【実施例1】
【0016】
実施例1の医用画像処理方法及び医用画像処理装置は、経カテーテル大動脈弁置換術の周術期の臨床的管理に極めて有用な医用画像処理方法及び医用画像処理装置である。なお、周術期は、入院、麻酔、手術、回復といった、手術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間を指す。
【0017】
{構成}
図1は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の構成例である。本実施例の医用画像処理装置1は、医用画像診断装置2とネットワークを介して接続されているが、画像処理する3次元画像データ(例えばDICOM(ダイコム:Digital Imaging and Comunications in Medicine)等のフォーマットのデータ)をUSB等で入力して画像処理を行うスタンドアローンの装置であってもよい。ネットワークとしては、例えば、LAN等の院内ネットワークを含むがこれに限定されない。医用画像処理装置1に接続される医用画像診断装置2は、3Dグラフィックスデータを生成できるコンピュータ断層撮影装置、あるいはコンピュータ断層撮影装置から被検体の医用画像を取得して3次元画像データを生成する装置(CT再構成PC等)でもよい。本実施例では、医用画像診断装置2は、コンピュータ断層撮影装置で撮影した造影CT検査撮像から生成した3Dグラフィックスデータを解析する既存の3DCT解析ソフト(例えば、ZIO(登録商標)、VINCENT(登録商標)、その他の解析ソフト等)を搭載している。また、本実施例では、医用画像処理装置1にも、上述した既存の3DCT解析ソフトを搭載しており、医用画像診断装置2で作成された3次元画像データをさらに画像処理することができるが、かかるソフトを搭載したコンピュータが医用画像処理装置とネットワークを介して接続されており、医用画像処理装置の操作により画像処理するものであってもよい。
【0018】
互いに直交する2軸方向の画像で構成される2次元グラフィックスデータをそれらの軸に直交する第3の軸方向で多数重ね合わせたデータも、3Dグラフィックスデータに含む。医用画像処理装置1は、3DCT解析ソフトにより、連続した複数の時刻の3Dグラフィックスデータから、同じ場所について異なるフェーズ(時相)の状態を表示させ、適時のフェーズの3Dグラフィックスデータを選択して観察できる。
【0019】
医用画像処理装置1は、制御・演算を行うCPU(Central Processing Unit)11と、I/F(インターフェース)12と、各種データやプログラムを記憶するメモリ13と、表示手段としてのディスプレイ14とを有する。I/F12、メモリ13、ディスプレイ14は、いずれもCPU11に接続されている。
【0020】
医用画像処理装置1は、I/F(インターフェース)12から取得した3次元画像データをメモリ13に記憶する。メモリは医用画像処理装置1の外部のサーバ装置等に設けてもよい。医用画像処理装置1は、例えばワークステーション等のコンピュータで、記憶した3次元画像データに対して画像処理を行う。
【0021】
I/F12は、例えば、ネットワークを介して医用画像診断装置2と接続するためのネットワークインターフェース、あるいは、データを記憶したUSBやDVD等を接続するコネクタ、利用者に情報を入力させる入力手段(例えば、キーボードやマウスやタッチパネル等のユーザーインターフェース)を含んでもよい。
【0022】
メモリ13は、例えば、RAMやフラッシュメモリ、ハードディスク等でもよい。
【0023】
ディスプレイ14は、例えば、モニターやタッチパネル等でもよく、CPU11によって出力される各種のデータを表示する。
【0024】
CPU11は、キーボード等の入力手段により利用者によって入力された操作に応じて、医用画像処理装置1のI/F12とメモリ13とディスプレイ14等を制御する。
【0025】
CPU11は、計測フェーズ決定手段と同定手段と計測手段と比率算出手段と判定手段とを備える。
【0026】
具体的には、医用画像処理装置1は、多数のフェーズにおいて撮影された被検体の心臓の3Dグラフィックスデータに基づいて、左冠尖33と右冠尖32と無冠尖31とからなる3つの弁尖の各最底部を結んだフェーズ計測面で大動脈弁輪の面積が最大となるフェーズを計測フェーズとして決定する計測フェーズ決定手段と、計測フェーズと同じフェーズで、かつフェーズ計測面と平行な面で、かつバルサルバ洞34の断面積が最大となる位置で、バルサルバ洞34の断面と、バルサルバ洞34の断面を含み右心室5と肺動脈8と左心房6とに囲まれた領域と、を同定する同定手段と、バルサルバ洞34の断面の面積Aと、バルサルバ洞34の断面を含み右心室と肺動脈と左心房とに囲まれた領域の面積Bとを計測する計測手段と、(面積B−面積A)/面積Aの値を算出する比率算出手段と、(面積B−面積A)/面積Aの値が0.495未満であるか否かを判定する判定手段と、を備える。
【0027】
ここで、上行大動脈の左心室側(大動脈口側)を底側とする。大動脈弁は上述した左冠尖と右冠尖と無冠尖の3つの弁尖からなる。
【0028】
次に、具体的な処理方法について説明する。
図2は、本発明の医用画像処理方法の実施例1のフローチャートである。
【0029】
例えば重症の大動脈弁狭窄症である患者等の被検体について、コンピュータ断層撮影装置によって、左室拡張末期であるR波(0%)から次の心拍のR波(100%)までのうち、5%毎に撮影された多数の造影CT検査撮像から、CT再構成PCが生成した3Dグラフィックスデータ(DICOMデータ)は、ネットワークを介して医用画像処理装置1のI/F12からメモリ13に記憶される。医用画像処理装置1への入力方法は、ネットワーク経由の他、USBやDVD等による入力でもよい。ネットワーク経由の場合、技師によるCT再構成PCによる操作で所定の医用画像処理装置1にデータを送信してもよいし、技師による医用画像処理装置1の操作で所定のCT再構成PCからデータを送信させてもよい。
【0030】
(ステップ100:同定ステップ)
医用画像処理装置1は、ユーザー(医師・技師等)によるキーボードとマウス等のユーザーインターフェースの入力操作を受け付け、同定手段により、メモリ13から、画像処理を行う被検体の心臓の3Dグラフィックスデータを選択して呼び出し、大動脈弁周辺の画像を左心室側が画面下側になるようにディスプレイ14に表示して、大動脈弁周辺の領域において、上行大動脈3と左心室4との接合部分(左心室流出路付近)の領域を同定する。
図3は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の同定手段による同定の一例を示す図(上行大動脈と左心室との接合部分)である。ディスプレイ14には、上行大動脈と左心室との接合部分の縦断面が同定された箇所の画像として表示される。その際、房室結節があるとされる場所9が右心房6と左心室4との間に表示されることになる。大動脈弁が拡張することにより、左室流出部の無冠尖(non coronary cusp:NCC)側にある刺激伝導系が圧迫を受け、障害されてしまうことが房室ブロックの原因といわれている。
【0031】
(ステップ200:計測フェーズ決定ステップ)
次に、医用画像処理装置1は、ユーザーによるキーボードとマウス等のユーザーインターフェースの入力操作を受け付け、計測フェーズ決定手段により、ディスプレイ上で、左室拡張末期であるR波(0%)から次の心拍のR波(100%)までのうち、5%毎に撮影した一連のフェーズを含む画像を表示し、一連のフェーズの中で大動脈弁輪の断面積が最大となるフェーズとなる時刻を計測フェーズとして決定する。
【0032】
本実施例では、左冠尖33(
図3では裏側に隠れている)と右冠尖32と無冠尖31の各最底部を結んだ面(
図3における補助線K−Kの箇所)を、大動脈弁輪の断面積が最大となるフェーズを計測する面として用いる。補助線K−Kは、ユーザーの操作又は3D解析ソフトの自動解析操作をおこなうことにより、作成して表示する。本実施例では、ユーザーによる目視でディスプレイに表示された画像から三尖弁(左冠尖・右冠尖・無冠尖)のうち表示された弁(
図3では右冠尖32と無冠尖31)の各最底部(本実施例では上行大動脈の左心室側(左心室流出路側)を底側とする)を結ぶ補助線K−Kを描かせるが、医用画像処理装置1が、左冠尖33と右冠尖32と無冠尖31の各最底部を結んだ面を1又は複数の3Dグラフィックスデータから自動計算して、左冠尖33と右冠尖32と無冠尖31の各最底部を結んだ面のうち、
図3で示した画像に表われる該当部分を補助線K−Kとして表示するものであってもよい。心臓の1連の脈動の中で大動脈弁輪の断面積が最大となるフェーズは、本実施例では、同定された箇所における複数の時刻に撮影した画像から、補助線K−Kの箇所で表示された大動脈弁輪の幅の長さが最大であるものを断面積が最大と推定してユーザーが選択して計測フェーズが決定されるが、同定された位置における複数の時刻に撮影した画像において、補助線K−Kの箇所の大動脈弁輪の幅の長さを自動計算して最大のものを断面積が最大と推定し、その時刻で計測フェーズが決定されるものでもよい。あるいは、同定された箇所における複数の時刻に撮影した画像において、補助線K−Kの箇所の大動脈弁輪の断面積を自動計算して最大となる時刻で計測フェーズが決定されるものでもよい。
【0033】
(ステップ300:補助線表示ステップ)
さらに、医用画像処理装置1は、ユーザーによるキーボードとマウス等のユーザーインターフェースの入力操作を受け付け、同定手段により、ディスプレイ14で、計測フェーズにおいて、バルサルバ洞34の断面積が最大となる位置に、補助線K−Kと平行な補助線S−Sを作成して表示する(
図3参照)。バルサルバ洞34は、上行大動脈の起始部(左心室流出路付近)にある膨らんだ部分で、三尖弁のうち表示された弁(
図3では右冠尖32と無冠尖31)が上行大動脈3の側面方向に最も張り出した部分が、バルサルバ洞34の断面積が最大となる位置となる。本実施例では、ユーザーによる目視でディスプレイに表示された画像から三尖弁のうち表示された弁(
図3では右冠尖32と無冠尖31)が上行大動脈3の側面方向に最も張り出した部分を結ぶ補助線S−Sを、補助線K−Kと平行に描かせるが、医用画像処理装置1が、バルサルバ洞34の断面積が最大となる位置を1又は複数の3Dグラフィックスデータから自動計算して、
図3で示した画像に表われる該当部分に補助線K−Kと平行に補助線S−Sとして表示するものであってもよい。
【0034】
(ステップ400:面積A計測ステップ)
次に、医用画像処理装置1は、同定手段により、ステップ201で作成された補助線S−Sを含む面をディスプレイ14に表示する。
図4は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の同定手段による同定の一例を示す図(
図3におけるS−S断面)である。
【0035】
さらに、医用画像処理装置1は、同定手段により、計測フェーズにおいて、バルサルバ洞の断面積が最大となる部分でのバルサルバ洞(範囲a)の外周を同定する。本実施例では、計測手段により、ユーザーによるキーボードとマウス等のユーザーインターフェースの入力操作を受け付け、その選択により範囲aの外周を決定するが、画像上におけるコントラスト(電位差)等から範囲aの外周を自動検出してもよい。
【0036】
図5は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の計測手段による面積A計測例を示す図である。決定された外周で囲まれた部分の面積、すなわち範囲aの面積Aを自動計算で算出する。最終的に比のみ用いるため、面積についてその単位は問わない。範囲bについては後述する。
【0037】
(ステップ500:面積B計測ステップ)
次に、医用画像処理装置1は、同定手段により範囲bを同定する。
図6は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の同定手段による同定の一例を示す図である。範囲bは、計測フェーズと同じフェーズで、かつフェーズ計測面と平行な面で、かつバルサルバ洞の断面積が最大となる位置で、バルサルバ洞の断面を含み右心室と肺動脈と左心房とに囲まれた領域である。範囲bは範囲aを含み、さらに周囲の領域を含むものである。かかる領域は、円弧を描くように、かつ経カテーテル大動脈弁置換術により置換した弁が拡張した際に圧迫を受ける範囲として外周を決定する。
【0038】
図7は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の計測手段による面積B計測例を示す図である。本実施例では、計測手段により、ユーザーによるキーボードとマウス等のユーザーインターフェースの入力操作を受け付け、その選択により範囲bの外周を決定するが、画像上におけるコントラスト(電位差)等から範囲bの外周を自動検出してもよい。決定された外周で囲まれた部分の面積、すなわち範囲bの面積Bを自動計算で算出する。最終的に比のみ用いるため、面積についてその単位は問わない。範囲bの領域から範囲aの領域を差し引いた領域をPeri Valsalva Area:PVAとした。
【0039】
(ステップ600:比率算出ステップ)
次に、医用画像処理装置1は、比率算出手段により、医用画像処理装置1は、ステップ400で算出された面積Aとステップ500で算出された面積Bから、(面積B−面積A)/面積Aの値を算出する。PVAの面積が(面積B−面積A)である。
図8は、本発明の医用画像処理装置の実施例1の比率算出手段による算出方法を示す図である。これにより、バルサルバ洞がその周囲を含んだ領域の中でどのくらいの割合を占めるかが分かる。本発明者は、試行錯誤の研究を重ねた結果、(面積B−面積A)/面積Aの値(=Peri Valsalva Area Ratio:PVARという)によってペースメーカー依存性が異なることを見いだし、バルサルバ洞の周辺領域に空間が十分あれば圧力がその領域内に分散するので房室結節9への圧力が軽減され完全房室ブロックが発生しにくくなり、ペースメーカー依存性が低くなるのではないかと仮説を立てて、画像処理によりペースメーカー依存性が分かる装置を発明したものである。
【0040】
(ステップ700:判定ステップ)
次に、医用画像処理装置1は、判定手段により、医用画像処理装置1は、(面積B−面積A)/面積Aの値が0.495未満であるか否かを判定する。多数の被検体について、術後半年後を観察終了時点としてコックス回帰モデルを適用し解析した本発明者の研究により、PVARすなわち{(面積B−面積A)/面積A}が0.495未満でペースメーカー依存性があり、経カテーテル大動脈弁置換術の手術後、ペースメーカーがずっと必要となると判断できることが分かり、PVARすなわち{(面積B−面積A)/面積A}が0.495以上でペースメーカー依存性がなく、経カテーテル大動脈弁置換術の手術後、自己調律に復帰し、ペースメーカーが必要なくなると判断できることが分かった。本実施例の医用画像処理装置1は、PVAR<0.495でペースメーカー依存性があるとして、ディスプレイ14にその旨表示する。ユーザーは、その表示を見て、ペースメーカー依存性を判断することができる。
【0041】
図9は、本発明の医用画像処理方法における治験グラフである。ペースメーカー埋込術(Pacemaker Implantation:PMI)を施行していない群をPMI(−)群、施行した群をPMI(+)群とし、PMI(+)群の中でペーシング率が1%より大きい症例をpacing(+)群、1%未満の症例をpacing(−)群とした。PVAR<0.495で、有意差を持ってペースメーカー依存性がある。
【0042】
発明者らによる研究ではペースメーカー植え込み後の作動状況を確認すると、その約60%の患者は経過中自己脈が回復し、ペースメーカー依存性は必ずしも高いものではないと考えられる。一方で、今後、若年者にも経カテーテル大動脈弁置換術の適用が拡大される可能性が高くなっていることもあり、全体としてペースメーカー依存性が高くなくても周術期にペースメーカー依存性の有無について知りたいという希望が高まりうる。
【0043】
{効果}
本実施例によれば、経カテーテル大動脈弁置換術術後のペースメーカー依存性が周術期に推定できる。本実施例によれば、複雑な測定や計算を行う必要がなく、算出されたPVARの値が一定の数値以上か未満かのみでペースメーカーの要否が分かるので利便性が高い。
【0044】
本実施例によれば、術前にペースメーカー依存性を把握できるため、経カテーテル大動脈弁置換術の周術期の臨床的管理に極めて有用と考えられる。例えば、PVARが0.495以上であれば、感染症発生率が極めて低いリードレスペースメーカーを選択したり、ペースメーカーをVVIモードで埋め込んだりすることを選択できる。したがって、PVARの判定結果に基づいて、より適切な治療戦略を取ることができるようになる。さらに、経カテーテル大動脈弁置換術の分野のみならず、不整脈分野の発展にも大きな役割を果たす可能性がある。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記各実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。