導波路装置は、第1導電性表面を有する第1導電部材と、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面を有する第2導電部材とを備える。前記第2導電部材は、貫通孔と、前記第2導電性表面から突出するリッジ状の導波部材と、前記第2導電性表面から突出する複数の導電性ロッドとを備える。前記導波部材は、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、一端が前記貫通孔の内側にまで延びている。前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材の両側に位置し、各々が前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記第1導電部材または前記第2導電部材は、前記第1導電性表面または前記第2導電性表面から突出する導電壁を備える。前記導電壁は、前記導波部材の前記一端の周囲を取り囲む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0012】
本開示の実施形態による導波路装置は、第1導電性表面を有する第1導電部材と、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面を有する第2導電部材とを備える。前記第2導電部材は、貫通孔と、前記第2導電性表面から突出するリッジ状の導波部材と、前記第2導電性表面から突出する複数の導電性ロッドとを備える。前記導波部材は、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、一端が前記貫通孔の内側にまで延びている。前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材の両側に位置し、各々が前記第1導電性表面に対向する先端部を有する。前記第1導電部材または前記第2導電部材は、前記第1導電性表面または前記第2導電性表面から突出する導電壁を有する。前記導電壁は、前記導波部材の前記一端における端面および両側面に対向する内表面を有する。前記導電壁は、前記導波部材の前記一端の周囲を取り囲む。前記導波面と前記第1導電性表面との間に第1導波路が規定される。前記導電壁の内側、および前記貫通孔の内部に、前記第1導波路に接続される第2導波路が規定される。
【0013】
第1導波路は、前述のリッジ導波路である。第2導波路は、導波管である。上記の構成によれば、導波管とリッジ導波路とを接続する部分を金属の壁で完全に囲む必要がない。このため、比較的容易に導波路装置を製造することができる。例えば、金型等を用いた量産性の高い型成形の方法を用いて上記構造を有する導波路装置を生産することができる。
【0014】
前記導電壁の前記内表面は、前記導波部材の前記一端における前記端面に対向する第1内表面と、前記第1内表面に繋がり、前記導波部材の前記一端における前記両側面にそれぞれ対向する一対の第2内表面とを含み得る。前記導波部材の前記端面と前記第1内表面との間の領域は、前記第2導波路、すなわち導波管の一部を構成する。
【0015】
前記導電壁は、前記導波部材が延びる方向に実質的に垂直な第1の部分と、前記第1の部分の両端にそれぞれ繋がり、前記導波部材が延びる方向に実質的に平行な一対の第2の部分とを含んでいてもよい。その場合、導波面に平行な平面で切断した場合の導電壁の断面は、U字形状を有する。なお、第1の部分と第2の部分とは、垂直に繋がっている必要はなく、カーブを描くように繋がっていてもよい。
【0016】
導電壁は、第1導電部材および第2導電部材のいずれに設けられていてもよい。ある実施形態では、前記第2導電部材が前記導電壁を備える。そのような実施形態の具体例は、「第1の実施形態」、「第2の実施形態」、「第3の実施形態」として後述する。これらの実施形態では、前記導電壁は、前記導波部材の前記一端および前記貫通孔の周囲を取り囲むように配置される。前記第1導電部材は、前記導電壁の少なくとも一部を収容するスリットまたは溝を有する。
【0017】
前記第1導電部材における前記スリットまたは前記溝の内表面と、前記導電壁の表面との間には、隙間があってもよい。例えば、前記溝の底面と、前記導電壁の頂面との間に隙間があってもよい。また、前記スリットまたは前記溝の内側面と、前記導電壁の側面(すなわち、内側面または外側面)との間に隙間があってもよい。本発明者らは、そのような隙間がある場合でも、第1導波路(リッジ導波路)と第2導波路(導波管)との間で電磁波を良好に伝送させることができることを見出している。そのような隙間が許容されるため、第1導電部材および第2導電部材の寸法設計に要求される精度を緩和することができ、量産性を高めることができる。
【0018】
他の実施形態では、前記第1導電部材が前記導電壁を備える。そのような実施形態の具体例は、「第4の実施形態」として後述する。そのような実施形態では、前記導電壁の一部は、前記貫通孔の内部に位置する。前記導電壁は、前記第1導電部材の前記第1導電性表面から、前記貫通孔を通って前記第2導電部材を越えて延びていてもよい。
【0019】
前記第2導電部材は、前記第2導電性表面の反対側の第3導電性表面をさらに備えていてもよい。前記第2導電部材は、前記導波部材(第1導波部材)に加えて、前記第3導電性表面から突出するリッジ状の第2導波部材であって、一端が前記貫通孔の内側にまで延び、前記第1導波部材の前記一端と繋がる第2導波部材とをさらに備えていてもよい。そのような構成では、前記第2導波部材の頂面に沿って第3導波路が規定され、前記第3導波路は、前記第2導波路に接続される。
【0020】
導波路装置は、前記第2導波部材の前記頂面の一部に接続されたマイクロストリップラインをさらに備えていてもよい。そのような構成により、マイクロストリップラインと第3導波路との間で電磁波を相互に伝送することができる。マイクロストリップラインは、例えばマイクロ波集積回路に接続され得る。
【0021】
導波路装置は、前記第3導電性表面に接触する第4導電性表面を有する第3導電部材をさらに備えていてもよい。前記第2導電部材は、前記第3導電性表面の側に、導電性の内表面を有する溝を有していてもよい。前記第2導波部材は、前記溝の内部にあってもよい。前記第2導波部材の前記頂面の少なくとも一部は、前記第4導電性表面に対向していてもよい。そのような構成では、前記溝の内部に、前記第2導波部材に沿った導波管が前記第3導波路として形成される。前記第3導電部材は、前述のマイクロストリップラインを有するマイクロストリップラインモジュールであってもよい。
【0022】
導波路装置は、前記第3導電性表面に対向する第4導電性表面を有する第3導電部材をさらに備えていてもよい。前記第2導電部材は、前記第3導電性表面から突出する複数の第2導電性ロッドであって、前記複数の第2導波部材の各々の両側に位置し、各々が前記第4導電性表面に対向する先端部を有する複数の第2導電性ロッドをさらに備えていてもよい。前記第2導波部材の前記頂面の少なくとも一部は、前記第4導電性表面に対向していてもよい。そのような構成では、前記第2導波部材の頂面と前記第4導電性表面との間に、リッジ導波路が前記第3導波路として形成される。前記第3導電部材は、前述のマイクロストリップラインを有するマイクロストリップラインモジュールであってもよい。
【0023】
なお、第4導電性表面は誘電体の層で覆われていてもよい。言い換えれば、第4導電性表面は第3導電部材の最表面に位置していなくてもよい。そのような誘電体の層は、ソルダーレジストであってもよいし、誘電体製の板であってもよい。また、誘電体の層が板である場合には、その上にさらに導電性の層が配置されてもよい。そのような導電性の層がストリップ状の金属の箔である場合は、当該ストリップ状の導電性の層と第4導電性表面およびそれらの間の誘電体の層によって、マイクロストリップラインが構成され得る。
【0024】
前記第2導電部材は、前記第3導電性表面から突出する第2導電壁をさらに備えていてもよい。前記第2導電壁は、前記第2導波部材の前記一端および前記貫通孔の周囲を取り囲んでいてもよい。前記第2導電壁の頂面は、前記第3導電部材に接触していてもよい。前記第2導電壁の頂面は、前記第3導電部材の前記第4導電性表面に接触していてもよいし、第4導電性表面を覆う誘電体の層に接触していてもよい。また、前記第2導電壁の頂面と、前記第3導電部材の表面との間には、50μm未満の大きさの隙間があってもよい。
【0025】
あるいは、第1導電部材が前記導電壁を備える場合、前記導電壁が前記貫通孔を越えて延び、前記導電壁の頂面が前記第4導電性表面に接触していてもよい。
【0026】
前記第2導電部材は、前記貫通孔を含む複数の貫通孔と、前記導波部材を含む複数の導波部材とを備えていてもよい。前記第1導電部材または前記第2導電部材は、前記導電壁を含む複数の導電壁を備えていてもよい。前記複数の導電性ロッドは、前記複数の導波部材の周囲および間に配置され得る。前記複数の導波部材の各々は、前記第2導電性表面から突出するリッジ状の導波部材であり、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、一端が前記複数の貫通孔の1つの内側にまで延びていてもよい。前記複数の導電壁の各々は、前記第1導電性表面または前記第2導電性表面から突出し、前記複数の導波部材の1つの前記一端の周囲を取り囲んでいてもよい。前記複数の導波部材の前記導波面と前記第1導電性表面との間に複数の第1導波路が規定され得る。前記複数の導電壁の内側、および前記複数の貫通孔の内部に、前記複数の第1導波路にそれぞれ接続される複数の第2導波路が規定され得る。
【0027】
上記構成によれば、複数の第1導波路(すなわちリッジ導波路)と、複数の第2導波路(すなわち導波管)とを接続することができる。
【0028】
前記第2導電部材が前記複数の導電壁を備えていてもよい。前記複数の導電壁の各々は、前記複数の導波部材の1つの前記一端および前記複数の貫通孔の1つの周囲を取り囲んでいてもよい。前記第1導電部材は、前記複数の導電壁の少なくとも一部をそれぞれ収容する複数のスリットまたは複数の溝を有していてもよい。前記複数のスリットまたは前記複数の溝の少なくとも1つは、自身の内表面と前記複数の導電壁の対応する1つの表面との間に間隙を有していてもよい。
【0029】
前記複数の導波部材は、隣り合う2つの導波部材を含み得る。前記複数の導電壁は、隣り合う2つの導電壁を含み得る。前記2つの導電壁は、前記2つの導波部材の前記一端の間に位置する共有部分を含んでいてもよい。その場合、2つの導電壁は、ひとつながりの部材を構成する。
【0030】
前記共有部分は、前記2つの導波部材が延びる方向に沿った溝を頂部に有していてもよい。
【0031】
本開示の実施形態によるアンテナ装置は、前述のいずれかに記載の導波路装置と、前記導波路装置に接続された1つ以上のアンテナ素子とを備える。
【0032】
前記第1導電部材は、前記1つ以上のアンテナ素子として機能する1つ以上のスロットを有していてもよい。前記1つ以上のスロットは、前記導波部材の前記導波面に対向するように配置され得る。
【0033】
本開示の他の実施形態による通信装置は、前述のいずれかのアンテナ装置と、前記アンテナ装置に接続されたマイクロ波集積回路とを備える。
【0034】
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0035】
[第1の実施形態]
図1は、本開示の例示的な第1の実施形態による導波路装置を利用して構成された通信装置500を示す平面図である。
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下、この座標系を用いて本開示の実施形態の構成を説明する。+Z方向側を「正面側」と称し、−Z方向側を「背面側」と称する。「正面側」は、電磁波が放射される側、または電磁波が到来する側を指し、「背面側」は、正面側の反対側である。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかり易さを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0036】
図1は、通信装置500の正面側の構造を示している。この通信装置500は、4つのアンテナ装置300を含む。4つのアンテナ装置300は、Y方向における位置が1つおきに異なる態様で、X方向に沿って配列されている。このような配列を、「千鳥配列」(Staggered Arrangement)と称する。各アンテナ装置300は、MMICなどのマイクロ波集積回路、および信号処理回路などの電子回路に接続され、電磁波の放射および受信の少なくとも一方を行う。各アンテナ装置300は小型であり、例えばY方向における各アンテナ装置300の寸法は20cm程度であり得る。なお、通信装置500が備えるアンテナ装置300の数および配置は、図示される数および配置に限定されず、用途に応じて変更可能である。
【0037】
図2は、
図1に示す1つのアンテナ装置300を拡大して示す図である。アンテナ装置300は、
図2における左端部分に、Z方向に延びる複数の導波管350の列を備える。複数の導波管350は、アンテナ装置300の内部にあり、X方向に並んでいる。
図2に示すU字形状の部分は、アンテナ装置300の内部にある導電壁354の頂面である。
【0038】
アンテナ装置300は、板形状の第1導電部材310を備える。第1導電部材310は、
図2における左端部分に、複数のU字形状のスリット313(すなわち貫通孔)を有する。複数のスリット313は、複数の導電壁354の先端部をそれぞれ収容する。第1導電部材310は、さらに、X方向およびY方向に沿って2次元的に配列された複数のスロットアンテナ素子312を有する。第1導電部材310において、これらのスロットアンテナ素子312が配置された部分を「放射部」と称する。各スロットアンテナ素子312は、電磁波の放射または受信に用いられる。本実施形態では、各スロットアンテナ素子312の正面側の開口は、X方向に対して45度傾斜した方向に延びている。各スロットアンテナ素子312の正面側の開口が延びる方向は、図示される方向に限らず、Y方向に対して傾斜した任意の方向であってよい。各スロットアンテナ素子312は、その開口が延びる方向に垂直な方向に電界成分をもつ電磁波を放射する。アンテナ装置300が受信に用いられる場合、各スロットアンテナ素子312は、外部空間から到来した電磁波を、第1導電部材310の背面側のWRG導波路に取り込む機能を有する。
【0039】
図3Aは、アンテナ装置300から第1導電部材310を除去した状態を示す平面図である。アンテナ装置300は、第1導電部材310に間隙を空けて対向する板形状の第2導電部材320をさらに備える。
図3Aは、第2導電部材320の正面側の構造を示している。第2導電部材320は、第1導電部材310の背面側の第1導電性表面に対向する第2導電性表面320aと、第2導電性表面320aから突出する複数の導波部材322および複数の導電性ロッド324とを備える。複数の導波部材322の各々は、リッジ状の構造を有する。各導波部材322は、第1導電部材310の背面側の第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有する。複数の導電性ロッド324は、複数の導波部材322の周囲および間に配置されている。各導電性ロッド324は、第2導電性表面320aに接続された基部と、第1導電部材310の背面側の第1導電性表面に対向する先端部とを有する。図示される導電性ロッド324は、直方体形状を有するが、他の形状、例えば円柱、角錐台、または円錐台などの形状を有していてもよい。
【0040】
複数の導波部材322は、全体として、X方向に並んでいる。各導波部材322は、全体としてY方向に沿って延びている。ただし、本実施形態における各導波部材322は、2つの屈曲部322bを有する。屈曲部322bにおいて、導波部材322の延びる方向が変化する。本実施形態では、屈曲部322bは凹部になっている。屈曲部322bを凹部にすることにより、屈曲部322bにおける信号波の反射が抑制される。各導波部材322は、Y方向に沿って直線的に延びる部分を有する。当該部分は、
図2に示す複数のスロットアンテナ素子312のうちのY方向に並ぶ13個のスロットアンテナ素子312に対向する。
【0041】
各導波部材322の両側には、複数の導電性ロッド324が配置されている。複数の導電性ロッド324は人工磁気導体として機能する。このような構造により、各導波部材322の導波面と第1導電部材310の背面側の導電性表面との間に、前述のWRG導波路が形成される。
【0042】
第2導電部材320は、
図3Aにおける左端部分に、複数の貫通孔352と、当該複数の貫通孔352をそれぞれ部分的に囲む複数のU字形状の導電壁354とをさらに備える。これらの貫通孔352および導電壁354により、Z方向に延びる複数の導波管350が構成される。各導波部材322の一端は、導波管350の内側にまで延びている。このような構造により、WRG導波路(第1導波路)と導波管350(第2導波路)とが接続される。
【0043】
本実施形態では、導波部材322の数は8であるが、導波部材322の数は1以上の任意の数であってよい。導波部材322の数および配置に合わせて、貫通孔352および導電壁354の数および配置、ならびに第1導電部材310における複数のスロットアンテナ素子312の数および配置が決定される。
【0044】
図3Bは、第2導電部材320の背面側の構造を示す図である。第2導電部材320の背面側の第3導電性表面320bには、複数の貫通孔352が開口している。第2導電部材320は、背面側に、比較的短いリッジ状の導波部材326(第2導波部材)を有する。この導波部材326の一端は、貫通孔352の内側に突出し、他端は、不図示のマイクロストリップラインなどの伝送線路を介してマイクロ波集積回路に接続される。
【0045】
図4Aは、導波管とWRG導波路との変換部の構造の例を示す斜視図である。なお、
図4Aでは、簡単のため、隣り合う2つの導波管と、隣り合う2つのWRG導波路との変換部の近傍の構造のみが示されている。このような変換部の構造は、本実施形態におけるアンテナ装置300に限らず、任意の導波路装置に適用できる。以下、
図4Aに示す装置を「導波路装置」と称することがある。
図4Bは、わかりやすくするために、第1導電部材310を半透明にして表示した図である。
図5は、変換部の近傍における第2導電部材320の正面側の構造を示す斜視図である。
【0046】
図5に示すように、第2導電部材320は、導電性表面320aから突出する複数のU字形状の導電壁354を備える。各導電壁354は、導波管350の三方の壁面を構成する。各導電壁354は、第2導電部材320の一部である。例えば金型を用いた成形方法により、各導電壁354と第2導電部材320を構成する他の部分とが、ひとつながりの部材として生産され得る。
【0047】
第2導電部材320の複数の貫通孔352は、複数の導電壁354の内側にそれぞれ位置する。各導電壁354は、導波部材322の一端における端面に対向する第1内表面と、導波部材322の一端における両側面にそれぞれ対向する一対の第2内表面とを含む。
図5の例では、各導電壁354は、導波部材322が延びるY方向に実質的に垂直な第1の部分と、当該方向に実質的に平行な一対の第2の部分とを含む。第1の部分の両端部に、一対の第2の部分が垂直に接続されている。導電壁354の第1の部分と一対の第2の部分は、同一の高さを有する。したがって、各導電壁354の頂面は、平坦なU字形状を有する。各導電壁354の内表面は、貫通孔352の開口の周囲の四方のうちの三方を囲む。導電壁354は他の構造を有していてもよい。例えば、導電壁354は、内表面が滑らかに湾曲した構造を備えていてもよい。各導波部材322の一端は、導電壁354によって部分的に囲まれる領域にまで延び、貫通孔352の内側に突出している。この突出する部分は、第2導電部材320の背面側にある導波部材326に貫通孔352の内部で繋がっている。
【0048】
複数の導電性ロッド324は、複数の導波部材322および複数の導電壁354の周囲に配置されている。隣り合う2つの導波部材322の間には、2列の導電性ロッド324が配置されている。隣り合う2つの導電壁354の間には導電性ロッド324が配置されていない。複数の導電性ロッド324の数および配置は、図示される下図および配置に限定されず、導波路装置の要求される特性に応じて適宜決定される。
【0049】
第2導電部材320は、背面側に、Y方向に延びる複数の溝328と、それらの溝328の内部にそれぞれ位置するリッジ状の複数の導波部材326とを備える。各溝328は、導電性の内表面を有する。背面側の各導波部材326の一端は、貫通孔352の内側にまで突出しており、正面側の導波部材322の一端と繋がっている。
【0050】
第1導電部材310および第2導電部材320の各々は、例えば樹脂などの絶縁材料の表面にメッキ層を形成することによって作製され得る。その場合、各導電部材は、当該導電部材の形状を規定する誘電体部材と、当該誘電体部材の表面を覆う導電材料のメッキ層とを含む。メッキ層を構成する導電性材料として、例えばマグネシウムなどの金属を用いることができる。各導電部材の全体が誘電体部材で形状が規定されている必要はない。各導電部材の一部分が、例えば金属部材で直接的に形状が規定されていてもよい。さらに、メッキ層に代えて、蒸着等によって導電体の層が形成されていてもよい。各導電部材は、鋳造または鍛造などの金属加工によって作製されてもよい。各導電部材は、金属板を加工して成形されてもよい。ダイキャスト法等によって各導電部材を成形してもよい。
【0051】
図6Aは、変換部の近傍における第1導電部材310の構造を示す斜視図である。本実施形態における第1導電部材310は、例えば金属製のプレートである。第1導電部材310は、正面側の導電性表面310aと、背面側の第1導電性表面310bと、U字形状の複数のスリット313とを有する。
図4Aに示すように、複数のスリット313の内側に、複数の導電壁354の先端部が収容される。第1導電部材310のスリット313の内表面と、導電壁354の先端部の側面の少なくとも一部との間には間隙があってもよい。
【0052】
導波管350は、第2導電部材320の背面側から、第1導電部材310の背面側の第1導電性表面310bにまで達し、そこでY方向に折れ曲がり、導波部材322上のWRGに接続される。この接続部分を、本明細書では「変換部」と呼ぶ。仮にこれが導波管同士の接続であれば、Z方向に延びる導波管とY方向に延びる導波管は、完全に接合されていなければならない。しかし、本発明者らは、WRGと導波管とを接続する場合においては、Z方向に延びる導波管の一部である導電壁354と第1導電部材310との間には、間隙の存在が許容されることを見出している。
図4Aの例では、導電壁354の厚さは、U字形状のスリット313の幅よりも小さい。このため、導電壁354の先端部は、U字形状のスリット313にすきまばめされている。
【0053】
図6Bは、第1導電部材310の変形例を示す図である。
図6Bは、第1導電部材310を背面側から見た構造を示している。この例において、第1導電部材310は、スリット313ではなくU字形状の複数の溝314を、背面側の第1導電性表面310bに有する。このU字形状の溝314に、U字形状の導電壁354の先端部が嵌る。このような構造によっても導波管350とWRG導波路との変換部を構成することができる。導電壁354の先端部とU字形状の溝314の底面との間には、隙間があってもよいし、接触していてもよい。
【0054】
図6Aおよび
図6Bのいずれの構成においても、導電壁354の先端部の側面と、U字形状のスリット313の内表面またはU字形状の溝314の側面との間には、隙間がある。このため、第1導電部材310および第2導電部材320の寸法管理および組み立てが容易である。隙間をなくし、導電壁354の先端部が第1導電部材310のスリット313または溝314に圧入されるようにしてもよい。圧入状態になるように設計される場合であっても、製造時の部材の寸法のばらつきにより、部分的に隙間が生じたり、すきまばめに近い状態になったりすることがある。2つの導波管が接続された従来の構成においては、このような隙間の発生は特性の劣化をもたらすため、許容されない。しかし、本実施形態における導波管とWRGとの変換部においては、元々隙間の存在が許容されているため、そのような問題は生じない。また、すきまばめ部分、あるいは圧入部に、レーザー等を照射するなどして二つの部材を溶接し、導電壁354と第1導電部材310とを一体化してもよい。一般に、溶接部においてブローホール(blowhole)等の溶接欠陥の発生を完全に抑制することは難しいが、そのような欠陥が発生しても、本実施形態においては問題は生じない。
【0055】
なお、第1導電部材310におけるスリット313または溝314の形状は、U字形状に限定されない。スリット313または溝314の形状は、導電壁354の先端部の形状に応じて異なり得る。例えば導電壁354の先端部が円弧状の場合には、第1導電部材310におけるスリット313または溝314の形状も、円弧状であり得る。
【0056】
図4Aに示す導波路装置は、第2導電部材320の背面側に、マイクロストリップライン(MSL)モジュール330をさらに備える。MSLモジュール330は、誘電体基板331と、背面側の第1グラウンド導体332と、正面側の第2グラウンド導体333と、複数のストリップ状導体334とを備える。第1グラウンド導体332は、誘電体基板331の背面側の表面に設けられている。複数のストリップ状導体334は、誘電体基板331の正面側の表面に設けられている。第2グラウンド導体333は、誘電体基板331の正面側の表面のうち、複数のストリップ状導体334の周囲に設けられている。このような構造により、複数のマイクロストリップラインが構成される。複数のストリップ状導体334は、Y方向に延びており、背面側の複数の導波部材326の頂面の一部にそれぞれ接触している。第2グラウンド導体333は、第2導電部材320の背面側の第3導電性表面320bに接触している。
【0057】
本実施形態において、MSLモジュール330は、前述の「第3導電部材」に該当し、第2グラウンド導体333は、前述の「第4導電性表面」に該当する。第2導波部材326の頂面の一部は、ストリップ状導体334に接触する。誘電体基板331の背面側には第1グラウンド導体332が位置しており、当該頂面の一部は、誘電体基板331を間に挟んで第1グラウンド導体332と対向している。また、第1グラウンド導体332と第2グラウンド導体333は、図示されていないビアによって接続されている。
【0058】
図7Aは、
図4Aに示す導波路装置の背面側の構造を示す斜視図である。
図7Bは、
図7Aに示す導波路装置からMSLモジュール330を除去した状態を示す斜視図である。
図7Cは、
図7Aに示す導波路装置において、MSLモジュール330の誘電体基板331および第1グラウンド導体332を透明にして表示した斜視図である。
【0059】
図7Bに示すように、第2導電部材320の背面側には、Y方向に沿って延びる直方体状の複数の溝328がある。複数の溝328の内部に、複数のリッジ状の導波部材326がそれぞれ位置している。各導波部材326の一端は、貫通孔352の内側にまで延び、正面側の導波部材322の一端に接続されている。溝328は、導波管(第3導波路)として機能し、導波部材326に沿って電磁波を伝送させることができる。各導波部材326は、溝328の開口に近い側の端部に凸部326bを有する。凸部326bの頂面は平坦であり、
図7Cに示すように、MSLモジュール330におけるストリップ状導体334に接触している。
【0060】
各ストリップ状導体334は、マイクロ波集積回路に接続される。マイクロ波集積回路は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する半導体集積回路のチップまたはパッケージである。「パッケージ」は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する1個または複数個の半導体集積回路チップを含むパッケージである。単一の半導体基板の上に1個以上のマイクロ波ICが集積化されたICは、特に「モノリシックマイクロ波集積回路」(MMIC)と呼ばれる。本開示では、「マイクロ波IC」として、「MMIC」を用いた例を主に説明するが、マイクロ波ICはMMICに限定されない。本開示の実施形態において、MMICに代えて、他の種類のマイクロ波ICを用いてもよい。
【0061】
「マイクロ波」は、周波数が300MHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を意味する。「マイクロ波」のうち、周波数が30GHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を「ミリ波」と称する。真空中における「マイクロ波」の波長は、1mmから1mの範囲にあり、「ミリ波」の波長は、1mmから10mmの範囲にある。また、波長が10mmから30mmの範囲にある電磁波を、「準ミリ波(quasi-millimeter wave)」と呼ぶことがある。
【0062】
マイクロ波ICによって生成された高周波の信号波は、ストリップ状導体334を介して、背面側の導波部材326および正面側の導波部材322に順次伝達される。受信時においては、導波部材322に沿って伝搬した信号波は、背面側の導波部材326およびストリップ状導体334に順次伝達され、マイクロ波ICに到達する。
【0063】
図8は、アンテナ装置300の背面側にIC実装基板370が配置された構成の例を示す図である。IC実装基板370は、MSLモジュール330と、マイクロ波IC340とを備える。マイクロ波IC340は、複数のアンテナ入出力端子を備える。複数のアンテナ入出力端子は、MSLモジュール330における複数のストリップ状導体334にそれぞれ電気的に接続される。
【0064】
マイクロ波IC340は、高周波信号を生成または処理するように構成される。マイクロ波IC340が生成する高周波信号の周波数帯域は、例えば5G通信で利用される28GHz前後の帯域であり得るが、これに限定されない。マイクロ波IC340は、送信機および受信機の少なくとも一方として機能する。IC実装基板370は、送信機に接続されたA/Dコンバータ、および受信機に接続されたD/Aコンバータの一方または両方を備えていてもよい。IC実装基板370は、さらに、A/DコンバータおよびD/Aコンバータの一方または両方に接続された信号処理回路を備えていてもよい。信号処理回路は、デジタル信号のエンコードおよびデジタル信号のデコードの少なくとも一方を実行する。そのような信号処理回路は、アンテナ装置300の外部に設けられていてもよい。例えば、
図1に示す通信装置500が、複数のアンテナ装置300に対して1つの信号処理回路を備えていてもよい。そのような信号処理回路は、各アンテナ装置300が送信する信号の生成、または各アンテナ装置300によって受信された信号の処理を行う。
【0065】
次に、
図2に示す放射部の構成をより詳細に説明する。
【0066】
図9Aは、
図2に示す第1導電部材310における放射部の一部を拡大して示す図である。
図9Aは、導波部材322が延びるY方向に対して斜めに延びる複数のスロットアンテナ素子312を示している。これらのスロットアンテナ素子312を通して、放射部の背面側に配置される第2導電部材320の一部である複数の導波部材322と、複数の導電性ロッド324とを視認することができる。
【0067】
図9Bは、
図9Aに示す装置から第2導電部材320を取り除いた状態、すなわち第1導電部材310の放射部を単独で示す図である。放射部における複数のスロットアンテナ素子312の各々は、Y方向に対して斜めに延びる正面側のI型スロット312Iと、I型スロット312Iに繋がる背面側のH型スロット312Hとを有する。
図9Aおよび
図9Bに示すように、正面側からスロットアンテナ素子312を見た場合、H型スロット312Hの一部しか視認することができない。
【0068】
図9Cは、第1導電部材310の放射部を背面側から見た図である。背面側から見ると、H型スロット312Hと、H型スロット312Hに繋がるI型スロット312Iの一部とを視認することができる。H型スロット312Hは、X方向に延びる横部分と、横部分の両端部にそれぞれ繋がり、Y方向に延びる一対の縦部分とを含む。各H型スロット312Hの横部分の中央部は、Z方向から見た場合に導波部材322に重なるように配置される。導波部材322の導波面とH型スロット312Hとの間には、間隙がある。このような構成により、導波部材322の導波面に沿って電磁波が伝搬すると、伝搬してきた電磁波の一部は、H型スロット312Hに取り込まれる。そしてその電磁波は、Y方向に対して斜めに延びるI型スロット312Iに受け渡され、外部空間に放射される。このような構成により、導波部材322が延びる方向に対して傾斜した方向の電界を有する電磁波を放射することができる。また、逆のプロセスを経ることで、斜め方向の電界を有する電磁波を受信することもできる。この例では、導波部材322が延びる方向に対するI型スロット312Iの傾斜角度は45度である。この角度は、45度以外の角度であってもよい。また、I型スロット312Iを省略してもよい。I型スロット312Iがない構成では、Y方向の電界成分を有する電磁波の放射または受信が可能である。
【0069】
図9Cに示す例では、複数のH型スロット312HがX方向に並び、縦部分が隣り合って配置されている。H型スロット312Hの縦部分の長さhは、H型スロットの横部分の中央から縦部分の外側の縁までの距離Lよりも長い。このような構成により、隣り合うH型スロット312Hの配置間隔を小さくすることができる。また、この例において、H型スロット312Hの開口の過半は、斜めに延びるI型スロット312Iの側において閉塞されている。このような構造でも、電磁波の送受信に支障はない。
【0070】
以上のように、本実施形態では、第2導電部材320が、導波部材322の一端および貫通孔352の周囲を取り囲む導電壁354を備える。第1導電部材310は、導電壁354の少なくとも一部(例えば先端部)を収容するスリット313または溝314を有する。導波部材322の導波面と第1導電性表面310bとの間に第1導波路(WRG)が規定される。導電壁354の内側、および貫通孔352の内部に、第1導波路に接続される第2導波路(導波管)が規定される。このような構成により、製造し易く、特性の良好なWRGと導波管との接続構造を実現できる。
【0071】
次に、本実施形態の変形例を説明する。
【0072】
図10Aは、
図4Aに示す導波路装置の変形例を示す図である。なお、
図10Aにおいて、第1導電部材310の図示は省略されている。本変形例の導波路装置も、
図6Aまたは
図6Bに示す第1導電部材310を備える。
図10Bは、本変形例の導波路装置を+Y方向側から見た図である。この例において、隣り合う2つの導電壁354は、互いに繋がっている。すなわち、隣り合う2つの導電壁354は、隣り合う2つの導波部材322の一端の間に位置する共有部分を含む。しかし、共有部分の頂部には、2つの導波部材322が延びる方向に沿って延びる溝356があり、導電壁354の先端部が2つの部分に分かれている。
図10Bに示すように、溝356の底面は、第1導電部材310には接触していない。このような構造にすることで、隣り合う2つの導電壁354が繋がった部分の厚さが大きくなるため、ダイキャスト等の方法で製造する場合に、溶湯が流れやすくなり、製造が容易になる。また、切削加工で削り出す場合であっても、隣り合う導電壁354の間の深い溝を加工する必要がなくなるため、生産性が向上する。
【0073】
[第2の実施形態]
図11Aは、本開示の例示的な第2の実施形態における導波路装置を示す斜視図である。
図11Bは、
図11Aに示す導波路装置から第1導電部材310を除去した状態を示す斜視図である。本実施形態においては、隣り合う2つの導電壁354の間に、導電性ロッド124の列が配置されている。隣り合う2つの導波部材322の間には、3列の導電性ロッド124が配置されている。このような構成により、隣り合う2つの導波部材322に沿って形成される2つのWRGを伝搬する信号波の分離度が向上する。
【0074】
なお、隣り合う2つの導電壁354の間の導電性ロッド324の列の数は、1列に限らず、2列以上であってもよい。
【0075】
図11Cは、本実施形態の変形例を示す図である。
図11Cでは、第2導電部材320の構造をわかりやすくするために、第1導電部材310が半透明で表示されている。
図11Dは、本変形例の導波路装置から第1導電部材310を除去した状態を示す平面図である。本変形例は、
図11Aおよび
図11Bに示す構成から、X方向において隣り合う2つの導電壁354の間および周囲の導電性ロッド324を除去した構成を有する。この例のように、各導電壁354の周囲の導電性ロッドを省略してもよい。同様の構造は、本開示の他の実施形態においても同様に適用できる。
【0076】
[第3の実施形態]
図12Aは、本開示の例示的な第3の実施形態における導波路装置を示す斜視図である。
図12Bは、
図12Aに示す導波路装置から第1導電部材310を除去した状態を示す斜視図である。本実施形態においては、隣り合う2つの導電壁354は一つに繋がっており、全体としてE字形状の導電壁354が構成されている。本開示では、このような構成であっても、複数の導波部材322の一端をそれぞれ囲む複数の導電壁354が配置されているものと解釈する。
【0077】
図4Aから
図11Dに示す実施形態では、第2導電部材320の背面側における導波部材326に沿って形成される第3導波路は、導波管である。これに対し、本実施形態では、背面側の導波部材326に沿ってWRGが第3導波路として形成される。本実施形態における第2導電部材320は、背面側の第3導電性表面320bから突出する複数の導電性ロッド325(第2導電性ロッド)を備えている。これらの導電性ロッド325は、背面側の複数の導波部材326の周囲および間に配置されている。これらの導電性ロッド325が人工磁気導体として機能することにより、第2導電部材320の背面側にもWRGが形成される。
【0078】
本実施形態では、MSLモジュール330(第3導電部材)の第2グラウンド導体333(第4導電性表面)は、第2導電部材320の導電性表面320b(第3導電性表面)に対向している。背面側の各導電性ロッド325の先端部は、第2グラウンド導体333に対向している。背面側の各導波部材326の頂面の一部はストリップ状導体334に接触し、当該頂面の他の一部は誘電体基板331に対向している。誘電体基板331の背面側には第1グラウンド導体332が位置しており、当該頂面は、誘電体基板331を間に挟んで第1グラウンド導体332と対向している。また、第1グラウンド導体332と第2グラウンド導体333は、図示されていないビアによって接続されている。このような構造により、背面側の各導波部材326に沿って電磁波を伝搬させることができる。
【0079】
図13は、本実施形態における第2導電部材320の背面側の構造を示す図である。本実施形態における第2導電部材320は、背面側にもE字形状の導電壁355(第2導電壁)を備えている。背面側の導電壁355の内表面は、第2導電部材320の2つの貫通孔352のそれぞれの三方を囲んでいる。各導電壁355の頂面は、MSLモジュール330の第2グラウンド導体333を介してMSLモジュール330(第3導電部材)に接触している。背面側の各導波部材326の一端は、貫通孔352の内側にまで延び、正面側の導波部材322の一端に貫通孔352内で繋がっている。このような構造により、背面側の導波部材326に沿って形成されるWRGと、背面側の導電壁355、貫通孔352、および正面側の導電壁354によって囲まれた領域に形成される導波管と、正面側の導波部材322に沿って形成されるWRGとが接続される。その結果、前述の各実施形態と同様、マイクロ波ICと、各スロットアンテナ素子312との間で、信号波を伝送することができる。
【0080】
[第4の実施形態]
図14Aは、本開示の例示的な第4の実施形態における導波路装置を示す斜視図である。
図14Bは、
図14Aに示す導波路装置から第1導電部材310を除去した状態を示す斜視図である。
図15は、第1導電部材310を背面側から見た図である。
図16は、第2導電部材320を背面側から見た図である。
【0081】
本実施形態において、導電壁354は第1導電部材310の一部である。すなわち、ダイキャスト法等の型成形で製造される場合において、導電壁354と第1導電部材310を構成する他の部位とは、ひとつながりの部材として生産され得る。導電壁354は、第2導電部材320の貫通孔352に収容される。各導電壁354の端面354aは、平坦であり、U字形状を有する。各導電壁354の端面は、
図13に示すようなE字形状、またはC字形状などの他の形状であってもよい。
【0082】
図17は、
図14Aに示す導波路装置において、第2導電部材320を不可視の状態にした図である。導電壁354の端面354aは、MSLモジュール330の第2グラウンド導体333に接触している。
【0083】
このような構造によっても、第3の実施形態と同様、背面側の導波部材326に沿って形成されるWRGと、導電壁355によって囲まれた領域に形成される導波管と、正面側の導波部材322に沿って形成されるWRGとが接続される。その結果、前述の各実施形態と同様、マイクロ波ICと、各スロットアンテナ素子312との間で、信号波を伝送することができる。
【0084】
なお、本実施形態における第2導電部材320は、第1または第2の実施形態における第2導電部材320と同様の構造を有していてもよい。すなわち、第2導電部材320の背面側の導波路を、WRGの代わりに導波管によって構成してもよい。
【0085】
上記の第1から第4の実施形態においては、第2導電部材320の背面側にMSLモジュール330が第3導電部材として配置されている。本開示はそのような実施形態に限定されない。MSLモジュール330に代えて、マイクロストリップラインを有しない導電部材を第3導電部材として配置してもよい。
【0086】
[WRGの構成例]
次に、本開示の実施形態において用いられるWRGの構成例をより詳細に説明する。WRGは、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられ得るリッジ導波路である。このようなリッジ導波路は、マイクロ波帯またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。以下、そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0087】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0088】
例えば、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現され得る。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある。これらの導波路装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面(導電性を有する面)は、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0089】
図18は、このような導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置された板形状(プレート状)の導電部材110および120を備えている。導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0090】
図19Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図19Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要は無い。
【0091】
図20は、わかり易さのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図18および
図19Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0092】
図18から
図20は、導波路装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0093】
再び
図19Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一または実質的に同一の平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装や樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
【0094】
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図20からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0095】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する電磁波(信号波)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間隙の大きさによって調整され得る。
【0096】
次に、
図21を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
【0097】
図21は、
図19Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。導波路装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図21に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
【0098】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0099】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0100】
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、導電部材110と導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設計される。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0101】
図19Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、
図19Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図19Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波路装置として機能し得る。
【0102】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110aとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0103】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0104】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0105】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0106】
各導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、各導電性ロッド124は、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0107】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0108】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0109】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。
【0110】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離L1はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、距離L1を、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0111】
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aと導電性ロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0112】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、本開示の各実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0113】
図22Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110および導電部材120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110a、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0114】
図22Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110と導電部材とを支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0115】
図22Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0116】
図22Dおよび
図22Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110b、120bを有する構造の例を示す図である。
図22Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図22Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0117】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110a、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0118】
図22Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110aのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図21に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。
【0119】
図22Gは、
図22Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図21に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。なお、導電性表面110aの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0120】
図23Aは、導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。
図23Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110a、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0121】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0122】
図24Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図24Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
【0123】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。
図24Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図24Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0124】
図24Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0125】
図24Bは、参考のため、中空導波管430の断面を模式的に示している。
図24Bには、中空導波管430の内部空間423に形成される電磁界モード(TE
10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管430の内部空間423の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管430の内部空間423の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0126】
図24Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0127】
図24Dは、参考のため、2つの中空導波管430を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管430は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管430を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間423の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管430の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0128】
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアンテナアレイへの給電に好適に用いられ得る。
【0129】
図25Aは、上記のような導波路構造を利用したスロットアンテナアレイ200の構成の一部を模式的に示す斜視図である。
図25Bは、このスロットアンテナアレイ200におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このスロットアンテナアレイ200においては、第1導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含み、各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2導電部材120には、Y方向に延びる2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成している。
【0130】
各導波部材122の導波面122aと、導電部材110の導電性表面110aとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。Y方向に並ぶ複数のスロット112のうちの隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、例えば、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。これにより、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
【0131】
図25Aおよび
図25Bに示すスロットアンテナアレイ200は、複数のスロット112の各々をアンテナ素子(放射素子とも称する。)とするアンテナアレイである。このようなスロットアンテナアレイ200の構成によれば、アンテナ素子間の中心間隔を、例えば導波路を伝搬する電磁波の自由空間における波長λoよりも短くすることができる。複数のスロット112には、ホーンが設けられ得る。ホーンを設けることで、放射特性または受信特性を向上させることができる。
【0132】
本開示におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態における導波装置を備えたアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本開示の実施形態におけるアンテナ装置と、小型化が可能なWRG構造とを組み合わせた場合、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、狭小な場所にも容易に搭載することができる。レーダシステムは、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0133】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0134】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用され得る。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態における導波装置を含むアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をアンテナ装置内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、アンテナ装置を介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0135】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0136】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。