上記課題を解決するべく、本発明の偏光素子1は、透明な無機材料からなる基板10と、透明材料からなり、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有する、グリッド構造体20と、前記突起部22上に形成された、光を吸収する吸収膜、光を反射する反射膜、又は、該吸収膜と該反射膜とを少なくとも有する多層膜からなる光学機能膜30と、を備えることを特徴とする。
前記突起部を前記偏光素子の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で見たときの形状が、矩形、台形、多角形又は楕円形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の偏光素子。
前記光学機能膜を形成する工程は、スパッタリング又は蒸着法によって、前記突起部に対して複数の方向から交互に成膜を行うことを特徴とする、請求項13に記載の偏光素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の偏光素子の実施形態及び本発明のヘッドアップディスプレイの実施形態について、必要に応じて図面を用いながら具体的に説明する。なお、
図1〜
図13の中で開示した各部材については、説明の便宜のため、実際とは異なる縮尺及び形状で模式的に表しているものもある。
【0017】
<偏光素子>
まず、本発明の偏光素子の一実施形態について説明する。
本発明の偏光素子は、
図1(a)及び(b)に示すように、透明な無機材料からなる基板10と、透明材料からなり、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有する、グリッド構造体20と、前記突起部22上に形成された、光を吸収する吸収膜、光を反射する反射膜、又は、該吸収膜と該反射膜とを少なくとも有する多層膜からなる光学機能膜30と、を備える偏光素子1である。
【0018】
偏光素子1の基板10を熱伝導性の高い無機材料から構成するとともに、凹凸構造が形成されたグリッド構造体20を、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有することで、無機材料の基板10と薄厚のベース部21を有するグリッド構造体20から構成することができ、熱抵抗値で有利な効果が得られる結果、優れた偏光特性を実現しつつ、放熱効果についても向上させることができる。また、上述したように、グリッド構造体20は、ベース部21及び突起部22を有しており、これらは、ナノインプリント等の技術によって形成することができるものであるため、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いる場合に比べて、製造にかかるコストや煩雑さを低減できる。
一方、従来のフィルムタイプの有機偏光板については、有機材料を多く用い、基板(ベースフィルム)や両面テープ(OCA:Optically Clear Adhesive)、グリッド構造体の厚さが大きくなることから、本発明の偏光素子に比べて放熱性や耐熱性が劣ると考えられる。
【0019】
以下、本発明の偏光素子の一実施形態の構成部材について説明する。
(基板)
本発明の偏光素子1は、
図1(a)に示すように、基板10を備える。
前記基板10は、透明な無機材料からなる。無機材料を基板10として用いることで、基板10の熱伝導性が高くなるため、偏光素子1の放熱性の向上を図ることができる。
なお、本明細書において「透明」とは、使用帯域(可視光及び赤外光の帯域)に属する波長の光の透過率が高いことを意味し、例えば、当該光の透過率が70%以上であることを意味する。前記偏光素子1は、使用帯域の光に対して透明な材料を用いているため、偏光素子1の偏光特性や、光の透過性等に悪影響を与えることがない。
【0020】
前記基板10の材料としては、例えば、各種ガラス、石英、水晶、サファイア等が挙げられる。これらの中でも、前記基板10の材料として、熱伝導率が1.0W/m・K以上であるものが好ましく、8.0W/m・K以上であるものがより好ましい。より優れた放熱性が得られるためである。
【0021】
また、前記基板10の形状については、特に限定されず、偏光素子1に要求される性能等に応じて適宜選択することができる。例えば、板状や曲面を有するように構成することができる。また、偏光素子1の偏光特性に影響を与えない点からは、前記基板10の表面を平坦面とすることができる。
さらに、前記基板10の厚さTSについても、特に限定はされず、例えば0.3〜10.0mmの範囲とすることができる。
【0022】
(グリッド構造体)
本発明の偏光素子の実施形態1では、
図1(a)に示すように、前記基板10上に、透明材料からなり、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有するグリッド構造体20をさらに備える。
前記グリッド構造体20は、表面に形成された格子状の突起部22上に、後述する光学機能膜30が設けられることによって、所望の偏光特性を得ることができる。
【0023】
前記グリッド構造体20の突起部22が形成された面から入射した光は、後述する光学機能膜30が吸収性能を有する場合には、該光学機能膜30を通過する際に、一部が吸収されて減衰する。また、前記光学機能膜30が反射性能を有する場合には、該光学機能膜30を通過する際に、前記入射光は一部が反射される。前記光学機能膜30を透過した光のうち突起部22の長手方向(吸収軸方向又は反射軸方向)に直交する方向(透過軸方向)に電界成分をもつ光は、高い透過率で偏光素子1を透過する。一方、前記光学機能膜30を透過した光のうち突起部22の長手方向に平行な方向(吸収軸方向又は反射軸方向)に電界成分をもつ光は、その大部分が光学機能膜30で反射及び又は吸収される。そのため、本発明の偏光素子の実施形態1では、後述する光学機能膜30が形成された前記グリッド構造体20を備えることで、単一偏光を作り出すことができる。なお、この偏光効果は、前記基板10の裏面側からの入射した光に対しても同様の効果が得られる。
【0024】
前記グリッド構造体20は、
図1(a)に示すように、ベース部21を有する。前記ベース部21は、前記基板10の表面に沿って設けられた、前記突起部22を支持するための部分である。前記グリッド構造体20の凹凸形状(突起部22)をナノインプリント等によって形成した場合に必然的に形成される。また、前記グリッド構造体20中にベース部21が形成されていることによって、前記突起部22が前記基板10上に直に形成される場合に比べて、突起部22の強度を高くできるため、前記グリッド構造体20の耐久性を高めることができ、さらに、前記ベース部21が面全体で前記基板10と密着しているため、前記グリッド構造体20の耐剥離性を高めることができる。
【0025】
なお、前記ベース部21の厚さTBについては、特に限定はされないが、前記突起部22をより確実に支持できる点や、インプリント成形が行いやすい点から、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、良好な放熱性を確保する点からは、前記ベース部21の厚さTBは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0026】
さらに、前記グリッド構造体20は、
図1(a)及び(b)に示すように、前記ベース部21から突出した突起部22を有する。前記突起部22は、
図1(b)に示すように、本発明の偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向を長手方向として延在しており、突起部22が複数存在することで格子形状となっている。
【0027】
ここで、
図1(a)及び(b)に示すように、偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で観察した際の前記突起部22の形成間隔Pが、使用帯域の光の波長よりも短いことを要する。上述した偏光作用を得るためである。より具体的には、前記突起部22の形成間隔Pは、前記突起部22の製造容易性と偏光特性との両立の観点から、50〜 300nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましく、100〜150nmであることが特に好ましい。
【0028】
また、
図1(a)及び(b)に示すように、偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で観察した際の前記突起部22の幅Wは、特に限定はされないが、製造容易性と偏光特性との両立の観点から、20〜150nm程度であることが好ましく、30〜100nm程度であることがより好ましい。
なお、前記突起部22の幅Wについては、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。本発明では、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面を観察し、任意の4箇所の突起部22について高さHの中心位置における幅を測定し、その算術平均値を突起部22の幅Wとすることができる。
【0029】
また、
図1(a)に示すように、偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で観察した際の前記突起部22の高さHは、特に限定はされないが、製造容易性と偏光特性との両立の観点から、50〜300nm程度であることが好ましく、100〜250nm程度であることがより好ましい。
なお、前記突起部22の高さHについては、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。本発明では、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面を観察し、任意の4箇所における突起部22の幅Wの中心位置における高さを測定し、その算術平均値を突起部22の高さHとすることができる。
【0030】
前記グリッド構造体20の突起部22の形状については、偏光特性を得るため、前記ベース部21から格子状に突出すること以外は、特に限定はされない。
偏光素子1の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面を観察した際の形状として、例えば、
図2に示すように、矩形、台形、三角形、釣鐘型等を有することができる。これらの形状を有することで、前記突起部22上に光学機能膜30を形成しやすく、偏光素子1に偏光特性を付与できるとともに、これらの形状はナノインプリントによっても形成可能であるため、製造容易性の点でも有利である。また、前記ベース部21の格子状に突出する突起部22間に形成された凹部の形状についても矩形、
図25に示すように、台形、三角形、釣鐘型等を有することができる。これらの形状は、ナノインプリント形成時の離型性など生産性考慮して適宜最適な形状を選択することができる。
【0031】
また、前記グリッド構造体20を構成する材料については、透明材料であれば特に限定はされず、公知の有機材料及び無機材料を用いることができる。
例えば、透明性を確保でき、製造容易性に優れる点からは、各種の熱硬化性樹脂、各種の紫外線硬化性樹脂、ガラス(スピン・オン・ガラス:SOG)等を、前記グリッド構造体20の材料として用いることが好ましい。
【0032】
さらに、前記グリッド構造体20を構成する材料については、前記基板10と同じ材料とすることもできるし、異なる材料を用いることもできる。ただし、製造容易性の点や製造コストの点からは、前記グリッド構造体を構成する材料は、異なるものであることが好ましい。加えて、前記グリッド構造体20と前記基板10の材料が異なる場合、両者の屈折率が異なることになるため、偏光素子1全体の屈折率の調整が容易となる。
【0033】
なお、前記グリッド構造体20を形成する方法については、上述したベース部21及び突起部22を形成できる方法であれば特に限定はされない。例えば、フォトリソグラフィや、インプリントによる凹凸形成方法を用いることができる。
これらの中でも、短時間且つ容易に凹凸パターンを形成でき、さらに、前記ベース21を確実に形成できる点からは、インプリントによって、前記グリッド構造体20のベース部21及び突起部22を形成することが好ましい。
【0034】
前記ナノインプリントによって、前記グリッド構造体20のベース部21及び突起部22を形成する場合、例えば、前記基板10上に、前記グリッド構造体20を形成するための材料(グリッド構造体材料)を塗布した後、凹凸が形成された金型を前記グリッド構造体材料に押し当て、その状態で紫外線の照射や熱の付与を行い、前記グリッド構造体材料を硬化させることができる。これによって、前記ベース部21及び前記突起部22を有するグリッド構造体20を形成できる。
【0035】
(光学機能膜)
本発明の偏光素子の実施形態1では、
図1(a)に示すように、前記グリッド構造体20の突起部22上に形成された、光を吸収する吸収膜、光を反射する反射膜、又は、該吸収膜と該反射膜とを少なくとも有する多層膜からなる光学機能膜30をさらに備える。
前記多層膜30は、入射光の一部を、吸収及び/又は反射することによって、偏光素子1に所望の偏光特性を付与することができる。
【0036】
前記光学機能膜30を構成する反射膜については、
図1(a)に示すように、前記グリッド構造体20の突起部22上に形成されることで、偏光素子1に入射した光のうち前記突起部22の長手方向に平行な方向(反射軸方向)に電界成分をもつ光を反射することができる。
【0037】
前記反射膜を構成する材料は、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に限定はされない。例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体や、これら元素の1種以上を含む合金等が挙げられる。
【0038】
前記光学機能膜30を構成する吸収膜については、
図1(a)に示すように、前記グリッド構造体20の突起部22上に形成されることで、偏光素子1に入射した光のうち前記突起部22の長手方向に平行な方向(吸収軸方向)に電界成分をもつ光を吸収することができる。吸収された光は、熱に変換され、上述した基板10を通して放熱される。
【0039】
前記吸収膜を構成する材料は、使用帯域の光を吸収することができる材料であれば特に限定はされない。例えば、誘電材料及び非誘電材料を含むものが挙げられる。
【0040】
前記誘電材料としては、例えば、Si、Al、Be、Bi、Ti、Ta、B等の元素の酸化物;Si、B等の元素の窒化物;Mg、Ca等の元素のフッ化物;Si、Ge、炭素、氷晶石等が挙げられる。これらの誘電材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の誘電材料を併用する場合、2種以上の誘電材料を混合して用いてもよく、膜厚方向で異なる誘電材料を用いてもよい。
【0041】
前記非誘電材料としては、例えば、Fe、Ta、Si、Ti、Mg、W、Mo、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体(ただし、Si単体を除く)又は合金が挙げられる。合金としては、FeSi合金、TaSi合金等が挙げられる。FeSi合金のFe含有率は、反射率及び透過率の観点から、50atm%以下であることが好ましく、10atm%以下であることがより好ましい。TaSi合金のTa含有率は、反射率及び透過率の観点から、40atm%以下であることが好ましい。これらの非誘電材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の非誘電材料を併用する場合、2種以上の非誘電材料を混合して用いてもよく、膜厚方向で異なる非誘電材料を用いてもよい。
【0042】
これらの中でも、誘電材料がSi及びSi酸化物(例えば、シリカ)の少なくとも一方を含み、非誘電材料が金属を含むことが好ましい。金属としては、例えば、Fe、Ta、W、Mo、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の金属の単体又は該金属の合金が挙げられる。Si及びSi酸化物の少なくとも一方と金属とを組み合わせてサーメット化することで、前記吸収膜の耐熱性がより向上する傾向にある。
【0043】
また、前記吸収膜中の非誘電材料の含有率は、膜厚方向に変化させることもできる。このような変化により、偏光素子1の光学特性が向上する傾向にある。また、非誘電材料の含有率の変化態様を調整することにより、吸収軸反射率Rsの最小点における波長を調整することができる。
【0044】
また、前記光学機能膜30を構成する多層膜は、少なくとも上述した反射膜及び吸収膜のいずれも含む膜である。前記光学機能膜30として多層膜を用いることで、前記反射膜による光の反射、及び、前記吸収膜による光の吸収の両方の作用があり、より優れた偏光特性を得ることが可能である。
【0045】
前記多層膜は、前記反射膜と前記吸収膜との2層構造とすることもでき、さらに、前記反射膜と前記吸収膜との間に、誘電体膜をさらに有する3層構造とすることもできる。
前記誘電体膜を有する場合、前記誘電体膜は、入射した光に対して前記吸収膜を透過し、前記反射膜で反射した当該偏光の位相が半波長ずれる膜厚で形成されることが好ましい。具体的な膜厚は、偏光の位相を調整し、干渉効果を高めることが可能な1〜500nmの範囲で適宜設定される。
【0046】
また、前記誘電体膜の材料は、SiO
2、Al
2O
3、MgF
2などの一般的な材料を用いることができる。また、誘電体膜の屈折率は、1.0より大きく2.5以下とすることが好ましい。なお、前記吸収膜の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電膜の材料により偏光特性を制御してもよい。
【0047】
なお、前記光学機能膜30は、
図3に示すように、前記突起部22の少なくとも先端に形成されていることが好ましい。
前記光学機能膜30が、前記突起部22の先端に形成されることによって、上述した光の反射作用及び光の吸収作用をより確実に発揮でき、偏光素子1全体の偏光性能をより高めることができるためである。
【0048】
また、前記光学機能膜30は、
図3に示すように、前記ベース部21上には形成されていないことが好ましい。前記ベース部21上に前記光学機能膜30が形成された場合、光の透過を阻害するため、偏光素子1の偏光特性の低下を招くおそれがあるためである。
【0049】
ここで、前記光学機能膜30を、前記グリッド構造体20のベース部21上には形成されず、前記突起部22の先端に形成するには、
図3に示すように、前記光学機能膜30を前記グリッド構造体20の突起部22に対して斜めの方向からスパッタリングや蒸着を行うことが好ましい。これによって、前記光学機能膜30を前記突起部22の先端にのみ形成することができる。なお、前記光学機能膜30を形成するためのスパッタリングや蒸着の角度θについては、具体的には、前記基板10の表面に対して5〜70°程度とする。
【0050】
このように、透明材料からなる前記グリッド構造体20を形成した後で、前記光学機能膜30をスパッタリングや蒸着法にて形成することにより、成膜条件や材料、膜厚について、容易に変更することができる。また、前記光学機能膜30が多層膜の場合にも容易に対応することができるため、金属や半導体、誘電体を組み合わせることで干渉効果を利用した膜設計が可能となり、従来技術のように、前記光学機能膜30を形成する際、エッチングできる材料構成などを考慮する必要がない。それにより、前記グリッド構造体20に平行な偏光波の吸収率(減衰量)を調整することや、前記グリッド構造体20に垂直な偏光波の透過率(透過量)を調整することも容易になる。加えて、前記グリッド構造体20を形成した後で、前記光学機能膜30を成膜することで真空Dryエッチング装置等の設備も必要なく、複雑なプロセスやエッチング材料に合わせたガスや除害装置などの安全装置などを揃える必要もないので、設備投資や保守などのランニングコストが削減でき、コストメリットも得ることができる。
【0051】
前記光学機能膜30の形成された状態については、例えば
図3に示すように、前記光学機能膜30が前記グリッド構造体20の突起部22の先端のみに形成された状態とすることができる。
また、
図4に示すように、前記光学機能膜30を前記グリッド構造体20の突起部22に対して斜めの方向からスパッタリングによって形成した場合には、前記突起部22の先端のうち、スパッタリングの照射源側に、前記光学機能膜30が多くはみ出しが形成状態となる。
さらに、
図5に示すように、前記光学機能膜30が前記グリッド構造体20の突起部22の先端だけでなく、側面の一部を覆うようにはみ出した形成状態とすることもできる。
【0052】
前記光学機能膜30については、より優れたコントラストが得られる観点から、
図5や、
図26に示すように、前記グリッド構造体20の突起部22の先端及び側面の一部に形成されることが好ましい。前記光学機能膜30が前記突起部22の先端だけでなく、側面についても覆うことによって、偏光素子の吸収性能及び/又は反射性能が高まる結果、より優れたコントラストが得られる。
また、前記光学機能膜30の形成条件としては、例えば
図26に示すように、前記グリッド構造体20の突起部22に対して複数の方向から交互にスパッタリング又は蒸着法を行うことによって、前記光学機能膜30を前記グリッド構造体20の突起部22の先端及び側面の一部に形成することができる。
【0053】
なお、前記光学機能膜30は、前記突起部22の先端及び側面に形成される場合、前記グリッド構造体20のベース部21には形成されないことが好ましい。優れた透過性を維持するためである。また、前記光学機能膜30は、
図4に示すように、前記偏光素子の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で見たときに前記突起部22の片側面のみに形成されてもよいが、入射光の方向に依存することなくより優れた偏光特性が得られる観点から、前記突起部22の両側面を覆うように形成されることが好ましい。
【0054】
さらに、前記突起部22の側面の一部に形成された前記光学機能膜30は、
図26に示すように、前記突起部22の高さHの10%以上を覆う範囲に形成されている(HX:光学機能膜が突起部を覆う高さ範囲÷H:突起部の高さ×100%≧10%である)ことがより好ましい。前記光学機能膜30が前記突起部の高さHの10%以上を覆うことで、さらに優れたコントラストを実現できるためである。
【0055】
なお、前記光学機能膜30の厚さについては特に限定はされず、前記グリッド構造体20の形状や、前記光学機能膜30に要求される性能等に応じて適宜変更できる。
例えば、前記光学機能膜30が、吸収膜の場合には、5〜100nmとすることができる。また、前記光学機能膜30が、反射膜の場合には、5〜200nmとすることができる。さらに、前記光学機能膜30が、多層膜の場合には、10〜400nmとすることができる。
【0056】
(その他の部材)
本発明の偏光素子の実施形態1では、上述した、基板10、グリッド構造体20及び光学機能膜30以外の部材を、さらに備えることもできる。
【0057】
例えば、本発明の偏光素子の実施形態1では、
図6(a)及び(b)に示すように、少なくとも前記光学機能膜30の表面を覆うように形成された保護膜40を、さらに備えることが好ましい。
前記保護膜40を形成することで、偏光素子の耐疵付き性や防汚性、防水性をより高めることができる。
【0058】
また、前記保護膜40については、さらに、撥水性コーティング又は撥油性コーティングを含むことがより好ましい。偏光素子の防汚性及び防水性をより高めることができるためである。
【0059】
前記保護膜40を構成する材料については、偏光素子の耐疵付き性や防汚性、防水性を高めることができるものであれば、特に限定はされない。
例えば、誘電材料からなる膜が挙げられ、より具体的には、無機酸化物、シラン系撥水材料等が挙げられる。前記無機酸化物としては、Si酸化物、Hf酸化物等が挙げられ、シラン系撥水材料は、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物を含有するものであってもよく、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)等の非フッ素系シラン化合物を含有するものであってもよい。
これらの材料の中でも、前記無機酸化物及び前記フッ素系撥水材料の少なくとも一方を含むことがより好ましい。前記保護膜40が、前記無機酸化物を含むことで、偏光素子の耐疵付き性をより高めることができ、前記フッ素系撥水材料を含むことで、偏光素子の防汚性及び防水性をより高めることができる。
【0060】
なお、前記保護膜40については、少なくとも前記光学機能膜30の表面を覆うように形成されればよく、
図6(a)に示すように、前記グリッド構造体20及び前記光学機能膜30の表面を覆うように形成されることがより好ましい。また、
図6(b)に示すように、前記偏光素子1全体を覆うように形成されることもできる。
【0061】
さらに、本発明の偏光素子の実施形態1では、
図7に示すように、前記基板10を覆うように、放熱部材50が設けられていることが好ましい。前記基板10からの熱をより効率的に解放することができるからである。
ここで、前記放熱部材50については、放熱効果が高い部材であれば特に限定はされない。例えば、放熱器、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ダイパッド、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。
【0062】
ここで、
図8は、実際に作製した本発明の偏光素子について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大撮影した写真である。
図8(a)から、前記基板10上に、格子状の突起部22を有するグリッド構造体20が形成されていることがわかる。また、
図8(b)及び(c)から、前記グリッド構造体20には、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から突出した突起部22が形成されていることがわかる。さらに、
図8(d)から、前記突起部22の先端に吸収膜からなる光学機能膜30が形成されていることがわかる。
【0063】
<偏光素子の製造方法>
次に、本発明の偏光素子の製造方法について説明する。
本発明の偏光素子の製造方法は、
図9(a)〜(d)に示すように、無機材料からなる基板10上に、透明材料からなるグリッド構造体材料23を形成する(
図9(a))工程と、
前記グリッド構造体材料23にナノインプリントを施すことによって(
図9(b))、基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有するグリッド構造体20を、形成する(
図9(c))工程と、
前記突起部22上に、光を吸収する吸収膜、光を反射する反射膜、又は、該吸収膜と該反射膜とを少なくとも有する多層膜からなる光学機能膜30を形成する(
図9(d))工程と、を備えることを特徴とする。
上述した工程を経ることによって、コストの高騰や製造の煩雑さを招くことなく、偏光特性及び放熱性に優れた偏光素子1を製造できる。
【0064】
一方、従来のワイヤグリッド偏光素子の製造方法では、
図10(a)〜(e)に示すように、凸グリット形状を作製するために、ガラス等の無機材料からなる基板10に、アルミニウム等の金属膜80をスパッタや蒸着などを使用し成膜し、金属膜80上に積層する形で使用帯域の光を吸収する材料等からなる光学機能膜材料層31をスパッタや蒸着などで成膜する(
図10(a))。その後、フォトリソグラフィ技術を用い、レジストマスク70をパターニングする(
図10(b))。その後、真空ドライエッチング装置等によって、光学機能膜材料層31及び金属膜80にエッチングを施すことで、金属膜80と光学機能膜30とからなる凸形状を形成する(
図10(c))。例えばこの時に、レジストマスク70と光学機能膜材料層31/金属膜80とのエッチング選択比が取れない場合には、光学機能膜材料層31の上にSiO
2等の酸化膜をスパッタなどでさらに成膜し、この上にフォトリソグラフィ技術によってレジストマスク70を形成する。その後、レジストマスク70を剥離させた後(
図10(d))、保護膜40としてSiO
2膜等をCVD等によって成膜し、必要に合わせ撥水・撥油コート処理も行う。
なお、
図10(a)〜(e)では基本的な構成の吸収型ワイヤグリッド偏光素子を作製するプロセスを示したが、金属膜と吸収膜の間にSiO
2等の誘電膜を介したり、吸収層が多層膜である場合を考えると、さらに複雑なプロセスを要する。そのため、
図10(a)〜(e)に示すようなプロセスで作製される従来のワイヤグリッド偏光素子は、製造に係る費用や時間が大きくなり、高額になることが推測できる。また、偏光素子の量産をする場合は、光の波長よりも小さい凸形状を形成するための、精度の良い高額なエッチング装置やフォトリソグラフィ装置を、生産量に合わせ複数台準備することが必要となり、設備投資もより高額になることが予測される。
【0065】
なお、本発明の偏光素子の製造方法に用いられる、無機材料からなる基板10については、上述した本発明の偏光素子の中で説明した基板10と、同様のものを用いることができる。
【0066】
また、本発明の偏光素子の製造方法において、前記基板10上に形成されるグリッド構造体材料23については、上述した本発明の偏光素子の中で説明したグリッド構造体20の中で用いられる材料と同様のものを用いることができる。
【0067】
さらに、前記グリッド構造体材料23の膜厚については、ナノインプリントによって形成されるグリッド構造体20のベース部21及び突起部22の寸法に応じて適宜調整することができる。
【0068】
本発明の偏光素子の製造方法においては、前記グリッド構造体材料23にナノインプリントを施される(
図9(b))が、ナノインプリントの条件については、特に限定はされない。
例えば、
図9(b)に示すように、レプリカ原盤(本型原盤でも良い)を用い、ナノインプリントを行いつつ、前記グリッド構造体材料23に、UV照射や、加熱等を行うことにより、インプリントされた状態で硬化させた後、レプリカ原盤を離型することで、ベース部21及び突起部22が形成されたグリット構造体20を転写成形することができる。
【0069】
なお、前記ナノインプリントに用いる原盤については、例えば
図11(a)〜(e)に示すように、フォトリソグラフィ技術によって作製することができる。
まず、原盤用基材61上に、原盤用金属膜62を成膜した後(
図11(a))、レジストマスク70を形成し(
図11(b))、原盤用金属膜62にエッチングを施す(
図11(c))。エッチング後、レジストマスク70を剥離することによって、原盤用基材61及び原盤用凸部63を備えた原盤60が得られる(
図11(d))。
また、前記原盤60は、必要に応じて、離型膜コート64をさらに備えても良い(
図11(e))。前記離型膜コート64を備えることで、前記グリッド構造体材料23にナノインプリントを施した後(
図9(b))、離型をより容易に行うことができる。
【0070】
さらに、本発明の偏光素子の製造方法において、前記突起部22上に形成される光学機能膜30の態様については、上述した本発明の偏光素子の中で説明した光学機能膜30と同様の条件とすることができる。
【0071】
なお、本発明の偏光素子の製造方法は、
図9(d)に示すように、必要に応じて、前記グリッド構造体20及び前記光学機能膜30の表面を覆うように形成された保護膜40を、さらに形成することができる。
前記保護膜の態様については、上述した本発明の偏光素子の中で説明した保護膜40と同様の条件とすることができる。
【0072】
<ヘッドアップディスプレイ装置>
次に、本発明のヘッドアップディスプレイ装置の一実施形態について説明する。
本発明のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態100は、
図12に示すように、上述した本発明の偏光素子1を備える。
ヘッドアップディスプレイ装置100が、本発明の偏光素子1を備えることによって、偏光特性及び耐熱性を向上させることができる。従来の偏光素子を組み込んだヘッドアップディスプレイでは、放熱性に劣るため、長期間の使用や、今後の高輝度化・拡大表示に対応することを考えると、耐熱性が十分でないと考えられる。
【0073】
また、本発明のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態100では、前記偏光素子1の配設位置については、特に限定はされない。例えば、
図12に示すように、光源2と、表示画像を出射する表示素子3と、前記表示画像を表示面5へ反射させる反射器4と、を備え、前記偏光素子1を、前記表示素子3と前記反射器4との間に設けることができる。
本発明の偏光素子1を、前記表示素子3の前に置いたプレ偏光板として用いることによって、表示素子3から出射した表示画像を透過させつつ、太陽光が表示素子3へ入射するのを抑制できるため、ヘッドアップディスプレイの耐熱性及び耐久性をより高めることができる。
【0074】
本発明のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態100では、
図12に示すように、表示素子3は、例えば使用帯域の光に対し透明な一対の基板に液晶が封止された透過型の液晶パネルであり、この前後に図示していない偏光素子が貼り合わせたものである。この貼り合わせた前後の偏光素子の偏光軸は直行の関係にある。この表示素子3の後方(表示画像の出射方向とは逆側)にLED等の光源2を配置し、表示素子3を照明することで表示画像を出射することができる。
前記表示素子3の前面側(表示画像の出射方向の前方)に配置された偏光素子1は、表示素子3の前側に貼られた偏光素子と偏光軸が同一方向になる様に配置され、表示素子3から出射される表示画像を透過する。偏光素子1を透過した表示画像は、表示素子3に対し約45°の角度で配置されたミラー(反射器4)で反射され、フロントガラス面(表示面5)に出射されることで表示画像が運転者(人)に虚像として視認される。これらのヘッドアップディスプレイ装置を構成する各部材は、ハウジング内に収納される。
【0075】
さらに、本発明のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態100は、
図13に示すように、前記偏光素子1の周囲に、放熱部材50が設けられていることが好ましい。前記偏光素子1の熱をより効率的に解放し、装置の耐熱性をより向上できるからである。
ここで、前記放熱部材50については、上述した本発明の偏光素子1の中で説明した放熱部材50と同様のものである。
【0076】
なお、
図12及び13に示したヘッドアップディスプレイ装置100の構成は、最低限且つ基本的な構成であり、本発明のヘッドアップディスプレイ装置を構成する各部材は、は、
図12及び13に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて、適宜他の部材を備えることができる。
【0077】
加えて、本発明のヘッドアップディスプレイ装置では、上述したように、前記偏光素子1の配設位置については、特に限定はされず、ヘッドアップディスプレイ装置の構成や、要求される性能に応じて、適宜選択することができる。
例えば、図示はしていないが、前記偏光素子1を、前記表示素子3と前記光源2との間に設けることができる。
また、図示はしていないが、前記偏光素子1を、前記反射器4の中に組み込むこともできる。
さらに、ヘッドアップディスプレイ装置内に設けられたカバー部6を、前記偏光素子1から構成することもできる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
<実施例1>
図6(b)に示されるような、ガラスからなる基板10と、紫外線硬化性樹脂(アクリル系樹脂)からなり、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有する、グリッド構造体20と、前記突起部22上に形成された、光を吸収するGeの吸収膜からなる光学機能膜30と、SiO
2からなる保護膜40と、を備えた偏光素子1のモデルを作製した。
そして、作製した偏光素子1のモデルについて、以下に示す(1)〜(9)のように、グリッド構造体20や光学機能膜30の条件を変更し、波長430〜680nmの光に対する光学特性(透過軸透過率:Tp、吸収軸透過率:Ts、透過軸反射率:Rp、吸収軸反射率:Rs、コントラスト:CR)の評価を行った。
なお、作製したモデルの光学特性については、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションによって検証した。シミュレーションには、Grating Solver Development社のグレーティングシミュレータGsolverを用いた。
【0080】
(1)グリッド構造体の材料の種類
偏光素子1のモデルについて、グリッド構造体20の材料を、SOGからなるSiO
2を用いた場合と、紫外線硬化性樹脂であるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図14に示す。
【0081】
図14の結果から、グリッド構造体20をSiO
2で形成した場合も、PMMAで形成した場合も、同等の特性が得られることが確認できた。この結果から、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成することで、無機材料でも有機材料でも同等の特性が得られるため、求められる特性や信頼性および量産性を考慮し適宜材料を選択することが可能となることがわかる。
【0082】
(2)グリッド構造体のベース部の厚み
偏光素子1のモデルについて、グリッド構造体20のベース部21の厚さTBを変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図15に示す。
【0083】
図15の結果から、ベース部21の厚みTBを、0nm〜30000nmまで一定間隔で変化させたが、ベース部21の厚さを変えても偏光特性に与える影響は少ないことが確認できた。ただし、ベース部21の厚さが30000nm(30μm)を超えると、Tp、Tsの特性が変化することがわかった。この結果から、密着性を含めた信頼性にあわせてベース部21の厚みをある程度の範囲で適宜調整可能であること、また、量産プロセスでのベース層の管理などシビアな工程管理を行う必要がなく、コストメリットが得られることがわかる。
【0084】
(3)グリッド構造体の突起部の高さ
偏光素子1のモデルについて、グリッド構造体20の突起部22のベース部21から突出した高さHを変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図16に示す。
【0085】
図16の結果から、突起部22の高さを20nm〜400nmまで、ある間隔で変化させたが、偏光特性に与える影響は殆どないことが確認できた。この結果から、使用帯域の光に対し透明な材料で突起部22を形成することで、突起部22の高さHの管理などシビアな工程管理を行う必要がなく、量産性を考慮した場合突起部22の高さHは、低い方が作製しやすく、歩留まりや信頼性などを考慮した場合にもメリットが大きいことがわかる。
【0086】
(4)吸収膜の厚さ
偏光素子1のモデルについて、光学機能膜30としての吸収膜の厚さ(突起部22に付着した吸収膜のうち、もっとも厚い部分の膜厚)を変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図17に示す。
【0087】
図17の結果から、吸収膜の厚みを10nm〜50nmまで、ある間隔で変化させると、偏光特性に変化があることを確認した。そのため、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成した後に、吸収膜を成膜し、この吸収膜の厚みを制御することによって、光学特性、特に、Rs及びTsを制御することができ、顧客のニーズに合わせた偏光特性に吸収膜の厚みのみの制御で最適化が可能であることがわかる。
【0088】
(5)吸収膜の材料の種類
偏光素子1のモデルについて、光学機能膜30としての吸収膜の材料を、Geを用いた場合と、FeSiを用いた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図18に示す。
【0089】
図18の結果から、吸収膜の材料の種類を変更することで、偏光特性が変化することを確認した。そのため、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成した後に、吸収膜を成膜し、この吸収膜の種類を変えることで、光学特性、特に、Rs及びTsを制御することができ、顧客のニーズに合わせた偏光特性に吸収膜の材料の選定で最適化が可能であることがわかる。また、金属や半導体、誘電体を組み合わせた多層構造にすることで、干渉効果を利用することが可能であり、さらなる偏光特性の最適化が可能であることが推測できる。
【0090】
(6)吸収膜の幅
偏光素子1のモデルについて、グリッド構造体20の各突起部21上に形成された光学機能膜30の入射光の透過軸に平行な幅(つまり、グリッド構造の長手方向と直交する方向の幅)を変えた場合の、光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図19に示す。
【0091】
図19の結果から、吸収膜の幅を変更することで、偏光特性が変化することを確認された。そのため、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成した後に、吸収膜を成膜し、この吸収膜の成膜幅を変えることで、光学特性、特に、Rs、Rp及びTpを制御することができ、顧客のニーズに合わせた偏光特性に吸収膜の材料の選定で最適化が可能であることがわかる。
【0092】
(7)吸収膜の形成状態
偏光素子1のモデルについて、
図3に示すような吸収膜が突起部22の先端のみ形成された場合、
図4に示すような吸収膜が突起部22の先端の片側に厚く形成された場合、
図5に示すような吸収膜が突起部22の先端の両側に厚く形成された場合と、形成状態を変えた際の、光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図20に示す。
【0093】
図20の結果から、グリッド構造体20の各突起部21への吸収膜の付き方が変わることで、偏光特性が変化することが確認された。そのため、斜め方向のスパッタリングの角度θを変えたり、両側からのスパッタリングを行うことによって、光学特性、特に、Rs、Tsを制御することができ、顧客のニーズの偏光特性に合わせた最適化が可能であることがわかる。
【0094】
そして、
図17〜20の結果から、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成し、その上に吸収膜を成膜することで、吸収膜の成膜方法(材料、厚み、成膜幅、突起部先端への形成状態など)を制御することで、顧客ニーズに合わせた偏光特性を調整できることがわかる。また同様に、反射膜や多層膜を成膜・制御することで所望の偏光特性を得られることがわかる。
【0095】
(8)反射膜の厚さ
偏光素子1のモデルについて、光学機能膜30としての反射膜の厚さ(突起部22に付着した反射膜のうち、もっとも厚い部分の膜厚)を変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図21に示す。
【0096】
図21の結果から、反射膜の厚みを30nm〜100nmまで、ある間隔で変化させると、偏光特性に変化があることが確認された。そのため、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成した後に、反射膜を成膜し、この反射膜の厚みを制御することによって、光学特性、特に、Rs及びTsを制御することができ、顧客のニーズに合わせた偏光特性に反射膜の厚みのみの制御で最適化が可能であることがわかる。
【0097】
(9)反射膜が突起部を覆う高さ範囲
偏光素子1のモデルについて、光学機能膜30として突起部22の先端及び側面に形成された反射膜の、突起部22を覆う範囲(突起部の高さHに対する光学機能膜に覆われた高さ範囲HXの割合(%))を変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし、比較した。比較結果のうち、Tp、Rp、Ts、Rsについては、
図27(a)に示し、コントラストについては、
図27(b)に示す。
図27の結果から、反射膜が突起部22の突起部側面を覆う比率(HX/H)が大きくなると、光学特性を良好に維持しつつ、コントラスト特性を向上することができることがわかった。
図27(b)では、反射膜が突起部22の突起部側面を覆う比率が、60%、76%、92%と大きくなることで、CR特性がより向上している。そのため、使用帯域の光に対し透明な材料でグリッド構造体20を形成した後に、光学機能膜30を成膜し、この光学機能膜30のグリット構造体20の突起部22の側面での成膜範囲を制御することによって、光学特性、特に、コントラストを制御することが可能となり、顧客のニーズに合わせた偏光特性を実現できることがわかる。
(ベース部21には形成されない、ベース部21に光学機能膜30の一部でも形成されるとTp特性が悪化してしまう。)
【0098】
(10)光学機能膜の種類
偏光素子1のモデルについて、光学機能膜30としての吸収膜、反射膜、誘電体膜の組合せを変えた場合の、波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。比較結果を、
図22(a)に示す。なお、
図22(a)において、「Ge」は、光学機能膜30がGeの吸収膜からなることを示し、「Al100」は、光学機能膜30が100nmの膜厚を有するAlの反射膜からなることを示し、「Ge/Al」は、光学機能膜30がGeの吸収膜と100nmの膜厚を有するAlの反射膜との積層体であることを示し、「Ge/SiO
2_10/Al50」は、光学機能膜30が、Geの吸収膜と、10nmの膜厚を有するSiO
2からなる誘電体膜と、50nmの膜厚を有するAlの反射膜と、の積層体であることを示す。また、
図22(b)は、
図22(a)に示した光学特性のうち、CRの結果のみを示したものである。
【0099】
図22(a)の結果から、光学機能膜の種類を吸収膜(Ge)や反射膜(Al)に目的に合わせ選択・成膜することでRsを制御することが可能であり、吸収型偏光素子、反射型偏光素子を作りわけることが可能となることがわかる。また、反射膜(Al)と吸収膜(Ge)を積層させることで吸収膜単体よりもさらにRsを低減した吸収型偏光素子を提供することがかのうとなることがわかる。
さらに、
図22(a)及び(b)の結果から、反射膜(Al)/誘電体膜(SiO
2)/吸収膜(Ge)の組合せでは、反射膜と吸収膜の2層構造と同等の偏光特性を維持しつつ、
図22(b)の結果からコントラスを向上することが可能であることがわかる。
この様に、顧客のニーズに合わせた偏光特性に光学機能膜の構成で最適化が可能となる。
【0100】
<実施例2>
図6(b)に示されるような、ガラスからなる基板10と、紫外線硬化性樹脂(アクリル系樹脂)からなり、前記基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から格子状に突出した突起部22を有する、グリッド構造体20と、前記突起部22上に形成された、光を吸収するGeの吸収膜からなる光学機能膜30と、Al
2O
3からなる保護膜40と、を備えた偏光素子1のサンプルを実際に作製した。
作製した偏光素子1のサンプルについて、以下の(1)及び(2)の試験を行った。
【0101】
(1)作製したサンプルのグリッド構造体の観察
ここで、
図23(a)及び(b)は、実際に作製した本発明の偏光素子の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大撮影した写真である。
図23(a)及び(b)の写真から、グリッド構造体20には、基板10の表面に沿って設けられたべース部21及び該ベース部21から突出した突起部22が形成されていることがわかる。また、
図23(b)から、前記突起部22の先端に吸収膜からなる光学機能膜30が形成されていることがわかる。さらに、べース部21及び該ベース部21から突出した突起部22、前記突起部22の先端に吸収膜からなる光学機能膜30、これら全体を覆う形で保護膜40が形成されていることもわかる。なお、この保護膜40は今回ALD(Atomic Layer Deposition)成膜法を用いて形成したものであり、材料としてAl
2O
3を用い、厚み8nmで成膜している。
【0102】
(2)作製したサンプルの耐熱性
作製した偏光素子1のサンプルについて、高温試験を実施した。高温試験は、150℃で800時間放置するという条件で実施した。
図24に、高温試験投入前の波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値と、高温試験(150℃、800時間投入後)の波長430〜680nmに対する光学特性(Tp、Rp、Ts、Rs、CR)の平均値をプロットし比較した。
【0103】
図24の結果から、本発明の偏光素子は、150℃の高温環境下に800時間放置された場合においても、偏光特性が大きく変化しないことが確認された。そのため、車載で使用する機器に求められる温度環境でも安心して使用することができ、顧客のニーズに合わせた偏光素子を提供できることがわかる。
前記突起部を前記偏光素子の吸収軸方向又は反射軸方向に直交する断面で見たときの形状が、矩形、台形、多角形又は楕円形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の偏光素子。