【解決手段】未施工部3に対応する配管1の外面部1bを施工温度まで加熱する加熱工程と、未施工部3に樹脂ライニング材が溶融した溶融ポリエチレン(下地層)12を作製する下地層作製工程と、溶融ポリエチレン12の表面に樹脂ライニング材としての粉体13またはシート23を追加して溶融させる溶融工程と、粉体13またはシート23が溶融して溶融ポリエチレン12と一体化した後に配管1の外面部1bに空気を供給して冷却する冷却工程とを有する。
前記冷却工程は、前記配管の外面に流体を供給して前記樹脂ライニング材を前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点以下まで冷却することを特徴とする請求項1に記載の樹脂ライニング施工方法。
前記冷却工程は、前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点までの冷却時間を3分から10分の範囲に設定し、前記配管の外面から冷却することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂ライニング施工方法。
前記冷却工程は、前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点までの冷却時間を5分から8分の範囲に設定し、前記配管の外面から冷却することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂ライニング施工方法。
前記冷却工程は、前記配管の外面に対して垂直方向に流体を当てた後に前記配管の周方向に沿って流体を流して冷却することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の樹脂ライニング施工方法。
前記冷却工程は、前記未施工部に施工された樹脂ライニング面の配管軸方向および配管周方向の範囲より広い範囲の外面に流体を供給して冷却することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の樹脂ライニング施工方法。
前記冷却工程は、冷却用フードを前記配管の外面に軸方向および周方向の所定の範囲にわたって配置し、送風機を作動して流体としての空気を送風用ダクトから前記冷却用フードに供給し、前記配管の外面に対して垂直方向に流体を当てた後に前記配管の周方向に沿って流体を流して冷却することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の樹脂ライニング施工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の樹脂ライニング施工方法では、下地層表面に樹脂ライニングシートを追加して所定時間、樹脂の融点以上に保持した後に徐冷している。すなわち、下地層表面に樹脂ライニングシートを熱融着一体化させた後、徐冷により樹脂ライニングシートを融点以下まで冷却して固化させている。ところが、溶融した樹脂ライニングシートを放冷により融点まで冷却すると、長い冷却時間を要することとなり、作業効率が良くないという課題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、ライニングの品質を確保した状態で作業効率の向上を図る樹脂ライニング施工方法および樹脂ライニングの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するための本発明の樹脂ライニング施工方法は、配管における内面の未施工部に樹脂ライニングを施工する樹脂ライニング施工方法であって、前記未施工部に対応する前記配管の外面を施工温度まで加熱する加熱工程と、前記未施工部に樹脂ライニング材が溶融した下地層を作製する下地層作製工程と、前記下地層の表面に樹脂ライニング材を追加して溶融させる溶融工程と、前記樹脂ライニング材が溶融して前記下地層と一体化した後に前記配管の外面に流体を供給して冷却する冷却工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
そのため、未施工部に対応する配管の外面を施工温度まで加熱し、未施工部に樹脂ライニング材が溶融した下地層を作製し、下地層の表面に樹脂ライニング材を追加して溶融させ、樹脂ライニング材が溶融して下地層と一体化した後に配管の外面に流体を供給して冷却することから、溶融状態の樹脂ライニングが供給された流体により強制的に冷却される。その結果、ライニングの品質を確保した状態で、溶融樹脂ライニングの施工時間を短縮して作業効率の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記配管の外面に流体を供給して前記樹脂ライニング材を前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点以下まで冷却することを特徴とする。
【0012】
そのため、配管の外面に流体を供給して樹脂ライニング材を施工温度から樹脂ライニング材の融点以下まで冷却することから、必要な時間だけ配管の外面に流体を供給して冷却することとなり、冷却時間を短縮することができると共に、流体を供給するための不要な駆動力の供給を抑制することができる。
【0013】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記流体の強制対流熱伝達率を30W/(m
2・K)から100W/(m
2・K)の範囲に設定し、前記配管の外面から冷却することを特徴とする。
【0014】
そのため、流体の強制対流熱伝達率を適正な範囲に設定することから、過剰な冷却による接着強さの低下を抑制することができると共に、過少な冷却による冷却時間の延長、すなわち、施工効率の低下および品質の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点までの冷却時間を3分から10分の範囲に設定し、前記配管の外面から冷却することを特徴とする。
【0016】
そのため、施工温度から樹脂ライニング材の融点までの冷却時間を適正な範囲に設定することから、溶融樹脂ライニングの施工時間を短縮して作業効率の向上を図ることができると共に、適正な接着強さを確保することができる。
【0017】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記施工温度から前記樹脂ライニング材の融点までの冷却時間を5分から8分の範囲に設定し、前記配管の外面から冷却することを特徴とする。
【0018】
そのため、施工温度から樹脂ライニング材の融点までの冷却時間をさらに適正な範囲に設定することから、溶融樹脂ライニングの施工時間を短縮して作業効率の向上を図ることができると共に、適正な接着強さを確保することができる。
【0019】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記配管の外面に対して垂直方向に流体を当てた後に前記配管の周方向に沿って流体を流して冷却することを特徴とする。
【0020】
そのため、配管の外面に対して垂直方向に流体を当てた後に配管の周方向に沿って流体を流すことから、配管の外面に供給された流体が配管の外面の周方向に沿って流れることとなり、配管における所定の範囲を効率良く冷却することができる。
【0021】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、前記未施工部に施工された樹脂ライニング面の配管軸方向および配管周方向の範囲より広い範囲の外面に流体を供給して冷却することを特徴とする。
【0022】
そのため、配管は加熱工程での熱伝導により未施工部を超えた領域まで加熱されることから、未施工部に施工された樹脂ライニングより広い範囲に流体を供給して冷却することで、配管を効率良く冷却することができる。
【0023】
本発明の樹脂ライニング施工方法では、前記冷却工程は、冷却用フードを前記配管の外面に軸方向および周方向の所定の範囲にわたって配置し、送風機を作動して流体としての空気を送風用ダクトから前記冷却用フードに供給し、前記配管の外面に対して垂直方向に流体を当てた後に前記配管の周方向に沿って流体を流して冷却することを特徴とする。
【0024】
そのため、送風機を作動して空気を送風用ダクトから冷却用フードに供給すると、配管の外面に対して垂直に当たった後、配管の外周の所定の範囲にわたって流体が配管の外周に沿って接触して冷却することとなり、配管を効率良く冷却することができる。
【0025】
本発明の樹脂ライニングの冷却装置は、配管における内面の未施工部に施工された樹脂ライニングを冷却する樹脂ライニングの冷却装置であって、前記配管の外面に軸方向および周方向の所定の範囲にわたって配置される冷却用フードと、長手方向の一端部が前記冷却用フードに連結される送風用ダクトと、前記送風用ダクトの他端部に連結されて流体を供給する送風機と、を備えることを特徴とする。
【0026】
そのため、送風機を作動して空気を送風用ダクトから冷却用フードに供給すると、配管の外面に所定の範囲にわたって流体が接触して冷却することとなり、配管を効率良く冷却することができる。その結果、ライニングの品質を確保した状態で、樹脂ライニングの施工時間を短縮して作業効率の向上を図ることができる。なお、送風機にインバータを設置し、適正な冷却速度に調整しやすいように、送風量を可変として良いことは言うまでもない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の樹脂ライニング施工方法および樹脂ライニングの冷却装置によれば、ライニングの品質を確保した状態で、作業効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0030】
本実施形態の樹脂ライニング施工方法について説明する。
図1は、本実施形態の樹脂ライニング施工方法を表すフローチャート、
図2は、樹脂ライニング施工方法による下地層作製工程を説明するための説明図、
図3は、樹脂ライニング施工方法に用いられる施工冶具を表す概略図、
図4は、樹脂ライニング施工方法の説明図である。
【0031】
本実施形態の樹脂ライニング施工方法は、現地(現場)で、配管における内面の未施工部に樹脂ライニングを施工する方法である。本実施形態の樹脂ライニング施工方法は、
図1に示すように、配管内面の未施工部を、対応する配管の外面から施工温度まで加熱する加熱工程S1と、未施工部に樹脂ライニング材を熱融着させて下地層を作製する下地層作製工程S2と、下地層の表面に樹脂ライニング材を追加して熱融着させる溶融工程(ライニング層厚調整工程S3、施工温度保持工程S4)と、追加した樹脂ライニング材が熱融着して下地層と一体化した後に配管の外面に流体を供給して冷却する冷却工程S5とを有する。
【0032】
本実施形態の樹脂ライニング施工方法にて、下地層を形成する樹脂ライニング材は、ポリエチレン製またはエチレン酢酸ビニル製の固形物である。ポリエチレンとして、直鎖低密度ポリエチレン(以下、PE−LLDと称す)を用いることが好ましい。PE−LLDとして、チーグラー触媒やメタロセン触媒などの触媒を用いて合成したものを用いることが可能である。チーグラー触媒で合成したPE−LLD(以下、チーグラーPEと称す)として、例えば、「スミカセン−L」(住友化学株式会社製)などがあるが、これに限定されるものではない。メタロセン触媒で合成したPE−LLD(以下、メタロセンPEと称す)として、例えば、「ユメリット」(宇部丸善ポリエチレン株式会社製)などがあるが、これに限定されるものではない。PE−LLDの密度(JIS K 7112)は、0.910g/cm
3〜0.950g/cm
3であることが好ましい。
【0033】
具体的に説明すると、
図1および
図2に示すように、配管1の内面部1aは、工場で工場施工部2A,2Bが樹脂ライニング施工されており、加熱工程S1にて、工場施工部2A,2Bにより囲まれる未施工部3を配管1の外面部1b側から加熱器31により所定の温度(以下、施工温度と称す)まで加熱(H)する。なお、配管1の内面部1aは、ブラスト処理されていることが好ましい。これにより、後述する下地層作製工程S2にて配管1の内面部1aに溶融ポリエチレン(溶融樹脂)12を容易に密着させることができる。配管1として、一般的に使用される金属製配管や炭素鋼配管を用いることが好ましく、コスト面などを考慮した場合には、炭素鋼配管を用いることがより好ましい。未施工部3として、工場では樹脂ライニング施工されていない箇所や、工場では樹脂ライニング施工されたがその後、樹脂ライニングが取り外された箇所などが挙げられる。また、加熱器31としては、誘導加熱、電気ヒータ加熱、ガスバーナ加熱などがあるが、適切な加熱方法を適宜選定すればよい。加熱器31として誘導加熱を用いた場合、加熱温度の変動が少なく、安定した加熱を実施することができる。
【0034】
ここで、上述した施工温度は、以下のように管理することが好ましい。PE−LLDの融点(JIS K 7121)が110℃〜135℃(好ましくは120℃〜130℃)である場合には、施工温度は、配管1の内面部1aにおける未施工部3が220℃±20℃に管理することが好ましく、210℃±10℃に管理することがより好ましい。これは、施工温度が200℃未満になると、PE−LLDの接着強さが急激に低下してしまい、所望の接着強さ(工場で施工したときと同程度の接着強さ)を得ることができない可能性があるからである。未施工部に樹脂ライニング材を熱融着させて下地層を作製することにより、施工温度を工場でのライニング施工時の280℃〜300℃よりも低温にでき、リボンヒータなどの簡易ヒータで加熱可能な温度範囲となることから、大掛かりな装置が不要となる。
【0035】
PE−LLDの融点が110℃〜135℃以外である場合には、施工下限温度は、配管1の内面部1aにおける未施工部3が融点+70℃を超えるように管理することが好ましい。これは、施工下限温度が融点+70℃を超えないと、所望の接着強さ(工場で施工したときと同程度の接着強さ)を得ることができない可能性があるからである。施工上限温度は、施工下限温度+40℃以内が好ましく、施工下限温度+20℃以内がより好ましい。これは、温度が高すぎるとライニング樹脂の溶融粘度が低くなりすぎて、垂直面(例えば、配管周方向の3時と9時の位置)近傍に施工した樹脂ライニング層が重力で垂れるリスクがあるからである。
【0036】
未施工部3が施工温度であるかを、例えば、非接触で温度を計測可能な放射熱温度計を用いて確認する。未施工部3が施工温度になっていない場合には、加熱器31により加熱を継続する。未施工部3が施工温度になっている場合には、下地層作製工程S2にて、加熱器31で施工温度に加熱しつつ、未施工部3に対し、PE−LLDで作製された固形物11を配管1の内面部1aに所定の押付圧力Fで押し付ける。固形物11の先端部11aが加熱により溶融し始めたら、固形物11の先端部11aを配管1の内面部1aに押し付けながら溶融ポリエチレン12により配管1の内面部1aが被覆されるように配管1に沿う移動方向Aへゆっくりと移動させる。このときに内面部1aのブラスト面凹部に気泡をできるだけ噛み込まないように、配管1の内面部1aの凹部に溶融ポリエチレン12を押し込むように塗り込む。固形物11の移動方向A側にあっては、生成した溶融ポリエチレン12による盛上り部12bができ、この盛上り部12bを配管1の内面部1aに押し付けながら移動していくことになる。これにより、溶融ポリエチレン12が配管1の内面部1aに確実に密着することになる。この作業を未施工部3における配管1の軸方向及び周方向全体に亘って行うことで、
図4(a)に示すように、未施工部3が下地層をなす溶融ポリエチレン12で覆われることになる。
【0037】
固形物11は、スティック状(棒状)や、円柱や角柱や錐体や短冊形や円筒状などの、施工する部位の形状、施工面積、施工しやすさなどを考慮した大きさ・形状であることが好ましい。
【0038】
例えば、固形物11は、
図3に示すように、幅Wが100mm、高さHが40mm、奥行きDが20mmの直方体として形成される。この場合、例えば、未施工部3が配管1の軸方向に約200mmの幅を有し、固形物11は、その半分の幅Wとなる。そして、固形物11を配管1の軸方向(
図2に示す移動方向A)に移動させたり、配管1の周方向(移動方向Aと直交する方向)に移動させたりすることで溶融ポリエチレン12の下地層を施工する。
【0039】
また、固形物11は、配管1の内面部1aに押し付けられる先端部11aとは反対側の端部に、奥行きD方向に貫通する貫通孔11bが幅W方向に沿って複数(
図3では、3つ)並設されている。この貫通孔11bは、施工冶具10が取り付けられる。施工冶具10は、固定部10Aと、把持部10Bとを有する。固定部10Aの内部寸法は、固形物11の幅W方向とほぼ同寸法で、固形物11の奥行きD方向とほぼ同寸法であって、貫通孔11bが設けられた固形物11の端部に対して固形物11の奥行きD方向(貫通孔11bの貫通方向)の両側から挟むように嵌合する凹部10Aaを有している。なお、
図3では、固定部10Aは、固形物11の幅W方向で開放して示しているがこの部分が閉塞されて固形物11の端部全体を囲むように形成されていてもよい。
【0040】
また、固定部10Aは、凹部10Aaが固形物11の端部に嵌合した状態で、各貫通孔11bに連通する固定孔10Abが、固形物11の奥行きD方向(貫通孔11bの貫通方向)の両側に対応して設けられている。そして、固定部10Aは、凹部10Aaが固形物11の端部に嵌合した状態で、貫通孔11bおよび貫通孔11bの両側の固定孔10Abにボルトを通してナットで締結することで、固定部10Aが固形物11に固定される。また、把持部10Bは、作業者が手で掴む部分であり、
図3では、棒状に形成されている。把持部10Bは、棒状に限らず、作業者が持ちやすく、溶融ポリエチレン12を配管1の内面部1aに所定の接着強さで接着させるために、固形物11を配管1の内面部1aに押し付けるのに適した押付圧力Fを得ることができ、適した塗付速度を得ることができる形状であればよい。また、作業者が把持部10Bを掴んで作業をすることで、狭い部分で作業を行うことができ、且つ、作業者の手が加熱した配管1に触れることを防止できる。
【0041】
溶融ポリエチレン12を配管1の内面部1aに十分な接着強さで接着させるために、固形物11を配管1の内面部1aに押し付けるのに適した押付圧力Fは、0.5N/cm
2以上であって10N/cm
2以下が好ましい。さらに、溶融ポリエチレン12を配管1の内面部1aに所定の接着強さで接着させるために、固形物11を移動させるのに適した塗付速度は、0.5mm/秒〜40mm/秒である。つまり、下地層作製工程S2では、配管1の未施工部3にPE−LLDで作製された固形物11を押付圧力0.5N/cm
2以上で塗付速度0.5mm/秒〜40mm/秒で移動させて固形物11が溶融した溶融樹脂からなる下地層を作製する。塗付速度が0.5mm/秒〜40mm/秒の範囲を逸脱し押付圧力が0.5N/cm
2未満であると溶融ポリエチレン12を配管1の内面部1aに十分な接着強さで接着させることができない。また、押付圧力が10N/cm
2を超えても接着強さに影響はでないが、溶融ポリエチレンを塗付ける際に、ポリエチレンブロック(乃至はポリエチレンスティック)が破損したり変形したりする可能性が高くなり、作業者の負担にもなる。
【0042】
また、固形物11が溶融した溶融ポリエチレン12からなる下地層の厚さは、0.1mm〜0.4mm程度が好ましい。下地層の厚さが0.1mm未満であると、配管1の内面部1aのブラスト処理面における凹凸を完全に埋めることができないおそれがある。一方、下地層の厚さが0.4mmを超えてもライニング品質への影響は少ないが、その要因として固形物11の塗付速度が遅い場合があり施工時間が長くなるおそれがある。
【0043】
また、上述した押付圧力Fおよび塗付速度により十分な接着強さを得るため、固形物11が溶融した溶融ポリエチレン12の流動性の尺度となるMFR(メルトマスフローレイト:JIS K 7210)の値が2.0g/10min〜5.0g/10min(2.16kg,190℃)の範囲であって、好ましくは、3.5g/10min以上であることがよい。上述した押付圧力Fおよび塗付速度で十分な接着強さとするうえでも、固形物11が溶融した溶融ポリエチレン12の流動性の尺度となるMFR(メルトマスフローレイト:JIS K 7210)の値が2.0g/10min〜5.0g/10min(2.16kg,190℃)の範囲であって、好ましくは3.5g/10min以上であることがよい。
【0044】
なお、下地層作製工程S2の塗布作業は、未施工部3に溶融ポリエチレン12を押し込むように塗布することが可能であれば、作業者による手作業に限らず、機械作業とすることも可能である。
【0045】
図1および
図4(b)に示すように、ライニング層厚調整工程S3にて、引き続き、加熱器31で施工温度に加熱しつつ、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなるように、未施工部3の溶融ポリエチレン12の表面12aに、PE−LLDで作製された粉体13を均一充填してPE−LLD製の層を追加する。すなわち、未施工部3の溶融ポリエチレン12の表面12aに、PE−LLDで作製された粉体13を追加供給する。ライニング層厚調整工程S3の作業を複数回に分けて行うことも可能であり、この場合、先に供給した薄いポリエチレン粉体層が溶融した後、次のポリエチレン粉体層を供給するため、粉体13間への空気の噛み込みを減らすことができ好ましい。
【0046】
施工温度保持工程S4にて、引き続き、加熱器31で施工温度に加熱しつつ、
図4(c)に示すように、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Ba側から粉体13が積層した粉体層14を押圧器32により1分間押え付けた後、押圧器32を取り外し、施工温度で所定時間保持し、粉体層14表面をゴムローラで均しながら熱溶融させて、溶融ポリエチレン層12と熱融着一体化させる。粉体13の充填量は、一度に施工する面積を決めておき、その面積へ所定の層厚の樹脂ライニングを形成するために必要な粉体13の重さを量ることで調整可能である。これにより、粉体層14の表面14aは、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなる。
【0047】
上述した粉体13は、安息角が40°以下であり、中位粒度が170μm以上270μm以下であることが好ましい。また、粉体13は、この範囲(0.910g/cm
3〜0.950g/cm
3)の密度を有するPE−LLDの他に、カーボンブラック、酸化防止剤、可塑剤などの添加物を含有してもよい。
【0048】
施工温度保持の所定時間は、施工温度における溶融粘度が低いPE−LLDでは数分から15分とし、施工温度における溶融粘度が高いPE−LLDでは15分〜20分とする。PE−LLDの溶融粘度は、温度230℃、シェアレート12sec−1において測定した値であり、1500Pa・s以上であれば「高い」とし、1500Pa・s未満であれば「低い」とする。これにより、溶融ポリエチレン12と粉体層14が密着すると共に、溶融ポリエチレン12および粉体層14が工場施工部2A,2Bの端部2Ab,2Bbと熱溶融一体化することになる。
【0049】
図1および
図4(d)に示すように、冷却工程S5にて、加熱器31を未施工部3から離れた箇所に移動し、強制冷却する。これにより、
図4(e)に示すように、溶融ポリエチレン12と粉体層14が熱溶融一体化した現地施工部15となる。現地施工部15の端部15b、15cが工場施工部2A,2Bの端部2Ab,2Bbと一体化することになる。現地施工部15の表面15aは、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなる。
【0050】
冷却工程S5における強制冷却は、所定の冷却装置を用いて行う。
図8は、本実施形態の樹脂ライニングの冷却装置を表す概略図、
図9は、樹脂ライニングの冷却装置を表す
図8のIX−IX断面図である。
【0051】
図8及び
図9に示すように、冷却装置40は、配管1における内面部1aの未施工部3に施工された樹脂ライニングとしての現地施工部15を冷却するものである。冷却装置40は、冷却用フード41と、送風用ダクト42と、送風機43とを少なくとも備える。
【0052】
冷却用フード41は、配管1の外面部1bに軸方向および周方向の所定の範囲にわたって配置される。冷却用フード41は、配管1の外面部1bに周方向沿って湾曲した形状をなす。配管1は、内面部1aに現地施工部15が施工され、冷却用フード41は、この現地施工部15より広い範囲にわたって配置される。すなわち、現地施工部15は、配管1の内面部1aに軸方向長さD1および周方向長さR1の所定の範囲にわたって施工される。ここで、周方向長さR1は、配管1の内周方向長さの1/4の長さである。一方、冷却用フード41は、配管1の外面部1bに軸方向長さD1より長い軸方向長さD2および周方向長さR1より長い周方向長さR2の所定の範囲にわたって施工される。ここで、周方向長さR2は、配管1の外周方向長さの約1/2の長さである。
【0053】
冷却用フード41は、湾曲面部41aと、一対の円弧状の側板41bとを有する。湾曲面部41aは、配管1の外面部1bに周方向沿って湾曲すると共に、外面部1bに平行をなす。一対の円弧状の側板41bは、湾曲面部41aの軸方向(
図8の左右方向)の両側に設けられて配管1の外面部1bに周方向沿って湾曲すると共に外面部1bに平行をなす。すなわち、冷却用フード41は、湾曲面部41aの両側に一対の円弧状の側板41bが一体に固定されることで、軸方向に切断した断面でU字形状をなす。そのため、冷却用フード41を配管1の外面部1bに配置すると、一対の円弧状の側板41bが配管1の外面部1bに隙間なく密着し、湾曲面部41aの内周面が配管1の外面部1bに対して所定距離を空けて配置される。すなわち、冷却用フード41と配管1の外面部1bとの間に周方向に沿う流体通路44(44a,44b)が確保され、冷却用フード41の周方向の両側に流体排出口41c,41dが形成される。
【0054】
送風用ダクト42は、長手方向の一端部が冷却用フード41に連結され、他端部が送風機43に連結される。送風用ダクト42は、ダクト管42aと、延長管42bとを有する。ダクト管42aは、例えば、蛇腹形状をなして、屈曲可能なフレキシブル管である。延長管42bは、例えば、鋼管であって、屈曲不能な円筒形状の管である。ダクト管42aと延長管42bは、連続するように隙間なく連結され、延長管42bは、冷却用フード41の湾曲面部41aの外面に隙間なく連結される。延長管42bは、冷却用フード41の軸方向および周方向の中間位置に湾曲面部41aの外面に直交するように連結される。
【0055】
送風機43は、送風用ダクト42のダクト管42aが連結される。送風機43は、流体としての空気を吸い込み、送風用ダクト42を通して冷却用フード41に供給する。
【0056】
そのため、配管1の外面部1bに冷却用フード41を装着すると、一対の円弧状の側板41bが配管1の外面部1bに隙間なく密着し、湾曲面部41aの内周面が配管1の外面部1bに対して所定距離を空けて配置されることで、流体通路44(44a,44b)が確保される。この状態で、冷却用フード41を配管1の外面部1bに固定する。そして、送風機43を作動すると、送風機43が空気を吸い込み、空気を送風用ダクト42から冷却用フード41に供給する。冷却用フード41に供給された空気は、配管1の外面部1bに直交するように衝突した後、配管1の周方向の2方向に分かれて流体通路44を流れる。すなわち、空気が各流体通路44a,44bを周方向に沿い、流体排出口41c,41dに向かって流れるときに、空気が配管1の外面部1bに接触することでこの配管1を冷却する。
【0057】
このとき、ライニング施行温度220±20℃からPE−LLDの融点までの配管1の冷却時間は、3分〜10分の範囲、好ましくは、5〜8分の範囲が適切である。冷却時間が短すぎる、すなわち、冷却速度が速すぎると、配管1内面部1aの金属より熱膨張率が大きなPE−LLDの熱収縮速度が速くなり、配管1の内面部1aとPE−LLD界面との間に大きなせん断力が作用し、配管1の内面部1aと現地施工部15との間の接着強さが低下する懸念がある。一方、冷却時間が長すぎる、すなわち、冷却速度が遅すぎると、PE−LLD層に内在する低沸点成分(例えば、未反応モノマー、酸化防止剤等の各種添加剤)のガス化が助長され、PE−LLD層内に気泡が生成する懸念がある。PE−LLD層内に気泡が存在すると、長期間の実機供用中に内在気泡に応力集中することで、き裂を誘起する懸念があるだけでなく、施工直後の現地施工部15の表面に膨れを発生させる場合もあり、目視による品質低下に繋がることもある。
【0058】
冷却装置40は、上述したように、冷却用フード41と、送風用ダクト42と、送風機43とを少なくとも備える。配管1を冷却する場合、配管1の外面部1bに冷却用フード41を装着し、現地施工部15の範囲に対応する配管1の外面部1bを冷却すればよい。冷却用フード41を用いて配管1の外面部1bを冷却する場合、適切な冷却時間内に冷却するためには、強制対流熱伝達率は、30W/(m
2・K)〜100W/(m
2・K)の範囲に設定することが好ましい。適切な強制対流熱伝達率の範囲に入るように、配管1を覆う冷却用フード41のサイズおよび形状、送風機出力、流体排出口41c,41dのサイズおよび形状を決めればよい。また、送風機43から送られてきた風が配管1の外面部1bに最初に吹き付ける位置に関して、配管1の外面部1bに垂直に風を吹きつけるため、直線状をなす延長管42bを冷却用フード41に取り付けることが好ましい。
【0059】
配管1のサイズ(周長、金属の厚さ)、現地施工部15の面積、環境温度、吹き付ける風の温度などによって冷却時間には差異が生じるため、環境因子などが変動した場合でも適切な強制対流熱伝達率に設定できるように、送風機43に余裕を持たせるなど、冷却機器仕様に余裕があることが好ましい。なお、強制対流熱伝達率の適正範囲は、28B配管(炭素鋼厚さ9.5mm)〜34B配管(炭素鋼厚さ12.7mm)の場合、且つ、貼付ける樹脂ライニング材シートのサイズが配管1の軸方向240〜300mm、周方向が配管周長の1/4を想定した値である。適切な強制対流熱伝達率で冷却する方法としては、強制的に空気を配管1の外面部1bに吹き付ける空冷式が好ましいが、冷却性能に尤度を持たせるため、水を併用した冷却方法、すなわち、吹き付ける空気の中に水のミストを適量混入させて冷却しても良いことは言うまでもない。但し、水のミスト供給量が多すぎると、冷却用フード41の出口から水滴が飛び出す、あるいは、水滴が滴るなどして周囲を濡らすため、配管1の熱で蒸発できる適量を供給することが好ましい。
【0060】
本実施形態では、配管1を周方向に4分割してライニング施行する場合について説明した。そのため、配管1の未施工部3に対して周方向全体が現地施工部15で覆われるように、加熱工程S1と下地層作製工程S2とライニング層厚調整工程S3と施工温度保持工程S4と冷却工程S5の一連の作業を4回繰り返し行う。
【0061】
したがって、本実施形態のライニング施工方法によれば、工場で施工する場合と比べて低い温度で施工した場合でも、工場で施工した場合と同等の接着強さ、水分遮断性、化学的安定性を得ることができる。また、作業者への負担が軽減し、作業効率を高めることができる。なお、このライニング施工方法は、例えば、配管1の周方向に3分割や4分割で行うことにより配管1の周方向全体を加熱しなくてもよいため、熱による作業者への負担を軽減するうえで好ましい。
【0062】
なお、本実施形態の樹脂ライニング施工方法は、上述した方法に限定されるものではない。
図5は、樹脂ライニング施工方法の変形例の説明図である。この変形例では、上述したものに対して、ライニング層厚調整工程のみを相違するため、同一部材には同一符号を付記している。
【0063】
本実施形態の変形例では、
図1に示すように、加熱工程S1にて、未施工部3を加熱器31により施工温度まで加熱し、下地層作製工程S2にて、未施工部3を施工温度に加熱した状態にて、PE−LLDで作製された固形物11を配管1の内面部1aに所定の押付圧力Fで押し付ける。固形物11の先端部11aが加熱により溶融し始めたら、固形物11の先端部11aを配管1の内面部1aに押し付けながら配管1の周方向に沿って移動させ、溶融ポリエチレン(溶融樹脂)12を内面部1aの凹部に塗り込む。この作業を未施工部3における配管1の軸方向全体に亘って行うことで、
図5(a)に示すように、未施工部3が下地層をなす溶融ポリエチレン12で覆われることになる。
【0064】
引き続き、加熱器31で施工温度に加熱しつつ、
図1および
図5(b)に示すように、ライニング層厚調整工程S3にて、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなるように未施工部3の溶融ポリエチレン12の表面12aに、PE−LLDで作製されたシート23を貼り付けてPE−LLD製の層を追加する。すなわち、未施工部3の溶融ポリエチレン12の表面12aに、PE−LLDで作製されたシート23を追加供給する。このとき、溶融ポリエチレン12の表面12aとシート23の間に空気が噛み込まないようにすることが好ましい。
【0065】
引き続き、加熱器31で施工温度に加熱しつつ、
図1および
図5(c)に示すように、施工温度保持工程S4にて、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Ba側からシート23を押圧器32により1分間押え付けた後、押圧器32を取り外し、施工温度で所定時間保持し、シート23をゴムローラで均しながら熱溶融させて、溶融ポリエチレン層12と熱融着一体化させる。その後、施工温度で所定時間保持する。これにより、シート23の表面23aは、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなる。また、溶融ポリエチレン12とシート23が熱融着一体化すると共に、溶融ポリエチレン12およびシート23の端部23b,23c(
図5(b)参照)が工場施工部2A,2Bの端部2Ab,2Bbと熱融着一体化することになる。
【0066】
図1および
図5(d)に示すように、冷却工程S5にて、加熱器31を未施工部3から離れた箇所に移動し、強制冷却する。これにより、
図5(e)に示すように、溶融ポリエチレン12とシート23が一体化した現地施工部25となる。現地施工部25の端部25b、25cが工場施工部2A,2Bの端部2Ab,2Bbと一体化することになる。現地施工部25の表面25aは、工場施工部2A,2Bの表面2Aa,2Baと同じ高さとなる。冷却工程S5における強制冷却は、上述した冷却装置40を用いて行う。
【0067】
したがって、変形例のライニング施工方法によれば、上述した実施形態と同様に、工場で施工する場合と比べて低い温度で施工した場合でも、工場で施工した場合と同等の接着強さ、水分遮断性、化学的安定性を得ることができる。また、作業者への負担が軽減し、作業効率を高めることができる。さらに、ライニング層厚調整工程S3にて、シート23を用いることから、粉体13を用いる場合と比べて、作業しやすく、作業効率をさらに高めることができる。シート23は、粉体13と同様に、上記範囲(0.910g/cm
3〜0.950g/cm
3)の密度を有するPE−LLDの他に、カーボンブラック、酸化防止剤、可塑剤などの添加物を含有してもよい。
【0068】
また、本実施形態および変形例のライニング施工方法によれば、冷却工程S5にて、粉体13またはシート23が溶融して溶融ポリエチレン12と一体化した後に、冷却装置40により配管1の外面部1bに空気を供給して冷却する。そのため、現地施工部15の施工時間を短縮して作業効率の向上を図ることができる。
【0069】
また、上述の説明では、樹脂ライニング材として、シート23を用いた場合について説明したが、この構成に限定されるものではない。
図6は、樹脂ライニング施工方法で用いるシートの一例の説明図、
図7は、樹脂ライニング施工方法で用いるシートの他例の説明図である。
【0070】
図6に示すように、シート23の代わりに全面に均等に例えば幅約1mm、長さ約1.5mm程度のスリット23Aaが設けられたシート23Aや、
図7に示すように、全面に均等に例えば直径1mm〜1.5mm程度の微細孔23Baが設けられたシート23Bを用いることも可能である。この場合、溶融ポリエチレン12の表面12aにシート23A,23Bを貼り付けたときに、スリット23Aaまたは微細孔23Baを通って外側へ空気が排出されることから、スリット23Aaまたは微細孔23Baがないシート23と比べて、溶融ポリエチレン12とシート23の間に空気が残留しにくく、溶融ポリエチレン12とシート23の熱融着をより確実に高めることができる。
【0071】
また、配管1の未施工部3にPE−LLDで作製された固形物11を押し付けて固形物11が溶融した溶融ポリエチレン12からなる下地層を作製する下地層作製工程S2を備える樹脂ライニング施工方法について説明したが、PE−LLDで作製された固形物11の代わりにエチレン酢酸ビニルで作製された固形物を押し付けて固形物が溶融した溶融エチレン酢酸ビニル(溶融樹脂)からなる下地層を作製する下地層作製工程S2を備える樹脂ライニング施工方法とすることも可能である。このような樹脂ライニング施工方法によれば、融点が80℃〜100℃のエチレン酢酸ビニルを使用することにより、エチレン酢酸ビニルが施工温度で融けて、次工程のライニング層厚調整工程S3で用いる粉体13やシート23を容易に接着することから、実施形態および変形例の場合と比べて、作業しやすくなり、作業効率をより一層高めることができる。なお、エチレン酢酸ビニルとして、例えば、「ノバテックEVA」(日本ポリエチレン株式会社製)、「HM224」(セメダイン株式会社製)などがあるが、これに限定されるものではない。
【0072】
ここで、本実施形態の樹脂ライニング施工方法の作用効果を確認するために行った実施例を説明するが、本発明は、各種データに基づいて説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
[確認試験1]
<実施例1〜6の作製>
各実施例1〜6は、表面をブラスト処理した炭素鋼板を下記表1に示す施工温度範囲内となるように加熱し、この温度を保持した状態で治具に取り付けた固形状ポリエチレンを熱溶融させ、表1に記した塗付速度と押付圧力で炭素鋼板表面に下地層を塗付けた。この下地層上に下記表1に示す形態の固体のポリエチレン(PE:Polyethylene)を置いた後、シート状または粉体状のポリエチレンをゴムローラで均して下地層と熱融着一体化させながら、施工温度範囲を13分間保持した。その後、冷却した。表1の実施例、比較例の全てについて、冷却速度は施行温度からPE−LLDの融点までの冷却時間を5〜8分の範囲に入るよう調整した。
【0074】
実施例1,2では、下地層およびこの下地層上を覆う固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製の融点122℃のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1380)」)を用いた。
【0075】
実施例3,4では、下地層およびこの下地層上を覆う固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製の融点126℃のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1480)」)を用いた。
【0076】
実施例5では、下地層およびこの下地層上を覆う固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1380)」)をベースに融点を109℃に調整したものを用いた。
【0077】
<比較例1〜9の作製>
各比較例1〜9は、表面をブラスト処理した炭素鋼板を下記表1に示す施工温度範囲内となるように加熱し、この温度を保持した状態で固形状PEを塗布せず下地層が無い状態で下記表1に示す形態の固体のポリエチレン(PE:Polyethylene)を置いた後、シート状または粉体状のポリエチレンをゴムローラで均しながら、施工温度範囲を13分間保持した。その後、冷却した。または、表面をブラスト処理した炭素鋼板を下記表1に示す施工温度範囲内となるように加熱し、この温度を保持した状態で治具に取り付けた固形状ポリエチレンを熱溶融させ、表1に記した塗付速度と押付圧力で炭素鋼板表面に下地層を塗付けた。この下地層上に下記表1に示す形態の固体のポリエチレン(PE:Polyethylene)を置いた後、シート状または粉体状のポリエチレンをゴムローラで均して下地層と熱融着一体化させながら、施工温度範囲を13分間保持した。その後、冷却した。
【0078】
比較例1,2,6〜8では、上述の実施例1,2と同様、固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製の融点122℃のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1380)」)を用いた。
【0079】
比較例3,4では、上述の実施例3,4と同様、固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製の融点126℃のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1480)」)を用いた。
【0080】
比較例5,9では、上述の実施例5と同様、固形物(シートおよび粉体)として、直鎖低密度ポリエチレンであって、宇部丸善社製のポリエチレン(商品名「ユメリット(UM1380)」)をベースに融点を109℃に調整したものを用いた。
【0081】
<試験>
上述した実施例1〜5および比較例1〜9に対して、日本水道協会の規格であるJWWA K−132「水道用ポリエチレン粉体ライニング鋼管」に記載の180℃ピール試験に準拠して接着強さを測定したところ、下記表1に示す結果が得られた。なお、工場で施工したPE−LLDライニングの接着強さは、15N/mm〜16N/mmであった。
【0083】
<評価>
実施例1〜5と比較例1〜5の比較から、下地層が接着強さの向上に有効であることがわかる。
実施例1と比較例6から、固形物の塗付速度が40mm/秒を超えると下地層を設けてもPE−LLDライニングの接着強さが工場施工より明らかに低下することがわかる。
実施例1と比較例7から、固形物の押付圧力が0.5N/cm
2未満になると下地層を設けてもPE−LLDライニングの接着強さが工場施工より明らかに低下することがわかる。
実施例1と比較例8から、ポリエチレンの融点が110℃〜135℃である場合、施工温度を210℃±10℃で管理することで、工場で施工した工場施工部よりも高い接着強さを保持できることがわかる。
実施例5と比較例9から、ポリエチレンの融点が110℃〜135℃以外である場合、施工下限温度を融点+70℃を超える180℃に設定することで、工場で施工した工場施工部と同程度の接着強さを保持できることがわかる。
実施例6から、固形物の塗付速度が適正範囲であることでPE−LLDライニングの接着強さが工場施工同等であることがわかる。
なお、比較例8,9において接着強さは工場施工部の16N/mm以下になるもののライニングとして実用的な接着強さ10N/mm以上の範囲にある。
【0084】
したがって、実施例1〜5によれば、ポリエチレンの下地層の作製が接着強さの向上に有効であり、固形物の塗付速度が0.5mm/秒〜40mm/秒で固形物の押付圧力が0.5N/cm
2以上である場合に、工場施工と同等以上の接着強さを保持でき、ポリエチレンの融点が110℃〜135℃である場合には施工温度を210℃±10℃で管理することで工場施工部と同等以上の接着強さを保持でき、ポリエチレンの融点が110℃〜135℃以外である場合には施工温度を融点+70℃で管理することで工場施工部と同程度の接着強さを保持できることが明らかとなった。
【0085】
[確認試験2]
<実施例11〜16の作製>
各実施例11〜16は、配管端部の工場施工ポリエチレンをはぎ取って溶接で繋いだ炭素鋼配管の溶接継手部周辺のライニング未施工部内面をブラスト処理した炭素鋼配管を所定の施工温度範囲内となるように加熱した。その温度を保持した状態で治具に取り付けた固形状ポリエチレンを熱溶融させ、表2に記した塗付速度と押付圧力で炭素鋼板表面に下地層を塗付けた。この下地層上にシート状ポリエチレン(PE:Polyethylene)を置いた後、シート状ポリエチレンをゴムローラで均して下地層と熱融着一体化させながら、施工温度範囲を13分間保持した。その後、下記表2に示す所定の冷却開始温度、冷却時間、強制対流熱伝達率で強制冷却した。
【0086】
実施例11では、PE−LLDの融点が122℃で、冷却開始温度を222℃、冷却時間を3分5秒、強制対流熱伝達率を100W/(m
2・K)とした。
実施例12では、PE−LLDの融点が122℃で、冷却開始温度を240℃、冷却時間を5分3秒、強制対流熱伝達率を90W/(m
2・K)とした。
実施例13では、PE−LLDの融点が126℃で、冷却開始温度を235℃、冷却時間を7分58秒、強制対流熱伝達率を80W/(m
2・K)とした。
実施例14では、PE−LLDの融点が126℃で、冷却開始温度を230℃、冷却時間を9分56秒、強制対流熱伝達率を60W/(m
2・K)とした。
実施例15では、PE−LLDの融点が126℃で、冷却開始温度を215℃、冷却時間を3分5秒、強制対流熱伝達率を50W/(m
2・K)とした。
実施例16では、PE−LLDの融点が126℃で、冷却開始温度を218℃、冷却時間を8分27秒、強制対流熱伝達率を送風で60W/(m
2・K)とミストで20W/(m
2・K)とした。
【0087】
<比較例11〜12の作製>
各比較例11〜12は、配管端部の工場施工ポリエチレンをはぎ取って溶接で繋いだ炭素鋼配管の溶接継手部周辺のライニング未施工部内面をブラスト処理した炭素鋼配管を所定の施工温度範囲内となるように加熱した。その温度を保持した状態で治具に取り付けた固形状ポリエチレンを熱溶融させ、表に記した塗付速度と押付圧力で炭素鋼板表面に下地層を塗付けた。この下地層上にシート状ポリエチレンを置いた後、シート状ポリエチレンをゴムローラで均して下地層と熱融着一体化させながら、施工温度範囲を13分間保持した。その後、下記表2に示す所定の冷却開始温度、冷却時間、強制対流熱伝達率で強制冷却した。
【0088】
比較例11では、PE−LLDの融点が122℃で、冷却開始温度を237℃、冷却時間を3分33秒、強制対流熱伝達率を110W/(m
2・K)とした。
比較例12では、PE−LLDの融点が126℃で、冷却開始温度を228℃、冷却時間を11分14秒、強制対流熱伝達率を40W/(m
2・K)とした。
【0089】
<試験>
上述した実施例11〜16および比較例1〜2に対して、日本水道協会の規格であるJWWA K−132「水道用ポリエチレン粉体ライニング鋼管」に記載の180℃ピール試験に準拠して接着強さを測定したところ、下記表2に示す結果が得られた。なお、工場で施工したPE−LLDライニングの接着強さは、15N/mm〜16N/mmであった。
【0091】
<評価>
実施例11〜16と比較例11〜12の比較から、冷却時間と強制対流熱伝達率が接着強さや品質の向上に有効であることがわかる。
実施例11〜16から、工場施工と同等以上の接着強さを保持し、樹脂ライニングの外観も工場施工と同等となる冷却条件は、冷却開始からPE−LLDの融点までの冷却時間が3〜10分、好ましくは、5〜8分であることがわかる。それを実現するための強制対流熱伝達率は、30〜100W/(m
2・K)である。
実施例16から、配管1に吹き付ける空気に水ミストを加えることで、強制対流熱伝達率を向上させ、適正な伝達率を調整できることがわかる。
実施例11と比較例11から、冷却時間が3分未満では、工場で施工したPE−LLDライニングより接着強さが低下するリスクがあることがわかる。
実施例14,15と比較例12から、冷却時間が10分を超えると、PE−LLDライニングの接着強さは、工場施工と同等であるが、冷却速度が遅すぎて、現地施行PE−LLDライニング層内に気泡が発生し、PE−LLDライニングの表面に「膨れ」が多数発生するリスクがあることがわかる。