【解決手段】車両デザイン支援システム1は、コンピューター50、VRヘッドセット10及び操作入力部120を備えている。コンピューターは、内装データ記録部、画像調節部及び画像レンダリング部を備えている。内装データ記録部は、車両内装の構造データと属性候補データとを格納する。オペレーター2は、VRヘッドセットのディスプレイ102の表示を見つつ車両内装の少なくとも一部の属性を操作入力部120で選択又は調節する。画像調節部が操作入力に応じて属性候補データを選択または調節して属性データを生成し、画像レンダリング部が構造データと属性データとから、操作入力の指示内容に対応して内装画像を生成する。その内装画像がディスプレイに出力される。
仮想空間において車両内装の構造を決定するための構造データと前記車両内装の少なくとも一部についての属性を選択または調節するための属性候補データとを格納する内装データ記録部と、
前記オペレーターが頭部に装着する少なくとも一つの仮想現実(VR)ヘッドセットであって、オペレーターの頭部の姿勢を検出しうる姿勢センサーと提示画像を表示しうるディスプレイとを備えるVRヘッドセットと、
前記車両内装の前記少なくとも一部についての前記属性の選択または調節のための操作入力を前記オペレーターから受け付ける少なくとも一つの操作入力部と、
前記操作入力部が受け付けた前記操作入力の指示内容に応じて前記車両内装の少なくとも一部についての属性のための前記属性候補データを選択または調節して属性データを生成する画像調節部と、
前記内装データ記録部から呼び出した前記構造データと前記画像調節部からの前記属性データとから、前記操作入力の前記指示内容に対応し前記オペレーターの頭部の前記仮想空間における方向に対応した内装画像を生成し、前記提示画像のための画像信号として出力する画像レンダリング部と
を備える車両デザイン支援システム。
仮想空間において車両内装の構造を決定するための構造データと前記車両内装の少なくとも一部についての属性を決定するための属性データとを格納する内装データ記録部と、
前記オペレーターが頭部に装着する少なくとも一つの仮想現実(VR)ヘッドセットであって、オペレーターの頭部の姿勢を検出しうる姿勢センサーと提示画像を表示しうるディスプレイと前記オペレーターの少なくとも1つの眼球による視線を特定しうるアイトラッキング信号を出力するアイトラッキング検出部とを備えるVRヘッドセットと、
前記構造データと前記アイトラッキング信号とから、前記視線が前記構造と交わる前記仮想空間での位置を注視点として決定し注視点位置データとして出力する注視点判定部と、
前記注視点位置データを格納する注視点位置記録部と、
前記内装データ記録部から呼び出した前記構造データと前記属性データとから、前記オペレーターの頭部の前記仮想空間における方向に対応した内装画像を生成し、当該内装画像の画像信号を生成する画像レンダリング部と
を備える車両デザイン支援システム。
前記画像レンダリング部が、前記注視点位置記録部から呼び出した前記注視点位置データから、ヒートマップ画像、ゲイズ・トレース画像、ゲイズ・クラスター画像からなる可視化画像群より選ばれる少なくともいずれかを生成し、前記内装画像に重ねて表示する画像信号を生成するものである
請求項4または請求項5に記載の車両デザイン支援システム。
前記注視点位置記録部から前記注視点位置データを呼び出して、車両内装の構造の特徴ポイント別または前記仮想空間を区切ったエリア別に前記注視点位置データが示す注視点の頻度または時間を集計する注視点集計部
をさらに備える
請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の車両デザイン支援システム。
前記ユーザーが使用するコンピューター機器が、前記一のオペレーターが使用するコンピューター機器をサーバー装置とするときのクライアント端末となってネットワークを通じて通信可能であり、
前記ユーザーを識別するためのユーザーIDが前記ネットワークを通じて前記セッションの確立のために使用される
請求項15に記載の車両デザイン支援システム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面を参照し、本開示に係る車両デザイン支援システムの実施形態を説明する。全図を通じ当該説明に際し特に言及がない限り、共通する部分または要素には共通する参照符号が付される。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0016】
図1は車両デザイン支援システム1のハードウエア構成を例示する説明図であり、
図2は車両デザイン支援システムによって提示される表示内容を示す画像表示例である。
図1のVRヘッドセット10を頭部22に装着したオペレーター2は、
図2の仮想空間の風景を視認する。VRヘッドセット10のディスプレイ102は、オペレーター2の視野の全部または一部の範囲を覆う表示領域をもつ。姿勢センサー移動子104は、必要に応じて姿勢センサー固定子106の助けを借りてVRヘッドセット10の姿勢つまりオペレーター2の頭部22の姿勢を検出するために利用される。コントローラー(操作入力部)120は、オペレーター2が手に持って入力操作可能な、VR技術において利用されるコントローラーである。生体状態センサー(生体状態検知装置)140は、心拍、皮膚電位その他のオペレーター2の生体信号(生体バイタル信号)を取得することができる。なお、車両の運転操作を模擬する装置(アクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドル、シフトレバーなど)を任意選択として採用することもできる。コンピューター50は、適当なOS、記憶装置、演算装置、グラフィック装置を備えており、VRヘッドセット10、コントローラー120、生体状態センサー140と直接または間接的に接続されている。その接続は有線または無線など任意の通信手段のものを含む。
【0017】
図2の提示画像542は、ディスプレイ102によりオペレーター2に向けて表示されるものであり、内装画像302と背景画像402とを含んでいる。これらの画像は、ディスプレイ102に表示されることによって視覚情報を提供する画像を一般に指しており、静止画、動画の双方を含む。表示される画像は、オペレーター2が頭部22を固定していて、内装画像302と背景画像402がともに時間的な変化を示さなければ静止画となる。内装画像302や背景画像402が時間的な変化を示したり、頭部22の姿勢が動いたりした場合には、それに応じた動画が表示される。頭部22の姿勢が変化すると、姿勢センサー移動子104、姿勢センサー固定子106がその現実空間での姿勢の動きを検出し、ディスプレイ102に表示する提示画像542の方向や傾きがその動きに追随する。姿勢センサー移動子104の例は、例えばジャイロスコープなどの角速度センサーである。
図2には、提示画像542の表示範囲の例を例示しており、オペレーター2が顎を上げる場合のシフト方向U、顎を下げる場合のシフト方向D、左および右に頭を向ける場合のシフト方向LおよびRも示している。頭部22の傾斜による回転には、提示画像542の表示範囲を回転させる。結果、オペレーター2の視界は、あたかも仮想空間中に自身を置いているかのようなものとなる。例えば、オペレーター2がハンドルを正面にしたドライバーズシートに着座した位置から大きく右方向を向く場合、内装画像302は助手席や右側ドア内装を含んでおり、背景画像402は右側サイドウインドウ(側方窓)を通した車両外部の風景画像を含んでいることとなる。このように、オペレーター2は、あたかも車内で着座しているかのような視界を見ることとなる。ディスプレイ102は、必要に応じて左右の眼による立体視のために、仮想空間での方向をずらした各画像を両眼に別々に提示してもよい。
【0018】
図2の車両内装300は、デザイン作業の主要な対象物である。このため、シート、ハンドル、メータークラスターパネル、センターコンソール、ウインドシールドなどの窓、モール、ハンドル、シフトレバー、付属品(フロアマットなど)が視界に応じて表示される。
【0019】
車両内装300は、構造データと属性データを組み合わせて仮想空間内に3次元オブジェクトとして再現されうる。その際、属性として指定される表面の色、質感、表面反射特性なども再現される。なお、属性とはデザイン作業において選択または調節を受ける対象となる性質である。このため、形状変更を伴うデザイン変更がデザイン作業の目的である場合には、形状を特定するための構造も属性の一つの典型例となりうる。また、表示装置領域310のグラフィック表示の内容や、明度、車内照明の照明デザインにおける光色や光度、これらの時間的変化といった性質も本願における属性の別の典型例である。
【0020】
コントローラー(操作入力部)120は、オペレーター2が例えば手に保持しており、ディスプレイ102を装着した状態でもオペレーター2が手の届く範囲で操作可能な機器である。コントローラー120からの信号は、必要に応じて信号処理部122でコンピューター50への入力に適する信号に変換等される。オペレーター2は、コントローラー120を操作することにより、車両内装300の少なくとも一部の属性を変更するために、候補となるいくつかの選択肢から選択したり、連続的に変化させられるパラメータなどを調節したりすることができる。必要に応じてディスプレイ102にはコントローラーによる選択を補助するためのメニューが表示される(図示しない)。
【0021】
背景400は、車両が置かれた環境であると搭乗者が認識する風景となるものを一般にさしており、背景画像402はそれを画像化したものである。背景400は、例えば車両が存在する現実空間であり、そのための背景画像402は、典型的には現実空間で撮影された画像(すなわち静止画または動画)である。これ以外にも背景400を3次元オブジェクトが配置された仮想空間とすることもできる。背景画像402は、典型的には周囲全方向(全天球)を撮影可能なカメラ(図示しない)により予め撮影され蓄積されている映像を仮想空間に対応させたものとすることができる。
図2の例示では高速道路上の風景をそのようなカメラで撮影したものを利用している。なお、用途によっては、背景画像402は必ずしも奥行き情報や3次元的な形状情報を持たない2次元画像としてもよく、仮想空間で有限の半径を持つ球の内面(例えば、おおむね半天を覆う半天球)と地面を表す底面にマップされていてもよい。背景画像402のために適する画像は、車両の運転を想定しうる任意の風景画像であるため、デザイン作業の目的に合せて取得し選択される。人為的に準備する合成画像やコンピューター生成画像が適する画像であることもありうる。
【0022】
背景画像402は、車両内装300の画像である内装画像302に、例えばZバッファリングなどの手法で合成される。その合成処理により、車両内装300のうち車外が見える位置や、車外が素通しで観察される位置に合せて背景画像402が描画される。ここで、車外が見える位置とは、ウインドシールドやサイドウインドウ、リアウインドウ、グラスサンルーフ(「窓」)などの光透過性物質(以下単に「ガラス」と呼ぶ)が配置された位置が典型である。また、車外が素通しで観察される位置は、ドアを開放した際のドアオープニング部分、オープンカーの場合の頭部周囲などが典型である。なお、本実施形態では窓部分も車両内装300の部分と取り扱うことがある。ガラスを通じて背景400を観察する際に、車両内装300の一部となるように設けられる光源(例えば車内灯や表示装置)からの光がガラス表面の反射のために像となって視認される写り込みが問題となる場合がある。窓部分を車両内装300の部分として扱えば、写り込みも考慮した上でそういった光源も車両内装のデザイン対象とすることができる。
【0023】
図2において、オペレーター2には、ドライバーズシートに着座した状態のときは左シートを中心にした視点を持つように、また助手席に着座した状態のときは右シートを中心にした視点を持つように、提示画像542が表示される。後席などその他の席に着座したり、車内空間にて何らかの体勢をとったりしている状態でのオペレーター2はそれらの視点を持つように提示画像542が表示される。これらの視点切替えは、姿勢センサー移動子104や姿勢センサー固定子106によるVRヘッドセット10の位置に応じて切替えることもでき、また仮想空間内での視点位置を意図的に変更するには、現実空間と仮想空間の間での対応させる座標をずらす手段により容易に変更することができる。
【0024】
図3は、車両デザイン支援システム1の機能を示すブロック図である。コンピューター50には、CPU、グラフィックボード、メインメモリー(主記憶装置)、ストレージ(補助記憶装置)、入出力、その他の装置が備わっており、適切なインターフェースを通じて、VRヘッドセット10、コントローラー120が接続されている。車両デザイン支援システム1を構成するコンピューター50には、内装データ記録部510、環境データ記録部520、画像調節部530、画像レンダリング部540が備わっている。
【0025】
内装データ記録部510は、内装画像302(
図2)の元となる車両内装300の構造を決定するための構造データ512と、その車両内装300の少なくとも一部についての属性を選択または調節するための属性候補データ514とを含んでいる。環境データ記録部520には、背景画像402(
図2)のための背景データ522が含まれている。背景データ522は背景画像402を生成しうる任意のデータであり、典型的には、半天球または全天球撮影された画像データである。コントローラー120は、オペレーター2から車両内装300の関心のある属性を選択したり調節したりするための操作入力を受け付ける。
【0026】
画像調節部530は、コントローラー120、信号処理部122を通じてオペレーター2から受け付けた操作入力に応じて属性候補データ514を選択または調節し、属性データ516を生成する。
【0027】
画像レンダリング部540は、構造データ512と属性データ516とから、車両内装300を表す内装画像302を生成する。また、画像レンダリング部540は、環境データ記録部520から背景データ522を呼び出すことにより、背景データ522による背景画像402を内装画像302に合成してディスプレイ102に表示するための提示画像542を生成することができる。属性候補データ514から画像調節部530が属性データ516を生成する処理や、画像レンダリング部540が対応する提示画像542を生成する処理は、極めて迅速に行うことができる。このためオペレーター2は自らの選択や調整の結果を現実感の高い表示で瞬時に切替えながら確認することができる。このような切り替えでの対比は、現実感の高い視覚表現を仮想空間で行いうる車両デザイン支援システム1の利点を生かしたものである。このように車両デザイン支援システム1を利用すれば本実施形態のデザイン作業の効率を大幅に高めることができる。
【0028】
この動作のために、車両デザイン支援システム1のためのソフトウエアは、コンピューター50が備えるハードウエア資源を活用して、内装データ記録部510、環境データ記録部520、画像調節部530、画像レンダリング部540としての機能を果たす。特に、画像レンダリング部540で提示画像542を生成させるためのデータフォーマット変換のための処理モジュールを予め準備しておけば、車両デザイン支援システム1の動作には特段の負担は生じない。そのような処理モジュールでは、例えば属性候補データ514を選択または調節するオペレーター2の作業を補助するためのインターフェースに対し、その結果得られる属性データ516と構造データ512とを組み合わせて関連付けすることにより、提示画像542のためのデータが生成される。
【0029】
本実施形態の車両デザイン支援システム1は、複数のオペレーターにより同時に使用することを想定した車両デザイン支援システム1Mとしても実施することができる。
図4は車両デザイン支援システム1Mの構成を示す説明図である。車両デザイン支援システム1Mは、各オペレーターに対応させてVRヘッドセット10、ディスプレイ102、コンピューター50がセットとなって備わっており、必要な人数分だけそのセットが接続されている。各セットはスタンドアローンでも動作可能である。他方、複数のオペレーターによる協働作業を支援する場合、車両デザイン支援システム1Mでは、例えば、上述した内装データ記録部510、環境データ記録部520を各コンピューター50と通信可能なデータサーバー50Sに保存しておいて、画像調節部530、画像レンダリング部540は各コンピューター50にて分散させる、といった実装を行うことができる。これにより、各オペレーターの頭部が別々の姿勢をとっているときにも適切な提示画像を各オペレーターに示しつつ、共通したモデルを対象としてデザイン検討を行うことができる。さらに、コントローラー120による操作入力は各オペレーターが各自で行ってもよく、また、いずれかのオペレーターによる操作入力に従った提示画像を他のオペレーターに提示することもできる。特に複数のオペレーターによる協働作業を行う場合には、あるオペレーターが他のオペレーターに説明を行うために注目すべき部分を特定して示したり、強調したり、といった作業を行う場合がある。そのような目的のためには、仮想空間内でのライティングにおいて、ポインターやフラッシュライト(懐中電灯)に対応する局所照明を、指示するオペレーターが操作できるようにすることも好ましい。例えば、オペレーター2が持つコントローラー120には、ポインターのように方向を検出する機能を持たせることができる。このように、車両デザイン支援システム1、1Mでは任意の位置を指し示す機能や、局所照明の操作機能を実装することが好ましい。
図4には、他のデータである注視点位置記録部560、注視点位置のデータ562、被験者情報記録部590、生体情報データ592も記載している。これらについて後述する実施形態の内容も、複数のオペレーターにより同時に動作させる車両デザイン支援システム1Mを実施するために採用することができる。
【0030】
本実施形態の車両デザイン支援システムは、本発明者が遠隔地ネットワーク機能と呼ぶ、地理的に離れた複数のオペータの協働作業を支援するために採用することができる。
図5は、複数のオペレーターがネットワーク経由で協働作業する状況での本実施形態の車両デザイン支援システム1Nの一例の構成を示す説明図であり、
図6A、6Bは、複数のオペレーターが協働作業している状況での、各オペレーターのVRヘッドセット10に提示される画面の表示例である。車両デザイン支援システム1Nは、パーソナルコンピュータ(PC)などのコンピューター機器のプログラムとして実装して機能させるために、各オペレーターは、自らのPCに実現するための実行プログラムを作動させる。従って、各PC50A〜50Cは、ネットワーク68を通じて車両デザイン支援システム1Nの一部となる。具体的には、オペレーターAは、自ら操作するPC50Aにおいて演算装置における実行プログラムであってよいサーバー実行部60を作動させる。同様に、オペレーターB、Cは、自ら操作するPC50B、50Cにおいて演算装置における実行プログラムであってよいクライアント実行部66を作動させる。各オペレーターのPC50A〜50Cは、例えばインターネット等の公開回線や、専用回線を通じて、互いに適切なプロトコル(例えばTCP−IP)により相互に通信可能である。
【0031】
クライアント実行部66は、オペレーターA〜Cが使用するPC50A〜50Cを、デザインレビューネットワークコミュニティによる特定のデザインレビューセッション(以下「セッション」と呼ぶ)におけるクライアント端末として動作させる。これに対し、サーバー実行部60は、オペレーターAが使用するPC50Aをセッションにおけるサーバー装置として動作させる。サーバー装置としての機能は、アカウント管理部602とセッション管理部604を実装することにより実現される。サーバー実行部60は、典型的にはサーバー実行プログラムの機能として実装され、アカウント管理部602、セッション管理部604はその機能として実装される。オペレーターAが管理者として車両デザイン支援システム1Nの機能を設定するためにサーバー実行部60を実行させる。
【0032】
アカウント管理部602は、車両デザイン支援システム1Nの必要な資源にアクセスしうるユーザーのアカウントを管理する機能を実装している。アカウント管理部602は、例えば、車両デザイン支援システム1Nの当該資源は、典型的には車両デザイン支援システム1Nに用いられる機能とデータファイルとであり、アカウントを管理する機能は、これら資源についての使用権限やアクセス権の設定(パーミッション)を含みうる。パーミッションテーブル(図示しない)はユーザーのアカウントごとに各資源のパーミッションのレベルを記録したものであり、アカウント管理部602はそのパーミッションテーブルを参照して、例えばログインするオペレーターが車両デザイン支援システム1Nにアカウントをもつユーザーであるかを判定する。具体的には、クライアント端末として機能する自らのPC50B、Cを操作するオペレーターB、Cは自らのアカウントでパスワード認証等の手段によりログインし、さらに、予め設定された機能やファイルのパーミッションにより許容された範囲の資源にアクセスすることができる。ファイルは、例えばデータサーバー50Sに格納されている。アカウント管理部602は、パーミッションテーブルを参照して、このようなログイン管理や、機能およびデータファイルについてのパーミッション管理を実行する。例えば、オペレーターA〜Cには、固有のユーザーIDが与えられ、ユーザーIDごとに、機能およびデータファイルについてのパーミッションがパーミッションテーブルにて管理される。
【0033】
セッション管理部604は、セッションにユーザーが参加するかどうかを制御する。セッションごとにどのユーザーが参加するかを記録しているリストであるセッションテーブル(図示しない)を参照することにより、セッション管理部604は、クライアント実行部66からの接続リクエストや、その後の通信において、正当な接続であるかを判定してセッションへの参加を制御する。こうしてオペレーターA〜Cはセッションにおける正当なユーザーであるときには、あらかじめメンバーが決定されたデザインレビューネットワークコミュニティによるセッションに参加できる。
【0034】
アカウント管理部602、セッション管理部604が実行するユーザーの識別は、典型的には、アカウントに対応させたユーザーIDにより行なわれ、セキュリティーのためにパスワードなど当業者に利用されるセキュリティー手段も併せて採用される。
【0035】
コンピューター50A〜50C、データサーバー50Sには、オペレーターA〜Cが車両デザイン支援システム1Nの機能やファイルについての設定を管理する機能を実装することができる。この機能やファイルについての設定には、例えば、協働作業において他者から自己を区別するための色やアバターが含まれている。色やアバターは、必要に応じてユーザーIDと対応付けて適切な状況で表示に利用される。これにより、オペレーターA〜CはVRヘッドセット10を装着して、例えばユーザーIDにより他者の仮想空間における活動を視認可能となる。例えば、オペレーターA〜Cが装着する各自のVRヘッドセット10のディスプレイ102には、自己および他のオペレーターの持つポインターやフラッシュライトの表示やそれによる指示先を、色による区別に加え、誰がその表示を制御しているかを理解可能な状態で区別して視認することができる。
図6AおよびBは、それぞれ、オペレーターAとオペレーターBのディスプレイ102に提示される画像例であり、オペレーターAが「Server」と、オペレーターBが「Client 01」とユーザーIDにより区別されている。両オペレーターは、グラフィクス表現されたコントローラーから発する異なる色のレーザーポインター表示により自らの指示先を照明している。このため、オペレーターAは、「Client 01」とのラベル付されたポインターがオペレーターBによるものと理解する。逆も同様である。オペレーターAが見る画面は
図6Aであり、オペレーターBが見る画面が
図6Bである。なお、
図6AおよびBにおけるColor A, Color Bは、互いに区別しうる表示色であり、これを手掛かりに他者の指示先を容易に特定することもできる。アバターを採用する場合には、ポインター付近にオペレーターを特定できるグラフィクスマークによるアバター表示を添えて表示することが有用である。オペレーターAは、
図6Aの他者のレーザーポインターに「Client 01」と付されていることをみて、自分以外の参加者がオペレーターBであることを認識しうる。オペレーターBも
図6Bを見て同様に認識しうる。
図6A、Bともに、2人のオペレーターが同時に運転席に着座した状態での画面であるが、仮想空間を利用したデザインレビューでは、現実には同時には実現し得ない視点設定も設定することができる。
【0036】
デザインプロセスデータが高い秘匿性で管理されるべき点や、同種のシステムを別のグループが別のデザインレビューネットワークコミュニティのために利用しているものと区別する必要性から、オペレーターBの使用するコンピューター50Bのクライアント実行部66が、サーバー実行部60を実行しているPC50A(以下、「サーバー装置」)に対して接続リクエストを送信すると、サーバー実行部60はクライアント実行部66を通じて、ログインのための前提となる接続先を、オペレーターBに入力させることも有用である。例えば、サーバー装置を特定するための任意の情報(典型的には、IPアドレス)をプロンプトを通じて入力させて接続を確立することができる。別の例としては、接続リクエストに応じてデザインレビューネットワークコミュニティのための招待メールをサーバー実行部60が送信し、そのメール文中のリンクのオペレーターBによるクリック操作に応じてサーバー実行部60がコンピューター50Bのクライアント実行部66との接続を確立することができる。
【0037】
サーバー実行部60およびクライアント実行部66では、任意の入力を受け付けることにより各種コマンドの実行が可能で、そのコマンドが反映された映像がリアルタイムにコミュニティのセッション参加者全てに反映される。このような機能により、
図5に示した車両デザイン支援システム1Nを実施することにより、双方向機能がネットワークを通じて実現されるため、地理的に離れたデザイン拠点を複数結んでのデザインレビューを支援することができる。
【0038】
上記説明は、オペレーターA〜CのうちオペレーターAが車両デザイン支援システム1Nの管理者およびセッションのホストとして自らのPC50Aをサーバー端末として機能させている場合を前提としている。その際、オペレーターB、Cは車両デザイン支援システム1Nの正当なユーザーであり、かつセッション参加者であれば、自らのPC50B、50Cをクライアント端末として機能させデザインレビューネットワークコミュニティの当該セッションに参加することができる。車両デザイン支援システム1Nの管理者やセッションのホストは、自らがユーザーであることもできるし、そうでない場合もある。また、デザインレビューネットワークコミュニティにおいて、セッションを確立するために、オペレーターがネットワーク上のどのようなコンピューター装置をサーバー装置とするか、データサーバーを独立させるか、といったネットワーク構成を含むシステム構成は、種々の実装形態を採用可能である。
【0039】
本実施形態の車両デザイン支援システム1、1M、1Nでは、さらにオペレーターが意識下でまたは無意識で視覚によって確認する目的物や特徴を視線の検出により調査することができる。車両のデザインでは、具体的な内装デザインが運転操作に及ぼす影響を調査したいというニーズがある。また、自動運転を部分的に採用しつつ手動運転にも切り替えを行うような運転方法において、自動運転と手動運転の間での切り替えが必要な車両をデザインする実施形態では、その切り替えのための表示を評価することによって、どのような切替え手法が好ましいかを調査したいというニーズがある。車両デザイン支援システム1、1Mをこれらの目的で動作させて、オペレーターの視線からその注視点を調査すれば、より効率的に車両の内装デザインを決定することができる。
【0040】
図7は、注視点の検出および記録のために採用するアイトラッキング検出部110を備えるVRヘッドセット10Aの説明図であり、
図8は、VRヘッドセット10Aを採用する車両デザイン支援システム1Aのブロックダイヤグラムである。VRヘッドセット10A、車両デザイン支援システム1Aについては、同じ符号で示した要素はVRヘッドセット10、車両デザイン支援システム1のための説明と同様である。VRヘッドセット10Aでは、オペレーター2の少なくともいずれかの眼球の視線を特定するためのアイトラッキング検出部110を備えている。アイトラッキング検出部110は、例えば赤外線カメラと赤外線光源の組み合わせによって実現され、オペレーター2の眼球による視線つまり注視している注視点と眼球とを結ぶ直線を、角膜反射法や明瞳孔法、暗瞳孔法といった手法により特定する。このようなアイトラッキング検出部110は、さらにまぶたの瞬きや開閉も検出することができる。まぶたの瞬きや開閉からは、ドライバーの覚醒状況や集中度など、意識に関する状態の判別が可能となりうる。アイトラッキング検出部110からの出力であるアイトラッキング信号112は、適当なインターフェースを経由してコンピューター50に受信され、注視点判定部550に入力される。注視点判定部550は、アイトラッキング信号112と、必要に応じて姿勢センサー(
図8には図示しない)からの頭部の姿勢を示す信号とを利用して仮想空間におけるオペレーター2の視線を決定する。注視点判定部550では、その視線を利用して、構造データ512や、必要に応じて環境データ記録部からの背景データ(
図8には図示しない)によって定まる視認される物体の3次元オブジェクト表面に対する注視点を決定する。この注視点は、例えば、いわゆるコリジョン判定のアルゴリズムなどによって決定することができる。
【0041】
物体とのコリジョンによる注視点判定法に加えて注視点判定部550での処理のために採用可能な他の注視点決定方法の一つが、左右視線方向が収束する交点を決定する視線交差法である。オペレーター2が注視する際には、両眼によって仮想空間内で3次元形状を持つ内装各部の表面やメーター表示といった車両内装や、車両外の背景を視認する。その際の両眼の視線はともに共通した注視点に向かう。これに応じ、視線交差法では、アイトラッキング検出部110が左右両眼の視線を別々に検出して両眼アイトラッキング信号を出力する。両眼の視線の収束位置を三角測量の原理により特定できれば、それが注視点についての手掛かりとなる。視線交差法がとりわけ役立つのは、コリジョン判定法のみで判定しにくい場合や、注視点が安定しない場合である。例えば、ドライバーズシートに着座している状態のオペレーター2の注視点をコリジョン判定のみで決定しようとすると、注視点がハンドル表面にあるのか、ハンドルを通したメーター上にあるのか判定がつきにくいという事態が生じる。検知された注視点が誤判定によるものか、オペレーター2の実際の注視点がそうなっていて正しく判定されているのかを事後的なデータからは特定しにくいため、注視点の判定を正確に安定して行うことは極めて有用である。視線交差法では実際のオペレーター2の両眼の視線の向きに基づいて注視点が決定されるため、より正確に注視点位置を決定することができる。なお、視線交差法を実装するためには、注視点判定部550に、両眼アイトラッキング信号(図示しない)から、両眼の視線の交差位置を決定させ、視線交差点位置データ(図示しない)として出力させることができる。この視線交差点位置データは、それ自体を注視点のデータとして用いることができる。さらに、注視点判定部550のためにコリジョン判定法と視線交差法を選択したり組み合わせたりできるプログラムを実装することも実用的である。
【0042】
上述した注視点は、典型的には、仮想空間内での3次元座標をもつことによって、提示画像542における奥行き方向の情報をもつことができる。このような注視点位置のデータ562は、一例としては、適切なタイムスタンプと対応付けるなどした経時的データの形態で注視点位置記録部560に格納される。注視点位置のデータ562は、例えば仮想空間内での3次元座標により示される。
【0043】
注視点位置記録部560に格納された注視点位置のデータ562からはオペレーターが意識下でまたは無意識に視認した注視点の客観的な情報を引き出すことも有用である。画像レンダリング部540を利用すれば、その注視点をグラフィカルに提示する画像を、提示画像542に重ねて示すことができる。例えば、注視点位置記録部560の注視点位置のデータ562を呼び出して、ヒートマップ画像、ゲイズ・トレース画像、ゲイズ・クラスター画像を生成することができる。
【0044】
図9A〜Cは、例示のヒートマップ画像、ゲイズ・トレース画像、ゲイズ・クラスター画像である。ヒートマップ画像は、より長時間視線を受けていた注視点を重み付けして着色などにより表示する画像であり、視線が向けられていた時間に応じた高温部を持つ熱の分布であるかのような分布画像を提示画像542に重ねたものである。
図9Aにおいては、主要な注視点として重み付けされるヒート表示部702、704、706、708は、それぞれ、センターコンソールの表示装置領域310上、メータークラスターパネルの表示装置領域310上、背景画像の左車線車両上、および背景画像の案内標識上に位置しており、画像上で識別可能となるよう着色等して提示画像542に重ねて表示される。現実のヒートマップ画像は、連続的に変化する重み付けを反映した画像とすることができる。ゲイズ・トレース画像は、注視点が時々刻々描く軌跡を順に追いかける線書きのトレース画像である。
図9Bにおいては、1〜5の番号が振られた画像上の特徴ポイントに渡り、注視点が推移していることが線書きトレースにより示されている。線書きトレースは仮想空間内での3次元での各時間での注視点の位置をつないで作成される。線書きトレース上に描かれる多数の微小な円は、一定の時間刻みのタイミングにおける注視点の各位置にプロットされる。ゲイズ・クラスター画像は、メッシュなどでエリアに区分した個別の領域において、注視点が存在した蓄積時間順や、注視点が遷移した順序を表示で示す画像である。なお、ゲイズ・クラスター画像では、
図9Cのように、エリアを3次元メッシュで区分することにより、立体的な車両内装の表面に対応した判定を行うことができて有利である。
【0045】
本実施形態において注視点の客観的な情報は、解析者の好みに応じた表示スタイルに従って注視点位置のデータ562と重ねて表示することができる。例えば、
図9Bの特徴ポイント別に注視点が滞在した時間を円のサイズにより表示する、といったグラフィカルな視覚表現は特徴ポイントが搭乗者の視覚に与える影響を視覚的に表現できる点で有用である。
【0046】
また、
図8に示した注視点集計部580を利用して、車両内装の構造の特徴ポイント別または仮想空間を区切ったエリア別に注視点位置データが示す注視点の頻度または時間を集計することにより、関心位置についての統計を求めることも有用である。
【0047】
図10A、10Bは、それぞれ、
図9Bの特徴ポイント別および
図9Cのエリア別に、注視点が位置していた累積時間を集計したグラフである。このようなグラフは、車両デザイン支援システム1Mを利用する場合には、VRヘッドセット10またはオペレーターのいずれかごとに注視点位置記録部560の注視点位置のデータ562を格納することが有用である。
【0048】
図1、
図3に示したように、車両デザイン支援システム1には、生体状態センサー140を追加することができる。生体状態センサー140からの信号は、オペレーター2の身体状態を反映しており、信号処理部142を通じてコンピューター50に伝達される。コンピューター50は、生体状態センサー140からの信号に対応する生体情報データ592を、例えば適切なタイムスタンプと対応付けるなどした経時的データの形態で被験者情報記録部590に格納する。この生体情報データ592は、脳波、心電図、筋電位などを含むことができる。これらの信号から、覚醒状態、睡眠状態、健康状態の取得が可能となって、安全性研究に役立てることができる。特に覚醒状態は、自動運転における手動運転への切り替え手法について、およびどのような車両デザインや通知、刺激が適するかについての知見を蓄積するためにも本実施形態の車両デザイン支援システム1を役立てることができる。これは、自動運転の際にもドライバーを対象に確認される可能性があるためである。覚醒状態はまた、誤発進抑制のための警告音などによって、特に高齢者による誤操作につながりうる意識状態を警告したり、誤操作につながりうる意識状態の検知確率を検証したりするためにも有効である。なお、生体状態センサー140は、例えばマイクロフォンなどの音声センサーなどの身体に装着しないものも採用することができる。また、そのような音声情報は、オペレーターの状態の確認のほか、オペレーターによる音声入力のために用いることもできる。
【0049】
本実施形態の車両デザイン支援システム1には、仮想空間内でのオペレーターの視点移動を支援するためのツールを採用することも有用である。
図11は、本実施形態の車両デザイン支援システム1において、視点移動をサポートするためにコントローラー120を利用したトランスポーテーション機能を作動させている表示例を示している。オペレーター2(
図1)の頭部22の空間における位置や方向は、現実空間のものと仮想空間のものとが対応付けされている。しかし、車両デザイン支援システム1の利用中に何らかの理由により、その対応付を調整しなくてはならない場面が生じる。その典型例が、現実空間においてオペレーター2が位置も方向も動かさないまま、仮想空間での位置すなわち視点や方向すなわち視線方向を動かす場面である。視点移動の操作に手間取ると、仮想空間であるがゆえに、しばしば、オペレーター2は自らが見たいデザインモデルを見失ったり、デザイン評価で重要となる適切な立ち位置へ移動できなくなったりする。逆に、直観的な操作で視点移動できる機能が装備されていれば、視点移動が容易になるばかりか、オペレーター2は自らの意識を評価対象からそらす時間が短くなるため、車両デザイン支援システム1の実用性が大幅に向上する。視点移動を容易にするには、移動距離と視線方向の調節とを可能な限り少ない操作で直観的に調整できることがさらに好ましい。なお、視点移動が必要となる場面は、例えば、車両内での着座位置の変更、車両の乗降、車両外における観察位置の変更を含む。
【0050】
本実施形態の車両デザイン支援システム1においては、仮想空間内での視点移動を支援するために、コントローラー120を巧みに利用した移動ツールが提供される。コントローラー120の現実空間での姿勢は姿勢センサー移動子104、姿勢センサー固定子106と同様のセンサー(図示しない)により検知されている。メニュー選択などの任意の手法により適切なコマンドの指示を受け付けると、車両デザイン支援システム1の動作は視点移動モードに切り替わる。視点移動モードでのコントローラー120による操作では、仮想空間では、例えばコントローラーからの放物線アーチの曲線シンボル82(
図11)などの適切な指標をグラフィック表示する。放物線アーチを用いる場合、コントローラー120では、その検知された姿勢を仮想空間内の方向に反映させれば、その放物線アーチの届く仮想空間における地面などの基準となる到着点84の調整を容易にすることができる。放物線アーチに与えるパラメータを設定することも有用である。このパラメータの一例は、ホースで散水する水の勢いに相当するような、放物線アーチの届く範囲を決定するものである。到着点84は、視点移動の移動先の目安となる。このような放物線アーチを用いれば、移動先とそこまでの距離とを直観的操作で操作することができる。その操作は、移動したい方向にその水平方向を合せ仰角をつけるようにコントローラーを向け、あたかもホースで散水するようその仰角を変更して距離を調整したり、必要に応じて上記パラメータを変更したりすることを含む。着地点84は、例えば視点移動の移動先(移動先位置)がその直上のある高さの位置になることをオペレーター2に理解させる目安である。ここでの高さは、例えばオペレーター2が立位を取る場合の視点の高さと同じ距離に設定されたり、オペレーター2が座位を取る場合の視点の高さと同じ距離に設定されたりする。立位か座位かは、移動先が車外かシート上かなどで判定することができる。また、オペレーター2が現実空間で立っているか座っているかに一致させてその高さを設定することもできる。車両デザイン支援システム1では、好ましくは、移動後にオペレーターが視認する仮想空間での前方方向もさらに設定することができる。例えば、放物線アーチの曲線シンボル82の着地点84に、方向表示シンボル86をグラフィック表示する。この方向表示シンボル86の示す方向は例えばコントローラー120のボタンやダイヤル操作(方向入力部)などにより変更することができる。曲線シンボル82による着地点84と方向表示シンボル86とを何らかの操作やボタン操作(方向決定部)などによりオペレーター2が決定すると、コントローラー120は決定指示を送信する。すると、その仮想空間において設定した位置に対応させて、立ったり着座したりした場合の頭部の位置に視点が定まり、決定した水平成分を視線の正面とする水平成分とするようにして、現実空間と仮想空間との対応関係が再設定される。これで視点移動が完了する。
【0051】
被験者情報記録部590に格納する生体情報データ592には、身体状態を取得する目的の生体情報センサー140以外の検出装置から取得したデータを含めることができる。そのようなデータの一つが、アイトラッキング検出部110により検知されるまぶたの瞬きや開閉のイベントデータである。これにより、目やまぶたから取得できる意識に関する状態の経時的変化を記録することができる。生体情報センサー140および生体情報センサー140以外の検出装置から得られたドライバーの意識の状態の経時変化データを利用すれば、例えば車両の内装デザインやメーター表示、車内照明の具体的デザインがドライバーの意識状態とどのような関わりを持つかの調査を、現実の試作プロセスを経ることなく行うことができる。
【0052】
また、車両デザイン支援システム1には、仮想空間内に現実空間の外部映像を合成する機能を採用することが好ましい。デザイン評価の場面において、プレゼンターとしての人物が仮想空間内に表示されることにより、リアルタイムでプレゼンテーションを行なうことができ、オペレーターに対し、身振りや音声などでの解説などの付随情報を提供できる。プレゼンター等の人物がレビューに参加する場合、クロマキー合成のための着色スクリーンにて撮影した当該人物の現実空間での映像を、その着色スクリーンを特定する色信号成分を除去して取り込みリアルタイム表示する。その際、現実空間において撮影するカメラの位置や方向とカメラの撮影像中の特徴点の位置とを抽出するために、カメラにトラッカーをマウントすることが好ましい。
図12は、カメラ90によりプレゼンター(人物)を撮影し、そのプレゼンターにトラッカー処理部94により特徴点98を設定している様子を示す説明図である。クロマキー処理のための着色スクリーン93を背景にしているプレゼンター92がカメラ90により撮影される。カメラ90で撮影された通常の映像データは、既存の伝送規格(HDMI(登録商標)やHD−SDI)により出力され、必要に応じてインターネットプロトコルもしくはUSB等の汎用通信規格または入出力バス規格に変換され、PC(
図12には図示しない)に伝送される。その際に、トラッカー処理部94は、カメラ90の位置データと、撮影した映像中における特徴点98を示す位置データとを決定して同様に伝送する。このトラッカー処理部94は、独立した機器であっても、当該PCにおいて動作するプログラムにより機能する当該PCの演算処理による機能手段であっても良い。カメラ90の姿勢は必要に応じてトラッカーのカメラ姿勢センサー91を使い、相対位置が決定される。特徴点98は、プレゼンター92の特徴点を連続して抽出する映像上のポイントである。この特徴点98は、まず画像面をxy平面とするxy座標により特定され、その座標には、必要に応じ、z座標(奥行き方向)を含めることができる。例えばカメラ90のフォーカスまたはズームのエンコーディングデータと、カメラ姿勢センサー91や、カメラの雲台やズームレンズ(いずれも図示しない)のエンコーディングデータとを利用して、特徴点98の画像面のxyz座標を決定することができる。この場合、カメラ姿勢センサー91、雲台やズームレンズのエンコーダー(図示しない)もトラッカー処理部94とともにトラッカーの一部をなしている。注目点98の映像のxyz座標は、現実空間の空間座標に変換することができる。カメラ90の姿勢が上記二つのエンコーダーからのデータと、カメラ姿勢センサー91から割り出されるカメラの位置や向きのデータから、各特徴点98の位置データは、現実空間での座標を決定できる。
【0053】
映像データとトラッカーからのカメラの位置データおよび特徴点位置データとから、オペレーターのコンピューター50における画像レンダリング部540にてVRヘッドセット10に提供する画像が映像を合成して生成される。撮影されたカメラ90からの映像信号は、クロマキー処理により背景を含まないプレゼンター92のみのものである。この映像信号を仮想空間の画像に合成してリアルタイム表示素材とするには、現実空間での各特徴点98の位置データを、仮想空間の位置に換算する。この換算は、任意のコンピューター機器の位置換算手段97により実行される。そして、各特徴点98の仮想空間の位置データを利用して、映像合成される。この映像合成は任意のコンピューター機器の映像合成手段99により実行される。画像レンダリング部540が映像合成手段99として機能することもできる。トラッカー処理部94でカメラ90の位置および特徴点98を特定することにより、デザインレビューに合わせた位置にカメラ90を移動し、プレゼンター92が自らの立ち位置を移動しても適切に合成されるため、プレゼンター92によるデザインの付随情報の提供が高品質で行える。特にトラッカー処理部94でカメラ90の位置と特徴点98位置を特定ができる場合には、例えばレビューの題材となっている仮想空間内の物体(例えば自動車)の奥側に立つようにプレゼンター92のリアルタイム映像を合成して付随情報を提供することが可能となる。なお、カメラ90の位置および特徴点98位置を利用しないクロマキー合成では、仮想空間において例えば車両内装と背景のように奥行きのあるものであっても、表示できるのが一番手前に限られてしまうなどの制約を伴ってしまい、仮想空間における物体の前後を反映した表示は困難である。これに対し、トラッカー処理部94でカメラ90の位置と特徴点98位置を特定できる場合には、プレゼンター92の位置が移動などにより変化しても、仮想空間における物体の配置に対して手前にプレゼンター92を表示すべきか背景側にプレゼンター92を表示するべきかを計算により容易に決定できるため、自然な表示を実現することができる。プレゼンター92のクロマキー合成が自然となると、オペレーターのレビュー作業への意識の集中を妨げにくい。なお、本開示におけるトラッカーは、特徴点位置データを取得しうる任意の方式により実施することができ、上述したカメラ90との関係や使用するハードウエア機器の選択や、その機器やソフトウエアにおける特徴点位置データの取得のための具体的処理は、当業者が実施段階において変形することができる。
【0054】
以上に示した車両デザイン支援システム1、1M、1N、1Aを用いることにより、車両の内装のデザイン作業は大幅に効率化される。例えば、デザイナーやデザインの評価者が車両デザイン支援システム1、1M、1N、1Aのオペレーターとなることにより、試作を必ずしも伴わずに高い精度で車両の内装の仕上がりを予測したり評価したりすることができる。また、車両を運転するだけの立場の搭乗者が車両デザイン支援システム1、1M、1N、1Aのオペレーターとなることにより、車両の内装や、車両における任意のインターフェースが搭乗者に与える影響を高い精度で予測することができる。
【0055】
次に、上述した車両デザイン支援システム1、1M、1N、1Aを実装するため例示のハードウエア構成およびソフトを説明する。VRヘッドセット10、コントローラー120の例は、例えばVIVE Pro HMD(HTC社)とすることができる。アイトラッキング検出部110のあるVRヘッドセット10Aの例は、VIVE Pro EYE(同社)とすることができる。コンピューター50は、任意のコンピューター機器とすることができ、例えばWINDOWS(登録商標、マイクロソフト社)を搭載するPCで、3次元レンダリング特性を持つグラフィックカードを装備するようなものが適する。生体状態センサー140は、例えばbiosignals plux(PLUX − Wireless Biosignals S.A.社)のものを採用することができる。生体状態センサー140により取得できる情報は多岐にわたるが、例えば脳波、心電図、筋電位などを測定することにより、覚醒状態、睡眠状態、健康状態を判定することができる。構造データ512、属性データ516は、各種CADデータ、バーチャルプロトタイピング用データを採用することができる。VRED(AUTODESK社)など3Dビジュアライゼーションソフト用データは典型的なものである。特に属性データ516は測定等で決定したテクスチャデータとすることも有用である。なお、VREDは、VIVE Pro EYEと組み合わせてオペレーターの両手像をディスプレイ102に合成することができ、オペレーターの仮想空間での体験に現実的な感覚を付与することができる。また、オペレーターの両手像を利用して、ジェスチャーによる入力を行うこともできる。画像レンダリング部540は、コンピューター50が備えるグラフィックカードをポリゴン処理やレンダリング処理に用いる種々のツールにより実現されるが、典型的には、UNREAL ENGINE(Epic Games社)などのゲームエンジンが適している。背景データ522は、半天球または全天球の画像とすることができ、その場合、例えばINSTA360 Pro(INSTA360社)のようなカメラを利用して静止画または動画を撮影して準備することができる。これ以外にも、各種デジタルカメラを雲台(GIGA PAN社EPIC Proなど)に搭載してより高精細な静止画を撮影することも有用である。
【0056】
本実施形態の車両デザイン支援システム1、1M、1N、1Aにより評価しうる特性は、属性データ516を構造データ512に組み合わせて再現され視覚を通じてオペレーターを刺激しうる任意の属性である。指定される表面の色、質感、表面反射特性を持つように再現される。なお、構造も選択または調節されうる属性の一部となりうる。
【0057】
構造データは、典型的には、ポリゴンやワイヤフレームなどの形状を特定しうる任意のデータである。ポリゴンであれば法線(ノーマル)の反転調整などにより適切な表面構造を再現しうるように予め調整されていることが有用である。
【0058】
属性データのための表面の色は、反射物体であれば物体色、発光体であれば光源色を特定する任意の属性を調節することができる。表面の質感は、テクスチャマッピングや法線マッピングを利用して調節することができる。表面データは、典型的にはテクスチャやマテリアルと呼ばれるCG分野で用いられるものである。予めUV展開により構造データとの位置が精密に調整された表面データであっても、デザイナーの意図に合わせるためには、さらに調整の余地が残る。テクスチャは、質感に加え、模様、凹凸などを表現する画像やデータを指している。マテリアルは、物体の材質を変更した質感を特定するために用いられる。テクスチャのために調節されるパラメータは、例えば、固有の色を設定するために用いるDiffuse、平滑な表明に凹凸をあたえるために用いるNormal、間接照明をどの程度受けるかを示すためのAmbient Occlusion、光沢を表現するSpecular、細かな表面の平滑性を表すRoughnessを採用することができる。これらを組み合わせることにより、いわゆるシボ加工の表面のような質感を精密に調節してデザイナーが内装を推測することができる。
【0059】
本実施形態では、例えばメーター表示のデザインや、表示装置のグラフィック情報となる画像や映像、表示サイン(グラフィック表示のみでメーター表示を行う場合も含む)などの表示装置領域310(
図2)のための属性も、属性データ516として扱われる。速度などの情報をドライバーに示すメーターや、ナビゲーション装置では表示装置にグラフィック情報を表示してドライバーなどに必要な情報が提示される。そのグラフィック表示も、視認性やデザインが評価対象となるために、属性データとして扱われて選択や調節の対象とされる。
【0060】
車両内装の精密なデザインのためには、仮想空間において内装の視覚表現を可能な限り正確に再現することが重要である。このためライティングも注意が必要である。現実の空間では、光源ばかりではなく反射性を示す物体も反射光を放っているためライティングに影響をあたえる。特に背景400や、車両内装300が、ハイダイナミックレンジイメージ(HDRI)で画像情報を持つ場合には、イメージベーストライティング(IBL)の手法によって、光源部分と反射により間接的に照明作用を持つ各部を統一的に扱えるため、ライティングの再現性を高めることがきる。さらに、外光が直射日光などの高い光度の照明である場合も本実施形態では提示画像にその効果を反映することができる。例えば日光についてはディレクショナルライティングなどの手法により特定方位からの強い光の照射を再現することができる。上述したポインター機能やフラッシュライト機能のために、そのような強い光の照射方向は、オペレーター2がコントローラー120を通じて操作可能にすることも有用である。
【0061】
写り込みは、車両内装の再現の点では三つの意味で重要である。第1は、車両特有の問題として、窓やメーターの表面に写り込む光源が視覚的ノイズとなる点の検証のために重要となる。内装の一部に照明を持つ場合や、夜間に強い照明光が外部から入射する場合に、ドライバーにとって過剰な視覚的ノイズが生じることは、内装のデザインで抑制したり回避したりするべきだからである。例えばウインドウスクリーンなどの窓部分はガラスの表面反射による鏡面性の表面反射特性を示すため、窓部分も内装の一部として表面反射を反映して現実的なライティングでの評価が好ましい。特に、車内で光源となる照明光源や発光する表示装置を用いる場合には、その光による写り込みは注意深く検討されなくてはならない。そのような場合、照明光源や表示装置の表示それ自体を決定する数値も属性データ516となって、選択されたり調節されたりする対象となる。第2の理由は、乗車時のウェルカムライトや、夜間の足元での誤操作抑制のためのライティングなど、演出的なライティングが近年多用されており、安全性をこれまで以上に考慮した照明デザインの必要性が高まっているからである。デザインされる照明光源は、室内灯や自発光メーターを含み、それらの光源はドライバーの視覚に及ぼす影響が調査される。これらの光源を特定する属性には、光の強さ、色の他、ポイントライトかスポットライトかなどの配光特性を含んでいる。写り込みが重要となる第3の理由は、内装それ自体の実物感が光沢など映り込みの影響を受けるためである。例えば搭乗者の視界に入る内装の一部(例えばメータークラスターの外周)に光沢を持つ物体がある場合には、その物体の実物感は写り込みが再現されることで内装の実物感についての正確な印象をあたえることができる。このため、その光沢を決定する数値が属性データ516となって、選択されたり調節されたりする。
【0062】
画像レンダリング部は、その機能の一部がグラフィックカードなどを利用することにより、レイトレーシングや、レイキャスティングによる画像レンダリングを実行することができる。背景画像402は、天球を模した半球の内面に現実の全周囲画像から半天球の領域を切り出してマッピングするのみでは、ひずみを感じる場合がある。特にビルなどが背景に含まれている場合には、目線付近の高さの遠景にあるビルが弓なりにゆがんで見える場合がある。このような場合には、水平線からある程度の高さまでは、むしろ円筒に対してマッピングし、UV展開の調整を施すことが有用である。
【0063】
以上、本開示の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、変形例および実施例は、本出願において開示される発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき定められるべきものである。実施形態の他の組み合わせを含む本開示の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。