が分散したブロックポリプロピレンなどが挙げられ、これらの中から選ばれる1種、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
α−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。
なお、PPフィルム12およびPPフィルム13の組成は、それぞれ異なっていてもよい。
【0042】
PPフィルム12およびPPフィルム13は、本発明の目的を達成しうる範囲で他の樹脂成分を含有してもよい。
例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また必要に応じて、公知の充填剤、顔料、核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、難燃剤、ワックス、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤などの添加剤を添加することができる。
【0043】
PPフィルム12およびPPフィルム13の厚みは、上記機能を発揮すれば、とくに限定されない。
例えば、5μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上80μm以下である。
なお、PPフィルム12とPPフィルム13の厚みは、それぞれ異なってもよいが、カール(反り)を抑えるという観点から略同じ厚さとなるように形成するのが好ましい。
【0044】
(接着層14の詳細)
接着層14は、酸変性ポリオレフィン系樹脂と、架橋剤としてエポキシ化合物とを含有する接着剤から形成されるものであり、かかる接着剤が硬化した状態における引張弾性率が所定の引張弾性率となるように形成されている。
【0045】
接着剤が硬化した状態における引張弾性率は、160MPa以上である。
接着剤が硬化した状態における引張弾性率は、200MPa以上が好ましく、より好ましくは250MPa以上であり、さらに好ましくは300MPa以上であり、特に好ましくは400MPa以上である。
引張弾性率が160MPa以上であれば、熱応力を受けた際における筐体1の伸縮に金属箔11が追従することを低下させることができる。引張弾性率の上限は特に制限するものではないが、その引張弾性率が1000MPa程度のものまで入手可能であり、これが本発明における現時点での上限となる。引張弾性率の上限としては、例えば、800MPa以下が好ましく、より好ましくは700MPa以下であり、さらに好ましくは600MPa以下である。
【0046】
接着剤は酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分として含むことが好ましく、接着剤に含まれる架橋剤としてのエポキシ化合物は、酸変性ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上8質量部以下となるように含有される。
【0047】
なお、接着剤は、本発明の目的を達成しうる範囲で熱可塑性エラストマー等の他の樹脂成分、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等の他の架橋剤を含んでいてもよい。
また、金属箔11とPPフィルム12との間に配置される接着層14及び金属箔11とPPフィルム13との間に配置される接着層14の接着剤の組成は、それぞれ異なっていてもよい。
【0048】
接着層14の厚みは、金属箔11とPPフィルム12、13とを接着できれば、特に限定されない。
例えば、0.1μm以上20μm以下が好ましく、より好ましくは0.3μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上5μm以下である。なお、金属箔11とPPフィルム12との間に形成される接着層14及び金属箔11とPPフィルム13との間に形成される接着層14の厚みは、それぞれ異なっていてもよい。
【0049】
(接着剤の酸変性ポリオレフィン系樹脂)
接着剤の酸変性ポリオレフィン系樹脂は、接着性を有する樹脂である。
この酸変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその酸無水物をグラフト重合することにより変性したポリマーである。
変性に使用される不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。これらの中でも、エポキシ基と良好に反応する観点から、カルボン酸無水物基を含有する無水マレイン酸が好ましい。
なお、酸変性ポリオレフィン系樹脂は、1種類の不飽和カルボン酸またはその酸無水物で変性されたものを単独で使用してもよいし、2種類以上の不飽和カルボン酸またはその酸無水物で変性されたものを組み合わせて使用してもよい。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレンと炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体等のポリプロピレン系樹脂等挙げられ、これらの中から選ばれる1種、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでもポリオレフィン系樹脂としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂が好ましく、これらは当該樹脂が加熱された際の分子運動が促進され、エポキシ化合物との架橋剤同士が接触する機会が増える結果、剥離強度や耐アルカリ性が向上する。共重合体はブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0051】
なお、酸変性ポリオレフィン系樹脂は、酸変性環状ポリオレフィンであってもよい。酸変性環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィンを構成するモノマーの一部を、α,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物に代えて共重合することにより、あるいは環状ポリオレフィンに対してα,β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物をグラフト重合することにより得られるポリマーである。
【0052】
接着剤の酸変性ポリオレフィン系樹脂おける不飽和カルボン酸又はその酸無水物の割合は、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の融点は、80℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上110℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上100℃以下である。融点が上記範囲の酸変性ポリオレフィン系樹脂は、引張弾性率が高く、架橋剤としてのエポキシ化合物と架橋して硬化した際、引張弾性率の高い接着層14を形成することができ、熱応力を受けた際における筐体1の伸縮等に金属箔11が追従することを低下させることができる。
なお、本明細中における酸変性ポリオレフィン系樹脂の融点とは、JIS−K7121に準拠し、示差走査熱量計で測定して得られる融解吸熱曲線における吸熱ピーク温度をいい、吸熱ピークが複数存在する場合、最も吸熱量の大きい吸熱ピーク温度である。
【0054】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、10000以上180000以下が好ましく、より好ましくは40000以上150000以下であり、さらに好ましくは重量平均分子量が60000以上100000以下である。重量平均分子量が上記範囲であれば、凝集力が強く接着性に優れるとともに、エポキシ化合物との硬化反応に優れる。
【0055】
(接着剤のエポキシ化合物)
接着剤中のエポキシ化合物は、接着剤の酸変性ポリオレフィン系樹脂と反応して架橋構造を形成する複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物であれば、とくに限定されない。
例えば、ポリオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、キレート変性エポキシ樹脂などを挙げることができ、これらの中から選ばれる1種或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下では、本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルムを筐体に設けた状態において、過酷な環境下においても金属箔のクラック現象に対して高い耐性を発揮させることができることを確認した。
なお、これらの実施例は、本実施形態の一例を示すものであり、本実施形態がこれらに限定されるものではない。
【0057】
(フィルムの作製)
実験に使用したニッケル水素電池筐体用フィルムは、以下のとおり作製した。
まず、アルミニウム箔(厚さ15μm)の一方の面に、溶剤で希釈された接着剤を塗布し、加熱して溶剤を乾燥した。ついで、ポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレンフィルム(厚さ50μm)を接着剤(乾燥後の接着剤の厚さ2〜3μm)を塗布したアルミニウム箔の一方の面にドライラミネーション法により貼り合わせた。そして、アルミニウム箔の他方の面に上記と同様の方法及び材料を用いてポリプロピレンフィルムを貼り合わせた。
以上の製法により、ポリプロピレンフィルムからなるポリプロピレン樹脂層(第1外層)/接着剤からなる接着層(第1接着層)/アルミニウム箔からなるアルミ箔層/接着剤からなる接着層(第2接着層)/ポリプロピレンフィルムからなるポリプロピレン樹脂層(第2外層)、を有するニッケル水素電池筐体用フィルムを作製した。
【0058】
ポリプロピレンフィルムとしては、ホモポリプロピレンからなるホモポリプロピレンフィルム、ランダムポリプロピレンからなるランダムポリプロプレンフィルム及びブロックポリプロピレンからなるブロックポリプロピレンフィルムを用いた。
【0059】
接着剤は、表1に示す、主剤としての酸変性ポリオレフィン系樹脂(酸変性PP(1)〜(2))と架橋剤を使用した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記フィルムおよび接着剤を使用して、表2に示す層構成を有する試験フィルム1〜4を作製した。
なお、接着層は、主剤100質量部に対して架橋剤が表2に示す割合(固形分比)となるように混合した。
【0062】
【表2】
【0063】
(比較フィルムの作製)
上記方法と同様の方法により表3に示す層構成を有する比較フィルム1〜6を作製した。
なお、接着層の接着剤は、主剤100質量部に対して架橋剤が表3の割合(固形分比)となるように混合した。
また、接着層の接着剤は、表4の主剤と架橋剤を使用した。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
上記の方法で作製した試験フィルム1〜4および比較フィルム1〜6における各層の引張弾性率および各フィルムにおける層間の接着強度を測定した。
【0067】
(引張弾性率試験)
試験フィルム1〜4および比較フィルム1〜6のそれぞれの第1外層または第2外層に用いたポリプロピレンフィルムのMD方向及びTD方向の引張弾性率をJIS K 7127に準拠し、測定した。そして、MD方向の引張弾性率とTD方向の引張弾性率との相加平均をそのポリプロピレンフィルムの引張弾性率とした。
試験フィルム1〜4および比較フィルム1〜6の接着層の引張弾性率は、以下の方法により測定した。
【0068】
まず、各フィルムの接着層を形成するために用いた接着剤を支持体(型番:RF・(PET100)CS001、アイム株式会社製)の上に塗布し、ドライヤーで乾燥した後にエージング(50℃、5日)を施して膜を形成し、この膜を支持体から剥がすことにより接着層試験片を得た。
各接着層試験片から幅10mm×長さ100mm×厚み約300μmの短冊状サンプルを切り出し、ASTM D882に基づき、チャック間距離30mm、サンプル幅10mm、試験速度30mm/minで引張弾性率を測定した。なお、引張弾性率の測定は、引張試験機((株)島津製作所製、型番AG−IS)を用いて、23℃50%RHの雰囲気下で行った。
【0069】
試験フィルム1〜4と比較フィルム1〜6の外層および接着層の引張弾性率は、表5の通りであった。
【0070】
【表5】
【0071】
(アルミ箔層と外層との接着強度試験)
各フィルムから幅15mm×長さ120mmの短冊状サンプルを切り出した後、長手方向の端部から約10mmの箇所に一方の面から切れ目を入れた。この切れ目はアルミ箔層のアルミニウム箔を切断しないよう幅方向にハーフカットとなるようにした。そして、このハーフカットラインを起点に折り曲げを繰り返してアルミニウム箔を切断した。つまり予備サンプルは、切れ目を入れた一方の面から、接着剤層/ポリプロピレンフィルムだけでつながった状態にした。そして、かかる状態における予備サンプルを、切断箇所を起点に長手方向の左右に引っ張って予備サンプルの一方の端部を引き裂いた。
ついで、引き裂いた予備サンプルの端面から露出しているポリプロピレンフィルムと残りの層とを約10mm剥がして試験用サンプルを作製した。作製した試験用サンプルは、残りの層におけるポリプロピレンフィルムの外面をアルミニウム板に両面テープで貼り合わせて各フィルムのアルミニウム箔とポリプロピレンフィルムとの接着強度(180度剥離試験)を測定した。
180度剥離試験は、引張試験機((株)島津製作所製、型番AG−IS)を用いて、23℃50%RH雰囲気下において50mm/minで行った。なお、試験において、ポリプロピレンフィルムは鋭角に折り曲げられた状態になり、残りの層が直線状態になるようにした。
【0072】
試験フィルム1〜4と比較フィルム1〜6の接着強度は、表6の通りであった。
【0073】
【表6】
【0074】
以上の物性を有する各フィルム(試験フィルム1〜4、比較フィルム1〜6)の金属箔と外層との耐剥離性の評価及び金属箔の耐クラック機能の評価は、以下の方法により行った。
【0075】
(耐剥離性)
各フィルムから幅80mm×長さ80mmを四角片を切り出して、この四角片をポリプロピレン樹脂板(幅100mm×長さ100mm×2mm厚さ)の中央に重ね合わせ、180℃で20秒間熱圧着し、ポリプロピレン樹脂同士を融着させて接合し、試験片とした。
各試験片を、60℃の加熱炉とマイナス40℃の冷却炉にそれぞれ30分づつ交互に装入する操作を1000回繰り返した。かかる方法は、ポリプロピレン樹脂からなる外層とアルミニウム箔との線膨張率の違いを利用して、アルミニウム箔に繰り返し応力を負荷する方法(熱衝撃性試験)である。
各試験片におけるポリプロピレン樹脂からなる外層とアルミニウム箔との剥離が無いものは良好(○)、剥離の有るものは不良(×)として評価した。
【0076】
(耐クラック機能)
各試験片を、60℃の加熱炉とマイナス40℃の冷却炉にそれぞれ30分づつ交互に装入する操作を1000回繰り返した後の各ポリプロピレン樹脂板に熱圧着した各試験片におけるアルミニウム箔のひび割れの有無を外観で確認し、ひび割れが無いものは良好(○)、ひび割れの有るものは不良(×)として評価した。
【0077】
(結果)
実験結果を表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
表7に示すように、試験フィルム1〜4は、熱衝撃性試験後においてもポリプロピレン樹脂からなる外層とアルミニウム箔との剥離や、アルミニウム箔のひび割れ等のクラックが全く確認されなかった。一方、比較フィルム1及び2は、熱衝撃性試験の約100サイクル目において、ポリプロピレン樹脂からなる外層とアルミニウム箔との剥離が発生した。これは比較フィルム1及び2における接着層の接着強度が不足していることによるものと推測される。
また、比較フィルム3〜6は、熱衝撃性試験後においてポリプロピレン樹脂からなる外層とアルミニウム箔との剥離は発生しないものの、アルミニウム箔にひび割れ等のクラックが確認された。これは比較フィルム3〜6における接着層の引張弾性率が低いために、ポリプロピレン樹脂板の伸縮等に金属箔が追従したことによるものと推測される。
【0080】
以上の実験結果から、本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルムは、接着層として、接着層に用いられる接着剤を硬化させた状態における引張弾性率を所定の引張弾性率とすることによって、金属箔の耐クラック機能が向上することが確認できた。
したがって、本実施形態のニッケル水素電池筐体用フィルムをニッケル水素電池に使用した場合、寒冷地域や砂漠等の高温地域での過酷な環境下での使用はもちろん、充放電に伴う急激な加熱または冷却による熱反応が加わった場合であっても、長期間に渡ってガスバリア性を適切に保持することができることが確認できた。