【解決手段】車両のステアリングを制御するためのステアリング制御量を算出するステアリング制御装置において、基本制御量を算出する基本制御量算出部(11)と、車両の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクと前記基本制御量とを参照して前記ステアリング制御量を算出するステアリング制御量演算部(12)とを備えている。
前記補正制御量演算部は、前記補正制御量を、ヨーレート、ロールレート、及び横滑り角の少なくとも何れかを参照して算出する請求項2に記載のステアリング制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0010】
[車両の構成]
図1は、本実施形態に係る車両900の構成の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、車両900は、懸架装置(サスペンション)100、車体200、車輪300、タイヤ310、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、エンジン500、ECU(Electronic Control Unit)(制御装置、制御部)600、発電装置700及びバッテリ800を備えている。ここで、懸架装置100及びECU600は、本実施形態に係るサスペンション装置を構成する。
【0011】
タイヤ310が装着された車輪300は、懸架装置100によって車体200に懸架されている。車両900は、4輪車であるため、懸架装置100、車輪300及びタイヤ310は、4輪のそれぞれに設けられている。
【0012】
なお、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪のタイヤ及び車輪をそれぞれ、タイヤ310A及び車輪300A、タイヤ310B及び車輪300B、タイヤ310C及び車輪300C、並びに、タイヤ310D及び車輪300Dとも称する。以下、同様に、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪にそれぞれ付随した構成を、符号「A」「B」「C」及び「D」を付して表現することがある。
【0013】
懸架装置100は、油圧緩衝装置(アブソーバ)、アッパーアーム及びロアーアームを備えている。また、油圧緩衝装置は、一例として、当該油圧緩衝装置が発生させる減衰力を調整する電磁弁であるソレノイドバルブを備えている。ただし、これは本実施形態を限定するものではなく、油圧緩衝装置は、減衰力を調整する電磁弁として、ソレノイドバルブ以外の電磁弁を用いてもよい。例えば、上記電磁弁として、電磁流体(磁性流体)を利用した電磁弁を備える構成としてもよい。
【0014】
エンジン500には、発電装置700が付設されており、発電装置700によって生成された電力がバッテリ800に蓄積される。
【0015】
運転者の操作する操舵部材410は、ステアリングシャフト420の一端に対してトルク伝達可能に接続されており、ステアリングシャフト420の他端は、ラックピニオン機構470に接続されている。
【0016】
ラックピニオン機構470は、ステアリングシャフト420の軸周りの回転を、ラック軸480の軸方向に沿った変位に変換するための機構である。ラック軸480が軸方向に変位すると、タイロッド及びナックルアームを介して車輪300A及び車輪300Bが転舵される。
【0017】
トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に印加される操舵トルク、換言すれば、操舵部材410に印加される操舵トルクを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号をECU600に提供する。より具体的には、トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に内設されたトーションバーの捩れを検出し、検出結果をトルクセンサ信号として出力する。なお、トルクセンサ430として、ホールIC、MR素子、磁歪式トルクセンサ等の周知のセンサを用いてもよい。
【0018】
舵角センサ440は、操舵部材410の舵角を検出し、検出結果をECU600に提供する。
【0019】
トルク印加部460は、ECU600から供給されるステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを、ステアリングシャフト420に印加する。トルク印加部460は、ステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを発生させるモータと、当該モータが発生させたトルクをステアリングシャフト420に伝達するトルク伝達機構とを備えている。
【0020】
なお、上述の説明において「トルク伝達可能に接続」とは、一方の部材の回転に伴い他方の部材の回転が生じるように接続されていることを指す。例えば、一方の部材と他方の部材とが一体的に成形されている場合、一方の部材に対して他方の部材が直接的又は間接的に固定されている場合、及び、一方の部材と他方の部材とが継手部材等を介して連動するよう接続されている場合を少なくとも含む。
【0021】
ECU600は、車両900が備える各種の電子機器を統括制御する。例えば、ECU600は、トルク印加部460に供給するステアリング制御量を調整することにより、ステアリングシャフト420に印加するアシストトルク又は反力トルクの大きさを制御する。
【0022】
また、ECU600は、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して、サスペンション制御量を供給することによって当該ソレノイドバルブの開閉を制御する。この制御を可能とするために、ECU600からソレノイドバルブへ駆動電力を供給する電力線が配されている。
【0023】
また、車両900は、車輪300毎に設けられ各車輪300の車輪速を検出する車輪速センサ320、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350、エンジン500が発生させるトルクを検出するエンジントルクセンサ510、エンジン500の回転数を検出するエンジン回転数センサ520、及びブレーキ装置が有するブレーキ液に印加される圧力を検出するブレーキ圧センサ530を備えている。これらの各種センサによる検出結果は、ECU600に供給される。
【0024】
なお、図示は省略するが、車両900は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのシステムであるABS(Antilock Brake System)、加速時等における車輪の空転を抑制するTCS(Traction Control System)、及び、旋回時のヨーモーメント制御又はブレーキアシスト機能等のための自動ブレーキ機能を備えた車両挙動安定化制御システムであるVSA(Vehicle Stability Assist)制御可能なブレーキ装置を備えている。
【0025】
ここで、ABS、TCS、及びVSAは、推定した車体速に応じて定まる車輪速と、車輪速センサ320によって検出された車輪速とを比較し、これら2つの車輪速の値が、所定の値以上相違している場合にスリップ状態であると判定する。ABS、TCS、及びVSAは、このような処理を通じて、車両900の走行状態に応じて最適なブレーキ制御又はトラクション制御を行うことにより、車両900の挙動の安定化を図るものである。
【0026】
また、上述した各種のセンサによる検出結果のECU600への供給、及び、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。
【0027】
CAN370を介してECU600へ供給される信号は、例えば、以下の信号を含んでいる(括弧書きは取得元を示す)。
・4輪の車輪速(車輪速センサ320A〜D)
・ヨーレート(ヨーレートセンサ350)
・前後G(前後Gセンサ340)
・横G(横Gセンサ330)
・ブレーキ圧(ブレーキ圧センサ530)
・エンジントルク(エンジントルクセンサ510)
・エンジン回転数(エンジン回転数センサ520)
・舵角(舵角センサ440)
・操舵トルク(トルクセンサ430)
・車両900周辺の画像(カメラ550)
【0028】
(操舵装置)
以下では、参照する図面を替えて、車両900が備える操舵装置の構成について具体的に説明する。
【0029】
図2は、本発明の実施形態1に係る操舵装置の要部構成の一例を模式的に示す模式図である、
図2に示すように、操舵装置1は、運転者による操舵操作を受け付ける操舵部10、操舵部10が受け付けた操舵操作に応じて車輪300を転舵する転舵部20、及びECU600(
図2において不図示)を備えている。
【0030】
<操舵部10>
図2に示すように、操舵部10は、操舵部材410、ステアリングシャフト104、第1の自在継手106、及び中間シャフト108を備えており、操舵部材410、ステアリングシャフト104、及び中間シャフト108は、互いにトルク伝達可能に接続されている。
【0031】
本実施形態においては、ステアリングシャフト104の上端は、操舵部材410に固定され、操舵部材410と一体的に回転する。また、ステアリングシャフト104の下端と、中間シャフト108の上端とは、第1の自在継手106を介して互いに連動するように接続されている。
【0032】
なお、「上端」とは、運転者の操舵操作に応じた操舵力の伝達経路において上流側の端部(すなわち、入力側の端部)のことを指し、「下端」とは、操舵力の伝達経路において下流側の端部(すなわち、出力側の端部)のことを指す(以下同様)。
【0033】
<転舵部20>
転舵部20は、操舵部10が受け付けた運転者の操舵操作に応じて、車輪300を転舵させるための構成である。
【0034】
図2に示すように、転舵部20は、第2の自在継手(自在継手)202、ピニオンシャフト(入力軸)204、ピニオンギヤ(第1のピニオンギヤ)206、ラック軸208、タイロッド210、ナックルアーム212、ラックガイド機構214、及び転舵力発生部220を備えている。中間シャフト108、ピニオンシャフト204、及びピニオンギヤ206は、互いにトルク伝達可能に接続されている。
【0035】
本実施形態では、ピニオンギヤ206は、ピニオンシャフト204の下端に固定され、ピニオンシャフト204と一体的に回転する。中間シャフト108の下端とピニオンシャフト204の上端とは、第2の自在継手202を介して互いに連動するように接続されている。
【0036】
ラック軸208は、ピニオンギヤ206の回転に応じて車輪300を転舵させるための構成であり、ラック軸208には、ピニオンギヤ206に噛み合うラック歯(図示せず)が形成されている。
【0037】
上記のように構成された操舵装置1では、ピニオンギヤ206が、運転者が操舵操作する操舵部材410に対してトルク伝達可能に接続されている。詳細には、運転者が操舵部材410を介した操舵操作を行うと、ピニオンギヤ206が回転し、ラック軸208の軸方向に沿って、ラック軸208が変位する。これにより、ラック軸208の両端に設けられたタイロッド210、及び、タイロッド210に連結されたナックルアーム212を介して、車輪300が転舵される。
【0038】
ラックガイド機構214は、ラック軸208をピニオンギヤ206側に押し付けるための機構である。
【0039】
なお、
図2に示す例では、ピニオンシャフト204とラック軸208との間の操舵力の伝達をピニオンギヤ206及びラック歯によって行う構成を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではなく、ピニオンシャフト204とラック軸208との間の操舵力を伝達できるものであれば、他の構成であってもよい。
【0040】
(ECU600)
以下では、参照する図面を替えて、ECU600について具体的に説明する。
図3は、ECU600の概略構成を示す図である。
【0041】
図3に示すように、ECU600は、ステアリング制御部630、サスペンション制御部650、及び車速制御部670を備えている。
【0042】
ステアリング制御部630は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果を参照して車両900が車線に沿った走行を行うためのステアリング制御量を設定する。ステアリング制御部630は、設定したステアリング制御量をトルク印加部460に供給する。また、ステアリング制御部630は、設定したステアリング制御量をサスペンション制御部650及び車速制御部670の少なくとも何れかに供給する。
【0043】
なお、本明細書において「〜を参照して」との表現には、「〜を用いて」「〜を考慮して」「〜に依存して」などの意味が含まれ得る。
【0044】
サスペンション制御部650は、サスペンションの減衰力を制御する。より具体的には、サスペンション制御部650は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果、及びステアリング制御部630から供給されるステアリング制御量を参照し、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して供給するサスペンション制御量の大きさを決定する。
【0045】
車速制御部670は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果及びステアリング制御部630から供給されるステアリング制御量を参照し、エンジン500及びブレーキ装置に供給する車速制御量の大きさを決定する。
【0046】
なお、ステアリング制御部630、サスペンション制御部650、及び車速制御部670は、それぞれ別々のECUとして実現される構成であってもよい。このような構成の場合、ステアリング制御部630と、サスペンション制御部650及び車速制御部670とが通信手段を用いて相互に通信を行うことにより、本明細書に記載の制御が実現される。
【0047】
(ステアリング制御部)
続いて、
図4を参照して、ステアリング制御部630(特許請求の範囲におけるステアリング制御装置)についてより具体的に説明する。
図4は、ステアリング制御部630の構成の一例を模式的に示すブロック図である。ステアリング制御部630は、基本制御量算出部11及びステアリング制御量演算部12を備えている。
【0048】
基本制御量算出部11は、トルクセンサ430から供給される操舵トルク(実トルク)を参照し、アシストトルク、反力トルク、又はステアリングトルクの大きさを制御するための基本制御量を算出する。基本制御量算出部611によって算出された基本制御量は、ステアリング制御量演算部12に供給される。
【0049】
ステアリング制御量演算部12は、補正制御量演算部13及び加算部14を備えている。ステアリング制御量演算部12は、基本制御量算出部11から取得した基本制御量と、車両900の運動状態量に起因するセルフアライングトルクとを参照して、ステアリング制御量を算出する。セルフアライニングトルクの具体的な算出方法については、後述する。
【0050】
また、ステアリング制御量演算部12は、セルフアライニングトルクに代えて、セルフアライニングトルクを参照して算出した補正制御量を用いてステアリング制御量を算出する構成であってもよい。補正制御量の具体的な算出方法については、後述する。
【0051】
補正制御量演算部13は、スリップ角推定部15、セルフアライニングトルク演算部(SAT演算部)16及び補正制御量算出部17を備えており、セルフアライニングトルクを参照して補正制御量を算出する。
【0052】
スリップ角推定部15は、前後Gセンサ340から車両900の前後加速度G
xが供給される。また、スリップ角推定部15は、横Gセンサ330から車両900の横加速度G
yが供給される。また、スリップ角推定部15は、ヨーレートセンサ350からヨーレートγが供給される。また、スリップ角推定部15は、車輪速センサ320A〜Dから車輪速Vが供給される。スリップ角推定部15は、供給される車両900の前後加速度G
x、車両900の横加速度G
y、ヨーレートγ及び車輪速Vを参照し、スリップ角β(特許請求の範囲における横滑り角)を算出する。
【0053】
より具体的には、スリップ角推定部15は、車両900の前後加速度G
x、横加速度G
y、ヨーレートγ及び車輪速Vを参照して、車両900の前後速度V
x及び横速度V
yを算出する。スリップ角推定部15は、算出した車両900の前後速度V
x及び車両900の横速度V
yを用いてスリップ角βを算出する。これにより、車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクの算出を好適に行うことができ、切戻しの安定感を向上させたステアリング制御を行うことができる。スリップ角推定部15は、算出したスリップ角βをSAT演算部16に供給する。
【0054】
SAT演算部16には、スリップ角推定部15からスリップ角βが供給される。また、SAT演算部16には、ヨーレートセンサ350からヨーレートγが供給される。また、SAT演算部16には、車輪速センサ320A〜Dから車輪速Vが供給される。また、SAT演算部16には、サスペンション制御部650からロールレートが供給される。
【0055】
SAT演算部16は、車両900の運動状態量を参照し、車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクを算出する。車両900の運動状態量としては、例えば、スリップ角β、ヨーレートγ、車輪速V及びロールレート等が挙げられる。SAT演算部16は、スリップ角β、ヨーレートγ及びロールレートの少なくとも何れかを参照して車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクを算出する。SAT演算部16は、算出した車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクを補正制御量算出部17に供給する。ここで、SAT演算部16は、参照するロールレートとして、サスペンション制御部650において、サスペンション制御量の算出のために参照されるロールレートを用いる構成であってもよい。
【0056】
補正制御量算出部17は、SAT演算部16から取得した車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクを参照し、車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクに応じた補正制御量(補正電流)を算出する。補正制御量算出部17は、算出した補正制御量を加算部14に供給する。
【0057】
ここで、サスペンション制御部650は、CAN370に含まれるロール角センサ(不図示)によって検出されたロール角を時間微分することによってロールレートを推定する。なお、本実施形態はこれに限定されず、車両900がロールレートセンサを更に備えることによって、ロールレートを検出する構成であってもよい。また、サスペンション制御部650は、前後G及び横Gを参照して、ロールレートを算出する構成としてもよい。
【0058】
以上のようにしてサスペンション制御部650によって推定、検出、又は算出されたロールレートは、サスペンション制御部650においてサスペンション制御量を算出するために参照される。また、上述のように、当該ロールレートは、SAT演算部16によって参照される構成としてもよい。
【0059】
加算部14は、基本制御量算出部11から供給された基本制御量と、補正制御量演算部13によって算出された補正制御量と、を加算しステアリング制御量を算出する。これにより、セルフアライニングトルクを好適に補正することができ、切戻しの安定感を向上させたステアリング制御を行うことができる。加算部14は、算出したステアリング制御量をトルク印加部460に供給する。
【0060】
ここで、「トルク抜け」が発生する具体的なプロセスを説明すれば以下の通りである。まず、運転者が転舵を行うと、車両900にヨーが発生し、その後ロールが発生する。ロールが発生すると、タイヤ310のスリップ角が変化し、これらの車両900の運動状態量によってセルフアライニングトルクが変化し、このセルフアライニングトルクによって運転者が想定していたよりも小さい反力トルクが発生する、「トルク抜け」の現象が生じ得る。
【0061】
本実施形態に係るステアリング制御部630は、セルフアライニングトルクに応じた補正制御量を算出することにより、切戻し時におけるトルク抜けの要因となる車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクの影響をなくすことができる。これにより、本実施形態に係るステアリング制御部630は、切戻しの安定感を向上させたステアリング制御を行うことができる。
【0062】
尚、本実施形態では、車両の運動状態に起因するセルフアライニングトルクから、補正制御量を算出し、加算部により補正制御量を、基本制御量に加算しているが、この方法に限定されない。例えば、車両の運動状態に起因するセルフアライニングトルクに応じてゲインを設定して基本制御量にゲインを乗算するような形にしても良い。
【0063】
(ステアリング制御量の補正方法)
以下に、ステアリング制御部630におけるステアリング制御量の補正方法について説明する。
【0064】
操舵トルクT
hを含む理論式は下記式(1)のように表される。
【数1】
T
h:操舵トルク
J
h:ハンドル慣性モーメント
2つのドット付きのθ
h:操舵部材410に対する角加速度
C
h:操舵系粘性係数
ドット付きのθ
h:操舵部材410に対する角速度
T
sat:セルフアライニングトルク
【0065】
上記式(1)のうち、セルフアライニングトルクT
satは、下記式(2)のように表される。
【数2】
ξ:ニューマチックトレール
K
f:タイヤ特性によって決定する比例係数
β:スリップ角(横滑り角)
l
f:車両900の重心点からホイールベースまでの距離
γ:ヨーレート
V:車輪速
h
f:ロールセンターからロール重心までの距離
ドット付きのφ:ロールレート
δ:タイヤ切れ角
N
s:ステアリングギア比
【0066】
補正制御量演算部13は、上記式(2)の要素のうち、車両900の運動状態量によって変化する成分を補正制御量T
assistとして算出する。より具体的には、スリップ角βに係る要素、ヨーレートγに係る要素及びロールレートに係る要素を補正制御量として算出する。補正制御量T
assistは、下記式(3)のように表される。
【数3】
【0067】
まず、補正制御量演算部13のスリップ角推定部15において、前後加速度G
x、横加速度G
y、ヨーレートγ及び車輪速Vを参照してスリップ角βを算出する。
【0068】
スリップ角βの算出方法の一例としては、前後加速度G
x及び横加速度G
yを時間積分することによって、前後速度V
x及び横速度V
yを算出し、算出した前後速度V
x及び横速度V
yを下記式(4)に適用することでスリップ角βを算出する。
【数4】
【0069】
次に、補正制御量演算部13のSAT演算部16において、スリップ角β、ヨーレートγ、車輪速V及びロールレートを上記式(3)に適用することによってセルフアライニングトルクの補正制御量T
assistを算出する。
【0070】
より具体的には、SAT演算部16は、スリップ角βを参照して、スリップ角βに基づく補正制御量
【数5】
を算出する。
また、SAT演算部16は、ヨーレートγ及び車輪速Vを参照して、ヨーレートに基づく補正制御量
【数6】
を算出する。
また、SAT演算部16は、ロールレート及び車輪速Vを参照して、及びロールレートに基づく補正制御量
【数7】
を算出する。補正制御量演算部13は、これらの補正制御量のうち少なくとも何れかをセルフアライニングトルクの補正制御量T
assistとして算出する。
【0071】
ステアリング制御部630は、加算部14において、下記式(5)のように操舵トルクT
hと、補正制御量T
assistとを参照して、補正したステアリング制御量を算出する。
【数8】
【0072】
〔実施形態2〕
以下、本発明の実施形態2について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0073】
本実施形態に係る基本制御量算出部11は、トルクセンサ430から供給される操舵トルクに代えて、舵角センサ440から供給される舵角を参照して、アシストトルク、反力トルク、又はステアリングトルクの大きさを制御するための基本制御量を算出する。基本制御量算出部11は、舵角を参照して算出した基本制御量を加算部14に供給する。
【0074】
本実施形態に係る加算部14は、舵角を参照して算出された基本制御量と実施形態1において上述した補正制御量とを加算しステアリング制御量を算出する。
【0075】
このような構成であっても、本実施形態に係るステアリング制御部630は、セルフアライニングトルクに応じた補正制御量を算出することにより、切戻し時におけるトルク抜けの要因となる車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクの影響をなくすことができる。これにより、本実施形態に係るステアリング制御部630は、切戻しの安定感を向上させたステアリング制御を行うことができる。
【0076】
〔実施形態3〕
以下、本発明の実施形態3について、参照する図面を変えて、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0077】
本実施形態に係る操舵装置1Aは、実施形態1に係る操舵装置1が備える操舵部10及び転舵部20に代えて、操舵部10A及び転舵部20Aを備えている。操舵装置1Aは、(1)操舵部材410と転舵部20との間のトルク伝達経路を機械的に接続又は遮断することが可能であり、(2)前記トルク伝達経路が遮断された状態において、操舵部材410を介した操舵操作に応じて車輪300の転舵角を電気的に制御可能であるという少なくとも2つの機能を備えたステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置である。
【0078】
なお、本実施形態に係る車両900は、操舵装置を上述のステアバイワイヤ方式の操舵装置に変更した以外は、実施形態1に係る車両900の構成と同じであり、本実施形態に係る補正制御量演算部13及びステアリング制御部630の構成は、それぞれ、実施形態1に係る補正制御量演算部13及びステアリング制御部630の構成と同じである。
【0079】
<操舵部10A>
図5に示すように、操舵部10Aは、実施形態1に係る操舵部10において、ステアリングシャフト104に代えて、上部ステアリングシャフト101、中部ステアリングシャフト102、下部ステアリングシャフト103、トルクセンサ430、動力発生部111、動力伝達シャフト112、動力伝達部113、及び、クラッチ30を備えている。
【0080】
操舵部10Aは、運転者による操舵部材410を介した操舵操作を受け付ける機能と、操舵部材410と転舵部20との間のトルク伝達経路を機械的に接続又は遮断する機能とを併せ持っている。
【0081】
本実施形態において「ステアリングシャフト」とは、操舵部材410と第1の自在継手106との間に同一軸上に配置されたシャフトのことであり、
図5における上部ステアリングシャフト101、中部ステアリングシャフト102、及び下部ステアリングシャフト103のことを指す。
【0082】
上部ステアリングシャフト101の上端は、操舵部材410に対してトルク伝達可能に接続されている。上部ステアリングシャフト101の上端は、操舵部材410に対して固定されており、操舵部材410と上部ステアリングシャフト101とは一体的に回転する。
【0083】
上部ステアリングシャフト101と中部ステアリングシャフト102とはトルク伝達可能かつ弾性的に接続されており、上部ステアリングシャフト101と中部ステアリングシャフト102との間に生じる捩れをトルクセンサ430によって検出する。より具体的には、トルクセンサ430は、操舵操作のトルクTの大きさに応じて生じた捩れ角θ
Tを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号SL430をECU600に供給する。なお、操舵部10Aは、舵角センサ440が検出した操舵角又は操舵角速度を示す信号をECU600に供給する構成としてもよい。
【0084】
中部ステアリングシャフト102には、動力伝達部113が、中部ステアリングシャフト102に対してトルク伝達可能に接続されている。中部ステアリングシャフト102の下端は、クラッチ30に接続されている。
【0085】
動力発生部111は、ECU600から供給されるトルク制御信号SL111に従い、動力伝達シャフト112に対してトルクを与える。
【0086】
動力発生部111は、例えば、モータ本体であり、動力伝達シャフト112は、例えば、モータ本体に貫入し、モータ本体によって回転駆動されるモータ出力軸である。動力伝達シャフト112は、モータ出力軸に対してトルク伝達可能に接続された他のシャフトであってもよい。
【0087】
動力伝達シャフト112には、動力伝達部113が、動力伝達シャフト112に対してトルク伝達可能に接続されている。
【0088】
動力伝達部113は、動力伝達シャフト112および中部ステアリングシャフト102の間でトルクを伝達させる動力伝達機構であり、例えば、ギヤドライブ方式、ベルトドライブ方式、チェーンドライブ方式、フリクションドライブ方式、トラクションドライブ方式等の動力伝達機構及びこれらの動力伝達機構の組み合わせを用いることができる。ギヤドライブ方式としては、はすば歯車方式や遊星ギヤ方式、ウォームギヤ・ウォームホイール方式を用いることができる。また、フリクションドライブ方式又はトラクションドライブ方式では、遊星ローラを用いた方式を用いることができる。更に、動力伝達部113は、減速機を有さなくてもよい。
【0089】
動力発生部111が発生させたトルクは、動力伝達シャフト112および動力伝達部113を介して、中部ステアリングシャフト102に伝達される。
【0090】
また、動力発生部111として、汎用の電動モータを用いれば、製造コストを更に抑制することができる。
【0091】
クラッチ30は、ECU600から供給されるクラッチ制御信号SL30に従い、操舵部材410と転舵部20との間のトルク伝達経路を機械的に接続するか又は遮断するかを切り替えるための構成である。より具体的には、クラッチ30は、クラッチ制御信号SL30に従い、中部ステアリングシャフト102の下端と、下部ステアリングシャフト103の上端との間のトルク伝達を、機械的に接続するか又は遮断するかを切り替える。
【0092】
なお、クラッチ30を設ける位置は、
図5に示したものに限定されない。例えば、クラッチ30は、後述するラック軸208付近(例えば、ピニオンシャフト204におけるピニオンギヤ206の上流側)に設けられていてもよい。
【0093】
<ECU600>
ECU600は、運転者による操舵操作に応じて、転舵力発生部220が発生させる転舵力及び動力発生部111が発生させるトルクを制御する。
【0094】
より具体的には、ECU600は、トルクセンサ430から供給されるトルクセンサ信号SL430を参照して、動力発生部111が発生させるトルクを制御するためのトルク制御信号SL111と、転舵力発生部220が発生させる転舵力を制御するための転舵力制御信号SL220とを生成し、それぞれ、動力発生部111と転舵力発生部220とに供給する。
【0095】
ECU600は、操舵部材410の操舵角を示す信号、及び車速センサからの車速信号などを更に参照して、トルク制御信号SL111及び転舵力制御信号SL220を生成する構成としてもよい。
【0096】
また、ECU600は、クラッチ制御信号SL30をクラッチ30に供給することにより、クラッチ30の接続状態及び遮断状態の切り替えを制御する。
【0097】
クラッチ30が遮断状態にあるとき、ECU600は、運転者による操舵操作に対する反力を発生させるよう動力発生部111を制御する。より具体的には、ECU600は、操舵部材410を介して入力された運転者の操舵トルクとは逆向きの反力トルクがステアリングシャフトに伝達されるように動力発生部111を制御する。これにより、運転者は、操舵操作に対する操作感を得ることができる。
【0098】
ECU600によるクラッチ30の具体的な制御方法は本実施形態を限定するものではないが、例えば、ECU600は、操舵装置1Aに何らかの異常が生じた場合やイグニッションオフ時等に、クラッチ30を接続状態に切り替える構成とすることができる。このような構成とすれば、異常発生時やイグニッションオフ時等に、運転者は、電気的経路を経由せずとも車輪300を転舵することができる。
【0099】
また、ECU600は、クラッチ30が接続状態にあるとき、操舵部材410を介して入力された運転者の操舵トルクと同じ向きのトルクがステアリングシャフトに伝達されるように動力発生部111を制御する構成としてもよい。これにより、運転者は、クラッチ30が接続状態であっても、大きな力を要することなく、操舵操作を行うことができる。
【0100】
<転舵部20A>
クラッチ30が接続状態にあるとき、運転者による操舵部材410を介した操舵操作により、ピニオンギヤ206が回転し、ラック軸208が軸方向に変位する。
【0101】
一方、クラッチ30が遮断状態にあるとき、転舵力発生部220は、ECU600からの転舵力制御信号SL220に従って転舵力を発生させ、ラック軸208を軸方向に変位させる。
【0102】
このような構成であっても、本実施形態に係るステアリング制御部630は、セルフアライニングトルクに応じた補正制御量を算出することにより、切戻し時におけるトルク抜けの要因となる車両900の運動状態量に起因するセルフアライニングトルクの影響をなくすことができる。これにより、本実施形態に係るステアリング制御部630は、切戻しの安定感を向上させたステアリング制御を行うことができる。
【0103】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ECU600の制御ブロック(ステアリング制御部630)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0104】
後者の場合、ECU600は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0105】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。