【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の技術的課題の解決は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態によっ
て達成される。
【0014】
特に、第1の態様では、本発明は、被験体における上皮成長因子受容体(EGFR)の
シグナリング及び/又はアンフィレグリンに感受性がある別の受容体のシグナリングを直
接的又は間接的に減少させることができる、上記被験体における近視の予防的処置又は治
療的処置において使用するための作用物質に関する。
【0015】
好ましくは、上記作用物質は、
(a)上記被験体におけるネイティブな(native:天然)アンフィレグリンに対する単離
抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、
(b)上記被験体におけるネイティブなアンフィレグリン前駆体に対する単離抗体、抗体
フラグメント又は抗体模倣物、
(c)上記被験体におけるEGFRに対して遮断するような単離抗体、抗体フラグメント
又は抗体模倣物、
(d)被験体におけるアンフィレグリンに感受性がある別の受容体に対して遮断するよう
な単離抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、
(e)EGFR阻害剤、及び、
(f)被験体におけるアンフィレグリンの発現を減少させることが可能な低分子干渉RN
A(siRNA)剤、
からなる群から選択される。
【0016】
AREGとしても知られているアンフィレグリンは、ヒトにおいてはAREG遺伝子に
よってコードされるタンパク質である。アンフィレグリンは、上皮成長因子のファミリー
のメンバーであり、自己分泌増殖因子であると共に、星状細胞、シュワン細胞及び線維芽
細胞のためのマイトジェンである。アンフィレグリンは、上皮成長因子(EGF)及びト
ランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)に関連している。さらに、アンフィレグリ
ンは、通常、EGF受容体(EGFR)と相互作用することで正常な上皮細胞の成長を促
進するだけでなく、アンフィレグリンに感受性があるその他の受容体とも相互作用する。
本発明の基礎をなすゲノムワイド共同メタ解析(本出願の実施例で提供されるデータを参
照)において、AREG遺伝子は、屈折異常と最も強い相関を示した。さらに、アンフィ
レグリンは、(例えばγ−アミノ酪酸とは異なり)神経伝達物質ではないので、アンフィ
レグリンの分泌は、視覚的求心性神経における正常なシグナル伝達を妨げない。さらに、
上皮成長因子のファミリーのメンバーとして、アンフィレグリンは、RPEのような上皮
細胞に作用する。これらの所見に基づいて、アンフィレグリンは、本発明において、網膜
中層における感覚的ネットワークとRPE/BMとの間のシグナル伝達分子としてのその
機能により、眼軸延長の主たるメディエーターとして同定された。
【0017】
「被験体における上皮成長因子受容体(EGFR)のシグナリング及び/又はアンフィ
レグリンに感受性がある別の受容体のシグナリングを直接的又は間接的に減少させる」と
いう語句は、本発明の作用物質が、例えばEGFRに対して遮断するような抗体、抗体フ
ラグメント若しくは抗体模倣物の場合のように、受容体との直接的な相互作用によって、
又は間接的な機構によって、例えばネイティブなアンフィレグリンに対する適切な抗体、
抗体フラグメント若しくは抗体模倣物によるアンフィレグリンの不活性化、若しくは適切
なsiRNAによるアンフィレグリン発現の低下によって、それぞれの受容体の下流のシ
グナル伝達経路の活性を減少させる能力を指す。
【0018】
好ましい実施の形態においては、シグナリングは、完全に遮断されるか、又は正常な生
理学的レベルと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少
なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも
75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92.5
%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、
少なくとも99%、少なくとも99.25%、少なくとも99.5%、若しくは少なくと
も99.75%減少される。
【0019】
本明細書で使用される用語「単離抗体又は抗体フラグメント」は、単離された、すなわ
ち精製されたネイティブなポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体又は組換えに
より産生されたポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体及びそれらのフラグメン
トに関連する。抗体フラグメントは、好ましくは、Fabフラグメント、F(ab’)
2
フラグメント及びFab’フラグメントからなる群から選択される。ネイティブな抗体を
単離及び/又は精製する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知であ
る。さらに、組換え抗体又は抗体フラグメントを生成及び発現する方法は、特に限定され
るものではなく、当該技術分野で既知である。さらに、抗体フラグメントを生成する方法
は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知である。
【0020】
本明細書で使用される用語「抗体模倣物」は、抗体のように、所定の標的構造に特異的
に結合することが可能なタンパク質性化合物に関連する。好ましくは、抗体模倣物は、単
鎖可変フラグメント(scFv)、単独ドメイン抗体、アフィボディ、アフィリン、アフ
ィマー、アフィチン、アンチカリン、DARPin、モノボディ及びペプチドアプタマー
からなる群から選択される。それぞれの抗体模倣物及びその製造方法は、特に限定される
ものではなく、当該技術分野で既知である。
【0021】
本明細書で使用される「被験体におけるネイティブなアンフィレグリン/ネイティブな
アンフィレグリン前駆体/EGFR/アンフィレグリンに感受性がある別の受容体に対す
る抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物」という語句は、上記の抗体、抗体フラグメン
ト又は抗体模倣物が、被験体においてネイティブなアンフィレグリンへと、ネイティブな
アンフィレグリン前駆体へと、EGFRへと、若しくはアンフィレグリンに感受性がある
別の受容体へと特異的に結合する能力、すなわち、上記アンフィレグリン、アンフィレグ
リン前駆体、EGFR若しくはアンフィレグリンに感受性があるその他の受容体の特異的
エピトープを認識して結合する能力を指す。この関連において、本明細書で使用される「
アンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体/EGFR/アンフィレグリンに感受性があ
る別の受容体に対する抗体」という語句は、「抗アンフィレグリン/抗アンフィレグリン
前駆体/抗EGFR/抗受容体抗体」という語句と等価であることが意図される。
【0022】
アンフィレグリン前駆体は、当該技術分野で既知であり、プロアンフィレグリンを含み
、その際、プロアンフィレグリンは、好ましいアンフィレグリン前駆体である。さらに、
EGFR以外のアンフィレグリンに感受性がある受容体は、当該技術分野で既知である。
【0023】
本明細書で使用される「被験体におけるEGFR/アンフィレグリンに感受性がある別
の受容体に対して遮断するような抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物」という語句は
、上記抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物が、アンフィレグリンによって直接的又は
間接的に、例えばEGFR若しくは上記その他の受容体へのアンフィレグリンの結合を立
体的に阻止することによって、又はEGFR若しくは上記その他の受容体の下流のエフェ
クター機能を阻害することによってEGFR又はアンフィレグリンに感受性がある別の受
容体の活性化を阻害する能力を指す。
【0024】
ネイティブなアンフィレグリン、例えばネイティブなヒトのアンフィレグリンに対する
抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物は、特に限定されるものではなく、当該技術分野
で既知である。さらに、EGFR、例えばヒトのEGFRに対して遮断するような抗体は
、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知である。アンフィレグリン前駆体に
対して又はアンフィレグリンに感受性があるその他の受容体に対して遮断するような抗体
、抗体フラグメント又は抗体模倣物にも同じことが言える。
【0025】
本発明で使用するためのEGFR阻害剤は、特に限定されるものではなく、当該技術分
野で既知である。それぞれの作用物質は、好ましくは、EGFRのモノクローナル抗体阻
害剤及びEGFRチロシンキナーゼを阻害する小分子からなる群から選択される。
【0026】
低分子干渉RNA(siRNA)剤並びにその製造方法及び使用方法は、特に限定され
るものではなく、当該技術分野で既知である。本発明によれば、siRNA剤は、被験体
におけるアンフィレグリンの発現を減少させることができる。好ましい実施の形態におい
ては、そのようなsiRNA剤のアンチセンス鎖、すなわちアンフィレグリンmRNAを
標的とする鎖は、配列番号2及び配列番号3に示される配列の1つからなる。
【0027】
本発明による近視の予防的処置又は治療的処置において使用するために、上記作用物質
は、好ましくは、硝子体内、角膜上、経角膜、経強膜、経結膜、結膜下、眼内、又は全身
(例えば、経口、直腸内又は静脈内)に投与される。それぞれの投与方法並びに用量及び
投与レジメンは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知である。例えば抗体
、抗体フラグメント又は抗体模倣物の個々の投与のための典型的な用量は、1mg〜2m
gの範囲にある。例えば硝子体内投与に関しては、注入容量は、一般的に50μl〜20
0μlの範囲にある。
【0028】
好ましい実施の形態においては、処置されるべき被験体は、ヒトの被験体である。
【0029】
本発明の第1の態様による特に好ましい実施の形態においては、上記作用物質は、(i
)被験体におけるネイティブなアンフィレグリンに対する、又は(ii)被験体における
上皮成長因子受容体(EGFR)に対して遮断するような、抗体、抗体フラグメント又は
抗体模倣物である。
【0030】
第2の態様では、本発明は、被験体における上皮成長因子受容体(EGFR)のシグナ
リング及び/又はアンフィレグリンに感受性がある別の受容体のシグナリングを増大させ
ることができる、上記被験体における遠視の予防的処置又は治療的処置において使用する
ための作用物質に関する。
【0031】
好ましくは、上記作用物質は、
(a)単離アンフィレグリン又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体、
(b)単離アンフィレグリン前駆体又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体、
(c)上記被験体における上皮成長因子受容体(EGFR)に対して活性化するような単
離抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、
(d)被験体におけるアンフィレグリンに感受性がある別の受容体に対して活性化するよ
うな単離抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、及び、
(e)EGFR活性化剤、
からなる群から選択される。
【0032】
「被験体における上皮成長因子受容体(EGFR)のシグナリング及び/又はアンフィ
レグリンに感受性がある別の受容体のシグナリングを増大させる」という語句は、本発明
による作用物質が、それぞれの受容体の下流のシグナル伝達経路の活性を増大させる能力
を指す。
【0033】
好ましい実施の形態においては、シグナリングは、少なくとも10%、少なくとも20
%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少な
くとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又はそれ以
上増大される。
【0034】
本明細書で使用される用語「単離アンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体」は、単
離された、すなわち精製されたアンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体又は組換えに
より産生されたアンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体に関する。ネイティブなアン
フィレグリン/アンフィレグリン前駆体を単離及び/又は精製する方法は、特に限定され
るものではなく、当該技術分野で既知である。さらに、組換えアンフィレグリン/アンフ
ィレグリン前駆体を生成及び発現する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分
野で既知である。
【0035】
アンフィレグリン前駆体は、当該技術分野で既知であり、プロアンフィレグリンを含み
、その際、プロアンフィレグリンは、好ましいアンフィレグリン前駆体である。さらに、
EGFR以外のアンフィレグリンに感受性がある受容体は、当該技術分野で既知である。
【0036】
好ましい実施の形態において、上記アンフィレグリンは、配列番号1に示されるアミノ
酸配列を含むか又は好ましくはそれからなる。
【0037】
この関連において、本明細書で使用される用語「アンフィレグリン/アンフィレグリン
前駆体の生物学的に活性な断片」は、ネイティブなアンフィレグリン/アンフィレグリン
前駆体に対して1つ以上のアミノ酸欠失を有するが、同時に、EGF受容体又はアンフィ
レグリンに感受性がある別の受容体に結合して該受容体を活性化させる生物学的活性を保
持するアンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体の断片に関する。さらに、本明細書で
使用される用語「アンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体の誘導体」は、ネイティブ
なアンフィレグリン/アンフィレグリン前駆体に由来するが、ネイティブなアンフィレグ
リンに対して1つ以上のアミノ酸の置換、付加又は欠失を有し、その一方で同時に、EG
F受容体又はアンフィレグリンに感受性がある別の受容体に結合して該受容体を活性化さ
せる生物学的活性を保持するポリペプチドに関する。この関連において、アンフィレグリ
ン又はアンフィレグリン前駆体の生物学的活性を測定する方法は、特に限定されるもので
はなく、当該技術分野で既知である。
【0038】
アミノ酸の置換及び/又は付加及び/又は欠失の数は、一般的に、得られるアンフィレ
グリン断片又はアンフィレグリン誘導体のポリペプチドの生物学的活性に関する上記条件
によってのみ制限されるが、得られる断片又はポリペプチドが、ネイティブなアンフィレ
グリン、例えば配列番号1によるネイティブなヒトのアンフィレグリンに対して、少なく
とも50%、少なくとも52.5%、少なくとも55%、少なくとも57.5%、少なく
とも60%、少なくとも62.5%、少なくとも65%、少なくとも67.5%、少なく
とも70%、少なくとも72.5%、少なくとも75%、少なくとも76.25%、少な
くとも77.5%、少なくとも78.75%、少なくとも80%、少なくとも81.25
%、少なくとも83.75%、少なくとも85%、少なくとも86.25%、少なくとも
87.5%、少なくとも88%、少なくとも88.5%、少なくとも89%、少なくとも
89.5%、少なくとも90%、少なくとも90.5%、少なくとも91%、少なくとも
91.5%、少なくとも92%、少なくとも92.5%、少なくとも93%、少なくとも
93.5%、少なくとも94%、少なくとも94.5%、少なくとも95%、少なくとも
95.25%、少なくとも95.5%、少なくとも95.75%、少なくとも96%、少
なくとも96.25%、少なくとも96.5%、少なくとも96.75%、少なくとも9
7%、少なくとも97.25%、少なくとも97.5%、少なくとも97.75%、少な
くとも98%、少なくとも98.25%、少なくとも98.5%、少なくとも98.75
%、少なくとも99%、少なくとも99.25%又は少なくとも99.5%の同一性を有
することが好ましい。
【0039】
本発明のこの第2の態様について使用される用語「単離抗体又は抗体フラグメント」及
び「抗体模倣物」は、本発明の第1の態様について先に定義した通りである。用語「EG
FR/アンフィレグリンに感受性があるその他の受容体に対する抗体、抗体フラグメント
又は抗体模倣物」にも同じことが言える。
【0040】
本明細書で使用される「被験体におけるEGFR/アンフィレグリンに感受性があるそ
の他の受容体に対して活性化するような抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物」という
語句は、上記抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物が、EGFR又はアンフィレグリン
に感受性がある別の受容体を、アンフィレグリンと関係なく活性化する、すなわちEGF
R又はアンフィレグリンに感受性がある上記その他の受容体の下流のエフェクター機能を
惹起する能力を指す。
【0041】
EGFR、例えばヒトのEGFRに対して活性化するような抗体、抗体フラグメント又
は抗体模倣物は、特に限定されず、当該技術分野で既知である。アンフィレグリンに感受
性があるその他の受容体に対して活性化するような抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣
物にも同じことが言える。
【0042】
本発明で使用するためのEGFR活性化剤は、特に限定されるものではなく、当該技術
分野で既知である。それぞれの作用物質は、好ましくは、上皮成長因子(EGF)ファミ
リーのメンバー(トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、アンフィレグリン
(AR)、エピレグリン(EPR)、エピジェン、ベータセルリン(BTC)、ニューレ
グリン−1(NRG1)、ニューレグリン−2(NRG2)、ニューレグリン−3(NR
G3)及びニューレグリン−4(NRG4)を含む)からなる群から選択される。
【0043】
本発明による遠視の予防的処置又は治療的処置において使用するために、上記作用物質
は、好ましくは、硝子体内、角膜上、経角膜、経強膜、経結膜、結膜下、眼内、又は全身
(例えば、経口、直腸内又は静脈内)に投与される。それぞれの投与方法並びに用量及び
投与レジメンは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知である。例えば抗体
、抗体フラグメント若しくは抗体模倣物、又はアンフィレグリンの個々の投与のための典
型的な用量は、1mg〜2mgの範囲にある。例えば硝子体内投与に関しては、注入容量
は、一般的に50μl〜200μlの範囲にある。
【0044】
好ましい実施の形態においては、処置されるべき被験体は、ヒトの被験体である。
【0045】
本発明の第2の態様による特に好ましい実施の形態においては、上記作用物質は、単離
アンフィレグリン若しくはその生物学的に活性な断片若しくは誘導体、又は被験体におけ
る上皮成長因子受容体(EGFR)に対して活性化するような単離抗体、抗体フラグメン
ト若しくは抗体模倣物である。
【0046】
更なる態様においては、本発明は、被験体における近視の予防的処置又は治療的処置の
方法であって、上記被験体に、治療的に有効な量の本発明の第1の態様について定義され
た作用物質を投与する工程を含む、方法に関する。なおも更なる態様においては、本発明
は、被験体における遠視の予防的処置又は治療的処置の方法であって、上記被験体に、治
療的に有効な量の本発明の第2の態様について定義された作用物質を投与する工程を含む
、方法に関する。
【0047】
これらの態様の両方において、(i)上記作用物質、ネイティブなアンフィレグリンに
対する抗体、(ii)抗体フラグメント又は抗体模倣物、(iii)ネイティブなアンフ
ィレグリン前駆体に対する抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、(iv)EGFRに
対して遮断するような抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、(v)アンフィレグリン
に感受性がある別の受容体に対して遮断するような抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣
物、(vi)アンフィレグリン又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体、(vii
)アンフィレグリン前駆体又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体、(viii)
上皮成長因子受容体(EGFR)に対して活性化するような抗体、抗体フラグメント又は
抗体模倣物、(ix)アンフィレグリンに感受性がある別の受容体に対して活性化するよ
うな抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、(x)EGFR阻害剤、(xi)EGFR
活性化剤、(xii)siRNA剤、(xiii)投与及び(xiv)被験体は、本発明
の最初の2つの態様について定義した通りである。さらに、それぞれの治療的に有効な量
は、当該技術分野で既知である。
【0048】
更なる形態において、本発明は、被験体において近視若しくは遠視、又は近視若しくは
遠視を発症する傾向を診断する方法であって、
(a)該被験体から生物学的試料を得る工程と、
(b)上記試料中のアンフィレグリンレベルを測定する工程と、
(c)工程(b)で測定されたレベルと、正視の被験体又は正視になりかかっている被験
体において見られるアンフィレグリンレベルとを比較する工程と、
(d)工程(b)で測定されたレベルが正視の被験体又は正視になりかかっている被験体
において見られるアンフィレグリンレベルより高い場合に、上記被験体が近視であるか、
又は近視を発症する傾向にあると判定し、また工程(b)で測定されたレベルが正視の被
験体又は正視になりかかっている被験体において見られるアンフィレグリンレベルより低
い場合に、上記被験体が遠視であるか、又は遠視を発症する傾向にあると判定する工程と
、
を含む、方法に関する。
【0049】
この方法を実施するための生物学的試料の種類は、当業者に知られており、それには血
液、血清、血漿及び脳脊髄液が含まれる。さらに、生物学的試料中のアンフィレグリンレ
ベルを測定する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で既知である。
【0050】
最終の形態において、本発明は、アンフィレグリン又はその断片若しくは多様体と会合
する作用物質を同定する方法であって、
(a)上記アンフィレグリン若しくはその断片若しくは多様体、又はアンフィレグリン又
はその断片若しくは多様体を発現する組換え宿主細胞を、試験化合物と接触させる工程と
、
(b)上記試験化合物が、アンフィレグリン又はその断片若しくは多様体に結合する能力
を分析する工程と、
を含む、方法に関する。
【0051】
本方法の好ましい実施の形態においては、上記試験化合物がアンフィレグリン若しくは
その断片若しくは多様体に結合する能力、又は上記試験化合物が上記アンフィレグリン若
しくはその断片若しくは多様体の、EGFR若しくはアンフィレグリン若しくはその多様
体に感受性がある任意のその他の受容体への結合を阻害する能力が分析される。
【0052】
更なる好ましい実施の形態においては、上記方法は、上記化合物又はその薬学的に許容
可能な塩を、1種以上の薬学的に許容可能な賦形剤及び/又は担体を用いて配合する工程
を更に含む。
【0053】
この関連において、アンフィレグリン又はその断片若しくは多様体、すなわちそれぞれ
アンフィレグリン断片又はアンフィレグリン多様体を発現する組換え宿主細胞の生成方法
、上記試験化合物がアンフィレグリン又はその断片若しくは多様体に結合する能力を分析
する方法、及び上記試験化合物が上記アンフィレグリン又はその断片若しくは多様体の、
EGFR又はアンフィレグリン若しくはその多様体に感受性がある任意のその他の受容体
への結合を阻害する能力を分析する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野
で既知である。
【0054】
本発明の基礎をなすゲノムワイド共同メタ解析(本出願の実施例で提供されるデータを
参照)において、アンフィレグリンに加えて、屈折異常と相関した更なる遺伝子及び遺伝
子マーカーが同定された。これらは、(i)白血球チロシンキナーゼ(LTK)と相互作
用するFAM150B(配列類似性150を有するファミリーのメンバー2)、(ii)
LINC00340、(iii)FBN1(フィブリリン1)、(iv)ムスカリン性受
容体と相互作用するMAP2K1(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ1)、(v)
クロマチンリモデリング複合体PBAFのサブユニットであるARID2(ATリッチイ
ンタラクティブドメイン2)、(vi)尿素トランスポーターであるSLC14A2(溶
質輸送体ファミリー14のメンバー2)、(vii)γ−アミノ酪酸(GABA)のため
の受容体であるGABRR1、並びに(viii)cAMP/cGMPを加水分解するこ
とができる酵素であるPDE10Aである。これらは、本発明においては、アンフィレグ
リンと同様に本明細書に記載されるように使用することができる。
【0055】
本発明は、眼の正視化の生理学的過程の制御不能状態としての近視の発症における機構
の知見を基礎とするものである。眼の正視化とは、眼の寸法(軸長、水平及び垂直の眼球
径、水晶体前面及び水晶体後面の曲率、水晶体の位置、角膜前面及び角膜後面の曲率、様
々な中間透光体の屈折率、眼の中間透光体の様々な要素の間の距離)の制御された増大の
過程を指す。その機構には、網膜上の物体の像が鮮明に焦点合わせされずにぼやけている
ことを検知する感覚部分が含まれる。焦点外れした像の検知は、網膜の中層内の水平細胞
及びアマクリン細胞の層中でなされることとなる。光受容体の軸索、水平細胞及びアマク
リン細胞及び双極細胞の軸索及び樹状突起が、網膜ミュラー細胞と密に連係して絡み合う
ことによって提供されるネットワークは、像の縁が鮮明かぼやけているかどうかを検知す
ることとなる。この過程は、これらの網膜層中で生理学的に起こるコントラスト感受性及
びコントラスト増強又はコントラスト抑制と部分的に関連し得る。
【0056】
像の縁の鮮明さ又はぼやけが検知されると、その絡み合ったネットワーク中の細胞は、
青色の像又は赤色の像に関する縁がより鮮明かどうかを更に感知することとなる。それと
いうのも、青色、緑色及び赤色の光は、3つの異なる種類の錐体光受容体によって知覚さ
れるからである。色収差の物理的原理を使用すれば、赤色領域ではなく青色領域における
鮮明な像は、眼軸長が短すぎることを示しており、その一方で、青色領域ではなく赤色領
域における鮮明な像は、眼軸長が長すぎることを示している。したがって、鮮明な青色の
像及び焦点外れした赤色の像の場合には、上記細胞のネットワークは、眼の正視化過程に
おけるエフェクター要素に眼軸長を増大するシグナルを与えることとなる。鮮明な赤色の
像及び焦点外れした青色の像の場合には、上記細胞のネットワークは、眼の正視化過程に
おけるエフェクター要素に眼軸長の増大を止めるシグナル、又は眼の生理学的成長の間の
軸長の増大速度を低下させるシグナルを与えることとなる。
【0057】
眼の生理学的成長の間の眼軸延長を調節することに関与する成長する眼内の構造は、網
膜色素上皮細胞(RPE)であり、該細胞は、シグナルを受けるのに網膜中層中の網膜ネ
ットワークの十分に近くにあり、胚発生の間の分化の程度が比較的低いため多分化能を有
し、そしてとりわけそれらの基底膜としてのブルッフ膜(BM)の内側部分を形成する。
BMは、眼において生物力学的に重要な内殻とみなすことができ、それは、毛様筋を有す
る毛様体の毛様体突起に連結されており、間接的に前部中の強膜岬に連結され、かつ後部
中の視神経頭の乳頭周囲輪に連結されている。網膜中層におけるネットワークがRPE細
胞により多くの基底膜を生成するシグナルを与えると、これにより、より多くの基底膜材
料の堆積がBMの内層中に生じ、引き続きBMが延長することとなる。BMの延長は、成
長に関連する圧力をスポンジ状の脈絡膜を通じて強膜へと伝達することによって、BMが
強膜をより外側へと押し出すことを意味する。さらに、それにより、二次的に脈絡膜の菲
薄化がもたされる。それに応じて、2歳〜3歳の年齢の後(すなわち、眼球の生理学的成
長が終わった後)の眼軸延長は、強膜及び脈絡膜の菲薄化と関連しているが、強膜及び脈
絡膜の体積の増加とは関連しておらず、それは、正視化の過程の両組織の能動的な役割と
矛盾している。当然の帰結として、BMは、脈絡膜及び強膜とは異なり、眼軸延長におい
て薄くならず、このことは、眼の成形及び最終的な形状及び長さの精密な調整におけるB
Mの能動的な役割を指摘している。
【0058】
網膜中層における感覚的ネットワークと、エフェクター部分としてのRPE/BMとの
間のシグナル伝達経路は、RPEに対してより多くの基底膜材料を設けるためのインパル
ス又はこの材料の産生を減らすためのインパルスのいずれかを与えるサイトカイン、ケモ
カイン、成長因子又は同様のタンパク質のような分子を用いる。この関連において、アン
フィレグリンは、本発明においては、これらの分子の1つとして、かつ眼軸延長の主たる
メディエーターとして同定された。