【解決手段】構造物又はその部材の表面を塗料組成物で塗装して塗膜を形成させる工程を含み、前記塗料組成物が、有機溶剤(A)及び樹脂(B)を含み、該有機溶剤(A)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含み、該樹脂(B)は、該有機溶剤(A)に分散可能な樹脂及び該有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂のうち少なくとも一方の樹脂からなることを特徴とする構造物の塗装方法である。
前記樹脂(B)が、重量平均分子量が800〜300,000である樹脂(B1)を50質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の構造物の塗装方法。
前記工程の前に、下塗り塗料で構造物又はその部材の表面を塗装し、下塗り塗膜を形成させる工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の構造物の塗装方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の塗料組成物は、キシレンやトルエンを実質的に使用しないという点で臭気を抑えているものの、使用される有機溶媒等による強い臭気は認められ、依然として改善の余地がある。また、特許文献1は、専ら加熱硬化型塗料について記載するものであり、常温乾燥型塗料としての十分な検討は行われていない。
【0007】
また、特許文献2に記載の塗料組成物は、室温でも充分な乾燥硬化性を示すと共に環境に配慮した有機溶媒として第三種有機溶剤を使用しているが、特許文献2に挙げられる第三種有機溶剤の使用は臭気の問題に対処できるものではない。
【0008】
また、夏季などの構造物表面の温度が上昇する状況においては、常温での乾燥性に優れる塗料であると、乾燥が速くなりすぎるため、塗装が困難になることも多い。特に、建築物の壁面に使用されるカーテンウォールの塗り替えにおいては、塗料の飛散が少なく、塗料の無駄を少なくする観点からローラー塗装が好まれるが、乾燥が速すぎる塗料に対してローラー塗装を行うと、艶ムラ等が起こりやすく、塗装作業性は著しく低下するといった課題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、低臭気で、乾燥性及び塗装作業性に優れる非水系の常温乾燥型の構造物の塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の蒸気圧を有する有機溶剤と、該有機溶剤に分散又は溶解可能な樹脂とを組み合わせた非水系の常温乾燥型塗料組成物が、低臭気で、乾燥性に優れると共に、夏季などの構造物表面の温度が上昇する状況下においてローラー塗装を行う場合であっても、塗装作業性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の構造物の塗装方法は、構造物又はその部材の表面を塗料組成物で塗装して塗膜を形成させる工程を含み、
前記塗料組成物が、有機溶剤(A)及び樹脂(B)を含み、該有機溶剤(A)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含み、該樹脂(B)は、該有機溶剤(A)に分散可能な樹脂及び該有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂のうち少なくとも一方の樹脂からなることを特徴とする。
【0012】
本発明の構造物の塗装方法の好適例においては、前記構造物が建築物である。
【0013】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記塗料組成物が常温乾燥型塗料組成物である。
【0014】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記塗料組成物の塗装手段がローラーである。
【0015】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記塗膜の厚さが20〜50μmである。
【0016】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記塗料組成物中における水分量が1.0質量%未満である。
【0017】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記樹脂(B)が、重量平均分子量が800〜300,000である樹脂(B1)を50質量%以上含む。
【0018】
本発明の構造物の塗装方法の他の好適例においては、前記工程の前に、下塗り塗料で構造物又はその部材の表面を塗装し、下塗り塗膜を形成させる工程を更に含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低臭気で、乾燥性及び塗装作業性に優れる非水系の常温乾燥型の構造物の塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の構造物の塗装方法を詳細に説明する。本発明の構造物の塗装方法は、構造物又はその部材の表面を塗料組成物で塗装して塗膜を形成させる工程を含み、前記塗料組成物が、有機溶剤(A)及び樹脂(B)を含み、該有機溶剤(A)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含み、該樹脂(B)は、該有機溶剤(A)に分散可能な樹脂及び該有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂のうち少なくとも一方の樹脂からなることを特徴とする。なお、上記塗料組成物を塗料組成物(X)ともいう。
【0021】
上記塗料組成物(X)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含む有機溶剤(A)を含むため、常温乾燥型塗料組成物として好適であり、基材への塗装後に常温にて乾燥させて塗膜を形成させることが可能である。ここでいう「常温」とは5〜35℃であり、上記塗料組成物(X)によれば、23℃の場合、24時間以内、5℃の場合でも、48時間以内という短時間での乾燥も可能である。
【0022】
また、上記塗料組成物(X)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含む有機溶剤(A)を含むため、有機溶剤系(換言すれば非水系)の塗料組成物として使用可能である。ここでいう「有機溶剤系塗料組成物」とは、塗料組成物中に含まれる溶媒全体に占める有機溶剤の割合が50質量%以上である塗料組成物を意味する。特に、上記塗料組成物(X)は、良好な乾燥性を確保する観点から、水分量は1.0質量%未満であることが好ましい。なお、水分量とは、塗料組成物中における水の含有量を指す。
【0023】
上記塗料組成物(X)に用いる有機溶剤(A)には、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類(ラクトンを含む)、窒素含有化合物(アミド、ラクタムなど)、硫黄含有化合物、炭化水素(脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素など)等の公知の塗料用溶剤が使用できるが、上記塗料組成物(X)においては、有機溶剤(A)を構成する溶剤の90質量%以上、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、20℃における蒸気圧が10〜120Paの有機溶剤(A1)である。これらの有機溶剤の中でも、樹脂(B)や後述する硬化剤を分散又は溶解させる観点から、酸素含有化合物(例えばアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類など)が特に好ましい。なお、有機溶剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記塗料組成物(X)中において、有機溶剤(A)の含有量は、例えば15〜90質量%であることが好ましい。
【0024】
上記塗料組成物(X)において、有機溶剤(A1)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである。本発明者は、塗料組成物の溶媒として蒸気圧の低い物質を用いた場合、乾燥時に塗料組成物やその塗膜から発生し得る臭気を感じ難いことを見出した。上記塗料組成物(X)によれば、20℃における蒸気圧が120Pa以下である有機溶剤を用いるため、塗料組成物やその塗膜からの臭気を抑えることができ、夏季などの構造物表面の温度が上昇する状況下においても蒸発が速くなりすぎることがない。20℃における蒸気圧は120Pa以下が好ましく、100Pa以下が更に好ましい。一方、20℃における有機溶剤(A1)の蒸気圧は10Pa以上であり、50Pa以上が好ましい。20℃における蒸気圧が10〜120Paの有機溶剤であれば、常温乾燥で蒸発させることが可能であると共に、夏季などの構造物表面の温度が上昇する状況下においても蒸発が速くなりすぎることもなく、塗装作業性に優れる。
【0025】
20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)の具体例としては、n−オクタノール、エチルヘキシルアルコール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジメチルプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、イソパラフィン系炭化水素、ヘキシルグリコール等が挙げられる。これら溶剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記塗料組成物(X)は、溶媒として有機溶剤(A)を含むことから、上記塗料組成物(X)は、樹脂として、該有機溶剤(A)に分散可能な樹脂及び該有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂のうち少なくとも一方の樹脂からなる樹脂(B)を含む。ここで、「有機溶剤(A)に分散可能な樹脂」とは、有機溶剤(A)中に分布して不均質系(例えば乳濁液又は懸濁液)を形成可能な樹脂であり、塗料組成物(X)中において分散している樹脂である。また、「有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂」とは、有機溶剤(A)に可溶な樹脂を指すが、有機溶剤(A)との混合物が均一な溶液を形成するものであり、塗料組成物(X)中において溶解している樹脂である。なお、樹脂(B)を有機溶剤(A)に分散又は溶解させる際に分散剤や乳化剤等の添加剤を使用してもよい。
【0027】
上記塗料組成物(X)においては、上記樹脂(B)が、重量平均分子量が800〜300,000である樹脂(B1)を含むことが好ましい。上記特定した範囲内の分子量であれば、上記塗料組成物(X)に用いる有機溶剤(A)への分散性や溶解性と良好な塗膜物性(乾燥性、耐水性など)を両立することができる。また、樹脂(B1)の重量平均分子量は900〜100,000であることが更に好ましい。本発明において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用される。
【0028】
上記塗料組成物(X)において、上記樹脂(B)中に占める樹脂(B1)の割合は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。上記樹脂(B)中に占める樹脂(B1)の割合が50質量%以上であれば、上記特定した範囲の分子量によって奏される効果を高めることができる。
【0029】
上記塗料組成物(X)に用いる樹脂(B)としては、塗料業界において通常使用されている樹脂を例示することができ、具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ふっ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂及びアルキド樹脂が好ましく、ふっ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂及びアクリルシリコーン樹脂が特に好ましい。これら樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記塗料組成物(X)において、不揮発分中における樹脂(B)の含有量は、例えば20〜100質量%であることが好ましく、また、塗料組成物が顔料等を更に含む場合は20〜98質量%であることが好ましい。ここで、不揮発分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。上記塗料組成物(X)において、不揮発分の含有量は、10〜85質量%であることが好ましい。
【0031】
上記塗料組成物(X)は、顔料を含むことができる。本発明に使用できる顔料としては、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。具体例としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料、亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料、アルミニウム、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、ステンレス、ガラスフレーク等の光輝顔料等が挙げられる。これら顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記塗料組成物(X)において、不揮発分中における顔料の含有量は、例えば1〜80質量%であることが好ましい。
【0032】
上記塗料組成物(X)は、硬化剤を含むことができる。本発明に使用できる硬化剤としては、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択され、塗料業界において通常使用されている硬化剤を使用できる。これら硬化剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤の含有量は、樹脂に含まれる硬化剤との反応性基の量に応じて適宜調整されるものであるが、上記塗料組成物(X)において、不揮発分中における硬化剤の含有量は、例えば0.5〜15質量%であることが好ましい。
例えば、水酸基を含むような樹脂(水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂及び水酸基含有ふっ素樹脂など)に対しては、イソシアネート系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の他、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂に対しては、アミン系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、トリアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、及びジアミノジフエニルメタン等の芳香族ポリアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、トリエチレングリコールジアミン、及びトリプロピレングリコールジアミン等の他のポリアミン化合物と、これらアミン化合物のアミノ基を変性してなる変性ポリアミン化合物とが挙げられる。なお、上記アミン化合物の変性には、既知の方法が利用でき、変性反応の例としては、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。ここで、アミノ基にエポキシ基等が付加したタイプの変性ポリアミン化合物をアダクトタイプの変性ポリアミン化合物といい、アミノ基にエポキシ基が付加したエポキシアダクトタイプの変性ポリアミン化合物が好ましい。
【0033】
上記塗料組成物(X)には、その他の成分として、他の樹脂、艶消し剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、成膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0034】
上記塗料組成物(X)は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。また、上記塗料組成物(X)が、2液型の塗料組成物である場合は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、主剤や硬化剤を予め用意しておき、塗装時に主剤と硬化剤とを混合することで使用される。なお、硬化剤は、硬化剤そのものでもよいし、他の成分との混合物であってもよい。
【0035】
上記塗料組成物(X)は、せん断速度0.1s
−1の粘度が0.1〜10,000Pa・sであり、且つせん断速度1,000s
−1の粘度が0.05〜10Pa・sであることが好ましい。なお、本発明において、粘度はTAインスツルメンツ社製レオメーターARESを用い、液温を23℃に調整した後測定される。
【0036】
上記塗料組成物(X)の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できるが、ローラー塗装や刷毛塗装が好ましく、ローラー塗装が更に好ましい。
【0037】
上記塗料組成物(X)から形成される塗膜は、その厚さが20〜50μmであることが好ましい。
【0038】
本発明の塗装方法において、塗装対象である構造物は、建築物や構築物等が挙げられ、屋外に建築・建設された構造物(屋外構造物)であることが好適である。上記塗料組成物(X)は、構造物の内外装用の塗料として好適である。本発明において、建築物とは、人間が居住又は滞在する目的で建築された構造物を意味し、例えば住宅(特には戸建や集合住宅)やビル、工場等が挙げられ、構築物とは、人間が居住又は滞在する目的以外のために建設された構造物を意味し、例えば橋梁、タンク、プラント配管、煙突等が挙げられる。特に、本発明の塗装方法は、建築物である場合に有用である。なお、構造物は、その表面に防食処理等のプライマー処理が施されていてもよいし、表面の少なくとも一部に旧塗膜(本発明の塗装方法を実施する際に既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。また、構造物の部材としては、例えば屋根や壁(内壁や外壁など、特にはカーテンウォール)等が挙げられる。
【0039】
本発明の構造物の塗装方法は、上記塗料組成物(X)による塗装を行う前に、下塗り塗料で構造物又はその部材の表面を塗装し、下塗り塗膜を形成させる工程を更に含むことができる。この場合、上記塗料組成物(X)による塗装が、下塗り塗膜上で行われる。即ち、本発明の構造物の塗装方法の一実施態様は、構造物又はその部材の表面を下塗り塗料で塗装して下塗り塗膜を形成させる工程と、該下塗り塗膜を上記塗料組成物(X)で塗装して上塗り塗膜を形成させる工程とを含む。
【0040】
上記下塗り塗料には、主溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料、主溶媒として水を用いる水系塗料、無溶剤系塗料、粉体塗料の各種エナメル塗料又はクリヤー塗料等の従来から公知の各種塗料が利用可能であるが、本発明の目的を達成する観点から、上記下塗り塗料も、上記塗料組成物(X)として説明された塗料組成物であることが好ましい。
【0041】
具体的に、本発明の構造物の塗装方法において、上記下塗り塗料は、有機溶剤(A)及び樹脂(B)を含み、該有機溶剤(A)は、20℃における蒸気圧が10〜120Paである有機溶剤(A1)を90質量%以上含み、該樹脂(B)は、該有機溶剤(A)に分散可能な樹脂及び該有機溶剤(A)に溶解可能な樹脂のうち少なくとも一方の樹脂からなる塗料組成物であることが好ましい。なお、下塗り塗料用である該塗料組成物を塗料組成物(Y)ともいう。
【0042】
上記塗料組成物(Y)の他の実施態様は、上記塗料組成物(X)の説明において記載されているとおりである。具体的に例を挙げれば、上記塗料組成物(Y)は常温乾燥型塗料組成物であることが好ましい。また、上記塗料組成物(Y)は水分量が1.0質量%未満であることが好ましい。上記塗料組成物(Y)において、上記樹脂(B)は、重量平均分子量が800〜300,000である樹脂(B1)を50質量%以上含むことが好ましい。
【0043】
本発明の構造物の塗装方法において、塗料組成物(X)と塗料組成物(Y)は、それぞれが独立しており、両者は、同一の塗料組成物であってもよいし、異なる塗料組成物であってもよい。
【0044】
上記塗料組成物(Y)の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できるが、ローラー塗装や刷毛塗装が好ましく、ローラー塗装が更に好ましい。
【0045】
上記塗料組成物(Y)から形成される塗膜は、その厚さが20〜50μmであることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
[樹脂の調製例]
(アクリル樹脂溶液Aの調製例)
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を付けた反応容器に、アイソパーH(安藤パラケミー社製)300質量部を仕込み110℃に保持し、予め調製しておいたイソブチルメタクリレート70質量部、tert−ブチルメタクリレート230質量部、ラウリルメタクリレート150質量部及びベンゾイルパーオキサイド2質量部の混合物を、窒素雰囲気下で110℃を保持しながら3時間で均一滴下し、更にベンゾイルパーオキサイド3質量部を仕込み1時間110℃に保持し、アイソパーH250質量部を仕込み、不揮発分が45.2質量%、重量平均分子量140,000、外観が無色透明なアクリル樹脂溶液Aを得た。
【0048】
(アクリル樹脂分散液Bの調製例)
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を付けた反応容器に、上記調製例に従い得たアクリル樹脂溶液A 330質量部及びアイソパーH 150質量部を仕込み110℃に保持し、予め調製しておいたメチルメタクリレート110質量部、エチルアクリレート40質量部、ブチルアクリレート70質量部、ブチルメタクリレート50質量部、イソブチルメタクリレート40質量部及びベンゾイルパーオキシド3質量部の混合物を、窒素雰囲気下で110℃を保持しながら3時間で均一滴下し、更にベンゾイルパーオキシド5質量部を仕込み1時間110℃に保持し、アイソパーH 240質量部を仕込み、不揮発分が44.9質量%、重量平均分子量が約140,000、外観が白色懸濁のアクリル樹脂分散液Bを得た。
【0049】
(アクリル樹脂溶液Cの調製例)
攪拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を付けた反応容器に、ソルフィットAC(クラレ社製)225質量部を仕込み100℃に保持し、予め調製しておいたシクロヘキシルメタクリレート141質量部、メチルメタクリレート123質量部、イソブチルメタクリレート119質量部、2−エチルヘキシルアクリレート125質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート53質量部及びターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート6質量部の混合物を、窒素雰囲気下で100℃を保持しながら3時間で均一滴下し、更にターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4質量部及びソルフィットAC52質量部の混合物を仕込み1時間100℃に保持し、ソルフィットAC152質量部を仕込み、不揮発分が57.0質量%、重量平均分子量50,000、外観が無色透明なアクリル樹脂溶液Cを得た。
【0050】
(アクリル樹脂溶液Dの調製例)
ソルフィットACをキシレン(丸善石油化学社)で置換した以外はアクリル樹脂溶液Cの調製例と同じ操作で、不揮発分が57.0質量%、重量平均分子量50,000、外観が無色透明なアクリル樹脂溶液Dを得た。
【0051】
[塗料の調製例]
表1〜2に示す配合処方に従い、主剤を調製し、塗装時に硬化剤と混合して、塗料を調製した(実施例1〜8、比較例1〜8)。なお、実施例9〜13については、1液型の塗料組成物であるため、表1に示す配合処方に従い、塗料を調製した。また、調製した塗料に用いた樹脂は、いずれも塗料中で分散又は溶解していた。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
(注1)「ルミフロンLF200F」:旭硝子社製、ふっ素樹脂、不揮発分100質量%
(注2)「JR−806」:テイカ社製、酸化チタン
(注3)「エースマット82」:エボニック社製、シリカ、平均粒子径 7μm
(注4)「テクポリマーMBX−12」:積水化成品工業社製、樹脂ビーズ、平均粒子径 12μm)
(注5)「ソルフィットAC」:クラレ社製、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、蒸気圧53Pa
(注6)「ソルフィット」:クラレ社製、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、蒸気圧47Pa
(注7)「DOWANOL PnB」:ダウ社製、プロピレングリコールモノブチルエーテル、蒸気圧113Pa
(注8)「ハイソルブEDE」:東邦化学工業社製、ジエチレングリコールジエチルエーテル、蒸気圧50Pa
(注9)「アイソパーH」:エクソンモービル社製、イソパラフィン系炭化水素、蒸気圧100Pa
(注10)「デュラネートTSA100」:旭化成ケミカルズ社製、ヘキサメチレンジイソシアネート変性物、不揮発分100質量%
(注11)「ルミフロンLF800」:旭硝子社製、ふっ素樹脂のミネラルスピリット溶液、不揮発分60質量%
(注12)「ブチルジグリコールアセテート」:ダイセル社製、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、蒸気圧5Pa
(注13)「PE−AC」:クラレ社製、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、蒸気圧227Pa
(注14)「キシレン」:丸善石油化学社製、蒸気圧900Pa
(注15)「PEGASOL AN 45 FLUID」:エクソンモービル社製、蒸気圧287Pa
【0055】
[試験]
乾燥性、臭気及び塗膜外観について評価した。結果を表3〜4に示す。
【0056】
<乾燥性の評価方法>
調製した塗料を各温湿度条件下において、隙間150μmのフィルムアプリケータを用いてガラス板(150mm×70mm×2mm)に該塗料を塗布し、JIS K 5600−1−1の4.3.5b)の条件で、半硬化乾燥するまでの時間を測定し、下記の評価基準にて乾燥性を評価した。
(23℃50%RHの評価基準)
◎:6時間未満
○:6時間以上、8時間未満
△:8時間以上、24時間未満
×:24時間以上
(23℃85%RHの評価基準)
◎:6時間未満
○:6時間以上、8時間未満
△:8時間以上、24時間未満
×:24時間以上
(5℃30%RHの評価基準)
◎:16時間未満
○:16時間以上、32時間未満
△:32時間以上、48時間未満
×:48時間以上
【0057】
<臭気の評価方法>
官能評価及び臭気センサ値により、臭気の評価を行った。
(官能評価)
調製した塗料25〜30gを50mL容量のガラス瓶に移し蓋をする。開封した瓶の開口部を被験者の鼻に10秒間近付け、臭気を評価した。なお、被験者は20代〜40代の男性5人女性5人とし、下記の採点基準により臭気を採点し、10人の合計点を10で除した値を下記の評価基準に従って評価した。
<採点基準>
0点:ほとんど臭気を感じない
1点:僅かに臭気を感じる
2点:臭気を感じる
3点:強い臭気を感じる
<評価基準>
◎:1.0点未満
○:1.0点以上、1.5点未満
△:1.5点以上、2.5点未満
×:2.5点以上
(臭気センサ値)
東京都建設局(平成26年改訂版)において提唱されている室内臭気測定試験方法(臭気測定試験器(COSMOS社製、XP−329mR)を用いた臭気測定方法)に従い、塗料の臭気を測定し、下記の評価基準にて臭気を評価した。測定された数値が低いほど、臭気が低いことを示す。
◎:120未満
○:120以上、200未満
△:200以上、300未満
×:300以上
【0058】
<塗膜外観の評価方法>
調製した塗料を23℃、相対湿度50%条件下において、毛丈8mmのローラーを用いて、ホットプレートを用いて60℃の基材温度に調整されたブリキ板(300mm× mm×300mm)に塗布した。塗装後、60℃×60分乾燥させた後の塗膜外観を目視にて評価した。尚、乾燥膜厚は25μm又は50μmになるように調整した。
○:塗装ムラが認められず、良好な外観が得られる。
△:塗装面の一部に塗装ムラが認められる。
×:塗装面の大部分に塗装ムラが認められ、外観が不良である。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】