【解決手段】車両のサスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御装置において、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、車両のロール角の位相の周期と車両のピッチ角の位相の周期とが、同期状態に近づくように、かつ、車両の前輪側において、伸び側の減衰力の大きさが縮み側の減衰力の大きさより大きくなるように、かつ、車両の後輪側において、縮み側の減衰力の大きさが伸び側の減衰力の大きさ以上となるように設定する目標制御量算出部(89)を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0011】
[車両の構成]
図1は、本実施形態に係る車両900の構成の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、車両900は、懸架装置(サスペンション)100、車体200、車輪300、タイヤ310、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、エンジン500、ECU(Electronic Control Unit)(制御装置、制御部)600、発電装置700及びバッテリ800を備えている。ここで、懸架装置100及びECU600は、本実施形態に係るサスペンション装置を構成する。
【0012】
タイヤ310が装着された車輪300は、懸架装置100によって車体200に懸架されている。車両900は、4輪車であるため、懸架装置100、車輪300及びタイヤ310は、4輪のそれぞれに設けられている。
【0013】
なお、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪のタイヤ及び車輪をそれぞれ、タイヤ310A及び車輪300A、タイヤ310B及び車輪300B、タイヤ310C及び車輪300C、並びに、タイヤ310D及び車輪300Dとも称する。以下、同様に、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪にそれぞれ付随した構成を、符号「A」「B」「C」及び「D」を付して表現することがある。
【0014】
懸架装置100は、油圧緩衝装置(アブソーバ)、アッパーアーム及びロアーアームを備えている。また、油圧緩衝装置は、一例として、当該油圧緩衝装置が発生させる減衰力を調整する電磁弁であるソレノイドバルブを備えている。ただし、これは本実施形態を限定するものではなく、油圧緩衝装置は、減衰力を調整する電磁弁として、ソレノイドバルブ以外の電磁弁を用いてもよい。例えば、上記電磁弁として、電磁流体(磁性流体)を利用した電磁弁を備える構成としてもよい。
【0015】
エンジン500には、発電装置700が付設されており、発電装置700によって生成された電力がバッテリ800に蓄積される。
【0016】
運転者の操作する操舵部材410は、ステアリングシャフト420の一端に対してトルク伝達可能に接続されており、ステアリングシャフト420の他端は、ラックピニオン機構470に接続されている。
【0017】
ラックピニオン機構470は、ステアリングシャフト420の軸周りの回転を、ラック軸480の軸方向に沿った変位に変換するための機構である。ラック軸480が軸方向に変位すると、タイロッド及びナックルアームを介して車輪300A及び車輪300Bが転舵される。
【0018】
トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に印加される操舵トルク、換言すれば、操舵部材410に印加される操舵トルクを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号をECU600に提供する。より具体的には、トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に内設されたトーションバーの捩れを検出し、検出結果をトルクセンサ信号として出力する。なお、トルクセンサ430として、ホールIC、MR素子、磁歪式トルクセンサ等の周知のセンサを用いてもよい。
【0019】
舵角センサ440は、操舵部材410の舵角を検出し、検出結果をECU600に提供する。
【0020】
トルク印加部460は、ECU600から供給されるステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを、ステアリングシャフト420に印加する。トルク印加部460は、ステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを発生させるモータと、当該モータが発生させたトルクをステアリングシャフト420に伝達するトルク伝達機構とを備えている。
【0021】
なお、上述の説明において「トルク伝達可能に接続」とは、一方の部材の回転に伴い他方の部材の回転が生じるように接続されていることを指す。例えば、一方の部材と他方の部材とが一体的に成形されている場合、一方の部材に対して他方の部材が直接的又は間接的に固定されている場合、及び、一方の部材と他方の部材とが継手部材等を介して連動するよう接続されている場合を少なくとも含む。
【0022】
また、上記の例では、操舵部材410からラック軸480までが常時機械的に接続されたステアリング装置を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではない。例えば、本実施形態に係るステアリング装置は、例えばステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置であってもよい。ステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置に対しても本明細書において以下に説明する事項を適用することができる。
【0023】
ECU600は、車両900が備える各種の電子機器を統括制御する。例えば、ECU600は、トルク印加部460に供給するステアリング制御量を調整することにより、ステアリングシャフト420に印加するアシストトルク又は反力トルクの大きさを制御する。
【0024】
また、ECU600は、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して、サスペンション制御量を供給することによって当該ソレノイドバルブの開閉を制御する。この制御を可能とするために、ECU600からソレノイドバルブへ駆動電力を供給する電力線が配されている。
【0025】
また、車両900は、車輪300毎に設けられ各車輪300の車輪速を検出する車輪速センサ320、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350、エンジン500が発生させるトルクを検出するエンジントルクセンサ510、エンジン500の回転数を検出するエンジン回転数センサ520、及びブレーキ装置が有するブレーキ液に印加される圧力を検出するブレーキ圧センサ530を備えている。これらの各種センサによる検出結果は、ECU600に供給される。
【0026】
なお、図示は省略するが、車両900は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのシステムであるABS(Antilock Brake System)、加速時等における車輪の空転を抑制するTCS(Traction Control System)、及び、旋回時のヨーモーメント制御又はブレーキアシスト機能等のための自動ブレーキ機能を備えた車両挙動安定化制御システムであるVSA(Vehicle Stability Assist)制御可能なブレーキ装置を備えている。
【0027】
ここで、ABS、TCS、及びVSAは、推定した車体速に応じて定まる車輪速と、車輪速センサ320によって検出された車輪速とを比較し、これら2つの車輪速の値が、所定の値以上相違している場合にスリップ状態であると判定する。ABS、TCS、及びVSAは、このような処理を通じて、車両900の走行状態に応じて最適なブレーキ制御又はトラクション制御を行うことにより、車両900の挙動の安定化を図るものである。
【0028】
また、上述した各種のセンサによる検出結果のECU600への供給、及び、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。
【0029】
[サスペンション制御部]
以下では、参照する図面を替えて、ECU600について具体的に説明する。ECU600は、サスペンション制御部650を備えている。ECU600は、本実施形態のサスペンション制御装置の一態様である。
【0030】
サスペンション制御部650は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果を参照し、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブ105に対して供給するサスペンション制御量の大きさを決定する。「制御量の大きさを決定する」との処理には、制御量の大きさをゼロに設定する、すなわち、制御量を供給しない場合も含まれる。
【0031】
続いて、
図2を参照してサスペンション制御部650についてより具体的に説明する。
図2はサスペンション制御部650の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【0032】
サスペンション制御部650は、
図2に示すように、CAN入力部660、車両状態推定部670、操縦安定性・乗心地制御部680、及び制御量セレクト部690を備えている。
【0033】
CAN入力部660は、CAN370を介して各種の信号を取得する。例えば
図2に示すように、CAN入力部660は、以下の信号を取得する(括弧書きは取得元を示す)。
・4輪の車輪速(車輪速センサ320A〜D)
・ヨーレート(ヨーレートセンサ350)
・前後G(前後Gセンサ340)
・横G(横Gセンサ330)
・ブレーキ圧(ブレーキ圧センサ530)
・エンジントルク(エンジントルクセンサ510)
・エンジン回転数(エンジン回転数センサ520)
・舵角(舵角センサ440)
・操舵トルク(トルクセンサ430)
【0034】
車両状態推定部670は、CAN入力部660が取得した各種の信号を参照して車両900の状態を推定する。車両状態推定部670は、推定結果として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度(サスペンションストローク速度)、ピッチレート、ロールレート、転舵時ロールレート、及び、加減速時ピッチレートを出力する。
【0035】
車両状態推定部670は、
図2に示すように、加減速・転舵時補正量算出部671、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673、及び、状態推定用一輪モデル適用部674を備えている。
【0036】
加減速・転舵時補正量算出部671は、ヨーレート、前後G、4輪の車輪速、ブレーキ圧、エンジントルク、及びエンジン回転数を参照して、車体前後速度、内外輪差比、及び調整ゲインの算出を行い、算出結果を状態推定用一輪モデル適用部674に供給する。
【0037】
加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、前後G、及び横Gを参照して、転舵時ロールレート、及び加減速時ピッチレートを算出する。算出結果は、操縦安定性・乗心地制御部680に供給される。
【0038】
加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、制御量セレクト部690の出力するサスペンション制御量を更に参照する構成としてもよい。また、ロールレート値は、車両900の傾きが所定の微小時間変化しなかった場合の基準値として「0」をとる構成とし、当該基準値からのずれとしてロールレートを表すものであってもよい。さらに、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、転舵時ロールレートに±0.5程度の不感帯を設けてもよい。ここで、符号は、例えば、車両900の左側を「+」、右側を「−」とする。
【0039】
状態推定用一輪モデル適用部674は、加減速・転舵時補正量算出部671による算出結果を参照して、各輪に対して状態推定用一輪モデルを適用し、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを算出する。算出結果は、操縦安定性・乗心地制御部680に供給される。
【0040】
操縦安定性・乗心地制御部680は、スカイフック制御部681、ロール姿勢制御部682、ピッチ姿勢制御部683、及び、バネ下制御部684を備えている。
【0041】
スカイフック制御部681は、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑制し、乗り心地を高める乗り心地制御(制振制御)を行う。スカイフック制御部681は、一例として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを参照して、スカイフック目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0042】
より具体的な一例として、スカイフック制御部681は、バネ上速度に基づいてバネ上−減衰力マップを参照することにより減衰力ベース値を設定する。また、スカイフック制御部681は、設定した減衰力ベース値に対してスカイフックゲインを乗じることによりスカイフック目標減衰力を算出する。そして、スカイフック目標減衰力とストローク速度とに基づいてスカイフック目標制御量を決定する。
【0043】
ロール姿勢制御部682は、転舵時ロールレート、舵角を示す舵角信号、及び、操舵トルクを示す操舵トルク信号を参照してロール姿勢目標制御量を算出することによってロール姿勢制御を行う。算出されたロール姿勢目標制御量は、制御量セレクト部690に供給される。ロール姿勢制御部682の具体的構成については後述する。
【0044】
ピッチ姿勢制御部683は、加減速時ピッチレートを参照してピッチ制御を行い、ピッチ目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0045】
バネ下制御部684は、4輪の車輪速を参照して、車両900のバネ下の制振制御を行い、バネ下制振制御目標制御量を決定する。決定結果は、制御量セレクト部690に供給される。
【0046】
制御量セレクト部690は、スカイフック目標制御量、ロール姿勢目標制御量、ピッチ目標制御量及びバネ下制振制御目標制御量のうち、最も大きい値を有する目標制御量を選択し、サスペンション制御量として出力する。
【0047】
[ロール姿勢制御部]
以下では、
図3を参照して、ロール姿勢制御部682についてより具体的に説明する。
図3は、本実施形態におけるロール姿勢制御部682の機能的構成の一例を示すブロック図である。ロール姿勢制御部682は、ロール角信号、実ピッチ角信号、舵角信号、舵角速信号、ロールレート信号及び操舵トルク信号を参照してロール姿勢目標制御量を算出する。
【0048】
ここで、ロール姿勢制御部682が参照するロール角信号としては、例えば、車両900がロール角センサを備える構成とし、当該ロール角センサからの出力をロール角信号として用いる構成とすることができるが、これに限定されない。例えば、車両状態推定部670が算出するロールレートを車両状態推定部670にて積分する構成とし、当該積分により得られるロール角をロール角信号として用いる構成としてもよい。
【0049】
また、ロール姿勢制御部682が参照する実ピッチ角信号としては、例えば、車両900がピッチ角センサを備える構成とし、当該ピッチ角センサからの出力をピッチ角信号として用いる構成とすることができるが、これに限定されない。例えば、車両状態推定部670が算出するピッチレートを車両状態推定部670にて積分する構成とし、当該積分により得られるピッチ角を実ピッチ角信号として用いる構成としてもよい。
【0050】
また、ロール姿勢制御部682が参照する舵角速信号としては、CAN入力部660が出力する舵角信号を例えば操縦安定性・乗心地制御部680にて微分する構成とし、当該微分によって得られる舵角速を舵角速信号として用いる構成としてもよい。
【0051】
ここで、ロール姿勢目標制御量は、サスペンション制御量の候補となる目標制御量、換言すれば、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量となり得る。例えば、ロール姿勢制御部682が算出するロール姿勢目標制御量は、制御量セレクト部690によって選択された場合、サスペンション制御量となる。したがって、ロール姿勢制御部682はサスペンション制御量を算出する、と表現することもできる。
【0052】
図3に示すように、ロール姿勢制御部682は、舵角目標制御量算出部81、舵角速目標制御量算出部82、ロールレート目標制御量算出部83、操舵トルク目標制御量算出部84、操舵トルク速算出部85、操舵トルク速目標制御量算出部86、操舵トルク由来目標制御量選択部87、ロール姿勢由来目標制御量選択部88、及びロール姿勢目標制御量算出部89を備えている。
【0053】
舵角目標制御量算出部81は、舵角信号の示す舵角を参照して舵角目標制御量を算出する。舵角速目標制御量算出部82は、舵角速信号を参照して舵角速目標制御量を算出する。舵角目標制御量算出部81及び舵角速目標制御量算出部82は、いずれも、舵角信号を参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような目標制御量を算出する。
【0054】
ロールレート目標制御量算出部83は、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673から供給される転舵時ロールレートを参照してロールレート目標制御量を算出する。
【0055】
操舵トルク目標制御量算出部84は、操舵トルク信号の示す操舵トルク信号を参照して操舵トルク目標制御量を算出する。操舵トルク速算出部85は、操舵トルク信号の示す操舵トルクの時間変化を参照することによって操舵トルク速を算出する。操舵トルク速目標制御量算出部86は、車両900の4輪のそれぞれについて、操舵トルク速算出部85が算出した操舵トルク速を参照して操舵トルク速目標制御量を算出する。
【0056】
このように操舵トルク目標制御量算出部84及び操舵トルク速目標制御量算出部86は、いずれも、操舵トルク信号を直接または間接に参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような目標制御量を算出する。
【0057】
操舵トルク由来目標制御量選択部87は、操舵トルク目標制御量と操舵トルク速目標制御量とのうち、より高い値を有する目標制御量を、操舵トルク由来目標制御量として選択する。
【0058】
ロール姿勢由来目標制御量選択部88は、舵角目標制御量、舵角速目標制御量、ロールレート目標制御量、及び、操舵トルク由来目標制御量、のうち、より高い値を有する目標制御量を、ロール姿勢由来目標制御量として選択する。
【0059】
(ロール姿勢目標制御量算出部)
ロール姿勢目標制御量算出部89は、特許請求の範囲に記載の目標制御量算出部の一例である。ロール姿勢目標制御量算出部89は、以下の条件を満たすようにサスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を設定する。
・車両900のロール角の位相の周期と車両900のピッチ角の位相の周期とが、同期状態に近づく
・車両900の前輪側において、伸び側の減衰力の大きさが縮み側の減衰力の大きさより大きい
・車両900の後輪側において、縮み側の減衰力の大きさが伸び側の減衰力の大きさ以下である
本実施形態におけるサスペンションの制御方法については後述する。
【0060】
図4は、本実施形態におけるロール姿勢目標制御量算出部89の機能的構成の一例を示すブロック図である。ロール姿勢目標制御量算出部89は、
図4に示されるように、目標ピッチ角算出部891、目標差分減衰傾度算出部893及び目標制御量演算部894を備えている。
【0061】
目標ピッチ角算出部891は、車両900のロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する。
図5は、本実施形態における目標ピッチ角算出部の機能的構成の一例を示すブロック図である。例えば、目標ピッチ角算出部891は、
図5に示されるように、絶対値演算部91及びゲイン乗算部92を備えている。絶対値演算部91は、ロール角信号の示すロール角の絶対値を算出し、ゲイン乗算部92に供給する。ゲイン乗算部92は、絶対値演算部91から供給されたロール角の絶対値に対してゲインを乗じることによって、目標ピッチ角を算出する。
【0062】
目標差分減衰傾度算出部893は、目標ピッチ角算出部891が算出した目標ピッチ角と車両900の実ピッチ角信号との差とを参照して、目標差分減衰傾度ΔCを算出する。これにより、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。
【0063】
ここで、目標差分減衰傾度ΔCは、後述の説明から分かる通り、前輪側目標差分減衰傾度ΔC
Frontと後輪側目標差分減衰傾度ΔC
Rearとを合計したものとしての意味を持つ。
【0064】
目標制御量演算部894は、目標差分減衰傾度算出部893が算出した目標差分減衰傾度ΔCを参照してロール姿勢制御量を算出する。
図6は、本実施形態における目標制御量演算部894の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図6に示すように、目標制御量演算部894は、後輪側目標制御量演算部901、前輪側目標制御量演算部902及び旋回方向判定部903を備えている。
【0065】
旋回方向判定部903は、ロール角及び車両状態推定部670から取得したロールレートを参照して、車両900の旋回方向を判定する。旋回方向判定部903が参照するロール角は、上述したように、ロール角センサから取得する構成であってもよく、車両状態推定部670が算出するロールレートを車両状態推定部670にて積分する構成とし、当該積分により得られるロール角をロール角信号として用いる構成としてもよい。旋回方向判定部903は、車両900の旋回方向の判定結果を後輪側目標制御量演算部901及び前輪側目標制御量演算部902に供給する。
【0066】
後輪側目標制御量演算部901は、リミットDF格納部(リミットダンパーフォース格納部)904、後輪側伸縮判定部905、減算部906、伸縮左右変換部907及び後輪側目標制御量算出部908を備えている。
【0067】
リミットDF格納部904には、伸び側の減衰力の大きさと縮み側の減衰力の大きさとの合計値が格納されている。一例として、リミットDF格納部904には、後輪側の伸び側の減衰力の大きさと縮み側の減衰力の大きさとの合計値F
Rearが格納されている。合計値F
Rearは、減算部906に供給される。
【0068】
後輪側伸縮判定部905は、車両状態推定部670より後輪左側の車輪300Cのストローク速度STV
RLと後輪右側の車輪300Dのストローク速度STV
RRを取得する。
【0069】
後輪側伸縮判定部905は、取得した車輪300Cのストローク速度STV
RL及び車輪300Dのストローク速度STV
RRを参照して車輪300C及び車輪300Dの何れが伸長側であり、何れが収縮側であるかを判定する。
【0070】
また、後輪側伸縮判定部905は、取得した車輪300Cのストローク速度STV
RL及び車輪300Dのストローク速度STV
RRを参照して後輪側の縮み側の減衰力F
Routを算出する。後輪側伸縮判定部905は、後輪側の縮み側の減衰力F
Routを減算部906及び伸縮左右変換部907に供給する。
【0071】
減算部906は、リミットDF904から取得した合計値F
Rear及び後輪側伸縮判定部905から取得した後輪側の縮み側の減衰力F
Routを参照して、後輪側の伸び側の減衰力F
Rinを算出する。減算部906は、算出した後輪側の伸び側の減衰力F
Rinを伸縮左右変換部907に供給する。
【0072】
伸縮左右変換部907は、旋回方向判定部903から取得した車両900の旋回方向、後輪側伸縮判定部905から取得した後輪側の縮み側の減衰力F
Rout及び減算部906から取得した後輪側の伸び側の減衰力F
Rinを参照して、車輪300Cの目標減衰力F
RL及び車輪300Dの目標減衰力F
RRを算出する。伸縮左右変換部907は、算出した車輪300Cの目標減衰力F
RL及び車輪300Dの目標減衰力F
RRを後輪側目標制御量算出部908に供給する。
【0073】
後輪側目標制御量算出部908は、後輪左側目標制御量算出部909及び後輪右側目標制御量算出部910を備えている。また、後輪側目標制御量算出部908は、車両状態推定部670より車輪300Cのストローク速度STV
RL及び車輪300Dのストローク速度STV
RRを取得する。
【0074】
後輪左側目標制御量算出部909は、車輪300Cのサスペンションの伸縮に応じて、車輪300Cの目標制御量を算出する。より具体的には、車両状態推定部670より取得した車輪300Cのストローク速度STV
RL及び伸縮左右変換部907から取得した車輪300Cの目標減衰力F
RLを参照して、車輪300Cの目標制御量を算出する。
【0075】
後輪右側目標制御量算出部910は、車輪300Dのサスペンションの伸縮に応じて、車輪300Dの目標制御量を算出する。より具体的には、後輪右側目標制御量算出部910は、車両状態推定部670より取得した車輪300Dのストローク速度STV
RR及び伸縮左右変換部907から取得した車輪300Dの目標減衰力F
RRを参照して、車輪300Dの目標制御量を算出する。
【0076】
これにより、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。
【0077】
前輪側目標制御量演算部902は、後輪右側減衰力算出部911、後輪左側減衰力算出部912、前輪右側減衰力算出部913、前輪左側減衰力算出部914、乗算除算部915〜918、伸縮判定部919、前輪側目標差分減衰傾度算出部920、前輪収縮側目標減衰傾度算出部921及び左右変換+目標制御量算出部922を備えている。
【0078】
後輪右側減衰力算出部911は、車両状態推定部670より車輪300Dのストローク速度STV
RRを取得し、制御量セレクト部690から車輪300Dの実制御量
RRを取得する。後輪右側減衰力算出部911は、取得した車輪300Dのストローク速度STV
RR及び車輪300Dの実制御量
RRを参照して車輪300Dの減衰力F
RRを算出する。後輪右側減衰力算出部911は、算出した車輪300Dの減衰力F
RRを乗算除算部915に供給する。ここで、「実制御量」とは、車輪のサスペンションに供給されるサスペンション制御のための制御電流である。
【0079】
乗算除算部915は、車両状態推定部670から取得した車輪300Dのストローク速度STV
RR及び後輪右側減衰力算出部911から取得した車輪300Dの減衰力F
RRを参照して、後輪右側の減衰傾度C
RRを算出する。より具体的には、乗算除算部915は、後輪右側減衰力算出部911から取得した車輪300Dの減衰力F
RRを車両状態推定部670から取得した車輪300Dのストローク速度STV
RRで除算することにより後輪右側の減衰傾度C
RRを算出する。乗算除算部915は、算出した後輪右側の減衰傾度C
RRを伸縮判定部919に供給する。
【0080】
後輪左側減衰力算出部912は、車両状態推定部670より車輪300Cのストローク速度STV
RLを取得し、制御量セレクト部690から車輪300Cの実制御量
RLを取得する。後輪左側減衰力算出部912は、取得した車輪300Cのストローク速度STV
RL及び車輪300Cの実制御量
RLを参照して車輪300Cの減衰力F
RLを算出する。後輪左側減衰力算出部912は、算出した車輪300Cの減衰力F
RLを乗算除算部916に供給する。
【0081】
乗算除算部916は、車両状態推定部670から取得した車輪300Cのストローク速度STV
RL及び後輪左側減衰力算出部912から取得した車輪300Cの減衰力F
RLを参照して、後輪左側の減衰傾度C
RLを算出する。より具体的には、乗算除算部916は、後輪左側減衰力算出部912から取得した車輪300Cの減衰力F
RLを車両状態推定部670から取得した車輪300Cのストローク速度STV
RLで除算することにより後輪左側の減衰傾度C
RLを算出する。乗算除算部916は、算出した後輪左側の減衰傾度C
RLを伸縮判定部919に供給する。
【0082】
前輪右側減衰力算出部913は、車両状態推定部670より前輪右側の車輪300Bのストローク速度STV
FRを取得し、制御量セレクト部690から実制御量
FRを取得する。前輪右側減衰力算出部913は、取得した車輪300Bのストローク速度STV
FR及び車輪300Bの実制御量
FRを参照して車輪300Bの減衰力F
FRを算出する。前輪右側減衰力算出部913は、算出した車輪300Bの減衰力F
FRを乗算除算部917に供給する。
【0083】
乗算除算部917は、車両状態推定部670から取得した車輪300Bのストローク速度STV
FR及び前輪右側減衰力算出部913から取得した車輪300Bの減衰力F
FRを参照して、前輪右側の減衰傾度C
FRを算出する。より具体的には、乗算除算部917は、前輪右側減衰力算出部913から取得した車輪300Bの減衰力F
FRを車両状態推定部670から取得した車輪300Bのストローク速度STV
FRで除算することにより前輪右側の減衰傾度C
FRを算出する。乗算除算部917は、算出した前輪右側の減衰傾度C
FRを伸縮判定部919に供給する。
【0084】
前輪左側減衰力算出部914は、車両状態推定部670より前輪左側の車輪300Aのストローク速度STV
FLを取得し、制御量セレクト部690から車輪300Aの実制御量
FLを取得する。前輪左側減衰力算出部914は、取得した車輪300Aのストローク速度STV
FL及び車輪300Aの実制御量
FLを参照して車輪300Aの減衰力F
FLを算出する。前輪左側減衰力算出部914は、算出した車輪300Aの減衰力F
FLを乗算除算部918に供給する。
【0085】
乗算除算部918は、車両状態推定部670から取得した車輪300Aのストローク速度STV
FL及び前輪左側減衰力算出部914から取得した車輪300Aの減衰力F
FLを参照して、前輪左側の減衰傾度C
FLを算出する。より具体的には、乗算除算部918は、前輪左側減衰力算出部914から取得した車輪300Aの減衰力F
FLを車両状態推定部670から取得した車輪300Aのストローク速度STV
FLで除算することにより前輪左側の減衰傾度C
FLを算出する。乗算除算部918は、算出した前輪左側の減衰傾度C
FLを伸縮判定部919に供給する。
【0086】
伸縮判定部919は、旋回方向判定部903から取得した車両900の旋回方向、乗算除算部915から取得した減衰傾度C
RR及び乗算除算部916から取得した減衰傾度C
RLを参照して、減衰傾度C
RR及び減衰傾度C
RLのうち、何れが後輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Routに対応するのか、及び、何れが後輪側の伸長側輪の減衰傾度C
Rinに対応するのかを判定する。伸縮判定部919は、判定した後輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Rout及び後輪側の伸長側輪の減衰傾度C
Rinを前輪側目標差分減衰傾度算出部920に供給する。
【0087】
また、伸縮判定部919は、旋回方向判定部903から取得した車両900の旋回方向、乗算除算部917から取得した減衰傾度C
FR及び乗算除算部918から取得した減衰傾度C
FLを参照して前輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Fout及び前輪側の伸長側輪の減衰傾度C
Finを判定する。伸縮判定部919は、前輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Foutを左右変換+目標制御量算出部922に供給し、伸長側輪の減衰傾度C
Finを前輪収縮側目標減衰傾度算出部921に供給する。
【0088】
前輪側目標差分減衰傾度算出部920は、減算部923及び前輪側目標減衰傾度算出部924を備えている。また、前輪側目標差分減衰傾度算出部920は、目標差分減衰傾度算出部893から目標差分減衰傾度ΔCを取得する。
【0089】
減算部923は、伸縮判定部919から取得した後輪伸長側減衰傾度C
Rin及び後輪収縮側減衰傾度C
Routを参照して、後輪側差分減衰傾度ΔC
Rearを算出する。より具体的には、減算部923は、後輪収縮側減衰傾度C
Routから後輪伸長側減衰傾度C
Rinを減算することによって後輪側差分減衰傾度ΔC
Rearを算出する。減算部923は、算出した後輪側差分減衰傾度ΔC
Rearを前輪側目標減衰傾度算出部924に供給する。
【0090】
前輪側目標減衰傾度算出部924は、目標差分減衰傾度算出部893から取得した目標差分減衰傾度ΔC及び減算部923から取得した後輪側差分減衰傾度ΔC
Rearを参照して前輪側差分減衰傾度ΔC
Frontを算出する。これにより、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。前輪側目標減衰傾度算出部924は算出した前輪側差分減衰傾度ΔC
Frontを前輪収縮側目標減衰傾度算出部921に供給する。
【0091】
前輪収縮側目標減衰傾度算出部921は、伸縮判定部919から取得した伸長側輪の減衰傾度C
Fin及び前輪側目標減衰傾度算出部924から取得した前輪側差分減衰傾度ΔC
Frontを参照して、前輪側の伸長側輪の目標減衰傾度C
Foutを算出する。前輪収縮側目標減衰傾度算出部921は、算出した前輪側の伸長側輪の目標減衰傾度C
Foutを左右変換+目標制御量算出部922に供給する。
【0092】
左右変換+目標制御量算出部922は、旋回方向判定部903から取得した車両900の旋回方向、伸縮判定部919から取得した前輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Fout及び前輪収縮側目標減衰傾度算出部921から取得した前輪側の伸長側輪の目標減衰傾度C
Foutを参照して前輪側の伸長側輪の目標制御量を算出する。これにより、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。
【0093】
また、本実施形態に係るロール姿勢目標制御量算出部89は、各車輪300の実制御量を用いて、各車輪300の減衰力を算出することによって、車両900の実態に合わせたロール姿勢目標制御量を算出することができる。これにより、本実施形態によれば、より精度の高いサスペンション制御を行うことができる。
【0094】
(サスペンションの制御方法)
以下では、
図7〜10を参照して、ロール姿勢目標制御量算出部89におけるサスペンションの制御方法について説明する。
図7は、本実施形態におけるピッチモーメントの発生メカニズムを示す概略図である。
図8は、本実施形態における前輪及び後輪の減衰力とサスペンションストローク速度との関係の一例を示すグラフである。
図9は、本実施形態における後輪側の左右輪の減衰力の合力を示す概略図である。
図10は、本実施形態における減衰力の制御の流れを示すフローチャートである。
図11は、本実施形態における後輪側目標差分減衰傾度の定義を示すグラフである。
【0095】
なお、以下では、車両900の状態を示す状態量において、前輪側の状態量及び後輪側の状態量には、それぞれ符号「Front」及び「Rear」を付して表現することがある。また、前輪右側の状態量、前輪左側の状態量、後輪右側の状態量及び後輪左側の状態利用には、それぞれ符号「FR」、「FL」、「RR」及び「RL」を付して表現することがある。また、車両900の旋回時において、旋回の内側に位置する前輪、旋回の外側に位置する前輪、旋回の内側に位置する後輪及び旋回の外側に位置する後輪には、それぞれ符号「Fin」、「Fout」、「Rin」及び「Rout」を付して表現することがある。
【0096】
まず、運転手が操舵部材410を旋回させると、運転手による操舵部材410の旋回動作により、操舵トルクが発生し、操舵トルク信号が発生する。発生した操舵トルク信号に応じた舵角となるように車輪300A及び車輪300Bが転舵され、車両900は、舵角に応じて旋回する。
【0097】
車両900の旋回時では、ロール運動によるアブソーバ(前輪側アブソーバ及び後輪側アブソーバ)の変位速度に応じて減衰力が発生し、伸び側の減衰力と縮み側の減衰力との差に応じて車軸を押し上げる力又は押し下げる力が発生する。
【0098】
ここで、
図10を参照して、本実施形態における減衰力の制御の流れを説明する。
【0099】
(ステップS11)
ロール姿勢目標制御量算出部89は、後輪側アブソーバにおいて車軸を押し上げる力をさせるように車輪300C及び車輪300Dの減衰力を制御する。より具体的には、ロール姿勢目標制御量算出部89は、車輪300C及び車輪300Dの減衰力の合力F
Rearが上向きの力となるように、後輪側目標制御量を算出する。
【0100】
(ステップS12)
続いて、ロール姿勢目標制御量算出部89は、前輪側アブソーバにおいて車軸を押し下げる力を発生させるように車輪300A及び車輪300B、の減衰力を制御する。より具体的には、ロール姿勢目標制御量算出部89は、車輪300A及び車輪300Bの減衰力の合力F
Frontが下向きの力となるように、前輪側目標制御量を算出する。
【0101】
ここで、ロール姿勢目標制御量算出部89における、車輪300A、車輪300B、車輪300C及び車輪300Dの減衰力の制御方法について図面を変えて説明する。ロール姿勢目標制御量算出部89は、
図8に示すように、車輪300A及び車輪300Bにおいて、同じ大きさのサスペンションストローク速度に対して、伸び側の減衰力F
Foutの大きさが縮み側の減衰力F
Finの大きさより大きくなるように制御する。また、ロール姿勢目標制御量算出部89は、
図8に示すように、同じ大きさのサスペンションストローク速度に対して、車輪300C及び車輪300Dにおいて、縮み側の減衰力F
Routの大きさが伸び側の減衰力F
Rinの大きさより大きくなるように制御する。
【0102】
一例として、
図9に示すように、車両900の左旋回時では、旋回の内側にある車輪300Cにおいて、伸び側の減衰力F
Rin(F
RL)が発生し、旋回の外側にある車輪300Dにおいて、縮み側の減衰力F
Rout(F
RR)が発生する。上述したように、ロール姿勢目標制御量算出部89は、縮み側の減衰力F
Routの大きさが伸び側の減衰力F
Rinの大きさに比べて大きくなるように制御するため、旋回時における車輪300C及び車輪300Dの減衰力の合力F
Rearが車軸を押し上げる力となる。
【0103】
一方で、車両900の左旋回時における前輪側の減衰力は、旋回の内側にある車輪300Aにおいて、伸び側の減衰力F
Fin(F
FL)が発生し、旋回の外側にある車輪300Bにおいて、縮み側の減衰力F
Fout(F
FR)が発生する。上述したように、ロール姿勢目標制御量算出部89は、伸び側の減衰力F
Finの大きさが縮み側の減衰力F
Foutの大きさより大きくなるように制御するため、旋回時における車輪300A及び車輪300Bの減衰力の合力F
Frontが車軸を押し下げる力となる。
【0104】
なお、ロール姿勢目標制御量算出部89が、旋回時における車輪300C及び車輪300Dの減衰力の合力F
Rearが車軸を押し上げる力となるように制御する構成について説明したが、本実施形態はこれに限定されない。一例として、ロール姿勢目標制御量算出部89は、旋回時における車輪300C及び車輪300Dの減衰力の合力が0となるように制御される構成であってもよい。より具体的には、ロール姿勢目標制御量算出部89は、同じ大きさのサスペンションストローク速度に対して、車輪300C及び車輪300Dにおいて、縮み側の減衰力F
Routの大きさと伸び側の減衰力F
Rinの大きさとが同じ大きさになるように制御する。
【0105】
本実施形態では、ロール姿勢目標制御量算出部89が、上述のように、車輪300A、車輪300B、車輪300C及び車輪300Dの減衰力を制御することによって、前後輪の減衰力差によりピッチモーメントM
yが発生する。より具体的には、
図7に示すように、車両900の前輪側の車軸が押し下げられ、車両900の後輪側が押上げられることにより、ピッチモーメントM
yが発生する。これにより、車両900の旋回時には、ロール運動とピッチ運動とが複合した運動が車両900に発生する。また、車両900のピッチ角を作りやすくすることができ、車両900の制御の即応性が向上し、車両900の運転者が良好な旋回感覚を感じることができる。
【0106】
また、本実施形態では、ロール角とピッチ角とを参照して旋回感覚をより良好にするための制御を実施することができる。例えば、車両900におけるロール角のピークに対するピッチ角のピークの時間差をより小さくなるように、サスペンションを制御する。この制御により、車両900の運転者が良好な旋回感覚を感じることができる。
【0107】
より具体的には、目標差分減衰傾度算出部893は、ピッチモーメント演算部(不図示)を備えており、車両900のロール角とピッチ角とを参照してピッチモーメントを算出する。ロール姿勢目標制御量算出部89は、車両900のロール角と、ピッチモーメント演算部が演算したピッチモーメントとを参照し、車両900におけるロール角の位相と当該ピッチモーメントから求められるピッチ角の位相との差分をより小さくするロール姿勢目標制御量を算出する。
【0108】
ここで、ロール姿勢目標制御量算出部89によるロール姿勢目標制御量の算出において、ロール角の位相とピッチ角の位相との差は、運転者が良好な旋回感覚を得るのに十分に小さい範囲において、適宜に設定することができる。当該差分は、運転者が良好な旋回感覚を得る観点から、小さいほど好ましく、例えば、1/4周期以下であることが好ましく、1/8周期以下であることがより好ましく、ゼロであることが最も好ましい。なお、「周期」とは、ロール角の周期であってもよいし、ピッチ角の周期であってもよいが、上記の観点から、ロール角の周期及びピッチ角の周期のうちのより小さい周期であることが好ましい。
【0109】
すなわち、ロール姿勢目標制御量算出部89は、車両900のロール角の位相の周期と車両900のピッチ角の位相の周期との位相差が1/4周期以内となるように目標制御量を算出すると言い換えることもできる。また、ロール姿勢目標制御量算出部89は、車両900のロール角の位相の周期と車両900のピッチ角の位相の周期との位相差が1/8周期以内となるように目標制御量を算出すると言い換えることもできる。また、ロール姿勢目標制御量算出部89は、車両900のロール角の位相の周期と車両900のピッチ角の位相の周期とが同期するように目標制御量を算出すると言い換えることもできる。
【0110】
(後輪側目標差分減衰傾度ΔC
Rearの定義)
以下では、
図11を参照して、後輪側目標差分減衰傾度ΔC
Rearの定義について説明する。なお、減衰傾度Cはサスペンションストローク速度に対する減衰力を示すグラフの傾きを示している。
図11に示すように、後輪側目標差分減衰傾度ΔC
Rearは、後輪側の収縮側輪の減衰傾度C
Routを示す実線と後輪側の伸長側輪の減衰傾度C
Rinを示す破線との間の傾きの差分を表すものである。
【0111】
〔実施形態2〕
以下、本発明の実施形態2について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0112】
本実施形態は、目標ピッチ角算出部891に代えて目標ピッチ角算出部991を備える点で実施形態1と異なる。
図12は、本実施形態における目標ピッチ角算出部991の機能的構成の一例を示すブロック図である。目標ピッチ角算出部991は、車両900の横方向の加速度を示す横G信号を参照して、目標ピッチ角を算出する。より具体的には、絶対値演算部91は、横G信号の示す横Gの絶対値を算出し、ゲイン乗算部92に供給する。ゲイン乗算部92は、絶対値演算部91から供給された横Gの絶対値に対してゲインを乗じることによって、目標ピッチ角を算出する。これにより、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。
【0113】
〔実施形態3〕
以下、本発明の実施形態3について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0114】
本実施形態は、目標ピッチ角算出部891に代えて目標ピッチ角算出部1091を備える点で実施形態1と異なる。
図13は、本実施形態における目標ピッチ角算出部1091の機能的構成の一例を示すブロック図である。目標ピッチ角算出部1091は、ゲイン乗算部92に代えてゲイン乗算部95を備える。また、目標ピッチ角算出部1091は、ゲイン設定部96をさらに備える。これらの点において、目標ピッチ角算出部1091は、実施形態1における目標ピッチ角算出部891と異なる。ゲイン乗算部95及びゲイン設定部96は、ゲイン変更部を構成している。
【0115】
ゲイン設定部96は、車両900の横方向の加速度を示す横G信号、及び車両900の前後方向の加速度を示す前後G信号の少なくとも何れかを参照してゲインの値を設定する。ゲイン乗算部95は、ゲイン設定部96が設定したゲイン値を参照し、当該ゲイン値に応じて、乗じるべきゲインを変更する。そして、ゲイン乗算部95は、絶対値演算部91が演算したロール角の絶対値に、変更したゲインを乗じて、目標ピッチ角を算出する。
【0116】
路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸は、直接的に、又は操舵トルク等を介して間接的に、車両900の横G及び前後Gを変動させる。したがって、目標ピッチ角の算出に車両900の横G及び前後Gを参照することは、路面状況を適切に反映するサスペンションの制御を実施する観点から有利である。
【0117】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ECU600の制御ブロック(ロール姿勢目標制御量算出部89)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0118】
後者の場合、ECU600は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0119】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。