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特開2021-109893ポリマー及びその製造方法、並びにそれを利用した硬化性組成物、ソルダーレジスト、及び硬化物の製造方法
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  • 特開2021109893-ポリマー及びその製造方法、並びにそれを利用した硬化性組成物、ソルダーレジスト、及び硬化物の製造方法 図000027
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-109893(P2021-109893A)
(43)【公開日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】ポリマー及びその製造方法、並びにそれを利用した硬化性組成物、ソルダーレジスト、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/14 20060101AFI20210705BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20210705BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20210705BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20210705BHJP
【FI】
   C08F8/14
   C08F290/12
   G03F7/038 501
   G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-1151(P2020-1151)
(22)【出願日】2020年1月8日
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】310024066
【氏名又は名称】太陽インキ製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 信人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和也
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
2H197CE01
2H197HA02
2H197JA21
2H225AC33
2H225AC43
2H225AC44
2H225AC45
2H225AC48
2H225AC49
2H225AD02
2H225AD15
2H225AN68P
2H225CA13
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC13
4J100BA20H
4J100CA31
4J100HA11
4J100HA62
4J100HC34
4J100HG06
4J100HG12
4J100HG16
4J100HG23
4J100JA37
4J100JA38
4J127AA01
4J127BB041
4J127BB071
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC04
4J127BC151
4J127BD021
4J127BD041
4J127BD061
4J127BE051
4J127BE05X
4J127BE111
4J127BE11X
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BE391
4J127BE39X
4J127BE591
4J127BE59X
4J127BG051
4J127BG05X
4J127BG161
4J127BG16Y
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127BG191
4J127BG19X
4J127BG371
4J127BG37X
4J127BG381
4J127BG38X
4J127FA16
4J127FA17
4J127FA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】重合性基の導入に伴って副生する水酸基の抑制されたポリマー、その製造方法及びその応用製品の提供。
【解決手段】複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基Rを有してもよい、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基を側鎖に含み、かつ一般式(1)で表す構造を主鎖又は側鎖に含むことを特徴とするポリマー。置換基Rは、アルキル基である。R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基、又は互いに結合して脂肪環又は芳香環を形成するものであり、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、水酸基を含まない2価の基であり、*は、主鎖又は側鎖に含まれる原子への結合を表す。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基Rを有してもよい、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基を側鎖に含み、かつ下記一般式(1)で表す構造を主鎖又は側鎖に含むことを特徴とするポリマー。
【化1】
(置換基Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基である。上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、又は互いに結合して炭素数3〜10の脂肪環又は芳香環を形成するものであり、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、水酸基を含まない2価の基であり、*は、主鎖又は側鎖に含まれる原子への結合を表す。)
【請求項2】
前記ポリシスセスキオキサン骨格を備えた基が下記一般式(2)〜(4)のいずれかである請求項1記載のポリマー。
【化2】
(上記一般式(2)〜(4)のそれぞれにおいて、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、Xは、前記ポリマーの主鎖に結合するための結合基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表す構造が主鎖に含まれる請求項1又は2記載のポリマー。
【請求項4】
前記ポリマーが、下記一般式(a)及び(b)で表す両方を繰り返し単位として含む請求項1〜3のいずれか1項記載のポリマー。
【化3】
(上記一般式(a)中、RPOSSは、下記一般式で表すものであり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。上記一般式(b)中、L’は、水酸基を含まない2価の基であり、Rは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)
【化4】
(上記一般式において、Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリマー、及びラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物。
【請求項6】
請求項5記載の硬化性組成物を含むことを特徴とするソルダーレジスト。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載ポリマー、及び光ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物を基材の表面に塗布して塗布膜を形成させる塗布工程と、
前記塗布膜に選択的光照射を行うことで、光照射した箇所を硬化させてパターニングを行うパターニング工程と、
前記塗布膜のうち硬化していない箇所をアルカリ溶液で除去する現像工程と、を含むことを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(6)〜(8)のいずれかで表す(メタ)アクリル酸エステル、及びジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物を少なくとも含むモノマー群をラジカル重合させて前駆体ポリマーを得る重合工程と、
前記前駆体ポリマーに、水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルを作用させることにより、この(メタ)アクリル酸エステルの水酸基を前記酸無水物骨格に付加させて前記ジカルボン酸のハーフエステルを形成させる付加工程と、を含むことを特徴とするポリマーの製造方法。
【化5】
(上記一般式(6)〜(8)中、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。)
【請求項9】
ジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた前記化合物が無水マレイン酸である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記モノマー群が、スチレン、及び前記一般式(6)〜(8)のいずれかで表すものとは異なる(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む請求項8又は9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー及びその製造方法、並びにそれを利用した硬化性組成物、ソルダーレジスト、及び硬化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代モバイル通信5Gに向けたプリント配線板のソルダーレジスト材料に用いられる光硬化性ポリマーの研究が行われている。光硬化性ポリマーとは、光ラジカル重合開始剤等の成分の存在下、光照射を受けることでポリマー同士が架橋されて高分子量化し、溶媒に対して不溶化するポリマーである。ソルダーレジストは、周知の通り、プリント配線板の表面を覆い、回路パターンを保護するための絶縁膜となるインキである。
【0003】
5G通信を行う機器の電気配線では、従来の機器に比べてより高い周波数の信号が流れることになるが、このような高い周波数の信号が流れるプリント配線板では、その表面に形成された絶縁膜の誘電特性が重要になる。すなわち、流れる信号の周波数が高ければ高いほど絶縁膜による誘電損失が無視できなくなるので、より低い誘電率や誘電正接を示す絶縁膜を形成させる材料が求められている。このような材料の候補として、有機物と無機物の中間的な性質を示すポリシロキサンや、それよりもさらに無機物寄りの性質を持つポリシルセスキオキサン化合物が考えられる。例えば、非特許文献1には、かご形構造をもつポリシルセスキオキサン骨格の導入されたメタクリレートポリマーが提案されている。
【0004】
かご形構造のポリシルセスキオキサン骨格を有する化合物は、直径約1〜3nmの多面体構造を備え、POSS(商品名;Polyhedral Oligomeric SilSesquioxansの略)とも呼ばれている。理解を助けるためにSi−O−Siが直線であると仮定すると、この化合物には、Si原子が立方体における頂点の位置に配置されたT構造、Si原子が正五角柱における頂点の位置に配置されたT10構造、及びSi原子が正六角柱における頂点の位置に配置されたT12構造が知られており、これらの中ではT12構造のものが最も大きなサイズの分子となる。この化合物は、(RSiO1.5という一般式で表され、Si原子に対するO原子や有機基Rの含量がシリカ(SiOとポリシロキサン(RSiO)との中間になることから、有機物に親和性を有する無機物というユニークなナノ材料としても知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. M. Lin, S. Y. Wu, P. Y. Huang, C. F. Hung, S. W. Kuo, F. C. Chang, Macromol. Rapid. Commun., 2006, 27, 1550-1555.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1に記載された上記のメタクリレートポリマーでは、メタクリル酸由来のカルボキシ基にグリシジルメタクリレートを反応させることで、ポリマー同士を架橋させるための重合性基(ビニル基)が導入される。この手法は、(メタ)アクリル酸オリゴマーや(メタ)アクリル酸ポリマーに重合性基を導入する方法としてよく知られたものである。しかしながら、この反応では、カルボキシ基とグリシジル基とが反応してエポキシ環が開環したときに水酸基を生じる。水酸基は、誘電率や誘電正接を高くする要因となるので、誘電特性という観点からは、ポリマー中になるべく含まれない方が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートの文言は、それぞれアクリル酸及び/又はメタクリル酸、アクリレート及び/又はメタアクリレートを意味する。
【0007】
本発明は、以上の背景をもとになされたものであり、かご形のポリシルセスキオキサン骨格と架橋のための重合性基とを備えたポリマーであって、この重合性基の導入方法を工夫することにより、重合性基の導入に伴って副生する水酸基の抑制されたポリマー及びその製造方法、並びにその応用製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ジカルボン酸の酸無水物が持つ環状構造に重合性基を備えたアルコール(すなわち水酸基を有するビニル化合物)を付加させると、その環状構造が開いてジカルボン酸の2つのカルボキシ基の一方に重合性基の導入されたハーフエステルとなることを利用し、この環状構造をポリマー中に導入した上でそのポリマーに重合性基を備えたアルコールを作用させることにより、水酸基を発生させることなくポリマーに重合性基を導入できるという技術的思想を得るに至った。なお、重合性基の導入されない残りのカルボキシ基は、ポリマーにアルカリ溶液による現像性を付与することに寄与する。以下の化学反応式は、ポリマーの主鎖又は側鎖に無水マレイン酸由来の環状構造が導入された場合を例にとって、その主鎖又は側鎖に重合性基であるメタクリル基とアルカリ可溶性を付与するカルボキシ基が導入されることを説明するものである。なお、下記の化学反応式は説明のための一例であり、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0009】
【化1】
【0010】
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基Rを有してもよい、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基を側鎖に含み、かつ下記一般式(1)で表す構造を主鎖又は側鎖に含むことを特徴とするポリマーである。
【化2】
(置換基Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基である。上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、又は互いに結合して炭素数3〜10の脂肪環又は芳香環を形成するものであり、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、水酸基を含まない2価の基であり、*は、主鎖又は側鎖に含まれる原子への結合を表す。)
【0012】
(2)上記ポリシスセスキオキサン骨格を備えた基は、下記一般式(2)〜(4)のいずれかであることが好ましい。
【化3】
(上記一般式(2)〜(4)のそれぞれにおいて、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、Xは、前記ポリマーの主鎖に結合するための結合基である。)
【0013】
(3)上記一般式(1)で表す構造が、主鎖に含まれることが好ましい。
【0014】
(4)上記ポリマーが、下記一般式(a)及び(b)で表す両方を繰り返し単位として含むことが好ましい。
【化4】
(上記一般式(a)中、RPOSSは、下記一般式で表すものであり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。上記一般式(b)中、L’は、水酸基を含まない2価の基であり、Rは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)
【化5】
(上記一般式において、Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基である。)
【0015】
(5)また、本発明は、上記(1)項〜(4)項のいずれか1項記載の化合物、及びラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物でもある。
【0016】
(6)また、本発明は、上記(5)項記載の硬化性組成物を含むことを特徴とするソルダーレジストでもある。
【0017】
(7)また、本発明は、上記(1)項〜(4)項のいずれか1項記載ポリマー、及び光ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物を基材の表面に塗布して塗布膜を形成させる塗布工程と、上記塗布膜に選択的光照射を行うことで、光照射した箇所を硬化させてパターニングを行うパターニング工程と、上記塗布膜のうち硬化していない箇所をアルカリ溶液で除去する現像工程と、を含むことを特徴とする硬化物の製造方法でもある。
【0018】
(8)また、本発明は、下記一般式(6)〜(8)のいずれかで表す(メタ)アクリル酸エステル、及びジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物を少なくとも含むモノマー群をラジカル重合させて前駆体ポリマーを得る重合工程と、上記前駆体ポリマーに、水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルを作用させることにより、この(メタ)アクリル酸エステルの水酸基を前記酸無水物骨格に付加させて前記ジカルボン酸のハーフエステルを形成させる付加工程と、を含むことを特徴とするポリマーの製造方法でもある。
【化6】
(上記一般式(6)〜(8)中、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。)
【0019】
(9)ジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた上記化合物が無水マレイン酸であることが好ましい。
【0020】
(10)上記モノマー群は、スチレン、及び上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表すものとは異なる(メタ)アクリル酸エステルをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、かご形のポリシルセスキオキサン骨格と架橋のための重合性基とを備えたポリマーであって、この重合性基の導入方法を工夫することにより、重合性基の導入に伴って副生する水酸基の抑制されたポリマー及びその製造方法、並びにその応用製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、(1)ポリマーA 10mg + HEMA 5mgの混合物、(2)HEMA 5mgのみ、及び(3)ポリマーA 10mgのみのそれぞれについてのDMSO−d中におけるH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のポリマーの一実施形態、ポリマーの製造方法の一実施態様、硬化性組成物の一実施形態、硬化物の製造方法の一実施態様、及びソルダーレジストの一実施形態のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態又は実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格」のことを単に「ポリシルセスキオキサン骨格」と省略して呼ぶこともある。
【0024】
<ポリマー>
まずは、本発明のポリマーの一実施形態について説明する。本発明のポリマーは、複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基Rを有してもよい、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基を側鎖に含み、かつ下記一般式(1)で表す構造を主鎖又は側鎖に含むことを特徴とする。置換基Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、このような置換基Rの一例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、3−メチル−5,5−ジメチルヘキシル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、シクロペンチル基、フェニル基等が挙げられ、これらの中でも、イソブチル基が好ましく挙げられる。
【0025】
【化7】
【0026】
上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、又は互いに結合して炭素数3〜10の脂肪環又は芳香環を形成するものである。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基等が挙げられる。また、R及びRが互いに結合して炭素数3〜10の脂肪環又は芳香環を形成する場合、シクロヘキシル環やベンゼン環等が好ましく例示される。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基が好ましく挙げられる。Lは、水酸基を含まない2価の基である。これは、ジカルボン酸の無水物基と重合性基を備えたアルコールとが反応して導入される基であり、このアルコールにおいて重合性基と水酸基との間に存在していた構造部分がそのままLになる。Lは、ポリマーに重合性基を導入するための連結基に過ぎず、水酸基さえ持たなければその構造はどのようなものであってもよいが、Lの一例として、炭素数1〜6のアルキレン基、又は途中にヘテロ原子やカルボニル基等の構造を含んだ複数の炭素数1〜6のアルキレン基が連結したもの等を挙げることができる。上記一般式(1)にて示した「*」は、主鎖又は側鎖に含まれる原子への結合を表す。
【0027】
上記一般式(1)の構造は、重合性基、すなわちラジカル重合性不飽和結合を備えたジカルボン酸の無水物をモノマーの一部として用いてラジカル重合させることでポリマー中へ酸無水物構造を導入し、その後、重合性基を備えたアルコールを作用させることでポリマー中に形成される。このようなジカルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸や、ビニル基を備えた無水フタル酸誘導体や同じくビニル基を備えた無水コハク酸等を挙げることができる。無水マレイン酸をモノマーとしてラジカル重合させた場合には、ポリマーの主鎖に上記一般式(1)の構造が導入され、ビニル基を備えた無水フタル酸誘導体や無水コハク酸誘導体をモノマーとしてラジカル重合させた場合には、ポリマーの側鎖に上記一般式(1)の構造が導入される。次の化学反応式は、説明のための一例として、スチレン及び無水マレイン酸をモノマーとしてラジカル重合してポリマーを形成させ、そのポリマーに重合性基を備えたアルコールとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を反応させた様子を示したものである。なお、下記化学反応式では、説明のための簡略化として、反応による酸無水物構造の転換率を100%としている。
【0028】
【化8】
【0029】
上記反応の結果、ポリマーには、重合性基であるメタクリル基とアルカリ現像性を付与するカルボキシ基とが導入される。ここで、重要な点は、上記非特許文献1でも用いられたグリシジルメタクリレートを反応させたときと異なって、反応に伴って水酸基を生じないことである。水酸基はポリマーの誘電特性を悪化させるため、これを生じることなく重合性基の導入された本発明のポリマーの有用性が理解できる。なお、上記一般式(1)におけるLが「水酸基を含まない」とされるのは、本発明のポリマーがこのように合成されることに由来する。
【0030】
次に、本発明のポリマーにおいて側鎖に導入される、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基について説明する。この基は、複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基Rを有してもよい、多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備える。
【0031】
多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格は、多面体構造をなすようにSi原子とO原子とが交互に結合してなるものであり、理解を助けるためにSi−O−Siの結合を直線と仮定すると、8個のSi原子が立方体における頂点に配置されたT構造、10個のSi原子が正五角柱における頂点の位置に配置されたT10構造、及び12個のSi原子が正六角柱における頂点に位置に配置されたT12構造を持つものが知られている。この骨格部分は、(R’SiO1.5という一般式で表され、本発明におけるポリシルセスキオキサン骨格においてはこの一般式における1個のR’がポリマー主鎖への結合基Xとなり、残りのR’が「複数存在するSi原子上に各々独立して決定される置換基R」となる。なお、この一般式において、ポリシルセスキオキサン骨格がT構造であればn=8となり、ポリシルセスキオキサン骨格がT10構造であればn=10となり、ポリシルセスキオキサン骨格がT12構造であればn=12となる。本発明の硬化性組成物で用いられるポリマーにおいて、側鎖に含まれるポリシルセスキオキサン骨格は、T構造、T10構造及びT12構造のいずれであってもよい。本発明のポリマーにおいて、側鎖に導入されたポリシルセスキオキサン骨格は、ポリマーの誘電特性を向上させるのに寄与する。
【0032】
ポリシルセスキオキサン骨格に含まれるSi原子へ任意に導入される置換基Rとしては、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、既に説明したように、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でも、イソブチル基が好ましく挙げられる。
【0033】
多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を備えた基として、より具体的には、下記一般式(2)〜(4)のいずれかで表すものを好ましく挙げることができる。
【0034】
【化9】
【0035】
上記一般式(2)〜(4)のそれぞれにおいて、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基である。すなわち、この各Rは、先に説明した「ポリシルセスキオキサン骨格におけるSi原子へ任意に導入される置換基R」と同じものである。また、上記一般式(2)〜(4)のそれぞれにおいて、Xは、ポリマーの主鎖に結合するための結合基、すなわち2価の基である。Xは、ポリマーにポリシルセスキオキサン骨格を備えた基を導入するための連結基に過ぎず、その構造はどのようなものであってもよい。ポリマーにポリシルセスキオキサン骨格を有する基を導入する場合、当該基をもつ(メタ)アクリレート類がモノマーとして市販されているため、これらを好ましく用いることができるが、この場合、その(メタ)アクリレート類に含まれるビニル基とポリシルセスキオキサン骨格との間の連結基がXとなる。
【0036】
なお、上記一般式(1)で表す構造がポリマーの主鎖に含まれることが好ましい。このようなポリマーは、ジカルボン酸の無水物として、それ自体がラジカル重合性不飽和結合を持つ無水マレイン酸を選択して、これを他のモノマーと共重合することで合成される。
【0037】
より具体的な好ましい形態として、本発明のポリマーが、下記一般式(a)及び(b)で表す両方をそれぞれ繰り返し単位として含むことが挙げられる。下記一般式(a)で表す構造は、POSSを含む(メタ)アクリレートを共重合することによりポリマー中へ導入され、下記一般式(b)で表す構造は、無水マレイン酸をモノマーとして共重合させ、その後、ポリマー中に導入された酸無水物骨格と重合性基を備えたアルコールとを反応させることによりポリマー中へ導入される。
【0038】
【化10】
【0039】
上記一般式(a)中、RPOSSは、下記一般式で表すものであり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。上記一般式(b)中、L’は、水酸基を含まない2価の基であり、上記一般式(1)におけるLと同様である。また、Rは、上記一般式(1)におけるものと同じである。
【0040】
【化11】
【0041】
上記一般式において、Rは、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基である。このようなRの一例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、3−メチル−5,5−ジメチルヘキシル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、シクロペンチル基、フェニル基等が挙げられ、これらの中でも、イソブチル基が好ましく挙げられる。
【0042】
ポリマーは、その他の共重合成分として、上記以外のオレフィン化合物、すなわちラジカル重合可能なモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。このようなモノマーとしては、スチレン、各種の(メタ)アクリレート、エチレン、プロピレン、ブタジエン等を挙げることができる。これらのモノマーは、ポリマーの分子量調節、誘電率を初めとした各種物理特性の調節等に寄与する。
【0043】
さらに具体的には、本発明のポリマーの好ましい一形態として下記一般式(5)で表すものを挙げることができる。
【0044】
【化12】
【0045】
上記一般式(5)中、i−BuPOSSは、下記化学式で表すものであり、X’は、2価の基であり、Rは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、L’は、水酸基を含まない2価の基であり上記一般式(1)におけるLと同様である。k、l、nは、それぞれ独立に1以上の整数であり、mは、0以上の整数である。上記一般式(5)において、符号rは、ランダム共重合体であることを意味し、符号aは、交互(alternative)共重合体であることを意味する。繰り返し回数mで表す繰り返し単位は、重合性基を備えたアルコールとポリマーとを反応させたときの未反応部分であるので、この反応が完全に進行した場合にはm=0となる。
【0046】
【化13】
【0047】
上記化学式において、Rは、イソブチル基である。
【0048】
上記一般式(5)で表すポリマーは、ポリシルセスキオキサン骨格を備えた(メタ)アクリレートモノマーと、スチレンと、無水マレイン酸と、その他の(メタ)アクリレートモノマーと、の共重合体である。このポリマーを合成するには、これらのモノマーをラジカル重合させればよい。スチレン及びその他の(メタ)アクリレートモノマーは、誘電特性の向上や、架橋による硬化性(すなわち重合性基の存在に基づく重合性)に寄与するものではないが、次のような理由から共重合体の構成要素とすることが望ましい。まず、スチレンは、ラジカル重合の際に無水マレイン酸との交互共重合性を備えるため、ポリマー中への無水マレイン酸の導入を助けるのに寄与する。また、その他の(メタ)アクリレートモノマーは、ポリマーの分子量調節、誘電率を初めとした各種物理特性の調節等に寄与する。なお、「その他の」との文言は、ポリシルセスキオキサン骨格を備えた(メタ)アクリレートモノマーでない(メタ)アクリレートモノマーであることを示すためのものである。上記一般式(5)におけるRとしては、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基が挙げられ、これらの一例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、シクロペンチル基、フェニル基等に加えて、下記の化学式で表すもの等を挙げることができる。
【0049】
【化14】
【0050】
ポリマーを調製するに際して、これらのモノマーの配合比率は、適宜決定すればよいが、一例として、ポリシルセスキオキサン骨格を備えた(メタ)アクリレートモノマーを1(基準)としたときに、スチレンを0.1〜10倍モル比、無水マレイン酸を0.1〜10倍モル比、その他の(メタ)アクリレートモノマーを0.1〜10倍モル比程度とすることを挙げることができる。なお、ポリマーに重合性基を導入するに際しては、ポリマー中に存在するジカルボン酸無水物骨格(すなわち、無水マレイン酸を由来とする骨格)1当量に対して1当量〜10当量程度の重合性基を備えたアルコールを用いればよい。
【0051】
本発明のポリマーは、誘電特性の良好なポリシルセスキオキサン骨格と、架橋性をもたらす重合性基と、アルカリ現像性をもたらすカルボキシ基と、を備え、従来のものよりも水酸基含有量が抑制されたものである。このことから、良好な誘電特性(具体的には、低誘電率及び低誘電正接)の要求される電子機器におけるパターニング材料、より具体的には、ソルダーレジスト用途等に好ましく用いられる。
【0052】
<ポリマーの製造方法>
上記本発明のポリマーの製造方法もまた、本発明の一つである。次に、本発明のポリマーの製造方法の一実施態様について説明する。本発明のポリマーの製造方法は、下記一般式(6)〜(8)のいずれかで表す(メタ)アクリル酸エステル、及びジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物を少なくとも含むモノマー群をラジカル重合させて前駆体ポリマーを得る重合工程と、上記前駆体ポリマーに、水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルを作用させることにより、この(メタ)アクリル酸エステルの水酸基を上記酸無水物骨格に付加させて上記ジカルボン酸のハーフエステルを形成させる付加工程と、を含む。以下、各工程について説明するが、上記本発明のポリマーの説明と重なる箇所については、その説明を適宜省略する。
【0053】
【化15】
【0054】
上記一般式(6)〜(8)中、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の分枝を有してもよいアルキル基、又は炭素数1〜15の単環若しくは複環の脂環式基若しくはアリール基であり、X’は、2価の基であり、Rは、水素原子又はメチル基である。
【0055】
[重合工程]
重合工程は、上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表す(メタ)アクリル酸エステル、及びジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物を少なくとも含むモノマー群をラジカル重合させて前駆体ポリマーを得る工程である。
【0056】
既に説明したように、本発明のポリマーは、主鎖又は側鎖にジカルボン酸の酸無水物骨格を導入したポリマー(ポリマーAと呼ぶ。)に、ラジカル重合性不飽和結合、すなわち重合性基を備えたアルコールを作用させることで重合性基が導入されたものである。このポリマーAが、前駆体ポリマーに相当する。上記一般式(6)〜(8)で表す各(メタ)アクリル酸エステルは、いずれもラジカル重合性を示し、他のラジカル重合性モノマーとともに共重合することで、ポリマー中にポリシルセスキオキサン骨格を導入する。
【0057】
上記一般式(6)〜(8)中に示すRは、上記一般式(2)〜(4)におけるものと同じである。また、上記一般式(6)〜(8)におけるX’は、上記一般式(5)におけるX’と同じである。また、上記一般式(6)〜(8)におけるRは、上記一般式(5)におけるRと同じである。X’としては、炭素数1〜6のアルキレン基が例示できるが、X’は、それに連結するアシル基とともに、上記一般式(2)〜(4)におけるX、すなわちポリマーの主鎖とポリシルセスキオキサン骨格との間の連結基になるものなので、どのような基が選択されてもよい。
【0058】
ジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物は、ラジカル重合性を示し、他のラジカル重合性モノマーとともに共重合することで、ポリマー中にジカルボン酸の酸無水物骨格を導入する。このような化合物としては、無水マレイン酸、ビニル基を備えた無水フタル酸誘導体、ビニル基を備えた無水コハク酸誘導体等が挙げられる。これらの中でも無水マレイン酸が好ましく挙げられる。
【0059】
本工程では、上記一般式(6)〜(8)で表す各(メタ)アクリル酸エステル、及び上記ジカルボン酸の酸無水物骨格とラジカル重合性不飽和結合とを備えた化合物を少なくとも含むモノマー群をラジカル重合させるが、このモノマー群は、その他のモノマーを含んでもよい。
【0060】
その他のモノマーとしては、スチレン、上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表すものとは異なる(メタ)アクリル酸エステル(すなわち(メタ)アクリレート)等が挙げられる。
【0061】
スチレンは、既に説明したように、ラジカル重合の際に無水マレイン酸との交互共重合性を備えるため、ポリマー中への無水マレイン酸の導入を助ける。なお、スチレンが存在しなくとも、無水マレイン酸を共重合によりポリマー鎖へ導入することは可能である。
【0062】
上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表すものとは異なる(メタ)アクリル酸エステルとしては、市販の(メタ)アクリレートを特に制限なく挙げられる。このような(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、すなわち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等が挙げられ、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチルが好ましく挙げられる。
【0063】
上記のモノマー群は、溶液中でラジカル重合することで前駆体ポリマーを与える。ラジカル重合を行うためのラジカル重合剤としては、アゾイソブチロニトリル(AIBN)や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
【0064】
モノマー群における各モノマーの配合比率は、適宜決定すればよいが、一例として、上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表す(メタ)アクリル酸エステルを1(基準)としたときに、スチレンを0.1〜10倍モル比、無水マレイン酸等のジカルボン酸無水物を0.1〜10倍モル比、上記一般式(6)〜(8)のいずれかで表すものとは異なる(メタ)アクリル酸エステルを0.1〜10倍モル比程度とすることを挙げることができる。
【0065】
重合工程により得られた前駆体ポリマーは、付加工程に付される。
【0066】
[付加工程]
付加工程は、重合工程で得た前駆体ポリマーに、水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルを作用させることにより、この(メタ)アクリル酸エステルの水酸基を前駆体ポリマーに含まれるジカルボン酸の酸無水物骨格を付加させて、ジカルボン酸のハーフエステルを形成させる工程である。すなわち、下記化学反応式のように、ポリマー中の酸無水物骨格にアルコールを作用させ、ハーフエステルとする。このハーフエステルには重合性基としてビニル基が含まれるため、得られたポリマーは、相互に架橋することが可能になる。また、同時に生じたカルボキシ基は、アルカリ溶液による現像性をポリマーに与える。なお、下記の化学反応式は説明のための一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
【化16】
【0068】
水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸とグリコールとのエステルが好ましく挙げられ、(メタ)アクリル酸と1,2−グリコールとのエステルである2−ヒドロキシエチル(メタ)クリレートを初め、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中でも2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく挙げられる。
【0069】
なお、本工程では、予期せぬ重合によるゲル化を避けるために、反応系内に適切な重合禁止剤を添加しておくことが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ブチルヒドロキシトルエン、4−メトキシフェノール(MEHQ)等が挙げられる。
【0070】
水酸基を備えた(メタ)アクリル酸エステルの配合量としては、ポリマー中のジカルボン酸無水物骨格1当量に対して、1〜10当量程度が挙げられる。
【0071】
本工程を経ることにより、上記本発明のポリマーが得られる。
【0072】
<硬化性組成物>
次に、本発明の硬化性組成物の一実施形態について説明する。本発明の硬化性組成物は、上記本発明のポリマー及びラジカル重合開始剤を含む。以下、説明する。
【0073】
既に説明したように、本発明のポリマーは、側鎖に重合性基であるビニル基を備える。このため、ラジカル重合開始剤により生じたラジカルの存在下で、ポリマー分子同士が分子間架橋し、高分子量化する。本発明のポリマーにはアルカリ可溶性を付与するカルボキシ基が含まれるが、このように架橋して高分子量化するとアルカリ可溶性を失う。このような性質を利用し、本発明の硬化性組成物を膜状に成型して選択的硬化を行った後、未硬化部分をアルカリ溶液で除去するような使い方も可能である。
【0074】
ラジカル重合開始剤としては、ラジカルを発生させるものであれば特に限定されない。このようなラジカル重合開始剤としては、アゾイソブチロニトリル(AIBN)や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を挙げることができる。また、ラジカル重合開始剤として、光照射によりラジカルを発生させる光ラジカル重合開始剤も好ましく用いることができる。このような光ラジカル重合開始剤としては、アシルホスフィンオキシド、ベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]ブタン−1−オン等が挙げられる。このような光ラジカル重合開始剤は市販されており、例えばBASF社からイルガキュアシリーズとして入手が可能である。ラジカル重合開始剤として光ラジカル重合開始剤を用いることにより、選択的光照射によるパターニングが可能になる。光ラジカル重合開始剤を用いる場合、適切な増感剤を用いることにより、さらに硬化性を高めることができる。このような増感剤としては、キサントン類、チオキサントン類等を上げることができる。
【0075】
上記のように、本発明のポリマーは重合性基を備えるので、それ自体で互いに架橋して高分子量化できる。しかし、より硬化性を高めるために、本発明の硬化性組成物に多官能アクリレートを添加することもできる。このような多官能アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)等を挙げることができる。
【0076】
本発明の硬化性組成物は、上記の各成分に加えてその他の成分を含んでもよい。このような成分の一例として、各種のフィラーを挙げることができる。フィラーは、硬化物の物理特性や誘電率の調節に寄与するものであり、そのようなフィラーの一例として、シリカ、ガラス繊維、炭酸カルシウム等の無機成分を挙げることができる。
【0077】
本発明のポリマー及びラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物は、適切な溶媒に溶解しワニスとして用いることもできる。この場合、ワニスである硬化性組成物を膜状など、所望の形状に成型した後、必要に応じて溶媒を除去してから硬化させればよい。
【0078】
<硬化物の製造方法>
上記本発明の硬化性組成物を用いた硬化物の製造方法もまた、本発明の一つである。次に、本発明の硬化物の製造方法の一実施態様について説明する。本発明の硬化物の製造方法は、上記本発明のポリマー、及び光ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物を基材の表面に塗布して塗布膜を形成させる塗布工程と、この塗布膜に選択的光照射を行うことで、光照射した箇所を硬化させてパターニングを行うパターニング工程と、上記塗布膜のうち硬化していない箇所をアルカリ溶液で除去する現像工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。なお、以下の説明において、既に説明した内容と重複する箇所についてはその説明を適宜省略する。
【0079】
[塗布工程]
塗布工程は、上記本発明のポリマー、及び光ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物を基材の表面に塗布して塗布膜を形成させる工程である。なお、この硬化性組成物については、既に説明した本発明の硬化性組成物と同じものなので、その説明を省略する。
【0080】
塗布膜を形成させるには、必要に応じて硬化性組成物へ適切な溶媒を加えてワニスを調製し、基材の表面にこれを塗布した後、必要に応じて溶媒を除去すればよい。基材の表面へワニスを塗布する方法としては、スピンコート、グラビアコート、刷毛塗り等、公知のものを各種挙げることができる。また、溶媒を除去する方法としては、常温又は加温下で蒸発させる方法、減圧下で蒸発させる方法等、公知のものを各種挙げることができる。
【0081】
塗布工程により基材の表面に形成された塗布膜は、パターニング工程に付される。
【0082】
[パターニング工程]
パターニング工程は、塗布工程により形成された塗布膜に選択的光照射を行うことで、光照射した箇所を硬化させてパターニングを行う工程である。
【0083】
上記の通り、塗布膜を形成する硬化性組成物には、ラジカルの存在下で互いに重合することのできるポリマーと、光照射によりラジカルを発生させる光ラジカル重合開始剤とが含まれる。そのため、パターンが形成されたマスクを通して塗布膜の表面に光照射することにより、塗布膜のうち、光が照射された箇所で硬化が生じ、光が照射されなかった箇所では硬化が生じないことから、マスクのパターン応じて塗布膜がパターニングされる。
【0084】
パターンの形成された塗布膜は、現像工程に付される。
【0085】
[現像工程]
現像工程は、パターニング工程を経た塗布膜のうち、硬化していない箇所をアルカリ溶液で除去する工程である。
【0086】
既に説明したように、本発明のポリマーにはアルカリ可溶性を付与するカルボキシ基が含まれるので、アルカリ溶液に溶解する。しかしながら、このポリマー分子同士が架橋して高分子量化すると、もはやアルカリ溶液には溶解しなくなる。このような架橋の前後でのアルカリ溶液に対する溶解度の違いにより、基材の表面から未硬化の硬化性組成物を除去するのが現像工程である。
【0087】
現像工程で用いるアルカリ溶液としては、特に限定されないが、2.38wt%水酸化テトラアンモニウム水溶液や、1mol/L炭酸ナトリウム水溶液等を挙げることができる。
【0088】
<ソルダーレジスト>
上記本発明の硬化性組成物を含むソルダーレジストもまた、本発明の一つである。次に、本発明のソルダーレジストの一実施形態について説明する。本発明のソルダーレジストは、上記本発明の硬化性組成物を含むことを特徴とする。本発明の硬化性組成物については、既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0089】
本発明のソルダーレジストは、上記本発明の硬化性組成物を含むほか、ソルダーレジスト向けの各種の公知材料を含むことができる。
【0090】
本発明のポリマーは、光ラジカル重合開始剤の存在下でパターニングが可能で、かつ誘電特性に優れた絶縁膜を形成することができるので、本発明のソルダーレジストもまた、同様の性能を示すものとなる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
[前駆体ポリマーAの合成]
200mLのナス型フラスコに、イソブチルPOSSメタクリレート(MAi−BuPOSS、ハイブリッドプラスチックス社)5.15g(6.46mmol)、スチレン(St)3.42g(32.8mmol)、メチルメタクリレート(MMA)3.28g(32.8mmol)、無水マレイン酸(MA)3.22g(32.8mmol)、dry−テトラヒドロフラン(THF)51.9mL、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.511g(3.11mmol、3mol%)を加え、凍結脱気を5回行った。その後、オイルバスを用いて60℃で24時間撹拌し、エタノール2.59Lを用いて再沈殿を行った。沈殿を濾別し、室温で86時間減圧乾燥した後、さらに50℃で4時間減圧乾燥することで、白色粉末固体の前駆体ポリマーAを11.3g(収率75%)得た。
FT−IR(KBr,cm−1):2954(νC−H),1859(νC=O,Carboxylic acid anhydride),1782 (νC=O,Carboxylic acid anhydride),1730(νC=O,ester),1455(νC=C,aromatic),1118(νC−O−C,ester,Si−O−Si
H−NMR(500MHz,acetone−d) δ(ppm):7.81−6.00(br,5.00H,H,H,H),4.24−3.88(br,0.184H,H),3.87−3.44(br,2.18H,H,H),3.44−2.74(br,2.12H,H,H),2.74−1.41(br,5.23H,H,H,H,H,H),1.41−0.80(br,6.63H,H,H),0.80−0.36(br,1.71H,H,H
【化17】
H−NMRより算出された組成比:
MAi−BuPOSS:St:MA:MMA=0.107:1.00:1.06:0.727
GPC(DMF,RI):M=1.32×10,M/M=2.60
DSC測定(温度範囲:0〜200℃、2サイクル目):Tg=89℃,124℃
【0093】
[前駆体ポリマーBの合成]
下記のように条件を変えて、上記前駆体ポリマーAと同様に前駆体ポリマーBの合成を行った。収量は1.31g(収率65%)だった。
MAi−BuPOSS:0.684g(0.725mmol)、MMA:0.434g(4.34mmol)、St:0.457g(4.39mmol)、MA:0.427g(6.94mmol)、dry−THF:6.9mL、AIBN0.0453g(0.276mmol、2mol%)、反応温度60℃、反応時間24h
H−NMRより算出された組成比:
MAi−BuPOSS:St:MA:MMA=0.115:1.00:1.03:0.772
GPC(DMF,RI):M=1.42×10,M/M=2.85
GPC(DMF,MALS):M=1.73×10,M/M=1.12
DSC測定(温度範囲:0〜200℃、2サイクル目):Tg=89℃,132℃
【0094】
[ポリマーAの合成]
100mLの3つ口フラスコに前駆体ポリマーA4.50g(7.99mmol)を加え、これをdry−THF12.1mLに溶解させた後、氷浴中に浸漬した。50mLのナス型フラスコに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)7.88g(60.6mmol)、4−メトキシフェノール(MEHQ)0.150g(1.21mmol)、及びトリエチルアミン(TEA)1.59g(15.8mmol)を加えて均一な混合溶液とした後、この混合溶液を3つ口フラスコ中の溶液へ滴下し、窒素雰囲気下、0℃で10分間撹拌し、さらに室温で6時間撹拌した。その後、0.05mol/L塩酸水溶液725mLに反応溶液をゆっくりと加え、1時間撹拌した。生じた沈殿物を濾別し、イオン交換水を用いて洗浄した。その後、室温で28時間減圧乾燥を行うことで、白色粉末固体のポリマーAを5.48g(収率94%、導入率84%)得た。
FT−IR(KBr,cm−1):3423(νO−H),2955(νC−H),1728(νC=O,Carboxylic acid anhydride,Carboxy,ester),1637(νCH2=C,vinyl),1454(νC=C,aromatic),1118(νC−O−C,ester,Si−O−Si
H−NMR(500MHz,acetone−d) δ(ppm):7.63−6.28(br,5.00H,H,H,H),6.28−5.91(br,0.810H,H),5.86−5.44(br,0.745H,H),4.63−3.79(br,3.22H,H,H,H),3.79−3.12(br,2.36H,H),3.12−2.37(br,1.78H,H,H),2.36−1.31(br,9.71H,H,H,H,H,H,H),1.30−0.785(br,6.24H,H,H),0.768−0.221(br,2.36H,H,H
【化18】
H−NMRより算出された組成比:
MAi−BuPOSS:St:Methacryloyl:MA:MMA=0.147:1.00:0.745:0.145:0.890
GPC(DMF,RI):M=1.35×10,M/M=3.02
DSC測定(温度範囲:0〜250℃、2サイクル目):Tg=89℃,130℃
【0095】
[ポリマーBの合成]
下記のように条件を変えて、上記ポリマーAと同様にポリマーBの合成を行った。収量は0.923g(収率86%、導入率79%)だった。
前駆体ポリマーA:0.800g(2.22mmol)、HEMA:1.69g(12.9mmol)、TEA:0.345g(3.41mmol)、MEHQ:0.0322g(0.259mmol)、dry−THF:2.6mL
H−NMRより算出された組成比:
MAi−BuPOSS:St:Methacryloyl:MA:MMA=0.133:1.00:0.764:0.203:0.800
GPC(DMF,RI):M=1.47×10,M/M=2.69
DSC測定(温度範囲:0〜250℃、2サイクル目):Tg=89℃,128℃
【0096】
[ポリマーCの合成]
下記のように条件を変えて、上記ポリマーAと同様にポリマーCの合成を行った。収量は0.670g(収率66%、導入率64%)だった。
前駆体ポリマーB:0.800g(2.10mmol)、HEMA:0.455g(3.50mmol)、TEA:0.365g(3.61mmol)、MEHQ:0.0086g(0.0693mmol)、dry−THF:2.6mL
H−NMRより算出された組成比:
MAi−BuPOSS:St:Methacryloyl:MA:MMA=0.150:1.00:0.608:0.344:0.875
GPC(DMF,RI):M=1.47×10,M/M=2.69
DSC測定(温度範囲:0〜250℃、2サイクル目):Tg=89℃,128℃
【0097】
[ポリマーAにおけるアルコール性水酸基の有無についての検証]
上記のように、前駆体ポリマーAにアルコール化合物である2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を反応させることで、前駆体ポリマーAに含まれる酸無水物骨格へHEMAを付加させてポリマーAを得た。この反応は、酸無水物とアルコールとのエステル化反応に相当するもので、背景技術に記載したグリシジル基含有化合物とカルボン酸との間の付加反応と異なって、反応に伴うアルコール性水酸基を生じない。このことをH−NMRにて検証した。この検証は、下記(1)〜(3)の各サンプルについてDMSO−d溶液(0.5mL)を調製し、調製された溶液のそれぞれについてのH−NMRスペクトルにおける、アルコール性水酸基に由来するピークの存在を確認することにより行った。この測定により得られたH−NMRのチャートを図1に示す。図1に示した3つのH−NMRスペクトルは、上から順に下記(1)、(2)及び(3)のDMSO−d溶液(0.5mL)についてのものである。
(1)ポリマーA 10mg + HEMA 5mgの混合物
(2)HEMA 5mgのみ
(3)ポリマーA 10mgのみ
【0098】
図1に示すように、(1)ポリマーA 10mg + HEMA 5mgの混合物、及び(2)HEMA 5mgのみのH−NMRスペクトルでは、いずれも4.82ppmにアルコール性水酸基のピークが観察された。一方、(3)ポリマーA 10mgのみのH−NMRスペクトルでは、アルコール性水酸基のピークが観察されなかった。これらの結果から、ポリマーAにはアルコール性水酸基が含まれないことが理解できる。
【0099】
なお、図1に示した各スペクトルの帰属は、次の通りである。下記のスペクトル帰属において、「H」等のようにHに付加した添字は、図1の上部に示した構造式に付加した添字に対応する。また、ポリマーAについてのacetone−d溶液中での帰属については上記の合成手順にて既に記した通りだが、下記の各帰属はDMSO−d中でのものであることを申し添える。
【0100】
ポリマーAの帰属
H−NMR(500MHz,DMSO−d) δ(ppm):12.3(br,0.949H,H),7.63−6.28(br,5.00H,H,H,H),6.28−5.91(br,1.04H,H),5.86−5.44(br,0.937H,H),4.63−3.75(br,3.74H,H,H,H),3.79−3.40(br,1.58H,H),3.18−2.60(br,1.81H,H,H),2.36−1.31(br,7.35H,H,H,H,H,H,H),
1.31−0.785(br,4.78H,H,H),0.785−0.000(br,3.09H,H,H
【0101】
HEMAの帰属
H−NMR(500MHz,DMSO−d) δ(ppm):6.05(s,1.02H,Hs’),5.65(s,1.03H,Ht’),4.82(t,0.958H,H),4.09(t,1.99H,Hq’),3.60(q,2.03H,Hp’),1.87(s,3.00H,Hr’
【0102】
[フォトマスクを用いたポリマーAフィルムのフォトリソグラフィ−]
ポリマーAの20質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)をポリマーAのメタクリル基に対して200mol%、イルガキュア907(商品名、光ラジカル重合開始剤、BASF社)を全ての(メタ)アクリル基に対して10mol%、及び2−イソプロピルチオキサントン(ITX)を全ての(メタ)アクリル基に対して5mol%溶解させ、硬化性組成物を調製した。これらの混合物の組成を質量比で表すと、ポリマーA:TMPTA:イルガキュア907:ITX=1.0:0.85:0.28:0.13となる。硬化性組成物に対してアルゴンバブリングを10分間行った後、この硬化性組成物をシリコン基板にドライヤーで温風を当てながらスピンコート(3000rom、300秒間)することでフィルムを調製した。このフィルムの表面にドット状のパターンの形成されたフォトマスクを乗せ、キセノンランプを用いて310nm、8.4mW/cmの光を5分間照射した。その後、このフィルムをシリコン基板ごと2.38wt%水酸化テトラアンモニウム水溶液に1秒間浸し、イオン交換水ですすいだ後、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。シリコン基板の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、ドット状のパターンが形成されているのが確認されたことから、ポリマーAのフィルムはリソグラフィー可能であることがわかった。
図1