【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布場所 :東京ビッグサイト 西・南・青海展示棟(東京都江東区有明三丁目11番1号) 配布日 :令和1年7月3日
【解決手段】紙製品1の製造方法は、少なくとも1つ以上の紙製のシート体10からなる紙製品1を製造する製造方法であって、薬液をシート体10に対して塗布する塗布工程を含み、薬液は、保湿性を有する保湿系薬液と、セルロースナノファイバーとを含み、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率は、0.03%以上0.15%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る紙製品、及び紙製品の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕実施の形態の基本的概念を説明した後、〔II〕実施の形態の具体的内容について説明し、最後に、〔III〕実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
〔I〕実施の形態の基本的概念
まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、概略的に、少なくとも1つ以上の紙製のシート体からなる紙製品、及び当該紙製品を製造する製造方法に関するものである。
【0022】
ここで、「紙製品」の種類は任意であるが、例えば、ティシュペーパー、ペーパータオル、トイレットペーパー、キッチンペーパ等を含む概念であるが、実施の形態では、シート体を2つ積層してなるティシュペーパー(具体的には、保湿ティシュペーパー)として説明する。
【0023】
〔II〕実施の形態の具体的内容
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。
【0024】
(構成)
ここでは、実施の形態に係る紙製品1の構成と、この紙製品が収容される収容体20の構成とについて説明する。
【0025】
(構成−紙製品)
最初に、紙製品1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る紙製品1及び収容体20を概念的に示す斜視図である。以下の説明では、
図1のX方向を紙製品1の左右方向(−X方向を紙製品1の左方向、+X方向を紙製品1の右方向)、
図1のY方向を紙製品1の前後方向(+Y方向を紙製品1の前方向、−Y方向を紙製品1の後方向)、
図1のZ方向を紙製品1の上下方向(+Z方向を紙製品1の上方向、−Z方向を紙製品1の下方向)と称する。
【0026】
紙製品1は、薬液(図示省略)が塗布された少なくとも1つ以上の紙製のシート体10から構成されており、具体的には、公知の加工方法(一例として、カレンダー処理)を用いて、2つのシート体10を積層状に一体化させて構成されている。また、この紙製品1は、
図1に示すように、収容体20(
図1では、二点鎖線で示す)の内部に収容されており、具体的には、公知の収納方法(一例として、ポップアップ式に取り出し可能に収容する方法等)を用いて、上下方向に積層状に複数配置された状態で収容されている。
【0027】
(構成−紙製品−シート体)
次に、シート体10の構成について説明する。シート体10は、紙製品1の基本構造体であり、例えば公知の紙製のシート材(一例として、保湿ティシュペーパー用のシート材)を用いて構成されている。
【0028】
また、シート体10の具体的な形状及び大きさについては任意であるが、実施の形態では、以下の通りとなる。すなわち、シート体10の平面形状については、略矩形状(具体的には、略長方形状)に設定している。ただし、これに限らず、例えば、略矩形状以外の多角形状(一例として、三角形状)、円形状、又は楕円形状に設定してもよい。また、シート体10の左右方向の長さ及び前後方向の長さについては、所定の規格に合致した長さに設定すると共に、シート体10の左右方向の長さをシート体10の前後方向の長さよりも長く設定している。また、シート体10の厚さ(上下方向の長さ)については、所望の強度を有する限り薄くすることが望ましいことから、実験結果等に基づいて設定している。
【0029】
また、シート体10の材質については任意であるが、例えば、木材パルプ、古紙パルプ、非木材パルプ、又はこれらを組み合わせたもの等にて形成されてもよい。
【0030】
(構成−紙製品−薬液)
次いで、薬液の構成について説明する。薬液は、シート体10に対して保湿機能及び吸湿機能を付与するための液であり、保湿系薬液及びセルロースナノファイバーを含んで構成されている(いずれも図示省略)。
【0031】
(構成−紙製品−薬液−保湿系薬液)
保湿系薬液は、保湿性を有する液であり、例えば公知の保湿ティシュペーパー用の薬液を用いて構成されており、具体的には、多価アルコール及び水等を含んで構成されている。
【0032】
また、この多価アルコールの具体的な種類については任意であるが、実施の形態では、安価且つ安全に取り扱うことができるグリセリンが用いられている。ただし、これに限らず、例えば、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等が用いられてもよい。
【0033】
このような保湿系薬液により、シート体10に対して保湿機能及び吸湿機能を付与することができ、シート体10からしっとり柔らかな風合いを得ることが可能となる。
【0034】
(構成−紙製品−薬液−セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーは、保湿系薬液の粘度を低下させるためのものである。このセルロースナノファイバーは、例えば植物(一例として、木材、雑草、野菜、果物、又はこれらの廃棄物からなるバイオマス等)の細胞壁に由来するセルロース等を用いて構成されており、具体的には、直径が数nm〜100nmであり、長さが直径の100倍以上の繊維状のセルロースを用いて構成されている。
【0035】
また、セルロースナノファイバーの配合方法については任意であるが、実施の形態では、後述する試験結果に示すように、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.03%以上0.15%以下になるように配合しており、一例として、0.06%以下になるように配合することが望ましい。このような配合方法により、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.15%を上回る場合に比べて、薬液の粘度を低くしながら、紙製品1を比較的柔らかく形成でき、紙製品1の製造性を維持しながら、紙製品1の柔軟性を高めることができる。また、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.06%を上回る場合に比べて、セルロースナノファイバーの添加量を低減しながら、薬液の粘度を低くし、且つ紙製品1を比較的柔らかく形成でき、紙製品1の製造性を一層高めることができる。ただし、これに限らず、例えば、0.03%未満、又は0.15%を上回るように設定してもよい。
【0036】
また、セルロースナノファイバーの材質については任意であるが、実施の形態では、柑橘外皮で形成されている。これにより、セルロースナノファイバーを比較的安価に製造でき、紙製品1の製造コストを低減できる。また、保湿系薬液の品質を阻害するような化学反応が生じることを回避でき、薬液の品質を保持しやすくなる。ただし、これに限らず、例えば、木材パルプ、古紙パルプ等で形成されてもよい。
【0037】
(構成−紙製品−薬液−その他の構成)
また、薬液の塗布量については、シート体10からしっとり柔らかな風合いが得られる限り任意であるが、実施の形態では、シート体10の1層あたりの薬液の塗布量が10重量%から30重量%になるように塗布している。ただし、これに限らず、例えば、紙製品1の種別や製造環境に応じて塗布してもよく、一例として、10重量%未満、又は30重量%を上回るように塗布してもよい。
【0038】
(構成−紙製品−その他の構成)
また、薬液が塗布された状態のシート体10の具体的な構成については任意であるが、実施の形態では、以下の通りに設定している。すなわち、シート体10の1層あたりの坪量(具体的には、JIS P 8124(2011)に基づいた坪量)については、10〜15g/m
2に設定している。また、シート体10の1層あたりの厚さ(具体的には、JIS P 8111(1998)に基づいた厚さ)については、35μmから60μmに設定している。このような構成により、紙製品1の製造性を維持しながら、紙製品1からしっとり柔らかな風合いを得ることができる。ただし、これに限らず、例えば、上記坪量については、10g/m
2未満、又は15g/m
2を上回るように設定してもよい。また、上記厚さについては、35μm未満、又は60μmを上回るように設定してもよい。
【0039】
以上のような紙製品1により、保湿系薬液のみをシート体10に塗布することで構成された紙製品1に比べて、薬液の粘度を低くすることができ、薬液をシート体10に対して塗布しやすくなる。よって、後述する製造方法において薬液を加温する作業の手間及びコストを削減でき、紙製品1の製造性を高めることが可能となる。
【0040】
(構成−収容体)
次に、収容体20の構成について説明する。収容体20は、紙製品1を収容するためのものであり、
図1に示すように、収容体本体21、取出口22、及び蓋部23を備えている。
【0041】
(構成−収容体−収容体本体)
収容体本体21は、収容体20の基本構造体である。この収容体本体21は、例えば紙製(又は樹脂製)の中空状体にて形成されており、具体的には、
図1に示すように、直方体状に形成されている。ただし、これに限らず、例えば、円柱状体、球状体等にて形成されてもよい。
【0042】
また、この収容体本体21の具体的な大きさについては、複数の紙製品1を収容できる限り任意であるが、実施の形態では、以下の通りに設定している。すなわち、収容体本体21の左右方向の長さについては、紙製品1の左右方向の長さよりも長く設定しており、収容体本体21の前後方向の長さについては、紙製品1の前後方向の長さよりも長く設定している。また、収容体本体21の上下方向の長さについては、紙製品1の上下方向の高さに対して収容体20に収容される紙製品1の個数を積算した値よりも長く設定している。
【0043】
(構成−収容体−取出口)
取出口22は、収容体本体21に収容された紙製品1を取り出すための開口である。この取出口22は、例えば矩形状(あるいは、円形状又は楕円形状)にて形成されており、
図1に示すように、収容体本体21の上面に設けられている。
【0044】
(構成−収容体−蓋部)
蓋部23は、取出口22を封止するためのものである。この蓋部23は、収容体本体21の一部を用いて形成されており、具体的には、収容体本体21における取出口22に対応する部分を所定の加工方法(一例として、ミシン目加工)することにより形成されている。
【0045】
このような収容体20により、蓋部23によって取出口22を閉鎖した状態では、紙製品1の品質を保持しながら収容することができると共に、蓋部23によって取出口22を開放した状態では、紙製品1を取出口22を介して収容体本体21から容易に取り出すことができる。
【0046】
(紙製品の製造方法)
次に、紙製品1の製造方法について説明する。
図2は、実施の形態に係る製造方法の積層工程を示す図である。
図3は、実施の形態に係る製造方法の形成工程及び包装工程を示す図である。実施の形態に係る製造方法は、積層工程、粘度調整工程、塗布工程、形成工程、及び包装工程を含んでいる。
【0047】
(紙製品の製造方法−積層工程)
まず、積層工程について説明する。積層工程は、2つのシート体10を積層状に一体化させる工程である。
【0048】
具体的には、
図2に示すように、まず、作業者が、公知の巻取装置30(いわゆるワインダー)にロール状のシート体11を2つセットする。次に、巻取装置30の図示しない制御部によって、ローラ部31でこれらのシート体11をそれぞれ巻き出しながら重ね合わせ、当該重ね合わせたものをカレンダー部32でカレンダー処理(当該重ね合わせたものに対して圧力を付与することで、当該シート体11の厚さの調整や平滑性の向上を図る処理)を行わせる。そして、上記カレンダー処理が行われたシート体11をロール状に巻き取ることで、ロール状のシート体12を形成する。
【0049】
(紙製品の製造方法−粘度調整工程)
次に、粘度調整工程について説明する。粘度調整工程は、積層工程の後(又は、それよりも前又は同時)に、薬液(保湿系薬液及びセルロースナノファイバーを含む薬液)を攪拌することにより薬液の粘度を調整する工程である。
【0050】
具体的には、公知の攪拌装置を用いて、図示しない容器に収容された薬液を所定の回転数(例えば、10rpmから100rpm)で所定時間攪拌する。
【0051】
このような粘度調整工程により、後述する試験結果に示すように、セルロースナノファイバーのチキソトロピー性(力が加わることで粘度が低下する性質)により薬液の粘度を低下することができ、ユーザのニーズに応じた薬液の粘度に調整することが可能となる。また、比較的簡易な設備を用いて薬液の粘度を容易に調整でき、紙製品1の製造性を維持することが可能となる。
【0052】
(紙製品の製造方法−塗布工程)
次に、塗布工程について説明する。塗布工程は、積層工程及び粘度調整工程の後に、薬液を塗布する工程である。
【0053】
具体的には、まず、作業者が、積層工程で形成されたロール状のシート体12を、巻取装置30から図示しない公知の塗布装置(例えば、グラビア印刷機、オフセット印刷機、スプレー式装置、ローターダンプニング装置等)にセットする。次に、塗布装置の制御部によって、公知の塗布方法(例えば、グラビア印刷方法、オフセット印刷方法、スプレー式方法、ローターダンプニング方法)を用いて、上記ロール状のシート体12を巻き出しながら、塗布部から薬液を塗布させる。より具体的には、上記ロール状のシート体12の1層あたりに塗布される薬液の塗布量が10重量%から30重量%となるように、塗布させる。次いで、上記薬液が塗布されたシート体10をロール状に巻き取ることで上記ロール状のシート体13を形成する。その後、作業者が、上記ロール状のシート体13を上記塗布装置から取り外し、当該シート体13を所定時間放置することにより(例えば、当該シート体13を静置した状態又は移動している状態で放置する)、当該シート体13に薬液を浸透させる。
【0054】
なお、例えば、塗布工程において、後述する塗布装置によって塗布された薬液の残りが再利用される場合には、当該薬液の残りに含まれる紙粉の如き不純物を公知のろ過手段(一例として、メッシュ材)を用いて除去する除去工程を実施してもよい。これにより、塗布工程において再利用された薬液を使用する場合に当該薬液の品質を保持でき、当該薬液の使用量を低減しながら、紙製品1の品質を確保できる。
【0055】
(紙製品の製造方法−形成工程)
次いで、形成工程について説明する。形成工程は、塗布工程の後に、紙製品1を形成する工程である。
【0056】
具体的には、
図3に示すように、まず、作業者が、上記ロール状のシート体13を公知の折り装置40(例えば、ロータリー式インターフォルダ、マルチスタンド式インターフォルダ等)に2つセットする。次に、折り装置40の図示しない制御部によって、折り部41及びローラ部44で、上記ロール状のシート体13をそれぞれ巻き出しながら折り畳ませ(例えば、V字折りやZ字折り等で折り畳む)、その後図示しない切断部で、上記折り畳まれたものを所定のサイズに切断させる。そして、折り部41で、紙製品1を収容体20からポップアップ式に取り出し可能となるように、上記切断したものを掛け合わせながら交互に積層させる。
【0057】
(紙製品の製造方法−包装工程)
続いて、包装工程について説明する。包装工程は、形成工程の後に、形成工程に形成された紙製品1を収容体20に包装する工程である。
【0058】
具体的には、
図3に示すように、まず、折り装置40の制御部によって、搬送部42で形成工程に形成された紙製品1を収容体20の位置まで搬送させる。この場合において、押圧部43で上記紙製品1を押圧させて上記紙製品1の嵩高を低くすることにより、上記紙製品1を収容体20に収容しやすくしてもよい。次いで、包装部(図示省略)で、紙製品1を収容体20に収容させる。
【0059】
以上のような紙製品1の製造方法により、塗布工程において保湿系薬液のみをシート体10に塗布する場合に比べて、薬液の粘度を低くすることができ、薬液をシート体10に対して塗布しやすくなる。よって、製造方法において薬液を加温する作業の手間及びコストを削減でき、紙製品1の製造性を高めることが可能となる。また、塗布工程においてシート体10の1層あたりに塗布される薬液の塗布量を、10重量%から30重量%とするので、保湿性を有するティシュペーパーを確実に製造することができ、当該ティシュペーパーの製造性を高めることが可能となる。
【0060】
(試験結果)
次に、本件出願人が行った各種の試験結果について説明する。以下では、本発明に係る薬液の効果を確認するために行われた第1粘度確認試験、第2粘度確認試験、紙質確認試験、及び官能試験について説明する。
【0061】
(試験結果−第1粘度確認試験の概要)
最初に、第1粘度確認試験の概要について説明する。ここで、「第1粘度確認試験」とは、所定温度時における各種の薬液の粘度を確認する試験である。
【0062】
この第1粘度確認試験の試験方法については、所定の容器に収容された各種の薬液を公知の恒温槽を用いて調整温度(具体的には、3℃、25℃、40℃、60℃)に調整し、公知の粘度計(具体的には、ブルックフィールド粘度計)を用いて当該調整した各種の薬液の粘度を測定することにより、行う。
【0063】
また、第1粘度確認試験に用いられた薬液は、第1薬液〜第5薬液に分けられる。このうち、第1薬液は、実施の形態に係る保湿系薬液(具体的には、ネオソフターMKN−3Yからなる保湿系薬液)である。また、第2薬液は、上記実施の形態に係る保湿系薬液と実施の形態に係るセルロースナノファイバーとを含むものであって、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.03%になるように配合されたものである。また、第3薬液は、上記実施の形態に係る保湿系薬液と上記実施の形態に係るセルロースナノファイバーとを含むものであって、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.06%になるように配合されたものである。また、第4薬液は、上記実施の形態に係る保湿系薬液と上記実施の形態に係るセルロースナノファイバーとを含むものであって、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.15%になるように配合されたものである。また、第5薬液は、上記実施の形態に係る保湿系薬液と上記実施の形態に係るセルロースナノファイバーとを含むものであって、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.30%になるように配合されたものである。
【0064】
(試験結果−第1粘度確認試験の試験結果)
次に、第1粘度確認試験の試験結果について説明する。
図4は、第1粘度確認試験の試験結果を示す図である。
【0065】
図4に示すように、第1薬液〜第5薬液の粘度は、温度が高くなるについて低くなった。また、調整温度=3℃時の第2薬液〜第5薬液の粘度は、調整温度=3℃時の第1薬液の粘度に比べて低くかった。特に、調整温度=3℃時の第4薬液、第5薬液の粘度は、調整温度=3℃時の第1薬液の粘度の1/4程度になった。
【0066】
この
図4に示す試験結果より、実施の形態に係る薬液の温度が比較的低温であっても、当該薬液の粘度を低くできることが確認できた。また、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率を高めることで、当該薬液の粘度を低くできることも確認できた。
【0067】
(試験結果−第2粘度確認試験の概要)
次に、第2粘度確認試験の概要について説明する。ここで、「第2粘度確認試験」とは、所定回転数で攪拌した際における各種の薬液の粘度を確認する試験である。
【0068】
この第2粘度確認試験の試験方法については、公知の恒温槽を用いて所定温度(具体的には、25℃)に調整した各種の薬液を公知の攪拌装置を用いて所定の回転数(具体的には、10rpm、30rpm、50rpm、100rpm)で攪拌し、公知の粘度計(具体的には、B型粘度計)を用いて当該攪拌した各種の薬液の粘度を測定することにより、行う。
【0069】
また、第2粘度確認試験に用いられた薬液は、第1粘度確認試験の第2薬液及び第3薬液と、第6薬液に分けられる。このうち、第6薬液は、上記実施の形態に係る保湿系薬液と実施の形態に係るセルロースナノファイバーとを含むものであって、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.12%になるように配合されたものである。
【0070】
(試験結果−第2粘度確認試験の試験結果)
次に、第2粘度確認試験の試験結果について説明する。
図5は、第2粘度確認試験の試験結果を示す図である。
【0071】
図5に示すように、第2薬液、第3薬液、第6薬液の粘度は、攪拌装置の回転数が多くなるについて低くなった。また、第2薬液、第3薬液、第6薬液の粘度は、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が高くなるにつれて高くなった。
【0072】
この
図5に示す試験結果より、実施の形態に係る薬液を攪拌することにより、当該薬液の粘度を低くできることが確認できた。また、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率を高めることで、実施の形態に係る薬液の粘度が高くなることも確認できた。
【0073】
(試験結果−紙質確認試験の概要)
次に、紙質確認試験の概要について説明する。ここで、「紙質確認試験」とは、各種の試験体の紙質を定量的に確認する試験である。
【0074】
この紙質確認試験の試験方法については、公知の摩擦測定器具を用いて、各種の試験体の摩擦係数(具体的には、流れ方向(長軸方向)の摩擦係数及び幅方向(短軸方向)の摩擦係数)を複数回測定すると共に、公知のソフトネス測定器具を用いて、各種の試験体のソフトネス(具体的には、縦方向(長軸方向)のソフトネス及び横方向(短軸方向)のソフトネス)を測定することにより、行う。
【0075】
また、紙質確認試験に用いられた試験体は、第1紙質試験体〜第3紙質試験体に分けられる。このうち、第1紙質試験体は、実施の形態に係るシート体10(坪量13.5g/m
2)に対して実施の形態に係る薬液が塗布されていないものである。また、第2紙質試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る保湿系薬液が塗布量=2.0g/m
2塗布されたものである。また、第3紙質試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液(具体的には、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率=0.03%である薬液)が塗布量=2.0g/m
2塗布されたものである。
【0076】
(試験結果−紙質確認試験の試験結果)
次に、紙質確認試験の試験結果について説明する。
図6は、紙質確認試験の試験結果を示す図である。
【0077】
図6に示すように、第3紙質試験体の平均摩擦係数は、第1紙質試験体及び第2紙質試験体の平均摩擦係数に比べて高かった。また、第3紙質試験体の摩擦係数の平均偏差は、第1紙質試験体の摩擦係数の平均偏差と同程度であったものの、第2紙質試験体の摩擦係数の平均偏差と比べて低かった。また、第3紙質試験体のソフトネスは、第1紙質試験体及び第2紙質試験体のソフトネスに比べて低くかった。
【0078】
この
図6に示す試験結果より、実施の形態に係る薬液を用いることで紙製品1のソフトネスを高められることが確認できた。
【0079】
(試験結果−官能試験の概要)
続いて、官能試験の概要について説明する。ここで、「官能試験」とは、人の感覚で各種の試験体の紙質を確認する試験である。
【0080】
この官能試験の試験方法については、人が各種の試験体を握った際の柔らかさを所定の評価項目(具体的には、「柔らかい」、「やや柔らかい」、「普通」、「やや硬い」、及び「硬い」)に基づいて評価することにより、行う。
【0081】
また、官能試験に用いられた試験体は、第1官能試験体〜第7官能試験体に分けられる。このうち、第1官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液が塗布されていないものである。また、第2官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液(具体的には、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率=0.06%である薬液)が塗布されたものである。また、第3官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液(具体的には、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率=0.15%である薬液)が塗布されたものである。また、第4官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液(具体的には、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率=0.24%である薬液)が塗布されたものである。また、第5官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る薬液(具体的には、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率=0.30%である薬液)が塗布されたものである。また、第6官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る保湿系薬液が塗布されたものであって、保湿系薬液の塗布量が比較的高いものである。また、第7官能試験体は、実施の形態に係るシート体10に対して実施の形態に係る保湿系薬液が塗布されたものであって、保湿系薬液の塗布量が比較的低いものである。
【0082】
(試験結果−官能試験の試験結果)
次に、官能試験の試験結果について説明する。
図7は、官能試験の試験結果を示す図である。
【0083】
図7に示すように、第2官能試験体及び第3官能試験体の評価(具体的には、柔らかさの評価)は、第6官能試験体の評価に比べて低い評価となったものの、第1官能試験体に比べて高い評価となった。また、第2官能試験体の評価は、第3官能試験体の評価よりも高かった。一方、第4官能試験体及び第5官能試験体の評価は、第2官能試験体及び第3官能試験体の評価に比べて低い評価となると共に、第1官能試験体の評価とほぼ同じ評価となった。
【0084】
この
図7に示す試験結果より、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率を0.15%以下にすることにより、紙製品1のソフトネスを確保できることが確認でき、特に上記含有率を0.06%以下にすることの有効性が確認できた。
【0085】
また、第1粘度確認試験、紙質確認試験、及び官能試験の試験結果から、薬液が保湿系薬液及びセルロースナノファイバーを含むことの有効性が確認できると共に、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率を0.03%以上0.15%以下にすることの有効性が確認できた。また、第2粘度確認試験の試験結果から、粘度調整工程を行うことの有効性が確認できた。
【0086】
(効果)
このように実施の形態によれば、薬液をシート体10に対して塗布する塗布工程を含み、薬液は、保湿性を有する保湿系薬液と、セルロースナノファイバーとを含むので、塗布工程において保湿系薬液のみをシート体10に塗布する場合に比べて、薬液の粘度を低くすることができ、薬液をシート体10に対して塗布しやすくなる。よって、製造方法において薬液を加温する作業の手間及びコストを削減でき、紙製品1の製造性を高めることが可能となる。
【0087】
また、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率は、0.03%以上0.15%以下であるので、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.15%を上回る場合に比べて、薬液の粘度を低くしながら、紙製品1を比較的柔らかく形成でき、紙製品1の製造性を維持しながら、紙製品1の柔軟性を高めることができる。
【0088】
また、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率は、0.06%以下であるので、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.06%を上回る場合に比べて、セルロースナノファイバーの添加量を低減しながら、薬液の粘度を低くし、且つ紙製品1を比較的柔らかく形成でき、紙製品1の製造性を一層高めることができる。
【0089】
また、セルロースナノファイバーを、柑橘外皮で形成したので、セルロースナノファイバーを比較的安価に製造でき、紙製品1の製造コストを低減できる。また、保湿系薬液の品質を阻害するような化学反応が生じることを回避でき、薬液の品質を保持しやすくなる。
【0090】
また、塗布工程の前に行われる粘度調整工程であって、薬液を攪拌することにより薬液の粘度を調整する粘度調整工程をさらに含むので、セルロースナノファイバーのチキソトロピー性により薬液の粘度を低下することができ、ユーザのニーズに応じた薬液の粘度に調整することが可能となる。また、比較的簡易な設備を用いて薬液の粘度を容易に調整でき、紙製品1の製造性を維持することが可能となる。
【0091】
また、紙製品1は、シート体10を複数積層してなるティシュペーパーであり、塗布工程においてシート体10の1層あたりに塗布される薬液の塗布量を、10重量%から30重量%としたので、保湿性を有するティシュペーパーを確実に製造することができ、当該ティシュペーパーの製造性を高めることが可能となる。
【0092】
〔III〕実施の形態に対する変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0093】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0094】
(形状、数値、構造、時系列について)
実施の形態や図面において例示した構成要素に関して、形状、数値、又は複数の構成要素の構造若しくは時系列の相互関係については、本発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。
【0095】
(紙製品について)
上記実施の形態では、紙製品1が、シート体10を2つ積層してなるティシュペーパーであると説明したが、これに限らない。例えば、1層のみのシート体10からなるティシュペーパーであってもよく、あるいは、シート体10を3つ以上積層してなるティシュペーパーであってもよい。なお、紙製品1が、1層のみのシート体10からなるティシュペーパーである場合には、製造方法の積層工程を省略できる。
【0096】
また、上記実施の形態では、紙製品1が、収容体20の内部において上下方向に積層状に複数配置された状態で収容されていると説明したが、これに限らない。例えば、前後方向又は左右方向に積層状に複数配置された状態で収容されてもよい。あるいは、非積層状に複数配置された状態で収容されてもよく、又は1つのみ収容されてもよい。
【0097】
(保湿系薬液について)
上記実施の形態では、保湿系薬液が、多価アルコール及び水等を含んで構成されていると説明したが、これに限らない。例えば、上記構成要素に加えて、公知の柔軟剤(一例として、カチオン系ポリエチレンエマルジョンを含む柔軟剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性イオン界面活性剤)を含むことにより、いわゆる「保湿柔軟系薬液」として構成されてもよい。あるいは、上記構成要素に加えて、公知の助剤を含んで構成されてもよい。ここで、「助剤」の具体的な種類については任意であるが、例えば、紙製品1中の水分の保持性を高めるための助剤(一例として糖類、グリコール系薬剤及びその誘導体、親水性高分子、高分子保水剤、アミノ酸等)、滑らかさの発現を補助する補助剤(一例として、流動パラフィンや高級アルコールなどの油性成分等)、又は、保湿系薬液の安定化、塗布性を向上させるための助剤(一例として、乳化剤、防腐剤、消泡剤等)であってもよい。
【0098】
(製造方法について)
上記実施の形態では、製造方法の各工程の作業の一部が、巻取装置30、塗布装置、及び折り装置40を用いて行われると説明したが、これに限らず、例えば、人によって行われてもよい。
【0099】
また、上記実施の形態では、製造方法が、粘度調整工程を含むと説明したが、これに限らず、例えば、粘度調整工程を省略してもよい。
【0100】
また、上記実施の形態では、塗布工程が、形成工程よりも前に行われると説明したが、これに限らない。例えば、形成工程と同時に行われてもよい。一例として、まず、作業者が、上記カレンダー処理が行われたシート体10を、巻取装置30から折り装置40にセットする。次に、折り装置40の制御部によって、折り部41で上記薬液が塗布されたロール状のシート体10をそれぞれ巻き出しながら折り畳ませる。次に、折り装置40に設けられた塗布部で、当該上記折り畳まれたものに対して薬液を塗布させ、その後切断部で上記薬液が塗布されたものを所定のサイズに切断させる。そして、折り部41で上記切断したものを掛け合わせながら交互に積層させる。
【0101】
(付記)
付記1の紙製品の製造方法は、少なくとも1つ以上の紙製のシート体からなる紙製品を製造する製造方法であって、薬液を前記シート体に対して塗布する塗布工程を含み、前記薬液は、保湿性を有する保湿系薬液と、セルロースナノファイバーとを含む。
【0102】
付記2の紙製品の製造方法は、付記1に記載の紙製品の製造方法において、前記保湿系薬液に対する前記セルロースナノファイバーの含有率は、0.03%以上0.15%以下である。
【0103】
付記3の紙製品の製造方法は、付記2に記載の紙製品の製造方法において、前記保湿系薬液に対する前記セルロースナノファイバーの含有率は、0.06%以下である。
【0104】
付記4の紙製品の製造方法は、付記1から3のいずれか一項に記載の紙製品の製造方法において、前記セルロースナノファイバーを、柑橘外皮で形成した。
【0105】
付記5の紙製品の製造方法は、付記1から4のいずれか一項に記載の紙製品の製造方法において、前記塗布工程の前に行われる粘度調整工程であって、前記薬液を攪拌することにより前記薬液の粘度を調整する粘度調整工程をさらに含む。
【0106】
付記6の紙製品の製造方法は、付記1から5のいずれか一項に記載の紙製品の製造方法において、前記紙製品は、前記シート体を複数積層してなるティシュペーパーであり、前記塗布工程において前記シート体1層あたりに塗布される前記薬液の塗布量を、10重量%から30重量%とした。
【0107】
付記7の紙製品は、付記1から6のいずれか一項に記載した製造方法を用いて製造された紙製品である。
【0108】
(付記の効果)
付記1に記載の紙製品の製造方法、及び付記7に記載の紙製品によれば、薬液をシート体に対して塗布する塗布工程を含み、薬液は、保湿性を有する保湿系薬液と、セルロースナノファイバーとを含むので、塗布工程において保湿系薬液のみをシート体に塗布する場合に比べて、薬液の粘度を低くすることができ、薬液をシート体に対して塗布しやすくなる。よって、製造方法において薬液を加温する作業の手間及びコストを削減でき、紙製品の製造性を高めることが可能となる。
【0109】
付記2に記載の紙製品の製造方法によれば、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率は、0.03%以上0.15%以下であるので、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.15%を上回る場合に比べて、薬液の粘度を低くしながら、紙製品を比較的柔らかく形成でき、紙製品の製造性を維持しながら、紙製品の柔軟性を高めることができる。
【0110】
付記3に記載の紙製品の製造方法によれば、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率は、0.06%以下であるので、保湿系薬液に対するセルロースナノファイバーの含有率が0.06%を上回る場合に比べて、セルロースナノファイバーの添加量を低減しながら、薬液の粘度を低くし、且つ紙製品を比較的柔らかく形成でき、紙製品の製造性を一層高めることができる。
【0111】
付記4に記載の紙製品の製造方法によれば、セルロースナノファイバーを、柑橘外皮で形成したので、セルロースナノファイバーを比較的安価に製造でき、紙製品の製造コストを低減できる。また、保湿系薬液の品質を阻害するような化学反応が生じることを回避でき、薬液の品質を保持しやすくなる。
【0112】
付記5に記載の紙製品の製造方法によれば、塗布工程の前に行われる粘度調整工程であって、薬液を攪拌することにより薬液の粘度を調整する粘度調整工程をさらに含むので、セルロースナノファイバーのチキソトロピー性(力が加わることで粘度が低下する性質)により薬液の粘度を低下することができ、ユーザのニーズに応じた薬液の粘度に調整することが可能となる。また、比較的簡易な設備を用いて薬液の粘度を容易に調整でき、紙製品の製造性を維持することが可能となる。
【0113】
付記6に記載の紙製品の製造方法によれば、紙製品は、シート体を複数積層してなるティシュペーパーであり、塗布工程においてシート体1層あたりに塗布される薬液の塗布量を、10重量%から30重量%としたので、保湿性を有するティシュペーパーを確実に製造することができ、当該ティシュペーパーの製造性を高めることが可能となる。