【課題】ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって変化する一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の調整と、弾性部材から刃体に作用する弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整を、別々に行うことができる鋏を提供する。
【解決手段】ナット部材30と支軸部を形成するボルト部材40は、第一ボルト部41と第二ボルト部42とを備えており、ナット筒部32に対する第一ボルト部の締め付けによって一対の鋏片10,20間の距離(空隙S)による刃先の接触圧力の調整を行い、この調整とは別に、第二ボルト部との螺合により進退させる第二ナット部材50と第一鋏片10の凹部11との間に配されているコイルバネ70圧縮度合いによって刃先の接触圧力の調整を行う。
第一軸孔が貫設された第一鋏片及び第二軸孔が貫設された第二鋏片が、ナット部材とボルト部材との螺合により形成された支軸部によって回動可能に組み付けられている鋏であり、
前記第一鋏片は、前記第二鋏片と対面している側とは反対側の外表面において前記第一軸孔の周囲に形成されている凹部を備え、
前記ナット部材は、前記第二軸孔に挿通されない大きさのナット頭部と、該ナット頭部から筒状に延び、その内周面に第一雌ネジが形成されており、前記第二鋏片において前記第一鋏片と対面している側とは反対側の外表面から前記第二軸孔に挿入されているナット筒部とを備え、
前記ボルト部材は、前記第一雌ネジと螺合する雄ネジを有し前記第一鋏片の前記外表面から前記第一軸孔に挿入されている第一ボルト部と、前記第一雌ネジとは螺合させない雄ネジを有する第二ボルト部とを備え、
該第二ボルト部の雄ネジに螺合する第二雌ネジを有する第二ナット部材が、第二ボルト部に沿って進退すると共に、
前記第二ナット部材と前記凹部の底面との間には、前記ナット筒部との螺合により前記第一ボルト部が進退する際には前記ボルト部材と干渉することなく、前記第二ボルト部に沿って前記第二ナット部材が進退することによって圧縮度合いが変化する弾性部材が配されており、
前記第一鋏片及び前記第二鋏片それぞれの刃先どうしの接触圧力が、前記ナット筒部に対する前記第一ボルト部の進退によって変化すると共に、この変化と連動することなく、前記第二ナット部材の前記第二ボルト部に対する進退による前記弾性部材の圧縮度合いによって変化する
ことを特徴とする鋏。
前記ボルト部材において前記第一ボルト部と前記第二ボルト部との間に形成されている部分であり、前記第一軸孔に挿入される大きさで、雄ネジが形成されていないスペーサ部を具備する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋏。
【背景技術】
【0002】
一般的に、一対の鋏片の刃体には、それぞれの対向面が軸方向に沿って反対方向に湾曲するように、「ソリ(反り)」と称されるカーブが形成されている。これは、対象物を切断する際に、刃体を互いに離隔させる方向の力が作用するため、この力に抗して刃体どうしを接触させるためである。このようなソリが形成されていることにより、鋏の閉じ操作に伴って、刃元に比べて刃先で接触圧力が増加し、一対の刃体は刃先で互いに押圧しながら擦れ合う。
【0003】
接触圧力が大き過ぎる場合は、摩擦抵抗が大きく、使用感が重く手に負担がかかると共に、刃先が磨耗しやすいものとなる。一方、接触圧力が小さ過ぎる場合は、対象物が刃先間に挟まれて切断されにくくなる。そして、どの程度の接触圧力が適しているかは、鋏の用途や切断対象物の種類、刃体の長さ、使用者の手指の力、使用者の好み等によって異なる。
【0004】
そのため、理美容用の鋏など、使用感を高度に調整できることが要請される鋏では、ボルト部材とナット部材との螺合により形成される支軸部によって一対の鋏片が組み付けられており、使用者がナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いを調整することによって、一対の鋏片間の距離を変化させ、刃先の接触圧力を調整している。例えば、刃体が長い鋏は、刃体が短い鋏に比べて、一対の鋏片間の距離が大きくなるように調整される。
【0005】
一方、支軸部にコイルバネが配されている鋏も、従前より使用されている(例えば、特許文献1参照)。支軸部にコイルバネを配することにより、一対の鋏片の刃体どうしが離隔接近する動作に弾性が付与され、刃先の接触圧力を弾性的に調整することができる。しかしながら、コイルバネを支軸部に配している従来の鋏では、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって、コイルバネの圧縮の度合いを調整している。つまり、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって変化する一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の変化と、コイルバネの弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の変とが連動している。そのため、一方の条件によって接触圧力を調整する際に他方の条件も変わってしまい、刃先の接触圧力の調整を精密に行うことができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって変化する一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の調整と、弾性部材から刃体に作用する弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整を、別々に行うことができる鋏の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる鋏は、
「第一軸孔が貫設された第一鋏片及び第二軸孔が貫設された第二鋏片が、ナット部材とボルト部材との螺合により形成された支軸部によって回動可能に組み付けられている鋏であり、
前記第一鋏片は、前記第二鋏片と対面している側とは反対側の外表面において前記第一軸孔の周囲に形成されている凹部を備え、
前記ナット部材は、前記第二軸孔に挿通されない大きさのナット頭部と、該ナット頭部から筒状に延び、その内周面に第一雌ネジが形成されており、前記第二鋏片において前記第一鋏片と対面している側とは反対側の外表面から前記第二軸孔に挿入されているナット筒部とを備え、
前記ボルト部材は、前記第一雌ネジと螺合する雄ネジを有し前記第一鋏片の前記外表面から前記第一軸孔に挿入されている第一ボルト部と、前記第一雌ネジとは螺合させない雄ネジを有する第二ボルト部とを備え、
該第二ボルト部の雄ネジに螺合する第二雌ネジを有する第二ナット部材が、第二ボルト部に沿って進退すると共に、
前記第二ナット部材と前記凹部の底面との間には、前記ナット筒部との螺合により前記第一ボルト部が進退する際には前記ボルト部材と干渉することなく、前記第二ボルト部に沿って前記第二ナット部材が進退することによって圧縮度合いが変化する弾性部材が配されており、
前記第一鋏片及び前記第二鋏片それぞれの刃先どうしの接触圧力が、前記ナット筒部に対する前記第一ボルト部の進退によって変化すると共に、この変化と連動することなく、前記第二ナット部材の前記第二ボルト部に対する進退による前記弾性部材の圧縮度合いによって変化する」ものである。
【0009】
本構成の鋏は、ボルト部材が二つのボルト部(第一ボルト部、第二ボルト部)を備えている。ボルト部材とナット部材とが螺合する長さは、ナット部材のナット筒部と第一ボルト部との螺合長さである。そして、本構成の鋏は、第二ボルト部の雄ネジと螺合する第二ナット部材を更に備えている。この第二ナット部材と第一鋏片の凹部の底面との間には、弾性部材が配されている。この弾性部材は、ナット部材の第一雌ネジとの螺合によりナット筒部に対して第一ボルト部が進退する際にはボルト部材と干渉しないものであり、弾性部材の圧縮の度合いは、第二ボルト部の雄ネジと第二雌ネジとの螺合により第二ボルトに沿って進退する第二ナット部材と、凹部の底面との間の距離により変化する。つまり、弾性部材の圧縮の度合いを、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いとは無関係に変化させることができる。
【0010】
従って、本構成の鋏によれば、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって変化する一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の調整と、支軸部に配された弾性部材から一対の鋏片に作用する弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整とを、別々に行うことができる。なお、弾性部材は、圧縮されたときに元に戻ろうとする力が作用する部材であればよく、コイルバネ、板バネ、スプリングワッシャ、ウェーブをかけた金属線、ゴム製の筒状部材、を例示することができる。
【0011】
本発明にかかる鋏は、上記構成に加え、
「前記ボルト部材は、前記第一ボルト部と前記第二ボルト部との間に、前記第一ボルト部より大径の大径部を備えていると共に、
前記第一軸孔に挿入される大きさで、前記第一ボルト部を挿通させる環状部材であり、前記第一ボルト部と前記ナット筒部とを最大限に螺合させたときに前記大径部と前記ナット筒部との間に介在するスペーサを具備する」ものとすることができる。
【0012】
本構成では、第一軸孔に挿入される大きさの環状部材であるスペーサに第一ボルト部を挿通することにより、第一ボルト部とナット筒部とが螺合する最大長さを、スペーサの厚さによって変化させることができる。従って、スペーサの厚さによって、一対の鋏片間の距離(空隙の大きさ)を変化させることにより、刃先の接触圧力の調整を行うことができる。
【0013】
なお、「スペーサの厚さ」による調整は、厚さの異なるスペーサへの交換、厚さが同一であるスペーサの数の増減、厚さの異なる複数のスペーサの組み合わせ、によって行うことができる。例えば、刃体が長い場合は、厚さの大きいスペーサを使用し、或いは、複数のスペーサを重ねて使用してスペーサ厚さの総計を大きくすることにより、第一鋏片と第二鋏片との間の距離を大きくする。また、例えば、鋏の使用に伴い砥ぎを繰り返すことによって刃体が薄くなった場合は、スペーサを厚さの小さいものに交換することにより、第一鋏片と第二鋏片との間の距離を小さくする。
【0014】
本発明にかかる鋏は、上記構成に加え、
「前記ボルト部材において前記第一ボルト部と前記第二ボルト部との間に形成されている部分であり、前記第一軸孔に挿入される大きさで、雄ネジが形成されていないスペーサ部を具備する」ものとすることができる。
【0015】
本構成では、ボルト部材において第一ボルト部と第二ボルト部との間にスペーサ部を有している。スペーサ部は、第一軸孔に挿入される大きさであり、雄ネジが形成されていない部分である。従って、第一ボルト部とナット筒部とを最大限に螺合させた状態で、第二ボルト部に対して第二ナット部材が進退する範囲を、スペーサ部の厚さによって変えることができる。すなわち、スペーサ部の厚さを大きくすれば、第一ボルト部より離れた位置で第二ナット部材が進退することとなり、ひいては第二ナット部材と第一鋏片の凹部との間の距離が大きくなる。従って、スペーサ部の厚さにより、弾性部材の圧縮の度合いによる刃先の接触圧力を変化させることができる。
【0016】
本発明にかかる鋏は、上記構成に加えて、
「前記第二ナット部材は凹状部分を有しており、該凹状部分と前記凹部の底面との間に、前記弾性部材が配されている」ものとすることができる。
【0017】
本構成では、第二ナット部材と第一鋏片の凹部の底面との間に配される弾性部材を、第二ナット部材の凹状部分に収容させることができる。従って、このような凹状部分を有しない第二ナット部材に比べて、第一鋏片の外表面から第二ナット部材が突出する度合いを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、ナット部材に対するボルト部材の締め付け度合いによって変化する一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の調整と、弾性部材から刃体に作用する弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整を、別々に行うことができる鋏を、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態である鋏1,2について、図面を用いて説明する。鋏1,2は、ナット部材30とボルト部材40によって形成される支軸部によって、第一鋏片10と第二鋏片20とが回動可能に組み付けられているものである。第一鋏片10及び第二鋏片20は、それぞれ指通孔を有する持手部と刃体とを備えているが、ここでは、支軸部によって組み付けられる部分の近傍のみを図示している。
【0021】
まず、第一実施形態の鋏1について、
図1及び
図2を用いて説明する。鋏1は、第一鋏片10、第二鋏片20、ナット部材30、ボルト部材40、第二ナット部材50、弾性部材としてのコイルバネ70、及び、スペーサ80を具備している。第一鋏片10には第一軸孔15が貫設されており、第二鋏片20には第二軸孔25が貫設されている。本実施形態では、第一軸孔15は角形孔であり、第二軸孔25は円形孔である。第一鋏片10及び第二鋏片20それぞれにおいて、互いに対面している面を内表面と称し、これと反対側の表面を外表面と称すると、第一鋏片10の外表面には、第一軸孔15の周囲に凹部11が形成されている。
【0022】
ナット部材30は、ナット頭部31とナット筒部32とからなり、ナット筒部32の内周面には第一雌ネジ35が形成されている。ナット筒部32は、円形孔である第二軸孔25の直径より僅かに小さい外径を有する円筒部32aと、角形孔である第一軸孔15に嵌め込まれる大きさの角筒部32bとからなる。ナット頭部31は第二軸孔25には挿入されない大きさであり、ナット頭部31から円筒部32aから延設されている。
【0023】
ボルト部材40は、大径部43、第一ボルト部41、及び、第二ボルト部42を有している。大径部43は薄い円板であり、第一鋏片10の凹部11には挿入されるが第一軸孔15には挿入されない大きさである。第一ボルト部41及び第二ボルト部42は、それぞれ大径部43から相反する方向に延びており、それぞれの軸心は同心で大径部43の中心を通る。第一ボルト部41及び第二ボルト部42には、それぞれほぼ全長にわたり雄ネジが形成されている。第一ボルト部41の雄ネジは、ナット部材30の第一雌ネジ35と螺合するものである。第二ボルト部42の先端には、ボルト部材40を回転させるための工具と係合する溝部47が形成されている。
【0024】
第二ナット部材50は、外径が大径部43より大きい円盤状のナットであり、第二雌ネジ55を有している。この第二雌ネジ55は第二ボルト部42の雄ネジと螺合する。そのため、第二ナット部材50は、第二ボルト部42に沿って螺進及び螺退する。
【0025】
スペーサ80は円環状部材であり、第一軸孔15に挿入される大きさである。スペーサ80の内径は、ボルト部材40の第一ボルト部41の外径より僅かに大きいため、スペーサ80に第一ボルト部41を挿通することができる。鋏1は、厚さの異なる複数種類のスペーサ80や、厚さが同一であるスペーサ80の複数を備えるものとすることができる。
【0026】
コイルバネ70は、円錐形の圧縮バネである。
【0027】
次に、上記構成の鋏1について、ナット部材30とボルト部材40との螺合により形成される支軸部による第一鋏片10及び第二鋏片20の組み付け、及び、刃先の接触圧力の調整について説明する。
【0028】
まず、第一鋏片10と第二鋏片20とを重ね合わせ、第二鋏片20の外表面側からナット部材30のナット筒部32を第二軸孔25に挿入する。第二軸孔25に挿入されない大きさのナット頭部31を第二鋏片20の外表面に当接させた状態で、ナット筒部32の端部は第一鋏片10の凹部11の底面11sより少し内表面側の位置まで達する(
図2(a)参照)。ナット筒部32においては、円筒部32aが円形孔である第二軸孔25に挿入されているため、第二鋏片20はナット部材30に対して回転自在であり、角筒部32bが角形孔である第一軸孔15に嵌入しているため、第一鋏片10はナット部材30に対して回り止めされる。
【0029】
ナット筒部32の端部を上方に向けた状態で、ナット筒部32の端部にスペーサ80を載置する。スペーサ80は第一軸孔15に挿入される大きさであるため、上記のように凹部11の底面11sより少し内表面側の位置にあるナット筒部32の端部に、載置することができる。このとき、スペーサ80の上面(ナット筒部32と当接していない側の面)が、凹部11の底面11sより突出するように、使用するスペーサ80を選択する。
【0030】
第一鋏片10の外表面側から、ボルト部材40の第一ボルト部41をナット筒部32に挿入し、第一ボルト部41の雄ネジをナット筒部32の第一雌ネジ35に螺合させる。第一ボルト部41をナット部材30に対して締め付けて行くと、ボルト部材40の大径部43がスペーサ80に当接し、これ以上は第一ボルト部41をナット部材30に対して締め付けることができない状態となる(
図2(b)参照)。これはナット部材30に対する第一ボルト部材41の締め付け度合い、換言すれば、ナット部材30に対して第一ボルト部41が相対的に近付けられる距離が、スペーサ80の厚さによって定まった状態である。前述のように、第一鋏片10及び第二鋏片20には「ソリ(反り)」が形成されているため一対の鋏片の間には空隙Sが存在するが、この
図2(b)の状態は、ナット部材30に対して第一ボルト41が相対的に近付けられている距離によって、第一鋏片10及び第二鋏片20の刃先の接触圧力が調整されている状態である。このように、ナット筒部32と第一ボルト41とを最大限に螺合させた状態に至った後は、ナット部材30と第一ボルト部41との関係によっては、刃先の接触圧力が変化することはない。
【0031】
第一鋏片10の凹部11には、コイルバネ70が配される(
図2(b)参照)。本実施形態のコイルバネ70は円錐形であるが、径の大きい側の端部を凹部11の底面11sに当接させる。コイルバネ70の径は、第一ボルト部41をナット筒部32に対して螺進及び螺退させる際に、ボルト部材30(第一ボルト部41、大径部43、第二ボルト部42)と干渉しない大きさに設定されている。
【0032】
第二ナット部材50の第二雌ネジ55を第二ボルト部42の雄ネジに螺合させ、第二ナット部材50を大径部43に近付けて行くと、第二ナット部材50がコイルバネ70に当接する(
図2(c)参照)。これより更に第二ナット部材50を大径部43に近付けて行くと、第二ナット部材50によってコイルバネ70が押圧されることにより、第二ナット部材50と凹部11との間でコイルバネ70が圧縮された状態となる(
図2(d)参照)。これにより、第一鋏片10と第二鋏片20が離隔接近する動作に、コイルバネ70によって弾性力を付与し、コイルバネ70の圧縮の度合いによって弾性力の大きさを変化させて、第一鋏片10及び第二鋏片20の刃先の接触圧力を調整することができる。ここでは、ナット筒部32と第一ボルト41とを最大限に螺合させた状態で一対の鋏片の間に存在していた空隙Sが、圧縮されたコイルバネ70から作用する押圧力によって小さくなっている様子を図示している。
【0033】
以上のように、第一実施形態の鋏1によれば、ナット部材30に対する第一ボルト部41の締め付けによって変化する一対の鋏片間の距離に応じて変化する刃先の接触圧力を、スペーサ80の厚さによって調整することができる。一方、コイルバネ70の弾性力の大きさによって変化する刃先の接触圧力を、第二ボルト42と螺合させた第二ナット部材50の進退により調整することができる。つまり、ナット部材30に対する第一ボルト部41の締め付け度合いによる刃先の接触圧力の調整と、コイルバネ70の弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整を、別々に行うことができる
【0034】
次に、第二実施形態の鋏2について、
図3及び
図4を用いて説明する。鋏2の構成が第一実施形態の鋏1と相違する点は、主に第二ナット部材60の構成である。鋏1と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0035】
第二ナット部材60は、凹状部分61を有するナットであり、第二ボルト部42の雄ネジと螺合する第二雌ネジ65が形成されている。なお、第二実施形態のボルト部材40は、第一実施形態のボルト部材40と若干相違しており、第二ボルト部42の雄ネジは大径部43より若干大径である。また、第二ボルト部42の先端には、第二雌ネジ65に挿入されない大きさのボルト頭部46を有しており、ボルト頭部46には工具と係合する溝部47が形成されている。
【0036】
スペーサ部48は、第一ボルト部41が大径部43から延び出す基部に設けられている。スペーサ部48は、第一軸孔15に挿入される大きさで、第一ボルト部41よりは大径である。スペーサ部48には雄ネジは形成されていない。
【0037】
上記構成の鋏2について、ナット部材30とボルト部材40との螺合により形成される支軸部による第一鋏片10及び第二鋏片20の組み付け、及び、刃先の接触圧力の調整について説明する。
【0038】
第一鋏片10と第二鋏片20とを重ね合わせ、第二鋏片20の外表面側からナット部材30のナット筒部32を第二軸孔25に挿入する点は、第一実施形態と同様であり、ナット頭部31を第二鋏片20の外表面に当接させた状態で、ナット筒部32の端部が第一鋏片10の凹部11の底面11sより少し内表面側の位置まで達する点も同様である。
【0039】
ボルト部材40では、第一鋏片10及び第二鋏片20の留め付けに先立ち、第二ナット部材60の第二雌ネジ65を第二ボルト部42の雄ネジと螺合させておく。このとき、第二ナット部材60の向きは、凹状部分61が第一ボルト部41側で開口する向きとする。そして、第一鋏片10の外表面側から、ボルト部材40の第一ボルト部41をナット筒部32に挿入し、第一ボルト部41の雄ネジをナット筒部32の第一雌ネジ35に螺合させる。第一ボルト部41の基部にはスペーサ部48が設けられているため、第一ボルト部41をナット部材30に対して締め付けて行くと、スペーサ部48がナット筒部32に当接し、これ以上は第一ボルト部41をナット部材30に対して締め付けることができない状態となる(
図4(a)参照)。このとき、スペーサ部48は、凹部11の底面11sより少し突出するように厚さが設定される。
【0040】
これは、ナット筒部32に対して第一ボルト部材41が最大限に締め付けられた状態であり、このときの一対の鋏片間の空隙Sによって、第一鋏片10及び第二鋏片20の刃先の接触圧力が調整されている状態である。このように、ナット筒部32と第一ボルト41とを最大限に螺合させた状態に至った後は、ナット部材30と第一ボルト部41の関係によっては、刃先の接触圧力が変化することはない。
【0041】
第一鋏片10の凹部11と第二ナット部材60の凹状部分61との間には、コイルバネ70が配されている。第一ボルト部41をナット筒部32に対して螺進及び螺退させる際に、コイルバネ70がボルト部材40(第一ボルト部41、大径部43、第二ボルト部42)と干渉しない点は、第一実施形態と同様である。
【0042】
第二ナット部材60を第二ボルト部42に沿って螺進させ、大径部43に近付けて行くと、第二ナット部材60によってコイルバネ70が押圧されることにより、コイルバネ70が圧縮された状態となる(
図4(b)参照)。これにより、第一鋏片10と第二鋏片20が離隔接近する動作に、コイルバネ70によって弾性力を付与することができる。そして、第二ボルト部42における第二ナット部材60の位置により、凹部11の底面11sと凹状部分61の天面61sとの間の距離を変化させ、その距離に応じてコイルバネ70の圧縮の度合い(弾性力の大きさ)を変化させることにより、第一鋏片10及び第二鋏片20の刃先の接触圧力を調整することができる。ここでは、ナット筒部32と第一ボルト41とを最大限に螺合させた状態で一対の鋏片の間には存在していた空隙Sが、圧縮したコイルバネ70から作用する押圧力によって小さくなっている様子を図示している。
【0043】
以上のように、第二実施形態の鋏2によれば、ナット部材30に対する第一ボルト部41の締め付けによって変化する一対の鋏片間の距離に応じて変化する刃先の接触圧力とは別に、コイルバネ70の弾性力の大きさによる刃先の接触圧力の調整を行うことができる。
【0044】
そして、第二実施形態の鋏2は、ボルト部材40において第一ボルト部41と第二ボルト部42との間にスペーサ部48を有していることにより、第二ボルト部42に沿った第二ナット部材60の進退を、凹部11の底面11sから離れた位置で行わせることができ、自然長が長い(圧縮できる長さの大きい)コイルバネ70を使用することができる。一方、第二実施形態では第二ナット部材60が凹状部分61を有しており、この内部にコイルバネ70が収容されるため、自然長が長いコイルバネ70を使用しても、第二ナット部材70が第一鋏片10の外表面から大きく突出することを防止することができる。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0046】
例えば、第二実施形態の鋏2は、ボルト部材40の一部としてスペーサ部48を有している。そのため、スペーサ部48の厚さの異なる複数種類のボルト部材40を用意しておけば、所望する接触圧力に適した厚さのスペーサ部48を有するボルト部材40を選択し、取り換えることができる。
【0047】
或いは、第二実施形態の鋏2において、第一実施形態の鋏1に関して説明したスペーサ80を使用することとしてもよい。これにより、大径部43とナット筒部32との間でああって、且つ、スペーサ部48とナット筒部32との間にスペーサ80を介在させ、スペーサ80の厚さによって、一対の鋏片間の距離による刃先の接触圧力の調整を行うことができる。
【0048】
また、本発明は理美容用の鋏に限定されるものではなく、使用感を高度に調整できることが要請される種々の鋏に適用することができる。