特開2021-108665(P2021-108665A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-108665(P2021-108665A)
(43)【公開日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】水稲害虫の防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/16 20110101AFI20210705BHJP
【FI】
   A01M29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2021-3943(P2021-3943)
(22)【出願日】2021年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2020-4182(P2020-4182)
(32)【優先日】2020年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520016011
【氏名又は名称】後藤 敦弘
(71)【出願人】
【識別番号】520016022
【氏名又は名称】澤田 吉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】澤田 吉夫
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121DA56
2B121DA70
2B121EA21
2B121FA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水稲害虫の防除作業に要する労力を大幅に軽減し、作業効率が良く環境負荷も小さい、水稲害虫の防除方法を提供する。
【解決手段】水を溜めた水田に生長した稲につく害虫の防除方法であって、ドローンを稲の上を飛行させて、稲についた害虫をドローンによって生じる風圧により稲から水田に溜めた水の中に落下させ、かつ、ドローンから農薬を散布しない、水稲害虫の防除方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溜めた水田に生長した稲につく害虫の防除方法であって、ドローンを稲の上を飛行させて、稲についた害虫をドローンによって生じる風圧により稲から水田に溜めた水の中に落下させ、かつ、ドローンから農薬を散布しないことを特徴とする、水稲害虫の防除方法。
【請求項2】
害虫が、イネドロオイムシ、斑点米カメムシ、セジロウンカ、トビイロウンカ、コブノメイガ、イネミズゾウムシ、ニカメイガ、アワヨトウ、ヒメビウンカ、コバネイナゴ、イネヒメハモグリバ、スクミリンゴガイ、ツマグロヨコバイ、イネクロカメムシのいずれかである請求項1に記載の防除方法。
【請求項3】
ドローンを、稲列に沿って飛行させる請求項1又は2に記載の防除方法。
【請求項4】
ドローンを、稲列に対して直角方向に飛行させる請求項1又は2に記載の防除方法。
【請求項5】
ドローンの飛行中に稲に物理的刺激を加える手段をドローンに連結した状態で、ドローンを飛行させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の防除方法。
【請求項6】
ドローンを、レーキを連結した状態で飛行させ、該ドローンにより該レーキを牽引させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の防除方法。
【請求項7】
前記レーキの刃床部を構成する爪の外端部が波状加工されている請求項6に記載の防除方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水稲害虫の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農林水産業の現場では、農薬散布や作物の生育状況のセンシングなど、様々な目的でドローンの活用が進んでいる。特に零細ほ場や傾斜地など、日本の農業が抱える課題に対応し、作業効率を高めると期待されている。
【0003】
例えば病害虫管理については、スピードスプレーヤー防除が困難な急傾斜の果樹栽培において、ドローンを活用した病害虫の発生状況のセンシング及び農薬散布技術が開発中である。ドローンによる果樹の薬剤散布は従来の散布時間を大幅に削減できると期待されている。
【0004】
また水稲の航空防除用に農薬散布用ドローンを導入することにより、適期防除が可能となり、その結果、毎年の病害虫発生が少なくなり、収量の向上と農薬費の削減、防除作業時間の短縮を実現した事例が報告されている。
【0005】
その他、ドローンを使用した農業に関する従来技術の一例としては、農薬などの薬剤を所定の散布領域内にムラなく一様に、且つ効率的に散布することができるドローンを使用した農薬散布方法として、農地空撮用ドローンを使用して撮影した近赤外線画像より散布区画幅の行列を作成し、更に散布区画幅毎に平均化して画像を得、この画像を基にNDVIにより画像の散布計画画面を得、最も効果的な追肥時期を予測した上で、ドローンの飛行高度から決定される散布幅により散布区画幅ごとに施肥基準表に基づき必要な散布パターン、散布量及び散布速度を求め、農薬散布用ドローンで散布区画幅毎のパターンA〜 Gのいずれか一つのパターンで散布を実施し、タンパク質含有量の平準化を行うことを特徴とするドローンを使用した農薬散布方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018−111429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年は農家の高齢化や農村地域での過疎化が深刻化している。つまり、農地管理にかけられる労力の総量が減っている。そのため、より効率的な農業を営むという観点からも、害虫防除を工夫していく必要がある。
【0008】
また病害虫や雑草などの防除、作物の生理機能の抑制などを目的として農作物に散布される農薬は、目的とした作用を発揮した後、ただちに消失するわけではないため、作物に付着した農薬が収穫された農作物に残り、これが人の口に入ったり、農薬が残っている農作物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられる。このように農薬を使用した結果、作物などに残った残留農薬が人の健康に害を及ぼす可能性がある。また人畜だけでなく、水産動植物やミツバチ等を含む環境に対する負荷を付与する一因となりうる。
【0009】
本発明は、水稲害虫の防除作業に要する労力を大幅に軽減し、作業効率が良く環境負荷も小さい、水稲害虫の防除方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決するため、鋭意検討したところ、農薬散布を行わずにドローンを飛行させることを着想し、それにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]に関するものである。
[1] 水を溜めた水田に生長した稲につく害虫の防除方法であって、ドローンを稲の上を飛行させて、稲についた害虫をドローンによって生じる風圧により稲から水田に溜めた水の中に落下させ、かつ、ドローンから農薬を散布しないことを特徴とする、水稲害虫の防除方法。
[2] 害虫が、イネドロオイムシ、斑点米カメムシ、セジロウンカ、トビイロウンカ、コブノメイガ、イネミズゾウムシ、ニカメイガ、アワヨトウ、ヒメビウンカ、コバネイナゴ、イネヒメハモグリバ、スクミリンゴガイ、ツマグロヨコバイ、イネクロカメムシのいずれかである前記[1]に記載の防除方法。
[3] ドローンを、稲列に沿って飛行させる前記[1]又は[2]に記載の防除方法。
[4] ドローンを、稲列に対して直角方向に飛行させる前記[1]又は[2]に記載の防除方法。
[5]ドローンの飛行中に稲に物理的刺激を加える手段をドローンに連結した状態で、ドローンを飛行させる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の防除方法。
[6] ドローンを、レーキを連結した状態で飛行させ、該ドローンにより該レーキを牽引させる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の防除方法。
[7] レーキの刃床部の爪の外端部が波状加工されている前記[6]に記載の防除方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水稲害虫の防除方法によれば、従来の防除作業に比べて、水稲害虫の防除作業に要する労力を大幅に軽減することができ、防除作業に要する時間も短縮できるため、作業の効率性が非常に良く、また農薬の空中散布を行わないため環境負荷や費用負担も低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は上述したように、水を溜めた水田に生長した稲につく害虫の防除方法であって、ドローンを稲の上を飛行させて、稲についた害虫をドローンによって生じる風圧により稲から水田に溜めた水の中に落下させるプロセスを含むものである。その原理は、ドローンによって生じる風圧により害虫を水田に溜めた水の中に落下させ、水により溺死させることを内容としている。したがって、本発明においては、水稲害虫の防除のために、ドローンからの農薬の空中散布は行わない。
【0013】
本発明において使用するドローンは、プロペラ(回転翼)が付いたマルチコプター型のものが好ましく、プロペラの数に基づいて呼称されるトライコプター、クアッドコプター、ヘキサコプター、オクトコプターが例示される。プロペラの数が多いほど、安定した飛行が可能となり、発生する風圧が大きくなるため好ましい。またGPS機能を備えたドローンは、風や操作のずれによる干渉を受けずに操縦でき、また飛行時の位置を把握することができるため好ましく使用される。
【0014】
本発明において防除の対象となる害虫は、稲につく害虫が広く対象となる。具体的には、イネドロオイムシ、斑点米カメムシ、セジロウンカ、トビイロウンカ、コブノメイガ、イネミズゾウムシ、ニカメイガ、アワヨトウ、ヒメビウンカ、コバネイナゴ、イネヒメハモグリバ、スクミリンゴガイ、ツマグロヨコバイ、イネクロカメムシが例示される。特にイネドロオイムシ、斑点米カメムシ、イネミズゾウムシの防除に対して有効である。なお、イネドロオイムシは稲の幼穂期、斑点米カメムシは出穂後期、イネミズゾウムシは出穂前期〜登熟期に多く発生する。
【0015】
ドローンを飛行させる場合、稲の上を無秩序に飛行させるのではなく、稲列に沿って飛行させることが好ましい。すなわち、1つの稲列に沿って飛行させ、該稲列の飛行が終わったら旋回してその隣の稲列に沿って飛行させるようにする。こうすることで、水田の全体を効率よく飛行させることができる。
【0016】
ドローンを飛行させる高さは特に限定されるものではなく、稲についた害虫を落下させることができる程度の風圧を稲に与えることができる高さで飛行させればよい。
【0017】
また、ドローンを飛行させる場合、稲列に対し直角方向に飛行させることも好ましい。すなわち、ドローンを、稲列に対して直角方向に飛行させ、水田の稲列の端まで来たら旋回させてその方向とは逆の方向に飛行させ、これを繰り返しながら水田全体を飛行させる。こうすることで、水田の全体を効率よく飛行させることができる。
【0018】
さらに、本発明の効果をより一層高めるため、ドローンの飛行中に稲に物理的刺激を加える手段をドローンに連結した状態で、ドローンを飛行させることが好ましい。前記物理的刺激は、ドローンの飛行中に稲に物理的刺激を加えることで、稲についた害虫の稲からの落下を促進させる物理的刺激であればよく、力学刺激、光学刺激、電気刺激、熱刺激等が含まれる。
【0019】
前記物理的刺激を加える手段の例としては、レーキや回転ブラシ等の、稲に力学刺激を与える複数の棒状部が所定の固定部に設けられた部材が挙げられる。固定部及び棒状部を有する限り、該部材の構造、材質等は限定されない。特には、比較的簡易な構造物であるレーキをドローンに連結した状態でドローンを飛行させ、該ドローンにより該レーキを牽引させることが好ましい。レーキが水田上を移動することで、その刃部を稲に引っ掛けて稲を揺動させて、稲についた害虫の水中への落下を促進したり、その刃部で水田の水や泥を撹拌することで、水中に落下した害虫を水や泥に絡めることにより溺死を促進したりすることができる。レーキは、櫛型の刃床部と柄の部分を有するものであれば構造や材質等は特に限定されない。刃床部には多くの爪(歯)が櫛状に並べて設けられており、通常、土をならしたり、雑草・落葉などを掻き集めたりするのに用いられる。レーキには熊手も含まれる。レーキを牽引させる場合は、稲がしっかりと根付いた時期、例えば出穂期、登熟期等において行うのが好ましい。またこの場合は、ドローンを、稲列に対して直角方向に飛行させると特に効果的である。
【0020】
前記棒状部は、波状加工されていることが好ましい。またレーキの刃床部の爪の外端部が波状加工されていることが好ましい。波状加工を施すことにより、稲に引っ掛けやすくなり、また水田の水や泥の撹拌力を高めることができるため、稲についた害虫を落下させる効果が増強される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により具体的に本発明を例示して説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
2020年5月24日、那須高原の水田(約9m)にて、ドローン(Spark(商品名、DJI社製))を稲穂の上から約10〜15cm付近を水田の稲列に沿って、並びに稲列に対して直角方向に飛行させて、平均風速6m程度の風を稲に与えることにより、水田の稲についている害虫、特にドロオイムシを、ドローンの風圧により稲から水面に落下させることによる害虫防除を行った。前記水田は、ドロオイムシ用の殺虫剤は使用されておらず、水稲の生育状況は活着期に対応していた(田植え日は5月3〜4日)。また、水田の稲についたドロオイムシは、水田1m当たり約18〜26頭(ほとんどがペア)であり、ドロオイムシ成虫の交尾期の最中であるため、幼虫は少数であった。
ドローンによる上記防除を行う際は、稲に力学刺激を与える複数の棒状部が所定の固定部に設けられた部材をドローンに連結させ、稲の上をドローン飛行させて上記部材を牽引させた。該部材としては、長さ約100cmの横長棒状体にピアノ線を2.5cmの間隔で該横長棒状体から約60cm垂れ下がるように設けたものを使用した。そして、ドローンを飛行させる際、前記部材のピアノ線が稲の間を櫛が通るように移動させることにより稲に機械的刺激を加えて、ドローンによる風力と前記部材による機械的刺激とで、稲についたドロオイムシを水面に落下させた。
その結果、水田1m当たり約2頭のドロオイムシを主とする害虫が水中に落下しているのが確認され、本発明方法が害虫防除に有効であることがわかった。
【0023】
(実施例2)
2020年7月11日、那須高原の水田(約9m)にて、ドローン(Spark(商品名、DJI社製))を稲の上から約10〜15cm付近を水田の稲列に沿って、並びに稲列に対して直角方向に飛行させて、平均風速6m程度の風を稲に与えることにより、水田の稲についている害虫、特にドロオイムシを、ドローンの風圧により稲から水面に落下させることによる害虫防除を行った。前記水田は、ドロオイムシ用の殺虫剤は使用されておらず、水稲の生育状況は活着期に対応していた(田植え日は5月3〜4日)。また、水田の稲についたドロオイムシは、水田1m当たり約6〜10頭(ほとんどがペア)であり、ドロオイムシ成虫の交尾期の最中であるため、幼虫は少数であった。
ドローンによる上記防除を行う際、稲に力学刺激を与える複数の棒状部が所定の固定部に設けられた部材をドローンに連結させ、稲の上をドローン飛行させて上記部材を牽引させた。該部材としては、縦の長さ約30cmの回転ブラシを使用した。そして、ドローン飛行させる際、前記電気ブラシを回転させて、ブラシ部分を稲に当てることにより稲に機械的刺激を加えて、ドローンによる風力と前記部材による機械的刺激とで、稲についたドロオイムシを水面に落下させた。
その結果、水田1m当たり約5頭のドロオイムシを主とする害虫が水中に落下しているのが確認され、本発明方法が害虫防除に有効であることがわかった。