【実施例】
【0039】
実施例1:生体外(in vitro)PD−L1結合親和性試験−フローサイトメトリー分析
【0040】
トリプシン(trypsin)を用い、マウスPD−L1(mPD−L1)を発現するCT−26細胞、およびヒトPD−L1(hPD−L1)を発現するCHO−K1細胞を収集し、沈殿させて、洗浄し、約2×10
5個の細胞を100μLの細胞染色緩衝液(BSA緩衝液、BD)中に再懸濁させた。次いで、100nmolのAlexa647で標識された抗PD−L1アプタマーサンプル(Alexa647で標識されたアプタマーを含む本開示における全ての核酸配列はいずれもIntegrated DNA Technologiesに委託してカスタム合成した)を加え、抗PD−L1アプタマーサンプルと細胞の懸濁液を遮光して氷上で60分培養し、細胞染色緩衝液中で単回洗浄した後、細胞を再懸濁させ、FACScanフローサイトメトリー(Becton Dickinson,Oxford,UK)を用いて分析を行った。
【0041】
フローサイトメトリーの分析結果は
図1Aおよび
図1Bに示すとおりであり、図中のサンプルunstainedは染色されていない細胞を表し、陰性対照群(negative control)とすることができ;図中のサンプルAptPDL1−n05、AptPDL1−n07、AptPDL1−1A、AptPDL1−2A、AptPDL1−3AおよびAptPDL1−A4は、配列番号:4、5、6、7、8および9で示される抗PD−L1アプタマーをそれぞれ表し、これらの濃度はいずれも100nMであり;サンプルAptPDL1−45mer(PBS
*)は配列番号:24で示される抗PD−L1アプタマーを表し、それは細胞染色緩衝液中で調製されたのではなく、調節されたPBS緩衝液(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有するDPBS(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline)、1.33mMのKCl添加)中で調製されたもので、濃度は100nMであり、かつ、AptPDL1−45merは既知の対照配列とすることができ;サンプルAptPDL1−45mer(SELEX)は、SELEX技術によりスクリーニングして得られた配列番号:24で示される抗PD−L1アプタマーを表し、濃度は100nMであり、陽性対照群(positive control)とすることができ;サンプルAptPDL1−45mer(SELEX,600nM)は、SELEX技術によりスクリーニングして得られた配列番号:24で示される抗PD−L1アプタマーを表し、陽性対照群(positive control)とすることができ;サンプルCpG−L0−PSは、PD−L1と親和しない核酸配列を表し、陰性対照群とすることができる。
【0042】
図1Aおよび
図1Bに示されるように、サンプルAptPDL1−n05、AptPDL1−n07、AptPDL1−1A、AptPDL1−2A、AptPDL1−3A、AptPDL1−A4およびAptPDL1−45mer(PBS
*、SELEX、600nM)はいずれも右にシフトするピークを示し、これらがいずれもPD−L1に対して結合親和性を有することを表す。
【0043】
図2を参照されたい。
図2は、
図1Aおよび
図1Bのフローサイトメトリーの実験結果の定量的データを示しており、
図2に示されるように、CpG−L0−PS(配列番号:10)に比べ、サンプルAptPDL1−n05(配列番号:4)、AptPDL1−n07(配列番号:5)、AptPDL1−1A(配列番号:6)、AptPDL1−2A(配列番号:7)、AptPDL1−3A(配列番号:8)、AptPDL1−A4(配列番号:9)およびAptPDL1−45mer(PBS
*、SELEX、600nM)(配列番号:24)のほぼ全てがPD−L1結合親和性の向上を示した。
【0044】
実施例2:生体外PD−L1結合親和性試験−細胞結合分析
【0045】
PD−L1を発現するMDA−MB−231細胞を1×10
4細胞/100μl/ウェルの密度で96ウェルプレート(Corning)中に播種し、48時間培養した。培地を除去した後、室温下、50μl/ウェルの4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde,PFA)の入ったリン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline,PBS)で細胞を10分固定した。PFAを除去した後、100μlのPBSに入った0.1Mグリシンを各ウェルに加え、残留したPFAをクエンチ(quench)した。その後、96ウェルプレートを室温で10分培養した。次いで、PBSを用いて細胞を1回洗浄し、室温下でSuper Block(ScyTek Laboratories Inc)を用い60分ブロックした。異なる濃度のAlexa647標識抗PD−L1アプタマーサンプル(PBS中に混合されている)を用い、デュプリケート(duplicate)のウェル中で染色を行い、37℃で45分培養した。その後、PBSを用いて細胞を4回洗浄し、酵素免疫アッセイリーダー(ELISA plate reader,Tecan,Mannedorf,Switzerland)を用い、励起波長670nm、発光波長720nmで蛍光強度を測定した。
【0046】
ELISAの分析結果は
図3に示すとおりであり、図中のサンプルcell onlyはPD−L1を発現しない細胞を表し、陰性対照群とすることができ;図中のサンプル45mer、n05、n07、1A、2A、3AおよびA4はそれぞれ配列番号:24、4、5、6、7、8および9で示される抗PD−L1アプタマーを表し、サンプルの濃度はいずれも700nmであって、調節されたPBS緩衝液(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有するDPBS、1.33mMのKCl添加)中で調製されたものである。
【0047】
図3に示されるように、サンプル45mer(AptPDL1−45mer,配列番号:24)、n07(AptPDL1−n07,配列番号:5)、1A(AptPDL1−1A,配列番号:6)、2A(AptPDL1−2A,配列番号:7)、3A(AptPDL1−3A,配列番号:8)およびA4(AptPDL1−A4,配列番号:9)はいずれも蛍光強度が高く、PD−L1に結合親和性を有していた。
【0048】
実施例3:核酸薬物複合体のTLR9活性化能分析−HEK293マウスTLR9レポーティングシステム
【0049】
マウスTLR9を発現するHEK−Blue細胞(InvivoGen)を完全DMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)培地で培養した。DMEM中には100μg/mlのNormocin、30μg/mlのBlasticidinおよび100μg/mlのZeocin(いずれもInvivoGen)が補充してあった。HEK−Blue細胞は分泌性胎盤アルカリホスファターゼ(secreted alkaline phosphatase,SEAP)レポーティングシステムを含み、このシステムとTLR9とが作用した後、測色の変化(colorimetric change)が生じる。
【0050】
HEK−Blue検出混合物(SEAP検出に用いる細胞培地,InvivoGen)をSEAPの存在を検出するのに用いた。SEAPは、NF−κBが活性化することによるTLR9シグナル伝達に関連する。検出混合物は、細胞成長に用いる栄養物および呈色基質を含み、SEAPによって加水分解されると、色の変化を生じるものである。マウスTLR9を発現するHEK293細胞(InvivoGen)が60〜80%の培養密度(confluency)に達したら、それを収集して遠心分離し、検出混合物中に再懸濁させた。細胞(72 000)を96ウェルプレート(180μl)の各ウェル中に播種した。次いで、細胞と、20μlのPBS(未刺激;陰性対照群とした)、CpG−L0−PS(陽性対照群とした)またはPBS中の異なる濃度の核酸薬物複合体サンプルとを、デュプリケート(duplicate)のウェル内で組み合わせて処理し、37℃下、5%CO
2中で24時間培養した。マルチモードプレートリーダー(multimode plate reader)(Tecan,Infinite(商標)M200 PRO,Mannedorf,Switzerland)を用い、分光光度計で620nmから655nmの波長においてプレートを読み取った。
【0051】
TLR9活性化能に対する分析結果は
図4に示すとおりであり、図中のサンプルCpG−L0−PSは配列番号:10(抗PD−L1アプタマーに連結していない)に対応しており、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合はいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており;サンプルApDC5−PSは配列番号:25に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており、それは例えば、
図6Bに示される構造(このうち、抗PD−L1アプタマーとCpGオリゴヌクレオチド配列の位置関係が理解し易くなるよう、AおよびBはCpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントおよび第2のフラグメントの位置を概略的に表している)を有し;サンプルApDC5−7PSは配列番号:26に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、
図6Dに示される構造を有し;サンプルPDL1−CpG30−PSは配列番号:27に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における3末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており、それは例えば、
図6Cに示される構造を有し;サンプルPDL1−CpG29−9PSは配列番号:28に対応しており、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における3末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、
図6Dに示される構造を有し;サンプルApDC−A21Bは配列番号:31に対応しており、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、
図6Aに示される構造を有する。
【0052】
図4の結果により、得られたサンプルCpG−L0−PS(配列番号:10)のEC
50値は2.09nM、サンプルApDC5−PS(配列番号:25)のEC
50値は2.48nM、サンプルApDC5−7PS(配列番号:26)のEC
50値は72.23nM、サンプルPDL1−CpG30−PS(配列番号:27)のEC
50値は2.36nM、サンプルPDL1−CpG29−9PS(配列番号:28)のEC
50値は148.82nM、サンプルApDC−A21B(配列番号:31)のEC
50値は0.77nMであった。その他のサンプルに比べ、サンプルApDC−A21B(配列番号:31)のEC
50値は最も低く、TLR9活性化能が向上されている。
【0053】
このことからわかるように、CpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における5末端または3末端に連結している態様に比べ、抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された核酸薬物複合体は、より優れたTLR9活性化能を備える。また、CpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合となっている態様は相補的な二本鎖構造を形成し易く、かかる態様の核酸薬物複合体のTLR9活性化能は低くなる。
【0054】
次いで、
図5を参照されたい。
図5は、別の実施形態における核酸薬物複合体のTLR9活性化能に対する分析結果を示しており、その実験内容は
図4とほぼ同じである。
図5中のサンプルCpG−L0−PSは配列番号:10(抗PD−L1アプタマーに連結していない)に対応しており、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており;サンプルApDC5−PSは配列番号:25に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD−L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、
図6Bに示される構造を有し;サンプルApDC−A21Bは配列番号:31に対応し、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、
図6Aに示される構造を有し;サンプルApDC−A21Aは配列番号:32に対応し、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは
図6Aに示されるのと類似する構造を有するが、フラグメントAおよびフラグメントBの配列は同じであり;サンプルApDC−B21Bは配列番号:33に対応し、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは
図6Aに示されるのと類似する構造を有するが、フラグメントAおよびフラグメントBの配列は同じであり;サンプルApDC−A33Bは配列番号:30に対応し、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された態様を表し、かつオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっている。
【0055】
図5の結果により、得られたサンプルCpG−L0−PS(配列番号:10)のEC
50値は2.1nM、サンプルApDC5−PS(配列番号:25)のEC
50値は5.5nM、サンプルApDC−A21B(配列番号:31)のEC
50値は1.3nM、サンプルApDC−A21A(配列番号:32)のEC
50値は0.6nM、サンプルApDC−B21B(配列番号:33)のEC
50値は0.6nM、サンプルApDC−A33B(配列番号:30)のEC
50値は16380nMであった。
【0056】
サンプルApDC5−PS(配列番号:25)に比べ、抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されているサンプルApDC−A21B(配列番号:31)、ApDC−A21A(配列番号:32)およびApDC−B21B(配列番号:33)のEC
50値は比較的低く、つまり、TLR9活性化能が改善されていた。また、CpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっている態様に比べ、CpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっている態様も、TLR9活性化能により優れていた。
【0057】
実施例4:核酸薬物複合体の動物モデル生体内(in vivo)抗腫瘍効果分析
【0058】
4T1マウス乳腺がん同系腫瘍モデル(syngeneic tumor model)を用い、生体内抗腫瘍治療効果の研究を行った。4T1(5×10
5細胞)をBALB/cマウスに皮下移植した。キャリパー(caliper)で腫瘍の大きさを測り、次の式によりそれを腫瘍体積に変換した;V=LS2/2(ただし、Lは最長直径、Sは最短直径)。マウスをランダムにグループ分けし(n=4〜5)、腫瘍体積が100〜200mm
3時に達した時に投薬を行った。抗マウスPD−L1抗体(PDL1 mAb,InVivoPlus anti-mouse PD-L1,BioXCell)を週に2回腹膜内(intraperitoneally)注射した。CpGオリゴヌクレオチド(配列番号:10)および抗PD−L1アプタマー(配列番号:1)(併用形式、AptPDL1+CpGと標識)、ならびに抗PD−L1アプタマーとCpGオリゴヌクレオチド配列とがコンジュゲートした核酸薬物複合体(配列番号:25)(ApDC5−PS)を週に2回静脈注射した。腫瘍増殖阻害(tumor growth inhibition,TGI)のパーセンテージから抗腫瘍効果を判断した。TGIの計算方法は、[1−(治療群の最終腫瘍体積−初期腫瘍体積)/(治療群の最終腫瘍体積−初期腫瘍体積)]×100%とした。
【0059】
図7に示される結果によれば、サンプルApDC5−PS(配列番号:25)で処理した腫瘍体積は明らかに小さく、その抗腫瘍効果はCpGオリゴヌクレオチドおよび抗PD−L1アプタマーを併用した(AptPDL1+CpG)態様よりも優れており、また抗マウスPD−L1抗体(PDL1 mAb)を単独で注射した態様よりも優れていた。さらに、サンプルApDC5−PSを注射したマウスの生存率も明らかに高まっており、腫瘍細胞接種から25日後にも100%の生存率であった。
【0060】
さらに、
図8は、別の実施形態における核酸薬物複合体の抗腫瘍効果分析結果を示しており、その実験内容は
図7とほぼ同じである。
図8中のサンプルCpG−L0−PSは配列番号:10(抗PD−L1アプタマーに連結していない)に対応しており;サンプルApDC−A21Bは配列番号:31に対応しており、それは抗PD−L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された態様である。
図8に示されるように、サンプルCpG−L0−PSに比べ、サンプルApDC−A21Bは抗腫瘍効果により優れており、薬効が改善されていた。
【0061】
上述したように、本開示の実施形態により提供される新規な核酸薬物複合体は、CpGオリゴヌクレオチド配列と抗PD−L1アプタマーとを結合させたものであり、腫瘍標的性および免疫チェックポイント阻害活性を備えることで、核酸薬物複合体の腫瘍における蓄積および腫瘍微小環境の免疫細胞毒性効果が高まり得ると共に、多種類の免疫細胞の活性化を刺激する能力を備えることで、腫瘍微小環境の免疫細胞活性化および凝集が高まり得る。また、本開示の実施形態により提供される核酸薬物複合体は、単にCpGオリゴヌクレオチドおよび抗PD−L1アプタマーを合わせて使用するよりも、抗腫瘍薬効に優れる。
【0062】
本開示の実施形態およびその長所を上のように開示したが、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、本開示の精神および範囲を逸脱せずに、変更、置換および修飾を加えることができるという点が理解されなければならない。さらに、各クレームは個別の実施形態を構成し、かつ本開示の保護範囲は各クレームおよび実施形態の組み合わせも含む。本開示の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。