【解決手段】流体機器に用いられ環状のシール部10を有するフッ素樹脂成形体であって、前記シール部10は、フッ素樹脂成形体が流体機器に組み込まれたときに圧縮荷重を受ける方向に並ぶ突起部14とバックアップ部12とからなる。
流体機器に用いられ環状のシール部を有するフッ素樹脂成形体であって、前記シール部は、フッ素樹脂成形体が流体機器に組み込まれたときに圧縮荷重を受ける方向に並ぶ突起部とバックアップ部とからなるフッ素樹脂成形体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフッ素樹脂成形体は、環状のシール部を有するものである。ここで、「シール部を有するフッ素樹脂成形体」とは、シール機能に直接関わるシール部がフッ素樹脂成形体の一部を構成する場合を含むのはもちろんであるが、フッ素樹脂成形体の全部が実質的にシール部である場合を含む。前者の例として、外周縁が流体機器に固定されるダイヤフラム弁体を挙げることができ、後者の例として、いわゆるシールリングを挙げることができる。
【0012】
以下、本発明に係るフッ素樹脂成形体のシール部について、好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係るフッ素樹脂成形体のシール部の第1実施形態について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。
【0014】
図1には、環状に構成されたシール部10の断面が示されている。シール部10は、バックアップ部12と、バックアップ部12から突出する突起部14とからなる。バックアップ部12の断面形状は矩形であり、突起部14の断面形状は、該矩形の一つの辺上に底辺を置く二等辺三角形である。以下においては、便宜上、シール部10が流体機器に設けられた環状の取付溝(図示せず)に装着され固定される場合を想定して説明する。
【0015】
シール部10は、取付溝に固定される際に、バックアップ部12と突起部14が並ぶ方向、すなわちA−A方向に圧縮荷重を受ける。シール部10は、この圧縮荷重を受けると、弾性変形および塑性変形を伴いながら変形する。このとき、塑性変形領域は、主に突起部14に集中する。バックアップ部12は、突起部14に近接する領域で塑性変形し、それ以外の領域の一部において弾性変形する。
【0016】
突起部14が塑性変形することにより、突起部14と相手部材(図示せず)との隙間が、突起部14先端の環状線に沿ってすべて埋め尽くされる。換言すれば、突起部14の先端が、相手部材の表面形状にぴったりとなじむように変形する。そして、突起部14は、弾性変形したバックアップ部12から弾性反力を受けるので、相手部材に強く押し付けられ、突起部14先端の環状線をシール線として、高い面圧によるシール作用を得ることができる。なお、初期状態において、突起部14の先端には、0.5R程度のアールが形成されていてもよい。
【0017】
必要なシール性が確保されるためには、シール部10に対する圧縮荷重を解放したときに、シール部10が所定以上の復元性を有していなければならない。しかも、圧縮荷重が加わってから少なくとも耐用年数に相当する期間が経過するまでは、圧縮荷重を解放したときに上記所定以上の復元性を維持していることが必要である。なお、一つのフッ素樹脂成形体のシール部10が取付溝内に装着固定されるのは、最初の1回限りであり、同じシール部10が何度も繰り返し装着固定されることはない。
【0018】
本出願人は、この復元性を表す指標である復元率が、突起部14の頂点の角度θとどのような関係にあるか、また、復元率の経時変化がどのようなものであるかを調べた。「復元率」とは、
図2に示すように、圧縮荷重が加わる前のシール部10の高さ(A−A方向の長さ)をH1、圧縮荷重が加わった後のシール部10の高さをH2、該圧縮荷重が解放された後のシール部10の高さをH3として、下記の式(1)で算出される値である。なお、H3がH2より大きくH1より小さいことはもちろんである。
[復元率]=(H3−H2)/(H1−H2)・・・式(1)
【0019】
試験片として用いたフッ素樹脂成形体は、バックアップ部12と突起部14とから構成されるシール部10のみからなる環状のフッ素樹脂成形体、すなわちシールリングである。初期状態において、シール部10の高さ(H1)は20mm、突起部14の高さhは1mmとなっている。また、断面形状が二等辺三角形である突起部14の頂点の角度θについては、初期状態において60度、90度および120度の3種類のものを用意した。
【0020】
そして、試験片を治具にセットし、バックアップ部12と突起部14が並ぶA−A方向に圧縮荷重を加え、シール部10の高さ(H2)が19.5mmとなるまで圧縮した。この状態で所定時間(以下「放置時間」という)放置した後に試験片を治具から外し、外してから1時間経過したときのシール部10の高さ(H3)を測定した。上記3種類の試験片のそれぞれについて、放置時間を最大6900時間(約290日)までの範囲で変更しながら、多数の測定データを得た。
【0021】
これらの測定データから算出した復元率ないし推測される復元率をもとに復元率の経時変化を示したものが
図3および
図4である。これらのグラフは、横軸に放置時間をとるとともに縦軸に復元率をとったもので、突起部14の頂点の角度θをパラメータとしている。
図3には、最大放置時間6900時間まで実際に測定したデータに基づく曲線が描かれており、
図4には、放置時間を10年まで延ばした場合に推測される外延部分を含む曲線が描かれている。
【0022】
図3に示されるように、復元率は、時間が経過するほど小さくなる。復元率が低下する割合は、放置した当初は大きく、その後次第に小さくなっていく。また、突起部14の頂点の角度θが小さくなると(120度→90度→60度)、復元率は小さくなり、復元率の経時変化を示す曲線は下方にシフトする。
【0023】
シール部10に要求される耐用年数を10年とし、必要なシール性を発揮するための復元率が45%以上であるとした場合、
図4から理解されるように、突起部14の頂点の角度θは、90〜120度の範囲にあればよい。突起部14の頂点の角度θが120度を超えると、シール性に問題が生じるほか、突起部14の応力解析によれば、接触点から遠い部分では変形が生じていないため、材料の無駄が生じる。
【0024】
ここで、圧縮荷重による変形の度合いを表す指標である「潰し率」は、前述のH1およびH2を用いた下記の式(2)で算出される。
[潰し率]=(H1−H2)/H1・・・式(2)
(H1−H2)は、いわゆる潰し代であり、上記の試験例では、潰し率は2.5%となっている。
【0025】
シール部の潰し率が小さ過ぎると、突起部14の先端を相手部材の表面形状になじませるための塑性変形、および、突起部14の先端を相手部材に押し付けるための弾性変形が十分になされない。シール部の潰し率が大き過ぎると、内部応力が大きくなり過ぎて塑性変形が生じる比率が高くなり、復元率が低下する。シール部の潰し率は1〜3%であることが好ましい。
【0026】
(第2実施形態)
次に、本発明に係るフッ素樹脂成形体のシール部の第2実施形態について、
図5を参照しながら説明する。第2実施形態のシール部20は、バックアップ部22の形状が第1実施形態のシール部10と異なっている。
【0027】
図5には、環状に構成されたシール部20の断面が示されている。シール部20は、バックアップ部22と、バックアップ部22から突出する突起部24とからなる。突起部24の断面形状は二等辺三角形である。バックアップ部22には、突起部24に隣接して突起部24の両側に溝部26、28が形成されている。
【0028】
一対の溝部26、28の断面形状は、突起部24の断面形状と同等な二等辺三角形であり、一対の溝部26、28の所定の表面26a、28aは、突起部24の表面と面一に連なっている。また、各溝部26、28の幅Wdは、突起部24の幅Wと等しくなっている。
【0029】
突起部24の両側に溝部26、28を形成することで、突起部24は、圧縮荷重が作用する方向だけでなく、それと垂直な方向にも変形し易くなるので、突起部24の変形が円滑に行われる。また、バックアップ部22が平坦な面である場合には復元に寄与しない部分もあるが、突起部24の両側に溝部26、28を形成することで、復元に寄与しない部分の少なくとも一部を取り除き、材料の節約を図ることができる。
【0030】
本実施形態では、一対の溝部26、28の断面形状を二等辺三角形としたが、該断面形状は半円形等であってもよい。また、一対の溝部26、28の幅Wdを突起部24の幅Wと同一としたが、該幅Wdは、例えば、突起部24の幅Wの0.5〜1.5倍の範囲で選択すればよい。突起部24の頂点の角度θについては、第1実施形態と同様に、90〜120度とするのが好ましい。
【0031】
(第3実施形態)
次に、本発明に係るフッ素樹脂成形体のシール部の第3実施形態について、
図6を参照しながら説明する。第3実施形態のシール部30は、バックアップ部32の形状等が第1実施形態のシール部10と異なっている。
【0032】
図6には、環状に構成されたシール部30の断面が示されている。シール部30は、上下対称に形成されており、バックアップ部32と、バックアップ部32の上下両側から突出する一対の突起部34、36とからなる。バックアップ部32は、断面形状が上下方向に細長い矩形状であり、左右両側に窪み32a、32bが形成されている。一対の突起部34、36は、断面形状が二等辺三角形であり、その底辺の長さLはバックアップ部32の幅Wに等しい。
【0033】
バックアップ部32の概ねすべてが弾性変形に寄与する形状となるようにするため、初期状態において、バックアップ部32の幅Wは、シール部30全体の高さH1の15〜25%とするのが好ましい。これにより、材料を最大限に節約することができる。
【0034】
バックアップ部32の左右両側に窪み32a、32bを形成することにより、材料の節約を図ることができるほか、窪み32a、32bに作用する流体圧による自封効果を期待することができる。すなわち、窪み32a、32bに作用する流体圧は、一対の突起部34、36の先端に向かう力となって作用し、一対の突起部34、36を相手部材に対してさらに強く押し付けることができる。窪み量Cは、バックアップ部32の幅Wの5〜10%とするのが好ましい。突起部34、36の頂点の角度θは、第1実施形態と同様に、90〜120度とするのが好ましい。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明に係るフッ素樹脂成形体のシール部の第4実施形態について、
図7を参照しながら説明する。第4実施形態のシール部40は、突起部が複数設けられている点で、第1実施形態のシール部10と異なっている。
【0036】
図7には、環状に構成されたシール部40の断面が示されている。シール部40は、バックアップ部42と、バックアップ部42から突出する二列の突起部44、46とからなる。第1突起部44と第2突起部46は、互いに断面形状が同一の二等辺三角形であり、互いに接するように並んで配置されている。
【0037】
初期状態において、第1突起部44と第2突起部46との間隔Xは、シール部40の高さH1の15〜25%とするのが好ましい。これにより、材料の節約を図ることができる。また、第1突起部44と第2突起部46のそれぞれの頂点の角度θは、第1実施形態と同様に、90〜120度とするのが好ましい。
【0038】
図8および
図9に、第3実施形態に係るシール部を有するフッ素樹脂成形体としてのシールリング50を電磁作動式の二方弁52に適用した例を示す。この二方弁52は、ソレノイドコイル54で駆動される可動鉄心56と一体の弁体58によって、バルブハウジング60の内部に形成された流路が開閉されるものである。
【0039】
金属製のバルブハウジング60の内部には、第1ポート62と交差するように、円筒状の隔壁64が設けられている。隔壁64の先端には、弁体58が当接可能な弁座66が設けられており、隔壁64の周囲には、第1ポート62と連通する環状室68が形成されている。バルブハウジング60には、環状室68の外周側から上方に延びる円筒状の突出壁70が設けられている。シールリング50は、突出壁70の上端に形成され上方に開口する取付溝72に装着固定され、環状室68を外部からシールする機能を有する。
【0040】
シールリング50を取付溝72に装着固定するに際しては、まず、シールリング50を取付溝72に挿入する。このとき、シールリング50は、取付溝72から所定長さだけ上方に突出している。次に、バルブハウジング60の隔壁64の上部に、弁体58、可動鉄心56、コイルスプリング受け74、コイルスプリング76を配置した後、フランジ部78を有する金属製のスリーブ80を可動鉄心56の外周に嵌合し、さらに、カバー体82をバルブハウジング60の突出壁70の外周に嵌合する。
【0041】
そして、カバー体82をバルブハウジング60に対して図示しないボルト等の手段によって固定すると、シールリング50は、スリーブ80のフランジ部78によって下方に押しつけられ、取付溝72内で圧縮され固定される。このとき、シールリング50は、潰し率が1〜3%となるように圧縮される。シールリング50が取付溝72に挿入されたときの前記所定の突出長さは、潰し率が1〜3%となるような長さとなっている。
【0042】
図10および
図11に、第2実施形態のシール部と第4実施形態のシール部とを組み合わせた形態のシール部を有するフッ素樹脂成形体としてのバルブハウジング(第1ボデイ90)をエアオペレート式の弁装置92に適用した例を示す。なお、
図11は、
図10のB部拡大図であるが、便宜上、第1ボデイ90のみを示してある。この弁装置92は、空気圧で駆動されるピストン94にリテーナ96を介して連結された弁体98によって、第1ボデイ90の内部に形成された流路が開閉されるものである。
【0043】
円筒状に形成された第1ボデイ90の底部壁100には、中央に位置する第1ポート102と、第1ポート102の外側に位置する第2ポート104とが設けられている。第1ボデイ90の内部には、第1ポート102と第2ポート104を相互に連通する内部空間106が形成されている。内部空間106に臨む第1ポート102の周縁部には、弁体98が当接可能な弁座108が形成されている。
【0044】
第1ボデイ90の上面には、環状の凹部110が形成されており、該凹部110の底面には、断面形状が二等辺三角形である3列の環状の突起部112a、112b、112cが設けられている。第1突起部112aと第2突起部112bとの間には、断面形状が半円形である環状の第1溝部114aが設けられ、第2突起部112bと第3突起部112cとの間には、断面形状が半円形である環状の第2溝部114bが設けられている。第1ボデイ90において、凹部110よりも下方に位置する部分がバックアップ部を構成する。
【0045】
第1ボデイ90の上方に配置される第2ボデイ116は、第1ボデイ90よりも硬い材質の樹脂等から構成されている。第2ボデイ116の内部には、ピストン94が摺動可能に設けられ、第2ボデイ116の底部には、第1ボデイ90の凹部110に嵌合する環状の突出部118が設けられている。第2ボデイ116は、図示しないボルト等の手段を用いて第1ボデイ90に固定される。
【0046】
第2ボデイ116が第1ボデイ90に固定されると、第2ボデイ116の突出部118の下面によって3列の突起部112a、112b、112cが下方に押し付けられる。これにより、3列の突起部112a、112b、112cとバックアップ部が変形し、第1ボデイ90の内部空間106が外部からシールされる。
【0047】
本発明に係るフッ素樹脂成形体は、上述の各実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することのない範囲で、種々の形態を採り得ることはもちろんである。