【実施例1】
【0015】
[静電容量型水分計]
<1>全体の構成(
図2)。
本発明の静電容量型水分計Aは、自然地盤や盛土などの土工構造物の土中に配置し、2列の電極間の静電容量から土中の水分を計測する水分計である。
静電容量型水分計Aは、土中水分計測センサ1と、これと電気的に接続した解析装置2と、を少なくとも備える。
【0016】
<2>土中水分計測センサ(
図1)。
土中水分計測センサ1は、土中に配置するセンサ要素である。
土中水分計測センサ1は、グリッド部10と、導電部20と、補強部30と、を少なくとも備える。
土中水分計測センサ1は、土中に配置した状態において、後述する第一検知線材11aと第二検知線材11bに挟まれた仮想面に上下方向に一定の厚みを加えた範囲を検出エリアとして、検出エリア内の土中の静電容量を検出することができる。
本例では、土工構造物として盛土を採用し、土中水分計測センサ1を盛土内に設置する場合について説明するが、これに限らず、例えば自然地盤に埋め戻して使用したり、舗装道路の路盤上に埋設して使用することもできる。
【0017】
<2.1>グリッド部。
グリッド部10は、土中定置機能を備える構成要素である。
グリッド部10は、並列配置した複数の線材11を、複数の間隔保持材12で連結してなる格子状の構造からなる。
土中水分計測センサ1の設置時、グリッド部10を地中に水平方向に配置すると、グリッド部10の格子状構造が周囲の土粒子と噛み合うことで、土中に安定的に位置決めすることができる。
【0018】
<2.1.1>ジオグリッド。
本例ではグリッド部10として、ジオグリッドを採用する。
ジオグリッドとは、合成樹脂製のネット体の内部に補強線材を挿入してなる土工構造物の補強材である。
詳細には、ジオグリッドの並列する複数の線材11の内部に挿入した補強線材を補強部30とし、複数の線材11の内、平行する任意の2列を第一検知線材11a及び第二検知線材11bとして、第一検知線材11a及び第二検知線材11bの補強部30内に導電部20を挿入する。
【0019】
<2.1.2>線材。
線材11は、センサ機能と、グリッド部10の位置決め機能を兼備する構成要素である。
複数の線材11の内、所定の検出エリアの幅に対応する距離だけ離間した2本の内部に導電部20を挿入し、これを第一検知線材11a及び第二検知線材11bとする。
第一検知線材11a及び第二検知線材11bは絶縁性を備える素材からなる。
第一検知線材11a及び第二検知線材11bは平行に配置する。
第一検知線材11a及び第二検知線材11bの一端から導電部20を延伸して、それぞれ解析装置2と電気的に接続する。
なお、本例における第一検知線材11aと第二検知線材11bの区分は説明の便宜上のものであって、両者の配置や正負の電極は反対であってもよい。
【0020】
<2.1.3>間隔保持材。
間隔保持材12は、第一検知線材11aと第二検知線材11bの間隔保持機能と、土中追従機能を兼備する構成要素である。
間隔保持材12は、複数の線材11を、長さ方向の複数の位置で接続し、線材11間の間隔を一定に保持する。
本例では、間隔保持材12は、第一検知線材11aと第二検知線材11bの延在方向と略平行する追従面12aを備える。
土中水分計測センサ1を土中に配置した状態において、追従面12aが土によって上下から挟持されることで、グリッド部10が土の挙動に追従して変形しやすくなり、導電部20による変状検知機能の感度が高くなる。
【0021】
<2.2>導電部。
導電部20は、導電機能と、土工構造物の変状検知機能を兼備する構成要素である。
導電部20は、複数の線材11の内、第一検知線材11a及び第二検知線材11bの内部に長手方向にわたって連続して延在する。
2本の導電部20はそれぞれ、後述する解析装置2と電気的に接続する。
本例では導電部20として、炭素繊維製のケーブルを採用する。炭素繊維は導電性と高い耐腐食性を兼ね備えるため、導電部20に至適である。
ただし導電部20は、炭素繊維に限られず、他の導電性繊維を採用してもよい。
導電部20のアースを取る場合には、第一検知線材11a又は第二検知線材11bの先端付近において導電部20を露出させて、設置時に導電部20を周囲の土と接触させる。
【0022】
<2.3>補強部。
補強部30は、導電部20の保護機能と、グリッド部10の補強機能を兼備する構成要素である。
補強部30は、少なくとも第一検知線材11a及び第二検知線材11bの内部に長手方向にわたって連続して延在し、第一検知線材11a及び第二検知線材11b内において、導電部20の外周の少なくとも一部を被覆する。これによって、導電部20を温度変化や腐食から保護する。
本例では補強部30として、アラミド繊維製の補強線材を採用する。アラミド繊維の糸量は、ジオグリッドの設計引張強度を満たす量に設定する。
本例では、第一検知線材11a及び第二検知線材11b以外の線材11も含む全ての線材11内に補強部30を挿入する。
【0023】
<2.4>土工構造物の変状検知機能。
本例では、導電部20と補強部30の素材及び糸量の組み合わせにより、線材11内の糸量における導電部20の破断強度σ
Cを、線材11内の糸量における補強部30の破断強度σ
Rより小さく設定する。この構成によって、土工構造物の変状検知機能を発揮することができる。
具体的には以下のように機能する。
土工構造物内に変状が生じた場合、土中に噛み込まれたグリッド部10が土に追従して変形することで、グリッド部10に強い引張力が付与される。
この引張力がジオグリッドの設計引張強度に近づくと、アラミド繊維製の補強部30に先立って、これより破断強度の小さい炭素繊維製の導電部20が破断する。これは土工構造物内にジオグリッドの設計上の想定以上の引張力が作用していることを意味し、このまま変状が進めばジオグリッドの補強部30が破断して崩壊に至る可能性がある。
本例では、静電容量型水分計Aにおいて導電部20の断線を電気的に認識することで、補強部30が破断する前に、土工構造物が不安定な状態にあることを検知し、警報の発報、避難勧告、通行止め等の防災措置に寄与させることができる。
【0024】
<3>解析装置。
解析装置2は、土中水分計測センサ1を介して検出エリア内の静電容量を検出して、これに基づいて水分量を測定する装置である。
解析装置2は、土中水分計測センサ1の第一検知線材11a及び第二検知線材11bと電気的に接続する。
解析装置2は、送電部2aと、測定部2bと、を少なくとも備える。
【0025】
<3.1>送電部。
送電部2aは、第一検知線材11a及び第二検知線材11bと電気的に接続し、第一検知線材11a及び第二検知線材11bへ正負の電流を出力する。
【0026】
<3.2>測定部。
測定部2bは、第一検知線材11a及び第二検知線材11bと電気的に接続し、第一検知線材11a及び第二検知線材11bの間に位置する検出エリア内の静電容量(カウント値)を検出して、この静電容量に基づいて検出エリアにおける水分量を測定する。
具体的には、例えば第一検知線材11a及び第二検知線材11bの間の電位差が所定量に達するまでの時間に基づいて、測定エリア内における土の誘電率を算出し、これに基づいて水分量を測定する。
なお、測定部2bの構造や機能は公知なので、ここでは詳述しない。
【0027】
<4>静電容量型水分計の使用方法。
静電容量型水分計Aの使用方法について、土中水分計測センサ1を盛土内に設置する例を説明する。
所定の埋設位置まで盛土を巻き出し、巻き出した土の上に土中水分計測センサ1を配置する。土中水分計測センサ1の2本の導電部20にはケーブルを接続し、ケーブルを盛土の外部に引き出しておく(
図2)。
盛土上に配置した土中水分計測センサ1の上部に、残りの土を盛土して、土中水分計測センサ1を埋設する。すると、グリッド部10の格子体が埋め戻した土と噛み合い、盛土内に面状の検出エリアが画設される。
水分量を計測する場合には、土中水分計測センサ1のケーブルを解析装置2に接続する。解析装置2の電源を入れて、送電部2aから第一検知線材11a及び第二検知線材11bへ正負の電流を出力する。
すると、第一検知線材11a及び第二検知線材11bの間に電荷が蓄積し、第一検知線材11aと第二検知線材11bの電位差が拡大してゆく。測定部2bによって、この電位差を検出し、検出エリアにおける平均水分量を測定する。
なお、解析装置2は、盛土付近に常設して常時モニタリングとしてもよいし、巡回時に土中水分計測センサ1とケーブル接続して、定期的にモニタリングしてもよい。
【0028】
<5>測定試験。
本発明の静電容量型水分計Aによって水分量の測定試験を行った。
砂質土を充填した深さ70cmの土槽に長さ2m、電極間距離28mmの土中水分計測センサ1を設置し、上部に20cmの土を盛って埋設して(
図3)、約10ヶ月の計測を行った。
図4は、平成30年10月における試験結果を示すグラフである。
このグラフによれば、土中水分計測センサ1による計測結果が、従来技術の誘電率型水分計(ADRセンサ)と近似する傾向が得られ、本発明の土中水分計測センサ1が水分センサとして有効に機能することが確認できた。