【解決手段】高周波電源装置は、高周波を生成する高周波生成部と、前記高周波の進行波又は反射波を検出する方向性結合器と、前記進行波の電圧又は前記反射波の電圧をサンプリングして第1サンプリング信号を取得するサンプリング回路と、前記サンプリング信号を前記進行波又は前記反射波の周波数の1/4の周期に相当する期間だけサンプルホールドして第2サンプリング信号を取得するサンプルホールド回路と、前記第1サンプリング信号の2乗及び前記第2サンプリング信号の2乗の和に基づき前記進行波又は前記反射波の電力の実効値を演算する電力演算部と、前記実効値の演算結果に従い、前記高周波生成部を制御する制御部とを備える。
前記電力演算部は、前記2乗の和を、前記高周波電源装置の特性インピーダンスの2倍の数値により除算した数値を前記実効値として演算する、請求項1に記載の高周波電源装置。
前記電力演算部の出力信号に含まれる、前記進行波又は前記反射波の周波数の2倍の周波数の成分を除去又は減衰させるフィルタ回路を更に備えた、請求項1又は2に記載の高周波電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0011】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る高周波電源装置を含む、プラズマ処理システムの全体構成を示すブロック図である。このプラズマ処理システムは、高周波電源100、インピーダンス整合器200、及びプラズマ処理装置300を備えている。
【0013】
高周波電源100は、商用電源から供給される交流電力を高周波電力に変換する。インピーダンス整合器200は、高周波電源100とプラズマ処理装置300の間のインピーダンス整合を行う回路である。プラズマ処理装置300は、図示しない一対の電極と、該一対の電極を内部に含みエッチングガス等を封入されるチャンバを備えている。この一対の電極に対し、高周波電源100で発生させた高周波電力が印加される。なお、インピーダンス整合器200は、必ずしも必須の構成ではないので、インピーダンス整合器200が備わっていない構成では、高周波電源100で発生させた高周波電力が直接プラズマ処理装置300に供給されて、内部の一対の電極に印加される。
【0014】
図2は、高周波電源100の詳細な構造を説明するブロック図である。この高周波電源100は、AC/DCコンバータ101、DC/DCコンバータ102、高周波生成部103、フィルタ回路104、方向性結合器105、サンプリング回路107、サンプルホールド回路108、2乗回路109、110、電力演算部111、及び制御部112を備えている。
【0015】
AC/DCコンバータ101は、商用電源の交流電力を直流電力に変換するための回路である。AC/DCコンバータ101は、具体的な図示は省略するが、例えば複数個の半導体素子をブリッジ接続してなる整流回路と、整流された電流(脈流)を平滑化する平滑化回路とを備えることができる。
【0016】
また、DC/DCコンバータ102は、AC/DCコンバータ101が出力した直流電圧を、更に異なる電圧値の直流電圧に変換する回路である。DC/DCコンバータ102は、具体的な図示は省略するが、一例として、インバータ、変圧器、及び整流回路を組み合わせた回路により構成することができる。DC/DCコンバータ102は、制御部112が出力する制御信号に基づいて、インバータのデューティ比を切り替えることができ、これにより出力される直流電圧の大きさを制御することができる。
【0017】
高周波生成部103は、DC/DCコンバータ102から出力される直流電力を高周波電力に変換する。高周波電力の基本波成分の周波数は、例えば400kHz、2MHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz等のプラズマ処理装置300で使用される周波数である。この基本波成分の周波数は、例えば、図示しない内蔵の発振部の発振信号の周波数によって定まる。
【0018】
また、高周波生成部103は、制御部112から出力される制御信号φに基づいて、出力する高周波電力の電力値を調整する機能を有する。例えば、高周波生成部103には、複数の増幅部と少なくとも1つの合成部とが内蔵されており、各増幅部から出力する高周波電力の電圧波形の位相差を制御することによって、合成部における合成度合を調整することができる。このような調整機能は公知である(例えば、特開2015−144505号公報、特開2017−201630号公報を参照)。このような調整機能が不要であれば、制御部112から制御信号φを入力する必要は無い。
【0019】
フィルタ回路104は、高周波生成部103から出力される高周波電力に含まれる高調波成分を除去し、基本波成分を含む低周波部分を抽出する機能を有する。フィルタ回路104としては、所謂ローパスフィルタが用いられる。バンドパスフィルタを用いることも可能である。
【0020】
方向性結合器105は、高周波電源100の出力端に設けられており、高周波電源100が出力部から出力する高周波電力の進行波の電圧V
F又は反射波の電圧V
Rを検出する。方向性結合器105の構成例については後述する。
【0021】
サンプリング回路107は、方向性結合器105が検出した電圧V
F、V
Rのアナログ信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてサンプリング信号S
xとして出力する。サンプリング回路107におけるサンプリング周期は、進行波又は反射波の周期の1/4未満に設定することが好ましい。
【0022】
サンプルホールド回路108は、サンプリング回路107から上記サンプリング周期で出力されるサンプリング信号を進行波又は反射波の周期の1/4に相当する期間だけサンプルホールドし、そのサンプルホールド期間の分遅延させたサンプリング信号S
yとして出力する機能を有する。換言すれば、サンプリング信号S
yは、サンプリング信号S
xに対し、進行波又は反射波の周期の1/4に相当する期間だけ遅延した信号として生成される。
【0023】
2乗回路109は、サンプルホールド回路108が出力するサンプリング信号S
yを2乗した信号(デジタル値)S
y2を生成して出力する回路である。また、2乗回路110は、サンプリング回路107が(サンプルホールド回路108を介さず)直接出力するサンプリング信号S
xを2乗した信号(デジタル値)S
x2を生成して出力する回路である。
【0024】
電力演算部111は、2乗回路109及び110が出力したデジタル信号に基づき、進行波又は反射波の電力を演算する。演算の具体的な方法については後述する。制御部112は、電力演算部111で演算された電力に従い、DC/DCコンバータ102及び高周波生成部103を制御する制御信号を生成する。
【0025】
次に、
図3の回路図を参照して、方向性結合器105の構成の一例を説明する。この方向性結合器105は、前述の通り、高周波生成部103から出力されフィルタ回路104を通過した進行波、及び/又は高周波生成部103に戻る反射波の電圧を検出することが可能に構成されている。
【0026】
方向性結合器105は、コンデンサ201(容量値C
1)、抵抗器202(抵抗値R
1)、コンデンサ203(容量値C
2)、抵抗器204(抵抗値R
2)、及びリアクトル205とから構成される。コンデンサ201及び抵抗器202は、フィルタ回路104の出力端子と接地端子との間に直接接続され、コンデンサ203及び抵抗器204は、フィルタ回路104の出力端子と接地端子との間に直接接続されている。また、リアクトル205は、コンデンサ201及び抵抗器202の接続ノードと、コンデンサ203及び抵抗器204の接続ノードとの間に接続されている。コンデンサ201と抵抗器202の接続ノードが第1の出力端子を構成し、コンデンサ203と抵抗器204の接続ノードが第2の出力端子を構成する。
【0027】
次に、この方向性結合器105の動作について説明する。進行波及び反射波が発生すると、コンデンサ201及び抵抗器202には電流I
c1が流れ、コンデンサ203及び抵抗器204には電流I
c2が流れる。また、リアクトル205には、進行波の電圧に比例する電流I
mFが生じ、また、この電流I
mFに重畳して、反射波の電圧に比例する電流I
mRが逆方向に生じる。このとき、抵抗器202の両端には進行波の電圧V
Fが発生し、抵抗器204の両端には反射波の電圧V
Rが生じる。電圧V
F、電圧V
Rは、以下の式で表される。
【0028】
[式1]
V
F=R
1(I
c1+I
mF−I
mR)
V
R=R
2(I
c2+I
mR−I
mF)
【0029】
ここで、VSWR=1で反射波が無い(I
mR=0)とすると、進行波のみに着目し、[式1]は以下の式で表される。
【0030】
[式2]
V
F=R
1(I
c1+I
mF)
V
R=R
2(I
c2−I
mF)
【0031】
I
c2=I
mFとなるように回路の部品定数を選べば、[式2]の第2式はゼロになり、抵抗器202の両端には進行波の電圧V
Fが発生するとともに、抵抗器204の両端には反射波の電圧は発生しない。こうして、進行波の電圧V
Fが特定される。この方向性結合器105は、左右対称の回路構造を有しているため、上記の手法を実行することにより、反射波の電圧V
Rも特定することが可能である。サンプリング回路107は、このようにして方向性結合器105から出力されたアナログ信号としての電圧V
F、及び電圧V
Rを所定のサンプリング周期でサンプリングする。
【0032】
図4のグラフを参照して、サンプルホールド回路108、2乗回路109、110、及び電力演算部111の動作(進行波又は反射波の電力の演算の手順)を説明する。以下では、特定された進行波の電圧V
Fに基づき、進行波の電力P
F(実効値)を演算する場合について説明するが、反射波の電圧V
Rに基づき反射波の電力P
Rを演算する場合も、同様の手順が実行され得る。
【0033】
サンプルホールド回路108は、サンプリング回路107から出力されたサンプリング信号S
xを、進行波の周期の1/4に相当する期間だけサンプルホールドした後、サンプリング信号S
yとして出力する。その後、2乗回路109、110は、このサンプリング信号S
y及びS
xを2乗した信号S
y2、S
x2を生成する。電力演算部111は、信号S
y2、S
x2に基づき、以下の式により進行波の電力P
Fを演算する。具体的には、同一のタイミングで発生する信号Sy、及びSxの2乗の和を計算し(
図4の矢印参照)、以下の式により進行波の電力P
Fを演算する。
【0034】
[式3]
P
F=(S
x2+S
y2)/2Z
0
ただし、Z
0は、高周波電源100の特性インピーダンスを示す。
【0035】
ここで、上記[式3]の演算により進行波の電力P
Fが演算可能な理由を説明する。進行波の電圧V
Fが、V
f=√2Asin(ωt+Φ)と表すことができる場合(Aは電圧V
fの実効値、ωは角周波数、Φは位相)、信号S
xもS
x=√2Asin(ωt+Φ)と表現することができ、同様に信号S
yもS
y=√2Asin(ωt+Φ−π/2)と表現することができる。従って、進行波の電力P
Fは、実効値A及び特性インピーダンスZ
0により、以下の式により表すことができる。
【0036】
[式4]
P
F=(S
x2+S
y2)/2Z
0
=2A
2sin
2(ωt+Φ)+2A
2sin
2(ωt+Φ−π/2)/2Z
0
=2A
2(sin
2(ωt+Φ)+cos
2(ωt+Φ)/2Z
0
=A
2/Z
0
【0037】
このように、この第1の実施の形態の高周波電源装置では、進行波の電圧V
Fをサンプリングしてサンプリング信号S
xを取得するとともに、このサンプリング信号S
xを1/4周期サンプルホールドして得られたサンプリング信号S
yを取得し、両信号の2乗の和を特性インピーダンスの2倍の数値で除算した値を演算する。この値は、上記[式4]から分かるように、A
2/Z
0に等しい値となり、進行波の電力P
Fに相当する。[式4]の計算は、単純な加減乗除計算であり、計算負荷は非常に小さい。従って、この第1の実施の形態によれば、進行波又は反射波の電圧(瞬時値)から、進行波又は反射波の電力の実効値を少ない計算量で短時間で演算することができ、これにより制御性を向上させた高周波電源装置を提供することができる。
【0038】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る高周波電源装置について説明する。この第2の実施の形態の高周波電源100の全体構成を
図5を参照して説明する。
図5において、第1の実施の形態(
図2)と同一の構成要素については
図2と同一の参照符号を付しているので、以下では重複する説明は省略する。この
図5の高周波電源100は、電力演算部111の出力信号の中から、進行波又は反射波の電圧の角周波数の2倍の周波数成分を除去又は減衰させるフィルタ回路113を備えており、この点が第1の実施の形態との相違点である。この構成により、第2の実施の形態の高周波電源装置は、進行波の電圧V
F又は反射波の電圧V
Rの角周波数ωに変動があった場合にも、正確に進行波又は反射波の電力の実効値を演算することができる。
【0039】
進行波の電圧V
F又は反射波の電圧V
Rの角周波数がωからω’に変動することが生じた場合において、サンプルホールド回路108でのホールド期間が、この変動後の周波数ω’に対応しない場合、サンプルホールド回路108から出力されるサンプリング信号S
yは、サンプリング信号S
xからの位相のズレαが90°(π/2)ではないことが生じ得る(α≠π/2)。すなわち、サンプリング信号S
xが以下の[式5]で表させる場合、サンプリング信号Syは以下の[式6]で表される。
【0040】
[式5]
S
x=√2Asin(ω’t)
[式6]
S
y=√2Asin(ω’t+α)(α≠π/2)
【0041】
両信号の2乗の和であるsin
2(ω’t)+sin
2(ω’t+α)は、以下の数式のように変形され得る。
【0043】
この[数1]から分かるように、sin
2(ω’t)+sin
2(ω’t+α)の2倍周波数成分(2ω’)の振幅は、最大でも直流成分と同レベルであり、このような2倍周波数成分は、フィルタ回路113において除去し得る。従って、この第2の実施の形態によれば、進行波の電圧V
F又は反射波の電圧V
Rの角周波数ωに変動があった場合にも、正確に進行波又は反射波の電力の実効値を演算することができる。
【0044】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。