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特開2021-117953デザイン思考エンジンの構成と定式化の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-117953(P2021-117953A)
(43)【公開日】2021年8月10日
(54)【発明の名称】デザイン思考エンジンの構成と定式化の方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/00 20120101AFI20210712BHJP
【FI】
   G06Q10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-21907(P2020-21907)
(22)【出願日】2020年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】519343364
【氏名又は名称】石黒 広洲
(72)【発明者】
【氏名】石黒 広洲
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】時間軸・空間軸・関係性軸と云う世界共通の構造で持った図表表現を用いて計画や設計の思考作業を構造化・可視化する方法を提供する。
【解決手段】デザイン思考を図表表現するための方法であって、デザイン原論による定義そのものを再確認し所与の条件とするステップと、デザイン原論の構成要素の情報空間的な概念化と意味付けるステップと、物事の表裏一面化表現法の獲得するステップと、要素の目的/手段と原因/結果の論理構造を分析するステップと、論理的な要素の物理的な役割の解読とデザイン思考を構造化し、夫々が持つ意味に合せて所定の場所に配置するステップと、デザイン思考エンジンの設計図化するステップと、時間軸と空間軸を具体化し、基盤系を定式化するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理空間概念上の社会システムが代表する実体性を示す二つの普遍的な要素に於いて、人間の内面要素を代表するEthos(精神、心、文化など)表現の概念と社会システムの主活動要素を代表するEconomy(経済活動;産業や生活など)との想い(意識)と形を組み合わせた表現の概念とで実体性を概念化する作用と、社会の様相である情報空間概念上の実存性を示す二つの普遍的な要素に於いて、人間と人間がつくる社会システムに共通的な要素の様相を代表するEcology(現在の改善の様相;生態系、環境など)と、Evolution(未来の改善に期待する様相;戦略の適用結果の実存想定、方向性など)との概念の組合せで表現して実存性を概念化する作用と、
上記実体性及び実存性を有する思考作用要素が直交する形態で出会って関係性を構築する場所であって、実体性と実存性の構成面と直行する実在性の要素を含めて成る普遍的な関係を成す関係性の場を概念化することを組合せ、
上記五つの構成要素の頭文字Eが代表する要素概念で表現する、実体性*実存性*実在性で構成される基本的な三次元思考空間をソフトな図表の仕組みで構造化・可視化して構成しE−engine(イーエンジン、eエンジン)と称する行為網を構成することで、
思考情報技術による普遍的な三次元構造を有して共通的モジュールとしての思考の基本形を成すデザイン思考エンジンの構成と図表による定式化の方法。
【請求項2】
社会的な物事である人間の営む生活とこれを豊かにする産業の間を取り持つのがデザインであるとする考え方に則り、有効性が高いと考えられるデザイン思考の技術哲学表現を合理的な所与のデザイン原論の定義と考えて引用し、デザイン思考を図表表現するためにコンピュータのアプリケーションソフトにおいて活用可能なデザイン思考の定式化を図る方法において、
所与の技術哲学表現したデザイン原論の分析によりデザイン原論の構成要素(ヒト、モノ、サマ、コト、エン)の物理的な概念化と意味付けに関して複数の細部ステップから構成される手順で展開する包括的な分析ステップと、
物事の表裏の構造を分離二元論、三元論、統合三元論の三種類の構成法で分析する方法の中で、表裏の具体的論理要素に物事の基本的役割を示す事柄として表(おもて)=目的*手段と裏=原因*結果とを選んでメビュウスの輪の変換論理を用いた空間変換による思考情報技術によって表と裏の空間論理を統合化するステップと、
上記分析ステップで得られた分析結果の要素情報に基づく物理空間上の要素の論理的な意味の分析によって要素の手段と目的、原因と結果、関係性の場の概念認知を行って基本構造を抽出するステップと、
上記論理的要素群の物理的表現の役割を解読して時間軸、空間軸、社会的関係の場に割り当てて相互の構造的な関係を読み取り、物理空間と情報空間を併記して河北モデルとして基本構造を認識するステップと、
前記デザイン思考のステップの結果を活かして主要思考行為を時空とその関係性の軸に従って思考情報空間上で構造化した図表で表現して普遍モデルを獲得するステップから構成され、
上記社会的な物事に関するデザイン思考の過程を構造化表現して図表することに依って普遍性を有するデザイン思考エンジンとして可視化する事を可能にした思考情報技術によるデザイン思考エンジンの構成と定式化の方法。
【請求項3】
上記請求項1に於ける河北モデルを思考情報空間に写像して普遍モデルを獲得するステップにおいて、まず所与のデザイン思考の哲学的な定義に対する物理空間上の構成要素概念を所与の定義文から分析し、物理空間上の手段と目的及びこれらに共通的な結節点を介して結ぶ構成要素のセットを時間軸とし原因と結果及びこれらに共通的な結節点を介して結ぶ構成要素のセットを空間軸として読み解いて図表もしくは構図或は図式などに反映させるステップあるいは、
該河北モデルを構造化するステップにおいて目的/原因の論理が示す構成要素を人間の精神的な内面である実体性を代表して表現する構成要素と理解して図表に記述し、手段/結果の論理に関わる構成要素をデザイン思考の当事者である人間が関係性を意識する範囲の社会システムをもう一つの実体性ある構成要素と理解して図表に表現し、精神的な内面と社会システムを結び付ける働きとしての関係性の場としてデザイン行為に際して周囲に働きかけて関係の調整を図る社会的なケミストリーとして融合的な新しい関係性を造る一つの独立した実体的実在性を表現する社会的関係の場に設定するステップあるいは、
目的/結果の論理をデザインに携わる当事者たる人間とデザインに際して当事者が意識している社会システムの双方が関心を寄せる外界の現在の様相を知るもしくは分るための実存的な行為表現要素として構成し、更に手段/原因の論理については要改善事項を改善した改善済未来像の様相を得るための技術的な開発によって課題を解く解法つまり解ると言える方向性を確実にする戦略を人間の意識が認めるある種の実存的な未来との関わりの様相として構成し、関心事の想いを形にする構想を判った上で洞察を加えて取組むべき課題への戦略を立てながら未来像への創造力と構想力を駆使し、課題を解決するための未来の様相を描きながら開発を構想して戦略化した構図までを描いて希求する未来の様相を規定し、結節点周辺の関係性の場において上記想いを形にする実体性を伴う場での統合的な融合とその方向性の可否を判別することつまり方法論的に判る状況を統合的に造っていくプロセスを行うステップあるいは、
人間の営みである産業や生活の基盤となる環境を時間軸要素と空間軸要素に分け、時間軸系を生存基盤に空間軸系を知的基盤或は思考基盤として内部と外部設に四分割して設定した基盤肢を構成するステップを有した上で、
上記主要思考行為に関するデザイン思考の過程を構造化表現して図式することによって、普遍性を有するデザイン思考エンジンとして可視化する事を可能にした思考情報技術によるデザイン思考エンジンの構成と定式化の方法。
【請求項4】
請求項1及び請求項2においてデザイン行為を構成する個々の構成要素を記述する際に、個々の要素間の対等な関係性の上で個々の構成要素自体にデザイン思考エンジン(eエンジン)の記述法を適用することで、フラクタル性を有する階層構造をシームレスに組込んだハイパーリンクを行って連結するデザイン操作を行うことを可能にするデザイン思考エンジンの構成と定式化の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
デザイナーの数だけデザイン手法が存在するが如くデザイン思考に関わる哲学と科学や技術は発展途上にあるため、従来それらしい技術は主張されても本質的な形で構築されたデザインに関わる統合的な形態の思考情報技術は存在しない状況である。更にデザインはデザインの専門家が行うものであることが常識的な発想になっているが、課題を抱える当事者自身が自分事と考えて自己意識の導くところからデザインを行うことが重要になって来ている状況も存在する。本発明が扱う思考情報技術は、コンピュータのアプリケーションソフトの領域においてデザイナーが当事者として課題へのデザイン思考を進めながら対応策となるアプリケーションソフトの処理を行なう分野の情報技術であるが、社会システムに関わる形式知と個の意識に関わるデザイン思考の暗黙知としての思考内容を構造化、可視化して形式知で表現する過程に於ける人間の頭脳内部の意識の働きで処理される個と社会システムの関係性に関わる情報過程を構想知であると定義し、この第三の知識の形態を新しい思考情報技術の対象として導入するものである。ここで概念上の混乱を整理しておく必要がある。それはデザインに対する英語表現の意味が日本語訳では「設計」になり一般的に日本語で表現されるデザインとの意味に概念上のギャップが存在することである。しかし、本発明が対象とする人間の精神活動と社会システムの働きを含む社会的な物事においては、例えば構想設計や政策デザインなど物事の未来像に関する類似の概念を有する事柄について、設計とデザイン両方の言葉が持ちいられる状況に鑑みてほぼ同類の概念を有するものとし、配置、形状、色彩・光などに重点を置く物のデザインや物を作るための設計の二つに区分する概念から離れたものと理解して説明を進める。物の世界との対比で言えば、配置、形状、色彩・光の創造的な案出も結局モノを作る前段階の設計の一部の構想設計であると包括的に考えれば、さほど離れた概念ではないと理解して違和感は少ない。
【背景技術】
【0002】
デザイン論において思考情報技術領域の従来技術は明示された状況で存在しない。例えば『デザイン学』(向井周太郎;武蔵野美術大学出版部)の様にデザイン思想或はデザイン哲学に関してデザイナー自体が取り組むべきデザイン行為の観点で記述された文献は存在するが、方法論的な思考情報技術の領域として記述はされていない。デザインの対象となる社会的な物事と関連が深い社会システム論に関しては、『文化システム論』(タルコット・パーソンズ著田中訳:ミネルヴァ書房)が社会システムの構造化に取り組んでいて情報技術的な示唆を与えて呉れるとしても、社会学からのアプローチであるため社会システムを構造化する時の構成軸の選定に課題が存在するのでそのまま技術的に活用出来ない状況にあり、技術としてではなくあくまで数理的な発想の段階で一部を参考にするにとどまる。また『デザイン原論』(河北秀也;新曜社)は人間の意識を含めた社会システムの物理空間と情報空間におけるデザインの考え方を明示しているが、該これもあくまで技術哲学段階の記述であり、該文献の記述から情報技術に直接結びつくものではない。従って全体として従来技術と称せる段階にある技術は存在しないが、最も示唆を与えて呉れるのが上記デザイン原論と言える。そこで、デザインに関して下記の様に人間の精神世界に踏み込んで定義した河北秀也の『デザイン原論』をデザイン思考の先行的な技術哲学として発明の基本に据える事になる。
【0003】
『デザイン原論』に於ける定義は、『「デザイン」とは、人間の創造力、構想力をもって生活、産業、環境に働きかけ、その改善を図る営みと要約できる。つまり、人間の幸せという大きな目的のもとに、創造力、構想力駆使し、私達の周囲に働きかけ、様々な関係を調整する行為を総称して「デザイン」と呼ぶ。』とする。一般的に、デザインは物を対象としているとされ、「デザイン原論」の様に人間と人間の精神性を正面から捉えた形を基本にしてデザイン思考の理論に適用するに至っていないと理解される。河北の言う「人間の幸せ」を考えることや、そのための様々な関係を調整し改善することは、従来デザインの対象外であった。河北自身も自分の放り込まれた世界はそうであったと言っている。理論化が難しい事柄であることは確かである。しかし、改めて都市・地域の構想設計や政策デザインを扱う場合、まさしく河北のデザイン原理が基本的な考え方として有効になってくると理解出来る。つまり従来の方法に手抜かりが存在すると理解する。デザイン原論は、通常関心を持たれるモノばかりでなくコト(事)、ヒト、サマ(様相)、エン(縁)も含めて、社会の五大要素の視座で総合的に定義されている。この技術哲学を媒介にして他の科学領域の知見を統合するのが、本発明で提示して新しい境地の領域を拓く思考情報技術となる。
【先行技術文献】
【0004】
新しい領域のため先行技術が少ないので特許文献以外に本発明の技術的な説明の基盤となる諸科学領域の文献を引用している。なお下記特許関連の文献は本発明とほぼ並行して為された発明を記述したものであり、特許文献1による超社会システムと本発明によるデザイン思考エンジンとは共に構想法を記した特許文献3の与件となる位置づけを有する。なお、超社会システム(特許文献1)は本発明によるデザイン思考エンジンを用いたデザインの為のデザイン対象を情報技術的に定義したモデルとして扱われる位置付けにある。
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許願 整理番号HISHIR1−T12
【特許文献2】特許願 整理番号HISHIR1−T13
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】デザイン論;『デザイン原論』(河北秀也;新曜社)
【非特許文献2】社会科学領域;『文化システム論』(タルコット・パーソンズ著/丸山哲央編訳;ミネルヴァ書房)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
経済的な環境変化に対応するための産業構造変革や地球環境の変化などに対応する為のSDGsへの対応更には地方経済活性化の対策としてのまち興し例えば地方創生の様なマクロな社会的物事に関する社会的な課題に対応して様々な領域や分野を変革する必要性が出現している。この様な状況に於いて人間の精神活動を内在させた形態の社会的課題や経営問題に取組む産業界や個別企業そして自治体・行政体などが望ましい産業構造や事業構造そしてこれらを支える政策構成等を設計(デザイン)するに際して、原因を探るだけではなくデザイン思考に則って構想を立て構造化・可視化して対応策の設計図を描くための方法論が存在しない不都合の解消が求められる事に対応する必要がある。個々の人間が生きて実在することを前提に個が集まって社会を構成することを直視し、人類全体も様々な社会システムを構築し関わりを持って再生を繰り返しながら持続可能な状態で生きて行くために様々なものを創り出している。その中で必要な変革を図ることが重要であると認識し、創造力と構想力とに依って何かを産み出す事が産業の基本であることを前提にした上で、前記デザイン思考の技術化を図り対象を設計してデザインモデル化して記述するために普遍的な形で定式化された方法を実現するデザイン思考エンジンが求められる。ここで言う思考エンジンとは、人間の思考方法のメカニズムを明らかにして様々な思考過程で活用できる形式で構造化、可視化したものであり、更にデザイン思考エンジンは思考対象のデザイン方法を示す役割を有することから、ビジュアルな形を成しデザインの対象(オブジェクト)と相似形を有する構造を実現することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記デザイン思考を扱える技術は認知科学に関わる人間の脳の働きと脳神経科学に関わる意識の役割を組込んだ思考情報技術の領域になると考えられるが、思考情報技術は背景に在る現状レベルの科学分野の知見だけでは解決できない。技術の分野が先導した形を採用しながら科学と技術の分野を媒介する技術哲学を導入して思考方法を統合化する必要があり、更に文理融合的な思考の取組が要求されてくる。そこで、デザインに関わる考え方で先行する技術哲学として引用した上記『デザイン原論(河北秀也)』に沿って、目的と手段、原因と結果の関係性を中心にした論理的な分析を加えて試行錯誤しながら思索を加えた結果、デザイン思考を思考情報技術で扱える形態のデザイン思考エンジンを発想することになる。この事に鑑みて、生きる為に物事を創り出すことへの意志や意欲などの心の働きを司る人間の個の意識と該意識が対等な関係で関心を示す社会システム、及び両者を結び付ける関係性の場を三元的な構成要素とする統合的な思考方法を採用することで、課題となっているデザイン思考遂行上の不都合を解消するためのデザイ思考に基づく思考エンジンが発案され、この事によってデザイン思考エンジンを活用した構想設計を可能にする方法論への手掛かりが得られる。
【発明の効果】
【0009】
デザイン思考エンジンは時間軸・空間軸・関係性軸と云う世界共通の構造で持った図表表現を用いて構造化・可視化されていて普遍性があり、様々な物事を効率的かつ効果的に説明するツールとしての汎用性が存在する。更に市販のコンピュータアプリケーションソフトによってツールを構成出来るので、構想や政策の策定更には様々な領域に於ける計画や設計の思考作業を図表化して可視化することに手軽に利用できる思考モジュール的な要素を有しているので、何かをつくり出すため行う思考段階での応用範囲が広い。その一端が特許文献1や特許文献2への応用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】デザイン思考を図表表現するためのデザイン原論分析と図式化の流れを示す図である。
図2】物事の思考論理の一面化表現法を説明する図である。
図3】デザイン思考の基本構造(河北モデル)を示す図である。
図4】デザイン思考エンジンの設計図(普遍モデル)を示す図である。
図5図3で示した基本構造の時間軸と空間軸を構成するデザイン思考エンジンの基盤環境構造を示す図である。
図6】超社会システムのデザイン操作モデルを示す実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1「デザイン思考を図表表現するためのデザイン原論分析と図式化」は、社会システムを描くデザイン思考エンジンの構成と定式化の方法の実現に向けた本発明の思索の流れと図式化の展開を説明した図であり、ステップA〜ステップGの七つのステップから成る。ステップA;デザイン原論による定義を所与の条件とする(河北秀也『デザイン原論』引用)、ステップB;デザイン原論の構成要素の情報空間的な概念化と意味付け、ステップC;物事の表裏一面化表現法の獲得、ステップD;要素の論理的な意味の分析、ステップE;論理的な要素の物理的な役割の解読とデザイン思考の構造化(河北モデル)、ステップF;デザイン思考エンジンの設計図化(普遍モデルの構成)、ステップG;基盤系の定式化が該七つのステップである。ステップA;デザイン原論による定義を所与の条件とする(河北秀也『デザイン原論』引用)では、定義そのものを再確認している。ステップB;デザイン原論の構成要素の情報空間的な概念化と意味付けでは、三つの細部ステップにおいてデザイン原論の定義で使われている構成要素の語句群を*印で示す三つのグループに分け、実体性、実存性、実在性に区分しながら更に原文に於ける物理空間や情報空間上の意味を概念化して思考情報への橋渡しをすると共に、表に出ていない情報空間上の要素としての語句に関しては物理空間上の構成要素を表す語句に変換しながら実体性の裏付を確認している。ステップBに於ける語句の変換により、ステップEに於ける図3で表現するデザイン思考の基本構造(河北モデル)を描くための構成要素表現の根拠を得ている。ステップC;物事の表裏一面化表現法の獲得は、ステップEの準備として導入する手順であり、ステップEに於いて図3の図式化を行うときの表現面を得るための論理構造分析であり、図2を用いて二つに分離されている物理的な物事の表と裏の論理を同一面に統合し思考情報空間を構成して表現するための合理的根拠を示す論理を得ている。ステップD;構成要素の語句が持つ論理的な意味の分析では、*印の五つの細部ステップで分析を進め、ステップBで確認したデザイン原論に於ける構成要素の語句群に対して目的/手段と原因/結果の論理構造を分析し、更に相互の作用と効用の役割を関係性の機能と合わせて確認している。更にステップDではステップCで得られた思考情報表現に於けるメビュウスの輪の変換論理を参照している。ステップE;論理的な要素の物理的な役割の解読とデザイン思考の構造化(河北モデル)では、*印の三つの細部ステップにおいて、上記ステップBとステップDで得られた分析結果とステップCで得られた構造変換の手法とを総合し、まず時間軸、空間軸、関係性軸を設定したあとデザイン行為の構成要素である語句群を夫々が持つ意味に合せて所定の場所に配置し図3を得ている。ステップF;デザイン思考エンジンの設計図化の手順(普遍モデルの構成)では三つの*印の細部ステップである思考情報化、図式化、付随情報の追加により、ステップEで得られた河北モデルに就いて普遍性を意識した思考情報空間に写像することでデザイン思考の普遍モデルである図4「E−engine(イーエンジン、eエンジン)」を得てデザイン思考エンジンの構成を実現し定式化している。ステップGでは環境の意味を分析し基盤系の要素の定式化を行って図5を得ている。図5図3の行為系つまり行為網と対を成し、行為網の作用を支える効用的要素の基盤肢を形成する河北モデルの拡張である。以下で上記のステップで参照した図2図3図4図5の成り立ちを個別に説明する。
【0012】
図2「物事の思考論理の一面化表現法」は上記ステップCにおいて参照した説明の図であり、社会システムにおける物事の表裏の二元論から弁証法的三元論、そして三元統合論(連帯的)へと変換する手順を示している。物事の表裏を論理的に捉えて物事の表=目的/手段、物事の裏=原因/結果と理解し、物理的な表裏を折り返し一面上に展開して図式化すると、補図hの(i)二元論はデカルトの考え方と言われる数理的な構成であり現実的ではなく、(ii)三元論で表=正、裏=反とし両者を結び付けて新しい局面を生み出す合=止揚=関係性と解釈すれば弁証法の論理となるが思考の次元が不明確であるため、(i)、(ii)の何れも物理的に折り返しを戻せば可視化出来ないのでこれら二つの考え方はデザインとは言えない。更に補図jで示すメビュウスの輪の変換による構造転換を得ながらこれを(ii)の結果に反映させて変換を行うと、(iii)の表裏が一面上に統合された統合三元論の思考情報空間上の表現が得られて可視化されるのでデザイン思考表現が可能になる。なお関係性軸は図2で示されている如く、表裏両面を180°捻っている中心線を関係性軸とする考え方をとれば、結節点において表裏の面と垂直つまり直交している事が判る。また、メビュウスの輪に於ける180°捻りつまり関係性軸の周辺を関係性の場と設定することを考え、表裏面に投影すれば三次元が二次元表現の場に縮退可能である。縮退が存在するので実務上はこの関係性の場を全て論理的に扱うことは出来ないが、この関係性の場の論理を非決定論的であると理解し人間の知恵に依って合意を確保する構想知と捉えることで、デザインのアート性つまり芸術的要素を組込むことが出来る。従ってデザインの論理は決定論と非決定論の融合になる考え方になるが、非決定論を関係性の場に集約し局所化して扱うことでデザイン行為の大部分を論理的に扱うことが可能になる。また図2の補図jの論理は表と裏が対等である事を示しており、極めて重要な社会的な示唆を与えて呉れる。
【0013】
図3「デザイン思考エンジンの基本構造;河北モデル(行為系)」は上記ステップEに於いて参照した図であり、手段から目的に向かう流れは時間的な概念で理解出来ることからタルコット・パーソンズが提示したAGIL図(社会科学領域文献)と同じ考え方で時間軸として設定する。原因から結果に向かう流れは空間的な広がりの概念で理解出来るので空間軸として設定する。時間軸と空間軸は関係性軸で結ばれる。上記AGIL図は空間軸に内部と外部を用いているがこの考え方には縮退が内在しているのでそのまま利用できないことを理解して空間軸を変更し、更にステップCで分析した様に物事の論理にも関係性が存在している事を理解して導入している。なお関係性軸は相互に直交する時空軸が作る面と直行することから、思考情報空間は時間軸、空間軸、関係性軸で構成される三次元構造を有することが判る。図2の補図jでも説明した様に図3に於いて関係性軸を時空面に投影したのが社会的関係の場であり、図3に示す関係性軸による結節場50は行為系の営為要素間の関係性を代表しており、軸を時空面に投影した社会的関係の場を構成している。関係性の場50は図4とも共通的な作用場的な存在である。デザイン原論で定義する思考の流れの三次元表現を実現している。
【0014】
図4「デザイン思考エンジンの基本設計図;普遍モデル」は上記ステップFに於いて参照した図であり、物理空間上の語句を思考情報空間における概念で表現することで、ステップEで得た図3の河北モデルの構成要素の概念化により、普遍的な思考情報表現化を図っている。その結果として思考の普遍モデルの構成と図表化した図4の「E−engine」が得られる。デザイン対象名60は図4によって表現する対象の名称を表すものであり、例えば「N市の産業構造変革の構想設計」、「N市の産業六次化政策のデザイン」、「日本のインバウンド観光戦略の策定」など実社会の課題対応がテーマになるのが通常であるが、理論的な課題をテーマにしたり議論の対象とする課題に関する取組戦略をテーマにしたりすることも可能であり、後述する実施例では理論的なテーマとしてデザイン操作方法の概念設計手順を対象に選んでいる。具体的には、Ethos10は他人の幸せを普遍化表現した人間の精神的な内面を示す精神・心・文化を意味し、Ecology20は要改善から改善済につながる関心事の社会的様相を表す全体像としての生態系に関わる環境を意味し、Evolution30は創造と構想を社会の未来への道筋=戦略で捉えた思考の様相であり、戦略結果としての進化や発展により適者性の確保を希求するものである。Economy40は生活や産業を社会システムにおける経済活動で代表させた事柄であり、これは必ずしも貨幣が関わるものではなく基本は生きる為に何かを作る活動と理解するものである。Encounter50は結節機能(関係性)における社会的関係の場に在って、実在を代表する「今ここに居てどちらへ向かう」が示す場所性との出会いによる関係性構築を意味する事柄であり、五つの「E」で構成される「E−engine」が得られる。これをデザイン思考エンジンと称し、要素を概念で埋め込んでいるので思考過程における汎用モジュール性を有する基本形が獲得できる。更に付随情報の追加による思考エンジンの構成と定式化を確実にするため、思考や思索の裏付となる意識と記憶の役割に関して意識=自己意識*当事者意識*連帯意識を実体性で捉え、記憶=社会的記憶の覚醒*記憶の操作*記憶の書き換えを実存性で捉え、それぞれ図4で示した如く割り振って図表を判り易く構成している。図3の物理空間表現を図4の思考情報空間表現に、構造を保持したまま空間転換している。
【0015】
図5「デザイン思考エンジンの基盤環境構造;河北モデル(基盤系)」はデザイン思考エンジンの基盤環境構造(河北モデル拡張)を示す図であり、図3で示したデザイン思考エンジンの基本構造(河北モデル)における時間軸と空間軸の具体的な内容を示す概念図である。デザイン原論で『環境』と定義されており、時間の流れと空間の広がりを支える環境は、様々なデザイン行為の基本を固める基盤系要素と理解して四つの要素に分けて構成する。図5の構造は思考の流れを支える機能を有し、上記デザイン原論が説く環境を生存要素と知的要素で別出しにしてモデルを拡張表現する。図5において時間軸形を環境71=内部生存基盤、環境73=外部生存基盤とし空間軸系を環境72=知的思考基盤、環境74=知的行動基盤と称する。この四つの要素は図4で示すデザイン思考エンジンにおいても図3の時空軸と同様な働きをする機能であり、図4では煩雑になるので省略することが出来る。この様に社会システムの基盤系の構成要素は、生存の時間概念性及びデザイン思考の知的空間性の理解によって、上記人間の個の内部と外部である社会システム両方の時間軸の概念及び空間軸の概念が環境的要素として結びつくことが判明する。
【0016】
上記で思考を支える環境である基盤系を基盤肢とし、基盤肢の「肢」は手足の如く伸びた固定的な骨組み(Born limbs)であり個体的な形の意味を有する。思考行為の概念の流れを行為網の概念で定義した構成要素群において、行為網の「網」は単に思考の流れを表現するだけでなく、思索や試行錯誤において思考行為が網の目の様に繋がる行為網(Actor nexusの)意味を有している。
【0017】
次にデザイン思考エンジンが潜在的に持つのフラクタル性を伴った階層構造対応の論理とその使い方について説明する。フラクタル性は部分と全体の相似的階層構造でありハイパーリンク性も有する。図4に於ける五つの構成要素に就いて言えば、構成要素の表現自体にデザイン思考エンジンの論理を適用する事が出来る能力を有することを意味する。これを可能にするのが図表表現に時間軸、空間軸、関係性軸という三次元構成の普遍的な構造を用いた構成法である。デザイン思考エンジンは入れ子状態の記述を許容するものであると共にハイパーリンク情報構造にも適用可能であり、デザイン思考エンジンを用いた論理構成をどの構成要素に組込んでも構造的にシームレスにリンクできることを意味する。これを可能にするのが、各構成要素の対等性を有する連帯性の原理であり、このことは既に上記説明の中で設定しており、上記ステップCの補図hの説明時点で社会的な意味合いが強調されている。逆に本発明に依る理論構成は、社会的な課題解決の為には社会的行為に於けるプレーヤ間の対等性つまりパートナーシップが重要であることを示唆している。
【実施例1】
【0018】
図6「社会的物事のデザイン操作のデザイン例」はデザインを行う時の物理空間上に於ける実務操作系の概念を示し、デザイン思考エンジンの実施例を示す図である。上記図3図4で示したデザイン思考上の行為系概念をデザインや設計の操作に適用したデザイン操作方法の概念設計手順を表現している。物理空間上の手順的な行為系については図6示す様にデザイン過程を構成する五つの要素に分けて表現されており、思考情報空間上のデザイン過程の構成要素としてのミッション(使命感の認識)、場のコンテクスト(関心事の文脈・分析)、エンゲージメント(戦略・効果予測)、コンセンサス(合意)、コミットメント(実装・達成への意志)が()内に示した物理空間上の構成要素の細部記述の例と共にそれぞれ図上の指定席に収まっている。デザイン操作においては概ねミッション→場のコンテクスト→エンゲージメント→コンセンサス→コミットメントの要素の順に手続きが為されるが、行為系の常套として試行錯誤的なアプリケーションソフト上での操作が存在することを、実務上では認識する必要が指摘出来る。この操作は重要な機能が記憶の関係あり、場のコンテクストにおける社会的記憶の覚醒、エンゲージメントに於ける記憶の操作、コミットメントにおける記憶の書き換えに分かれて機能させている。本発明の説明ではデザイン上の操作行為系に限って図表化したが、実際の社会ではデザイン原論の定義の中で『生活、産業、環境に働きかけ』と表現されている中の環境の意味を再確認する必要がある。図1ステップAに於ける定義中の包括的な環境の意味は生態系そのものではなく、主として社会的なインフラストラクチャ(社会インフラ)であり、『その改善を図る』に於ける改善対象に含まれる環境には、一部のケースを除いては生態系そのものまでは通常含まれないと考える必要がある。環境を社会インフラとすれば、当然一般的には個々の人間だけでなく生活や産業の側にとっても共通的な基盤系の事柄となる様々な要素を有する社会的な環境になることを理解しておくべきである。上記の様に図5でこれを定式化して理論に組込んだ。図6の背後にもその要素は存在するが行為網の焦点を絞るため省略している。なおこの点は別の発明(特許文献1参照)の実施例として追求しており、最終的には更に関連の別の発明(特許文献2)において統合される。また関係性の場は関心事を核にした出会いに依って構築されるものと理解出来る。操作の流れは、目的と手段及び原因と結果の順序関係に就いて関係性を中心にした手順として理解すれば当たり前の操作手順であることが判るが、一方で構成要素の配列そのものに構造上の特別な意味が存在することに留意すべきである事は明らかである。
【実施を効果的にするための留意点】
【0019】
図6でしました実施例は、図3或は図4で示した図表の構成によるデザイン思考エンジンを用いて市販のアプリケーションソフトで実現可能であるが、図表をツールにしたデザイン作業に関してはデザイン思考が関係性の構築部分にアート性を有するものである。従って社会的な高度な課題に関するソフト的なデザイン作業の習熟には、推論を伴う試行錯誤的な思索に関わる思考能力獲得の訓練が必要なことは自明の理である。訓練の対象となる思索における主な留意点は大きく三つ存在し、空間の認識と識別の力、空間上の語句の選択力、人間の精神活動における意識の機能と役割の理解力の三つの力の獲得であると指摘される。そこでは現代物理学の知見特に観察理論と特殊相対性原理が有効に働く。
【産業上の利用可能性】
【0020】
デザイン思考エンジンは思考や思索に於ける試行錯誤を進める時の思考の操作と内容記述のツールとしてコンピュータアプリケーション上で活用できるので、構想設計や政策デザインの局面だけでなく、理論的な思考を構造化して進める時のツールになり得る。この面では特許文献1の与件として活用可能であり、人間の精神活動を内在させた形態の社会的課題や経営問題に取組む産業界や個別企業そして自治体・行政体などが望ましい産業構造や事業構造そしてこれらを支える政策構成等を設計(デザイン)するに際して、原因を探るだけではなくデザイン思考に則って構想を立て構造化・可視化して対応策の設計図を描くための方法論が存在しない不都合を解消することに有効である。
【0021】
また思考の結果を可視化するための構造性を有する表現ツールとしても利用可能な汎用性を有しているので、デザイン作業に於ける思考効率や思考結果の伝達効率更には思考の質をも改善させ知的生産性向上の効果が期待できる。更にフラクタル性を伴った思考の構造化が可能になるので、複雑な問題や課題に就いて構造性を保ったまま理論面での論理構造を可視的に解きほぐすことが可能であり、表現精度向上や判り易さを含めた面でも知的生産性の向上が望める。
【0022】
なお本発明は、関連発明にも活用された形での実施例に展開される更なる思考情報技術の展開にも効果がある。人類は様々な社会システムを構築し関わりを持って再生を繰り返しながら持続可能な状態で生きて行くために様々なものを創り出している。その中で必要な変革を図ることが重要であると認識し、創造力と構想力とに依って何かを産み出す事が新しい産業の基本であることを前提にした上で、前記デザイン思考の技術化を図り対象を設計してデザインモデル化して記述するための普遍的な形で定式化された方法を実現するデザイン思考エンジンが実現出来たので、物事の質向上に注力する産業進行に効果を発揮する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6