【解決手段】特定のアミノ酸配列からなり、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有する組換えタンパク質を、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系により製造する方法、および、前記方法で得られた組換えタンパク質。
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなり、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有し、且つ、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系による合成物である、組換えタンパク質。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が98%以上であるアミノ酸配列
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と略記する)に係る組換えタンパク質及びその製造方法について、詳細を説明する。
【0011】
≪組換えタンパク質≫
本実施形態の組換えタンパク質は、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなり、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有し、且つ、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系による合成物である。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が98%以上であるアミノ酸配列
【0012】
従来の大腸菌等の遺伝子組換え生物を用いた合成方法では、遺伝子組換え生物に由来する有害物質や夾雑物を完全に排除することが難しく、また、充分なイヌbFGFとしての機能を有する組換えイヌbFGFの合成は困難であった。
これに対して、本実施形態の組換えタンパク質は、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いることで、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能等のイヌbFGFとしての各機能を保持した組換えイヌbFGFを得ることができる。ここでいう「イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能」とは、イヌ線維芽細胞の細胞増殖を促進する能力を意味する。具体的には、例えば、後述する実施例に示すように、1.5×10
4cellsのイヌ線維芽細胞をイヌbFGF無添加条件下で5日間培養した際の細胞増殖率(培養後の細胞数/培養前の細胞数×100)に対する、1.5×10
4cellsのイヌ線維芽細胞をイヌbFGF添加条件下で5日間培養した際の細胞増殖率が1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上である場合に、当該イヌbFGFはイヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有すると評価することができる。
イヌbFGFとしての機能としては、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能に加えて、血管新生及び動脈形成を促進する機能、ERKの活性化能(ERKのリン酸化能)等のbFGFとして公知の機能が挙げられる。
【0013】
本実施形態の組換えタンパク質は、以下の(a)のアミノ酸配列からなる。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
【0014】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、イヌbFGFのアミノ酸配列であり、Genbankのアクセッション番号:XP_003432529として開示されている。
【0015】
本実施形態の組換えタンパク質は、前記(a)のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質として、以下の(b)又は(c)のアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一性が98%以上であるアミノ酸配列
【0016】
前記(b)のアミノ酸配列において、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1個以上3個以下が好ましく、1個以上2個以下がより好ましく、1個がさらに好ましい。
【0017】
なお、ここでいう「置換」は、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することが好ましい。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本実施形態の組換えタンパク質の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン及びトレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン及びメチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン及びグルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)等で分類することができる。一般的に起こり得るアミノ酸の置換としては、例えば、アラニン/セリン、バリン/イソロイシン、アスパラギン酸/グルタミン酸、トレオニン/セリン、アラニン/グリシン、アラニン/トレオニン、セリン/アスパラギン、アラニン/バリン、セリン/グリシン、チロシン/フェニルアラニン、アラニン/プロリン、リシン/アルギニン、アスパラギン酸/アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、ロイシン/バリン、アラニン/グルタミン酸、アスパラギン酸/グリシン等が挙げられる。
【0018】
前記(c)のアミノ酸配列からなるタンパク質は、前記(a)のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質であるためには98%以上の配列同一性を有する。係る配列同一性としては、98.5%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、99.5%以上がさらに好ましく、99.7%以上が特に好ましく、99.9%以上が最も好ましい。
【0019】
ここで、基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0020】
「配列同一性(%)」 = [一致したアミノ酸の数]/[対象アミノ酸配列のアミノ酸の総数]×100
【0021】
なお、前記(b)又は前記(c)のアミノ酸配列からなるタンパク質は、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有することを要する。
【0022】
≪組換えタンパク質の製造方法≫
本実施形態の組換えタンパク質は、前記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質であって、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系により合成されてなるものである。すなわち、本実施形態の組換えタンパク質の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と称する場合がある)では、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いて前記組換えタンパク質を合成する。
【0023】
次いで、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いる本実施形態の製造方法について、以下に詳細を説明する。
【0024】
本実施形態の製造方法は、例えば、以下の1)〜3)の工程(以下、それぞれ「工程1)」、「工程2)」及び「工程3)」と称する場合がある)を含む。
1)転写鋳型を調製する工程;
2)転写反応溶液と転写鋳型を混合し、転写反応を行う工程;
3)転写反応産物であるmRNAを含む転写溶液を、タンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液に添加して、翻訳反応溶液を調製させた後、翻訳反応基質溶液を当該翻訳反応溶液に重層させて、翻訳反応を行う工程。
【0025】
<工程1)>
本明細書において「転写鋳型」とは、インビトロ転写反応の鋳型分子として使用し得る核酸を意味し、適当なプロモーター配列の下流に上記組換えタンパク質をコードする塩基配列を少なくとも有する。適当なプロモーター配列とは、転写反応において使用されるRNAポリメラーゼが認識し得るプロモーター配列をいい、例えば、SP6プロモーター、T7プロモーター等が挙げられる。上記組換えタンパク質をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号2に示される塩基配列等が挙げられる。なお、配列番号2に示される塩基配列は、「(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列」からなるタンパク質をコードするものである。
【0026】
転写鋳型は、プロモーター配列と目的タンパク質をコードする塩基配列との間に翻訳効率を制御する活性を有する塩基配列(翻訳エンハンサー)を有することが好ましく、例えば、タバコモザイクウイルス由来のΩ配列等のRNAウイルス由来の5'非翻訳領域、コザック配列、ランダム核酸配列プールから選別した完全人工配列E01等を用いることができる。さらに、転写鋳型は、上記組換えタンパク質をコードする塩基配列の下流に転写ターミネーション領域等を含む3'非翻訳領域を含むことが好ましい。3'非翻訳領域としては、終止コドンより下流の約1.0kb以上約3.0kb以下程度が好ましく用いられる。3'非翻訳領域は例えば、天然のイヌbFGF遺伝子のものを用いることができるが、他の遺伝子のものを用いてもよい。
【0027】
上記組換えタンパク質をコードするDNAをPCR法によって増幅及び合成した反応産物を精製することなくそのまま転写鋳型として用いることができる。
上記のようにして得られる転写鋳型DNAはクロロホルム抽出やアルコール沈殿により精製した後に転写反応に供してもよいが、本実施形態の製造方法では、PCR反応後の反応液をそのまま転写鋳型溶液として使用することが可能である。
【0028】
また、上記組換えタンパク質をコードするDNAは、例えば、発現ベクターに挿入された形態であってもよい。ここで用いられる発現ベクターとしては、用いる宿主や目的等に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。例えば、宿主が大腸菌である場合には、コムギ無細胞タンパク質合成系で合成効率を最大限に発揮するために最適化された発現ベクターであるpEU等のプラスミドベクターを用いることができる。
【0029】
発現ベクターは、発現誘導可能なプロモーター、シグナル配列をコードする遺伝子、選択用マーカー遺伝子、ターミネーター等の因子を適宜有していてもよい。また、単離精製が容易になるように、チオレドキシン、ヒスチジン(His)タグ、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)等との融合タンパク質として発現する配列が付加されていてもよい。中でも、発現ベクターは、ヒスチジン(His)タグとの融合タンパク質として発現する配列が付加されていることが好ましい。
【0030】
<工程2)>
工程1)で調製した転写鋳型DNAから、インビトロ転写反応により翻訳鋳型であるmRNAを生成させる。工程2)は、反応系(例えば、96穴タイタープレート等の市販の容器)に提供された転写鋳型を含む溶液と、転写鋳型中のプロモーターに適合するRNAポリメラーゼ(例えば、SP6 RNAポリメラーゼ等)やRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等の転写反応に必要な成分を含む溶液(「転写反応用溶液」ともいう)とを混合した後、20℃以上60℃以下程度、好ましくは30℃以上42℃以下程度で約30分間以上16時間以下程度、好ましくは2時間以上10時間以下程度、該混合液をインキュベートすることにより行われる。
【0031】
<工程3)>
工程2)で得られた転写溶液を、タンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液に直接添加する。ここで、直接添加とは、転写反応産物のmRNAを含む転写溶液に何ら精製工程を加えることなく、タンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液に添加することを意味する。また、ここで用いられるタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液としては、翻訳鋳型を翻訳して該鋳型にコードされるタンパク質を生成させ得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、市販のものを用いてもよく、既知の方法、具体的には、〔Madin K et al., “”, Proc Natl Acad Sci USA, Vol. 97, Issue 2, pp. 559-564, 2000.〕(参考文献1)や国際公開第00/68412号(参考文献2)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販のタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液としては、「WEPRO(登録商標、以下「登録商標」との記載を省略する)7240H Expression Kit」(商品名)(セルフリーサイエンス社製)に添付のもの(「WEPRO7240H」(商品名))等が挙げられる。さらに、調製されたタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液である場合には、調製工程において混入した胚乳成分及び低分子のタンパク質合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ種子胚芽抽出液が好適である。これらは従来のコムギ種子胚芽抽出液と比較して、抽出液中のタンパク質合成阻害に関与する成分及び物質が低減されているためである。
【0032】
次いで、転写溶液とタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液との混合液(以下、「翻訳反応液」と称する場合がある)に、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3',5'−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等の、翻訳反応に必要又は好適な成分を含有する溶液(「翻訳反応基質溶液」ともいう)を添加して、翻訳反応に適した温度で適当な時間インキュベートすることにより翻訳反応を行うことができる。
【0033】
基質となるアミノ酸は、通常、タンパク質を構成する20種類の天然アミノ酸であるが、目的に応じてそのアナログや異性体を用いることもできる。また、エネルギー源としては、ATP、GTP等が挙げられる。各種イオンとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩、グルタミン酸塩等が挙げられる。緩衝液としては、Hepes−KOH、Tris−酢酸等が用いられる。またATP再生系としては、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組み合わせ、クレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)とクレアチンキナーゼの組み合わせ等が挙げられる。核酸分解酵素阻害剤としては、リボヌクレアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター等が挙げられる。このうち、リボヌクレアーゼインヒビターの具体例としては、ヒト胎盤由来のRNase inhibitor(TOYOBO社製等)等が用いられる。tRNAは、市販のものを用いることができる。還元剤としては、ジチオスレイトール等が挙げられる。抗菌剤としては、アジ化ナトリウム、アンピシリン等が挙げられる。これらの添加量は、無細胞タンパク質合成において通常使用され得る範囲で適宜選択することができる。
【0034】
翻訳反応液に対する翻訳反応基質溶液の添加の態様は、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法に適用し得る自体公知のいずれの系であってもよく、例えば、バッチ法や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成法、透析法、重層法等が挙げられる。更には、合成反応系に鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する不連続ゲル濾過法や、合成反応槽が分子篩可能な担体によって調製され、上記の合成材料等が該担体を移動相として展開され、展開中に合成反応が実行され、結果として合成されたタンパク質を回収し得る方法等を用いることができる。中でも、合成系の構造の単純化、省スペース、低コスト、ハイスループット解析に適用可能な多検体同時合成システムの提供の点から、バッチ法又は重層法が好ましく、比較的大量のタンパク質を得ることができる点で重層法が特に好ましい。
【0035】
バッチ法により翻訳反応を行う場合、翻訳反応基質溶液を、翻訳反応液に添加して混合すればよい。或いは、翻訳反応基質溶液に含まれる成分を予めタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液と混合した場合には、翻訳反応基質溶液の添加を省略することもできる。翻訳反応液と翻訳反応基質溶液との混合液の組成としては、例えば、10mM以上50mM以下のHEPES−KOH(pH7.8)、55mM以上120mM以下の酢酸カリウム、1mM以上5mM以下の酢酸マグネシウム、0.1mM以上0.6mM以下のスペルミジン、L−アミノ酸(各アミノ酸濃度は、0.025mM以上1mM以下)、20μM以上70μM以下、好ましくは30μM以上50μM以下のDTT、1mM以上1.5mM以下のATP、0.2mM以上0.5mM以下のGTP、10mM以上20mM以下のクレアチンリン酸、0.5units/μL以上1.0units/μL以下のリボヌクレアーゼインヒビター、0.01μM以上10μM以下のタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、及び24v/w%以上75v/w%以下のコムギ胚芽由来の細胞抽出液を含むもの等が用いられる。このような翻訳反応液を用いた場合、プレインキュベーションは10℃以上40℃以下程度で5分間以上10分間以下程度、本反応(翻訳反応)におけるインキュベーションは同じく10℃以上40℃以下程度、好ましくは18℃以上30℃以下程度、より好ましくは20℃以上26℃以下程度で、反応が停止するまで、バッチ法では通常10分間以上7時間以下程度行う。
【0036】
さらに、基質及びエネルギー源供給溶液(供給相)を自由落下又は送液ポンプによって、基質及びエネルギー源分子を反応相の翻訳反応系へ連続又は不連続に供給すると共に、転写溶液由来の高マグネシウムイオンやヌクレオチド類及び反応相で生じた副生成物を希釈することにより、合成反応の持続時間を延長し、合成反応の効率を高める、供給バッチ式による無細胞タンパク質合成方法(以下、供給バッチ法)も採用することができる。
供給バッチ法では、供給相からの送液により、反応槽のサイズや形態には制約がなく、さらに、タンパク質合成速度の重要な律速パラメーターである両液の混合速度を自由に制御することにより、合成反応の制御が可能となり、効率の高い大規模なタンパク質製造が可能となる。さらに、mRNAを追加した供給相とすることにより、合成反応の効率をさらに高めることができる。具体的な供給液の添加速度は、反応開始時の反応相と同量の供給液を、5分間以上15時間以下程度、好ましくは10分間以上10時間以下程度で反応相に連続又は不連続に供給できる範囲の流速がよい。
【0037】
重層法により翻訳反応を行う場合、国際公開第02/24939号(参考文献3)に記載の方法を用いて行なうことができる。具体的には、翻訳反応液上に、翻訳反応用溶液を、界面を乱さないように重層することによりタンパク質合成を行う。より具体的には、例えば、必要に応じて適当時間プレインキュベートしたタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液を翻訳鋳型であるmRNAを含む転写溶液に添加して混合し、反応相とする。この反応相の上層に翻訳反応用溶液(供給相)を、界面を乱さないように重層して反応を行う。両相の界面は必ずしも重層によって水平面状に形成させる必要はなく、両相を含む混合液を遠心分離することによって、水平面を形成することも可能である。両相の円形界面の直径が7mmの場合、反応相と供給相の容量比は1:4以上1:8以下が適当であるが、1:5が好適である。両相からなる界面面積は大きいほど拡散による物質交換率が高く、タンパク質合成効率が上昇する。従って、両相の容量比は、両相の界面面積によって変化する。翻訳反応は、例えば、静置条件下、10℃以上40℃以下程度、好ましくは13℃以上30℃以下程度、より好ましくは13℃以上26℃以下程度で、通常10時間以上20時間以下程度行うことができる。
【0038】
さらに、(1)タンパク質合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、供給相と反応相を混合処理する工程、(2)濃縮膜等を用いて、合成開始の液量程度まで遠心濃縮を行う工程、(3)供給相となる供給液を反応相に重層させて合成を再開する工程、及び、(4)上記(1)〜(3)の工程を複数回繰り返す工程を含む、重層繰り返し式による無細胞タンパク質合成方法(以下、繰り返し重層法)も採用することができる。
【0039】
<工程4)>
上記工程3)で得られた組換えタンパク質をそのまま各種利用してもよいが、精製して用いることができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、上記工程1)〜3)に加えて、工程3)の後に、4)得られた上記組換えタンパク質を精製する工程(以下、「工程4)」と称する場合がある)を更に含んでもよい。
【0040】
上記組換えタンパク質を精製する方法としては、例えば、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。また、上記組換えタンパク質を、Hisタグ、GST等との融合タンパク質として発現させた場合は、これら融合タンパク質やタグの性質を利用した精製法により単離及び精製することができる。具体的には、例えば、上記組換えタンパク質とHisタグとの融合タンパク質として発現させた場合には、ニッケル(Ni)が結合した支持体又は担体等を用いて精製することができる。例えば、上記組換えタンパク質とGSTとの融合タンパク質として発現させた場合には、グルタチオンが結合した支持体又は担体等を用いて精製することができる。上記支持体及び上記担体としては、例えば、レジン、ガラス、磁性体等の材質からなり、カラム、ビーズ、チップ等の形状のものを用いることができる。
また、本実施形態の製造方法は、上記組換えタンパク質が各種タグとの融合タンパク質である場合に、上記工程4)の後に、当該タグを、酵素等を用いて、除去する工程を更に含むことができる。
【0041】
本実施形態の製造方法は、上記工程1)から上記工程3)(必要に応じて、上記工程4))までの各工程を自動化した装置を用いて行なうことができる。ここで「自動化」とは、一連の工程中に、実験者が反応系(反応容器)に直接的に手動の操作を加えないことを意味する。従って、各工程を実行させるに際し、用いられる自動合成装置に設けられた所定の操作ボタンやスイッチ等の操作を実験者が手動で行うことは、本明細書中における「自動」の要件を損なうものではない。
市販の自動合成装置としては、例えば、「Protemist(登録商標) DT II」(商品名)(セルフリーサイエンス社製)等を用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
(コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いたrc−bFGFの製造)
rc−bFGFの製造は、セルフリーサイエンス社製の無細胞タンパク質合成キット「WEPRO7240H Expression Kit」(商品名)を用いて、全自動タンパク質合成・精製機(「Protemist(登録商標) DT II」(商品名)、セルフリーサイエンス社製)により行なった。
【0044】
具体的には、まず、イヌbFGFをコードするcDNA(配列番号2)をpEU−E01−MCSベクターのマルチクローニングサイトに挿入して、ベクター[pEU−E01−His−TEV−DogbFGF]を得た。ベクター[pEU−E01−His−TEV−DogbFGF]を大腸菌にトランスフォームして培養した。Plasmid Midi Kit(QIAGEN社製)を用いて大腸菌からプラスミドDNAの抽出及び精製を行った、次いで、精製したプラスミドDNAの濃度及び純度を確認した後、プラスミドDNA濃度が1.0μg/μLとなるように、TEバッファーを適量加えて、鋳型DNA溶液を得た。なお、ベクターのマルチクローニングサイトにイヌbFGFのDNAが挿入されていることは、シークエンス解析により確認した。
【0045】
転写反応溶液(5×Transcription Buffer LM)に、次いで、鋳型DNA溶液(1.0μg/μL)25μLを加えて、静かにピペッティングした。次いで、37℃で6時間反応させた。転写反応後、1μLの転写産物をアガロースゲル電気誘導し、mRNAの合成を確認した。さらに、得られたmRNAについてRT−PCRを行い、イヌbFGFのcDNAを得た。このcDNAについて、コントロールとして大腸菌由来のイヌbFGFのcDNAと共にアガロースゲル電気泳動を行なったところ、同じ位置にバンドが認められた。
【0046】
次いで、得られたmRNAを用いて翻訳反応を行った。翻訳には、ヒスチジン(His)タグを付加したタンパク質の合成及び精製に至適化されたコムギ胚芽抽出液(「WEPRO(登録商標)7240H」(商品名)、セルフリーサイエンス社製)を使用した。mRNAを含む転写反応液を室温まで温度を下げ、静かにピペッティングして懸濁させた後、懸濁した転写反応液250μLをコムギ胚芽抽出液250μL、クレアチンキナーゼ1μLに加え、泡立てないように静かにピペッティングした(この混合液を以下、「翻訳反応液」と称する場合がある)。次いで、翻訳反応液全量(501μL)を、翻訳反応基質溶液(「SUB−AMIX(登録商標) SGC」(商品名))(5.5mL)の底に注意深く注ぎ入れて重層を形成し、重層反応を行った。15℃で20時間保温して翻訳反応を行った。
【0047】
翻訳反応後、反応液を静かにピペッティングし、合成タンパク質溶液の精製を行った。精製は、ニッケル樹脂を用いてHisタグが付加された組換えイヌbFGF(rc−bFGF)を吸着させ、洗浄バッファー(20mM Na−Phosphate(pH7.5)、300mM NaCl、20mM Imidazole)で樹脂を洗浄後、通常の半分量の溶出バッファー(20mM Na−Phosphate(pH7.5)、300mM NaCl、500mM Imidazole)で目的タンパク質を溶出させた。このとき、溶出バッファーの使用量を通常の半分量にすることで、溶出後の濃縮操作を不要とし、結果として濃縮操作によるrc−bFGFの損失を無くし、rc−bFGF濃度1mg/mLという効率的な生産を実現した。
【0048】
得られた精製タンパク質について、コントロールとして大腸菌由来のイヌbFGFタンパク質と共にウェスタンブロッティング解析を行なったところ、同じ位置にバンドが認められた。よって、rc−bFGFが得られたことが確かめられた。
【0049】
また、得られたrc−bFGFをHEK細胞に添加し、pErkの発現をウェスタンブロッティング解析により確認した(
図1参照)。その結果、pErkの発現が確認された。
【0050】
さらに、得られたrc−bFGFをイヌ線維芽細胞に添加し、培養した(
図2及び
図3参照)。その結果、rc−bFGF無添加群と比較して、rc−bFGF添加群において、細胞数の増加が確認された。
【0051】
以上のことから、得られたタンパク質が組換えイヌbFGF(rc−bFGF)であり、イヌbFGFとしての機能を有することが確かめられた。