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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-114813(P2021-114813A)
(43)【公開日】2021年8月5日
(54)【発明の名称】負荷時タップ切換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 5/12 20060101AFI20210709BHJP
   H01F 29/04 20060101ALI20210709BHJP
   H02J 3/12 20060101ALI20210709BHJP
【FI】
   H02M5/12 A
   H01F29/04 502L
   H02J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-5332(P2020-5332)
(22)【出願日】2020年1月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 博宣
【テーマコード(参考)】
5G066
5H750
【Fターム(参考)】
5G066DA01
5H750BA05
5H750CC12
5H750DD14
5H750DD26
5H750DD27
5H750FF02
5H750FF05
5H750HH05
(57)【要約】
【課題】切換スイッチにより切り換えた電圧の極性が正常であるか否かを診断することが可能な負荷時タップ切換器を提供する。
【解決手段】負荷時タップ切換器(3)は、タップ付変圧器(2)の二次巻線が有する複数のタップ(t1,t2,t3,t4)を切り換えるための複数の切換スイッチ(ThX_U:X=1,2,3,4,A,B,C,D)と、該複数の切換スイッチをオン/オフして前記複数のタップを切り換える制御部(31)と、タップ付変圧器の一次巻線に印加される交流信号を検出する第1信号検出部(S17)と、制御部が切り換えたタップから出力されるタップ付変圧器の二次巻線の交流信号を検出する第2信号検出部(S17)とを備える。制御部は、第1信号検出部が検出した交流信号の位相及び第2信号検出部が検出した交流信号の位相の差分と、切り換えたタップの位置とに基づいて、切換スイッチによる切り換えの異常の有無を診断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ付変圧器の二次巻線が有する複数のタップを切り換えるための複数の切換スイッチを備える負荷時タップ切換器であって、
前記複数の切換スイッチをオン/オフして前記複数のタップを切り換える制御部と、
前記タップ付変圧器の一次巻線に印加される交流信号を検出する第1信号検出部と、
前記制御部が切り換えたタップから出力される前記タップ付変圧器の二次巻線の交流信号を検出する第2信号検出部と
を備え、
前記制御部は、前記第1信号検出部が検出した交流信号の位相及び前記第2信号検出部が検出した交流信号の位相の差分と、切り換えたタップの位置とに基づいて、前記切換スイッチによる切り換えの異常の有無を診断する負荷時タップ切換器。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1信号検出部が検出した交流信号がゼロクロスする時刻及び前記第2信号検出部が検出した交流信号がゼロクロスする時刻の差分と、切り換えたタップの位置とに基づいて、前記異常の有無を診断する請求項1に記載の負荷時タップ切換器。
【請求項3】
前記制御部は、前記差分が前記タップの位置に応じた閾値範囲内にない場合、前記異常有と診断する請求項1又は請求項2に記載の負荷時タップ切換器。
【請求項4】
前記複数の切換スイッチのそれぞれは、逆並列に接続されたサイリスタの組を含んで構成されている請求項1から請求項3の何れか1項に記載の負荷時タップ切換器。
【請求項5】
前記制御部は、前記異常有と診断した場合、少なくとも前記タップを切り換えるためにオンした切換スイッチをオフにして該切換スイッチのオンを禁止する請求項1から請求項3の何れか1項に記載の負荷時タップ切換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器のタップを切換スイッチにより切り換える負荷時タップ切換器に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる間接切換方式による電圧調整装置は、二次巻線が配電線に直列に接続される直列変圧器と、一次巻線が配電線に並列に接続され、二次巻線に複数のタップが設けられた調整変圧器と、該複数のタップを切り換えて直列変圧器の一次巻線に接続するタップ切換器とを備えている。
【0003】
タップ切換器は、直列変圧器の一次巻線に接続するタップを切り換えるための切換スイッチと、タップ切換を行う過程でタップ間に流れる矯絡電流を制限する限流抵抗器等の限流素子と、該限流素子のタップ間への接続及び切り離しを行う矯絡用スイッチとを有する。タップ切換器は、これらのスイッチを所定のシーケンスでオンオフすることにより、調整変圧器から直列変圧器の一次巻線に印加する調整電圧の大きさ及び極性を切り換える。
【0004】
切換スイッチをオンする制御は、通常、タップ切換器が有する制御部が行うが、制御部が制御を開始してから実際に切換スイッチがオンに駆動されるまでの間には、様々なソフトウェア処理やハードウェア回路が介在するため、制御部が行う制御と切換スイッチの挙動とは必ずしも一致するとは限らないところがある。
【0005】
このような不都合に対し、例えば特許文献1には、発電機の分割界磁巻線に流れる電流をSCR(登録商標)で分流させることによって出力電圧を調整する自動電圧調整装置が記載されている。この装置は、SCRの点弧パルス出力の喪失等の異常の有無を検出し、異常検出時に外部へAVR異常検出信号を出力するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−32353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術を用いて、切換スイッチを駆動する信号を監視した場合であっても、切換スイッチの実際の動作を確認したことにはならない。例えば切換スイッチにサイリスタ等のスイッチング素子を用いた場合、スイッチング素子がノイズによって誤点弧又は誤消弧したり、故障によって短絡又は開放となったりすることがあり、目標とするタップ切換が正常に行えないことがあった。特にタップ切換器の出力電圧の極性がタップ位置に応じたものではない場合、電圧調整装置による電圧の調整が大幅に乱れるほか、その原因によっては自装置又は関連装置に損傷が生じる虞がある。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切換スイッチによる切り換えの異常の有無を診断することが可能な負荷時タップ切換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る負荷時タップ切換器は、タップ付変圧器の二次巻線が有する複数のタップを切り換えるための複数の切換スイッチを備える負荷時タップ切換器であって、前記複数の切換スイッチをオン/オフして前記複数のタップを切り換える制御部と、前記タップ付変圧器の一次巻線に印加される交流信号を検出する第1信号検出部と、前記制御部が切り換えたタップから出力される前記タップ付変圧器の二次巻線の交流信号を検出する第2信号検出部とを備え、前記制御部は、前記第1信号検出部が検出した交流信号の位相及び前記第2信号検出部が検出した交流信号の位相の差分と、切り換えたタップの位置とに基づいて、前記切換スイッチによる切り換えの異常の有無を診断する。
【0010】
本態様にあっては、制御部が複数の切換スイッチをオン/オフすることにより、タップ付変圧器の二次巻線が有する複数のタップが切り換わる。制御部は、一次巻線に印加される交流信号及び二次巻線に誘起する交流信号の位相差と、現在のタップ位置とに基づいて、タップ切換の異常の有無を診断する。即ち、タップ切換に異常があった場合は、対応する2つの交流信号のタップ位置に応じた位相差に想定外のずれが現れるため、このずれの大きさに基づいて、切換スイッチによるタップ切換に異常があったか否かが診断される。
【0011】
本発明の一態様に係る負荷時タップ切換器は、前記制御部は、前記第1信号検出部が検出した交流信号がゼロクロスする時刻及び前記第2信号検出部が検出した交流信号がゼロクロスする時刻の差分と、切り換えたタップの位置とに基づいて、前記異常の有無を診断する。
【0012】
本態様にあっては、制御部は、一次巻線に印加される交流信号がゼロクロスする時刻及び二次巻線に誘起する交流信号がゼロクロスする時刻の時間差と、現在のタップ位置とに基づいて、タップ切換の異常の有無を診断する。即ち、ゼロクロス点が交流信号の位相の基準点として比較的正確に検出されるのと、2つの交流信号のゼロクロス点の時間差が、2つの交流信号の位相差に対応する物理量であることから、2つの交流信号のゼロクロス点の時間差と、タップ位置に応じた時間差とに基づいて、タップ切換の異常の有無を的確に診断することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る負荷時タップ切換器は、前記制御部は、前記差分が前記タップの位置に応じた閾値範囲内にない場合、前記異常有と診断する。
【0014】
本態様にあっては、対応する2つの交流信号の位相差が、正常であればタップ位置に応じて0又はπに限りなく近いのに対し、例えば0又はπを中央とする所定の閾値範囲の上限より大きいか又は下限より小さい場合に異常を検出する。同様に、対応する2つの交流信号の時間差が、正常であれば0又は1/2周期に限りなく近いのに対し、例えば0又は1/2周期を中央とする所定の閾値範囲の上限より大きいか又は下限より小さい場合に異常を検出する。
【0015】
本発明の一態様に係る負荷時タップ切換器は、前記複数の切換スイッチのそれぞれは、逆並列に接続されたサイリスタの組を含んで構成されている。
【0016】
本態様にあっては、単一方向に導通するサイリスタを逆並列に接続したサイリスタの組合せが、切換スイッチに含まれている。これにより、汎用的なサイリスタで構成された切換スイッチが、双方向に導通可能となり、タップの選択/非選択の切り換え又はタップの接続先の切り換えに用いられる。
【0017】
本発明の一態様に係る負荷時タップ切換器は、前記制御部は、前記異常有と診断した場合、少なくとも前記タップを切り換えるためにオンした切換スイッチをオフにして該切換スイッチのオンを禁止する。
【0018】
本態様にあっては、タップ切換に異常有と診断した場合にオンしている切換スイッチをオフにし、他の切換スイッチはオフにするか又は継続的に使用可とする。これにより、少なくとも異常の原因である可能性がある切換スイッチを使用不可とするため、故障の波及が防止される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、切換スイッチによる切り換えの異常の有無を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図2】切換スイッチの構成例を示す回路図である。
図3】OU相について、タップ位置とオンにする切換スイッチとの関係を示す図表である。
図4】配電線の電圧と直列変圧器の一次巻線に印加される電圧との関係を示す説明図である。
図5】略同相の交流信号のゼロクロス点の時間差を計測する方法を示す説明図である。
図6】略逆相の交流信号のゼロクロス点の時間差を計測する方法を示す説明図である。
図7】タップ切換の異常の有無を診断する制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図8】変形例に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態)
図1は、実施形態に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。電圧調整装置100は、紙面左側の電源から供給されるU相,V相,W相の交流電圧を調整し、紙面右側の負荷へ、配電線1u,1v,1wを介してu相,v相,w相の交流電圧を配電する。
【0022】
電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1wそれぞれに二次巻線112,122,132が直列に接続される直列変圧器1と、配電線1u,1v,1wに一次巻線211,221,231がΔ結線される調整変圧器2(タップ付変圧器に相当)とを備える。電圧調整装置100は、更に、調整変圧器2の二次巻線212,222,232及び直列変圧器1の一次巻線111,121,131の間に設けられた負荷時タップ切換器(以下、単にタップ切換器と言う)3を備える。タップ切換器3及び調整変圧器2が、負荷時タップ切換変圧器200を構成する。
【0023】
直列変圧器1は、二次巻線112,122,132それぞれに一次巻線111,121,131が対応している。一次巻線111,121,131はΔ結線されている。二次巻線112,122,132それぞれの上記負荷側の端子に対応する一次巻線111,121,131の端子をu1,v1,w1とする。また、二次巻線112,122,132それぞれの上記電源側の端子に対応する一次巻線111,121,131の端子をu2,v2,w2とする。
【0024】
調整変圧器2は、一次巻線211が配電線1u,1v間に、一次巻線221が配電線1v,1w間に、一次巻線231が配電線1w,1u間にそれぞれ接続されている。一次巻線211,221,231のそれぞれには、二次巻線212,222,232が対応している。
【0025】
二次巻線212,222,232のそれぞれは、一端及び他端から引き出されたタップt1及びt4と,一端及び他端の間から引き出された中間のタップt2及びt3とを有する。二次巻線212,222,232のそれぞれは、タップt1〜t4の何れか1つがタップ切換器3を介して直列変圧器1の一次側の端子u2,v2,w2と、端子v1,w1,u1とに接続され、他の何れか1つが中性点Nとしてアースに接続される。即ち、調整変圧器2の二次巻線212,222,232は、タップ切換器3を介してY結線される。
【0026】
調整変圧器2の一次巻線211,221,231に印加される交流信号を計測するために、配電線1u,1v、1wには計測用変圧器PT1,PT2がV結線されている。即ち、配電線1u及び1v間には計測用変圧器PT1の一次巻線が接続されており、配電線1v及び1w間には計測用変圧器PT2の一次巻線が接続されている。例えば計測用変圧器PT1及びPT2の二次巻線をΔ結線の三相平衡回路と見做し、後述する制御部31が三相分の計測信号を取得することにより、一次巻線211,221,231に印加される交流信号を検出する。これらの交流信号を、3つの計測用変圧器をΔ結線することによって検出してもよいし、抵抗分圧等の手段を用いて検出してもよい。
【0027】
タップ切換器3は、調整変圧器2の二次巻線212のタップt1〜t4を切り換えるための8つの切換スイッチThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_U,Th1_U,Th2_U,Th3_U,Th4_Uと、二次巻線222のタップt1〜t4を切り換えるための8つの切換スイッチThA_V,ThB_V,ThC_V,ThD_V,Th1_V,Th2_V,Th3_V,Th4_Vと、二次巻線232のタップt1〜t4を切り換えるための8つの切換スイッチThA_W,ThB_W,ThC_W,ThD_W,Th1_W,Th2_W,Th3_W,Th4_Wとを有する。
【0028】
タップ切換器3の構成は図1に示すものに限定されず、例えば特許文献1に記載されているような、直列変圧器に印加する電圧の極性を切り換える極性切換用タップ選択スイッチを含む構成であってもよい。
【0029】
タップ切換器3は、更に、上記各切換スイッチの切り換えを制御する制御部31と、制御部31からの駆動信号に基づいて各切換スイッチをオンに駆動する駆動部32とを有する。制御部31には、計測用変圧器PT1,PT2の二次巻線、及び後述する計測用変圧器PT3,PT4,PT5の二次巻線が接続されている。制御部31と各計測用変圧器との接続、及び駆動部32と各切換スイッチとの接続は、図示を省略する。
【0030】
制御部31は、不図示のCPU(Central Processing Unit )を有し、予めROM(Read Only Memory )に記憶された制御プログラムに従って、電圧の調整を制御する。一時的に発生した情報はRAM(Random Access Memory )に記憶される。制御部31は、また、不図示のFPGA(Field Programmable Gate Array )と、該FPGAが時間差を計測するためのタイマカウンタとを有し、CPUと協調して、本実施形態に係る診断処理を行う。
【0031】
二次巻線212のタップt1は、保護用のヒューズ(不図示:以下同様)を介して切換スイッチThA_U及びTh1_Uの一端に接続され、タップt2は、ヒューズを介して切換スイッチThB_U及びTh2_Uの一端に接続され、タップt3は、ヒューズを介して切換スイッチThC_U及びTh3_Uの一端に接続され、タップt4は、切換スイッチThD_U及びTh4_Uの一端に接続されている。切換スイッチThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_Uの他端同士は、中性点Nに接続されている。切換スイッチTh1_U,Th2_U,Th3_U,Th4_Uの他端同士は、接続線3uを介して直列変圧器1の一次側の端子u2及びv1に接続されている。接続線3uは、タップ切換器3からU相に対応する交流電圧を出力するものであり、その位相をOUと表す。
【0032】
二次巻線222のタップt1は、ヒューズを介して切換スイッチThA_V及びTh1_Vの一端に接続され、タップt2は、ヒューズを介して切換スイッチThB_V及びTh2_Vの一端に接続され、タップt3は、ヒューズを介して切換スイッチThC_V及びTh3_Vの一端に接続され、タップt4は、切換スイッチThD_V及びTh4_Vの一端に接続されている。切換スイッチThA_V,ThB_V,ThC_V,ThD_Vの他端同士は、中性点Nに接続されている。切換スイッチTh1_V,Th2_V,Th3_V,Th4_Vの他端同士は、接続線3vを介して直列変圧器1の一次側の端子v2及びw1に接続されている。接続線3vは、タップ切換器3からV相に対応する交流電圧を出力するものであり、その位相をOVと表す。
【0033】
二次巻線232のタップt1は、ヒューズを介して切換スイッチThA_W及びTh1_Wの一端に接続され、タップt2は、ヒューズを介して切換スイッチThB_W及びTh2_Wの一端に接続され、タップt3は、ヒューズを介して切換スイッチThC_W及びTh3_Wの一端に接続され、タップt4は、切換スイッチThD_W及びTh4_Wの一端に接続されている。切換スイッチThA_W,ThB_W,ThC_W,ThD_Wの他端同士は、中性点Nに接続されている。切換スイッチTh1_W,Th2_W,Th3_W,Th4_Wの他端同士は、接続線3wを介して直列変圧器1の一次側の端子w2及びu1に接続されている。接続線3wは、タップ切換器3からW相に対応する交流電圧を出力するものであり、その位相をOWと表す。
【0034】
接続線3u及び3v間には、限流抵抗器R_UV及び矯絡用スイッチThS_UVの直列回路と、電磁接触器MC_UVとが並列に接続されている。接続線3v及び3w間には、限流抵抗器R_VW及び矯絡用スイッチThS_VWの直列回路と、電磁接触器MC_VWとが並列に接続されている。
【0035】
矯絡用スイッチThS_UVは、二次巻線212又は222のタップt1〜t4を切り換える過程で、限流抵抗器R_UVを介してタップ間を矯絡させておくために、タップ間への限流抵抗器R_UVの接続及び切り離しを行うためのものである。矯絡用スイッチThS_VWは、二次巻線222又は232のタップt1〜t4を切り換える過程で、限流抵抗器R_VWを介してタップ間を矯絡させておくために、タップ間への限流抵抗器R_VWの接続及び切り離しを行うためのものである。電磁接触器MC_UV及びMC_VWは、過電流が検出されて全ての切換スイッチがオフされる場合、又はタップ切換器3の運用が停止される場合に、直列変圧器1の一次側の端子u1,u2間、端子v1,v2間及び端子w1,w2間を矯絡して、開放状態にしないようにするためのものである。
【0036】
切り換えられたタップから出力される二次巻線212,222,232の電圧を計測するために、接続線3u,3v、3wには計測用変圧器PT3,PT4,PT5がY結線されている。即ち、接続線3u及びアース間には、計測用変圧器PT3の一次巻線が接続されており、接続線3v及びアース間には、計測用変圧器PT4の一次巻線が接続されており、接続線3w及びアース間には、計測用変圧器PT5の一次巻線が接続されている。計測用変圧器PT3,PT4,PT5の二次巻線は、Y結線されて制御部31に接続されている。制御部31が計測用変圧器PT3,PT4,PT5の二次巻線からOU,OV,OW三相分の計測電圧を取得することにより、タップ切換された二次巻線212,222,232の電圧が検出される。
【0037】
次に、各スイッチの構成を、切換スイッチThA_Uを例として説明する。他の切換スイッチ及び矯絡用スイッチについても同様である。図2は、切換スイッチThA_Uの構成例を示す回路図である。切換スイッチThA_Uは、アノードからカソードへ一方向に導通するサイリスタThAa_U及びThAb_Uを逆並列に接続してなる。サイリスタThAa_Uのアノード及びサイリスタThAb_Uのカソードは、中性点Nに接続されている。サイリスタThAa_Uのカソード及びサイリスタThAb_Uのアノードは、調整変圧器2の二次巻線212のタップt1に接続されている。サイリスタThAa_U及びThAb_Uのゲートは、駆動部32に接続されている。駆動部32からトリガ信号が各サイリスタのゲートに印加された場合、切換スイッチThA_Uは双方向に導通する。切換スイッチThA_Uを1つのトライアックで構成してもよい。
【0038】
次に、オンにする切換スイッチの組合せについて説明する。図3は、OU相について、タップ位置とオンにする切換スイッチとの関係を示す図表である。他のOV相,OW相についても、UをV,Wに読み替えた同様の図表が示される。以下では、主にOU相を例にして説明するが、OV相及びOW相についても同様の説明が成り立つ。
【0039】
切換スイッチの組合せは13通りあり、これらの組合せをタップ1からタップ13までのタップ位置で表す。例えば、タップ位置をタップ1にした場合、切換スイッチThD_U及びTh1_Uがオンする。これにより、二次巻線212のタップt1が接続線3uに接続され、タップt4が中性点Nに接続される。この場合、タップt1及びt4間の巻数が二次巻線212の巻数に等しくなり、OU相の相電圧の大きさが最大となる。
【0040】
タップ2からタップ6までについては、タップ間の巻数が5段階に少なくなるようなタップの組合せに応じて、2つのタップを接続線3u及び中性点Nに接続する切換スイッチが決まる。例えば、タップ位置をタップ6にした場合、切換スイッチThD_U及びTh3_Uがオンする。これにより、二次巻線212のタップt3が接続線3uに接続され、タップt4が中性点Nに接続される。この場合、タップt3及びt4間の巻数が0を除いて最小となり、OU相の相電圧の大きさが0を除いて最小となる。
【0041】
タップ位置をタップ7にした場合、切換スイッチThD_U及びTh4_Uがオンする。これにより、二次巻線212のタップt4が接続線3uに接続され、同じタップt4が中性点Nに接続される。この場合、タップt4及びt4間の巻数が0となり、OU相の相電圧が0となる。これが、いわゆる素通しタップである。
【0042】
タップ8からタップ12までについては、タップ間の巻数が5段階に多くなるようなタップの組合せに応じて、2つのタップを接続線3u及び中性点Nに接続する切換スイッチが決まる。例えば、タップ位置をタップ8にした場合、切換スイッチThC_U及びTh4_Uがオンする。これにより、二次巻線212のタップt4が接続線3uに接続され、タップt3が中性点Nに接続される。この場合、タップt3及びt4間の巻数が0を除いて最小となり、OU相の相電圧の大きさが0を除いて最小となる。但し、タップ6の場合と比較して、OU相の相電圧の位相が反転する。
【0043】
タップ位置をタップ13にした場合、切換スイッチThA_U及びTh4_Uがオンする。これにより、二次巻線212のタップt4が接続線3uに接続され、タップt1が中性点Nに接続される。この場合、タップt1及びt4間の巻数が二次巻線212の巻数に等しくなり、OU相の相電圧の大きさが最大となる。但し、タップ1の場合と比較して、OU相の相電圧の位相が反転する。
【0044】
前述のとおり、タップ切換によって接続線3u及び中性点Nに接続される2つのタップに係るタップ間の巻数は、タップ位置に応じて決まる、換言すれば、タップ位置に応じて、調整変圧器2の巻数比が決まる。ここで言う巻数比は、タップ切換によって接続線3u及び中性点Nに接続される2つのタップに係るタップ間の巻数に対する一次巻線211の巻数の比である。そこで、図3に示すように、タップ1からタップ13までのタップ位置と、NT_U1からNT_U13までの巻数比とを対応付けておく。但し、タップ位置がタップ7の場合、上記の定義による巻数比の算出は不能となるから、タップ位置と巻数比との対応付けは行わない。NT_U1からNT_U13までの総称をNT_Uとする。
【0045】
本実施形態にあっては、図3に示すタップ位置と、オンにする切換スイッチ及び巻数比とを対応付けたテーブルが、制御部31のROMに予め記憶されている。CPUは、タップ位置を上げ下げする毎にこのテーブルを参照して、オンにすべき切換スイッチを示す情報と巻数比とを読み出すことにより、タップ切換の処理が容易に行える。
【0046】
次に、例として電源側からのV相の交流電圧に加算又は減算される電圧について説明する。図4は、配電線1u,1v,1wの電圧と直列変圧器1の一次巻線121に印加される電圧との関係を示す説明図である。図4Aでは、配電線1u,1v,1wの電圧の位相と接続線3u,3v,3wの電圧の位相との関係を示している。図4Bでは、接続線3u,3vの電圧に基づいて一次巻線121に印加する電圧が合成されることを示している。
【0047】
先ず、図4Aにより、接続線3u,3v,3wそれぞれにおけるOU相,OV相,OW相の電圧について説明する。電源から供給されるU相,V相,W相の電圧ベクトルを太い実線の矢印で示す場合、配電線1u,1v,1wそれぞれにおけるu相,v相,w相の電圧ベクトルの大きさは、直列変圧器1による昇圧又は降圧に応じて、U相,V相,W相の電圧ベクトルよりも大きくなるか又は小さくなる。ここでは、仮に大きさが小さくなるものとして図示する。調整変圧器2の一次巻線211,221,231それぞれには、破線の矢印で示すように、uv,vw,wu各相間の電圧V_uv,V_vw,V_wuが印加される。調整変圧器2の二次巻線212,222,232それぞれには、電圧V_uv,V_vw,V_wuと同相の電圧が誘起する。
【0048】
例えば二次巻線212は、切換スイッチTh1_U,Th2_U,Th3_U,Th4_Uの何れかがオンすることによって、何れかのタップが接続線3uに接続され、切換スイッチThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_Uの何れかがオンすることによって、他の何れかのタップが中性点Nに接続される。調整変圧器2の二次巻線222,232についても、UをV,Wに読み替えることによって同様のことが言える。
【0049】
図3を用いて説明したように、タップ位置がタップ1からタップ6の何れかである場合と、タップ位置がタップ8からタップ13までの何れかである場合とでは、OU相の相電圧の位相が互いに反転する。ここでは、タップ位置がタップ1からタップ6の何れかである場合について説明する。この場合、接続線3u,3v,3wそれぞれにおけるOU相,OV相,OW相の電圧は、図4Aにて細い実線の矢印で示すように、電圧V_uv,V_vw,V_wuと同相の電圧となる。即ち、OU相,OV相,OW相それぞれの電圧は、U相,V相,W相の電圧に対して位相が30度だけ進んでいる。一方、直列変圧器1の一次巻線121には、一点鎖線の矢印で示すように、OU相及びOV相の相間の電圧であるVO_UVが印加される。以下では、特に指定がない限り、二次巻線212,222,232のタップ位置が同一であるものとする。
【0050】
ここで図1に戻って、例えば直列変圧器1の一次巻線121及び二次巻線122に着目する。上述のとおり、一次巻線121の端子v1,v2間には、端子v2からv1に対して電圧VO_UVが印加される。この場合、電圧VO_UVに対応して二次巻線122に誘起する電圧も、電圧VO_UVと同相の電圧となる。従って、電源側からのV相の交流電圧に対して電圧VO_UVに比例する電圧が加算されて負荷側に供給される。
【0051】
一方、図4Aに一点鎖線の矢印で示す電圧VO_UVは、太い実線の矢印で示すV相の電圧とは逆位相の電圧である。即ち、V相の交流電圧に対して、V相の電圧とは逆位相の電圧VO_UVに比例する電圧が加算されるから、V相の交流電圧と同位相の電圧が減算されることとなる。換言すれば、電源側からのV相の交流電圧が降圧されて、負荷側にv相の交流電圧が供給される。
【0052】
次に、図4Bにより、タップ位置に応じて一次巻線121に印加される電圧が変化することを説明する。OU相及びOV相の電圧は、それぞれタップ1からタップ13までのタップ位置に応じて13段階に大きさが変化する。タップ位置がタップ1からタップ13である場合のOU相の電圧をOU_1からOU_13で表す。同様にタップ位置がタップ1からタップ13である場合のOV相の電圧をOV_1からOV_13で表す。電圧OU_1から電圧OU_6までの位相は、図4Aに示すOU相と同相である。電圧OU_8から電圧OU_13までの位相は、図4Aに示すOU相と逆相である。なお、図4Bで説明する全ての電圧ベクトルの始点は、図の中央に示す基点BPにあるものとする。
【0053】
一次巻線121に印加される電圧VO_UVの電圧ベクトルは、図4AよりOU相の電圧ベクトルからOV相の電圧ベクトルを減算したものである。換言すれば、電圧VO_UVの電圧ベクトルは、OU相の電圧ベクトルに、OV相の電圧ベクトルの逆ベクトルを加算したものである。図4Bにてこれらの加算を視覚的に示すために、図4Bにおける電圧OV_1から電圧OV_6の電圧ベクトル向きを図4AのOV相の電圧とは逆にする。電圧OV_8から電圧OV_13の電圧ベクトル向きは、図4AのOV相の電圧と同じにする。
【0054】
例えば、タップ位置がタップ3である場合、電圧OU_3と電圧OV_3の逆向きの電圧とをベクトル的に加算した電圧のベクトルは、細い実線の矢印で表される。一次巻線121の端子v2からv1に対して印加されるこの電圧のベクトルは、太い実線の矢印で表されるV相の電圧ベクトルに対して逆向きである。即ち、タップ位置がタップ3である場合に直列変圧器1の二次巻線122に誘起する電圧により、電源側からのV相の電圧が降圧されることが確認された。
【0055】
タップ位置がタップ8からタップ13である場合は、一次巻線121の端子v2からv1に対して印加される電圧のベクトルがV相の電圧ベクトルに対して同じ向きとなることは図4Bから明らかである。この場合は、電源側からのV相の電圧が昇圧される。このように、タップ位置のタップ番号を1から6まで上げるに連れて、降圧される電圧の絶対値が順次小さくなり、タップ7(素通し)にて降圧される電圧が0となる。その後、更にタップ位置のタップ番号を上げるに連れて、電源側からのV相の交流電圧が順次昇圧されて負荷側に供給されるようになる。
【0056】
実際には、二次巻線212,222,232のタップ位置が異なる組み合わせがあり得るため、一次巻線121の端子v2からv1に対して印加される電圧のベクトルの終点は、図4Bに丸印で示す169のポイントの何れかとなる(電圧の大きさが0の場合を含む)。このため、例えば図4Aに示すv相の電圧は、V相の電圧に対して必ずしも同相のまま昇圧又は降圧されるとは限らず、一般的には多少の位相差が生じる。
【0057】
以上のとおり、タップ位置をタップ1からタップ13まで切り換えることにより、電源側からのU相,V相,W相の交流電圧を降圧した電圧から昇圧した電圧まで段階的に調整して、u相,v相,w相の交流電圧とすることができる。制御部31は、計測用変圧器PT1及びPT2により、u相,v相,w相の線間電圧を検出し、検出した電圧が不感帯を逸脱した場合に、タップ位置を上げ下げすることによって、u相,v相,w相の線間電圧が基準電圧に近づくように調整する。本実施形態では、二次巻線212,222,232それぞれについてタップ位置が同じとなるように調整するが、それぞれのタップ位置を独立して切り換えることにより、U相,V相,W相の交流電圧の不平衡を改善することもできる。
【0058】
制御部31は、タップ位置を切り換えた場合、タップ切換の異常の有無を診断する。具体的には、タップ切換の都度、制御部31は、計測用変圧器PT1〜PT5から計測信号を取得して調整変圧器2の一次巻線211,221,231それぞれの交流信号と、二次巻線212,222,232の交流信号との位相差を算出し、算出したそれぞれの位相差が所定の閾値範囲内にない場合に異常有と診断する。タップ位置がタップ1からタップ6の何れかである場合と、タップ8からタップ13の何れかである場合とでは、二次巻線212,222,232それぞれの交流信号の位相が反転するため、所定の閾値範囲は、タップ位置により2通りに変更される。なお、タップ位置がタップ7である場合は、二次巻線212,222,232の交流信号が検出されないため、タップ切換の異常診断は行われないが、二次巻線212,222,232に交流信号が検出された場合に異常有と診断するようにしてもよい。
【0059】
前述したように、計測用変圧器PT1及びPT2の二次巻線から計測信号を取得することにより、調整変圧器2の一次巻線211,221,231に印加される交流信号が検出される。また、計測用変圧器PT3,PT4,PT5の二次巻線から計測信号を取得することにより、タップ切換された二次巻線212,222,232の交流信号が検出される。検出した交流信号の位相差を算出するには、公知である種々の方法が採用され得る。ここでは、2つの交流信号のゼロクロス点の時間差に基づいて位相差を算出する。
【0060】
図5は、略同相の交流信号のゼロクロス点の時間差を計測する方法を示す説明図である。図6は、略逆相の交流信号のゼロクロス点の時間差を計測する方法を示す説明図である。図5はタップ位置がタップ1からタップ6の何れかである場合に対応しており、図6はタップ位置がタップ8からタップ13の何れかである場合に対応している。図5及び図6に示す6つのタイミング図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に交流信号Aの電圧、交流信号Bの電圧、交流信号Aのゼロクロス点、交流信号Bのゼロクロス点、交流信号Aから交流信号Bへの時間差、交流信号Bから交流信号Aへの時間差を示す。
【0061】
交流信号Aについて、時刻t1,t3,t5,t7,・・がゼロクロスする時刻(以下、ゼロクロス点と言う)であり、このうち時刻t1,t5,・・が微分信号の立ち上がりにおけるゼロクロス点(以下、立ち上がりゼロクロス点と言う)である。交流信号Bについて、時刻t2,t4,t6,t8,・・がゼロクロス点である。このうち、図5では時刻t2,t6,・・が立ち上がりゼロクロス点であり、図6では時刻t4,t8,・・が立ち上がりゼロクロス点である。
【0062】
例えば、タップ位置がタップ1からタップ6の何れかであって、一次巻線211の交流信号及び二次巻線212の交流信号のそれぞれが、図5に示す交流信号A及び交流信号Bに対応する位相関係にある場合を想定する。この場合、2つの交流信号の立ち上がりゼロクロス点の時間差は、前述のタイマカウンタにより、一次巻線211の交流信号を基準にして、時刻t1からt2までのTab1と計測される。このTab1は正の値である。
【0063】
また例えば、一次巻線211の交流信号及び二次巻線212の交流信号のそれぞれが、図5に示す交流信号B及び交流信号Aに対応する位相関係にある場合、2つの交流信号の立ち上がりゼロクロス点の時間差は、前述のタイマカウンタにより、一次巻線211の交流信号を基準にして、時刻t2からt5までのTba1と計測される。ここで、各交流信号の周期をTpとすれば、2つの交流信号の立ち上がりゼロクロス点の時間差は、一次巻線211の交流信号を基準にして、Tba1−Tpとすることができる。このTba1−Tpは負の値である。このようにタイマカウンタの計測値からTpを減算する処理は、計測値がTpの例えば3/4を越えたときに実行すればよい。
【0064】
同様に、タップ位置がタップ8からタップ13の何れかであって、一次巻線211の交流信号及び二次巻線212の交流信号のそれぞれが、図6に示す交流信号A及び交流信号Bに対応する位相関係にある場合を想定する。この場合、2つの交流信号の立ち上がりゼロクロス点の時間差は、前述のタイマカウンタにより、一次巻線211の交流信号を基準にして、時刻t1からt4までのTab2と計測される。このTab2は正の値である。
【0065】
また、一次巻線211の交流信号及び二次巻線212の交流信号のそれぞれが、図6に示す交流信号B及び交流信号Aに対応する位相関係にある場合、2つの交流信号の立ち上がりゼロクロス点の時間差は、前述のタイマカウンタにより、一次巻線211の交流信号を基準にして、時刻t4からt5までのTba2と計測される。このTba2はTpの3/4を越えないため、Tpが減算されることはない。
【0066】
以上のとおり計測した時間差を1周期であるTpで除算し、更に2πを乗算したものが位相差となる。即ち、上記のTab1,Tba1−Tp,Tab2,Tba2それぞれに対応する位相差は、2π・Tab1/Tp,2π・(Tba1−Tp)/Tp,2π・Tab2/Tp,2π・Tba2/Tpである。
【0067】
本実施形態では、タップ位置がタップ1からタップ6の何れかである場合に、算出した位相差が−π/8からπ/8の閾値範囲内にないときは、タップ切換に異常有と診断する。また、タップ位置がタップ8からタップ13の何れかである場合に、算出した位相差が7π/8から9π/8の閾値範囲内にないときは、タップ切換に異常有と診断する。位相差の閾値範囲の幅はπ/4に限定されず、より狭い範囲又はより広い範囲であってもよい。
【0068】
タップ切換に異常有と診断した場合、制御部31はタップ切換のためにオンしている切換スイッチを使用不可として登録し、以後のタップ切換に用いないようにする。その他の切換スイッチについては継続的に使用可としてもよいし、全ての切換スイッチを使用不可にして強制的にオフし、運用を停止するようにしてもよい。
【0069】
以下では、上述した制御部31の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。図7は、タップ切換の異常の有無を診断する制御部31の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、電圧調整装置100の運転が開始されたときに、OU相,OV相,OW相それぞれについて起動され、制御部31に含まれるFPGAにより時分割的に実行される。図3に示す対応付けがROMに記憶されたテーブルについて、現在のタップ位置及びオンにする切換スイッチは、CPUからレジスタを介して通知されるものとする。
【0070】
図中の「TAP_CHK_SEQ」は、FPGAの処理状態をCPUに通知するためのレジスタである。「ERR_TAP」は、タップ切換に異常有と診断した場合にセットされるレジスタである。これらのレジスタは、何れもOU相,OV相,OW相それぞれについて独立して設けられているが、ここでは相の違いを特に記載しない。
【0071】
図7の処理が起動された場合、FPGAは、TAP_CHK_SEQの内容をオンにして、診断処理の実行中であることをCPUに通知する(S11)。次いで、FPGAは、CPUがタップ切換中であるか否かを所定のレジスタによって判定し(S12)、タップ切換中である場合(S12:YES)、ERR_TAPの内容をオフにして異常が無い状態に初期化する(S13)。なお、タップ切換は、不図示の処理手順により、CPUが実行する。
【0072】
その後、FPGAは、電圧調整装置100の運転が終了して診断処理を終了すべき状態であるか否かを判定し(S14)、診断処理を終了する場合(S14:YES)、TAP_CHK_SEQの内容をオフにして(S15)、図7の処理を終了する。一方、診断処理を終了しない場合(S14:NO)、FPGAは、診断処理を継続するために、ステップS12に処理を移す。
【0073】
前述のステップS12にて、タップ切換中ではない場合(S12:NO)、FPGAは、タップ位置が素通しタップであるタップ7であるか否かを判定し(S16)、素通しタップである場合(S16:YES)、診断処理を実行せずにステップS13に処理を移す。一方、タップ位置が素通しタップではない場合(S16:NO)、FPGAは、一次巻線211,221,231のうち、現在診断している一次巻線の交流電圧について、対応する二次巻線の交流電圧との位相差を算出する(S17)。
【0074】
位相差の算出に際し、FPGAは、計測用変圧器PT1,PT2から計測信号を取得して、診断対象の一次巻線に印加される交流信号を検出し(第1信号検出部に相当)、検出した交流信号の立ち上がりゼロクロス点にて前述のタイマカウンタに計時を開始させる。FPGAは、計測用変圧器PT3,PT4,PT5の何れかから、診断対象の二次巻線の計測信号を取得して、該二次巻線に印加される交流信号を検出し(第2信号検出部に相当)、検出した交流信号の立ち上がりゼロクロス点にて前述のタイマカウンタに計時を終了させる。この間に、タイマカウンタが計時した時間を、交流信号の1周期に対応する時間で除算し、更に2πを乗算することにより、位相差が算出される。位相差をCPUにて算出し、算出した位相差を、例えばレジスタを介してFPGAに受け渡すようにしてもよい。
【0075】
FPGAは、算出した位相差が−π/8からπ/8の範囲範囲内にあるか否かを判定し(S18)、当該閾値範囲内にある場合(S18:YES)、タップ位置が昇圧側、即ちタップ1からタップ6の範囲内にあるか否かを判定する(S19)。タップ位置が昇圧側にある場合(S19:YES)、FPGAは、異常無と診断してステップS13に処理を移す。一方、タップ位置が昇圧側ではない場合(S19:NO)、FPGAは、ERR_TAPの内容をオンにして、異常が有ることをCPUに通知し(S20)、更に、現在のタップ位置に応じてオンに駆動されている切換スイッチを不使用登録して(S21)ステップS14に処理を移す。
【0076】
前述のステップS18にて、位相差が−π/8からπ/8の閾値範囲内にない場合(S18:NO)、FPGAは、位相差が7π/8から9π/8の閾値範囲内にあるか否かを判定し(S22)、当該閾値範囲内にある場合(S22:YES)、タップ位置が降圧側、即ちタップ8からタップ13の範囲内にあるか否かを判定する(S23)。タップ位置が降圧側にある場合(S23:YES)、FPGAは、異常無と診断してステップS13に処理を移す。一方、タップ位置が降圧側ではない場合(S23:NO)、又はステップS22にて位相差が7π/8から9π/8の閾値範囲内にない場合(S22:NO)、FPGAは、異常有と診断してステップS20に処理を移す。
【0077】
なお、上述のフローチャートにあっては、算出した位相差に基づいてタップ切換の異常の有無を診断したが、タイマカウンタが計時した立ち上がりゼロクロス点の時間差に基づいてタップ切換の異常の有無を診断してもよい。具体的には、例えば60Hzの場合、ステップS18にて時間差が−1msから1msの閾値範囲内にあるか否かを判定し、ステップS22にて時間差が7.35msから9.35msの閾値範囲内にあるか否かを判定してもよい。時間差の閾値範囲の幅は2msに限定されるものではない。更に、2つの交流信号について、微分信号の立ち下がりにおけるゼロクロス点の位相差又は時間差に基づいてタップ切換の異常の有無を診断するようにしてもよい。
【0078】
以上のように本実施形態によれば、制御部31が切換スイッチTh1/2/3/4_U/V/W及びThA/B/C/D_U/V/Wをオン/オフすることにより、調整変圧器2の二次巻線212,222,232が有するタップt1〜t4が切り換わる。但し「/」は「又は」を意味する。制御部31は、一次巻線211,221,231それぞれに印加される交流信号及び二次巻線212,222,232に誘起する交流信号の位相差と、現在のタップ位置とに基づいて、タップ切換の異常の有無を診断する。即ち、タップ切換に異常があった場合は、対応する2つの交流信号のタップ位置に応じた位相差に想定外のずれが現れるため、このずれの大きさに基づいて、切換スイッチTh1/2/3/4_U/V/W及びThA/B/C/D_U/V/Wによるタップ切換に異常があったか否かを診断することが可能となる。
【0079】
また、実施形態によれば、制御部31は、一次巻線に印加される交流信号がゼロクロスする時刻及び二次巻線に誘起する交流信号がゼロクロスする時刻の時間差と、現在のタップ位置とに基づいて、タップ切換の異常の有無を診断する。即ち、ゼロクロス点が交流信号の位相の基準点として比較的正確に検出されるのと、2つの交流信号のゼロクロス点の時間差が、2つの交流信号の位相差に対応する物理量であることから、2つの交流信号のゼロクロス点の時間差と、タップ位置に応じた時間差とに基づいて、タップ切換の異常の有無を的確に診断することができる。
【0080】
更に、実施形態によれば、対応する2つの交流信号の位相差が、正常であればタップ位置に応じて0又はπに限りなく近いのに対し、例えば0又はπを中央とする±8/πの範囲内にない場合に異常を検出することができる。同様に、対応する2つの交流信号の時間差が、正常であれば0又は1/2周期に限りなく近いのに対し、例えば0又は1/2周期を中央とする±1msの範囲内にない場合に異常を検出することができる。
【0081】
更に、実施形態によれば、単一方向に導通するサイリスタThAa_U及びThAb_Uを逆並列に接続したサイリスタの組合せが、切換スイッチThA_Uに含まれている。他の切換スイッチについても同様である。従って、汎用的なサイリスタで構成された切換スイッチTh1/2/3/4_U/V/W及びThA/B/C/D_U/V/Wを、双方向に導通可能にして、タップの選択/非選択の切り換え又はタップの接続先の切り換えに用いることができる。
【0082】
更に、実施形態によれば、異常が検出された場合にオンしている切換スイッチをオフにし、他の異常を検出していない切換スイッチはオフにするか又は継続的に使用可とする。従って、少なくとも異常の原因である可能性がある切換スイッチを使用不可とするため、故障の波及を防止することができる。
【0083】
なお、本実施形態にあっては、電圧調整装置100は、調整変圧器2がΔ−Yの二次巻線212,222,232がタップ切換器3を介してY結線され、直列変圧器1の一次巻線111,121,131がΔ結線されているが、これに限定されるものではない。例えば、調整変圧器2の二次巻線212,222,232がタップ切換器3を介してΔ結線され、直列変圧器1の一次巻線111,121,131がY結線されている場合であっても、計測用変圧器PT3,PT4,PT5をΔ結線することにより、全く同様にタップ切換の異常の有無を診断することができる。具体的には、計測用変圧器PT3,PT4,PT5のそれぞれにより、タップ切換器3を介して調整変圧器2の二次巻線212,222,232の交流信号が計測できるように接続すればよい。
【0084】
(変形例)
実施形態は、調整変圧器2がΔ−Y結線又はΔ−Δ結線される形態であるのに対し、変形例は、調整変圧器2bがV−V結線される形態である。図8は、変形例に係る電圧調整装置100bの構成例を示すブロック図である。
【0085】
電圧調整装置100bは、直列変圧器1と、配電線1u,1v,1wに一次巻線211,221がV結線される調整変圧器2b(タップ付変圧器に相当)とを備える。電圧調整装置100bは、更に、調整変圧器2の二次巻線212,222及び直列変圧器1の一次巻線111,121,131の間に設けられたタップ切換器3bを備える。タップ切換器3b及び調整変圧器2bが、負荷時タップ切換変圧器200bを構成する。直列変圧器1の一次巻線111,121,131は、一次側の端子u2,v2,w2が相互に接続されてY結線されている。
【0086】
調整変圧器2bは、一次巻線211が配電線1u,1v間に、一次巻線221が配電線1v,1w間にそれぞれ接続されている。二次巻線212,222のそれぞれは、タップt1〜t4の何れか1つがタップ切換器3bと接続線3u,3vとを介して直列変圧器1の一次側の端子u1,v1に接続され、他の何れか1つがタップ切換器3bと接続線3v,3wとを介して直列変圧器1の一次側の端子v1,w1に接続される。即ち、調整変圧器2の二次巻線212,222は、タップ切換器3bを介してV結線される。
【0087】
調整変圧器2の一次巻線211,221に印加される交流信号を計測するために、配電線1u,1v、1wには計測用変圧器PT1,PT2がV結線されている。後述する制御部31がPT1及びPT2それぞれの二次巻線から計測信号を取得することにより、一次巻線211,221に印加される交流信号が検出される。
【0088】
タップ切換器3bは、調整変圧器2bの二次巻線212のタップt1〜t4を切り換えるための8つの切換スイッチThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_U,Th1_V,Th2_V,Th3_V,Th4_Vと、二次巻線222のタップt1〜t4を切り換えるための8つの切換スイッチThA_V,ThB_V,ThC_V,ThD_V,Th1_W,Th2_W,Th3_W,Th4_Wとを有するほか、制御部31と、駆動部32とを有する。
【0089】
二次巻線212のタップt1は、切換スイッチThA_U及びTh1_Vの一端に接続され、タップt2は、切換スイッチThB_U及びTh2_Vの一端に接続され、タップt3は、切換スイッチThC_U及びTh3_Vの一端に接続され、タップt4は、切換スイッチThD_U及びTh4_Vの一端に接続されている。切換スイッチThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_Uの他端同士は、接続線3uに接続されている。切換スイッチTh1_V,Th2_V,Th3_V,Th4_Vの他端同士は、接続線3vに接続されている。二次巻線222のタップt1は、切換スイッチThA_V及びTh1_Wの一端に接続され、タップt2は、切換スイッチThB_V及びTh2_Wの一端に接続され、タップt3は、切換スイッチThC_V及びTh3_Wの一端に接続され、タップt4は、切換スイッチThD_V及びTh4_Wの一端に接続されている。切換スイッチThA_V,ThB_V,ThC_V,ThD_Vの他端同士は、接続線3vに接続されている。切換スイッチTh1_W,Th2_W,Th3_W,Th4_Wの他端同士は、接続線3wに接続されている。
【0090】
切り換えられたタップから出力される二次巻線212,222の電圧を計測するために、接続線3u,3v、3wには計測用変圧器PT3,PT4がV結線されている。即ち、接続線3u及び3v間には、計測用変圧器PT3の一次巻線が接続されており、接続線3v及び3w間には、計測用変圧器PT4の一次巻線が接続されている。制御部31が計測用変圧器PT3,PT4それぞれの二次巻線から計測電圧を取得することにより、タップ切換された二次巻線212,222の電圧が検出される。
【0091】
その他、実施形態に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。なお、本変形例でも、二次巻線212,222それぞれについてタップ位置が同じとなるように調整する。
【0092】
上述の構成において、タップ位置がタップ8からタップ13の何れかである場合、二次巻線212は、タップt1により近い側が接続線3uに接続され、タップt4により近い側が接続線3vに接続される。同様に二次巻線222は、タップt1により近い側が接続線3vに接続され、タップt4により近い側が接続線3wに接続される。従って、接続線3u,3v,3wそれぞれにおけるOU相、OV相、OW相の電圧は、通常のV−V結線の変圧器で変圧した場合と同様に、u相,v相,w相の電圧と同位相となる。この場合、直列変圧器1では、電源側からのU相,V相,W相と同相の電圧が加算されるため、実施形態と同様に、電源側からの交流電圧が昇圧される。
【0093】
制御部31がタップ位置を切り換えた場合のタップ切換の異常の有無の診断は、実施形態と全く同様に行われる。即ち、制御部31は、計測用変圧器PT1〜PT4から計測信号を取得して調整変圧器2の一次巻線211,221それぞれの交流信号と、二次巻線212,222の交流信号との位相差又は時間差を算出し、算出したそれぞれの位相差又は時間差が所定の閾値範囲内にない場合に異常有と診断する。これにより、実施形態と同様の効果を奏する。
【0094】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1u,1v,1w 配電線、 100,100b 電圧調整装置、 1 直列変圧器、 111,121,131 一次巻線、 112,122,132 二次巻線、 u1,u2,v1,v2,w1,w2 端子、 200,200b 負荷時タップ切換変圧器、 2,2b 調整変圧器、 211,221,231 一次巻線、 212,222,232 二次巻線、 t1,t2,t3,t4 タップ、 3,3b タップ切換器、 31 制御部、 32 駆動部、 Th1_U,Th2_U,Th3_U,Th4_U,ThA_U,ThB_U,ThC_U,ThD_U 切換スイッチ、 3u,3v,3w 接続線、 ThS_UV,ThS_VW 矯絡用スイッチ、 R_UV,R_VW 限流抵抗器、 MC_UV,MC_VW 電磁接触器、 PT1,PT2,PT3,PT4,PT5 計測用変圧器
図1
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図8