特開2021-118125(P2021-118125A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-118125(P2021-118125A)
(43)【公開日】2021年8月10日
(54)【発明の名称】X線管装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/12 20060101AFI20210712BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20210712BHJP
【FI】
   H01J35/12
   H01J35/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-11782(P2020-11782)
(22)【出願日】2020年1月28日
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 利巳
(57)【要約】
【課題】製品寿命の長期化を図ることのできるX線管装置を提供する。
【解決手段】 本実施形態のX線管装置は、電子を放出する陰極と、陰極から放出された電子が衝突することでX線を発生する陽極ターゲットと、陽極ブロックと、導水パイプと、保護膜と、を備えている。陽極ブロックは、管部と、管部の一端側を閉塞し陽極ターゲットが接合された底部と、を有する。導水パイプは、管部の内側に位置し、底部に向けて冷却液と吐出する吐出口を有し、陽極ブロックとの間に冷却液の流路を形成する。保護膜は、底部の内面を被覆し、ニッケルを含む硬質金によって形成されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する陰極と、
前記陰極から放出された電子が衝突することでX線を発生する陽極ターゲットと、
管部と、前記管部の一端側を閉塞し前記陽極ターゲットが接合された底部と、を有する陽極ブロックと、
前記管部の内側に位置し、前記底部に向けて冷却液と吐出する吐出口を有し、前記陽極ブロックとの間に前記冷却液の流路を形成する導水パイプと、
前記底部の内面を被覆し、ニッケルを含む硬質金によって形成された保護膜と、
を備えるX線管装置。
【請求項2】
前記硬質金は、1wt%よりも多いニッケルを含む、請求項1又に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記硬質金は、3wt%以下のニッケルを含む、請求項1又は2に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記保護膜は、前記底部の前記内面、及び前記管部の内周面を連続的に被覆している、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記内面を被覆する前記保護膜の第1厚さは、前記内周面を被覆する前記保護膜の第2厚さより大きい、請求項4に記載のX線管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析等に使用されるX線管装置は、陰極から放出された電子を陽極ターゲットに衝突させることでX線を発生させている。電子の衝突によって熱が発生するため、陽極ターゲット、及びその周辺部は、高温になる傾向がある。したがって、このようなX線管装置は、陽極ターゲット及びその周辺部を冷却するための冷却機構を備えている場合が多い。例えば、陽極ターゲットは、その近傍に構成された流路を流れる冷却液によって冷却される。
【0003】
一方、冷却液の沸騰、あるいは冷却液回路内の圧力差に起因して、冷却液中に気泡が発生する場合がある。このような気泡は、消滅の際に衝撃波を生じさせるため、冷却液の流路を構成する部材の内面が腐食及び浸食される原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−162974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、製品寿命の長期化を図ることのできるX線管装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るX線管装置は、電子を放出する陰極と、陰極から放出された電子が衝突することでX線を発生する陽極ターゲットと、陽極ブロックと、導水パイプと、保護膜と、を備えている。陽極ブロックは、管部と、管部の一端側を閉塞し陽極ターゲットが接合された底部と、を有する。導水パイプは、管部の内側に位置し、底部に向けて冷却液と吐出する吐出口を有し、陽極ブロックとの間に冷却液の流路を形成する。保護膜は、底部の内面を被覆し、ニッケルを含む硬質金によって形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係るX線管装置の一例を示す断面図である。
図2図2は、本実施形態のX線管の一部を拡大して示す断面図である。
図3図3は、金におけるニッケルの含有量に対する、耐食抵抗の変化及び熱伝導率の変化の一例を示す図である。
図4図4は、本実施形態の保護膜と比較例の保護膜の冷却液に曝した時間に対する厚みの変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
図1は、本実施形態に係るX線管装置1の一例を示す断面図である。X線管装置1は、X線管2と、このX線管2を含む管容器3とを備える。さらに、X線管装置1は、高電圧レセプタクル4、冷却パイプ5、ジョイント接続部(以下では、単に、ジョイントと称する)6、導水パイプ7、導体スプリング8、絶縁筒体9、ベローズ11などを備えている。以下では、管軸TAに平行な方向を軸方向と称する。軸方向において、X線管2側を下方向(下側)と称し、下方向に対して反対方向を上方向(上側)と称する。また、管軸TAに対して垂直な方向を径方向と称する。
【0010】
高電圧レセプタクル4は、高電圧ケーブルを接続するために、上端部が開口し、且つ下端部が閉塞した、有底の円筒形状に形成されている。高電圧レセプタクル4は、管軸TAを中心軸として、後述する管容器3内の上側に液密に設けられている。高電圧レセプタクル4は、底部を貫通する接続端子12を備えている。接続端子12は、高電圧レセプタクル4に挿入される外部電路のブッシングと、端子とを含む。接続端子12の下端は、導体スプリング8を介してジョイント6に接続されている。
【0011】
導体スプリング8は、高電圧レセプタクル4と導水パイプ7とを電気的に接続している。これにより、導水パイプ7を介して、後述する陽極ターゲット13に高電圧が供給される。
【0012】
絶縁筒体9は、略円筒形状の絶縁体で形成され、高電圧レセプタクル4の外側に設けられている。図示しないが、絶縁筒体9は、絶縁油が流通可能な構造とされている。絶縁筒体9は、例えば上端部が管容器3の内側に固定されている。
【0013】
冷却パイプ5は、冷却液、例えば、水系冷却液としての純水を流すための導管である。冷却パイプ5は、高電圧レセプタクル4と絶縁筒体9との間に螺旋状に設けられている。冷却パイプ5は、冷却液が供給される給水口5aを備える第1冷却パイプ5bと、冷却液が排出される排出口5dを備える第2冷却パイプ5cと、で構成されている。
【0014】
第1冷却パイプ5bは、給水口5aが冷却液の供給源である循環冷却装置等(図示せず)に接続され、給水口5aと反対側の端部がジョイント6に接続されている。一方、第2冷却パイプ5cは、排出口5dが循環冷却装置等(図示せず)に接続され、排出口5dと反対側の端部がジョイント6に接続されている。なお、冷却パイプ5は、高電圧レセプタクル4の外周壁に接触しないように保持された構造であればよく、螺旋状に設けられていなくともよい。
【0015】
ジョイント6は、X線管装置1の中心部、例えば管軸TA上に設けられ、導水パイプ7と冷却パイプ5とを接続している。なお、詳細は省略するが、ジョイント6には、管軸TAと垂直な方向に開口し、第1冷却パイプ5bが液密に接続された第1通路と、管軸TAと垂直な方向に開口し、第2冷却パイプ5cが液密に接続された第2通路と、管軸TAに沿って延伸し、第1通路及び第2通路の双方と繋がる第3通路と、が形成されている。
【0016】
導水パイプ7は、ジョイント6の下部に接続され、管軸TAに沿って延伸している。導水パイプ7は、管軸TAを中心とした2重の円筒形状に形成されている。すなわち、導水パイプ7は、円筒形状に形成された外側パイプ7aと、外側パイプ7aの内側に設けられた円筒形状の内側パイプ7bとを含む。また、導水パイプ7は、内部に、弾性部材23と、支持部材25とを備える。
【0017】
外側パイプ7aは、ジョイント6の下部と、後述する陽極ブロック14の上部とのそれぞれに液密に接合されている。外側パイプ7aは、ジョイント6を介して排水口5dに連通する第2冷却パイプ5cに接続されている。
【0018】
内側パイプ7bは、上端部がジョイント6(より具体的には、上述の第3通路)に嵌合され、中間部が支持部材25に支持され、且つ下端部に先端ノズル部24を備えている。内側パイプ7bは、ジョイント6を介して給水口5aに連通する第1冷却パイプ5bに接続されている。
【0019】
弾性部材23は、嵌合部近傍において、内側パイプ7bの外周部とジョイント6との間に設けられている。弾性部材23は、樹脂性のゴム部材で形成されている。弾性部材23の形状は、例えば、Oリング状、又はパイプ状である。弾性部材23の断面形状は、円形状であってもよいし、四角形状であってもよい。
【0020】
X線管2は、管容器3内部の下側に設けられている。X線管2は、陽極ターゲット(陽極)13と、陽極ブロック14と、陰極15と、ウェネルト電極16と、第1真空外囲器17と、第2真空外囲器18と、X線放射窓(窓部)19と、を備えている。高電圧レセプタクル4に高電圧ケーブルが接続された場合、陽極ターゲット13と陰極15との間に、高電圧(管電圧)が印加される。
【0021】
陽極ブロック14は、管軸TAを中心軸とした有底の円筒形状に形成されている。陽極ブロック14の開口部側には、外側パイプ7aの下端部が固定されている。陽極ブロック14の内側には、内側パイプ7bの先端ノズル部24が配置されている。この先端ノズル部24から陽極ブロック14の底部(又は、陽極ターゲット13の設置方向)に向かって、冷却液が吐出される。
【0022】
X線管装置1において、前述したジョイント6、導水パイプ7、及び陽極ブロック14は、組み立てられることで、冷却液を流すための流路を構成する。なお、ジョイント6、導水パイプ7、及び陽極ブロック14は、夫々、別体として記載したが、冷却液を流す流路を構成すれば、全て一体に形成されていてもよいし、部分的に一体に形成されていてもよい。冷却液が、ジョイント6、導水パイプ7、及び陽極ブロック14で構成された流路と、冷却パイプ5と、を循環することで、後述する内部空間22に充填された絶縁油や陽極ターゲット13等が冷却される。
【0023】
陽極ターゲット13は、陽極ブロック14の底部に接合されている。陽極ターゲット13は、電子が衝撃することによってX線を放射する。このとき、陽極ターゲット13は、電子が衝撃することで温度が上昇するが、陽極ブロック14内部の流路を流れる冷却液によって冷却される。相対的に、陽極ターゲット13には正の電圧が印加され、陰極15には負の電圧が印加される。例えば、陰極15は、電気的に接地されている。
【0024】
陰極15は、リング状のフィラメントで形成され、電子を放出する。陰極15は、陽極ターゲット13(または、陽極ブロック14)から径方向の外側に所定の間隔を空けて配置されている。陰極15から放出される電子は、後述するウェネルト電極16の下端部を越えて陽極ターゲット13上に衝突する。
【0025】
ウェネルト電極16は、円筒形状に形成され、陽極ターゲット13と陰極15との間に設けられている。ウェネルト電極16は、陰極15から射出された電子を陽極ターゲット13上に集束させる。
【0026】
第1真空外囲器17は、内側円筒と、外側円筒とで構成されている。第1真空外囲器17は、内側円筒と外側円筒との上端部が互いに接合されている。内側円筒及び外側円筒は、それぞれ、略円筒形状で、例えば、ガラス材、又はセラミックス材で形成されている。第1真空外囲器17は、内側円筒の下端部が陽極ブロック14に真空気密に接続され、外側円筒の下端部がX線管2の壁面の一部としてX線管2の壁部に真空気密に接続されている。
【0027】
第2真空外囲器18は、有底の略円筒形状で形成されている。第2真空外囲器18は、上端部がX線管2の壁面の一部としてX線管2の壁部に真空気密に接続されている。第2真空外囲器18は、後述する管容器3ともに電気的に接地される。
【0028】
X線放射窓19は、薄板状であり、第2真空外囲器18の底部の中心付近を貫通する開口部に真空気密に接合されている。X線透過窓19は、電子が衝突した際に陽極ターゲット13から発生するX線を透過し、X線をX線管装置1の外部へ放出する。X線透過窓19は、X線を透過する部材、例えば、ベリリウム薄板で形成されている。また、X線管2は、外壁の一部に径方向の外側に突出する第1の凸部20aと、第2の凸部20bとを備えている。
【0029】
管容器3は、X線管装置1の各部を内部に収容する密閉された容器である。管容器3は、管軸TAを中心軸とする略円筒形状に形成されている。管容器3は、例えば、金属部材で形成されている。また、管容器3は、内壁に鉛板21が内貼りされている。管容器3(鉛板21)の内側の内部空間22には、絶縁油が充填されている。ここで、内部空間22は、例えば、管容器3の内側、X線管2及び高電圧レセプタクル4の外側、且つ空盆10以外の空間である。
【0030】
ベローズ11は、管容器3の下側の所定の部分に、内部空間22と空盆10とを隔離するように備えられている。ベローズ11は、第1の凸部20aに一端部が固定され、他端部が第2の凸部20bに固定されている。ベローズ11は、樹脂性の弾性部材で形成されており、絶縁油の膨張及び収縮等を空盆10で伸縮することによって吸収する。なお、ベローズ11は、伸縮自在な伸縮部材であり、例えばゴムベローズ(ゴム膜)である。
【0031】
本実施形態では、X線管装置1において、冷却液は、給水口5aから第1冷却パイプ5bに取入れられ、ジョイント6を介して内側パイプ7bに流入する。内側パイプ7bに流入した冷却液は、内側パイプ7bの先端ノズル部24から吐出され、陽極ブロック14の内側表面、又は外側パイプ7aの内側表面と、内側パイプ7bの外周部とで構成された流路を通る。その後、ジョイント6を介して第2冷却パイプ5cに流入し、排出口から取り出される。
【0032】
図2は、本実施形態のX線管2の一部を拡大して示す断面図である。図2は、陽極ターゲット13の近傍を示している。
【0033】
陽極ブロック14は、円筒形状の管部14aと、管部14aの一端側(すなわち陽極ターゲット13側)を閉塞する底部14bと、を有している。陽極ブロック14は、例えば熱伝導率の高い銅によって形成されている。陽極ターゲット13は、底部14bの外面に接合されている。
【0034】
内側パイプ7bは、例えばステンレスによって形成され、管部14aの内側に位置している。換言すると、内側パイプ7bの外面SO7bは、管部14aの内周面S14a、及び底部14bの内面S14bと面している。内側パイプ7bは、その内面SI7bによって冷却液の流路FP1を構成するとともに、底部14bに向けて冷却液を吐出する吐出口OLを有している。さらに、内側パイプ7bは、その外面SO7bによって、陽極ブロック14とともに冷却液の流路FP2を形成している。すなわち、流路FP2は、外面SO7bと内周面S14aとの間、及び、外面SO7bと内面S14bとの間の領域に相当する。図中の矢印は、流路FP1及びFP2を流れる冷却水の流れの一例を示している。
【0035】
本実施形態において、陽極ブロック14の内面は、保護膜PRによって被覆されている。より具体的には、保護膜PRは、底部14bの内面S14bと、管部14aの内周面S14aとを連続的に被覆している。図示した例では、保護膜PRは、内面S14b及び内周面S14aの全体に亘って設けられているが、保護膜PRは、少なくとも内面S14b全体と、内周面S14aのうち底部14bと管部14aとの境界近傍の領域を被覆していればよい。例えば、図において破線で示すように、保護膜PRは、軸方向において、内面S14bと吐出口OLとの間の領域に設けられてもよい。
【0036】
内面S14bを被覆する保護膜PRの第1厚さT1は、内周面S14aを被覆する保護膜PRの第2厚さT2よりも大きい。なお、第2厚さT2は、0である場合も含む。
【0037】
冷却液内には、冷却液の沸騰や、冷却液回路内での冷却液の圧力差により、気泡が発生する場合がある。この気泡が消滅する際、衝撃波を生じさせる。陽極ブロックの内面を被覆する保護膜が軟質金で形成されている場合、気泡が消滅する際の衝撃波を繰り返し受けることにより、保護膜に腐食が発生しやすい。場合によっては、陽極ブロック14や陽極ターゲット13まで浸食が進むおそれがある。したがって、本実施形態では、保護膜PRは、ニッケル(Ni)を含む硬質金によって形成されている。このような保護膜PRは、一例では、めっき法によって形成される。
【0038】
図3は、ニッケルの含有量に対する、金の耐食抵抗及び熱伝導率の一例を示す図である。図3に示すように、金におけるニッケルの含有量が増加すると、金の硬度が高まり、耐食抵抗(耐腐食性)が向上する。図3に示す例では、ニッケルの含有量が1wt%以上では、ニッケルの含有量が0wt%の場合と比較して、耐食抵抗がおおよそ2倍以上となっている。したがって、保護膜PRにおけるニッケルの含有量は、1wt%以上であることが望ましく、1wt%より大きいことがより望ましい。
【0039】
一方、金におけるニッケルの含有量が増加すると、金の熱伝導率が低下する。保護膜PRの熱伝導率が低下すると、冷却液による陽極ブロック14及び陽極ターゲット13の冷却効率が低下し、陽極ターゲット13の表面(ターゲット面)が劣化しやすくなる。この結果、X線管装置1の製品寿命が短くなったり、信頼性の低下を招いたりするおそれがある。図3に示す例では、金におけるニッケルの含有量が3wt%以下では、ニッケルの含有量が0wt%の場合と比較して、熱伝導率の低下がおおよそ3%以内となっている。したがって、保護膜PRにおけるニッケルの含有量は、3wt%以下であることが望ましい。
【0040】
以上より、保護膜PRにおけるニッケルの含有量は、1wt%以上3wt%以下であることが望ましく、1wt%より大きく3%以下であることがより望ましい。
【0041】
次に、硬質金で形成された保護膜PR(本実施形態の保護膜PR)と、軟質金で形成された保護膜(比較例の保護膜)の対腐食(対キャビテーション)について、同一の評価条件の下で比較する。
【0042】
図4は、保護膜を冷却液に曝した時間に対する保護膜の厚みの変化を示す図である。図4に示す結果は、同一条件の下、本実施形態の保護膜PRと比較例の保護膜とに冷却液を吹き付けながら冷却液に浸漬する実験で得られた経時変化の一例である。
【0043】
図4に示すように、軟質金で形成された比較例の保護膜の厚さは、時間の経過とともに減少する。例えば、時間が30分経過した場合、比較例の保護膜の厚さは、実験開始時の厚さの45%まで減少している。一方、硬質金で形成された本実施形態の保護膜PRは、時間の経過に対してほとんど変化していない。例えば、時間が30分経過した際の厚さは、実験開始時とほとんど変わらず、時間が50分経過した場合であっても、実験開始時の厚さの95%以上を維持している。
【0044】
したがって、保護膜PRを軟質金ではなく硬質金で形成することは、陽極ブロック14を保護する観点で、大幅な改善効果が得られるものである。また、保護膜PRにおけるニッケルの含有量を、1wt%以上3wt%以下にすることにより、陽極ブロック14及び陽極ターゲット13の冷却効率の低減を抑制しつつ、保護膜PRの腐食及び浸食に対する耐久性を向上することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、製品寿命の長期化を図ることのできるX線管装置1を得ることができる。
【0046】
なお、この発明は、上記実施形態そのものに限定されるものでなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…X線管装置、2…X線管、3…管容器、7…導水パイプ、7a…外側パイプ(導水パイプ)、7b…内側パイプ(導水パイプ)、13…陽極ターゲット、14…陽極ブロック、14a…管部、14b…底部、S14a…管部の内周面、S14b…底部の内面、15…陰極、PR…保護膜、OL…吐出口、FP1,FP2…流路。
図1
図2
図3
図4