【解決手段】被覆溶接棒が母材に接触すると初期電流値の溶接電流Iwを通電し、被覆溶接棒が母材から引き上げられてアークが発生すると、遅延時間Td経過後に溶接電流Iwを初期電流値から定常電流値まで増加させて溶接を開始する被覆アーク溶接の溶接開始方法において、第1溶接モード及び第2溶接モードを備え、第2溶接モードのときは第1溶接モードのときよりも遅延時間Tdを大きな値に設定する。さらに、第2溶接モードのときは第1溶接モードのときよりも溶接電流Iwの増加率Siを小さな値に設定する。さらに、初期電流値は、経時的に小さな値に変化する。
【背景技術】
【0002】
近年は、消耗電極式アーク溶接と非消耗電極式アーク溶接とを選択して使用することができる複合溶接電源の需要が高まっている。消耗電極式アーク溶接としては、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接、ミグ溶接、被覆アーク溶接等が可能である。非消耗電極式アーク溶接としては、簡易式のティグ溶接が可能である。
【0003】
溶接電源のメインスイッチがオン状態となり、溶接モードとして被覆アーク溶接モードが選択されると、溶接電源は出力を開始する。アークが点弧していない無負荷状態では、溶接電圧は溶接電源が出力できる80〜120V程度の最大電圧値となる。この最大電圧値が被覆溶接棒と母材との間に印加されているので、溶接作業者が感電するおそれがある。このために、被覆アーク溶接では、無負荷状態での溶接電圧を15V程度の低い値に制御する電撃防止機能が付加されている。
【0004】
被覆アーク溶接では、溶接作業者が溶接ホルダーの被覆溶接棒を母材に接触させて引き上げてアークを点弧する、いわゆるタッチスタートを行うことで溶接を開始する。このタッチスタートでは、溶接作業者が溶接ホルダーを引き下げて被覆溶接棒が母材に接触すると初期電流値の溶接電流が通電し、その後に溶接作業者が溶接ホルダーを引き上げて被覆溶接棒が母材から離反してアークが発生すると、遅延時間経過後に溶接電流が初期電流値から定常電流値まで増加して溶接が開始される。
【0005】
他方、溶接を終了するときは、溶接ホルダーを高く引き上げてアーク切れを発生させることで行っている。
【0006】
特許文献1の発明は、非消耗性電極が先端に設けられている溶接トーチを被溶接物に接触させ引き離すことによってアークを発生させるTIG溶接におけるアークスタート方法を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る被覆アーク溶接の溶接開始方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、複合溶接電源の構成の中で被覆アーク溶接を行うときの構成のみを示している。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0017】
メインスイッチSWは、3相200V等の商用電源(図示は省略)のオン状態/オフ状態を切り換える。
【0018】
電源主回路PMは、上記のメインスイッチSWがオン状態になると、商用電源が入力されて、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0019】
溶接ホルダー4は、被覆溶接棒1を把持しており、被覆溶接棒1に給電する。
【0020】
被覆溶接棒1と母材2との間にアーク3が発生する。アーク3中を溶接電流Iwが通電し、被覆溶接棒1と母材2との間に溶接電圧Vwが印加される。被覆溶接棒1の先端と母材2との被覆溶接棒1の軸方向の距離がスタンドオフLwである。
【0021】
ホットスタート電圧設定回路VHRは、予め定めたホットスタート電圧設定信号Vhrを出力する。このホットスタート電圧設定信号Vhrの値は、短い周期での繰り返し溶接のときに作業性が良くなるように大きな値に設定される。一般的に、この値が大きいほどアークの再点弧の確立が高くなる。半面、この値が大きいほど感電のおそれが高まる。したがって、アークの再点弧が円滑である範囲で、最小値に設定することが望ましい。被覆溶接棒1の直径及び/又は材質が異なると、アーク点弧が円滑になる電圧値が変化する。このために、ホットスタート電圧設定信号Vhrの値は、被覆溶接棒の直径及び/又は材質に応じて適正値に設定することが望ましい。ホットスタート電圧設定信号Vhrは、例えば60〜100V程度に設定される。
【0022】
電撃防止電圧設定回路VDRは、予め定めた電撃防止電圧設定信号Vdrを出力する。ここで、Vhr>Vdrである。この電撃防止電圧設定信号Vdrの値は、感電を防止することができるように15V程度に設定される。
【0023】
電圧設定回路VRは、上記のホットスタート電圧設定信号Vhr、上記の電撃防止電圧設定信号Vdr及び後述するホットスタート期間信号Thsを入力として、ホットスタート期間信号ThsがHighレベル(ホットスタート期間Th)のときはホットスタート電圧設定信号Vhrの値を電圧設定信号Vrとして出力し、ホットスタート期間信号ThsがLowレベルのときは電撃防止電圧設定信号Vdrの値を電圧設定信号Vrとして出力する。
【0024】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr及び上記の電圧検出信号Vdを入力として、両値の誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0025】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値が予め定めた電流通電判別値(5A程度)以上のときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。
【0026】
アーク判別回路ADは、上記の電流通電判別信号Cd及び上記の電圧検出信号Vdを入力として、
電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)であり、かつ、電圧検出信号Vdが予め定めたアーク判別値(10V程度)よりも大きいときはアークが発生状態にあると判別してHighレベルとなり、
それ以外のときはアークが発生していない状態(接触状態又は無負荷状態)にあると判別してLowレベルとなるアーク判別信号Adを出力する。
【0027】
溶接モード選択回路MSは、第1溶接モード及び第2溶接モードを溶接作業者が選択する回路であり、第1溶接モードが選択されるとLowレベルとなり、第2溶接モードが選択されるとHighレベルとなる溶接モード選択信号Msを出力する。この溶接モード選択回路MSは、溶接電源のフロントパネルに設けられるスイッチ等である。第1溶接モードは熟練作業者の溶接開始操作に適しており、第2溶接モードは未熟練作業者の溶接開始操作に適している。
【0028】
初期電流設定回路ISRは、上記の電流通電判別信号Cdを入力として、電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化した時点では予め定めた初期値となり、その後は経時的に減少する初期電流設定信号Isrを出力する。
【0029】
定常電流設定回路ICRは、予め定めた定常電流設定信号Icrを出力する。
【0030】
遅延時間設定回路TDRは、上記の溶接モード選択信号Msを入力として、
溶接モード選択信号MsがLowレベル(第1溶接モード)のときは予め定めた第1遅延時間となり、
溶接モード選択信号MsがHighレベル(第2溶接モード)のときは予め定めた第2遅延時間となる遅延時間設定信号Tdrを出力する。第2遅延時間は、第1遅延時間よりも大きな値である。
【0031】
増加率設定回路SRは、上記の溶接モード選択信号Msを入力として、
溶接モード選択信号MsがLowレベル(第1溶接モード)のときは予め定めた第1増加率となり、
溶接モード選択信号MsがHighレベル(第2溶接モード)のときは予め定めた第2増加率となる増加率設定信号Srを出力する。第2増加率は、第1増加率よりも小さな値である。
【0032】
電流設定回路IRは、上記の初期電流設定信号Isr、上記の定常電流設定信号Icr、上記の遅延時間設定信号Tdr、上記の増加率設定信号Sr及び上記のアーク判別信号Adを入力として、
アーク判別信号AdがLowレベル(接触状態又は無負荷状態)のときは初期電流設定信号Isrの値となる電流設定信号Irを出力し、
アーク判別信号AdがLowレベルからHighレベル(アーク発生状態)に変化した時点から遅延時間設定信号Tdrによって定まる遅延時間Tdが経過した後に、初期電流設定信号Isrの値から増加率設定信号Srによって定まる増加率Siで増加し、定常電流設定信号Icrの値に達するとその値を維持する電流設定信号Irを出力する。
【0033】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir及び上記の電流検出信号Idを入力として、両値の誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0034】
誤差増幅回路EAは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の電流通電判別信号Cdを入力として、電流通電判別信号CdがHighレベル(通電中)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、電流通電判別信号CdがLowレベル(非通電)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路によって、溶接電流Iwが通電しているときは溶接電源は定電流制御され、非通電(無負荷状態)のときは定電圧制御される。
【0035】
駆動回路DVは、上記の誤差増幅信号Ea及び後述する禁止信号Ksを入力として、禁止信号KsがLowレベルのときは誤差増幅信号Eaによって変調制御を行い駆動信号Dvを出力し、禁止信号KsがHighレベルのときは駆動信号Dvを出力しない。したがって、禁止信号KsがHighレベルのときは、電源主回路PMからの出力は停止される。
【0036】
基準電圧値設定回路VTRは、予め定めた基準電圧値信号Vtrを出力する。この基準電圧値信号Vtrは、電流設定信号Irの値、被覆溶接棒1の直径、材質等に応じて、被覆溶接棒1の引き上げ距離(スタンドオフLw)が所望値になったときにアークが消弧するように設定される。
【0037】
禁止回路KSは、上記の電圧検出信号Vd及び上記の基準電圧値信号Vtrを入力として、電圧検出信号Vdの値が、基準電圧値信号Vtrの値未満の状態から以上の状態になり、その状態が予め定めた監視期間継続したときは、予め定めた禁止期間だけHighレベルとなる禁止信号Ksを出力する。例えば、監視期間は100msであり、禁止期間は100msである。
【0038】
ホットスタート期間回路THSは、上記の禁止信号Ksを入力として、禁止信号KsがHighレベルからLowレベルに変化した時点から予め定めたホットスタート期間Thが経過する時点までHighレベルとなる、ホットスタート期間信号Thsを出力する。このホットスタート期間Thは、例えば0.5〜5.0秒程度の範囲で設定される。この値は、短い周期での繰り返し溶接の作業性を考慮して設定される。
【0039】
図2は、
図1の溶接電源において、溶接を行うときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は禁止信号Ksの時間変化を示し、同図(D)はスタンドオフLwの時間変化を示し、同図(E)はホットスタート期間信号Thsの時間変化を示し、同図(F)はアーク判別信号Adの時間変化を示す。同図は、被覆アーク溶接中に、溶接ホルダーの引き上げ操作を行って溶接を終了し、次の溶接を開始するときである。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0040】
時刻t1以前の定常溶接中は、同図(D)に示すように、被覆溶接棒先端と母材との距離であるスタンドオフLwは溶接作業者によって略一定に維持されている。このスタンドオフLwは、5mm程度である。定常溶接中は、同図(A)に示すように、
図1の定常電流設定信号Icrによって定まる一定値の溶接電流Iwが通電し、同図(B)に示すように、スタンドオフLw(アーク長)に応じた略一定の溶接電圧Vwが印加する。同図(C)に示すように、禁止信号KsはLowレベルになっている。また、同図(E)に示すように、ホットスタート期間信号ThsもLowレベルになっている。同図(F)に示すように、アーク判別信号Adは、アークが発生しているのでHighレベルとなっている。
【0041】
時刻t1から、溶接作業者が溶接を終了するために溶接ホルダーの引き上げ操作を開始すると、同図(D)に示すように、スタンドオフLwは次第に長くなる。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなる。他方、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御されているので時刻t1以前の値を維持する。
【0042】
時刻t2において、同図(B)に示す溶接電圧Vw(
図1の電圧検出信号Vd)が、予め定めた基準電圧値未満の状態から以上の状態になり、その状態が予め定めた監視期間継続したために、同図(C)に示すように、禁止信号KsがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は出力を停止するので、時刻t2において、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなり、アークは消弧する。アークが消弧すると、同図(F)に示すように、アーク判別信号AdはLowレベルに変化する。これにより、溶接は終了する。監視期間は100ms程度であり、禁止信号KsがHighレベル/Lowレベルを短時間に繰り返すチャタリングを防止するために設けられている。
【0043】
基準電圧値は、上述したように、
図1の基準電圧値信号Vtrによって定まる。基準電圧値信号Vtrは、
図1の電流設定信号Ir、被覆溶接棒の直径、材質等に応じて、適正値に設定される。このようにすると、アークが消弧するスタンドオフLwを略一定にすることができるので、作業性を良好にすることができる。
【0044】
時刻t3において、時刻t2から予め定めた禁止期間が経過すると、同図(C)に示すように、禁止信号KsはLowレベルに戻る。これに応動して、溶接電源は出力を再び開始する。この状態ではアークは点弧していないので、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは通電せず、無負荷状態となっている。このために、溶接電源は定電圧制御に切り換えられる。時刻t3において、同図(C)に示す禁止信号KsがHighレベルからLowレベルに変化すると、同図(E)に示すように、ホットスタート期間信号ThsがHighレベルになり、予め定めたホットスタート期間Thが経過する時刻t4までHighレベルを維持する。したがって、時刻t3〜t4の期間がホットスタート期間Thとなる。
【0045】
時刻t3〜t4のホットスタート期間Th中は、
図1の電圧設定信号Vrは
図1のホットスタート電圧設定信号Vhrの値となる。このために、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、ホットスタート電圧値Vwhとなる。ホットスタート期間Thを設けているのは、短い周期での繰り返し溶接の作業性を良好にするためである。
【0046】
無負荷状態が時刻t4まで継続すると、
図1の電圧設定信号Vrは、
図1の電撃防止電圧設定信号Vdrの値に切り換わる。このために、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは電撃防止電圧値Vwdに低下する。これにより、感電を防止することができる。
【0047】
時刻t5から、次の溶接を開始するために、溶接作業者が溶接ホルダーを母材に近づけて行くと、同図(D)に示すように、スタンドオフLwは次第に短くなる。時刻t6において、被覆溶接棒が母材と接触すると、同図(A)に示すように、、
図1の初期電流設定信号Isrによって定まる初期電流値の溶接電流Iwが通電を開始する。これに応動して、溶接電源は定電流制御に切り換えられる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは略0Vとなる。
上記の初期電流値は、時刻t6の接触時点では予め定めた初期値(20A程度)であり、その後は経時的に減少し、予め定めた下限値(10A程度)に達するとその値を時刻t8の遅延期間終了まで維持する。初期電流の初期値は、被覆溶接棒1の先端があまり溶融しない程度の小さな値に設定される。初期電流を経時的に減少させるのは、被覆溶接棒1の先端の溶融を抑制するためである。溶融部分が大きくなると、アーク発生直後の再接触時に被覆溶接棒と母材との溶着が発生しやすくなるために、これを抑制するためである。
【0048】
時刻t7において、溶接作業者が溶接ホルダーを引き上げて被覆溶接棒の先端が母材から離反すると、アークが点弧する。これに応動して、同図(F)に示すように、アーク判別信号AdはHighレベルに変化する。時刻t7にアーク判別信号AdがHighレベルに変化した時点から
図1の遅延時間設定信号Tdrによって定まる遅延時間Tdが経過する時刻t8までの期間が遅延期間となる。この遅延期間中は、同図(A)に示すように、上記の初期電流値となる溶接電流Iwが通電を継続する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。遅延時間Tdは、第2溶接モードが選択されているときは第1溶接モードが選択されているときよりも大きな値になる。例えば、遅延時間Tdは、第1溶接モードのときは1msに設定され、第2溶接モートのときは10msに設定される。
【0049】
時刻t8に遅延期間が終了すると、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、
図1の増加率設定信号Srによって定まる増加率Siで増加し、時刻t9において上記の定常電流値に達するとその後はその値を維持する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwも増加して定常電圧値になる。増加率Siは、第2溶接モードが選択されているときは第1溶接モードが選択されているときよりも小さな値になる。例えば、増加率Siは、第1溶接モードのときは200A/msに設定され、第2溶接モートのときは100A/msに設定される。
【0050】
溶接作業者は、時刻t7から溶接ホルダーの引き上げを開始して、時刻t9前後で引き上げを停止して適正な距離を保持する。これに対応して、同図(D)に示すように、スタンドオフLwは、時刻t7から0mmよりも次第に大きくなり、時刻t9前後で5mm程度の適正な値となる。このようにして、溶接が開始される。
【0051】
上述した実施の形態1によれば、被覆溶接棒が母材に接触すると初期電流値の溶接電流を通電し、被覆溶接棒が母材から引き上げられてアークが発生すると、遅延時間経過後に溶接電流を初期電流値から定常電流値まで増加させて溶接を開始する被覆アーク溶接の溶接開始方法において、第1溶接モード及び第2溶接モードを備え、第2溶接モードのときは前記第1溶接モードのときよりも遅延時間を大きな値に設定する。第1溶接モードは熟練作業者の溶接開始操作に適しており、第2溶接モードは未熟練作業者の溶接開始操作適している。熟練作業者は、被覆溶接棒を母材に一旦接触させて適正距離まで引き上げる操作が迅速であり、かつ、円滑である。このために、上記の遅延時間を短くすることで迅速な操作に対応して、良好な溶接開始を行うことができる。熟練作業者にとって、遅延時間が長くなると、溶接開始時の作業性が悪くなる。未熟練作業者は、被覆溶接棒を母材に接触させて引き上げてアークが点弧した直後に、手振れによって再接触を発生させてしまうことがある。このときに、遅延時間が長いと、被覆溶接棒の先端の溶融が抑制されるので、被覆溶接棒が母材と溶着状態になることを抑制することができる。したがって、本実施の形態では、熟練作業者でも未熟練作業者でも、良好に溶接を開始することができる。
【0052】
さらに、実施の形態1によれば、第2溶接モードのときは第1溶接モードのときよりも溶接電流の増加率を小さな値に設定することが望ましい。熟練作業者は、被覆溶接棒を母材に一旦接触させて適正距離まで引き上げる操作が迅速であり、かつ、円滑である。このために、上記の溶接電流の増加率を大きな値にすることで迅速な操作に対応して、良好な溶接開始を行うことができる。熟練作業者にとって、増加率が小さい値になると、溶接開始時の作業性が悪くなる。未熟練作業者は、被覆溶接棒を母材に接触させて引き上げてアークが点弧した直後に、手振れによって再接触を発生させてしまうことがある。このときに、増加率が小さな値であると、被覆溶接棒の先端の溶融が抑制されるので、被覆溶接棒が母材と溶着状態になることを抑制することができる。したがって、本実施の形態では、熟練作業者でも未熟練作業者でも、さらに良好に溶接を開始することができる。
【0053】
さらに、実施の形態1によれば、初期電流値は、経時的に小さな値に変化することが望ましい。このようにすると、接触時間が長くなっても、被覆溶接棒の先端の溶融を抑制することができるので、再接触時の溶着をより防止することができる。