【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り  〔1〕  刊行物名  VISION第31巻第1号  日本視覚学会2019年冬季大会抄録集第34ページ  日本視覚学会  発行  発行日  平成31年1月20日  <資  料>  VISION第31巻第1号  日本視覚学会2019年冬季大会抄録集  抜粋  〔2〕  集会名  日本視覚学会2019年冬季大会(期日  平成31年1月29〜1月31日)日本視覚学会主催  開催日(公開日)  平成31年1月30日  <資  料>  日本視覚学会2019年冬季大会プログラム及び研究発表ポスター
    
      
        
          【解決手段】本発明に係る推定システム10では、像データ実測部20によって、水晶体によって形成される複数の互いに異なる波長の像の輝度を波長ごとに実測輝度として測定し、像の大きさを波長ごとに実測サイズとして測定する。推定システム10では、実測輝度及び実測サイズを用いて所定の波長範囲における推定光学濃度を求め、推定光学濃度に基づいて水晶体の所定の波長範囲の透過率を水晶体の透過スペクトルとして算出する。
  水晶体によって形成される複数の互いに異なる波長の像の輝度を前記複数の互いに異なる波長ごとに実測輝度として測定し、前記像の大きさを前記複数の互いに異なる波長ごとに実測サイズとして測定する像データ実測部と、
  前記複数の互いに異なる波長の各々の前記実測輝度と前記複数の互いに異なる波長の各々について予め得られた参照輝度との比と、前記複数の互いに異なる波長の各々の前記実測サイズと前記複数の互いに異なる波長の各々について予め得られた参照サイズとの比とに基づいて、前記水晶体の前記複数の互いに異なる波長の各々における実測光学濃度を算出する光学濃度算出部と、
  前記複数の互いに異なる波長の各々における実測光学濃度に対して所定の条件を満たし且つ前記複数の互いに異なる波長を含む所定の波長範囲について予め得られた既知光学濃度を推定光学濃度として推定する光学濃度推定部と、
  前記所定の波長範囲の前記推定光学濃度に基づいて前記水晶体の前記所定の波長範囲の透過率を前記水晶体の透過スペクトルとして算出するスペクトル算出部と、
  を備えた、水晶体の透過スペクトル推定システム。
  前記所定の波長範囲について予め得られた既知光学濃度は、前記所定の波長範囲内の波長ごとの前記水晶体の水晶体年齢と前記水晶体年齢に応じた所定の係数とに基づいて算出される、
  請求項1に記載の水晶体の透過スペクトル推定システム。
  水晶体によって形成される複数の互いに異なる波長の像の輝度を前記複数の互いに異なる波長ごとに実測輝度として測定し、前記像の大きさを前記複数の互いに異なる波長ごとに実測サイズとして測定し、
  前記複数の互いに異なる波長の各々の前記実測輝度と前記複数の互いに異なる波長の各々について予め得られた参照輝度との比と、前記複数の互いに異なる波長の各々の前記実測サイズと前記複数の互いに異なる波長の各々について予め得られた参照サイズとの比とに基づいて、前記水晶体の前記複数の互いに異なる波長の各々における実測光学濃度を算出し、
  前記複数の互いに異なる波長の各々における実測光学濃度と、前記複数の互いに異なる波長を含む所定の波長範囲について予め得られた既知光学濃度のうち前記複数の互いに異なる波長を含む所定の予め得られた既知光学濃度との差が最も小さくなる前記既知光学濃度を推定光学濃度として推定し、
  前記所定の波長範囲の前記推定光学濃度に基づいて前記水晶体の前記所定の波長範囲の透過率を前記水晶体の透過スペクトルとして算出する、
  ことを含む、水晶体の透過スペクトル推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
  以下、本発明に係る水晶体の透過スペクトル推定システム及び水晶体の透過スペクトル推定方法の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
 
【0012】
  図1に示すように、本発明を適用した一実施形態の水晶体の透過スペクトル推定システム10(以下、単に推定システム10という場合がある)は、像データ実測部20と、光学濃度算出部50と、光学濃度推定部60と、スペクトル算出部70と、を備える。
 
【0013】
  像データ実測部20は、水晶体310によって形成される複数の互いに異なる波長のプルキンエ像(像)120の輝度と大きさとを複数の互いに異なる波長ごとに実測輝度と実測サイズとして測定する。プルキンエ像120は、角膜や水晶体の表面による反射像である。
 
【0014】
  一般に、プルキンエ像120には、複数の種類がある。複数の種類のプルキンエ像には、例えば
図2に示すように、第1のプルキンエ像121から第4のプルキンエ像124が含まれる。第1のプルキンエ像121は、不図示の対象者の眼の入射した入射光200が対象者の眼の角膜302における入射光200の入射方向の手前側の表面302aで反射したときの反射光202によって形成される像である。第2のプルキンエ像122は、角膜302の表面302aを透過した透過光205が角膜302における入射光200の入射方向の奥側の表面302bで反射したときの反射光204によって形成される像である。第1のプルキンエ像121及び第2のプルキンエ像122は、投影像130に対して上下方向及び上下方向に直交する左右方向において反転せず、互いに同じ向きになっている。なお、
図2では、第1のプルキンエ像121及び第2のプルキンエ像122が互いに重ねて例示されている。
 
【0015】
  第3のプルキンエ像123は、角膜302の表面302bを透過した透過光210が水晶体310における入射光200の入射方向の手前側の表面310aで反射したときの反射光206によって形成される像である。第3のプルキンエ像123は、投影像130に対して上下方向及び上下方向に直交する左右方向において反転せず、互いに同じ向きになっている。第4のプルキンエ像124は、水晶体310の表面310aを透過した透過光215が水晶体310における入射光200の入射方向の奥側の表面310bで反射したときの反射光208によって形成される像である。第4のプルキンエ像124は、投影像130に対して上下方向及び上下方向に直交する左右方向において反転し、互いに逆向きになっている。
 
【0016】
  像データ実測部20は、第4のプルキンエ像124の輝度と大きさとを測定する。
図2に示すように、反射光204は、角膜302の表面302bから出射した後に表面302aを通って屈折するため、反射光202に対して傾斜する。但し、角膜302は非常に薄い(例えば、水晶体310の最大厚みに比べて薄い)ので、反射光202、204は互いに略平行であるといえる。一方、反射光208は、水晶体310の表面310bから出射した後に、表面310a、及び角膜302の表面302b、302aを順次通る度に屈折する。そのため、反射光208は、反射光202、204、206よりも反射光202に対して傾斜する。つまり、角膜302の表面302aを出射した反射光208(以下、単に反射光208という。)と入射光200とがなす角度θ4は、他の反射光202、204、角膜302の表面302aを出射した反射光206の各々が入射光200とがなす角度(図示略)の各々よりも大きい。
 
【0017】
  水晶体310は、硝子体330と隣り合っている。硝子体330は、水晶体310に対して入射光200の入射方向の奥側にある。即ち、第4のプルキンエ像124は、水晶体310の表面のうち硝子体330と隣り合う表面310bでの反射によって形成される像である。
 
【0018】
  図1に示すように、像データ実測部20は、例えば光源22と、光ファイバ24と、成形用フィルタ28と、撮像カメラ30と、を備える。光源22からは、少なくとも複数の互いに異なる波長を含む多色光を出射される。光ファイバ24の入力端は、光源22の出射部に接続されている。光源22は、例えば多色光として白色光を点灯可能な不図示のキセノンランプと、バンドパスフィルタと、を備える。光源22の内部におけるバンドパスフィルタの回転に伴い、キセノンランプの多色光のうち複数の互いに異なる波長λ1、・・・、λmの光IL1、・・・、ILmがバンドパスフィルタ透過を透過し、光ファイバ24に入力され、光ファイバ24の出力端25から出射される。mは、複数の互いに異なる波長の数を表し、2以上の自然数である。波長λ1、・・・、λmは、600nmと、400nm以上600nm未満の波長帯域内の少なくとも1波長と、を含むことが好ましい。
 
【0019】
  成形用フィルタ28は、板面が光ファイバ24の出力端25から出射された光IL1、・・・、ILmの光軸(
図1の破線)に対して略直交する姿勢で、光ファイバ24の出力端25から離れた位置に設けられている。成形用フィルタ28の中央部分には、例えば直径約3mmの孔が形成されている。光IL1、・・・、ILmは、成形用フィルタ28に形成されている孔を通り、所定の形状に成形される。光IL1、・・・、ILmは、進路上に配置された測定対象の眼350に照射される。
 
【0020】
  撮像カメラ30は、眼350における水晶体310の表面310bで反射された反射光RL1、・・・、RLmを受光し、波長λ1、・・・、λmごとの第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mを撮像する。撮像カメラ30で撮像された第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mに関する情報は、ケーブルを介してパソコン等の計算機40に送信される。
 
【0021】
  計算機40は、光学濃度算出部50、光学濃度推定部60及びスペクトル算出部70を備える。但し、
図1及び後述する
図3では、光学濃度算出部50、光学濃度推定部60、スペクトル算出部70及び水晶体310は省略されている。
 
【0022】
  光学濃度算出部50は、水晶体310によって形成され且つ撮像カメラ30で撮像された第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの輝度を実測輝度として測定する。また、光学濃度算出部50は、第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの大きさを実測サイズとして測定する。例えば、第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの実測輝度は、第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの各々の範囲内で輝度の平均値である。同じく第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの実測サイズは、
図3に例示したプロファイルの縦軸の最大値を1としたときの縦軸の1/2に相当する位置のプロファイルの幅(実測位置の距離)であり、
図3に例示したプロファイルの所謂半値全幅(full width at half maximum:FWHM)である。また、第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mの実測サイズは、
図3に例示したプロファイルの縦軸の最大値を1としたときの縦軸の1/e
2に相当する位置のプロファイルの幅(実測位置の距離)であってもよい。
 
【0023】
  光学濃度算出部50は、光学濃度が波長λ1、・・・、λmに寄らず略一定である眼の第4のプルキンエ像124−1、・・・、124−mについて、実測輝度及び実測サイズの各々と同じ算出方法によって算出された参照輝度及び参照サイズの情報を予め得ている。光学濃度算出部50は、波長λ1、・・・、λmの各々の実測輝度と参照輝度との比、及び、波長λ1、・・・、λmの各々の実測サイズと参照サイズとの比に基づいて、波長λ1、・・・、λmの各々における実測光学濃度AD
media(λ1)、・・・、AD
media(λm)を算出する。
 
【0024】
  光学濃度算出部50は、波長λ1、・・・、λmを含む所定の波長範囲について予め得られた複数の既知光学濃度分布のうち、波長λ1、・・・、λmの各々の複数の既知光学濃度FD
media(λ1)、・・・、FD
media(λm)の情報を予め得ている。所定の波長範囲は、例えば可視光の波長帯域であり、380nm以上780nm以下の範囲である。複数の既知光学濃度分布は、例えば対象者の年齢に応じた光学濃度分布である。光学濃度算出部50は、複数の既知光学濃度FD
media(λk)のうち、実測光学濃度AD
media(λk)との差が最も小さくなる既知光学濃度FD
media(λk)を推定光学濃度ED
media(λ)として推定する。kは、1からmまでの自然数である。
 
【0025】
  スペクトル算出部70は、所定の波長範囲の推定光学濃度ED
media(λ)に基づいて水晶体310の所定の波長範囲の透過率T(λk)を水晶体310の透過スペクトルT(λ)として算出する。
 
【0026】
  光学濃度算出部50、光学濃度推定部60及びスペクトル算出部70は、各々の処理内容を実行するプログラムとして構成され、計算機40に内蔵されている。
 
【0027】
  本発明を適用した一実施形態の水晶体の透過スペクトル推定方法は、次に説明する第1工程から第5工程を備える。
 
【0028】
  第1工程では、像データ実測部20を用いて、予め所定の波長範囲の光学濃度(既知光学濃度との区別のため、絶対光学濃度と称する)ZD
media(λk)が波長λ1、・・・、λmに寄らず略一定な(光学濃度が既知である)模擬眼を
図1の眼350の位置に設定する。入射光ILkを眼350に照射する。続いて、撮像カメラ30で反射光RLkを受光し、第4のプルキンエ像124−kを撮像する。ここで、模擬眼の第4のプルキンエ像124−kをプルキンエ像Ref[124−k]とする。撮像カメラ30で撮像されたプルキンエ像Ref[124−k]に関する情報を計算機40の光学濃度算出部50に送信する。
 
【0029】
  光学濃度算出部50では、プルキンエ像Ref[124−k]を
図3に示すように横軸が実測位置で縦軸が輝度であるグラフにプロットしたプロファイルとして表し、そのプロファイルの最大値と半値全幅とを求め、それぞれを参照輝度FL(λk)と参照サイズFW(λk)とする。なお、前述のプロファイルの実測位置は、撮像カメラ30のピクセル数で表される。前述のプロファイルの輝度は、撮像カメラ30の各ピクセルにおける明るさ即ち諧調によって表される。撮像カメラ30の各ピクセルと実測時の大きさとはキャリブレーションされ、撮像カメラ30の各ピクセルにおける明るさ即ち諧調と撮像カメラ30に入射する光の輝度もキャリブレーションされている。得られた参照輝度FL(λk)及び参照サイズFW(λk)は、計算機40の記憶部45又は任意のデータベース等に記憶される。
 
【0030】
  次に、第2工程では、水晶体310によって形成される複数の互いに異なる波長λkの第4のプルキンエ像124−kの輝度を複数の波長λkごとに実測輝度AL(λk)として測定し、第4のプルキンエ像124−kの大きさを複数の波長λkごとに実測サイズAW(λk)として測定する。
 
【0031】
  詳しく説明すると、対象者の眼を
図4の眼360の位置に設定し、
図4に示すように眼360の視野内に注視物体90を配置する。つまり、推定システム10では、入射光(複数の互いに異なる波長の光)ILkの入射方向において水晶体310よりも後側に注視物体90が配置される。
 
【0032】
  続いて、像データ実測部20を用いて、第1工程と同様に、成形用フィルタ28を作動させ、入射光ILkを眼350に照射する。撮像カメラ30で反射光RLkを受光し、第4のプルキンエ像124−kを撮像する。ここで、対象者の眼の第4のプルキンエ像124−kをプルキンエ像Meas[124−k]とする。撮像カメラ30で撮像されたプルキンエ像Meas[124−k]に関する情報を計算機40の光学濃度算出部50に送信する。
 
【0033】
  続いて、プルキンエ像Meas[124−k]を
図3に示すように横軸が実測位置で縦軸が輝度であるグラフにプロットしたプロファイルとして表し、そのプロファイルの最大値と半値全幅とを求め、それぞれを実測輝度AL(λk)と実測サイズAW(λk)とする。
 
【0034】
  次に、第3工程では、
図5に示すように光学濃度算出部50において、複数の波長λk(k=1〜m)の各々の実測輝度AL(λk)と予め得られた参照輝度FL(k)との比と、複数の波長λkの各々の実測サイズAW(λk)と予め得られた参照サイズFW(λk)との比とに基づいて、対象者の眼の水晶体310の複数の波長λkの各々における実測光学濃度AD
media(λk)を算出する。
 
【0035】
  詳しく説明すると、光学濃度算出部50において、次に示す(1)式を用いて実測輝度AL(λk)、参照輝度FL(λk)、実測サイズAW(λk)及び参照サイズFW(λk)から実測光学濃度AD
media(λk)を算出する。
 
【0037】
  次に、第4工程では、光学濃度推定部60において、複数の波長λkの各々の実測光学濃度AD
media(λk)と、所定の波長範囲について予め得られた1種類以上の既知光学濃度FD
media(λk)のうち、所定の条件として「実測光学濃度AD
media(λk)との差が最も小さくなる」種類の既知光学濃度FD
media(λk)を推定光学濃度ED
media(λ)として推定する。
 
【0038】
  詳しく説明すると、例えば予め得られる1種類以上の既知光学濃度FD
media(λk)として、心理学・物理学的方法に基づいて求められたもの(例えば、J. van de Kraats et al., 2007参照)が挙げられる。この既知光学濃度FD
media(λk)は、2つの所定の群の係数:第1群の係数{d
RL(age)、d
TP(age)、d
LY(age)、d
LOUV(age)、d
LO(age)、d
neutral}、第2群の係数{M
RL(λ)、M
TP(λ)、M
LY(λ)、M
LOUV(λ)、M
LO(λ)}によって、次に示す(2)式のように表される。
 
【0040】
  (2)式の波長λに波長λk(k=1〜m)の各々を代入することで、波長λkの各々の既知光学濃度FD
media(λk)を得る。(2)式からわかるように、変数である年齢ageを変更すると、変更した年齢ageの数と同数の既知光学濃度FD
media(λk)が得られる。そこで、波長λkの各々について、実測光学濃度AD
media(λk)との差が最も小さくなる既知光学濃度FD
media(λk)の年齢ageを算出し、その年齢ageを水晶体年齢AGEとする。光学濃度推定部60では、(2)式の年齢ageに水晶体年齢AGEを代入し、推定光学濃度ED
media(λ)を推定する。
 
【0041】
  次に、第5工程では、光学濃度推定部60において、所定の波長範囲の推定光学濃度ED
media(λ)に基づいて眼360の水晶体310の所定の波長範囲の透過率T(λ)を水晶体310の透過スペクトルとして算出する。
 
【0042】
  詳しく説明すると、光学濃度推定部60では、(2)式の年齢ageに推定年齢AGEを代入し、第1群の係数を全て定数化した既知光学濃度FD
media(λk)を推定光学濃度ED
media(λ)とする。推定光学濃度ED
media(λ)は、任意の波長λのみで求まる関数である。透過率T(λ)は、推定光学濃度ED
media(λ)によって次に示す(3)式のように表される。
 
【0044】
  所定の波長範囲が前述のように可視光の波長帯域であり、380nm以上780nm以下の範囲であれば、横軸に少なくとも380nmから780nmまでの波長をとり、縦軸に(3)式で表される透過率T(λ)をプロットすると、水晶体310の透過スペクトルが図示される。
 
【0045】
  以上の各工程を行うことによって、少なくとも所定の波長範囲に含まれる任意の波長λについて、対象者の眼360の水晶体310の透過スペクトルが算出される。
 
【0046】
  以上説明した本実施形態の推定システム10によれば、像データ実測部20によって対象者の眼360の水晶体310から光学的に形成されるプルキンエ像Meas[124−k]に基づき、光学濃度算出部50、光学濃度推定部60及びスペクトル算出部70の各々での計算を経て、任意の波長λにおける水晶体310の透過率T(λ)、即ち水晶体310の透過スペクトルが算出される。つまり、眼360に複数の波長λkの光を照射でき且つプルキンエ像Meas[124−k]を撮像さえできれば、対象者の感覚に頼らず且つ簡便に、水晶体310の透過スペクトルを算出できる。
 
【0047】
  また、本実施形態の推定システム10によれば、既知光学濃度FD
media(λk)は、前記所定の波長範囲内の波長λkごとの水晶体310の水晶体年齢AGEと水晶体年齢AGEに応じた第1群の係数(所定の係数){d
RL(AGE)、d
TP(AGE)、d
LY(AGE)、d
LOUV(AGE)、d
LO(AGE)、d
neutral}とに基づいて算出される。つまり、プルキンエ像Meas[124−k]から実測輝度AL(λk)と実測サイズAW(λk)が得られれば、前述の(1)式から(3)式に従って水晶体310の水晶体年齢AGEを算出すると共に水晶体310の透過スペクトルを簡便に算出できる。
 
【0048】
  また、本実施形態の推定システム10によれば、プルキンエ像Meas[124−k]、Ref[124−k]は、水晶体310の表面のうち硝子体330と隣り合う表面310bでの反射によって形成される像である。そのため、プルキンエ像Meas[124−k]の実測輝度AL(λk)及び実測サイズAW(λk)の双方に水晶体310の光学濃度が良好に反映され、推定光学濃度ED
media(λ)及び水晶体310の透過スペクトルを高精度に算出できる。また、
図1及び
図3に例示したように入射光ILkの光軸と反射光RLkの光軸との角度θ4を確保できる。このことによって、像データ実測部20の光源22、光ファイバ24、成形用フィルタ28や撮像カメラ30を配置しやすくなる。
 
【0049】
  また、本実施形態の推定システム10によれば、複数の互いに異なる波長λkは、600nmと、400nm以上600nm未満の波長帯域内の少なくとも1波長とを含む。この場合、複数の波長λkには、例えば基準波長とする600nmと、600nmよりも短い波長範囲(即ち、光学濃度が高く、加齢変化が大きい範囲)とが含まれる。そのため、光学濃度の高い波長範囲において、他の波長範囲を用いる場合よりも水晶体310の水晶体年齢AGE及び水晶体310の透過スペクトルを正確に算出できる。なお、600nm程度の波長であれば、水晶体の光学濃度の加齢変化が小さく、光学濃度の年齢差が零に近いため、基本的には基準波長を600nm以上の可視波長とすることが好ましい。但し、基準波長は被験者の条件等に応じて適宜設定変更してもよい。
 
【0050】
  また、本実施形態の推定システム10によれば、水晶体310に向けて複数の波長λkの入射光ILkを照射する光源22をさらに備えることで、複数の波長λkに対して個別に光源等を用意する必要がなく、簡便に且つ省スペースで構成される。
 
【0051】
  また、本実施形態の推定システム10によれば、複数の波長λkの入射光ILkの入射方向において水晶体310よりも後側に、複数の波長λkのプルキンエ像Meas[124−k]を形成するための注視物体90が配置されたので、プルキンエ像Meas[124−k]の撮像時に、水晶体310の動きを略止め、プルキンエ像Meas[124−k]を安定させ、且つ複数の波長λkごとのばらつきや誤差を抑えることができる。
 
【0052】
  また、本実施形態の水晶体の透過スペクトル推定方法によれば、上述の推定システム10を用いて、少なくとも第2工程から第5工程までを行い、対象者の感覚に頼らず且つ簡便に、水晶体310の透過スペクトルを算出できる。
 
【0053】
  以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
 
【0054】
  例えば、上述の各実施形態において、複数の互いに異なる波長の数は少なくとも2つあればよく、8つ程度であることが好ましいが、2つ以上であれば特に限定されない。また、上述の実施形態では、複数の既知光学濃度FD
media(λk)として、(2)式で表されるものを用いたが、任意の波長の関数として表される光学濃度であれば(2)式で表されるものに限定されず用いることができる。
 
【0055】
  また、上述の推定システム10では、複数の波長λ1、・・・、λmの光を出射可能な光源22と、波長λ1、・・・、λmごとのプルキンエ像(像)を取得可能な撮像カメラ30があり、光源22から出射される入射光ILkの進行方向及び撮像カメラ30の撮像方向との角度θ4を確保できれば、光源22及び撮像カメラ30と眼350、360との距離は特に限定されず、眼350、360に対する光源22及び撮像カメラ30の相対配置は制限されない。例えば、ヘッドマウントディスプレイの内側、即ちヘッドマウントディスプレイの筐体内部に、光源22及び撮像カメラ30が角度θ4を確保できる相対配置で設けられてもよい。
 
【0056】
  また、上述の推定システム10及び水晶体の透過スペクトル推定方法において、プルキンエ像の取得時間は、光源22から互いに異なる波長の入射光ILkを出射させる時間に依存する。光源22におけるバンドパスフィルタの回転時間(即ち、切り替え時間)が短縮され、それに伴い撮像カメラ30のフレームレートが短縮される程、プルキンエ像の取得時間を短縮でき、より高速に水晶体の透過スペクトルを推定できる。
 
【0057】
  上述の実施形態の水晶体の透過スペクトル推定方法では、参照輝度FL(λk)と参照サイズ(λk)の一例として各波長λkにおける模擬眼の第4プルキンエ像の輝度と大きさとを取得した。しかしながら、本発明に係る水晶体の透過スペクトル推定方法では、参照輝度FL(λk)と参照サイズ(λk)は、実測光学濃度AD
media(λk)を算出可能とするものであればよく、模擬眼の第4プルキンエ像の輝度と大きさに限定されない。実測光学濃度AD
media(λk)は眼に入射した各波長λkの光の強度が例えば第4プルキンエ像として反射される前にどれだけ減衰したかを示す物理量であるから、参照輝度FL(λk)及び参照サイズ(λk)は、複数の波長λ1〜λmを含む所定の波長帯域において光学濃度が波長に寄らず略一定なもので形成される像の輝度及び大きさであればよく、例えば所定の波長帯域において所定の光学濃度を有する部材によって形成される像の輝度及び大きさであってもよい。
 
【0058】
  上述の推定システム10では、光源22から出射された光が光ファイバ24によって導かれ、光ファイバ24から眼350、360への入射光ILkとして出射される。しかしながら、第4のプルキンエ像124を撮影できれば、推定システム10において複数の波長の入射光ILkを眼350、360に入射させるための構成は、特に限定されない。例えば、光源22に波長λ1、・・・λmの各々の光を発するLEDが設けられれば、バンドパスフィルタやカラーフィルタは不要である。また、光源22にLEDを用いることで、光源22から出射される光の強度を適度に低くすることができるため、カバー部材や孔が形成されたフィルタ等が不要である場合が考えられる。このことによって、推定システム10の小型化を図ることができる。
 
【実施例】
【0059】
  次いで、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0060】
  本実施例では、
図1及び
図4で説明した推定システム10を試作した。試作では、光源22として、市販のキセノンランプ(型番;MAX−301、朝日分光株式会社製)及び複数のカラーフィルタを用いた。本実施例では、第4のプルキンエ像124を取得するために、430nm、460nm、470nm、480nm、500nm、520nm、540nm、600nmの合計8つの波長に着目した。前述の8つの波長に対応するように、8つの市販のカラーフィルタ(型番;MX0430、MX0600等、朝日分光株式会社製)を用いた。
【0061】
  光ファイバ24として、市販のライトガイド(型番;UD0164、朝日分光株式会社製)を用いた。
図6に示すように、ライトガイドの出射端には、入射光ILkの進路上に直径3mmの正面視円形の孔が形成されたカバー部材を設けた。カバー部材を、黒に着色したスチレンボードで形成した。キセノンランプからは高強度の白色光が発せられるが、ライトガイドの出射端にカバー部材を設けることで、光源22からの光ILkの強度を適度に抑えて眼360に照射できる。本実施例では、前述のようにk=8である。
【0062】
  撮像カメラ30として、市販のCMOSカメラ(型番;BFS−U3−32S4M−C、FLIR  Systems,Inc.製)を用いた。CMOSカメラの受光部に、焦点距離50mm、開口数0.018の市販の固定焦点レンズ(型番;TECHSPEC  C  series  50mm  VIS−NIR、エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社製)を設けた。
図4に示す注視物体90には、電球色の発光ダイオード(LED)(順方向電圧VF=3.2V、順方向電流IF=20mA、光度IV=18000mcd)を用いた。
【0063】
  前述した水晶体の透過スペクトル推定方法に基づき、試作した推定システム10を用いて、20歳から34歳までの若年齢層(Young)の被験者10名と、35歳から49歳までの中年齢層(Middle)の被験者9名と、50歳から70歳までの高年齢層(Older)の7名との合計26名の被験者の水晶体の透過スペクトルを推定した。
図7は、ある被験者の眼によって形成された第1のプルキンエ像、第3のプルキンエ像及び第4のプルキンエ像の一例である。試作した推定システム10では、カバー部材に形成された孔の直径が小さくなるに従って第1のプルキンエ像、第3のプルキンエ像及び第4のプルキンエ像が互いに離れて識別し易くなる一方、第4プルキンエ像が非常に小さくなる。カバー部材に形成された孔の直径は3mmに限定されないが、一例として3mmとした場合、
図7に示すように第1のプルキンエ像、第3のプルキンエ像及び第4のプルキンエ像をそれぞれ識別できるように互いに分離させ、且つ第4のプルキンエ像を感知できることがわかる。
【0064】
  26名の各被験者の眼360によって形成された第4のプルキンエ像Meas[124−k]を撮影し、第4のプルキンエ像Meas[124−k]に関する情報に基づいて実測輝度AL(λk)及び実測サイズAW(λk)を測定した。また、光学濃度が可視波長帯域の波長に寄らず一定の市販の模擬眼を用いて参照輝度FL(λk)及び参照サイズFW(λk)を測定した。
【0065】
  次に、前述の(1)式に基づいて、各被験者について実測光学濃度AD
media(λk)を算出した。即ち、本実施例では、各被験者についてAD
media(430nm)、AD
media(460nm)、AD
media(470nm)、AD
media(480nm)、AD
media(500nm)、AD
media(520nm)、AD
media(540nm)、AD
media(600nm)の8つの実測光学濃度を算出した。
図8に、各年齢層(Young、Middle、Older)の被験者について前述の8つの波長の各々のAD
media(λk)を算出した結果を標準偏差のエラーバー形式で示す。なお、
図8では、実測光学濃度AD
media(λk)の標準偏差のエラーバーが年齢層同士で重ならないように、若年齢層については負方向に、中年齢層及び高年齢層については正方向に表示した。
【0066】
  続いて、光学濃度推定部60において、前述の(2)式の波長λに波長λk(k=1〜8、即ち430nm、460nm、470nm、480nm、500nm、520nm、540nm、600nmの8つの波長)の各々を代入することで、波長λkの各々の既知光学濃度FD
media(λk)を得た。各被験者の前述の8つの波長の各々での実測光学濃度AD
media(λk)との差が最も小さくなる既知光学濃度FD
media(λk)の年齢ageを算出し、水晶体年齢AGEとした。
【0067】
  続いて、光学濃度推定部60において、各被験者について求めた水晶体年齢AGEを前述の(2)式に代入し、推定光学濃度ED
media(λ)(λ=430nm〜600nm)を推定した。推定光学濃度ED
media(λ)は(2)によって求まるので、波長λに依存する連続関数として被験者ごとの推定光学濃度ED
media(λ)を得た。
図9には、年齢層ごとの水晶体の透過スペクトルの変化の傾向を見るために各年齢層の推定光学濃度ED
media(λ)の平均値を算出した結果を示す。
【0068】
  続いて、算出した各年齢層の平均的な推定光学濃度ED
media(λ)を前述の(3)式に代入し、各年齢層の複数の被験者の水晶体の透過率T(λ)(以下、平均透過率T
AVE(λ)とする。)を算出した。
図10に、各年齢層の380nm以上700nm以下の可視波長帯域の平均透過率T
AVE(λ)、即ち各年齢層の複数の被験者の可視波長帯域における水晶体の平均的な透過スペクトルを算出した結果を示す。
【0069】
  以上説明したように、本実施例では、前述した水晶体の透過スペクトル推定方法に基づき、3つの年齢層の合計26名の各被験者の水晶体の第4プルキンエ像を取得することによって、3つの年齢層の水晶体の平均的な透過スペクトルを算出した。
図10に示す3つの透過スペクトルから、年齢層による水晶体の透過スペクトルの変化の傾向を読み取ることができる。
【0070】
  例えば、
図10に示すように、400nmから700nmの波長帯域全体において、若年齢層(Young)に比べて中年齢層(Middle)の方が水晶体の平均透過率T
AVE(λ)が低く、さらに中年齢層(Middle)に比べて高年齢層(Older)の方が水晶体の平均透過率T
AVE(λ)が低かった。このことから、既に知られているように、水晶体の光学濃度は加齢に伴って増加することが示された。しかしながら、本実施例では、
図10に示すように、若年齢層と中年齢層との平均透過率T
AVE(λ)の差、及び中年齢層と高年齢層との平均透過率T
AVE(λ)の差をそれぞれ380nm以上700nm以下の可視波長帯域にわたって定量的に透過スペクトルとして得ることができた。このことによって、若年齢層と中年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差が380nm以上700nm以下の可視波長帯域において一定ではないことがわかり、同様に若年齢層と中年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差が380nm以上700nm以下の可視波長帯域において一定ではないことがわかった。また、同じ波長λにおいて、若年齢層と中年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差に比べて中年齢層と高年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差が大きいこと、及び若年齢層と中年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差と中年齢層と高年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差との違いが380nm以上700nm以下の可視波長帯域において一定ではないことがわかった。特に、450nm以上500nm以下の可視波長帯域では、他の可視波長帯域に比べて、中年齢層と高年齢層との水晶体の平均透過率T
AVE(λ)の差が大きくなった。このことから、赤色や緑色の可視光に比べて青色の可視光に対して高年齢層の水晶体の光学濃度が高まるという傾向が得られた。
【0071】
  上述のように、本実施例の結果から、上述の水晶体の透過スペクトル推定方法によれば、複数の所定の波長の第4プルキンエ像を撮影してから、単に所定の波長の水晶体の光学濃度を得るに留まらず、所定の波長を含む可視波長帯域における水晶体の透過スペクトルを算出できることを確認した。可視波長帯域の透過スペクトルを得ることによって、各年代層の水晶体の透過スペクトルの変化に反映される被験者の視覚的な機能及び非視覚的な機能を把握し、被験者に適した診断や生活環境及び使用する補助器具等の提案を行うことができる。
【0072】
  なお、本実施例では、年齢層ごとの水晶体の透過スペクトルの変化の動向を検討するために、各年齢層において複数の被験者の8つの波長の各々での推定光学濃度ED
media(λ)の平均値を算出した。但し、例えば同じ年齢層の中でも被験者個人ごとの水晶体の透過スペクトルの変化を知りたい場合は、各被験者につき8つの波長の各々で推定した推定光学濃度ED
media(λ)に基づいて(3)式から被験者ごとの透過率T(λ)を算出してもよい。そのことによって、各被験者の水晶体の透過スペクトルを算出でき、各被験者における水晶体の透過スペクトルの年代による変化や変化の要因と生活習慣等との関連性を調べることができる。