特開2021-109316(P2021-109316A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-109316(P2021-109316A)
(43)【公開日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】発泡樹脂シート及び発泡樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20210705BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20210705BHJP
【FI】
   B32B5/18
   B32B27/32 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-669(P2020-669)
(22)【出願日】2020年1月7日
(71)【出願人】
【識別番号】390000387
【氏名又は名称】福助工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】合田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩二
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100BA02
4F100BA03
4F100CA01A
4F100DJ01A
4F100GB16
4F100JJ03
4F100JK20
(57)【要約】
【課題】植物由来ポリエチレンを用いることで環境負荷を低減可能であり、かつ、ポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂組成物からなる発泡層を備えた発泡樹脂シートを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する樹脂組成物からなる発泡層と、前記発泡層の少なくとも一面側に積層される非発泡層とを備え、前記非発泡層は、ポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物から構成する。前記植物由来ポリエチレンは、前記非発泡層を構成する樹脂組成物に対する含有率が10質量%以下とすることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する樹脂組成物からなる発泡層と、前記発泡層の少なくとも一面側に積層される非発泡層とを備え、前記非発泡層は、ポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなる発泡樹脂シート。
【請求項2】
前記植物由来ポリエチレンは、前記非発泡層を構成する樹脂組成物に対する含有率が10質量%以下である請求項1に記載の発泡樹脂シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発泡樹脂シートを成形してなる発泡樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する樹脂組成物からなる発泡層を備えた発泡樹脂シート及びそれを成形してなる発泡樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、断熱性及び耐熱性を備えた容器等の樹脂成形体として、ポリプロピレン系樹脂を発泡させた発泡樹脂シートを成形したものが知られている。一方、地球温暖化を抑制する観点から、世界規模で二酸化炭素の排出量の削減が求められており、近年、石油を炭素源とするエチレン(石油由来エチレン)を含んだポリエチレン(石油由来ポリエチレン)の代替品として、植物を炭素源とするエチレン(植物由来エチレン)を含んだポリエチレン(植物由来ポリエチレン)が上市されている。
【0003】
そして、特許文献1には、バイオマス由来のポリオレフィンと、化石燃料由来のポリオレフィンとを含んでなる樹脂組成物からなる樹脂フィルムが開示されており、植物の生育時のCO2吸収と燃焼時の排出が同一となるカーボンニュートラルなポリオレフィン樹脂フィルムを実現できる旨記載されている。従って、ポリプロピレン系樹脂発泡樹脂シートを構成する樹脂組成物に植物由来ポリエチレンを添加することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−027171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法として、押出機内において、ポリプロピレン系樹脂と発泡剤とを含有する樹脂組成物にCO2ガスを吹込んで溶融混錬した後に押出して発泡させる押出発泡法が広く知られている。この押出発泡法により、ポリプロピレン系樹脂と植物由来ポリエチレンとを含む樹脂組成物を均一に混錬しようとすると、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とはもともと相溶性が低いことから、押出機内の温度を高温にする必要がある。
【0006】
しかしながら、押出機内の樹脂組成物の温度を高くすると、溶融したポリプロピレン系樹脂の粘度が低下して樹脂の発泡性をコントロールすることができず、連続気泡構造の発泡シートとなり、独立気泡構造の発泡シートが得られないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明においては、植物由来ポリエチレンを用いることで環境負荷を低減可能であり、かつ、ポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂組成物からなる発泡層を備えた発泡樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様としての発泡樹脂シートは、ポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する樹脂組成物からなる発泡層と、前記発泡層の少なくとも一面側に積層される非発泡層とを備え、前記非発泡層は、ポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなる。
【0009】
前記植物由来ポリエチレンは、前記非発泡層を構成する樹脂組成物に対する含有率が10質量%以下としてもよい。
【0010】
また、前記発泡樹脂シートを成形してなる発泡樹脂成形体としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、ポリプロピレン系樹脂を含有する発泡層に非発泡層を積層し、非発泡層を構成する樹脂組成物として、ポリプロピレン系樹脂及び植物由来ポリエチレンを配合するようにしたため、環境負荷を低減することが可能となる。さらに、発泡層には植物由来ポリエチレンは含まれていないため、発泡層の発泡性を阻害するおそれがなく、美観に優れた発泡樹脂シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る発泡樹脂シートは、ポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する樹脂組成物からなる発泡層と、前記発泡層の少なくとも一面側に積層される非発泡層とを備え、前記非発泡層は、ポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物からなる。
【0013】
ここで、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーとしては、ポリプロピレンランダムコポリマー及びポリプロピレンブロックコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーにおいて、エチレンと共重合させるモノマーとしては、エチレンおよび/または4〜12個のC原子のα−オレフィンであってもよい。
【0014】
ポリエチレン系樹脂としては、少なくとも一部に植物由来ポリエチレンを含有していればよい。モノマーの一部を植物由来エチレンとすることによっても環境負荷を低減することができる。ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体のほか、エチレンとα−オレフィンとを共重合させた共重合体を用いることができる。α−オレフィンは、炭素数は特に限定されないが、ブテン、ヘキセン、又はオクテンであることが好ましい。
【0015】
具体的に、ポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を挙げることができる。ポリエチレン系樹脂は、1種又は2種以上をブレンドして用いることができるが、剛性に優れているという点で、植物由来HDPEを含有するのが好ましい。
【0016】
植物由来ポリエチレンは、非発泡層を構成する樹脂組成物に対する含有率が10質量%以下であるのが好ましい。これにより、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が良好で、表面平滑性に優れ、発泡層と非発泡層との接着性に優れた発泡樹脂シートを得ることが可能となる。
【0017】
植物由来ポリエチレン中の全炭素量に対する植物由来の炭素の割合は、バイオマス度と呼ばれ、ポリエチレン樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することによって求めることができる。すなわち、大気中には一定割合の14Cが含まれる一方、石油由来の樹脂の炭素には14Cが含まれていない。
【0018】
したがって、ポリエチレン系樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することでバイオマス度を求めることができる。具体的に、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て石油由来である場合にはバイオマス度は0%となり、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て植物由来である場合にはバイオマス度は100%となる。
【0019】
発泡促進剤としては、二酸化炭素、空気、窒素等の無機ガスを挙げることができる。そのほか、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素や、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素や、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、ジクロロテトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。さらに、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム等の分解型発泡剤が挙げられる。これらの発泡剤は1種または2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0020】
上記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般的に用いられている充填剤、着色剤、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤などの安定剤、染料、顔料などの着色剤、スリップ剤およびアンチブロック剤などの添加剤を配合することができる。
【0021】
上記樹脂組成物は、以下のようにして発泡樹脂シートを製造することができる。具体的には共押出機やタンデム式押出機を用いて発泡層用の樹脂組成物と非発泡層用の樹脂組成物をそれぞれ別の押出機内に供給する。さらに、発泡層用の樹脂組成物が供給された押出機内にはガスを吹込みつつ樹脂組成物を混練し、両層用の樹脂組成物を押出して積層することで積層構造の発泡樹脂シートを製造することができる。得られた発泡樹脂シートは、たとえば、加熱して金型へ供給して真空成形することにより所定の成形品を得ることができる。
【実施例】
【0022】
本実施例では、発泡層の両面に、非発泡層を積層した3層構造の発泡樹脂シートを作製した。発泡層用の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂に発泡剤を配合して調製した。また、非発泡層用の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂に、ポリエチレン系樹脂を配合して調製した。ポリプロピレン系樹脂としては汎用ポリプロピレン(PP)を用い、ポリエチレン系樹脂として植物由来高密度ポリエチレン(植物由来HD)を用いた。
【0023】
比較材として、非発泡層用の樹脂組成物としてポリプロピレン系樹脂を単独使用したもの、及び、発泡層用の樹脂組成物に植物由来HDを配合した単層構成の発泡樹脂シートを作製して評価を行った。以下、その詳細について記す。
【0024】
[樹脂組成物の調製]
表1に示すように、外層(非発泡層)、中間層(発泡層)及び内層(非発泡層)の樹脂組成物を調製した。なお、表中、「外」は外層を、「中」は中間層を、「内」は内層を、それぞれ示す。また、樹脂組成物の調製に使用した材料は以下のとおりである。
【0025】
・BC3BRF:日本ポリプロ社製PP
(密度:0.9g/cm3、MFR:12g/10min、バイオマス度:0%)
・FTS4000:日本ポリプロ社製PP
(密度:0.9g/cm3、MFR:8g/10min、バイオマス度:0%)
・SHE150:ブラスケム社製植物由来HD
(密度:0.95g/cm3、MFR:1g/10min、バイオマス度:94%)
・EE275F:永和化成工業社製無機系発泡剤
【0026】
【表1】
【0027】
[発泡樹脂シートの作製及び評価]
表1で調整した3種類の樹脂組成物を共押出機に供給し、3層の積層シートとして押出した。外層および内層の厚みは0.05mm、中間層の厚みは1.20mmとなるように調整し、全体で1.30mm厚の発泡樹脂シートを作製した。発泡樹脂シートについて、以下に示すように、発泡性、引張弾性率及びフィルムインパクトの評価を行なった。評価結果を表2に記す。
【0028】
(1)発泡性
成形された発泡樹脂シートの発泡性を以下の基準により評価した。
〇:発泡層全体にわたって均等に発泡しており、独立気泡構造の発泡シートが得られる。
×:発泡層全体にわたって均等に発泡しておらず、連続気泡構造の発泡シートとなる。
【0029】
(2)引張弾性率
JIS K7127に準拠して引張弾性率を測定した。試験片の大きさ(幅20mm、長さ150mm)、つかみ間隔100mm、引張速度5mm/minで試験を行い、応力−歪み曲線の最初の直線部分の傾きから引張弾性率を計算した。なお、試験はn=5で行い、その平均値を採用した。これをMD方向(Machine Direction)、TD方向(Traverse Direction)、それぞれについて算出した。
【0030】
(3)フィルムインパクト
発泡樹脂シートについて、フィルムインパクト測定を実施した。具体的に、100mm×100mmに切り出した試験片を東洋精機製作所製フィルムインパクトテスターに装着し、1インチの球がフィルムを突き破るときの力を測定し、これをフィルムインパクトとした。フィルムインパクトは以下の式によって算出した。測定はn=5で行ない、その平均値を採用した。
・フィルムインパクト(J)=(目盛の値)×9.8×10−2
【0031】
【表2】
【0032】
[樹脂成形体の作製及び評価]
発泡樹脂シートを加熱し、金型を用いて上部開口を有する発泡容器を成形した。得られた発泡容器(樹脂成形体)について以下の評価を行った。評価結果を表3に記す。
【0033】
(1)圧縮時荷重
作製した発泡容器を圧縮試験機にセットする。発泡容器を上下方向に50±5mm/minの速度で圧縮し、接触位置を0mmとして、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm及び10mmまで治具で押し込み、そのときにかかる荷重を測定した。数値が大きいほど、耐圧縮性に優れていることを示す。
【0034】
(2)耐熱性試験
作製した発泡容器をオーブン内にセットし、所定の温度にて60分加熱した後、オーブンから出して30分自然法令後の蓋体の外観状況の評価を行った。加熱温度は5℃きざみとし、加熱後の容器の外観状況に変化がない上限温度を耐熱温度とした。
【0035】
【表3】
【0036】
[評価結果]
表1〜表3より、発泡層の樹脂組成物に植物由来ポリエチレンを配合した単層構成のNo.3は発泡性が悪く、独立気泡構造の発泡樹脂シートを得ることができなかった。したがって、以降の評価試験からNo.3は除外した。
【0037】
非発泡層用の樹脂組成物として、ポリプロピレン系樹脂に植物由来HDを添加したNo.1と、ポリプロピレン系樹脂を単独使用したNo.2とを比べると、発泡樹脂シートとしての特性は同等であり、実用レベルであることが確認された。また、発泡層及び非発泡層の密着性も良好であった。
【0038】
発泡樹脂シートを成形して得られた発泡容器について、No.2とNo.3を比較すると、圧縮時荷重試験において、圧縮距離3mmまでは両者は同等であるが、4mm以上になると、植物由来HDを添加したNo.2の荷重が小さくなる傾向にあることが確認された。
【0039】
耐熱試験においては、No.2及び3とも耐熱性は同等であることが確認された。以上より、No.2はNo.3と耐熱性は同等であり、耐荷重性はNo.3の方がやや良好であるものの、両者とも十分実用レベルを満たしていることが確認された。
【0040】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、上記実施例では、発泡層の両面に非発泡層が積層された3層構造の発泡樹脂シート及び発泡容器について説明したが、これに限らず、発泡層の少なくとも一面に非発泡層が積層されたものであればよい。