【課題】簡単な方法により作業手順や養生期間を削減して施工期間を短縮するとともに、凹部のひび割れ耐力を向上することができるプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法を提供する。
【解決手段】プレキャスト構造部材2,2同士の間の目地部Aに経時硬化材3を打設してプレキャスト構造部材2と経時硬化材3を連結一体化するプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造1の構築方法において、プレキャスト構造部材2,2同士を、ねじを備えた緊張力導入用鋼材4で連結する工程を行うとともに、経時硬化材3を打設する前に、目地部Aに緊張力を付与する緊張力付与工程を行い、その後、目地部Aに経時硬化材3を打設する打設工程を行って、プレキャスト構造部材2と経時硬化材3を連結一体化し、前記緊張力付与工程では、緊張力導入用鋼材4の前記ねじを締め込むことにより、緊張力を徐々に高めて前記目地部のひび割れを抑制する緊張力を付与する。
プレキャスト構造部材同士の間の目地部に経時硬化材を打設してプレキャスト構造部材と経時硬化材を連結一体化するプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法であって、
前記プレキャスト構造部材同士を、ねじを備えた緊張力導入用鋼材で連結する工程を行うとともに、
経時硬化材を打設する前に、前記目地部に緊張力を付与する緊張力付与工程を行い、その後、前記目地部に経時硬化材を打設する打設工程を行って、プレキャスト構造部材と経時硬化材を連結一体化し、
前記緊張力付与工程では、前記緊張力導入用鋼材の前記ねじを締め込むことにより、緊張力を徐々に高めて前記目地部のひび割れを抑制する緊張力を付与すること
を特徴とするプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法。
前記緊張力付与工程では、ブロックや楔などの掛止部材を前記目地部又はスタッドジベルに噛ますことにより前記プレキャスト構造部材を掛け止めて前記緊張力を付与すること
を特徴とする請求項1に記載のプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法を実施するための一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[第1実施形態]
先ず、
図1〜
図3を用いて、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造について説明する。
図1は、本実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造1の構成を示す鉛直断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造1(以下、単に連結構造という。)は、プレキャスト構造部材として2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2,2と、これらの2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2,2間に形成された隙間である目地部Aに打設された経時硬化材3と、この経時硬化材3に埋設された緊張力導入用鋼材4など、から構成されている。
【0020】
(プレキャスト構造部材)
図2は、本実施形態に係る連結構造1のプレキャスト構造部材であるプレキャスト鉄筋コンクリート床版2を示す図であり、(a)は、鉛直断面図、(b)は、平面図である。
図2に示すように、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2は、予め工場等で所定の鉄筋が配筋されてコンクリートが打設され、適切な養生期間が経過し所定の強度が発現した矩形盤状の鉄筋コンクリート製のスラブからなる床版である。
【0021】
また、これらのプレキャスト鉄筋コンクリート床版2,2の連結部分である互いに対向する端部には、後述の緊張力導入用鋼材4の長手方向端部のナット部分を収容する複数の箱抜き部21が所定間隔をおいて形成されている。なお、図示形態では、平面視の四辺のうち一辺の端部にのみ箱抜き部21が形成されたものを例示したが、四辺のいずれの辺にも箱抜き部を形成して、橋軸方向の端部間、これと直交する橋幅方向の端部間でもいずれの方向にも連結してもよいことは云うまでもない。
【0022】
(経時硬化材)
本実施形態に係る連結構造1の経時硬化材3は、所定の鉄筋を配筋した後、現場打ちのコンクリートを打設した場所打ち鉄筋コンクリートである。この経時硬化材3は、
図2に示す2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2間に形成された目地部Aに打設される。
【0023】
勿論、本発明に係る経時硬化材は、幅が充分に狭い場合は、鉄筋を配筋する必要もないし、後述のように定着金具等の狭小の隙間に打設する場合は、粗骨材のないモルタルや、もっと流動性の高いグラウトとしても良いことは云うまでもない。要するに、本発明に係る経時硬化材は、セメントや石膏などの水和反応により硬化する水硬性物質や樹脂など、型枠内に打設して一定時間経過後に硬化するものであれば採用することができる。
【0024】
(緊張力導入用鋼材)
図3は、本実施形態に係る緊張力導入用鋼材4を箱抜き部21に設置した状態を示す説明図である。
図3に示すように、本実施形態に係る連結構造1の緊張力導入用鋼材4は、PC鋼棒40の両端にねじが切られてナット41が螺着されたPC鋼材であり、ナットを締め付けることにより、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2間に緊張力を付与する機能を有している。
【0025】
図3に示すように、緊張力導入用鋼材4は、PC鋼棒40の両端のナット41部分が、連結して一体化する2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2のそれぞれの箱抜き部21に跨って収容されている。また、各箱抜き部21の端部側の中央付近には、端部側面から外部に貫通し、PC鋼棒40の外径より大きく、ナット41の外径より小さい径の貫通孔(図示せず)が穿設されており、その貫通孔にPC鋼棒40が挿通されて緊張力導入用鋼材4が設置されている。このため、2つのナット41をそれぞれ回動させて2つのナット41が近づく方向へ締め付けることにより、各箱抜き部21の当該貫通孔を介してナット41の支圧力の反力が緊張力導入用鋼材4に伝達されて、一体化する2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2間に緊張力が付与される仕組みとなっている。
【0026】
次に、
図1〜
図3を用いて、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造の構築方法について説明する。
【0027】
(1)プレキャスト構造部材設置工程
先ず、本連結構造1の構築方法では、鋼桁などの橋桁上の所定の位置に、プレキャスト構造部材である前述の複数のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2を敷き並べるプレキャスト構造部材設置工程を行う。
図2に示すように、連結する2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2の間が、目地部Aとなる。
【0028】
(2)緊張力導入用鋼材設置工程
次に、本連結構造1の構築方法では、
図3に示すように、一定間隔をおいて形成された対向する箱抜き部21に緊張力導入用鋼材4の長手方向の端部をそれぞれ設置する緊張力導入用鋼材設置工程を行う。
【0029】
(3)緊張力付与工程
次に、本連結構造1の構築方法では、
図3に示す緊張力導入用鋼材4のナット41をそれぞれ回動させて締め付けることにより、一体化する2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2間に緊張力を付与する緊張力付与工程を行う。
【0030】
このとき付与する緊張力は、ナット41を締め付けてもプレキャスト鉄筋コンクリート床版2が不動であるか、又は微動した直後に締め付けを止めることで付与される、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2の自重による橋桁との静止摩擦力以内の緊張力である。
【0031】
何故なら、現場打ちの部分と既設のプレキャスト部材との打ち継ぎのひび割れを抑制する緊張力としては、前述の静止摩擦力以内の緊張力で充分足りるとともに、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2を固定する手間が省けるからである。
【0032】
なお、鋼桁と合成するスタッドジベルにモルタルブロックなどのブロック状の物体を噛ましたり、床版端部の目地部に楔を噛ますなどしたりしてプレキャスト鉄筋コンクリート床版2をブロックや楔などの掛止部材で掛け止めてズレにくくして緊張力を付与してもよい。その場合は、掛止部材を噛ます手間が増えるものの、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2,2間に係る緊張力を増加させることができ、ひび割れ抑制効果を高めることができる。
【0033】
但し、その場合でも掛止部材を取り外すような付与した緊張力を緩めるリリース工程を有していない。このため、新たに打設する経時硬化材3にはプレストレスは作用しないものの、プレキャスト構造部材間には、プレストレスが作用し、プレキャスト構造部材と経時硬化材の連結部分のひび割れ耐力を向上することができる。勿論、貫通ボルトや何らかの機械装置等でプレキャスト鉄筋コンクリート床版2を完全に固定して高いプレストレスを付与することも可能である。
【0034】
(4)打設工程
次に、本連結構造1の構築方法では、目地部Aの下面及び側面に型枠を設置して前述の経時硬化材3としてコンクリートを流し込んで打設する打設工程を行う。そして、一定時間が経過して経時硬化材3が所定の強度が発現した後、型枠を脱型して
図1に示す連結構造1の構築が完了する。勿論、目地部Aが橋桁や他の構造物上となり型枠が不要な場合は、設置しなくてもよいことは云うまでもない。
【0035】
以上説明した本発明の第1実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造及びその構築方法によれば、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2の目地部A周りのひび割れ耐力を向上することができる。このため、ひび割れから雨水等が浸食して内部補強鉄筋等が腐食するおそれが少なくなり、構造体の耐久性を向上させることができる。また、コンクリートなどの経時硬化材を2度打ちする必要がなくなり、作業手順や養生期間を削減して施工期間を短縮することができる。
【0036】
[第2実施形態]
次に、
図4〜
図11を用いて、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造1’について説明する。本実施形態に係る連結構造1’は、特許文献2に記載のプレキャスト床版の目地構造と略同構成であり、前述の第1実施形態に係る連結構造1と相違する点は、主に、箱抜き部21に相当する部分に、後述の埋設金具が設けられている点なので、その点を説明し、他の説明を省略する。
【0037】
本実施形態に係る連結構造1’は、プレキャスト構造部材として後述の複数の埋設金具5が埋設された2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’,2’と、これらの2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’,2’間に形成された隙間である目地部A’及び埋設金具5の上面に打設された経時硬化材3’と、埋設金具5と嵌合してプレキャスト鉄筋コンクリート床版2,2を連結する嵌合金具6など、から構成されている。
【0038】
(プレキャスト構造部材)
本実施形態に係るプレキャスト構造部材であるプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’は、
図2に示した前述のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2と略同構成の床版であり、相違する点は、接合する端部付近に
図4〜
図6に示す埋設金具5が埋設されている点である。
【0039】
図4は、本実施形態に係る連結構造1’の埋設金具5を示す斜視図であり、
図5は、埋設金具5の平面図、
図6は、
図5のX−X線断面図である。
図4〜
図6に示すように、本実施形態に係る埋設金具5は、金具本体50と、この金具本体50を床版に定着させる定着部51など、から構成されている。この埋設金具5は、前述の箱抜き部に相当する部分に埋設され、金具本体50の上面だけが箱抜き部から露出した状態となっている。
【0040】
この金具本体50は、嵌合金具6と嵌合する嵌合凹部52を有する金属製の金具であり、嵌合金具6と協働してプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’を連結する機能を有している。この嵌合凹部52は、
図4、
図5に示すように、連結方向の端部中央にスリット53が形成された平面視でC字状となった凹部である。また、この嵌合凹部52のスリット53の両脇の内面は、上方に行くに従って凹部が広くなるようにテーパー状に形成されたテーパー面54となっている。
【0041】
そして、嵌合凹部52の底面中央付近には、後述の止付けボルトB1と螺合するボルト孔55が穿設されている。このボルト孔55には、止付けボルトB1と螺合する雌ねじが形成されている。
【0042】
定着部51は、金具本体50の連結する側と反対側の面(背面)に突設された2本の角棒状の部位であり、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2’のコンクリートと付着力を高めるため複数のリブ56が形成されている。図示形態では、金具本体50と反対側の先端部57が連結された形状となっている。
【0043】
なお、符号58は、嵌合凹部52と嵌合金具6とがズレないようにするためのズレ防止リブであり、符号59は、経時硬化材3’の打設時に嵌合凹部52から嵌合金具6が浮き上がっては外れないようにするための楔用の孔である。
【0044】
(緊張力導入用鋼材)
図7は、本実施形態に係る連結構造1’の嵌合金具6を示す斜視図であり、
図8は、嵌合金具6の平面図、
図9は、嵌合金具6の側面図である。
図7〜
図9に示すように、本実施形態に係る緊張力導入用鋼材である嵌合金具6は、前述の嵌合凹部52と嵌合する平面視D字状の左右一対の嵌合部60が形成され、前述のスリット53に相当する連結部61で左右の嵌合部60が連結した平面視で眼鏡状となった金具である。
【0045】
この嵌合金具6の嵌合部60は、
図7、
図9に示すように、左右の両端部分が止付けボルトB1を装着するボルト孔62となっており、その周りの高さが低く、テーパー面54側が平面視でH字状に高く段違い形状となっている。また、嵌合部60同士の間隔は、下に行くに従って広くなるようにテーパー面63となっている。このため、嵌合金具6を埋設金具5の嵌合凹部52に嵌め込んで下方に押し付けるに従って、テーパー面54とテーパー面63の係合により、連結するプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’同士が引き寄せられる方向に嵌合金具6の連結部61に緊張力が働く仕組みとなっている。
【0046】
なお、符号64は、ズレ防止リブ58と係合してズレを防止するズレ防止溝である。
【0047】
次に、
図10、
図11を用いて、第2実施形態に係る連結構造1’の構築方法について説明する。第1実施形態に係る連結構造1の構築方法と相違する点を主に説明し、その他の説明は省略する。
図10は、2つの埋設金具5,5に嵌合金具6を嵌合させた状態を示す平面図、
図11は、
図10のY−Y線鉛直断面図であり、(a)が嵌合金具6の装着前、(b)が嵌合金具6の装着後の状態を示している。なお、
図11は、埋設金具5と嵌合金具6のみを示し、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2’等を省略している。
【0048】
(1)プレキャスト構造部材設置工程
先ず、本連結構造1’の構築方法では、第1実施形態に係る連結構造1の構築方法と同様に、鋼桁などの橋桁上の所定の位置に、プレキャスト構造部材である前述の複数のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’を敷き並べるプレキャスト構造部材設置工程を行う。
【0049】
但し、
図10、
図11に示すように、連結する2枚のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2’、2’の間の隙間である目地部A’は、
図2等で示した目地部Aより間隔がかなり狭くなっている。
【0050】
(2)嵌合金具装着工程
次に、本連結構造1’の構築方法では、
図10、
図11に示すように、対向する前述の埋設金具5の2つの嵌合凹部52に嵌合金具6の嵌合部60を嵌合させて埋設金具5に嵌合金具6を装着する嵌合金具装着工程を行う。
【0051】
本工程では、先ず、対向する埋設金具5の2つの嵌合凹部52に、嵌合部60の下端を嵌め込んで嵌合金具6を載置する。そして、止付けボルトB1をボルト孔62に差し込んで、埋設金具5のボルト孔55にねじ込むことで、テーパー面54とテーパー面63を係合させて、緊張力を高めていく。本工程では、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2’が動き出す直前、又は直後まで止付けボルトB1をボルト孔55にねじ込んでいく。また、必要に応じて、経時硬化材3’の打設時に嵌合凹部52から嵌合金具6が浮き上がっては外れないようにするために楔Cを楔用の孔59に差し込んで固定する。
【0052】
このように、本連結構造1’の構築方法では、前述の連結構造1の構築方法の(2)緊張力導入用鋼材設置工程と(3)緊張力付与工程とを、略同時に行うことができる。このため、緊張力付与工程を短縮することができ、連結構造1’の構築作業を短縮してコストダウンを達成することができる。
【0053】
その上、複数の埋設金具5と嵌合金具6を同時に装着することも容易であり、各連結部分の緊張力の導入が均一となるばかりでなく、床版同士全体の緊張力が均一とすることが容易であり、さらに構造体の耐久性を向上させることができる。
【0054】
(3)打設工程
次に、本連結構造1’の構築方法では、前述の連結構造1の構築方法と同様に、目地部A’の下面及び側面に型枠を設置して経時硬化材3’を流し込んで打設する打設工程を行う。そして、一定時間が経過して経時硬化材3’が所定の強度が発現した後、型枠を脱型して
図1に示す連結構造1の構築が完了する。
【0055】
ここで、経時硬化材3’は、前述の経時硬化材3と同様であるが、目地部A’が狭いので、無収縮モルタルや、それより流動性の高いグラウトが好ましい。また、目地部A’が狭く、経時硬化材3’の必要量が少なくて済むため、単価の高い早強セメントを含有した早強モルタル等を使用してさらなる工期短縮を図ることも可能である。
【0056】
なお、従来の特許文献2に記載のプレキャスト床版の目地構造の構築方法では、目地部A’にグラウト等を充填して強度が発現した後、埋設金具5に嵌合金具6を装着し、その後、埋設金具5等の防錆のため、埋設金具5の上面の箱抜き部にコンクリート等を打設していた。このため、グラウトやコンクリートが固まるまでの養生期間が二重に必要であり、工期の長期化の要因となっていた。
【0057】
第2実施形態に係る連結構造1’の構築方法によれば、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2’の目地部A周りのひび割れ耐力を向上することができるだけでなく、従来必要であったコンクリートなどの経時硬化材を2度打ちする必要がなくなり、作業手順や養生期間を削減して施工期間を短縮することができる。
【0058】
[第3実施形態]
次に、
図12、
図13を用いて、本発明の第3実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造1”について説明する。本実施形態に係る連結構造1”は、本発明を断面修復の補修部分の現場打ち経時硬化材とプレキャスト構造部材との連結構造に適用した場合である。
【0059】
図12は、第3実施形態に係る連結構造1”の構成を示す鉛直断面図であり、
図13は、連結構造1”のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2”の修復前を示す鉛直断面図である。
図12に示すように、本実施形態に係る連結構造1”は、プレキャスト構造部材として例示するプレキャスト鉄筋コンクリート床版2”と、断面修復部分である凹部A”に充填した経時硬化材3”と、この凹部A”の側面同士を繋ぐ緊張力導入用鋼材4”など、から構成されている。
【0060】
(プレキャスト構造部材)
本実施形態に係るプレキャスト鉄筋コンクリート床版2”は、
図2に示した前述のプレキャスト鉄筋コンクリート床版2と略同構成の床版であり、相違する点は、
図13に示すように、床版の下面に劣化部分Bがある点である。プレキャスト鉄筋コンクリート床版2”は、後述のように、劣化部分Bが取り除かれて撤去され、凹部A”が形成されている。
【0061】
(経時硬化材)
そして、この凹部A”に経時硬化材3”が充填される。この経時硬化材3”は、前述の経時硬化材3と同様であるが、下面に充填するので、所定の粘度を有したモルタルが好ましい。
【0062】
(緊張力導入用鋼材)
また、この凹部A”の内側面には、ケミカルアンカー(登録商標)やホールインアンカーなどの後施工アンカーA1が設置され、これらの後施工アンカーA1同士を接続する緊張力導入用鋼材として、全ねじボルト41”とターンバックル42”が装着されている。
【0063】
次に、
図14〜
図16、
図12を用いて、第3実施形態に係る連結構造1”の構築方法について説明する。
図14は、第3実施形態に係る連結構造1”の構築方法の劣化部分撤去工程を示す工程説明図である。
【0064】
(1)劣化部分撤去工程
先ず、本連結構造1’の構築方法では、
図13に示した劣化部分Bを斫り機等で斫り取って撤去し、
図14に示す凹部A”を形成する劣化部分撤去工程を行う。
【0065】
(2)アンカー設置工程
図15は、連結構造1”の構築方法のアンカー設置工程を示す工程説明図である。
次に、
図15に示すように、本連結構造1’の構築方法では、前工程で形成した凹部A”の対向する内側面に削孔機等で一直線状に対向する2つの孔を削孔した後、薬剤カプセルやホールインアンカーなどを打ち込んで後施工アンカーA1をそれぞれ設置する。
【0066】
(3)緊張力導入用鋼材設置工程
図16は、連結構造1”の構築方法の緊張力導入用鋼材設置工程及び緊張力付与工程を示す工程説明図である。
次に、
図16に示すように、本連結構造1’の構築方法では、緊張力導入用鋼材を設置する設置工程を行う。本工程では、緊張力導入用鋼材として前工程で設置した後施工アンカーA1に螺合する2本の全ねじボルト41”を装着し、それらを繋ぐターンバックル42”(緊結治具)を取り付ける。
【0067】
(4)緊張力付与工程
次に、本連結構造1”の構築方法では、前工程で装着したターンバックル42”を回転させて、
図16の矢印で示すように、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2”の凹部A”間に緊張力を付与する緊張力付与工程を行う。
【0068】
(5)打設工程
次に、本連結構造1”の構築方法では、凹部A”にモルタル等の経時硬化材3”を打設・充填する打設工程を行う。勿論、凹部A”の下面に型枠を設置してグラウトやモルタルを打設・充填してもよいことは云うまでもない。
【0069】
以上説明した本実施形態に係る連結構造1”の構築方法でも、緊張力付与工程で付与した緊張力を緩めるリリース工程を有していない。このため、新たに打設する経時硬化材3”にはプレストレスは作用しないものの、プレキャスト構造部材間には、プレストレスが作用し、プレキャスト構造部材と経時硬化材の連結部分となる補修部分(凹部A”)のひび割れ耐力を向上させることができる。
【0070】
なお、本実施形態に係る緊張力導入用鋼材としてターンバックル42”を例示したが、緊張力導入用鋼材の変形例として、
図17に示すように、全ねじボルトの設置高さを互い違いにするとともに、全ねじボルトの先端同士をブロック鋼材で結合し、ナットで締め付け可能に構成してもよい。
【0071】
また、
図18に示すように、全ねじボルトの代わりにボタンヘッドのある鋼材を設置して、ねじを回して緊張力を導入する構成としてもよい。要するに、プレキャスト構造部材であるプレキャスト鉄筋コンクリート床版2”の凹部A”間に緊張力を導入することのできる構成であればよい。
【0072】
第3実施形態に係る連結構造1”の構築方法によれば、プレキャスト鉄筋コンクリート床版2”の断面修復部分のひび割れ耐力を向上することができ、作業手順や養生期間を削減して施工期間を短縮することができる。また、従来、剥落等のおそれが高い断面修復部分にプレストレスを掛けることができ、耐久性が大幅に向上する。
【0073】
以上、本発明の第1〜第3実施形態に係るプレキャスト構造部材と経時硬化材の連結構造及びその構築方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0074】
特に、プレキャスト構造部材としてプレキャスト鉄筋コンクリート床版を例示して説明したが、他のプレキャスト構造部材であってもよいことは云うまでもない。また、プレキャスト構造部材とは、工場等の現場以外の場所で予め作成したプレキャスト部材だけを指すのではなく、現場において後から打設される経時硬化材より先に打設されて既に所定の強度が発現した既設のコンクリート構造体を指すものとして使用している。本発明は、このような既設のコンクリート構造体と後施工の経時硬化材との連結一体化構造には、適用可能である。その場合でも、前記作用効果を奏することは明らかである。