【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、操作された不対システイン残基が翻訳後修飾され特定の化学成分でキャップ付加される、哺乳動物細胞における抗体産生プロセスに関し、このキャップ付加抗体は、抗体−薬物コンジュゲート(ADC)を形成するためのさらなる部位特異的コンジュゲーションステップによく適している。本発明はさらに、これらのキャップ付加抗体を用いて生成されたADC、特に鎖間ジスルフィドの還元を回避し、したがってコンジュゲーション前の(再)酸化ステップの必要性を排除する、キャップ付加抗体のシステイン残基の選択的な還元によって形成されるADCに関する。本発明はさらに、新規なニトロベンゾエートキャップ付加抗体、特に5−チオ−2−ニトロ安息香酸(TNB)−キャップ付加抗体に関し、このタイプのキャップ付加抗体は、トリス(3−スルホナトフェニル)ホスフィン(TSPP)または直接的なコンジュゲーションのための関連薬剤もしくは類似作用のある還元剤による選択的な還元を可能にし、したがって鎖間ジスルフィド還元−再酸化ステップの処理を排除する。本発明はまた、追加の薬物コンジュゲーション化学反応を可能にする、アルデヒド/アジド/アルキン双直交基などのケミカルハンドルからなる、新規なシステイン−キャッピングを操作することに関する。
【0010】
培地の最適化は、システイン化、グルタチオン化、非キャップ付加、またはニトロベンゾエートキャップ付加抗体を含む、多様なキャッピング状態を有するシステイン突然変異抗体の生成を可能にする。新規なニトロベンゾエートキャップ付加抗体は、特にTSPPによる選択的な還元とそれに続く直接的なコンジュゲーションを可能にし、鎖間ジスルフィド還元/再酸化ステップの過酷な処理を用いる必要性を排除する。本発明のいくつかの実施形態で提供されるコンジュゲーションプロセスの主要な特徴が、以下の概略図に示されている:
【0011】
【化2】
ここで、通常システインによってキャップ付加(システイン化)されていてもよく、したがって上記の還元および酸化ステップを用いてコンジュゲートされた抗体は、代わりにTNBでキャップ付加される。TNBキャッピングは除去され、同時に、ここに示すような選択的還元(例えば、TSPPを使用)によってコンジュゲーションが達成される:
【0012】
【化3】
再酸化が回避されるので、開示されたプロセスは、抗体がその元のフォールディングを維持し、無傷のままであることを可能にする。したがって、本発明は、このように、システイン系部位特異的ADCの薬物コンジュゲーションプロセスを大いに改善し簡単にする新規な方法となっている。
【0013】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、システイン突然変異抗体は、培地にジチオニトロベンゾエートを加える場合、ニトロチオベンゾエートでキャップ付加される。この実施形態では、エルマン試薬、別名5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)およびDTNBは、細胞株、例えばCHO細胞株によって発現される抗体にチオニトロベンゾエート(TNB)を加えるように作用する。これに続いて抗体精製が行なわれ、チオニトロベンゾエートキャッピングを用いて大部分のタンパク質種が産生され得る。発明実施例1を参照のこと。
【0014】
本発明の別の実施形態では、システイン化、非キャップ付加、およびTNB−キャップ付加抗体がほぼ同じように作用したので、抗体のTNBキャッピングは、例えばDSCによって測定されたように、熱安定性を低下させない。発明実施例2を参照のこと。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、TNB−キャップ付加抗体は、TSPPによって選択的に還元される。この実施形態では、このプロセスで生じた遊離チオール基は、鎖間還元および再酸化ステップなしに直接的な薬物コンジュゲーションを可能にし、言い換えるとin vitro操作プロセスを速める。実施例3を参照のこと。
【0016】
本明細書で指摘したように、本発明の別の実施形態には、追加のタイプの薬物コンジュゲーション化学反応に有用なTNBまたは類似の不安定部分以外のケミカル「ハンドル」を含む、操作されたシステインキャッピングの形成が含まれる。これらのハンドルは、新規なアルキル化ケミカルスペーサーを培地に加えることによって、抗体に付加されている。アルキル化ケミカルスペーサーは、アルデヒド、ケトン、アジド、およびアルキンなどのケミカルハンドルを含有する。ケトンおよびアルデヒドの場合には、これらのケミカルハンドルは、追加のコンジュゲーション化学反応のためにアミノオキシ求核試薬またはヒドラジドと反応でき、オキシム/ヒドラゾン生成物を形成する。アジドおよびアルキンの場合には、これらのケミカルハンドルは、付加環化コンジュゲーションを可能にし得る。追加のアルキル化ケミカルスペーサーには、ビオチンの機能的ドメインが含まれ、それはストレプアビジンとビオチンの間の特異的な密接な非共有結合性相互作用を可能にする。ケミカルハンドルのマレイミドトリオキサ−4−ホルミルベンズアミド(MTFB)、ジベンゾシクロオクチル−ポリエチレンマレイミド(DBCO−PEG4−マレイミド)、およびマレイミド−PEG2−ビオチン(MPB)について論じている実施例4を参照のこと。
【0017】
したがって、アルキル化ケミカルスペーサーを培地に加えることによって、アルデヒド基などのケミカルハンドルからなる新規なCys−キャッピングが操作され得ることを本発明者らはさらに実証した。これらの新規なキャッピングは、一部分はここで示すように、追加の薬物コンジュゲーション化学反応のためのケミカルハンドルを提供し得る:
【0018】
【化4】
ここで:
【0019】
【表1】
【0020】
他の実施形態には、ゼロまたは低レベルのシステイン−、シスチン−およびグルタチオンを有する培地におけるHEK293一過性またはCHO安定発現による完全な非キャップ付加システイン突然変異抗体の生成が含まれる。実施例5および6を参照のこと。
【0021】
本出願では、ゼロまたは低レベルのシステイン−、シスチン−およびグルタチオン−を有する培地の記述または考察は:0〜5mMシステイン、好ましくは0〜1mMシステイン、最も好ましくは0.2mMシステイン;および0〜5mMグルタチオン、好ましくは0〜1mMグルタチオン、最も好ましくは0.2mMグルタチオンを有する培地を意味する。これらの特徴的な成分レベルを有する培地は、市販されており、または従来の技術を用いて市販されている培地から容易に調製することができる。時折、ゼロまたは低レベルのシステイン−、シスチン−およびグルタチオン−を有するこれらの培地は、「トリプルフリー」培地、または「トリプルロー」培地と呼ばれる。
【0022】
本明細書では、用語「アルキル」は、それ自体または別の用語の一部として、示された数の炭素原子を有する、直鎖または分枝状の飽和炭化水素を意味する(例えば、「C1〜C6」アルキルは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する)。アルキル基は通常、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子、より好ましくは1〜4個の炭素原子を含む。炭素原子の数が示されないとき、アルキル基は、1〜8個、または1〜6個の炭素原子を有する。代表的な直鎖C1〜C8アルキルには、それだけには限らないが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチルおよびn−オクチルが含まれ;一方、分枝状C1〜C8アルキルには、それだけには限らないが、−イソプロピル、−sec−ブチル、−イソブチル、−tent−ブチル、−イソペンチル、および−2−メチルブチルが含まれ;不飽和C2〜C8アルキルには、それだけには限らないが、ビニル、アリル、1−ブテニル、2−ブテニル、イソブチレニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−メチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、2,3−ジメチル−2−ブテニル、1−ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、アセチレニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニルおよび3−メチル−1−ブチニルが含まれる。本明細書における「アルキル」への言及は、上記のような非置換および置換部分を意味する。
【0023】
本明細書では、用語「アリール」は、それ自体または別の用語の一部として、親芳香族環系の単一の炭素原子から1個の水素原子を除去することによって生じる、5〜20個、好ましくは5〜14個もしくは6〜14個の炭素原子からなる置換または非置換の一価の炭素環式芳香族炭化水素基を表す。典型的なアリール基には、それだけには限らないが、ベンゼン、置換ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニルなどに由来する基が含まれる。
【0024】
「ヘテロアリール」は、2〜10個、2〜14個、または2〜20個の炭素原子、好ましくは3〜8個の炭素原子(環員とも呼ばれる)および独立にN、O、PまたはSから選択される1〜4個のヘテロ原子環員を有し、親環系の環原子から1個の水素原子を除去することによって生じる、一価の置換または非置換の芳香族単環式、二環式または三環式環系を意味する。ヘテロシクリル中の1個または複数のN、CまたはS原子は、酸化されていてもよい。ヘテロアリールは、単環式、二環式、または三環式環系であってよい。代表的なヘテロアリールには、それだけには限らないが、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサジアゾリル、ピリジル、フリル、ベンゾフラニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、ピロリル、インドリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソオキサゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、ピリミジル、アゼピニル、オキセピニル(oxepinyl)、およびキノキサリニルが含まれる。ヘテロアリールは、置換されていてもよい。
【0025】
本明細書では、用語「所定の」は、たまたま存在している化学成分とは対照的に、本発明の専門家によって選択された化学成分を意味する。したがって、「所定のキャッピング部分」は、抗体のシステイン残基(複数可)上に配置する(すなわち、共有結合する)ための、本発明の専門家によって選択されたキャッピング部分である。所定のキャッピング部分は通常、抗体上に特定および所望のキャップの存在をもたらす培地に添加するために選択された成分である。所定のキャッピング部分は、汎用培地では見られない。
【0026】
他の実施形態には、ペイロードまたはリンカー−ペイロード種と非キャップ付加システイン突然変異抗体との直接的なコンジュゲーションが含まれる。
【0027】
IgG1、IgG2、およびIgG4の組換え抗体において非常に低いパーセンテージの遊離システイン残基しか以前に検出されていない(ZhangおよびCzupryn 2002)ので、哺乳動物細胞における抗体中での完全な非キャップ付加溶媒曝露不対Cysの生成が珍しいことは注目すべきことである。正常なIgGのためのカノニカルCys残基は、たぶんジスルフィド結合している。低レベルの遊離Cysは、おそらく2つの供給源によるものである:1つの供給源は、重鎖間または重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合の分解である。鎖間ジスルフィド結合を形成しているCys残基は、高度に溶媒曝露されているので、還元されやすい(LiuおよびMay 2012)。基本的な条件下では、ジスルフィド結合は、Cysに戻ることができるデヒドロアラニンと過硫過塩に分解することができる(Florence 1980)。他の供給源は、生合成中の鎖内ジスルフィド結合の不完全な形成である。鎖内Cysおよびジスルフィド結合は、反平行β−シート構造内に埋められ、溶媒に曝露されない。本研究の抗体に存在しない非カノニカル生殖細胞系Cysは、抗体可変領域に存在することが知られている。ヒト生殖細胞系におけるその頻度は、比較的まれであり、6%〜10%の範囲である(Ehrenmann,Kaasら 2010、Buchanan,Clementelら 2013)。いくつかの報告(Kroon,Baldwin−Ferroら 1992、Johnson,Oliverら 1997、Gadgil,Bondarenkoら 2006、Banks,Gadgilら 2008、Buchanan,Clementelら 2013)は、これらの非カノニカルCysがタンパク質の安定性および凝集にほとんど影響を及ぼさないことを示す。これらの非カノニカルCysのいくつかは、溶媒曝露およびシステイン化されていることがわかっている(Banks,Gadgilら 2008、Buchanan,Clementelら 2013)。これらの非カノニカルCysのシステイン化は、本研究の発見によれば、おそらく哺乳動物細胞の外で起こる。
【0028】
チオール感受性は、酸化的環境などの外因性要因だけでなく、溶媒露出度(solvent
accessibility)および局所Cys環境などの内因性要因にも依存するようである。Fab、Fc、重鎖、または軽鎖の領域におけるCys位置は、システイン化修飾に影響を及ぼす要因ではない(Banks,Gadgilら 2008、Junutula,Raabら 2008、Chen,Nguyenら 2009、Buchanan,Clementelら 2013)。システイン化またはグルタチオン化の生物学的重要性は、明らかではない。チロシンホスファターゼおよび分子シャペロンなどのいくつかのタンパク質は、酸化還元感受性Cysを含有する(Georgiou 2002、Barford 2004)。抗体では、非カノニカルCysからのシステイン化の除去は、タンパク質の2次構造に影響しないが、凝集を減少させ融解温度を上昇させることによって、タンパク質の3次または4次構造を明らかに改善する(Banks,Gadgilら 2008)。本研究のFc Cysでは、システイン化は、タンパク質の構造安定性に全く影響を及ぼさない。
【0029】
新規な細胞メカニズムが解明された:不対表面システインのCysキャッピングは哺乳動物細胞の外で起こる可能性がある − 本研究からのデータに基づいて、Cysキャッピング修飾の仮説モデルが提案される(
図7)。抗体重鎖および軽鎖ポリペプチドは、Sec61複合体を介してER内腔に転位される(SchwartzおよびBlobel 2003)。天然なジスルフィド結合は、Ero1経路または他の酸化的供給源からの酸化力を有するPDIタンパク質ファミリーを介して形成される。間違ったジスルフィド結合は、細胞質ゾルグルタチオンレダクターゼから生成されるGSHによって還元され(Chakravarthi,Jessopら 2006)、膜輸送体を通して輸入される(Hwang,Sinskeyら 1992、Banhegyi,Lusiniら 1999、Le Gall,Neuhofら 2004)。完全に組み立てられたCys突然変異抗体は、非キャップ付加のままであり、最終的に培地に分泌される。培地中のCtnおよびGSHは、ジスルフィド交換によって抗体の遊離Cysとジスルフィド結合を形成し、続いて培地中の溶存酸素を酸化する。
【0030】
完全な非キャップ付加Cysが哺乳動物細胞で生成できるという事実は、ER内腔についてのいくつかの興味深い生理学的酸化還元状態を明らかにした可能性がある。第一に、ER内腔は、細胞外空間よりも著しく酸化されていない。これは、適切なジスルフィド形成は、ER内腔で酸化および還元反応の両方を必要とするという意見と一致している。天然および非天然なジスルフィドは、一時的に形成され、正しい立体構造を達成するために還元される。ERにおける酸化および還元反応の間の正確な平衡は、これらの共有結合がタンパク質フォールディングの完了まで動的なままであるのに重要であることが提案されている。ERを過剰酸化し、非天然な結合を安定させること、またはERを還元し、ジスルフィド形成を防止することのいずれかは、ERストレス反応を誘発し得る(MargittaiおよびSitia 2011)。Ero1および他の酸化経路は、ジスルフィド形成のための酸化力に寄与し(Frand,Cuozzoら 2000、SevierおよびKaiser 2006、MargittaiおよびBanhegyi 2010、Sevier 2010)、ER内腔を細胞質ゾルよりも酸化させる(Hwang,Sinskeyら 1992)。同時に、細胞質ゾルGSHレダクターゼによって生成された還元型のGSHは、ER内腔に輸入して還元力をもたらすことができる(JessopおよびBulleid 2004、Chakravarthi,Jessopら 2006、Gomez,Vinsonら 2010)。酵母細胞は、GSH合成経路なしで生存でき、酵母のER内腔が哺乳動物ERよりも酸化されていることを示唆する。酵母は独特な細胞生物であるので、哺乳動物細胞よりも複雑でない細胞機能を実行するために、ジスルフィド結合を有するより少ないおよびより単純な細胞外タンパク質が必要とされる可能性がある。その上、PDIが、分解のための逆輸送(retro-translocation)のためのER中のミスフォールドしたタンパク質を減少させ(KopitoおよびSitia 2000)、細胞質ゾル輸送のためのコレラ毒素A1鎖をアンフォールドし(Tsai,Rodighieroら 2001)、かつ細胞表面に輸出されたときにレダクターゼとして働くことができる(Yoshimori,Sembaら 1990、JordanおよびGibbins 2006)という発見によってERがそれほど酸化されていないことがさらに支持されている。
【0031】
ER内腔についての第二の発見は、ER内腔中の遊離GSHまたはCys、およびタンパク質の遊離Cys残基が、一緒にジスルフィド結合を形成するための不十分なPDIの基質であることである。細胞外タンパク質のジスルフィド結合形成は、PDIおよび酸化還元酵素ファミリーメンバーによって触媒され、そのジスルフィド結合はEro1から移される。ERにおいてGSH/Cysと抗体の操作されたCysの間でジスルフィド結合が少しも形成されないので、GSHが酸化されたPDIを還元できるにもかかわらず、それらは酸化還元酵素の基質ではない(Chakravarthi,Jessopら 2006)。ERに位置するGSHの大部分は、ERタンパク質との混合ジスルフィドであることが判明したことが報告されている(Bass,Ruddockら 2004)。GSHとの混合ジスルフィドを形成するERタンパク質は、PDIおよび他の酸化還元酵素である可能性がある。システイン化およびグルタチオン化の他に、第3のタイプのキャッピングが、操作されたCysとの余分な軽鎖形成ジスルフィド結合として特定されていることは言及する価値がある(Gomez,Vinsonら 2010)。三重軽鎖形成が、細胞内GSH生成ならびにLCとHCの間のmRNA比によって影響されることがわかったので、この修飾のための現場はER内腔である可能性が高い。
【0032】
キャッピング率がロット間で異なる理由は長い間知られていなかった(Banks,Gadgilら 2008、Junutula,Raabら 2008、Chen,Nguyenら 2009、Gomez,Vinsonら 2010、Buchanan,Clementelら 2013)。本発明者らのデータは、これが細胞増殖および培地調製によって影響を受け得る培地中の不十分なCys/Ctnに起因することを示す。グルタチオン化された物質は、安定なCHOのHEK293の一過性培養または短期培養で検出されなかったことに注目することは興味深い。これは、典型的な哺乳動物培地中のGSH濃度が極めて低いという事実と一致する。他方では、細胞質ゾルは、約2〜10mM GSHを含有する(MeisterおよびAnderson 1983)。グルタチオン化された物質は、安定なCHO 12日培養した物質で検出でき(未発表データ)、GSH供給源が細胞溶解からである可能性が高いことを示唆している。実際には、培地中のGSH濃度がより長い培養日数に従って徐々に増大し、200μMまでほぼ10倍高くなり得ることが報告されている(Gomez,Vinsonら 2010)。本研究では、過剰なGSHまたはCtnを培養物に加えることにより、完全にグルタチオン化されたまたはシステイン化されたCys突然変異抗体を生成することができる。精製したCys抗体種のグルタチオン化は、Cys/Ctn酸化還元対を用いることによってin vitroで効果的に除去しシステイン化と交換できることがこれまでに報告されている(Chen,Nguyenら 2009)。GSHを用いてシステイン化を除去し、in vitroでグルタチオン化を生じさせることは、まだ報告されていない。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、所定のキャッピング部分を抗体上の1個または複数の不対システイン残基上に結合させる方法を提供しており、前記方法は:抗体発現細胞株を、前記所定のキャッピング部分、または前記所定のキャッピング部分の前駆体を含有する培地中で成長させるステップを含み、ここで前記細胞株は、前記抗体を発現し、かつここで前記所定のキャッピング部分は、前記発現した抗体上の少なくとも1個の前記不対システイン残基に共有結合によって結合している。キャッピング部分は、5−チオ−2−ニトロ安息香酸(TNB)、2−メルカプトピリジン、ジチオジピリジン(DTDP)、4−チオ安息香酸、2−チオ安息香酸、4−チオベンゼンスルホン酸、2−チオベンゼンスルホン酸、スルホン酸メチル(Ms)、p−トルエンスルホネート(Ts)およびトリフルオロメタンスルホネート(Tf)からなる群から選択される1種であってよいが、他のキャッピング部分も可能である。
【0034】
このような他のキャッピング部分には、上記のように、いわゆるケミカルハンドルキャッピング部分、例えばマレイミドトリオキサ−4−ホルミルベンズアミド(MTFB)と、より一般的に、結合したアジドおよびアルキン(追加のクリック化学反応を促進する)、結合したアルデヒドおよびケトン(追加のオキシム化学反応を促進する)、結合したハロアセチル(チオールおよびアミン化学反応を促進する)、および結合したマレイミド(追加のチオール化学反応を促進する)などが含まれる。付加結合化学反応(addition linking chemistry)は、本明細書に記載されているように、また既知の技術に従って行なうことができる。
【0035】
本発明はまた:(a)キャップ付加抗体を細胞培養で生成するステップ(ここで前記抗体上の1個または複数の不対システイン残基が、硫黄結合によって1個または複数の所定のキャッピング部分と共有結合している);(b)抗体鎖間硫黄結合を還元することなく前記キャッピング部分を前記抗体から除去できる還元剤に前記キャップ付加抗体を曝露するステップ;および(c)酸化剤を導入することなく、前記抗体上の1種または複数の還元された硫黄結合を、結合部分を介してペイロードとコンジュゲートするステップを含む、抗体薬物コンジュゲート(ADC)またはタンパク質コンジュゲートを生成する方法を提供する。ADCを生成する前述の方法を行なってもよく、ここでキャッピング部分は、5−チオ−2−ニトロ安息香酸(TNB)、2−メルカプトピリジンおよびジチオジピリジン(DTDP)からなる群から選択される。5−チオ−2−ニトロ安息香酸(TNB)によるキャッピングは、特に重要である。
【0036】
このようなキャッピングが通常起こり、続いて不対システイン残基で選択的な還元が行なわれる。
【0037】
上記方法で使用されるペイロードは、ほとんどの場合アウリスタチン、スプライソスタチン、カリケアミシンまたは1種もしくは複数のCBI、CPIおよびCTIモノマーを含むダイマーである。それがアウリスタチンの場合、(2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド);(2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−3−{[(1S)−1−カルボキシ−2−フェニルエチル]アミノ}−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソプロピル]ピロリジン−1−イル}−3−メトキシ−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド);(2−メチル−L−プロリル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−3−{[(2S)−1−メトキシ−1−オキソ−3−フェニルプロパン−2−イル]アミノ}−2−メチル−3オキソプロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド,トリフルオロ酢酸塩);(2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−3−{[(2S)−1−メトキシ−1−オキソ−3−フェニルプロパン−2−イル]アミノ}−2−メチル−3−オキソプロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド);(2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−3−{[(1S,2R)−1−ヒドロキシ−1−フェニルプロパン−2−イル]アミノ}−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソプロピル]ピロリジン−1−イル}−3−メトキシ−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド);(2−メチル−L−プロリル−N−[(3R,4S,5S)−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−3−{[(1S)−1−カルボキシ−2−フェニルエチル]アミノ}−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソプロピル]ピロリジン−1−イル}−3−メトキシ−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド,トリフルオロ酢酸塩);モノメチルドラスタチン10;(N−メチルバリン−バリン−ドライソロイイン−ドラプロイン−ノルエフェドリン);および(N−メチルバリン−バリン−ドライソロイイン−ドラプロイン−フェニルアラニン)から選択することができる。
【0038】
上記方法(複数可)で使用されるリンカーは、しばしばmcまたはmcvcPABCであるが、例えば、国際公開WO15/110935に記載されているものを含む、多くの他のリンカーが本発明の範囲内である。本明細書では、「PABC」は、pアミノベンジルオキシカルボニルおよびそれから導出された部分、例えば構造:
【0039】
【化5】
またはその変異体を意味する。「VC」または「vc」は、ペプチドバリン−シトルリンを意味する。「MC」または「mc」は:
【0040】
【化6】
を意味する。本明細書では、「mcvcPABC」は、リンカー:
【0041】
【化7】
を意味する。
いくつかの実施形態では、上記の方法で使用される還元剤は、一般に式:
【0042】
【化8】
またはR
4−S−Hであり、ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4のそれぞれは、独立に、(C
1〜C
6)アルキル、(C
5〜C
7)アリールおよび(C
5〜C
7)ヘテロアリールからなる群から選択され、ここでR
1、R
2、R
3およびR
4のそれぞれは、独立に、SO
3Na、COOH、OH、OMe、NO
2およびNH
2から選択される1個もしくは複数の置換基で置換されていてもよい。
【0043】
しばしば、還元剤は、トリス(3−スルホフェニル)ホスフィン(TSPP):
【0044】
【化9】
である。
【0045】
本発明の実施形態には、キャッピング部分TNBが、ジ−TNB、別名エルマン試薬:
【0046】
【化10】
を用いて抗体に付加されて、細胞培養においてキャップ付加抗体を産生するものが含まれる。
【0047】
さらに、本発明の実施形態には、1個または複数の非キャップ付加不対システインを含む抗体を生成する方法が含まれる。非キャップ付加不対システインは、露出したチオール側鎖を有するシステイン残基と定義される。これらの遊離チオール基は、他のいかなる化学物質とも共有または非共有結合を一切形成しておらず、したがってそれらは化学コンジュゲーションへの反応性に富む。抗体中の非キャップ付加システイン残基の略図は次の通りである:
【0048】
【化11】
【0049】
この方法は:(a)低システイン、低シスチンおよび低グルタチオン培地中で抗体発現細胞を成長させるステップと、(b)発現された非キャップ付加抗体を回収するステップとを含む。この方法では、培地は通常、5mM未満、1mM未満または0.2mM未満のシステイン、5mM未満、1mM未満または0.2mM未満のシスチンおよび5mM未満、1mM未満または0.2mM未満のグルタチオンを含む。この方法ではまた、細胞株は、CHO、HEK293およびNSOからなる群から選択されてもよいが、もちろん他の細胞株は、本発明の範囲内である。
【0050】
その上、本発明の実施形態には、抗体薬物コンジュゲート(ADC)またはタンパク質コンジュゲートを生成する方法であるものが含まれ、前記方法は:(a)低システイン、低シスチンおよび低グルタチオン培地中で抗体発現細胞を成長させるステップと、(b)1個または複数の非キャップ付加不対システインを含む発現された抗体を回収するステップと、(c)リンカー−ペイロードを前記回収した抗体とコンジュゲートするステップとを含む。
【0051】
同様に、本発明には、1個または複数の非キャップ付加不対システインを含むリンカー−ペイロードを単離した抗体とコンジュゲートするステップを含む、抗体薬物コンジュゲート(ADC)またはタンパク質コンジュゲートを生成する方法が含まれる。