【解決手段】光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に、光を局所的に照射する工程、を含む、任意の位置および形状で細胞集団が形成された細胞シートの製造方法。
前記局所的な光照射が、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団への光の到達を遮断するマスク層を設けることにより行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞シートの製造方法。
前記任意の位置および形状で形成される細胞集団が、皮膚細胞および血管細胞を含む細胞集団であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の細胞シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0016】
〔1.概要〕
本発明の一実施形態に係る任意の位置および形状で細胞集団が形成された細胞シートの製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、(A)光透過性基材層と、前記光透過性基材層の片面に形成された光応答セラミック材料薄膜層とを含む基板において、前記光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に、前記基板の前記光透過性基材層側から光を局所的に照射する工程、を含むことを特徴とする。本製造方法によると、前記光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に、前記基板の前記光透過性基材層側から光を局所的に照射することにより、前記光応答セラミック材料薄膜層上での細胞の接着状態を選択的に制御し、前記光応答セラミック材料薄膜層上の任意の位置および形状で細胞集団を形成させることができる。
【0017】
上述の通り、細胞シートの製造に関する従来技術は、細胞パターニングの精度の点で問題を有していた。また、機能が異なる複数の細胞を高精度でパターニングする技術の開発も求められていた。このような状況下、本発明者は、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得ることに成功した。
(a)光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に対して前記光応答セラミック材料薄膜層を介するように光照射を行うと、光応答セラミック材料薄膜層上の光照射された領域で細胞の接着が抑制されること。
(b)前記(a)において、光照射を停止すると、光応答セラミック材料薄膜層上の光照射された領域で細胞の接着が促進されること。
(c)光応答セラミック材料薄膜層を用いて、前記光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に対して光照射を局所的に行うことにより、高精度で細胞のパターニングが行えること。
(d)光応答セラミック材料薄膜層を用いることにより、光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団に紫外線が到達せず、細胞の損傷が抑制できること。
【0018】
上記(a)〜(d)の中でも、特に、上記(c)については、本発明によって奏される特徴的な効果である。すなわち、従来技術では、高精度で細胞のパターニングを行うことができず、当然に、複数種類の機能が異なる細胞を高度にパターニングした細胞シートの製造はできなかった。しかし、本発明では、高精度での細胞のパターニングを可能とし、その結果、任意の位置および形状で細胞集団が形成された細胞シートの製造が可能となった。また、本発明では、上記のような細胞シートを積層させることで、任意の位置および形状で細胞集団が形成された三次元細胞構造体の製造も可能となった。このような本発明の奏する効果は、従来技術では達成できなかった極めて優れた顕著な効果である。
【0019】
本製造方法は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、高精度で細胞がパターニングされた細胞シートの製造を可能にする。また、本製造方法によると、高精度で細胞がパターニングされた三次元細胞構造体の製造も可能にする。
【0020】
〔2.細胞シートの製造方法〕
本製造方法について、
図1を参照しながら説明する。本製造方法は、上述の通り、以下の工程を含む:
(A)光透過性基材層2と、前記光透過性基材層2の片面に形成された光応答セラミック材料薄膜層1とを含む基板3において、前記光応答セラミック材料薄膜層1上に設けられた細胞集団4に、前記基板3の前記光透過性基材層2側から光11を局所的に照射する工程。
【0021】
工程(A)では、基板3の光応答セラミック材料薄膜層1上に設けられた細胞集団4に、前記基板3の前記光透過性基材層2側から光11を照射する。この光11照射は、前記光応答セラミック材料薄膜層1上に設けられた細胞集団4に対して局所的に行われる。この局所的な光11照射により、前記光応答セラミック材料薄膜層1上での細胞の接着状態を選択的に制御し、前記光応答セラミック材料薄膜層1上の任意の位置および形状で細胞集団4を形成させることができる。
【0022】
本明細書において、「任意の位置および形状で細胞集団が形成された細胞シート」とは、細胞シートにおいて、細胞集団が任意の位置に、かつ、特定の形状で配置された細胞シートを意味する。
【0023】
(光応答セラミック材料薄膜層)
光応答セラミック材料薄膜層は、光応答セラミック材料から構成される。
【0024】
本明細書において、「光応答セラミック材料」とは、紫外線を含む光を用いて光照射されることにより光化学反応を生じる物質を意味する。また、本明細書において、「光化学反応」とは、被照射物質が光照射されたことによる、表面の帯電、電流(光電流)の発生、表面水酸基濃度の上昇、ヒドロキシラジカルの発生等の反応を意味する。
【0025】
光応答セラミック材料薄膜層は、光応答セラミック材料を含むことにより、前記光応答セラミック材料のエネルギーバンドギャップに相当する波長の光(例えば、紫外線)を吸収し、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞に前記波長の光が届かないようにする機能を有する。また、光応答セラミック材料薄膜層により、紫外線等が前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞に届かない結果、紫外線等の影響による細胞の損傷を防ぐことができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記光応答セラミック材料薄膜層を構成する光応答セラミック材料は、前記光応答セラミック材料のエネルギーバンドギャップに相当する波長の光(例えば、紫外線)を吸収し、かつ、可視光線を透過する材料であれば特に限定されない。そのような光応答セラミック材料としては、例えば、エネルギーバンドが3.0以上の半導体が挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記光応答セラミック材料は、好ましくは、TiO
2、SrTiO
3、Nb
2O
5、ZnO、SnO
2、KTaO
3およびZrO
2である。また、前記光応答セラミック材料の結晶構造は特に限定されず、光化学反応を適切に生じるものであれば、結晶構造はアナターゼ型、ルチル型等のいずれであってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記光応答セラミック材料薄膜層は、上記した光応答セラミック材料のうち一種を含む単層、またはこれらのいずれかの二種類以上をヘテロ接合積層させた複数層であってよい。光応答セラミック材料薄膜層が光応答セラミック材料を二種類以上ヘテロ接合積層させた複数層である場合、前記光応答セラミック材料薄膜層の光応答性がより鋭敏となり、高精度で細胞のパターニングが可能となるため、好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記光応答セラミック材料薄膜層は、紫外線の透過を防ぎ得る程度の厚みを有していることが好ましい。そのような厚みは、光応答セラミック材料薄膜層を構成する光応答セラミック材料の種類によって、変わり得る。例えば、光応答セラミック材料がTiO
2の場合、光応答セラミック材料薄膜層の厚みは、例えば、30nm以上であり、好ましくは、50nm以上である。
【0030】
(光透過性基材層)
本発明の一実施形態において、光透過性基材層の材料は、光を透過するものであれば特に限定されない。本発明の一実施形態において、前記光透過性基材層の材料としては、例えば、SiO
2、ホウケイ酸ガラス、ZrO
2、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記光透過性基材層は、上記した前記光透過性基材層の材料のうち一種を含む単層、またはこれらのいずれかの二種類以上をヘテロ接合積層させた複数層であってよい。
【0032】
(基板)
本発明の一実施形態において、基板は、本発明の効果を奏する限りにおいて、前記光応答セラミック材料薄膜層および光透過性基材層の他に、任意の層を含んでいてもよい。
【0033】
(工程(A’))
本発明の一実施形態において、前記工程(A)の前に、以下の工程(A’)を含み得る:
(A’)前記基板の前記光応答セラミック材料薄膜層上に細胞集団を設ける工程。
【0034】
工程(A’)では、基板3上に細胞集団4を設ける。基板3は、少なくとも、光応答セラミック材料薄膜層1と光透過性基材層2とを含む。前記細胞集団4は、基板3の光応答セラミック材料薄膜層1上(光応答セラミック材料薄膜層1の光透過性基材層2と反対側の面)に設ける。
【0035】
前記光応答セラミック材料薄膜層上に細胞集団を設ける方法としては、特に限定されないが、例えば、細胞集団を構成する細胞を光応答セラミック材料薄膜層上に播種し、当該細胞の種類に応じた培養条件で培養することにより行うことができる。細胞の種類毎の培養条件は、公知のものを適宜採用することができる。
【0036】
また、前記光応答セラミック材料薄膜層上に細胞集団を設ける別の方法としては、幹細胞(例えば、胚性幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞)、前駆細胞(例えば、神経前駆細胞)等を光応答セラミック材料薄膜層上に播種し、前記幹細胞、前駆細胞等を一定期間増殖させた後、所望の細胞に分化させることにより行うことができる。所望の細胞への分化方法は、公知のものを適宜採用することができる。
【0037】
(細胞集団)
本発明の一実施形態において、光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団を構成する細胞の種類は、特に限定されることなく、本製造方法により細胞シートの製造が可能なあらゆる細胞が使用され得る。そのような細胞としては、例えば、皮膚細胞(例えば、皮膚上皮細胞)、血管細胞、肝細胞、膵ベータ細胞、心筋細胞、グリア細胞、軟骨細胞、骨細胞、幹細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞)、前駆細胞(例えば、神経前駆細胞)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞)、上皮細胞、線維芽細胞等が挙げられる。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記細胞集団を構成する細胞の種類は、単一種類の細胞であってもよいし、複数種類の細胞であってもよい。
【0039】
また、本発明の一実施形態において、前記任意の位置および形状で形成される細胞集団を構成する細胞の種類は、単一種類の細胞であってもよいし、複数種類の細胞であってもよい。そのような細胞集団を構成する細胞の種類は、特に限定されることなく、例えば、上記で例示した細胞であり得る。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記任意の位置および形状で形成される細胞集団が複数種類の細胞の集団である場合、例えば、上記で例示した任意の細胞を用いることができる。また、その組み合わせは、特に限定されないが、例えば、生体内における組織または器官を構成する一部または全部の細胞の組み合わせと同じまたは類似であることが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記任意の位置および形状で形成される細胞集団を構成する細胞の組み合わせは、例えば、皮膚細胞と血管細胞との組み合わせ、内皮細胞と平滑筋細胞との組み合わせであり得る。前記任意の位置および形状で形成される細胞集団を構成する細胞の組み合わせは、再生医療におけるニーズの観点から、好ましくは、皮膚細胞と血管細胞との組み合わせである。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記任意の位置および形状で複数種類の細胞の集団を形成させる方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0043】
〔実施形態1〕
前記工程(A')において、光応答セラミック材料薄膜層上に複数種類の細胞の細胞集団を設ける。
【0044】
〔実施形態2〕
前記工程(A)の後に、以下の工程(B)を設ける:
(B)前記光応答セラミック材料薄膜層の前記光透過性基材層と反対側の面に、前記工程(A)とは異なる種類の細胞の細胞集団を設ける工程。
【0045】
〔実施形態1〕において、例えば、前記工程(A')において、複数種類の細胞の混合物を光応答セラミック材料薄膜層上に播種することで、自己組織化により、複数種類の細胞がある程度組織化された細胞集団を設けることが想定される。その後、前記工程(A)における局所的な光照射を行うことにより、複数種類の細胞を含む細胞集団が所望の位置に配列した細胞シートを得ることができる。
【0046】
〔実施形態2〕において、〔1.概要〕に記載の通り、光応答セラミック材料薄膜層上に設けられた細胞集団に対して前記光応答セラミック材料薄膜層を介するように光照射を行い、その後、光照射を停止すると、前記光応答セラミック材料薄膜層上の光照射された領域で細胞の接着が促進される。それ故、光照射する工程である前記工程(A)の後に工程(B)を行うことにより、前記工程(A)とは異なる種類の細胞の接着が促進され、その結果、高精度で複数種類の細胞を含む細胞集団がパターニングされた細胞シートを製造することができる。前記〔実施形態1〕および〔実施形態2〕は、本願発明の範囲に包含される。
【0047】
(細胞の接着状態の制御)
本明細書において、「細胞の接着状態の制御」とは、細胞の接着、細胞の接着抑制および細胞の剥離を制御することを意味する。すなわち、本製造方法によると、光応答セラミック材料薄膜層への細胞の接着、細胞の接着抑制および細胞の剥離を制御することができ、その結果、高精度で細胞がパターニングされた細胞シートを製造することができる。
【0048】
ここで、「細胞の接着」とは、細胞が光応答セラミック材料薄膜層に化学的に結合していることを意味する。また、「細胞の接着抑制」とは、光応答セラミック材料薄膜層に化学的に結合していなかった細胞が、前記光応答セラミック材料薄膜層に化学的に結合することが阻害されることを意味する。さらに、「細胞の剥離」とは、光応答セラミック材料薄膜層に化学的に結合していた細胞の前記結合状態が解消すること(すなわち、細胞が光応答セラミック材料薄膜層から物理的に離れること)を意味する。
【0049】
本明細書における「細胞の接着状態の制御」には、予め細胞集団に対して局所的な光照射を行い、前記細胞集団が剥離した領域において、新たに添加された細胞の接着が促進される態様も含む。
【0050】
本明細書において、「細胞の接着状態を選択的に制御」とは、光照射された細胞集団の領域において、細胞の接着状態を制御することを意味する。なお、「細胞の接着状態の制御」は、上述の通りである。
【0051】
光応答セラミック材料薄膜層は光照射されると、光化学反応を生じる。よって、光照射により、前記光応答セラミック材料薄膜層上で細胞の接着抑制が生じる要因として、主に、光化学反応により生じる以下の(i)〜(iii)が想定される。
(i)光応答セラミック材料薄膜層に光照射されると、起電力が発生し、その結果、細胞の接着抑制が生じる。
(ii)光応答セラミック材料薄膜層に光照射されると、光電流および電圧が発生し、その結果、細胞の接着抑制が生じる。
(iii)光応答セラミック材料薄膜層に光照射されると、ラジカル種が発生し、その結果、細胞の接着抑制が生じる。
【0052】
(光照射)
本発明の一実施形態において、光照射に供される光は、光応答セラミック材料に光化学反応を生じさせる波長を含む光であればよい。そのような光としては、例えば、紫外線、白色光等が挙げられる。
【0053】
本明細書において「紫外線」とは、波長が10〜400nmである電磁波を意味する。すなわち、紫外線は、可視光線よりも波長が短く、X線よりも波長の長い電磁波である。また、本明細書において、「白色光」とは、紫外線および可視光線を含むすべての波長の光が均等に混ざった光を意味する。白色光の波長範囲は、例えば、10〜800nmである。
【0054】
本発明の一実施形態において、光照射は、任意の光源を用いて行うことができる。そのような光源としては、例えば、Xeランプ、発光ダイオード(LED)(例えば、タブレット等に備え付けられたLED)、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)、プラズマ発光素子、光ファイバ等が挙げられる。
【0055】
本発明の一実施形態において、前記局所的な光照射は、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団の特定の領域に光照射する手段であれば特に限定されない。本発明の一実施形態において、前記局所的な光照射は、例えば、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団への光の到達を遮断するマスク層を設けることにより行われる。この場合、マスク層は、光照射を行う光源と、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団との間に設けることが好ましい。
【0056】
前記マスク層の材料は特に限定されず、光を遮断できる材料であればよい。そのような材料としては、例えば、クロムマスク、エマルジョンマスク等が挙げられる。また、前記マスク層の形状も特に限定されず、目的に応じて、所望の形状とすることができる。
【0057】
また、本発明の一実施形態において、前記局所的な光照射は、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団の特定の領域にのみに光があたるように光源を調整することによっても行われ得る。そのような方法としては、例えば、ビーム状光線を発する光源を用いて、前記ビームを所望の位置および形状の領域にスキャニングさせる照射法が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態において、細胞集団の接着を促進する目的で、細胞集団に対して局所的な光照射を行った後、細胞集団を暗所下で培養する予備照射を行ってもよい。前記予備照射を行うことで、細胞集団の接着が促進される。
【0059】
〔3.細胞シート製造装置〕
本発明の一実施形態において、本製造方法に使用されるための細胞シート製造装置であって、培養漕と、光源と、を備え、前記培養漕は、光透過性基材層と、前記光透過性基材層の片面に形成された光応答セラミック材料薄膜層とを含む基板を装着するための領域を備えており、前記光源は、前記基板の前記光透過性基材層側から光照射されるように配置されている、細胞シート製造装置(以下、「本製造装置」と称する。)を提供する。本製造装置により、高精度で細胞がパターニングされ細胞シートを得ることができる。以下、本製造装置について、
図2を参照しながら説明する。
【0060】
本製造装置は、培養漕31と光源41とを備える。培養漕31は、光透過性基材層2と、前記光透過性基材層2の片面に形成された光応答セラミック材料薄膜層1とを含む基板3を装着するための領域33を備えている。培養漕31には、好ましくは、培養液32が入っており、光応答セラミック材料薄膜層1上の細胞集団が培養できる。光源41は、前記基板3の前記光透過性基材層2側から光11照射されるように配置されている。基板3が培養漕31に装着された状態で、光源41から光11照射されることにより、光応答セラミック材料薄膜層1上の細胞集団の接着状態が制御される。その結果、高精度で細胞がパターニングされた細胞シートが得られる。なお、基板3は着脱可能である。
【0061】
本発明の一実施形態において、培養漕は、前記基板を装着するための領域を備え、かつ、光源からの光を透過させるものであれば特に限定されない。本発明の一実施形態において、培養漕の材質としては、例えば、ガラス、石英(SiO
2)等が挙げられる。
【0062】
本発明の一実施形態において、培養漕には、光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団を培養するための培養液が入っていることが好ましい。培養漕に培養液が入っていることにより、前記光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団を培養しながら、光照射を行うことが可能となる。培養液は、光応答セラミック材料薄膜層上の細胞集団を培養できるものであれば特に限定されず、当該技術分野で公知の培養液を、細胞の種類に応じて適宜選択できる。
【0063】
本発明の一実施形態において、光源は、特に限定されず、例えば、上記で例示したものが使用され得る。また、本発明の一実施形態において、光源は、ビーム状光線を発する光源であってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態において、本製造装置のサイズは、本発明の効果を奏する限りにおいて特段限定されず、任意のサイズであり得る。本製造装置は、例えば、細胞シートが量産できるような大型の装置であってもよいし、持ち運びが可能な小型の装置であってもよい。持ち運びが可能な小型の装置としては、例えば、タブレット式の装置等が挙げられる。本製造装置のサイズは、利用目的に応じて適宜選択できる。
【0065】
本製造装置において、「基板」、「光透過性基材層」、「光応答セラミック材料薄膜層」等、本項目で具体的に言及していないものについては、〔2.細胞シートの製造方法〕に記載の内容が援用される。
【0066】
〔4.三次元細胞構造体の製造方法〕
本発明の一実施形態において、本製造方法により得られた細胞シートを積層する工程を含む、三次元細胞構造体の製造方法(以下、「本三次元細胞構造体の製造方法」と称する。)を提供する。本製造方法により得られた細胞シートは、高精度で細胞がパターニングされているため、当該細胞シートを用いる本三次元細胞構造体の製造方法により、高精度で細胞がパターニングされた三次元細胞構造体を得ることができる。以下、本製造方法について、
図3を参照しながら説明する。
【0067】
基板3は、
図1と同様の構成である。すなわち、基板3は、少なくとも、光応答セラミック材料薄膜層1と光透過性基材層2とを含む。まず、ベルトコンベアー上に配置された基板3の光応答セラミック材料薄膜層1上に細胞A21を設ける(上段中央)。続いて、上段中央から上段左側へ移動する前に、基板3の光透過性基材層2側から光照射を行う。これにより、前記細胞A21を前記光応答セラミック材料薄膜層1上の任意の位置および形状で形成させる。続いて、ベルトコンベアーで移動した先(上段左側)で細胞B22を設ける。上述の通り、光照射された光応答セラミック材料薄膜層1上の領域では細胞の接着が促進されるため、細胞B22は、前記光照射された光応答セラミック材料薄膜層1上の領域に接着される。これにより、前記細胞A21およびを前記細胞B22が、光応答セラミック材料薄膜層1上の任意の位置および形状で形成された細胞シートを得ることができる。得られた細胞シートを積層させることにより(中段右側)、所望の三次元細胞構造体を得ることができる。
【0068】
上記の光応答セラミック材料薄膜層上に任意の細胞を設ける工程と、光照射を行う工程とを繰り返すことにより、2種類以上の細胞の集団を含む細胞シートを形成することができる。
【0069】
細胞シートを積層させる装置としては、当該技術分野で公知の任意の方法が使用され得る。
【0070】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0071】
〔1.TiおよびTiO
2上の細胞への紫外線連続照射〕
TiおよびTiO
2上で培養した細胞の接着状態を比較するために、初代骨芽細胞を用いて細胞剥離試験(細胞接着試験)を行った。培養器(基板)としては、純Tiのみを備える培養器と、純Tiを80℃のH
2O
2/HNO
3水溶液に浸漬した後、NH
3水溶液中で180℃で水熱処理することにより、純Ti表面にTiO
2膜を形成した培養器とを用いた。上記各培養器のTiおよびTiO
2上に、初代骨芽細胞を1ウェル当たり2.5×10
3個播種し、4時間培養した。ブラックライトを用いて、波長365nmの紫外線を播種直後から4時間連続して照射した細胞、および暗所にて4時間培養した細胞の密度を比較した。なお、紫外線の照射は、細胞を培養している側(培養器と反対側)から行った。また、細胞密度は、染色した細胞を光学顕微鏡で撮影し、その画像中の細胞をカウントすることにより測定した。
【0072】
結果を
図4に示す。
図4より、紫外線照射は、細胞に損傷を与えることが示された。また、TiO
2上で培養した細胞は、紫外線照射により密度が激減していたことから、TiO
2による光触媒反応がTiO
2上での細胞の減少にいくらか関与している可能性が示された。
【0073】
〔2.SiO
2およびTiO
2上の細胞への紫外線照射〕
紫外線照射と細胞の接着状態との関係をさらに調べるために、培養器を変更して、細胞剥離試験を行った。培養器としては、光が透過する純SiO
2のみを備える培養器と、純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器とを用いた。後者の培養器は、SiO
2の表面にコーティング液(Ti(OC
3H
7i)
4:H
2O:HNO
3:C
3H
7OH=1:1:0.2:20[mol])を3000rpmで30秒スピンコーティングし、室温で5分乾燥させた後、673Kで30分熱処理をして、上記SiO
2の表面にTiO
2膜を結晶化させることにより作製した。上記各培養器のSiO
2およびTiO
2上に、初代骨芽細胞を1ウェル当たり5.0×10
4個播種し、4時間培養した。Xeランプを用いて、白色光を播種直後から4時間連続して照射した細胞、および暗所にて4時間培養した細胞を免疫染色によって可視化した。なお、白色光の照射は、細胞を培養している側と反対側(SiO
2側)から行った。また、免疫染色した細胞は、蛍光顕微鏡により観察した。
【0074】
結果を
図5に示す。
図5より、純SiO
2のみを備える培養器、および純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器のいずれの培養器を用いた場合も、白色光を照射した際に細胞の接着が抑制されることが分かった。
【0075】
但し、SiO
2は紫外線を透過し、TiO
2は紫外線を吸収する機能を有するため、細胞接着抑制のメカニズムは両者で異なると考えられる。すなわち、純SiO
2のみを備える培養器を用いた場合には、透過した紫外線により細胞が損傷した結果細胞が剥離し、一方で、純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器を用いた場合には、紫外線による細胞損傷以外の理由により細胞の接着抑制が生じたことが想定される。
【0076】
ここで、TiO
2に紫外線が照射されると、起電力、電流、ラジカル種等が発生することが知られている。よって、純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器を用いた場合の細胞の接着抑制には、上記の起電力、電流、ラジカル種等が関与することが示唆される。
【0077】
〔3.TiおよびTiO
2上の細胞への紫外線照射〕
TiおよびTiO
2上で培養した細胞の接着状態を比較するために、初代骨芽細胞を用いて細胞剥離試験を行った。培養器としては、純Tiのみを備える培養器と、純Tiを80℃のH
2O
2/HNO
3水溶液に浸漬した後、NH
3水溶液中で180℃で水熱処理することにより、純Ti表面にTiO
2膜を形成した培養器とを用いた。上記各培養器のTiおよびTiO
2上に、初代骨芽細胞を1ウェル当たり2.5×10
3個播種し、4時間培養した。ブラックライトを用いて、波長365nmの紫外線を播種直後から1時間照射(残りの3時間は暗所)した細胞、および暗所にて4時間培養した細胞の密度を比較した。なお、紫外線の照射は、細胞を培養している側(培養器と反対側)から行った。また、細胞密度は、上記1.と同様の方法により測定した。
【0078】
結果を
図6に示す。
図6より、短時間の紫外線照射後に暗所に戻すことにより、細胞密度が増加することが示された。すなわち、短時間の紫外線照射は、細胞接着を促進する効果を示すことが分かった。
【0079】
〔4.SiO
2およびTiO
2上の細胞への光照射〕
紫外線照射と細胞の接着状態との関係をさらに調べるために、培養器を変更して、細胞剥離試験を行った。培養器としては、光が透過する純SiO
2のみを備える培養器と、純SiO
2の表面に紫外線を透過させないTiO
2膜を備える培養器とを用いた。後者の培養器は、SiO
2の表面にコーティング液(Ti(OC
3H
7i)
4:H
2O:HNO
3:C
3H
7OH=1:1:0.2:20[mol])を3000rpmで30秒スピンコーティングし、室温で5分乾燥させた後、673Kで30分熱処理をして、上記SiO
2の表面にTiO
2膜を結晶化させることにより作製した。上記各培養器のSiO
2およびTiO
2上に、初代骨芽細胞を1ウェル当たり5.0×10
4個播種し、24時間培養した。培養器に対して白色光を、培養終了前の0.5時間または培養終了前の2時間照射し、各照射時間の細胞を光学顕微鏡で観察した。なお、白色光の照射は、細胞を培養している側と反対側(SiO
2側)から行った。
【0080】
結果を
図7および
図8に示す。
図7および
図8によると、純SiO
2のみを備える培養器を用いた場合には、光の照射時間に関わらず、細胞の剥離は見られなかった。また、純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器を用いた場合には、光の照射時間が増加するのに伴い、細胞の剥離が進むことが確認された。これらの結果より、細胞の剥離には、光応答セラミック材料であるTiO
2膜の存在が影響することが示された。また、TiO
2膜への光照射を介した細胞の剥離において、細胞に紫外線が到達する必要はないことが示された。
【0081】
〔5.細胞のパターンニング〕
本発明の一実施形態における方法により細胞のパターニングが可能であるか調べるために試験を行った。培養器としては、上記2.に記載の純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器を用いた。上記培養器のTiO
2上に、初代骨芽細胞を1ウェル当たり5×10
4個播種し、4時間培養した。次いで、
図9に示すマスク板を、光を照射する側(SiO
2側)に設置した後、細胞を培養している側と反対側(SiO
2側)から、4時間、光(紫外線を含む)照射を行った。その後、免疫染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。
【0082】
なお、上記マスク板において、丸形の部分は光を遮るように設計されている。また、上記各丸形部分の中心には、
図11に示すように、幅150μm、長さ2mmの3本のスリットが形成され、上記スリット部分では光が遮られないように設計されている。
【0083】
結果を
図10および
図11に示す。
図10より、光が遮られた部分では細胞が接着し、光が照射された部分では細胞の接着が抑制されていることが示された。したがって、本発明の一実施形態における方法により、細胞のパターニングが行えることが分かった。
【0084】
また、
図11より、光が照射されたスリット部分では細胞の接着が抑制されていることが示された。したがって、本発明の一実施形態における方法により、高精度で細胞のパターニングが行えることが分かった。
【0085】
〔6.TiO
2膜の光吸収特性〕
純SiO
2の表面にTiO
2膜を備える培養器を用いて、TiO
2膜の光吸収特性を調べた。具体的には、SiO
2側から光を照射し(成膜時間:3、8、24および48時間)、透過した光の波長を光波長測定器(UV−Vis USB−4000、オーシャンオプティクス社製)により測定した。
【0086】
結果を
図12に示す。
図12より、TiO
2膜を介した紫外線の透過率は低く、紫外線はTiO
2膜に吸収されることが示された。一方、可視光線のTiO
2膜の透過率は高いことが示された。
【0087】
〔7.TiO
2膜の膜厚測定〕
純SiO
2の表面にTiO
2膜を生成するためのコーティング液を塗布し、一定時間ごとにTiO
2の膜厚を測定することで、塗布してからの時間と、TiO
2膜の膜厚との関係性を調べた。TiO
2の膜厚は、エリプソメータ(M-2000V-Kk、J.A.Woollam.Co.,Inc.社製)および走査型電子顕微鏡(JSM-6500F、日本電子社製)によって測定した。
【0088】
結果を
図13に示す。
図13より、TiO
2膜の膜厚と成膜時間とがほぼ比例関係にあることが分かった。また、
図12および13より、TiO
2膜の膜厚が一定以上であれば、紫外線は完全に吸収されることが分かった。