【解決手段】ヒト化抗GDF−8抗体またはその抗原結合断片であって、同じ相補性決定領域(CDR)を共有するそのような抗体の以前の型と比較してより高いレベルで宿主細胞中にて発現される、ヒト化抗GDF−8抗体またはその抗原結合断片。
請求項1に記載のモノクローナル抗体であって、VH CDR1が配列番号10のアミノ酸配列を含み、VH CDR2が配列番号11のアミノ酸配列を含み、VH CDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含み、VL CDR1が配列番号13のアミノ酸配列を含み、VL CDR2が配列番号14のアミノ酸配列を含み、VL CDR3が配列番号15のアミノ酸配列を含む、モノクローナル抗体。
請求項1または2に記載のモノクローナル抗体であって、VH領域が、Kabat位置108のアミノ酸位置でロイシンを含み、VH領域のフレームワーク領域4(FR4)が配列番号44のアミノ酸106〜116を含み、かつ、VL領域のフレームワーク領域が、配列番号46のアミノ酸98〜107または配列番号9のアミノ酸98〜107を含む、モノクローナル抗体。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示は、抗体の以前の型と比較してはるかに高いレベルで細胞中にて発現されることができる、ヒト化抗GDF−8抗体の改善された型を提供する。従って、本明細書中に記載の抗GDF−8抗体の改善された型は、より初期の型と比較して、同じ投入を与えた場合により大量でかつより安価な原価で生成されることが可能であると予想される。また、本開示は、改善された抗体を使用した処置または予防の様々な方法も記載している。したがって、特定の例示的な非限定的な実施形態では、改善された抗GDF−8抗体を使用して、筋ジストロフィー、悪液質、および対象の筋肉量または筋力を増加させることが治療上の利点を与えると予想される他の障害を処置することができる。
【0040】
抗体の構造および多様性
本明細書中で使用する用語、抗体とは、インタクトな免疫グロブリン(Ig)またはその任意の抗原結合断片、部分もしくは一部分をいい、とりわけ、少なくとも一部の抗原結合特異性を保持する完全または部分的な抗原結合部位を含む任意のポリペプチドが包含される。また、抗体とは、インタクトな抗体に由来する抗原結合断片、部分または一部分と、異なる抗体、Igスーパーファミリーからのタンパク質、または免疫系に由来しないタンパク質もしくは他の分子種を含めた別の分子との組合せをいう場合もある。そのような抗体誘導体には、タンパク質性でない一部分または部分が含まれ得る。
【0041】
抗原とは、抗体が特異的に結合することができる、タンパク質またはその他の物質をいう。抗原は、抗体によって結合される抗原の一部分である抗原決定基またはエピトープを複数有し得る。
【0042】
免疫グロブリン(Ig)とは、それぞれ約50kDaの2本の重鎖およびそれぞれ約25kDaの2本の軽鎖を含むヘテロ四量体タンパク質である。それぞれの鎖は複数のIgドメインを含む。アミノ末端から開始して、重鎖は単一の可変領域(VH)を含有し、続いて、Igサブタイプに応じて、CH1、CH2、CH3および存在する場合はCH4と呼ばれる3個または4個の定常領域が続く。同様に、軽鎖中では、単一の可変領域(VL)がポリペプチドのアミノ末端に配置されており、単一の定常領域(CL)が続く。CH1領域とCH2領域との間には、アイソタイプに応じて可変長のヒンジ領域が存在し、これは分子に柔軟性を与える。ヒンジを含めたCH1の重鎖カルボキシ末端、CH2、CH3および存在する場合はCH4が、Fc領域を構成する。それぞれの可変または定常領域は単一のIgドメインを含む。
【0043】
Ig軽鎖はIg重鎖と結合し、Ig重鎖の対は、ジスルフィド結合によって互いに結合する。非共有的相互作用も、重鎖と軽鎖間および対にした重鎖間の鎖間の四次構造の安定化に寄与し得る。インタクトなIg分子では、対にした重鎖および軽鎖のVHおよびVL領域は互いに隣接して配置され、相互作用および協同して抗原結合部位を形成する。インタクトなIg分子は2対の対にした重鎖および軽鎖、すなわち合計2本の重鎖および2本の軽鎖を含有するため、Ig分子が2つの抗原結合部位を含有する。ヒンジ領域の存在は、抗原結合部位と分子の残りの部分との間に柔軟性を与える。
【0044】
重鎖および軽鎖定常領域は、抗原認識には直接関与しない。しかし、重鎖、特にFc領域は、エフェクター分子および免疫系の細胞と相互作用することができる配列を含有しており、それにより、重鎖定常領域がIg分子の重要な生物学的機能を媒介することを可能としている。
【0045】
重鎖および軽鎖の可変領域はどちらも、超可変領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、アミノ酸の可変性が増大した3つの間隔を空けた領域を含有し、これは、CDR周辺のより高度に保存的なフレームワーク領域(FR)と比較して、様々なIg分子を横断して大規模に変動する。可変領域のアミノ末端から、FRおよびCDRの順番および付番は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4である。フレームワーク領域が、可変領域Igドメインの三次構造の決定を主に司っている。対照的に、CDRは、それぞれの可変領域から外側に延びるループを形成する。隣接するVHおよびVL領域のCDRは、協同して、特定のIg分子の抗原結合特異性の定義を主に司っている抗原結合表面を形成する。
【0046】
抗体の構造および機能を研究している研究者らは、任意の特定のVHまたはVL領域のアミノ酸配列内に存在する重鎖および軽鎖CDRを同定するための様々なスキーマを開発している。これらのスキーマの多くは、可変重鎖および軽鎖領域の周辺フレームワークに関連する不変またはほぼ不変のパターンに従ってCDRを同定する。その後、CDRを、VHおよびVL領域のコンテキスト内におけるその構成残基の位置に対応する数値範囲を使用して定義する。CDR、特に第3のCDRは、長さが変動する場合があるため、スキームは、構成残基を定義するために文字も使用する場合がある。最初のそのようなスキームの1つはKabat付番システムとして知られており、これは、その時に知られているVHおよびVL配列をアラインメントして、より高度に保存的なフレームワーク領域のコンテキスト内における可変CDR部分配列の位置を決定することに基づく。CDRを定義するための他のスキーマには、AbM付番システムおよびChothia付番システムが含まれる。他のスキーマも可能である。たとえば、CDRは、そのような残基が、KabatまたはChothia付番スキームなどの、CDRのより形式化された定義にはきれいに当てはまらない場合でさえも、抗原と接触する可変領域残基として定義し得る。たとえば、参照により組み込まれるY.Ofranら、Automated identification of complementarity determining regions(CDRs) reveals peculiar characteristics of CDRs and B cell epitopes、J Immunol.、2008 11月1日、181(9):6230〜5を参照されたい。Kabat付番スキームおよび特定の他の抗体付番スキームは、たとえば、参照により組み込まれるthe Handbook of Therapeutic Antibodies(2007)、Stefan Dubel編、Wiley−VCH Verlag GmbH&Co.KgaA、Weinheim中により詳細に記載されている。
【0047】
可変重鎖および軽鎖領域のCDR内のアミノ酸は抗原中の残基と接触し、抗原に対する抗体の結合特異性の定義を主に司っている。研究下にある抗体−抗原の対に応じて、すべてまたはすべてよりも少ないCDR残基が抗原と直接接触し得る。さらに、特定の接触は、他のものよりも特異性および/または親和性の定義に寄与し得る。
【0048】
抗体および抗原のどちら中の接触残基も、それが何であるかは、X線結晶構造解析または当業者に知られている他の方法を使用して決定することができる。必ずしもではないが、多くの場合、そのような接触残基の突然変異は、抗原結合の特異性および/または親和性に負の影響を与える。逆に、抗原結合の特異性または親和性に実質的な影響を与えずに、非接触CDR残基およびFR残基を突然変異させることが可能であり得る。保存的アミノ酸の変更は抗原結合の特異性および親和性を保存する可能性が高いと予想されるが、任意の特定のCDRまたはフレームワークの突然変異の実際の効果は、当分野の技術者が精通した技法を使用して経験的に決定することができる。
【0049】
VHおよびVL領域のCDRが、そのそれぞれのフレームワーク領域によって支援されて、抗原結合の特異性および親和性の確立を典型的には司っているが、例外も存在し得る。たとえば、特定のIg分子では、FR残基も抗原結合に寄与する場合があり、他方で、特定の他のIg分子では、CDRのうちの1つまたは複数が抗原と直接接触しない場合がある。さらに、さらに他のIg分子では、単離したVH領域およびVL領域のCDRは、それが通常対となるであろう対応する可変領域が存在しない場合でも、実質的な抗原結合特異性を保有する場合がある。抗原と特異的に結合する、特定の単離Ig分子可変領域の能力は、対にした重鎖を含むが軽鎖を含まないサメまたはラクダ抗体の抗原結合特異性に類似している。
【0050】
特定の種のIg分子は、様々なアイソタイプに従って分類することができる。たとえば、ヒトでは、IgアイソタイプにはIgA、IgG、IgD、IgE、およびIgMが含まれる。さらに、IgAおよびIgGアイソタイプは、それぞれIgA1およびIgA2、ならびにIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4と呼ばれるサブタイプへと分類することができる。アイソタイプおよびサブタイプは、重鎖定常領域のアミノ酸配列の相違によって定義される。その結果、様々なアイソタイプおよびサブタイプは様々な免疫細胞上の様々なエフェクター分子と相互作用することができ、それによって様々なエフェクター機能が与えられる。たとえば、IgA分子は粘膜(muscosal)免疫に寄与する一方で、IgE分子は特定の寄生生物に対する免疫に寄与する。IgMおよびIgEの重鎖は、アミノ末端のCH領域から開始してCH1、CH2、CH3、およびCH4と付番される4個の直列に配置されたCH Igドメインを含有する。しかし、IgA、IgDおよびIgGは3個の直列に配置されたCH領域しか含有しない。軽鎖定常領域は、知られている生物学的エフェクター機能を有さない、カッパおよびラムダと呼ばれる2つのアイソタイプを含む。天然に存在するIg分子は単一の軽鎖定常領域アイソタイプのみを保有する。
【0051】
抗体重鎖および軽鎖を発現する遺伝子は、V(D)J組換えとして知られる複数の遺伝子再編成によってin vivoで構築される。このプロセスは、ゲノム中に存在する遺伝子配列の比較的限定的なレパートリーから、抗原結合タンパク質の大きなレパートリーを作成することを担っている。このプロセスに関するさらなる情報は、全体として参照により組み込まれるAbbas,A.K.、Lichtman,A.H.およびPillai,S.、2010、Cellular and Molecular Immunology、第6版、第8章、Saunders、ペンシルベニア州Philadelphiaに記載されている。
【0052】
ヒト生殖系列DNAでは、3つの別個の遺伝子座位が、免疫グロブリン重鎖、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖を構築するために必要なエクソンをコードしている。重鎖座位は第14染色体上に存在し、カッパ鎖座位は第2染色体上に存在し、ラムダ鎖座位は第22染色体上に存在する。それぞれの座位の5’末端には、それぞれ約300塩基対の長さの複数の可変(V)遺伝子セグメントが位置しており、これは、第1および第2の相補性決定領域(CDR1およびCDR2)をどちらも含めた、抗体重鎖および軽鎖の可変領域を構成するアミノ酸の大多数をコードしている。ヒトでは、重鎖座位中に約100個のV遺伝子が存在し、カッパ鎖座位中に約35個のV遺伝子が存在し、ラムダ鎖座位中に約30個のV遺伝子が存在する。V遺伝子セグメントはイントロンによって互いに隔てられている。
【0053】
ヒト重鎖座位およびカッパ軽鎖座位中のVセグメントの下流かつ定常(C)遺伝子セグメントの上流には、典型的には約30〜50塩基対の長さであり、互いにならびに隣接のVおよびC遺伝子から非コード配列によって隔てられている、接合(J)セグメントのクラスターが位置する。重鎖座位は、様々なIgアイソタイプに関連づけられている9個の機能的なC遺伝子から上流に6個の機能的なJセグメントのクラスターを含有し、カッパ軽鎖座位は、単一のC
κ遺伝子の上流に5個のJセグメントのクラスターを含有する。また、ヒトラムダ軽鎖座位は4個の機能的なJセグメントも含有するが、そのそれぞれは、4個の対応する機能的なC
λ遺伝子のうちの1つの5’側に位置する。また、ヒト重鎖座位は、V遺伝子の下流かつJセグメントクラスターの上流に位置する、20個を超える多様性(D)遺伝子セグメントのクラスターも含有する。軽鎖座位はどちらもD遺伝子セグメントを含有しない。
【0054】
成熟Ig軽鎖遺伝子では、V領域はVおよびJ遺伝子セグメントによってコードされている一方で、Ig重鎖では、V領域はV、JおよびD遺伝子セグメントによってコードされている。重鎖および軽鎖のどちら中のCDR1およびCDR2も、V遺伝子セグメントによってコードされている。しかし、CDR3の構築はより複雑である。重鎖では、CDR3は、DおよびJセグメントならびに接合部残基を含めたVDJ接合部によってコードされている。同様に、軽鎖のCDR3は、Jセグメントおよび接合部残基を含めたVJ接合部によってコードされている。
【0055】
未成熟B細胞では、V、D、およびJ遺伝子セグメントはすべて生殖系列中で別々に位置しており、機能的なIgタンパク質を発現させるために使用することができない。その代わりに、B細胞が成熟するにつれて、遺伝子セグメントは、ランダムに選択された重鎖V、DおよびJ遺伝子セグメントまたは軽鎖VおよびJ遺伝子セグメントを隣接させる、V(D)J組換えとして知られる複雑なDNA再編成プロセスを受ける。V、DおよびJ遺伝子セグメントの接合中、V(D)J組換えの実施を担っている分子が、セグメント間のヌクレオチドのランダムな付加または除去を行う。このようにして、完全可変領域エクソンが成熟B細胞のゲノム中で作製され、その後、これが、機能的なIg重鎖および軽鎖タンパク質をコードしているmRNA中で、C領域をコードしているものを含めた他のエクソンと組み合わせられる。
【0056】
V領域エクソンを構築するための様々なV、DおよびJ遺伝子セグメントのランダムな組合せ、ならびに接合する遺伝子セグメント間のヌクレオチドのランダムな付加または除去はどちらも、免疫系が抗原結合部位の多大な多様性を生じる重要な機構である。これらの現象はそれぞれコンビナトリアル多様性および接合部多様性と呼ばれる。CDR3は、重鎖の場合はV、DおよびJセグメント、または軽鎖の場合はVおよびJセグメントによって寄与された配列から形成されているため、接合部多様性は、CDR3が3つのCDRのうちで最も可変性であり、典型的には抗原と最も広範囲の接触を行う理由を説明している。
【0057】
Ig分子の構造は、本質的に、異なる領域が異なる機能を行うモジュール式であるため、GDF−8結合能力を保持する抗GDF−8抗体の断片または誘導体を調製することが可能である。そのような断片または誘導体は、本明細書中で使用する用語抗体によって包含される。Ig分子から調製される抗原結合断片または誘導体の非限定的な例には、VH、CH1、VLおよびCL領域を含む一価断片であるFab断片、ヒンジ領域を介して互いに接合させた2つのFabを含む二価断片であるF(ab’)2、VHおよびCH1領域を含むFd断片、VLおよびVH領域を含むFv断片、VHまたはVL領域を含むdAb断片が含まれる。別の例は、単一ポリペプチド鎖中で直列に配置され、ポリペプチドリンカーによって隔てられて、可変領域が会合して一価の抗原結合部位を形成することを可能にしているVHおよびVL領域を含む、単鎖Fv領域(scFv)である。単鎖Fv領域は、VH領域がVL領域の前に位置する、あるいはVL領域がVH領域の前に位置するように設計し得る。リンカーの非限定的な例は15残基の(Gly
4Ser)
3ペプチド(配列番号34)である。他のリンカーも可能である。他の断片または誘導体には、Fab’、サロボディ、ジスルフィド安定化Fv抗体(dsFv)、ダイアボディ、トリアボディ、およびサメ抗体もしくはラクダ化抗体またはナノボディなどの単一ドメイン抗体が含まれる。他の断片または誘導体も可能である。本明細書中に記載したものなどの抗原結合断片、部分または一部分は、組換えによって、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的切断によって生成し得る。
【0058】
例示的な抗GDF−8抗体
GDF−8とは、TGF−βスーパーファミリーのメンバーである成長および分化因子−8をいう。成熟ヒトGDF−8のアミノ酸配列を配列番号1に記載する。
【0059】
以前の調査により、GDF−8と特異的に結合し、その生物活性を中和させる能力を有するマウスモノクローナル抗体が同定されている。この抗体は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のマウスモデルを含めたマウスにおいて筋肉量および筋力を増加させることが実証されている。全体として参照により組み込まれるWO2007/024535号を参照されたい。マウス抗体のVH領域は配列番号3のアミノ酸配列を有し、そのVL領域は配列番号4のアミノ酸配列を有する。これらのVHおよびVL領域をそれぞれ
図1Aおよび
図1B中に示し、VHおよびVL領域のそれぞれのCDRのアミノ酸配列を太字で示す。KabatおよびAbM付番システムの両方におけるそれぞれのVHおよびVL CDRに関連する配列番号を、以下に記載の表1中に列挙する。Kabat付番システムの下で定義したCDR H1、H2、およびH3にはそれぞれ配列番号10、11および12を割り当てた一方で、CDR L1、L2、およびL3にはそれぞれ配列番号13、14、および15を割り当てた。AbM付番システムの下では、CDR H1、H2、およびH3にはそれぞれ配列番号20、21、および22を割り当てた一方で、CDR L1、L2、およびL3にはそれぞれ配列番号23、24、および25を割り当てた。
【0063】
WO2007/024535号中にさらに記載されているように、CDR移植によってマウス抗体をヒト化した。具体的には、ヒト生殖系列可変重鎖(VH)遺伝子DP47(VH3−23、Genbank受託番号AB019439)をヒトアクセプターフレームワークとして使用し、それ上にマウスVH CDRを移植することによって、マウスVH領域をヒト化した。DP47のアミノ酸配列(配列番号33)を
図1Aに示す。ヒト生殖系列カッパ可変軽鎖(VL)遺伝子DPK9(O12m Vk1、Genbank受託番号X59315)をヒトアクセプターフレームワークとして使用し、それ上にマウスVL CDRを移植することによって、マウスVL領域をヒト化した。DPK9のアミノ酸配列(配列番号32)を
図1Bに示す。
【0064】
DP47およびDPK9 V領域の配列は、組み換えたV領域遺伝子ではなく生殖系列に由来するため、ヒト化プロセスには、CDR3のカルボキシ末端側にそれぞれの部分的に、ヒト化されたVHおよびVL領域のアミノ酸配列をコードしているヒトJ遺伝子セグメントを選択する必要もあった。WO2007/024535号に記載されているように、ヒト化は、VH領域ではJH3重鎖Jセグメント(配列番号35)を使用して、(すなわちDP47/JH3)、VL領域ではJK1軽鎖Jセグメント(配列番号39)を使用して(すなわちDPK9/JK1)完成させた。これらのJセグメント遺伝子によってコードされているアミノ酸配列は、それぞれ
図1Aおよび
図1B中に示す配列アラインメント中でVH CDR3およびVL CDR3の直後に出現する。
【0065】
本明細書中で使用する、WO2007/024535号に記載のようにDP47およびJH3を使用して構築したヒト化抗GDF−8抗体VH領域は、VH1(配列番号7)と呼ぶ一方で、DPK9およびJK1を使用して構築したヒト化抗GDF−8抗体VL領域はVL1(配列番号9)と呼ぶ。また、本明細書中で使用する、VH1およびVL1を含むヒト化抗GDF−8抗体は、OGD1.1.1と呼ぶ。この命名法では、VH領域番号が抗体名「OGD1」の直後に続き、VL領域番号がVH領域番号の直後に続く。したがって、たとえば、抗体名OGD1.0.1はVH0領域およびVL1領域を有する抗体をいう一方で、抗体名OGD1.1.0はVH1領域およびVL0領域を有する抗体をいう。マウスVHとVL領域、ヒト化VH1とVL1領域、およびDPK9とDP47遺伝子配列によってコードされているアミノ酸との間のアラインメントを、
図1Aおよび
図1Bに例示する。
【0066】
OGD1.1.1よりも実質的に高いレベルで細胞によって発現される一方で、高い親和性でGDF−8と特異的に結合し、GDF−8活性を中和する能力を保持するという驚くべき特性を有する、ヒト化抗GDF−8抗体の新規型が本明細書中に記載されている。
【0067】
これらの新規抗体の特定の実施形態では、異なる重鎖Jセグメント、すなわちJH4(Genbank受託番号J00256)(配列番号37)をVH領域中のCDR3の後に使用した。この変化の結果、Kabat付番スキームを使用して、VH1と比較して、VH領域位置108のMet(M)をLeu(L)で置き換えられる。本明細書中で使用する、LがKabat位置108に出現するこの新規ヒト化VH領域は、VH0と呼ばれる。VH0のアミノ酸配列(配列番号44)を
図1Aの配列アラインメントに例示する。
【0068】
Kabat付番スキームでは、可変長のCDRを示すために一部の同じ数字に付記された文字を使用するため、残基のKabat番号とポリペプチド中の残基配列のその物理的位置とは必ずしも一対一に対応していない。このため、VH領域のKabat位置108は、配列番号44(すなわちVH0)および本明細書中に開示した他のヒト化VH領域のアミノ酸配列中のアミノ酸番号111に等しい。
【0069】
本開示の抗体の他の実施形態では、異なる軽鎖Jセグメント、すなわちJK4(Genbank受託番号J00242)(配列番号41)をVL領域中のCDR3の後に使用した。この変化の結果、Kabat付番スキームを使用して、VL1と比較して、VL領域の位置100のGln(Q)がGly(G)で置き換えられる。本明細書中で使用する、GがKabat位置100に出現するこの新規ヒト化VL領域は、VL0と呼ばれる。VL0のアミノ酸配列(配列番号46)を
図1Bの配列アラインメントに例示する。
【0070】
本明細書中で使用する、VH0を含む重鎖およびVL0を含む軽鎖を含むヒト化抗GDF−8抗体は、OGD1.0.0と呼ばれる。
【0071】
上述のVHおよびVLの実施形態に関連する遺伝子セグメント、配列および用語を以下の表2中に要約する。
【0073】
実施例中にさらに記載するように、驚くべきことに、VH0を含む抗GDF−8抗体は、VH1を含む抗GDF−8抗体と比較してはるかに高いレベルで細胞によって発現されることが見出された。たとえば、実施例1に記載の非限定的な一実施形態では、驚くべきことに、VH0およびVL0を含むインタクトな免疫グロブリン(すなわちOGD1.0.0)は、VH1およびVL1を含む同様の抗体(すなわちOGD1.1.1)よりも12倍を超える高いレベルで一過的に発現されたことが実証された。また、実施例2に記載のように、安定発現レベルもはるかにより高かった。興味深いことに、実施例3中で調査したように、増強された発現は、VH0をVL0またはVL1のどちらと対にしたかにかかわらず起こり、また、VL0をVH0と対にした際は起こったが、VH1では起こらなかったため、増強された発現はVH0の存在に起因することが見出された。
【0074】
特定の実施形態では、本開示の抗体は、可変重鎖領域がVH0であり、可変軽鎖領域がVL0(OGD1.0.0)またはVL1(OGD1.0.1)である完全長重鎖および軽鎖を含む、インタクトなヘテロ四量体Ig分子である一方で、他の実施形態では、抗体は、そのような完全長抗体のGDF−8特異的結合断片または誘導体である。
【0075】
一部の実施形態によれば、本開示の抗体のVH領域は、配列番号44のアミノ酸配列またはそのマウス対応物である配列番号3中に存在する3つの重鎖CDR、すなわち、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3を含み、Kabat位置108のアミノ酸はロイシンである。他の実施形態では、VH領域は配列番号44のアミノ酸配列(すなわちVH0)を含む。他の実施形態では、本開示の抗体のVL領域は、配列番号46のアミノ酸配列またはそのマウス対応物である配列番号5中に存在する3つの軽鎖CDR、すなわち、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3を含み、Kabat位置100のアミノ酸はグリシンまたはグルタミンである。他の実施形態では、VL領域は配列番号46(すなわちVL0)または配列番号48(すなわちVL1)のアミノ酸配列を含む。
【0076】
本開示の抗体では、抗体重鎖アイソタイプは、ヒトIgアイソタイプまたはサブタイプ、すなわち、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、またはIgMのうちのいずれかであることができる。抗体軽鎖アイソタイプはカッパまたはラムダであることができる。特定の非限定的な実施形態では、抗体定常重鎖は配列番号19または配列番号57のアミノ酸配列であり、これらはどちらもIgG1サブタイプのものである。配列番号19は、ヒンジ領域中に、免疫細胞上のFc受容体との結合を妨げる2個の置換突然変異を含有する一方で、配列番号57は追加のヒンジ領域突然変異を含有し、同様の表現型を有するものが合計で3個となる。別の特定の非限定的な実施形態では、軽鎖CH領域は、カッパアイソタイプである配列番号17のアミノ酸配列である。
【0077】
本開示の特定の非限定的な実施形態では、抗GDF−8抗体は、配列番号58のアミノ酸配列による完全長抗体重鎖および配列番号59のアミノ酸配列による完全長抗体軽鎖を含む。前者の配列はVH0および配列番号57のアミノ酸配列の重鎖定常領域を含む一方で、後者の配列はVL0および配列番号17のアミノ酸配列の軽鎖カッパ定常領域を含む。別の例示的な非限定的な実施形態によれば、本開示の抗GDF−8抗体は、配列番号58および配列番号59のアミノ酸配列による2本の抗体重鎖および2本の抗体軽鎖からなるインタクトなヘテロ四量体抗体を含む(すなわちOGD1.0.0)。
【0078】
上述のように、さらに他の実施形態では、本開示の抗体には、VH0を含む抗GDF−8免疫グロブリンの抗原結合断片または誘導体が含まれる。断片または誘導体の特定の実施形態では、VH0をVL0またはVL1と対にし得る。本開示による断片または誘導体の非限定的な例には、VH0を含む、Fab’、F(ab’)
2、Fab、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、トリアボディ、およびサメ抗体もしくはラクダ化抗体またはナノボディなどの単一ドメイン抗体が含まれる。他の断片または誘導体も可能である。本開示によるIg誘導体の特定の非限定的な例には、VL0がVH0のアミノ末端側に直列に配置されているscFvである配列番号63が含まれる。別の非限定的な例は、V領域が逆転しており、VH0がVL0のアミノ末端側に直列に配置されているscFvである配列番号65である。
【0079】
本開示の抗体は、マウス抗GDF−8抗体の重鎖CDRをヒト生殖系列VH領域DP47上に移植した免疫グロブリンによって例示したが、本開示のヒト化抗GDF−8抗体はその可変領域の使用だけに限定されない。したがって、たとえば、抗体には、インタクトな免疫グロブリン、および、マウス重鎖CDR(すなわち配列番号10〜12または20〜22)をDP47とは異なるヒトVH領域上に移植し、生じるVH領域ポリペプチドにはKabat位置108にLeu(L)が含まれるように改変した、その断片もしくは誘導体も含まれる。他のヒト生殖系列VH領域の配列は、Genbank、またはVBASE(http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/)もしくはVBASE2(http://www.vbase2.org/)を含めた様々な公的に利用可能なインターネットデータベースを検索することによって見つけることができる。
【0080】
実施例10にさらに記載するように、OGD1.0.0と、GDF−8と結合したそれぞれ配列番号3および配列番号5のマウスVHおよびVL領域を含むキメラ抗GDF−8抗体との共結晶構造を解析し、抗原結合を担っている抗体中の接触残基を同定するために使用した。この情報を使用して、かつ実施例11にさらに記載するように、CDR中の非接触残基を、ヒト生殖系列可変配列中の同じ位置に存在する残基に一致するように突然変異させることによって、VHおよびVL領域をさらにヒト化した。
図1A中に示すように、さらなるヒト化可変重鎖領域はVH2、VH3、VH4およびVH5と呼ばれる。
図1B中に示すように、さらなるヒト化可変軽鎖領域はVL2、VL3、VL4およびVL5と呼ばれる。
【0081】
本開示の抗体の特定の実施形態では、ヒト化VH領域のうちのいずれかをヒト化VL領域のうちのいずれかと対にして、インタクトな抗GDF−8抗体、またはその抗原結合断片もしくは誘導体を生じ得る。たとえば、特定の実施形態では、VH0を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。他の実施形態では、VH1を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。他の実施形態では、VH2を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。他の実施形態では、VH3を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。他の実施形態では、VH4を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。特定の他の実施形態では、VH5を、VL領域であるVL0、VL1、VL2、VL3、VL4、またはVL5のうちのいずれかと対にし得る。
【0082】
上述のように、CDRおよびフレームワーク領域内の非接触残基の突然変異はGDF−8の結合特異性および/または親和性に最小限の影響しか与えないと予想される一方で、接触残基の突然変異はより大きな影響を与えると予想される。突然変異、特に接触残基のものは結合特異性および/または親和性を低下させ得るが、一部の事例では、突然変異がGDF−8に対する特異性および/または親和性を増加させることが観察されるであろう。特異性または親和性に対する任意の特定の突然変異の実際の効果は、当業者が精通した技法、たとえば表面プラズモン共鳴または他の技法を使用して決定することができる。
【0083】
前述の原理に鑑みて、特定の実施形態では、本開示の抗体の1つまたは複数のVHおよび/またはVL CDRまたはフレームワーク領域内の1つ、2つ、3つ、またはそれより多くの非接触残基を異なるアミノ酸残基で保存的または非保存的に置換しても、GDF−8に対する実質的な特異性および結合親和性を保持することができる。他の実施形態では、1つまたは複数のVHおよび/またはVL CDR内の1つ、2つ、3つまたはそれより多くの接触残基を保存的に置換しても、実質的なGDF−8の特異性および結合親和性を保持することができる。さらに他の実施形態では、非接触残基または接触残基の突然変異は、GDF−8に対する改善された特異性および/または親和性をもたらす。
【0084】
本開示の抗体の他の実施形態では、VHおよび/またはVL領域のアミノ酸配列は、本明細書中に具体的に列挙した配列から様々なパーセンテージで異なっていても、実質的なまたは改善さえされた、GDF−8に対する特異性および/または親和性を保持し得る。したがって、特定の実施形態では、本開示の抗GDF−8抗体のVH領域は、VH0、VH1、VH2、VH3、VH4、またはVH5のアミノ酸配列から80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%異なることができる。他の実施形態では、本開示の抗GDF−8抗体のVL領域は、VL0、VH1、VH2、VH3、VH4、またはVH5のアミノ酸配列から80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%異なることができる。さらに他の実施形態では、抗GDF−8抗体のVHおよびVL領域は、同様のパーセンテージで本明細書中に具体的に列挙したものと異なっている一方で、実質的なまたは改善さえされた、GDF−8の特異性および/または結合親和性を保持することができる。
【0085】
また、本開示の抗体は、その特性を変更する、またはその機能を改善させるために、誘導体化、共有的修飾、または他の分子とコンジュゲートさせることもできる。たとえば、いかなる様式でも限定するものではないが、誘導体化抗体には、たとえば、グリコシル化、フコシル化、アセチル化、peg化、リン酸化、アミド化、ホルミル化、既知の保護/遮断基による誘導体化、細胞リガンドまたは他のタンパク質との連結などによって修飾された抗体が含まれる。
【0086】
一部の実施形態では、本発明の抗GDF−8抗体の重鎖のC末端リシンを切断および除去し得る。したがって、たとえば、本開示の特定の実施形態では、抗GDF−8抗体は、C末端リシンを欠く配列番号19もしくは配列番号57の重鎖定常領域を含むか、または、C末端リシンを欠く配列番号58の抗体重鎖を含むことができる。
【0087】
抗GDF−8抗体の構造への特定の修飾は、それらが産生される細胞の種類の結果として天然に起こり得る。非限定的な例では、CHO細胞などの哺乳動物細胞中での抗体の合成は、抗体鎖中の1つまたは複数のアミノ酸でのグリコシル化をもたらし得る。抗GDF−8抗体の例示的な非限定的な実施形態では、重鎖中のアミノ酸N296がグリコシル化されている。他の部位でのグリコシル化も可能であり得る。当業者には理解されるように、一部の他の種類の細胞、たとえば細菌細胞中での抗体の産生は、グリコシル化されていない抗体鎖をもたらす場合がある。他の種類の抗体修飾は、天然に、または抗体精製中もしくはその後に行われる化学的もしくは酵素的修飾によって非天然に起こり得る。
【0088】
あるいは、可変または定常領域中の特定のアミノ酸を変更して、機能を変化または改善させることができる。非限定的な一例では、抗体のFc領域中のアミノ酸残基を変更して、FcRnとのその結合を増加させることによって抗体の血清半減期を増加させ得る。たとえば、参照により本明細書に組み込まれるWO2000/009560号を参照されたい。他の非限定的な例では、抗体のアミノ酸を変化させて、1つまたは複数のFc受容体、補体、またはIgの生物学的エフェクター機能を媒介する他の免疫受容体との結合を低下させることができる。別の非限定的な例では、CDR、フレームワーク領域または定常領域中のアミノ酸を変化させて、GDF−8の結合親和性を増加させ得るまたは免疫原性を低下させ得る。特定の非限定的な例では、本開示の抗体のVHまたはVL領域の特定のヒトフレームワーク残基を、それぞれ配列番号26および配列番号27のアミノ酸配列のように、そのマウス対応物へと変化させて戻し得る。
【0089】
他の実施形態では、抗体を検出可能な部分で標識し、検出することができ、これらはどちらも当業者が精通した方法に従って行う。そのような標識は、本開示の抗体と直接または間接的にコンジュゲートさせることができる。標識は、それ自体が直接検出可能であるか(たとえば、放射性核種もしくは蛍光標識)、または検出可能な分子(たとえば、基質が直接検出可能な生成物を生じることを触媒する酵素標識)を生成するその能力によって間接的に検出可能であることができる。検出可能な標識の例には、酵素(たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼなど)、補欠分子族(たとえばビオチンなど)、蛍光色素もしくは部分(たとえば、FITC、ローダミン、ランタニドリン光体)、ルミネセント部分、生物発光性部分、放射性核種(たとえば、
3H、
14C、
15N、
35S、
90Y、
99Tc、
111In、
125I、
131Iなど)、陽電子放射原子もしくはイオン、磁気原子もしくはイオン、常磁性金属原子もしくはイオン、または他の抗体によって特異的に結合されることができるペプチドエピトープが含まれる。一部の実施形態では、抗原結合部位との潜在的な立体障害を低下または防止するために、様々な長さのスペーサーを使用して標識を付着させ得る。
【0090】
本開示の抗体は、哺乳動物タンパク質の発現を維持することができる任意の細胞種から、培養物中または動物内で発現させることができる。非限定的な例には、ヒト細胞、マウス、ラットもしくは他のげっ歯類細胞、他の哺乳動物細胞、CHO細胞、酵母細胞、または他の真菌の細胞、植物細胞、もしくは細菌細胞が含まれる。Ig分子またはその断片もしくは誘導体をコードしているDNAを発現ベクター内にクローニングし、その後、細胞をそのようなベクターで一過的または安定に形質移入するために有用な技法は、当分野で周知である。抗体発現レベルを最大にするために培養条件を変更することができる。また、抗体を当業者が精通した技法を使用して動物内で発現させ、その後、乳または他の体液から精製することもできる。また、抗体は完全にまたは部分的に合成であってもよい。
【0091】
本開示の抗体は、高い親和性、たとえば、少なくとも約1×10
−6M、1×10
−7M、1×10
−8、1×10
−9、1×10
−10、1×10
−11Mまたはそれより高い平衡解離定数(K
D)でGDF−8と結合する。GDF−8に対する抗GDF−8抗体のK
Dは、当業者が精通した様々な方法に従って決定することができる。そのような技法の非限定的な例には、表面プラズモン共鳴(SPR)およびELISAが含まれる。当業者が精通しているように、結合活性効果により、2つ以上の抗原結合部位を有する抗GDF−8抗体の見かけの結合親和性は一価の抗原結合部位を有する抗体断片よりも高い場合がある。
【0092】
本開示の抗体はGDF−8に特異的であるが、そのような抗体は、認識されるエピトープまたは複数のエピトープに応じて、GDF−11として知られる密に関連する成長および分化因子とも高い親和性で結合できる場合がある。したがって、GDF−8に特異的な抗体は、GDF−11分子と結合することができる抗体を必ずしも排除しない。
【0093】
本明細書中で使用する中和抗GDF−8抗体とは、非特異的な対照抗体または他の適切な対照と比較してGDF−8の生物活性を低下させるものである。任意の特定の動作理論に束縛されることを望まずに、抗GDF−8抗体がGDF−8によって媒介される生物学的機能を中和し得る方法の少なくとも1つは、成熟GDF−8とその高親和性受容体、たとえばActRIIB、またはその低親和性受容体のうちの1つもしくは複数との結合を防止することである。しかし、抗GDF−8中和抗体がGDF−8生物活性を妨害し得る他の機構も可能である。
【0094】
本開示の中和抗体によって低下させ得る、GDF−8によって媒介される数々の生物活性が当分野で知られている。非限定的な例には、たとえばELISAに基づくアッセイを使用して測定することができる、GDF−8のActRIIBとの結合が含まれる。別の例には、たとえば、いわゆるCAGA要素を含めた形質移入したレポーター遺伝子を使用して検出することができる、GDF−8によるその細胞性シグナル伝達経路の活性化が含まれる。たとえば、参照により組み込まれるLeeら、Regulation of muscle growth by multiple ligands signaling through activin type II receptors、PNAS(2005)102:18117〜18122およびThiesら、GDF−8 Propeptide Binds to GDF−8 and Antagonizes Biological Activity by Inhibiting GDF−8 Receptor Binding、Growth Factors(2001)18:251〜59を参照されたい。さらに別の例には、GDF−8に媒介されるシグナル伝達を細胞表面のGDF−8受容体から核内へと運搬することを担っているSMADタンパク質のリン酸化が含まれる。たとえば参照により組み込まれるPhilipら、Regulation of GDF−8 signaling by the p38 MAPK、Cellular Signalling(2005)17:365〜375を参照されたい。SMADタンパク質のリン酸化は、たとえば、抗ホスホSMAD抗体を使用した定量的ウエスタンブロッティングで検出することができる。また、通常はGDF−8によって活性化または抑圧されている遺伝子の、下流遺伝子発現のモジュレーションも検出することができる。本発明の中和抗体を使用して低下させることができる、GDF−8に媒介される活性のさらに別の例は、筋肉量または筋力の負の調節。他の活性も可能である。
【0095】
本開示の中和抗体は、抗体や抗原の濃度および結合親和性、ならびに他のものなどの当業者が精通した変数に応じて、GDF−8によって媒介される生物活性を様々な度合まで低下させることができる。GDF−8と結合する抗体によって引き起こされるGDF−8に媒介される生物活性における、例示的な非限定的なパーセンテージ低下には、適切な対照と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、またはそれより高い低下が含まれる。
【0096】
抗GDF−8抗体によるGDF−8に媒介される生物活性の阻害は、選択されたどのようなアッセイ条件下でも、生物活性の50%を阻害することができるそのような抗体の濃度として好都合に表すことができる。この濃度はIC
50とも呼ばれる。特定の実施形態では、本開示の抗GDF−8抗体は、約500nM以下、250nM、100nM、75nM、50nM、40nM、30nM、20nM、10nM、5nM、1nM、0.5nM、0.1nM以下、またはそれ未満のIC
50値を有する。
【0097】
分泌リーダー配列
特定の実施形態によれば、抗体重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に、新しく合成されたタンパク質を分泌区画へと向かわせるアミノ末端分泌リーダーペプチドをコードしている配列を提供することができる。その後、翻訳後プロセッシングによりリーダーペプチドが除去された後に、成熟抗体が細胞から分泌される。本開示の抗体の特定の非限定的な実施形態では、VH0、VH1、VL0およびVL1領域に、19個のアミノ酸の長さの分泌リーダーペプチドを提供する。リーダー配列を含めたこれらのV領域に以下の配列識別番号を割り当てる:VH0(配列番号50)、VL0(配列番号52)、VH1(配列番号54)、およびVL1(配列番号56)。他の分泌リーダー配列も使用し得る。非限定的な例には、マウスVH領域の最初の19個のアミノ酸およびそのリーダー配列(配列番号29)、ならびにマウスVL領域の最初の20個のアミノ酸およびリーダー配列(配列番号31)が含まれる。
【0098】
抗GDF−8抗体の発現
実施例中にさらに詳細に記載するように、OGD1.0.0は、哺乳動物細胞においてOGD1.1.1よりも実質的に高いレベルで発現された。たとえば、OGD1.0.0およびOGD1.1.1を、一過的に形質移入したCOS細胞中で発現させた場合、OGD1.0.0はOGD1.1.1よりも約12倍高いレベルで発現された。同様に、これらの抗体を安定に形質移入したCHO細胞中で発現させた場合、OGD1.0.0はOGD1.1.1よりも約6倍高いレベルで発現された。また、実施例中に記載するように、発現レベルの相違は、抗体中にVH1の代わりにVH0が存在することに主に起因していると考えられる。
【0099】
したがって、VH0を含む本開示の抗体は、同様の条件下で発現させた場合に、VH1を含む同様の抗体よりも高い発現を示す。たとえば、特定の実施形態では、VH0を含む抗体の発現レベルは、同様の条件下で発現させたVH1を含有する同様の抗体のそれよりも、少なくとも約1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、20倍、30倍またはそれより多い量で高い。抗体間の発現レベルの相違の程度は、たとえば、抗体を発現させるために使用した宿主細胞の種類、たとえばCOS細胞もしくはCHO細胞、または、宿主細胞を一過的にもしくは安定に形質移入したかに依存し得る。VH0またはVH1可変重鎖領域を含有する抗体の比較発現レベルは、他の成長条件を変化させることに伴って変動する場合があり、当業者が精通した方法を使用して決定することができる。
【0100】
他の実施形態では、VH0抗体発現のレベルは、同様の条件下で発現させたVH1を含有する同様の抗体のそれよりも、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、75%、100%、150%、200%、250%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、1100%、1200%、1300%、1400%、1500%、1600%、1700%、1800%、1900%、2000%、3000%、4000%、5000%またはそれより多い量で高い。本明細書中に列挙したパーセンテージ間などの、発現レベルの他の相違も可能である。
【0101】
抗体発現レベルは、当業者が精通した技法を使用して測定することができる。非限定的な一例では、抗体発現レベルは、定量的ELISAアッセイを使用して測定することができる。当業者の知識に従って他の定量的アッセイも使用し得る。
【0102】
抗GDF−8抗体をコードしている核酸分子
また、本開示は、抗GDF−8抗体をコードしている核酸分子またはポリヌクレオチドも提供する。核酸は、DNA、またはDNA核酸塩基配列中でUがTを置き換えるRNAを含み得る。また、核酸は、非標準核酸塩基(たとえば5メチルシトシン)または修飾された主鎖(たとえばホスホロチオエート)などの修飾も含有し得る。他の修飾が可能である。核酸は一本鎖または二本鎖であり得る。核酸は、細胞または全生物などのように天然源から入手し得る。天然源の核酸の非限定的な例には、ゲノムDNA、増幅したプラスミドDNAまたはmRNAが含まれる。あるいは、核酸を合成し得る。合成核酸の非限定的な例には、cDNA、PCR生成物、または核酸合成機で合成した核酸が含まれる。
【0103】
特定の実施形態では、本開示の核酸は、VH0を含む抗体重鎖またはその断片もしくは誘導体のアミノ酸配列をコードしている。他の実施形態では、核酸は、VL0を含む抗体軽鎖またはその誘導体もしくは断片のアミノ酸配列をコードしている。さらに他の実施形態では、VH0およびVL0またはVL1などのVL領域をコードしている核酸配列は、異なるまたは同じ単離ポリヌクレオチド中に存在する。
【0104】
本開示は、抗GDF−8抗体またはその断片もしくは誘導体をコードしている具体的な核酸配列を提供するが、当業者には、遺伝暗号の縮重が原因でそのような配列は単に例示的なものであり、限定的であると解釈されるべきでないことが理解されよう。したがって、マウス抗GDF−8抗体のVHおよびVL領域をコードしている例示的な核酸配列は、それぞれ配列番号2および配列番号4である。VH1をコードしている例示的な核酸配列は配列番号6および配列番号47である。VL1をコードしている例示的な核酸配列は配列番号8および配列番号48である。VH0をコードしている例示的な核酸配列は配列番号43である。VL0をコードしている例示的な核酸配列は配列番号45である。2個のヒンジ領域突然変異を含有するIgG1のCH領域を含む、配列番号19のアミノ酸配列をコードしている例示的な核酸配列は、配列番号18である。ヒトカッパCL領域を含む配列番号17のアミノ酸配列をコードしている例示的な核酸配列は、配列番号16である。リーダー配列によって先行される、マウス抗GDF−8抗体のVHおよびVL領域をコードしている例示的な核酸配列は、それぞれ配列番号28および配列番号30である。リーダー配列によって先行される、VH0、VL0、VH1およびVL1領域のアミノ酸配列をコードしている例示的な核酸配列は、それぞれ配列番号49、配列番号51、配列番号53、および配列番号55である。
【0105】
特定の実施形態によれば、核酸分子は、以下の配列番号のうちのいずれかのアミノ酸をコードしている核酸配列を含む:7、9、10、11、12、13、14、15、17、19、20、21、22、23、24、25、26、27、36、38、40、42、44、46、50、52、54、56、57、58、59、63または65。他の実施形態では、核酸分子は、配列番号7、9、10、11、12、13、14、15、17、19、20、21、22、23、24、25、26、27、36、38、40、42、44、46、50、52、54、56、57、58、59、63または65と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列をコードしている核酸配列を含む。さらに他の実施形態では、核酸分子は、VH0(配列番号44)と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であり、Kabat位置108がロイシンであるアミノ酸配列をコードしている核酸配列を含む。
【0106】
特定の実施形態によれば、核酸分子は、以下の配列番号のうちのいずれかの核酸配列を含む:6、8、16、18、35、37、39、41、43、45、47、48、49、51、53、55、62または64。他の実施形態では、核酸分子は、配列番号6、8、16、18、35、37、39、41、43、45、47、48、49、51、53、55、62または64の核酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一である核酸配列を含む。さらに他の実施形態では、核酸分子は、高ストリンジェンシー条件下で配列番号6、8、16、18、35、37、39、41、43、45、47、48、49、51、53、55、62または64の核酸配列とハイブリダイズする核酸配列を含む。
【0107】
高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、ハイブリダイズさせる核酸を、1×SSC中で65℃、または1×SSCおよび50%のホルムアミド中で42℃にてインキュベーションし、次いで0.3×SSC中で65℃にて洗浄することである。ストリンジェンシー条件のさらなる例は、参照により本明細書に組み込まれるSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第9章および第11章、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor(1989)中に提供されている。
【0108】
当業者には理解されるように、本開示の核酸のうちの特定のものをインフレームで一緒にライゲーションさせて、複合核酸配列を作製し得る。たとえば、VH0をコードしている核酸を、CH領域をコードしている核酸とインフレームでライゲーションさせて、完全重鎖をコードしている複合核酸を作製することができる。非限定的な例では、VH0をコードしている配列番号43の核酸配列を、エフェクター機能に影響を与える3個の突然変異を含有するヒトIgG1重鎖の定常部分である、配列番号57のアミノ酸配列をコードしている核酸配列とインフレームでライゲーションさせることができる。軽鎖を作製するための同様のライゲーションが可能であり、本明細書中に記載の核酸の他の複合体を作製するための他のライゲーションも可能である。
【0109】
ベクター
当分野の技術者に周知の技法を使用して、本開示の核酸をベクター内に取り込ませ得る。特定の実施形態では、ベクターには、プラスミド、一般的には細菌プラスミド、真核エピソーム、酵母人工染色体およびウイルスゲノムが含まれる。例示的な非限定的なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、ならびにカリフラワーモザイクウイルスおよびタバコモザイクウイルスなどの植物ウイルスが含まれる。他の種類のベクターが可能である。一部の実施形態では、ベクターは、適切な宿主中で自律複製が可能である。他の実施形態では、ベクターは、宿主中において染色体外で維持されるか、または宿主のゲノム内に組み込まれることができ、ベクターが宿主のゲノムと共に複製されることが可能となる。遺伝子ならびに遺伝子の転写および翻訳を維持するために十分な制御配列を含むベクターは発現ベクターと呼ばれる。本開示によるベクターは、当分野の技術者の知識に従って、細菌細胞、他の原核細胞、酵母細胞、他の真菌細胞、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、CHO細胞、およびヒト細胞などを含めた、Ig遺伝子の発現を支援することができる任意の細胞腫中で機能するように選択または設計し得る。
【0110】
ベクターは、1つまたは複数の制御配列を任意選択で含有し得る。複製起点などの特定の制御配列が複製を許可する。プロモーター、エンハンサー、および転写終結部位などの他の制御配列が転写を制御またはモジュレートする。プロモーターまたはエンハンサーの非限定的な例は、レトロウイルスLTR、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス(たとえばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、またはポリオーマウイルスに由来するものである。さらなる例には、組織特異的なプロモーターおよびエンハンサー、構成的活性型のプロモーターおよびエンハンサー、誘導性のプロモーターおよびエンハンサー、Ig遺伝子プロモーターおよびエンハンサーならびにアクチンプロモーターおよびエンハンサーが含まれる。他のプロモーターおよびエンハンサーも可能である。
【0111】
スプライシングおよびポリアデニル化シグナルまたはmRNAの安定性を増加もしくは減少させるシグナルなどの特定の制御配列は、転写後RNAプロセッシングを制御またはモジュレートする。さらに他の制御配列は、タンパク質翻訳(翻訳開始配列(たとえばコザックコンセンサス配列)など)、翻訳後プロセッシング(宿主細胞から出ていく遺伝子産物の分泌を指示するシグナルペプチド配列など)、またはタンパク質の安定性を制御またはモジュレートする。シグナルペプチド配列は、免疫グロブリン、またはIgスーパーファミリーの一部ではない分泌タンパク質に由来することができる。他の制御配列も可能である。
【0112】
また、ベクターには、ベクターを取り込んだ宿主細胞の選択を可能にする選択マーカー遺伝子も含めることができる。非限定的な例には、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(DHFR)(メトトレキサートを使用した選択を可能にする、dhfr
−宿主細胞で使用するため)、neo遺伝子(G418または同様の薬物を用いた選択を可能にする)、hph遺伝子(ハイグロマイシンBを用いた選択を可能にする)、およびグルタミン酸合成酵素遺伝子(メチオニンスルホキシミンを用いた選択を可能にする)などの薬物耐性表現型を与える選択マーカー遺伝子が含まれる。
【0113】
一部の実施形態では、ベクターは、単一のIg重鎖もしくは軽鎖またはその抗原結合断片をコードしているが、同じベクター中で両方の鎖はコードしていない核酸配列を含むことができる。典型的には、そのようなベクターからのインタクトな抗体の発現は、重鎖および軽鎖を含む別々のベクターを同じ細胞内に導入することを含む。他の実施形態では、ベクターは、重鎖および軽鎖Ig鎖またはその抗原結合断片の両方を同じベクター中でコードしている核酸配列を含むことができる。
【0114】
本開示の核酸分子、またはそのような核酸を含むベクターを、抗体発現を支援することができる1つまたは複数の種類の宿主細胞内に導入し得る。核酸またはベクターを適切な宿主細胞内に導入する方法は当業者に周知である。非限定的な例には、標的宿主細胞の一過性および安定形質移入、形質転換、形質導入およびウイルス感染症が含まれる。他の例には、デキストラン媒介性形質移入、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介性形質移入、プロトプラスト融合、電気穿孔、ポリヌクレオチド(複数可)のリポソーム中へのカプセル封入、およびDNAの核内への直接微量注入が含まれる。例示的な非限定的な方法は、たとえば、参照により組み込まれる米国特許第4,399,216号、第4,912,040号、第4,740,461号、および第4,959,455号に記載されている。また、植物細胞を形質転換させる方法も当分野で周知であり、たとえば、アグロバクテリウム(agrobacterium)媒介性形質転換、微粒子銃形質転換、直接注入、電気穿孔およびウイルス形質転換が含まれる。細菌および酵母細胞を形質転換させる方法も当分野で周知である。
【0115】
宿主細胞
特定の実施形態では、本開示の抗体またはその断片もしくは誘導体をコードしている核酸を、発現を目的として適切な宿主細胞内に導入する。抗体を発現することができる細胞には、細菌、真菌、植物、動物、および哺乳動物細胞が含まれる。当業者の知識に従って他の種類の細胞も使用し得る。
【0116】
抗体発現のための宿主として適切な哺乳動物細胞系は当分野で知られている。例示的な非限定的な例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0細胞、SP2細胞、HEK−293T細胞、NIH−3T3細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎細胞(たとえば、COS、CV−1またはVero細胞)、ヒト肝細胞癌細胞(たとえばHepG2)、A549細胞、A431細胞、HeLa細胞、L細胞、BHK21細胞、HL−60細胞、U937細胞、HaK細胞、ジャーカット細胞などを含めた、American Type Culture Collection(ATCC)または他の供給源から入手可能な特定の不死化細胞系が含まれる。抗体発現のための宿主として適切な他の動物、昆虫、または哺乳動物細胞が可能である。
【0117】
他の実施形態では、昆虫、植物、細菌または真菌からの細胞系を使用し得る。例示的な非限定的な昆虫細胞には、しばしばバキュロウイルスベクター発現系と併せて使用されるSf9またはSf21細胞が含まれる。例示的な非限定的な植物細胞には、タバコ(nicotiana)、シロイヌナズナ(arabidopsis)、ウキクサ(duckweed)、トウモロコシ、コムギ、およびジャガイモ種のものが含まれる。例示的な非限定的な細菌には、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、およびストレプトマイセス(Streptomyces)株が含まれる。例示的な非限定的な真菌には、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)酵母株、およびカンジダ(Candida)酵母株が含まれる。他の昆虫、植物、細菌および真菌細胞が可能である。
【0118】
様々な種類の宿主細胞を抗体発現に寄与する条件下で成長および維持する方法は当分野で周知である。抗体発現が起こった後、そのような発現させた抗体を、その後に当業者の知識に従って宿主細胞から精製することができる。たとえば、分泌された抗体を、宿主細胞を成長させた培地から精製することができる。あるいは、一部の実施形態では、特に宿主細胞が細胞壁を有する場合は、宿主細胞を機械的、化学的または酵素的に破壊して開放して、細胞内に隔離された発現抗体を放出させることができる。抗体精製の例示的な非限定的な方法には、イオン交換クロマトグラフィー、塩析、およびゲル濾過が含まれる。他の実施形態では、親和性クロマトグラフィーを使用し得る。たとえば、ヒト定常領域の配列を認識するマウス抗体を精製カラムに固定することができる。あるいは、親和性タグと密に結合する特定の抗体または他の分子を用いた精製のために、抗体を、エピトープタグ、またはマルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、およびチオレドキシンなどのより大きな親和性タグと融合させて発現させることができる。それ以降、エピトープまたは親和性タグを、当業者が精通した技法を使用して切断し、抗体を、本明細書中に開示したものなどの他の技法を使用して精製することができる。抗体を培地および宿主細胞から精製する他の技法も可能である。また、場合によっては、抗体を適正製造基準または他の規制上の要件に従ってさらに精製するために、抗体を追加の処理ステップに供することもできる。適切な精製およびそれらを実施するためのステップは当業者の知識範囲内にある。
【0119】
トランスジェニック動物および植物
また、本開示の抗体は、遺伝子改変した非ヒト動物または植物中でも産生させ得る。そのような生物における抗体の発現は構成的または誘導性であり得る。その後、そのような生物中で発現された抗体を、当業者に知られている技法を使用して単離することができる。抗体およびその抗原結合断片をトランスジェニック非ヒト生物中で発現させる方法は当分野で周知である。非限定的な例では、本開示の抗体は、ヤギ、ウシ、または他の非ヒト哺乳動物の乳中で産生させ、それから回収することができる。たとえば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,827,690号、第5,756,687号、第5,750,172号、および第5,741,957号を参照されたい。抗体が生産され得るトランスジェニック哺乳動物の他の非限定的な例は、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、またはウマである。抗体を単離し得る体液のさらなる非限定的な例は血液である。他の体液も可能である。また、本開示の抗体は、植物中で産生させ、それから回収してもよい。たとえば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,417,429号、第6,046,037号、および第5,959,177号を参照されたい。
【0120】
医薬組成物
本開示の治療的および予防的方法で使用するためには、本明細書中に開示した抗体を組成物として製剤化することができる。任意選択で、組成物は、GDF−8媒介性障害に対して治療上または予防上有効である、本明細書中に開示したものとは異なるGDF−8エピトープと結合する抗体を含めた、1つまたは複数の追加の薬剤を含むことができる。組成物は、通常は、一般に薬学的に許容できる担体が含まれる無菌的な医薬組成物の一部として供給される。この組成物は、それを患者に投与するための所望の方法に応じて、任意の適切な形態であることができる。
【0121】
本開示の抗体は、様々な経路によって、典型的には非経口的に、たとえば、皮下、静脈内、腹腔内または筋肉内注射を介して、対象に投与することができる。投与は、1回もしくは複数回のボーラス注射として、または1回もしくは複数回の注入として達成することができる。当分野の技術者の知識に従って他の投与経路も可能である。任意の所定の事例における投与に最も適切な経路は、投与する具体的な組成物、および処置する障害、年齢または性別などの対象の特徴に依存し得る。
【0122】
医薬組成物は、1用量あたり事前に決定した量の抗体を含有する単位剤形で好都合に提示することができる。そのような単位は、たとえば、それだけには限定されないが、5mg〜5g、10mg〜1g、または20〜50mgを含有することができる。本開示において使用するための薬学的に許容できる担体は、たとえば投与経路に応じて、様々な形態をとることができる。
【0123】
本開示の医薬組成物は、所望の度合の純度を有する抗体を、任意選択の、当分野において典型的に用いられる薬学的に許容できる担体、賦形剤または安定化剤(すべて本明細書中で「担体」と呼ぶ)、すなわち、緩衝剤、安定化剤、保存剤、等張化剤、非イオン性洗剤、抗酸化剤、および他の種々雑多な添加剤と混合することによって、貯蔵のために凍結乾燥製剤または水溶液として調製することができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版(Osol編、1980)を参照されたい。そのような添加剤は、用いる用量および濃度においてレシピエントに対して無毒性でなければならない。
【0124】
緩衝剤は、pHを生理的条件に近似の範囲に維持することを助ける。これらは、約2mM〜約50mMの範囲の濃度で存在することができる。本開示において使用するための適切な緩衝剤には、クエン酸塩緩衝液(たとえば、クエン酸一ナトリウム−クエン酸二ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸三ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸一ナトリウム混合物など)、コハク酸塩緩衝液(たとえば、コハク酸−コハク酸一ナトリウム混合物、コハク酸−水酸化ナトリウム混合物、コハク酸−コハク酸二ナトリウム混合物など)、酒石酸塩緩衝液(たとえば、酒石酸−酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸−酒石酸カリウム混合物、酒石酸−水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(たとえば、フマル酸−フマル酸一ナトリウム混合物、フマル酸−フマル酸二ナトリウム混合物、フマル酸一ナトリウム−フマル酸二ナトリウム混合物など)、グルコン酸塩緩衝液(たとえば、グルコン酸−グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸−水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸−グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸塩緩衝液(たとえば、シュウ酸−シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸−水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸−シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸塩緩衝液(たとえば、乳酸−乳酸ナトリウム混合物、乳酸−水酸化ナトリウム混合物、乳酸−乳酸カリウム混合物など)、および酢酸塩緩衝液(たとえば、酢酸−酢酸ナトリウム混合物、酢酸−水酸化ナトリウム混合物など)等の、有機および無機酸のどちらも、ならびにその塩が含まれる。さらに、リン酸塩緩衝液、ヒスチジン緩衝液、およびトリスなどのトリメチルアミン塩を使用することができる。
【0125】
保存剤は、微生物の成長を遅らせるために加えることができ、0.2%〜4%(w/v)の範囲の量で加えることができる。本開示において使用するための適切な保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンズアルコニウムハロゲン化物(たとえば、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、ならびに3−ペンタノールが含まれる。時折「安定化剤」としても知られる等張化剤は、本開示の液体組成物の等張性を確実にするために加えることができ、多価(polhydric)糖アルコール、たとえば、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトールなどの三価以上の糖アルコールが含まれる。安定化剤とは、充填剤から、治療剤を可溶化させるまたは変性もしくは容器壁への付着の防止を助ける添加剤までにわたって機能することができる、広義の分類の賦形剤をいう。典型的な安定化剤は、多価糖アルコール(上記に列挙)、アルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L−ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなどのアミノ酸、イノシトールなどのシクリトールを含めた、ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、グリセロールなどの有機糖または糖アルコール、ポリエチレングリコール、アミノ酸ポリマー、尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、a−モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウムなどの硫黄含有還元剤、低分子量ポリペプチド(たとえば10個以下の残基のペプチド)、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースなどの単糖、ラクトース、マルトース、スクロースなどの二糖、ラフィノースなどの三糖、ならびにデキストランなどの多糖であることができる。安定化剤は、活性タンパク質の1重量部あたり0.1〜10,000重量部の範囲で存在することができる。
【0126】
非イオン性界面活性剤または洗剤(「湿潤剤」としても知られる)は、抗体および含め得る任意の他の治療剤を、撹拌誘導性の凝集に対抗して可溶化することを助けるために加えることができ、これは、タンパク質の変性を引き起こさずに組成物が剪断表面応力に曝されることも可能にする。適切な非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、プルロニックポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(TWEEN(商標)−20、TWEEN(商標)−80など)が含まれる。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml〜約1.0mg/ml、たとえば約0.07mg/ml〜約0.2mg/mlの範囲で存在することができる。
【0127】
さらなる種々雑多な賦形剤には、キレート化剤(たとえばEDTA)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、および共溶媒が含まれることができる。
【0128】
例示的な非限定的な実施形態では、本開示の抗体は、20mMのL−ヒスチジン、85mg/mlのスクロース、0.2mg/mlのPS−80、0.05mg/mlのEDTA、pH5.8を含む溶液中で製剤化する。他の実施形態では、この製剤中の抗体の濃度は100mg/mlである。さらに他の実施形態では、この製剤中の抗体を凍結乾燥する。
【0129】
医薬キット
特定の実施形態では、本発明は、臨床家または他の者が使用するための医薬キットを提供する。医薬キットとは、本開示の抗GDF−8抗体(たとえば凍結乾燥形態または水溶液のどちらかとして)と、以下のうちの1つまたは複数とを含むパッケージである:本開示中の他の箇所に記載されている少なくとも第2の治療剤、抗体を投与するための装置、たとえば針および/またはシリンジ、ならびに抗体が凍結乾燥または濃縮形態である場合は、抗体を再懸濁または希釈するための薬学的グレードの水または緩衝液。また、キットには、抗体組成物を調製するため、および/または組成物を患者に投与するための指示も含まれ得る。
【0130】
抗GDF−8抗体組成物のそれぞれの単位用量は別々に包装することができ、キットは1つまたは複数の単位用量(たとえば、2単位用量、3単位用量、4単位用量、5単位用量、7単位用量、8単位用量、10単位用量、またはそれより多く)を含有することができる。一実施形態では、1つまたは複数の単位用量はシリンジ中にそれぞれ格納されており、別の実施形態では、1つまたは複数の単位用量は、I.V.ラインに接続するために適したバッグまたは同様の容器中にそれぞれ含有されている。
【0131】
処置および予防の方法
本開示は、GDF−8活性を低下させることが治療上の利点を直接または間接的にもたらす、状態および障害を処置および予防する方法を提供する。そのような方法は、対象に、有効量の抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することを含む。これらの実施形態のうちの特定のものでは、抗体は、OGD1.0.0、またはそのGDF−8結合断片、部分、一部分もしくは誘導体である。
【0132】
抗GDF−8抗体組成物を投与することができる対象は、非霊長類(たとえば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)または霊長類(たとえば、サル、チンパンジー、類人猿もしくはヒト)などの哺乳動物であり得る。対象は成人患者または小児患者などのヒトであることができる。
【0133】
本開示の抗体組成物で処置することができる状態および障害は、少なくとも部分的にGDF−8によって媒介されるもの、または対象においてGDF−8活性を低下させることが治療上の利点を与えるであろうことを示唆する科学的な理論的根拠が存在する場合である。
【0134】
治療上の利点は、具体的な状態または障害に部分的に依存するが、対象においてGDF−8活性を低下させることが、状態もしくは障害の症状、兆候もしくは重症度のいかなる寛解をももたらす場合、または、そのような症状、兆候もしくは重症度の進行性の悪化を停止もしくは遅延させる場合に、治療上の利点が存在する。GDF−8活性を低下させることが対象の平均余命、快適さまたは生活の質を増加させる場合に、治療上の利点がさらに存在する。また、GDF−8活性を低下させることが、対象の1つもしくは複数の身体的もしくは生理的機能の増悪を改善、すなわち停止もしくは遅延させる場合、またはそのような機能を反映する試験における対象の成績を改善させる場合にも、治療上の利点が存在する。
【0135】
治療上の利点は、対象が特定の課題を行うのを観察すること、対象に気分に関する質問を尋ねること、または、ベッドサイドで対象に対して、もしくは実験室において対象から得た試料に対して1つもしくは複数の試験を行うことによって推論することができる。また、治療上の利点は、GDF−8阻害のマーカーによっても証明し得る。限定ではなく、例として、処置下の対象からの筋肉の生検を行い、GDF−8によって刺激されるシグナル伝達経路の下方制御に関連するマーカーの存在または非存在、たとえば、リン酸化されたSMAD2またはSMAD3タンパク質のレベルの低下について試験し得る。本開示の抗体を含む組成物を用いた処置下の対象において治療上の利点を検出するために適切な他の試験は、当分野の技術者の知識範囲内にある。処置または予防している状態または障害の完全な治癒または逆転が望ましい一方で、治療上の利点が存在するために必須ではない。
【0136】
特定の実施形態では、本開示の抗体を含む組成物を使用して、骨格筋の量および/もしくは筋力の喪失によって特徴づけられた、またはそのような筋肉量および/もしくは筋力の増加が治療上の利点を与える、状態または障害を処置または予防することができる。これらの実施形態のうちの特定のものでは、抗体は、OGD1.0.0、またはそのGDF−8結合断片もしくは誘導体である。
【0137】
本明細書中に開示した抗体を投与することによって処置または予防可能である、筋肉量および/または筋力の減弱に関連する状態または障害には、それだけには限定されないが、加齢関連の筋肉量または筋力の低下、虚弱、筋肉減少症、ならびに、傷害、除神経、または無重力環境への持続的曝露の後などの、筋萎縮、不動または廃用によって引き起こされる筋肉量または筋力の低下が含まれる。他の実施形態では、処置または予防することができる状態または障害には、特に高齢者または股関節骨折もしくは他の骨の骨折などの骨折を起こしやすい他の者における骨折、あるいは、関節置換を安定化させることが含まれる。一部の他の実施形態では、処置または予防することができる状態または障害は、原疾患プロセスに起因し得るものを含めた筋消耗症候群である。筋消耗症候群の非限定的な例には、癌、無食欲症または他の種類の栄養失調によって引き起こされるものなどの悪液質、ならびに、AIDS、敗血症、火傷、慢性腎不全、鬱血性心不全(CHF)、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)によって引き起こされる筋消耗が含まれる。
【0138】
限定ではなく、例として、本開示の抗体を含む組成物を投与した対象における治療上の利点は、全般的または特定の筋肉の筋肉量または筋力の増加によって実証することができる。抗GDF−8抗体を用いた処置によってその筋肉量および/または筋力を増加させることができる筋肉の非限定的な例には骨格筋および心筋が含まれる。他の例には、横隔膜および肋間筋を含めた呼吸を制御する筋肉、ならびに胸鎖乳突筋、斜角筋を含めた吸気の副筋などが含まれる。骨格筋のさらに他の例には、腓腹筋、後脛骨筋、ヒラメ筋、前脛骨筋、長筋、短筋、大殿筋、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、腸腰筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、肩甲挙筋、僧帽筋、腹直筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋、大胸筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、上腕筋、円回内筋、腕橈骨筋、菱形筋、三角筋、および広背筋が含まれる。本開示の抗GDF−8抗体を用いた処置によってその筋肉量および/または筋力を増加させることができる他の骨格筋も可能である。
【0139】
筋肉量または筋力の増加は、力に抵抗するもしくは重りを持ち上げる対象の能力を観察することなどによって直接、または、MRI、CTもしくは二重エネルギーX線吸収測定(DEXA)を使用して対象の身体を走査することによって間接的に評価することができる。他の技法も可能である。
【0140】
あるいは、治療上の利点は、そうでなければ進行的に悪化する症状の重症度の低下から推論することができる。また、利点は、筋電図検査などの筋肉機能の生理的試験、生検を行った筋肉構造の組織病理学的試験、および損傷した筋肉によって放出される酵素である血清クレアチンキナーゼの存在などの生化学的試験を使用して実証することもできる。治療上の利点を検出するために有用な他の筋肉構造および機能の試験も可能である。
【0141】
筋肉量および/または筋力に関連する他の実施形態では、本開示は、そのような処置または予防を必要としている患者に、抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することによって、筋ジストロフィー(「MD」)を処置および予防する方法を提供する。この方法の一部の実施形態では、抗体はOGD1.0.0またはその抗GDF−8結合断片もしくは誘導体である。特定の実施形態によれば、対象は筋ジストロフィーを患っているヒト小児患者であり、他の実施形態では、対象は筋ジストロフィーに罹患しているヒト成人患者である。
【0142】
当分野で知られているように、遺伝子病変の性質または疾患の原因となる病変、および根底にある遺伝的欠陥から生じる表現型が異なる、様々な種類の筋ジストロフィーが存在しており。本開示の抗体を含む組成物の投与によって処置または予防し得る筋ジストロフィーの種類の非限定的な例には、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)(仮性肥大型MDとしても知られる)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、エメリ−ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD)、肢帯筋ジストロフィー(LGMD)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHまたはFSHD)(ランドジー−デジェリーヌ型MDとしても知られる)、筋緊張性ジストロフィー(MMD)(DMまたはシュタイネルト病としても知られる)、眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位型筋ジストロフィー(DD)(三好型MDとしても知られる)、および先天性筋ジストロフィー(CMD)が含まれる。
【0143】
上述した筋肉量および/または筋力の改善を評価するための技法に加えて、MDに罹患している対象に本開示の抗体を含む組成物を投与すること治療上の利点は、6分間歩行試験(「6MWT」)を使用して定量することができる。たとえば、参照により本明細書に組み込まれるMcDonaldら、The 6−minute walk test as a new outcome measure in Duchenne muscular dystrophy、Muscle Nerve(2010)41:500〜510を参照されたい。
【0144】
6MWTでは、対象を、事前に設定されたコースに沿って6分間以内にどれだけ遠くまで歩行できるかを決定するために試験する。典型的には、対象を、ベースラインを確立するために処置を開始する前に試験し、それ以降は処置が進行するにつれて一定間隔で試験する。治療上の利点は、6MWTにおけるMD対象の成績が一定である、もしくは処置に伴って実際に改善される場合、または、対象の成績が平均の非処置の対象のように急速に下降しない場合に見られる。6MWTの成績の例示的な非限定的な改善には、非処置またはプラセボで処置した対照と比較して約4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはそれより高いパーセンテージ改善が含まれる。また、6MWTは、MD以外の歩行運動に影響を与える状態または障害について処置中の対象において治療上の利点を検出するためにも使用し得る。
【0145】
他の実施形態では、本開示は、そのような処置または予防を必要としている患者に、抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することによって、運動ニューロン疾患を処置および予防する方法を提供する。この方法の一部の実施形態では、抗体はOGD1.0.0またはその抗GDF−8結合断片もしくは誘導体である。本開示の抗体を含む組成物の投与によって処置または予防し得る運動ニューロン疾患の種類の非限定的な例には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルーゲーリック病としても知られる)、1型脊髄性筋萎縮症(SMA1)(ウェルドニッヒ−ホフマン病としても知られる)、2型脊髄性筋萎縮症(SMA2)、3型脊髄性筋萎縮症(SMA3)(クーゲルベルク−ヴェランダー病としても知られる)、および脊髄延髄性筋萎縮(SBMA)(ケネディ病としても知られる)が含まれる。
【0146】
以前の研究では、マウス抗GDF−8抗体が、ヒトALSの小動物モデルであるSOD1マウスおよびラットにおいて筋肉量および筋力を増加させるために有効であったことが実証されている。参照により本明細書に組み込まれるWO2007/024535号およびHolzbauerら、Myostatin inhibition slows muscle atrophy in rodent models of amyotrophic lateral sclerosis、Neurobiology of Disease(2006)23:697〜707を参照されたい。報告されているように、マウス抗体を用いた処置は、PBSで処置した対照と比較して、SOD1マウスおよびラットの横隔膜および骨格筋において筋肉量を増加させた。同様に、抗体処置は、PBSを受けた対照と比較して、SOD1マウスにおいて腓腹筋および横隔膜の筋萎縮を軽減させた。抗体処置の栄養性効果は、疾患プロセスの末期とは対照的に主に初期中に主に明白であったが、横隔膜萎縮の阻害はどちらの時期中にも明白であった。また、抗体処置は、四肢筋力、ならびにSOD1マウスおよびラットにおける全体的な体重も増加させることが観察されたが、抗体はビヒクル単独で処置した対照動物と比較して生存を延長させなかった。OGD1.0.0などの本開示のヒト化抗GDF−8抗体は上述のマウス抗体と同じ抗原結合決定因子を共有するため、これらがヒトにおいてALSを処置または予防するためにも有効であろうことが予想される。
【0147】
また、筋肉の量、機能および/または筋力に影響を与える、筋肉、中枢神経系および末梢神経系の他の先天性または後天性の疾患および障害も、それを必要としている対象に、本開示の抗体を含む組成物を投与することによって処置または予防し得る。
【0148】
また、本開示は、代謝障害の処置を必要としている患者に、抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することによる、代謝障害を処置および予防する方法も提供する。これらの実施形態のうちの特定のものでは、抗体は、OGD1.0.0、またはそのGDF−8結合断片もしくは誘導体である。
【0149】
本開示の抗体を投与することによって処置または予防することができる代謝障害の非限定的な例には、2型真性糖尿病、X症候群などの代謝症候群、インスリン抵抗性、および耐糖能異常が含まれる。
【0150】
他の実施形態では、本開示は、そのような障害の処置を必要としている患者に、抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することによる、脂肪組織障害を処置および予防する方法を提供する。これらの実施形態のうちの特定のものでは、抗体は、OGD1.0.0、またはそのGDF−8結合断片もしくは誘導体である。
【0151】
本開示の抗体を投与することによって処置または予防することができる脂肪組織障害の非限定的な例には、肥満ならびに特定の対象の性別、年齢および身長には正常よりも高い体重指数(BMI)が含まれる。
【0152】
他の実施形態では、本開示は、そのような障害の処置を必要としている患者に、抗GDF−8抗体を含む組成物を投与することによる、骨減少障害を処置および予防する方法を提供する。これらの実施形態のうちの特定のものでは、抗体は、OGD1.0.0、またはそのGDF−8結合断片もしくは誘導体である。
【0153】
本開示の抗体を投与することによって処置または予防することができる骨減少障害の非限定的な例には、骨粗鬆症、ホルモン関連骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、および骨粗鬆症関連の骨折が含まれる。
【0154】
組合せ療法
本開示のこの方法の特定の実施形態によれば、抗GDF−8抗体は、単独療法として組成物中で、または少なくとも第2の治療剤との組合せ療法として投与することができる。すべての事例ではないが、典型的には、第2の治療剤は、抗GDF−8抗体によって標的とされるものと同じ状態または障害を処置または予防するために選択する。他の実施形態では、しかし、第2の薬剤は、異なる状態または障害を処置または予防するために選択することができる。組合せ療法において使用するための抗体および第2の治療剤の用量は、有効性を最大限にし、副作用を最小限にするために、当分野の技術者の知識に従って選択される。
【0155】
本開示の抗GDF−8抗体組成物は、第2の治療剤と同じまたは異なる投与様式で対象に投与することができる。抗GDF−8抗体および第2の治療剤の化学的および物理的特徴に応じて、これらを同じ組成物中で一緒に組み合わせてもよい。代替実施形態では、これらを別々の組成物として投与する。抗体および第2の治療剤の組成物は、本開示によるキット中に好都合に含めることができる。
【0156】
組合せ療法として投与する場合、抗体および第2の治療剤は、同時に、逐次に、または別個に投与し得る。
【0157】
同時投与は、2つ以上の薬剤を同時に投与した場合に起こり、それぞれの投与は重複するが、異なる時点で開始または終了する場合でもそうである。逐次投与は、2つ以上の薬剤を同じ日に、たとえば同じ外来日中であるが同時ではないように対象に投与した場合に起こる。
【0158】
逐次投与は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間またはそれより長い間隔で起こり得る。抗GDF−8抗体組成物を最初に投与し、続いて第2の薬剤を投与し得るか、またはその逆も可能である。
【0159】
別個投与は、薬剤を異なる日に対象に投与した場合に起こる。薬剤の別個投与間の例示的な間隔は、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間もしくは1カ月間またはそれより長くてもよい。逐次投与と同様、抗GDF−8抗体組成物の投与は、第2の薬剤の別個の投与の前または後であることができる。
【0160】
本開示の特定の他の実施形態では、抗GDF−8抗体組成物および第2の治療剤は、逐次または別個に投与するかにかかわらず、交互のパターンで繰り返して投与することができる。
【0161】
代謝障害を処置または予防する方法では、本開示の抗GDF−8抗体を、そのような障害を処置または予防するために有効な第2の薬剤と組み合わせることができる。この目的のために有効な第2の薬剤の非限定的な例には、メトホルミン、スルホニル尿素、インスリン、プラムリンチド、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオン、エクセナチドなどのGLP−1類似体、ならびにビルダグリプチンなどのDPP−IV阻害剤が含まれる。
【0162】
骨減少障害を処置または予防する方法では、本開示の抗GDF−8抗体を、そのような障害を処置または予防するために有効な第2の薬剤と組み合わせることができる。この目的のために有効な第2の薬剤の非限定的な例には、アレンドロン酸塩およびリセドロン酸塩などのビスホスホネート、カルシトニン、ラロキシフェン、ならびにエストロゲンまたは副甲状腺ホルモン(PTH)などのホルモン剤が含まれる。
【0163】
筋ジストロフィーを処置または予防する方法では、本開示の抗GDF−8抗体を、コルチコステロイドなどの、筋ジストロフィーを処置または予防するために有効な第2の薬剤と組み合わせることができる。筋ジストロフィーを処置または予防するために有効な他の薬剤は当分野で知られている。筋ジストロフィーを処置するために有効なコルチコステロイドの非限定的な例には、メチルプレドニゾロン、デフラザコート、ベータメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、コルチゾール、デキサメタゾン、フルチカゾン、プレドニゾン、モメタゾン、トリアムシノロン、およびその誘導体が含まれる。他の実施形態では、抗GDF−8抗体は、DMD患者、特に高齢のDMD患者においてしばしば起こる心筋症を処置するための薬剤と共に投与することができる。そのような薬剤には、必ずしもそれだけには限定されないが、ベータアドレナリン作動性遮断剤およびアンジオテンシン変換酵素の阻害剤が含まれる。
【0164】
ALSを処置または予防する方法では、本開示の抗GDF−8抗体を、必ずしもそれだけには限定されないが、リルゾール、タラムパネル、グリコピロレート、ベンズトロピン、スコポラミン、アトロピン、塩酸トリヘキシフェニジル、アミトリプチリン、フルボキサミン、バクロフェン、チザニジン、ダントロレン、ジアゼパム、キニーネ、フェニトイン、ベンゾジアゼピン、ガバペンチン、抗攣縮剤、抗鬱剤、またはモルヒネもしくは他の鎮痛剤を含めた、ALSを処置または予防するために有効な第2の薬剤と組み合わせることができる。
【0165】
さらに他の実施形態によれば、本開示の抗GDF−8抗体を含む組成物は、限定ではなく、例として、運動、理学療法、呼吸療法、呼吸支援、心臓病治療法、および栄養サプリメントを含めた非薬物ベースの療法と共に投与することができる。
【0166】
有効用量
上述のように、本開示の抗GDF−8抗体を含む組成物は、特定の状態または障害の処置または予防を必要としている対象に、所望の治療上の利点を少なくとも部分的に達成するために有効な用量で投与し得る。
【0167】
すべてのGDF−8と結合することは、治療上の有効性を達成するために必ずしも必要ではない。むしろ、血液または血清などの体液内、あるいは筋肉または他の体組織もしくは器官などの体組織内の成熟した活性GDF−8の濃度を低下させることも有効であり得る。
【0168】
当分野の技術者の知識に従って、投与の事前に決定された時間後での目的の組織または体液中の活性GDF−8濃度を、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%、または約5%〜10%、約10%〜45%、約15%〜20%、約20%〜25%、約25%〜30%、約30%〜35%、約35%〜40%、約40%〜45%、約45%〜50%、約50%〜55%、約55%〜60%、約60%〜65%、約65%〜70%、約70%〜75%、約75%〜80%、約80%〜85%、約85%〜90%、約90%〜95%、約95%〜99%、または前述の値のうちのいずれかの間の範囲の、活性GDF−8濃度のパーセンテージ低下だけ低下させるために、抗GDF−8抗体組成物の用量を患者において滴定することができる。
【0169】
対象に投与する抗GDF−8抗体の量は、処置または予防する状態または障害、対象の大きさおよび重量、投与の形態、経路および部位、治療レジメン(たとえば第2の治療剤を使用するかどうか)、特定の対象の年齢および状態、処置開始前に前記対象の目的の組織または体液中で検出される活性GDF−8のレベル、ならびに抗体組成物の効果に対する対象の応答性または感度を含めた様々な要因に依存する。適切な用量は、当業者が容易に決定することができる。最終的には、臨床家または同様の介護提供者が使用する適切な用量を決定する。この用量は必要なだけ頻繁に繰り返すことができる。副作用が発生した場合は、通常の臨床診療に従って用量の量および/または頻度を変更または減らすことができる。適正な用量および治療レジメンは、当業者に知られている方法を使用して治療の進行をモニタリングすることによって確立することができる。
【0170】
有効用量は、in vitroアッセイから最初に推定することができる。たとえば、動物で使用するための初期用量は、in vitroで測定して、GDF−8に対する抗体の結合親和性以上の、抗GDF−8抗体の循環血液または血清濃度を達成するように製剤化し得る。その特定の抗体の生体利用度を考慮してそのような循環血液または血清濃度を達成するための用量を計算することは、当業者の能力範囲内に十分ある。手引きには、読者は「Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics」のPart 1:General Principles、第11版、Hardman,J.G.ら編、McGraw−Hill Professionalおよびその中で引用されている参考文献を参照されたい。また、初期用量は動物モデルなどのin vivoデータからも推定することができる。当業者は、そのような情報を常法に従って適応させて、ヒト投与に適切な用量を決定することができる。
【0171】
特定の実施形態では、抗体組成物を投与する前の数日間または数週間のうちに、血清、筋肉または他の目的の体液もしくは組織中の活性GDF−8濃度を数回測定して、飽和させる抗GDF−8抗体の量、すなわち、本質的にすべての活性GDF−8と結合するために十分であろう量を計算することによって、個々の対象について用量を決定し得る。当業者には理解されるように、血清、筋肉または他の箇所における所定量のGDF−8の飽和を達成するために必要な任意の特定の抗体の量は、部分的に、GDF−8に対する特定の抗体の親和性に依存する。必要な場合は特定の抗体の薬物動態学的特性および生体利用度を考慮して、特定の抗GDF−8抗体の飽和量を計算する方法は、当分野で周知である。飽和を確実にするために、計算された飽和量よりも多い量を投与し得る、たとえば、計算された飽和量よりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、またはさらには10倍多い量を投与し得る。
【0172】
抗GDF−8抗体組成物の有効用量は、たとえば上述の処置または予防する状態または障害などの要因に応じて、単回(たとえばボーラス)投与、複数回投与もしくは連続(たとえば注入)投与あたり約0.01mg/kg〜約250mg/kgの範囲、またはそれ内の任意の有効な範囲もしくは値であることができる。
【0173】
特定の実施形態では、それぞれの用量は、約0.1mg/kg〜約0.5mg/kg、約0.25mg/kg〜約0.75mg/kg、約0.5mg/kg〜約1mg/kg、約2mg/kg、約1.5mg/kg〜約2.5mg/kg、約2mg/kg〜約3mg/kg、約2.5mg/kg〜約3.5mg/kg、約3mg/kg〜約4mg/kg、約3.5mg/kg〜約4.5mg/kg、約4mg/kg〜約5mg/kg、約5mg/kg〜約7mg/kg、約6mg/kg〜約8mg/kg、約7mg/kg〜約9mg/kg、約8mg/kg〜約10mg/kg、約10mg/kg〜約15mg/kg、約12.5mg/kg〜約17.5mg/kg、約15mg/kg〜約20mg/kg、約17.5mg/kg〜約22.5mg/kg、約20mg/kg〜約25mg/kg、約22.5mg/kg〜約27.5mg/kg、約25mg/kg〜約30mg/kg、約30mg/kg〜約40mg/kg、約35mg/kg〜約45mg/kg、約40mg/kg〜約50mg/kg、約45mg/kg〜約55mg/kg、約50mg/kg〜約60mg/kg、約55mg/kg〜約65mg/kg、約60mg/kg〜約70mg/kg、約65mg/kg〜約75mg/kg、約70mg/kg〜約80mg/kg、約75mg/kg〜約85mg/kg、約80mg/kg〜約90mg/kg、約85mg/kg〜約95mg/kg、約90mg/kg〜約100mg/kg、約95mg/kg〜約105mg/kg、約100mg/kg〜約150mg/kg、約125mg/kg〜約175mg/kg、約150mg/kg〜約200mg/kg、約175mg/kg〜約225mg/kg、約200mg/kg〜約250mg/kgの範囲であることができる。他の用量範囲も可能である。
【0174】
投与の量、頻度、および持続期間は、対象の年齢、重量、および病状などの様々な要因に依存する。したがって、非限定的な例では、投与の治療レジメンは、1日間以上、2日間以上、3日間以上、4日間以上、5日間以上、6日間以上、1週間以上、2週間から無期限、2週間〜6カ月間、3カ月間〜5年間、6カ月間〜1または2年間、8カ月間〜18カ月間など続くことができる。任意選択で、治療レジメンは、反復投与、たとえば、1日に2回、1日に1回、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、週に1回、2週間に1回、または月に1回を提供する。反復投与は同じ用量または異なる用量であることができる。投与は、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、またはそれより多く繰り返すことができる。治療有効量の抗GDF−8抗体組成物は、単回用量として、または治療レジメンにわたって、たとえば、1週間、2週間、3週間、1カ月、3カ月間、6カ月間、1年、もしくはそれより長くにわたって投与することができる。特定の対象において有効用量の抗GDF−8抗体組成物を構成するものは、対象の状態が変化するにつれて、または他の健康問題が生じることに伴って、経時的に変動し得る。
【実施例】
【0175】
(実施例1)
OGD1.0.0およびOGD1.1.1の一過性発現分析
インタクトなヘテロ四量体OGD1.1.1およびOGD1.0.0の一過性発現をCOS−1 M6細胞中で試験し、OGD1.0.0が実質的により高いレベルで発現されたことが実証された。
【0176】
手短に述べると、VH0およびVH1をコードしているDNA(それぞれ配列番号49および53)を哺乳動物IgG発現ベクター内にクローニングして、VH領域が、エフェクター機能を抑止する3個の突然変異(配列番号57)が含まれる、ヒトIgG1の定常重鎖領域をコードしている核酸配列とそれぞれインフレームで接合されて、VH0またはVH1が含まれる完全長抗体重鎖を発現するようにした。同様に、VL0およびVL1をコードしているDNA(それぞれ配列番号51および55)を哺乳動物IgG発現ベクター内にクローニングして、VL領域が、配列番号17のヒトカッパ定常軽鎖領域をコードしている核酸配列とそれぞれインフレームで接合されて、VL0またはVL1が含まれる完全長抗体軽鎖を発現するようにした。
【0177】
発現ベクターを作製した後、標準の技法を使用してmaxiprep DNAを調製した。細胞を100mmの組織培養皿上に蒔き、その後、重鎖および軽鎖発現ベクターを用いて一過的に同時形質移入した(すなわち、VH0およびVL0を1つのプレート中で組み合わせ、VH1およびVL1を第2のプレート中で組み合わせた)。TransIT(Mirus MIR2306)形質移入試薬(40μl)を2mlのOptiMEM増殖培地+グルタミン(2mMの最終濃度)に室温で加え、渦撹拌によって混合し、その後、室温で15分間インキュベーションした。Maxiprep DNA(重鎖および軽鎖DNAをそれぞれ8μg)を混合物に加え、室温で15分間インキュベーションした。その後、形質移入溶液を、8mlの増殖培地(DMEM、HIFBS、pen、strep、グルタミン)を含有する組織培養皿に加えた。24時間、37℃、10%のCO
2でインキュベーションした後、細胞をR1CD1無血清増殖培地で洗浄し、その後、48時間、37℃、10%のCO
2で、10mlのR1CD1(pen、strep、グルタミンを添加)中で成長させた。馴化培地を培地から除去し、遠心分離して細片をペレット化し、上清を新しいチューブへと取り出した。
【0178】
一過的に形質移入したCOS−1細胞によって産生された抗体の濃度を、全ヒトIgG−Fc特異的ELISAを使用して定量した。手短に述べると、100μlのPBS中の抗体(1μg/ml)を各ウェルに加え、終夜、室温でインキュベーションすることによって、平底ELISAプレートをヤギ抗ヒトIgG(Pierce 31125)でコーティングした。プレートを100μl/ウェルのPBS中の0.02%カゼイン溶液で3〜24時間、室温で遮断し、その後、洗浄した。標準および試料をアッセイ緩衝液(PBS中に0.5%のBSA、0.02%のTween−20)で連続希釈し、ELISAプレート(100μl/ウェル)に分注し、3〜24時間、室温でインキュベーションした。洗浄後、アッセイ緩衝液で1:5000に希釈したヤギ抗ヒトIgG(Pierce 31413)を分注し(100μl/ウェル)、プレートを15分間、室温でインキュベーションした。洗浄後、BioFX TMB(TMBW−0100−01)(100μl/ウェル)を加えることによってプレートを展開させた。0.18NのH
2SO
4(100μl/ウェル)で反応を停止させた後、Molecular Devices vMaxプレートリーダーを使用してプレートを450nmで読み取った。標準の希釈系列から決定された曲線の直線範囲を使用して試料濃度を計算した。
【0179】
一過性形質移入実験の結果を以下の表中に示し、POIは、タンパク質A精製後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による目的ピークを表す。POIは、高分子量凝集体または分解生成物とは対照的に、細胞によって発現されたインタクトな完全長の抗体の割合を表す。
【0180】
予想外に、OGD1.0.0抗体は、一過性形質移入に同じ条件下でOGD1.1.1抗体よりもはるかに高い(すなわち10倍よりも高い)レベルで発現された。重要なことに、POI値によって示されるように、観察された大きく増加した発現レベルは、高分子量複合体または分解生成物とは対照的に、インタクトな完全長の抗体とほぼ完全に関連している。この発現の相違は、OGD1.0.0とOGD1.1.1との間には、VH領域のKabat位置108(すなわち、配列番号44および7の残基番号111)で1個のアミノの相違ならびにVL領域のKabat位置100(すなわち、配列番号46および9の残基番号100)で1個のアミノ酸の相違しか存在しないという事実に鑑みて、さらにより驚くべきである。
図1Aおよび
図1Bを参照されたい。
【0181】
上述のように、これらの構造的および機能的な相違は、VH1およびVL1と比較してそれぞれVH0およびVL0中で様々なJセグメントを使用することに起因し得る。以下に説明するように、最も重要な相違はVH領域への変化であると考えられる。注目すべきことに、これは、ヒト化抗体を構築するために使用したJセグメントの選択が、本明細書中で観察された劇的に増加した程度は言うまでもなく、少しでも抗体発現レベルに影響を与えることができるという、最初の実証であると考えられる。これはOGD1.0.0を生成するために必要な商品原価を顕著に低下させると予想されるため、この発見は特に重要である。この発見なしでは、この抗体を市場に出すために必要な量で生成するには経済的ではなく、それを用いて治療することで利益を受け得る患者集団への不利益となるであろう。
【0182】
【表3】
【0183】
(実施例2)
OGD1.0.0およびOGD1.1.1の安定発現分析
OGD1.0.0およびOGD1.1.1の安定発現をCHO−DUKX細胞中で試験した。手短に述べると、細胞を80%のコンフルエンシーまで成長させ、その後、リポフェクタミン形質移入試薬を使用して、以前の実施例中に記載したそれぞれ25μgの重鎖および軽鎖発現ベクター(合計50μg)(すなわち、一組の細胞にはVH0およびVL0、別の細胞の組にはVH1およびVL1)を用いて同時形質移入した。形質移入後、安定プールが確立されている間は3〜4日毎に、消費された培地を新鮮なR1CD1培地+10%のFBSで交換した。
【0184】
安定な形質移入体が確立された後、付着細胞として無血清R5CD1培地中で成長させた場合に、細胞が抗GDF−8抗体を発現する能力を試験した。これらの条件下では、OGD1.0.0を発現する細胞は96時間の成長後に47.3mg/Lの抗体を発現した一方で、OGD1.1.1を発現する細胞は72時間の成長後に41mg/Lの抗体を発現した。1mLのタンパク質Aカラムを使用して抗体を精製し、その後、HPLCを使用して濃度を定量した。
【0185】
付着細胞を無血清培地中での懸濁成長に適応させた後、OGD1.0.0およびOGD1.1.1抗体の発現を再度決定した。AS1無血清培地に3.0×10
5個の生細胞/mLを播種し、37℃でインキュベーションした。4日目にpHを7.3に調節し、供給濃縮物を加え、インキュベーション温度を31℃まで下げ、さらに3日間成長させた。OGD1.0.0発現細胞は100Lの培養体積で成長させた一方で、OGD1.1.1発現細胞は50mLの培養体積で成長させた。すべての他の成長条件は細胞間で同じであった。7日目に、タンパク質A精製およびHPLC定量によって決定して、OGD1.0.0を発現する細胞は66.12mg/Lの抗体を発現した一方で、OGD1.1.1を発現する細胞は10.6mg/Lの抗体を発現した。細胞を100Lの培養にて31℃で5日間を含めた9日間成長させることによって、OGD1.0.0細胞を使用した実験を繰り返した際、抗体濃度は207.2mg/Lまで増加した。OGD1.0.0発現細胞を25Lの培養にて31℃で7日間を含めて11日間成長させた別の実験では、抗体濃度は145mg/Lであった。OGD1.1.1発現細胞を無血清R5CD1培地中で50mLの培養にて31℃で3日間を含めて7日間成長させた別個の実験では、抗体濃度は39.3mg/Lであった。
【0186】
安定形質移入実験の結果を以下の表中に示し、POIは、タンパク質A精製後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による目的ピークを表す。OGD1.0.0およびOGD1.1.1を一過的に形質移入したCOS−1細胞中で発現させた場合に得られた結果と一貫して、OGD1.0.0抗体の発現レベルは、安定に形質移入したCHO細胞中で、同様の条件下でOGD1.1.1の発現よりも実質的に高かった。この驚くべき結果は、上記の一過性形質移入実験で観察された発現レベルの増加と一貫している。また、この結果は、接着であるか懸濁液中であるかの発現細胞を培養する様式、および細胞種は、OGD1.1.1と比較して増強されたOGD1.0.0抗体の発現に実質的な影響を与えないことも示唆している。
【0187】
【表4】
【0188】
(実施例3)
OGD1.0.1およびOGD1.1.0の一過性発現分析
重鎖および軽鎖可変領域のそれぞれ中のJセグメントを変化させたため、観察された著しくより高いOGD1.0.0の発現レベルを引き起こすためにはどちらかの変化が単独で十分であり得るのか、または場合によっては両方の変化が増加した抗体発現に寄与したのかが不明確であった。
【0189】
このことを研究するために、本出願者らは上述の一過性形質移入実験を繰り返したが、さらに、1つのプレート中でVH0およびVL1構築体を組み合わせ、別のプレート中でVH1およびVL0構築体を組み合わせ、その後、ELISAを使用して抗体発現レベルを定量した。以下の表中に示す実験の結果は、VH領域中のJH3 JセグメントをJH4で置換することが、本出願者らによって観察された大きく増加した抗体発現を与えるために十分であることを実証している。逆に、カッパJセグメントを変化させること(すなわちJK1をJK4で置換)は、発現レベルに実質的な影響を与えるとは考えられなかった。
【0190】
【表5】
【0191】
(実施例4)
抗GDF−8抗体によるGDF−8結合
親マウス抗体、キメラマウス−ヒト抗体(マウス可変ドメインとヒト定常ドメイン)、ならびにヒト化抗体OGD1.0.0およびOGD1.1.1によるGDF−8結合を、定量的ELISAおよび表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して分析した。ELISA実験では、GDF−8とその同族の高親和性受容体ActRIIBとの結合を阻害する抗体の能力を、IC
50値を計算することによって決定した。SPR分析を使用して見かけのK
D値を計算した。結果を表6中に示す。
【0192】
ELISAには、ActRIIB−Fc融合タンパク質(0.2Mの炭酸ナトリウム緩衝液中に1μg/ml)を96ウェル平底アッセイプレート上に終夜、4℃でコーティングした。その後、コーティングしたプレートを、PBS 0.1%のTween中の1mg/mlのBSA(200μl/ウェル)を用いて1時間の室温または終夜の4℃で遮断し、その後、洗浄した。様々な抗体濃度を10ng/mlのビオチンとコンジュゲートさせたGDF−8と組み合わせ、45分間、室温でインキュベーションした。インキュベーション後、試験溶液を遮断したELISAプレートに加え(100μl/ウェル)、1時間、室温でさらにインキュベーションした。ウェルを洗浄した後、対照と比較した、固定したActRIIB−Fcと結合したGDF−8の量を、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(30分間のインキュベーション)およびTMBで検出した。450nmでの比色測定をマイクロプレートリーダーで記録した。マウスおよびキメラ抗体を使用した実験をそれぞれ4回繰り返し、平均をとった。
【0193】
SPRは、BIACORE 3000(GE Healthcare)機器を使用して25℃で行った。マウス抗体は抗マウスIgG抗体を使用して捕捉した一方で、ヒト化抗体はタンパク質Aを使用して捕捉した。アミンカップリング化学を使用して、タンパク質AをCM5センサーチップの4つすべてのフローセル上に固定した。0.2MのN−エチル−N−ジメチル−アミノ−プロピル−カルボジイミド(EDC)および50mMのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の溶液を7分間注入することによって表面を活性化させた。タンパク質Aを10mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.0で50μg/mlに希釈し、3分間、10μl/分の流速で注入した。その後、表面を1Mのエタノールアミン(ETH)で7分間遮断した。タンパク質Aの最終固定レベルは1000〜1200応答ユニット(RU)であった。表面を平衡化させるために、固定手順に次いでランニング緩衝液(0.01MのHEPES、pH7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%のP20)を用いて数回洗浄した。抗体をHBS−EP緩衝液で0.25μg/mlに希釈した。それぞれの抗体の溶液(5μl)をタンパク質Aでコーティングしたフローセル2、3または4上に10μl/分の速度で注入し、約200RUの捕捉された抗体が得られた。GDF−8滴定系列(4.0nMから0.125nMまでの2倍希釈)を0.01Mの酢酸ナトリウム、pH5.0、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%のP20中で調製した。後者の溶液もランニング緩衝液として使用した。GDF−8溶液を捕捉された抗体上に2分間、50μl/分の流速で注入し、30分間解離させた。注入および捕捉の各サイクル後、センサーチップの表面を、30μlの10mMのNaPO4、0.5MのNaCl、pH2.5を用いて50μl/分の流速で再生した。BIAevaluationソフトウェア(バージョン4.1.1、GE Healthcare)をデータ分析に使用した。緩衝液および参照表面が寄与するシグナルを減算することによってデータを二重参照した。ラングミュアー1:1モデルを使用してセンサーグラムデータを包括的に当てはめ、K
D値を計算した。OGD1.0.0を使用した実験をそれぞれ3回繰り返し、平均をとった。
【0194】
ELISAを使用して決定されたIC
50値は試験した抗体型間で比較できるほどであった。より正確なSPRアッセイでは、OGD1.0.0は、GDF−8に対してOGD1.1.1よりも実質的に高い結合親和性を有していた。
【0195】
【表6】
【0196】
(実施例5)
OGD1.0.0抗体のGDF−8の中和能力
GDF−8に媒介されるシグナル伝達を中和する抗GDF−8抗体の能力を、レポーター遺伝子アッセイを使用して確認した。pGL3(CAGA)
12と呼ばれるレポーター構築体は、ルシフェラーゼレポーターベクターpGL3(Promega)中で、12個のCAGAボックスをTATAボックスおよびアデノウイルス主要後期プロモーターからの転写開始部位の上流に配置することによって構築した。PAI−1遺伝子のプロモーター中に見つかるCAGAボックスは、GDF−8にも応答するTGFβ応答要素である。ヒト横紋筋肉腫細胞系A204(ATCC HTB−82)をpGL3(CAGA)
12で一過的に形質移入し、96ウェルプレート中、2mMのグルタミン、100U/mlのストレプトマイシン、100μg/mlのペニシリンおよび10%のウシ胎児血清を添加したMcCoyの5A培地中で16時間培養した。抗体を、GDF−8(10ng/ml)と共に1mg/mlのBSAを添加した培地中で1時間、室温でプレインキュベーションした。その後、細胞を、試験試料ならびにGDF−8を含まない対照およびGDF−8(10ng/ml)が含まれ抗体を加えない対照と共に、6時間、37℃で処理した。ルシフェラーゼ活性はルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を使用して測定した。マウスおよびキメラ抗体を使用した実験をそれぞれ2回繰り返し、平均をとった一方で、OGD1.0.0を実験はそれぞれ3回繰り返し、平均をとった。レポーター遺伝子アッセイを使用して決定されたEC
50値は試験した抗体型間で比較できるほどであった。
【0197】
【表7】
【0198】
(実施例6)
OGD1.0.0抗体はマウスにおいて筋肉量、筋力および除脂肪質量を増加させる
8週齢の雄のC57Bl/6マウスを週に1回で2週間、OGD1.0.0(10mg/kg)またはビヒクル対照(PBS)を用いて腹腔内(IP)で投薬した。合計8匹のマウスを各群に使用した。14日目に、完全除脂肪体重を小動物NMRイメージングによって決定した。除脂肪質量を決定した後、動物を安楽死させ、腓腹筋、四頭筋、および長趾伸筋(extensor digitalis longus)(EDL)を解剖し、秤量した。また、EDL筋肉は、ex vivoで力を生じるその能力についても試験した。
【0199】
2週間の処置の後、対照動物の除脂肪質量は1.66±0.56g増加した一方で、OGD1.0.0で処置した動物の除脂肪質量は3.36±0.62g増加し、これは対照を超えて102%の増加を表す。
【0200】
図2Aおよび
図2B中に示すように、OGD1.0.0抗体で処置した動物において、四頭筋量は対照と比較して14.8%増加し、腓腹筋量は対象と比較して10.3%増加し、EDL筋量は対象と比較して10.8%増加した。
図3中に示すように、OGD1.0.0抗体で処置した動物では、EDL筋肉によって発揮された総強縮力は、ビヒクル対照で処置したマウスからのEDL筋肉によって生じられた力と比較して14.8%増加した。データは平均±SEMとして示す。
【0201】
また、OGD1.0.0処置に応答した、全除脂肪体重ならびに四頭筋および腓腹筋の筋肉量の用量応答性も決定した。これらの実験では、12週齢の雌のC57Bl/6マウスを群に分け(n=6匹)、週に1回、ビヒクルまたは0.3、1、3、10、もしくは30mg/kgのOGD1.0.0を用いて4週間処置した。処置期間の7、14、21および28日目に、NMRイメージングを使用して除脂肪質量を決定した。研究期間の終わりに、試験動物を安楽死させた後、四頭筋および腓腹筋を解剖し、秤量した。
図4Aおよび
図4B中に示すように、四頭筋および腓腹筋の筋肉量は、約10mg/kgまで、上昇する抗体用量に伴って増加した。同様に、
図5Aおよび
図5B中に示すように、全除脂肪体重は、約10mg/kgまで、上昇する抗体用量に伴って増加した。データは平均±SEMとして示す。
【0202】
(実施例7)
OGD1.0.0抗体はmdxマウスにおいて筋肉量および除脂肪質量を増加させる
X連鎖ジストロフィン遺伝子(Dmd)のmdx突然変異はC57BL/10ScSnマウス中で自発的に生じ、エクソン内の遺伝子位置3185でグルタミンコドンを終止コドンへと変換する点突然変異を引き起こし、ジストロフィンタンパク質の未熟な終了をもたらす。その結果、mdxマウスは機能的なジストロフィンを欠き、ヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィーの小動物モデルとして役割を果たす。約3週間から開始されて、一部の明白な筋力低下を伴った筋肉壊死が発生する。骨格四肢筋は持続性かつ進行性の変性および壊死によって特徴づけられるが、これは、衛星細胞および筋肉肥厚によって活性化される再生応答によって相殺される。mdx突然変異体の筋肉は弾性の全体的な低下を有しており、それにより、これらは、延長活性化が原因の傷害をより受けやすくなる。突然変異マウスの脚筋は、最初は正常に発生するが、再生された筋管の、速線維および遅線維種の両方への分化は顕著に阻害される。mdxマウスの比較的穏やかな表現型は、部分的に、ジストロフィン関連タンパク質ユートロフィン補償機能に起因する場合があり、これは、成体mdx突然変異体における再生中の筋線維で高度にアップレギュレーションされている。四肢筋とは対照的に、mdxマウスの横隔膜筋は顕著な再生期を受けず、連続的なジストロフィーが年齢と共にこれらの筋肉を弱らせる。特異的攣縮力、特異的強縮力および最大力はすべて、mdx突然変異体の横隔膜において低下している。
【0203】
8週齢の雄のmdxおよび対照C57Bl/6マウスを週に1回で8週間、OGD1.0.0(10mg/kg)またはビヒクル対照(PBS)を用いて腹腔内(IP)で投薬した。これらの実験では、10匹のmdxマウスを抗体で処置し、8匹にビヒクル対照を投与し、それぞれ6匹のC57Bl/6マウスを抗体またはPBSで処置した。処置期間の終わりに、完全除脂肪体重、握力、および筋肉量を測定した。完全除脂肪体重は小動物NMRイメージングによって決定した。握力は、試験動物をワイヤーグリッド上に置き、すべての肢でメッシュを掴ませ、その後、尾を引っ張って、動物がその掴みを離す際の最大ピーク力を測定することによって試験した。動物1匹あたりのデータを3〜5回の試験から平均した。除脂肪体重および握力を測定した後、マウスを安楽死させ、四頭筋および腓腹筋を解剖し、秤量した。
【0204】
図6A中に示すように、OGD1.0.0抗体を用いた処置は、mdxマウスにおける除脂肪質量を、PBSで処置したmdxマウスにおける平均4.83±0.4gと比較して、平均7.28±0.4g増加させた。差異はp<0.05と統計的に有意であった。したがって、除脂肪質量は、8週間の研究中に、mdxマウスにおいて、ビヒクルで処置した対照を超えて50%±8.2%増加した。
図6B中に示すように、抗体処置は、mdxマウスにおいて、ビヒクルで処置した対照と比較して握力も増加させた。差異はp<0.05と統計的に有意であった。
【0205】
図7A中に示すように、抗体処置は、mdxおよびC57Bl/6マウスにおける腓腹筋量および四頭筋量を、PBSで処置した同じ種類のマウスと比較して増加させた。増加は統計的に有意であった(mdxの四頭筋および腓腹筋ではそれぞれp=0.005およびp=0.002、C57Bl/6の四頭筋および腓腹筋ではそれぞれp=0.001およびp=0.003)。
図7B中に示すように、抗体で処置したmdxマウスからの腓腹筋量および四頭筋量は、ビヒクルで処置した対照マウスと比較してそれぞれ12.2%および12.1%増加した。また、C57Bl/6マウスからの同じ種類の筋肉の質量も、抗体で処置した後に、ビヒクルで処置した対照と比較して15.2%および12.8%増加した(示さず)。
【0206】
(実施例8)
OGD1.0.0抗体は非ヒト霊長類において筋肉体積および除脂肪質量を増加させる
カニクイザルにおける除脂肪体重および筋肉体積に対するOGD1.0.0抗体投与の効果を調査する2つの研究を設計し、実施した。
【0207】
それぞれの研究は8週間持続し、その間、週に1回、IV投与によって動物に抗体を投薬し、正の窒素バランスを確実にするために過剰な食糧を提供した。第1の研究では、3匹の雄および3匹の雌の対象のそれぞれに、PBSビヒクルまたは3.0mg/kg、10mg/kg、および30mg/kgの用量のOGD1.0.0抗体を投与した。最初の処置の前、ならびにその後は4週目および8週目に、動物を麻酔し、その後、二重エネルギーX線吸収測定(DEXA)、コンピュータX線断層撮影(CT)および磁気共鳴画像法(MRI)を使用してイメージングして、除脂肪質量および脂肪含有量を含めた体組成を検出および測定した。その後、研究1からの対象動物を、安楽死させ、検死した。第2の研究では、雄の対象のみを使用し、ビヒクル単独(n=5匹)または10mg/kgおよび30mg/kgの用量のOGD1.0.0抗体(それぞれn=5匹およびn=3匹の対象)を与えた。対象動物を第1の研究と同様に8週間でイメージングした。それ以降、動物を補強食餌で維持し、12、17および26週間目に再度イメージングした。
【0208】
両研究からのDEXAによって測定した除脂肪体重の8週間のデータを組み合わせ、分析した。結果を
図8中に示し、これは、OGD1.0.0抗体を用いた8週間の処置の後に全除脂肪質量および脚除脂肪質量の用量応答性の増加が存在していたことを実証している。データは平均±SEMとして表す。研究に含められた対象の数は、ビヒクルのみではn=11匹、3mg/kgの抗体ではn=6匹、10mg/kgでは、n=10匹、30mg/kgではn=8匹であった。ビヒクルで処置した対照を超える全除脂肪体重および脚除脂肪質量の増加は、試験したすべて抗体用量において統計的に有意であった(p<0.05)。さらに、10mg/kgを超える、30mg/kgで処置した対象における脚除脂肪質量の増加も、統計的有意性に達することが見出された(p<0.05)。
【0209】
興味深いことに、
図9中に示すように、第2の研究において10mg/kgおよび30mg/kgのOGD1.0.0抗体で処置した対象に共通した除脂肪体重の増加は、7週間目の最後の抗体用量に続く数週間の間持続した。データは、それぞれの時点での、PBSビヒクルと比較した差異として示す。より高用量での対照に対する増加は、示したすべての週においてp<0.05と統計的に有意であった。より低用量での増加は、4および8週目にp<0.09と統計的に有意であった。
【0210】
腰椎L3〜L5の上の脊柱の背側に位置する軸上筋肉の体積に対するOGD1.0.0抗体処置の効果をCTスキャンによって測定した。
図10Aおよび
図10B中に示すように、軸上筋肉の体積は、10mg/kg(n=5匹)および30mg/kg(n=3匹)のOGD1.0.0抗体で8週間処置した対象動物において、PBSを投与した対照と比較して実質的に増加した。筋肉体積の増加はp<0.05と統計的に有意であった。
【0211】
図11は、30mg/kgのOGD1.0.0抗体で4週間処置した後の、例示的な試験対象からの軸上筋肉の3Dレンダリングである。ベースライン(左)と比較して、視覚的に明白である生じる筋肉体積の増加(右)は22%であった。
【0212】
(実施例9)
OGD1.0.0抗体はFcドメインのエフェクター機能を欠く
Fcγ受容体のパネルと結合する、Fcγ受容体(FcγR)を抑止することが知られているFc領域中に3個の突然変異が含まれるOGD1.0.0抗体による結合を、表面プラズモン共鳴を使用して試験した。すべての実験は、Biacore T200装置(GE HealthCare)を使用して行った。手短に述べると、約100RUのOGD1.0.0抗体が捕捉されたビオチンタグを介して100RUのGDF−8がセンサーチップ−SA上に捕捉され、次いで、CD32a−131H、CD16a−158V、CD32bでは0〜21μM、CD64では0〜270nMの濃度範囲のFcγRを流した。それぞれのFcγR結合実験において、注入は単一サイクル動力学モードを使用して連続して実施した。会合および解離期はそれぞれ120秒間持続した。最後の注入に次いだ解離期の終わりに、0.1%のTFA溶液の20秒間のパルシングを使用してGDF−8を含有する表面を再生した。
【0213】
CD16、CD32aおよびCD64との結合は観察されなかった。対照的に、CD32bとの結合が観察されたが、試験した最も高い濃度(21μM)でのみ観察された。21μMを超えるデータ点が欠乏しているため、正確なKdは決定されなかったが、21μMを超えると仮定することができ、これは野生型IgG1分子のKd(すなわち2〜4μM)と比較すると非常に弱いとみなされる。これらの結果は、OGD1.0.0抗体は、エフェクター機能を誘導する能力がない、または実質的に低下していることを示している。
【0214】
(実施例10)
GDF−8と結合した抗GDF−8抗体の結晶構造
本実施例中に説明するように、ヒトGDF−8と結合したキメラマウスおよびヒト化抗GDF−8抗体の結晶構造を解析し、抗体およびGDF−8内の互いに接触するアミノ酸が何であるかを決定するために使用した。
【0215】
Fab断片を、ヒトIgG1定常領域と接合させたマウスVHおよびVL領域(それぞれ配列番号3および配列番号5)を含有するキメラ抗GDF−8抗体から調製した。その後、Fab断片をヒトGDF−8タンパク質と混合して結合複合体を形成した。タンパク質複合体を50mMのトリス塩酸塩、pH7.5および100mMの塩化ナトリウム中で10.75mg/mLまで濃縮した。結晶は、懸滴方法を使用して、20%のPEG MME5000および100mMのビス−トリス、pH6.5を含有する溶液に対する18℃での平衡化を用いて形成させた。ヒト化抗GDF−8抗体OGD1.0.0およびGDF−8から調製したFabを含有する結晶を、タンパク質溶液を20%のPEG3350および200mMの塩化ナトリウムを含有する非緩衝溶液に対して平衡化した以外は同様に調製した。
【0216】
それぞれの結晶の単一波長(1.0Å)データをSER−CAT、Advanced Photon Source、Argonne National LaboratoryにてIDビームライン上で収集した。−180℃まで冷却した単一の結晶をそれぞれのデータセットに使用した。データはDENZOおよびScalepackを使用して処理した(Z.OtwinowskiおよびW.Minor、「Processing of X−ray Diffraction Data Collected in Oscillation Mode」、Methods in Enzymology、第276巻:Macromolecular Crystallography、パートA、ページ307〜326、1997、C.W.Carter,Jr.およびR.M.Sweet編、Academic Press(New York))(参照により組み込まれる)。GDF−8と複合体形成したキメラ抗体の構造はプログラムAMOREを使用した分子置換によって解析した(Navaza,J.(2001).Implementation of molecular replacement in AMoRe.Acta Crystallogr.、セクションD:Biol.Crystallogr.、57、1367〜1372)(参照により組み込まれる)。分子置換検索において使用したプローブはPDB entry 1HZHであった。精密化の前に、データの5%をランダムに選択し、精密化の進行をモニタリングするためのR
free試験組と指定した。その後、それぞれの複合体の構造を、Coot内で一連の省略マップを利用して再構築した(Emsley,P.およびCowtan,K.(2004)Coot:model−building tools for molecular graphics.Acta Crystallogr.、セクションD:Biol.Crystallogr.、60、2126〜2132)(参照により組み込まれる)。精密化からの統計学を表8中に列挙する。GDF−8と複合体形成したヒト化OGD1.0.0の構造を、使用したプローブがキメラ抗体の構造であったこと以外は同様に解析した。
【0217】
【表8】
【0218】
共結晶構造に基づいて互いに接触すると推論される抗体およびGDF−8中の残基を表9中に列挙し、VH鎖の抗体残基は「H」を前置し、配列番号3に関連して付番されている。VL鎖の残基は「L」を前置し、配列番号5に関連して付番されている。成熟ヒトGDF−8の番号は、配列番号1に関連して付番されている。残基は、少なくとも一対の接触する原子を含有する場合に、互いに接触すると定義された。原子は、接触比C<1.3[式中、C=D
12÷(R
1+R
2)であり、D
12は原子間の距離であり、R
1は原子1のvdW半径であり、R
2は原子2のvdW半径である]を有する場合に、接触すると定義された。実際には、接触原子間の平均距離は約4.7Åであったが、任意の特定の事例における実際の距離は当該の原子の種類に応じて変動した。
【0219】
【表9】
【0220】
(実施例11)
抗体VHおよびVL領域のさらなるヒト化
GDF−8と共結晶化した抗GDF−8抗体の配列解析および構造に基づいて、その配列をさらにヒト化する試みとして抗体VHおよびVL領域を改変した。さらなるヒト化VH領域の配列アラインメントを
図1A中に示す。さらなるヒト化VL領域の配列アラインメントを
図1B中に示す。新しいVHおよびVL領域を含有する発現構築体を作製した後、抗体を一過的に形質移入したCOS−1細胞中で産生させ、標準の技法を使用して精製した。その後、抗体のGDF−8に対する結合親和性および中和活性を本明細書中で上述したように試験した。結果を表10中に報告する。
【0221】
ヒト化VH0およびVL0領域のCDR2アミノ酸配列(マウス抗体に由来)を、それぞれヒト生殖系列VH領域DP−47およびVL領域DPK−9からのCDR2配列と比較した。ヒト配列とは異なる、VH0およびVL0のCDR2配列中のすべての残基をヒトへと変化させた。新しいVHおよびVL領域をそれぞれVH2(配列番号66)およびVL2(配列番号67)と命名した。VH2とVL0領域およびVH0とVL2領域を使用して生成されたインタクトな抗体を、競合ELISA実験においてGDF−8との結合について試験した。結果により、VH CDR2を完全にヒト化することはGDF−8結合を実質的に低下させた一方で、VL CDR2を完全にヒト化することは抗原結合の損失をもたらさなかったことが示された。
【0222】
VHおよびVL領域のさらなるヒト化は共結晶構造に基づいていた。ここでは、VHおよびVL領域のCDR中のマウス由来の残基は、共結晶構造中でGDF−8残基と接触することが観察された場合にのみ保持した。そうでなければ、すべてのVHおよびVL CDR残基をそれぞれDP−47およびDPK9中の対応するヒト残基へと変化させて、VH3(配列番号68)およびVL3(配列番号69)を生成した。競合ELISA実験では、VH3およびVL0を含む抗体(すなわちOGD1.3.0)は活性の顕著な損失を示した一方で、VH0およびVL3を含む抗体(すなわちOGD1.0.3)は完全な活性を保持していると考えられた。
【0223】
VL2中のCDR2の配列に基づいて、VL3の位置50をアラニンに置換して(すなわちS50A)、VL4(配列番号71)を作製した。このVL領域を使用して調製したVH0およびVL4を含む抗体(すなわちOGD1.0.4)は実質的な活性を保持していた。別の突然変異W96LをVL3のCDR3内に導入してVL5(配列番号73)を作製した。しかし、このVL領域を使用して調製したVH0およびVL5を含む抗体(すなわちOGD1.0.5)は、OGD1.0.0と比較して低下した活性を実証した。
【0224】
また、新しい突然変異を重鎖可変領域中にも導入した。2個の置換、すなわちM99FおよびN101DをCDR3内に導入して、VH4(配列番号70)を形成した。このVH領域を使用して調製したVH4およびVL0を含む抗体(すなわちOGD1.4.0)は、実質的に低下した活性を有しており、これは、GDF−8に対する低下した結合親和性と相関していた。CDR2では、G53S置換を行ってVH5(配列番号72)を作製した。このVH領域を使用して調製したVH5およびVL0を含む抗体(すなわちOGD1.5.0)は実質的な活性を保持していた。
【0225】
【表10】
【0226】
本出願中に引用されているすべての出版物、特許、特許出願および他の文書は、それぞれ個々の出版物、特許、特許出願または他の文書が、すべての目的のために参照により組み込まれると個々に示されている場合と同程度に、すべての目的のために全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0227】
様々な具体的な実施形態を例示および記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱せずに様々な変更を行うことができることが理解されよう。