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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-121415(P2021-121415A)
(43)【公開日】2021年8月26日
(54)【発明の名称】油水分離フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/022 20060101AFI20210730BHJP
   D04H 13/00 20060101ALI20210730BHJP
【FI】
   B01D17/022 501
   D04H13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2020-14789(P2020-14789)
(22)【出願日】2020年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA02
4L047AA04
4L047AA05
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA23
4L047AB06
4L047CB08
4L047CC12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成で、乳化油又は水溶性油を水と油に分離可能であって、凍結後に解凍して使用しても、油水分離性能が劣化しない。
【解決手段】油水分離フィルターの一面を、20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルムの接触子が垂直荷重50g、移動速度5mm/秒、移動距離20mmで移動するときに、初期の動摩擦係数に対する10往復移動後の動摩擦係数の低下率が10%未満である。油水分離膜が、不織布の繊維表面に不織布1m当り0.1g〜30gの割合で形成され、撥水性及び撥油性の双方の機能を有する式(1)で示されるフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有する。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、油水分離フィルターの通気度が0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒である。

(1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油とを含む混合液体が流入する一面と、この一面に対向する前記混合液体が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルターであって、
前記一面を、20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルムの接触子が垂直荷重50g、移動速度5mm/秒、移動距離20mmで移動するときに、初期の動摩擦係数に対する10往復移動した後の動摩擦係数の低下率が10%未満であり、
前記繊維表面に油水分離膜が前記不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成され、
前記油水分離膜は、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、
前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、
前記油水分離フィルターの通気度が0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒であって、
前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とする油水分離フィルター。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【請求項2】
前記シリカゾル加水分解物は、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5〜20質量%含む請求項1記載の油水分離フィルター。
【請求項3】
前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される請求項1又は2記載の油水分離フィルター。
【請求項4】
前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である請求項1ないし3いずれか1項に記載の油水分離フィルター。
【請求項5】
前記水と油とを含む混合液体が流入する一面に相当する不織布を構成する繊維がガラス繊維である請求項4記載の油水分離フィルター。
【請求項6】
請求項1記載のフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と溶媒を含む油水分離膜形成用液組成物をアルコールで希釈して希釈液を調製し、前記希釈液に不織布をディッピングし、前記不織布を脱液して乾燥することにより、前記不織布の繊維表面に油水分離膜を形成した後、前記不織布を大気中、30℃〜120℃の温度で1時間〜24時間熱処理することを特徴とする油水分離フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な構成で、油がエマルジョン化した乳化油又は水溶性油を水と油に分離可能な油水分離フィルターに関する。更に詳しくは、撥水性及び撥油性(以下、撥水撥油性ということもある。)を有する油水分離膜が不織布の繊維表面に形成された油水分離フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、水と油とを含む混合液体は、その油水の混合状態に応じて、水面に油が浮上する浮上油と、油の粒子が水中に浮遊している分散油と、油と水が混ざりエマルジョン化している乳化油又は水溶性油とに分類される。
【0003】
本出願人は、水と油とを含む混合液体が流入する一面と、この一面に対向する他面との間を貫通する多数の気孔を備えた不織布からなる多孔質基材を有する油水分離多孔質体及びこれを備えた油水分離フィルターを提案した(特許文献1(請求項1、請求項7、段落[0020]、段落[0074])参照。)。この油水分離多孔質体は、気孔の開口径が0.1μm以上、180μm以下であり、気孔の表面に油水分離体が形成され、油水分離体が、撥油性付与基及び親水性付与基を有するフッ素系化合物を含む油水分離材を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−64405号公報
【特許文献2】特開2000−202247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水と油とを含む混合液体が上述した浮上油や分散油、即ち非水溶性油である場合、図5(a)に示すように、非水溶性油1の油粒子1aの表面はCH3等のアルキル基1bで覆われている。このアルキル基1bは水との親和力がなく非親水性であるため、非水溶性油1を放置すると、油粒子1aは水1cより比重が小さいため、その表面張力を下げようとして、油粒子1a同士が結合しながら、浮上する。そのため、特許文献1に示される親水撥油性を有する油水分離体を備えた油水分離フィルターでは、混合液体が非水溶性油の場合には、この混合液体を水分と油分に分離してろ過することが可能である。
【0006】
一方、混合液体が油と水が混ざりエマルジョン化している乳化油又は水溶性油である場合、図5(b)に示すように、水溶性油2の油粒子2aの表面には水酸基2bで覆われている。この水酸基2bは水2cとの親和力が高く、水溶性油2を放置しても油粒子2aは水中で安定して分散している。特許文献1に示される油水分離フィルターでは、油水分離体が親水撥油性を有するフッ素系化合物であるため、水中で油粒子が安定して分散している水溶性油は、その水酸基で覆われた油粒子が親水性付与基を有する油水分離体で化学的に阻止されずに、不織布等の多孔質基材を通過してしまい、混合液体を水分と油分に分離できない課題があった。このため中空糸膜を用いた油水分離装置により、乳化油又は水性油を水と油に分離する技術が知られている(例えば、特許文献2(請求項6、段落[0028]、図5)参照。)。しかしながら、こうした油水分離装置は構造が複雑である課題があった。
【0007】
また、特許文献1に示される油水分離フィルターは、後述する熱処理を行っても、油水分離膜は、この膜を構成する化合物がフッ素系化合物のみであり、シリカゾル加水分解物等の不織布との結合剤を含まないため、寒冷地において寒さで凍結した後で、解凍して使用する場合、油水分離フィルターの油水分離性能が劣化する課題があった。
【0008】
本発明の目的は、簡易な構成で、油がエマルジョン化した乳化油又は水溶性油を水と油に分離可能な油水分離フィルターを提供することにある。本発明の別の目的は、凍結後に解凍して使用しても、油水分離性能が劣化しない油水分離フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、第一に、油水分離フィルターの不織布の繊維表面に形成する油水分離膜に撥水撥油性を有するフッ素含有官能基成分を含ませることにより、不織布の繊維表面が化学的に水溶性油の油粒子を弾かせるとともに不織布を硬化させ、第二に、油水分離膜に水酸基を持つシリカゾル加水分解物を主成分として用いることで不織布に通水性を保持し、第三に、油水分離フィルターの通気度を所定の値にすることにより、不織布の気孔を小さくして物理的に水溶性油の油粒子の通過を阻止するようにして、本発明に到達した。また、本発明者は、上記フッ素含有官能基成分を含んだ油水分離膜が形成された不織布を30℃〜120℃で1時間〜24時間熱処理すると、シリカゾルゲル中に含まれるシラノール基同士が結合するとともにシラノール基と不織布表面との結合が促進される。その結果、不織布表面とのシロキサン結合が強固になるため、更に硬度が増し、凍結後に解凍しても油水分離性能が劣化しないことを知見した。
【0010】
本発明の第1の観点は、水と油とを含む混合液体が流入する一面と、この一面に対向する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルターであって、前記一面を、20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルムの接触子が垂直荷重50g、移動速度5mm/秒、移動距離20mmで移動するときに、初期の動摩擦係数に対する10往復移動した後の動摩擦係数の低下率が10%未満であり、前記繊維表面に油水分離膜が前記不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成され、前記油水分離膜は、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、前記油水分離フィルターの通気度が0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒であって、前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とする油水分離フィルターである。
【0011】
【化1】
(1)
【0012】
【化2】
(2)
【0013】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【0014】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記シリカゾル加水分解物は、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5質量%〜20質量%含む油水分離フィルターである。
【0015】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される油水分離フィルターである。
【0016】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点のうちいずれかの観点に基づく発明であって、前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である油水分離フィルターである。
【0017】
本発明の第5の観点は、第4の観点に基づく発明であって、前記水と油とを含む混合液体が流入する一面に相当する不織布を構成する繊維がガラス繊維である油水分離フィルターである。
【0018】
本発明の第6の観点は、第1の観点のフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と溶媒を含む油水分離膜形成用液組成物をアルコールで希釈して希釈液を調製し、前記希釈液に不織布をディッピングし、前記不織布を脱液して乾燥することにより、前記不織布の繊維表面に油水分離膜を形成した後、前記不織布を大気中、30℃〜120℃の温度で1時間〜24時間熱処理することを特徴とする油水分離フィルターの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の観点の油水分離フィルターでは、繊維表面に油水分離膜が不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成され、油水分離膜が、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分を含むことから、また同時に油水分離フィルターの通気度を0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒に規定して不織布の気孔を限定していることから、油水分離フィルター内に混合液体が浸入したときに、混合液体の油粒子が気孔の孔径より大きい場合には、物理的に混合液体の油粒子の通過を阻止する。そして混合液体の油粒子が気孔の孔径より僅かに小さい場合でも、不織布の繊維表面が化学的に水溶性油の油粒子を弾かせる。また初期の動摩擦係数に対する接触子が10往復移動した後の動摩擦係数の低下率が10%未満であるため、上記フッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有する油水分離膜を形成した不織布の硬度が比較的高く、油水分離フィルターは凍結後に解凍しても油水分離性能が劣化しない。
【0020】
一方、ポリテトラフルオロエチレン等に代表される撥水撥油性を示す材料は、水酸基が無いため、不織布に通水性を付与することが困難であるが、本発明は、油水分離膜が水酸基を有しているシリカゾル加水分解物を主成分としているため、不織布に通水性を付与することができる。この結果、混合液体が乳化油又は水溶性油であっても、油水分離フィルターに油が溜まり、水は油水分離フィルターを通過して、水と油に分離することができる。更に本発明の油水分離膜は、シリカゾル加水分解物を主成分として含むため、油水分離膜が不織布の繊維表面に強固に密着し耐久性がある。
【0021】
本発明の第2の観点の油水分離フィルターでは、油水分離膜に含まれるフッ素含有官能基成分が、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5質量%〜20質量%含むため、繊維との密着性が得られ、油水分離膜の厚さが均一になり、油水分離膜により一層優れた油水分離性能を付与することができる。
【0022】
本発明の第3の観点の油水分離フィルターでは、不織布が単一層により構成される場合には、簡単な構成の油水分離フィルターになり、不織布が複数層の積層体により構成される場合には、流入する混合液体の油分の含有割合、油粒子のサイズ等の性状に応じて各層を構成することができる。
【0023】
本発明の第4の観点の油水分離フィルターでは、不織布を構成する繊維の材質を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属の繊維の中から、流入する混合液体の油分の含有割合、油粒子のサイズ等の性状に応じて、或いは後述する油水分離膜を形成するための液組成物中のエポキシ基含有シランが加水分解してなる炭素数2〜7のアルキレン基成分の含有量に応じて、選択することができる。
【0024】
本発明の第5の観点の油水分離フィルターでは、水と油とを含む混合液体が流入する一面に相当する不織布を構成する繊維をガラス繊維にすることにより、シリカゾル加水分解物を主成分として含む油水分離膜が、より一層強固にガラス繊維に密着し、不織布の繊維から剥離しにくくなる。
【0025】
本発明の第6の観点の製造方法では、上記フッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有する油水分離膜を不織布の繊維表面に形成した後、所定の条件で熱処理すると、シリカゾルゲル中に含まれるシラノール基同士が結合するとともにシラノール基と不織布表面との結合が促進される。その結果、不織布表面とのシロキサン結合が強固になるため、不織布の硬度が増し、凍結後に解凍しても油水分離性能が劣化しなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明実施形態の油水分離フィルターを備えた油水分離装置の構成図である。
図2】本実施形態の単一層の不織布の断面図である。
図3】本実施形態の二層の不織布の断面図である。
図4】実施例及び比較例の各油水分離フィルターのろ過試験に用いた装置の構成図である。
図5図5(a)は水と油とを含む混合液体が非水溶性油である場合の油粒子の模式図であり、図5(b)は水と油とを含む混合液体が水溶性油である場合の油粒子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0028】
〔油水分離装置〕
図1に示すように、本実施形態の油水分離装置10は、水と油とを含む混合液体11が流入する筒状の混合液体流入部12と、混合液体11の油を水から分離するシート状の油水分離フィルター13と、油水分離フィルター13で分離した水14を集める漏斗状の集水部16と、集水部16から流入する水14を貯える有底筒状の貯水部17とを備える。混合液体流入部12の上方には混合液体の流入管18が設けられ、貯水部17の底部には排水管19が設けられる。
【0029】
油水分離フィルター13が不織布のみで構成される場合には、図示しないが、油水分離フィルター13の下面全体には、混合液体流入部12内の混合液体の液圧にフィルター13が耐えられるように、不織布を補強するための金属製の多孔質の支持板が設けられ、油水分離フィルター13とこの支持板は 混合液体流入部12と集水部16により挟持される。
【0030】
〔油水分離フィルター〕
本実施形態の油水分離フィルター13は、不織布とこの不織布の繊維表面に形成された油水分離膜とを備える。図2に示すように、この油水分離フィルター13の主たる構成要素である不織布20は、水と油とを含む混合液体が流入する一面20aと、この一面20aに対向する、ろ過液が流出する他面20bを有し、単一層からなる。図3に示すように、不織布を、上層の不織布30と下層の不織布40の二層の積層体にして、油水分離フィルター23を構成してもよい。この場合、上層の不織布30の上面が水と油とを含む混合液体が流入する一面30aとなり、下層の不織布40の下面がこの一面30aに対向する、ろ過液が流出する他面40bとなる。不織布30の下面30bが不織布40の上面40aに密着する。なお、積層体は二層に限らず、三層、四層等の複数層から構成することもできる。
【0031】
図2の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には油水分離膜21が形成される。油水分離膜21は、不織布の繊維表面に不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成される。油水分離膜21は、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥水撥油性を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物により形成される。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれる。繊維表面に油水分離膜21が形成された油水分離フィルター13の状態で、不織布20は0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度はJIS−L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【0032】
油水分離膜が不織布1m2当り0.1g未満又はフッ素含有官能基成分が0.01質量%未満では、撥水撥油性の効果に乏しく、油水分離性能が不十分となり、不織布1m2当り30gを超えると、通気度が0.05ml/cm2/秒未満となる。フッ素含有官能基成分が10質量%を超えると、不織布への密着性が悪くなる。不織布1m2当り0.5g〜10gが好ましい。またフッ素含有官能基成分はシリカゾル加水分解物中、0.1質量%〜5質量%の範囲で含まれることが好ましい。通気度が0.05ml/cm2/秒未満では、通水性に劣り、ろ過液を得るのが困難になる。10ml/cm2/秒を超えると、不織布の気孔20dの大きさが混合液体中の油粒子22よりも遙かに大きくなり、油粒子22が水とともに不織布の気孔を通して油水分離フィルター13から抜け落ち、水と油とを分離することができない。通気度は0.1ml/cm2/秒〜5ml/cm2/秒であることが好ましい。
【0033】
このような油水分離フィルター13を備えた油水分離装置10の作用について説明する。図1に示すように、先ず油水分離フィルター13を混合液体流入部12と集水部16により挟持する。次いで流入管18から水と油とを含む混合液体11を混合液体流入部12に供給する。この実施形態の混合液体は水溶性油である。混合液体流入部12に貯えられた混合液体11は、油水分離フィルター13を構成する不織布20の一面20a(図2)に接触する。ここで油水分離フィルター13は所定の通気度を有するため、また油水分離膜21が撥水撥油性を示すため、水溶性油の水(図示せず)は油水分離膜21に弾かれながらも、シリカゾル加水分解物の水酸基の存在により、図2の拡大図に示す繊維20cと繊維20cの間に形成された気孔20dを通過して他面20bに至り、そこから滴下して集水部16に集められる。集められた水14は集水部16から貯水部17に流れ落ちて、貯水部17に溜まる。貯水部17に水14が一定量貯留された時点で、図示しない排水バルブを開いて排水管19より油と分離した水14を得る。
【0034】
その一方、図2の拡大図に示すように、油粒子22は不織布20の繊維表面に形成された油水分離膜21の撥油性により、また油水分離フィルターの所定の通気度のため、気孔20dの孔径より粒径が大きい場合は勿論のこと、気孔20dの孔径より粒径が僅かに小さくても、油水分離フィルター13を通過できず、不織布20の繊維20cと繊維20cの間に留まる。不織布20に溜まった油は、定期的に油水分離フィルター13を油水分離装置10から取り外して、回収処理する。
【0035】
〔油水分離フィルターの製造方法〕
〔不織布の準備〕
先ず、0.3ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。具体的には、後述する油水分離膜が不織布の繊維表面に形成された油水分離フィルターになった状態で、0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。油水分離膜が不織布1m2当り上記範囲にて多目に厚膜で形成される場合には、通気度の大きい不織布が選定され、油水分離膜が不織布1m2当り上記範囲にて少な目に薄膜で形成される場合には、通気度の小さい不織布が選定される。
【0036】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルター、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(安積濾紙社製、商品名:356)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm〜10μmの太さが好適である。不織布の厚さは、油水分離フィルターが単一層である場合には、0.1mm〜5mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.3mm〜7mmになる厚さである。本発明の油水分離膜形成材料の主成分がシリカゾル加水分解物であるため、繊維との密着性を得るために、水酸基をもつ材料が好ましい。その中でも、ガラス、アルミナ、セルロースナノ繊維等は、繊維径も細いものがあり、通気度を上記範囲内の低い値にすることができる。
【0037】
前述したように不織布が図3に示すように複数の不織布30、40を積層した積層体である場合、水と油とを含む混合液体が流入する一面に相当する不織布30を構成する繊維をガラス繊維にすることにより、シリカゾル加水分解物を主成分として含む油水分離膜が、より一層強固にガラス繊維に密着し、不織布の繊維から剥離しにくくなる。
【0038】
〔不織布の繊維表面への油水分離膜の形成方法と不織布の熱処理方法〕
本実施の形態の不織布の繊維表面に油水分離膜を形成するには、後述する油水分離膜形成用液組成物を、後述する沸点が120℃未満の炭素数1〜4の範囲にあるアルコールで、液組成物に対する質量比(液組成物:アルコール)が1:1〜50の割合になるように希釈した液を調製し、この希釈液に不織布をディッピングして希釈液から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた不織布をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した不織布は、大気中、25〜120℃の温度で0.5時間〜24時間乾燥する。
【0039】
これにより、図2の拡大図に示すように、不織布20を構成している繊維20cの表面に油水分離膜21が形成される。油水分離膜は、不織布1m2当り0.1g〜30gの範囲内で、脱液量が少ない場合には、厚膜に不織布の繊維表面に形成され、脱液量が多い場合には、薄膜に不織布の繊維表面に形成される。次いで、この乾燥した不織布を大気中、30℃〜120℃の温度で1時間〜24時間熱処理する。熱処理温度は好ましくは40℃〜100℃であり、熱処理時間は好ましくは1時間〜20時間である。熱処理温度が上記下限値未満又は熱処理時間が上記下限値未満では、不織布の硬度が高まらず、凍結後解凍したときに、油水分離フィルターの油水分離性能が劣化し易い。また熱処理温度が上記上限値を超えるか、又は熱処理時間が上記上限値を超えると、油水分離膜が熱的に損傷し、油水分離フィルターの油水分離性能が劣化し易い。
【0040】
〔油水分離膜形成用液組成物の製造方法〕
油水分離膜を形成するための液組成物は次の方法により製造される。
〔混合液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランと、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シラン、沸点が120℃未満の炭素数1〜4の範囲にあるアルコールと、水とを混合して混合液を調製する。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い油水分離膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0041】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%〜40質量%、好ましくは2.5質量%〜20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布の繊維に膜を形成した場合に、繊維への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1〜40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布の繊維がガラス繊維等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布の繊維が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾル加水分解物(D)中、0.5〜20質量%含むことが好ましい。
【0042】
炭素数1〜4の範囲にあるアルコールは、この範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n−プロパノール(沸点97−98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシド及びエポキシ基含有シランに炭素数1〜4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10℃〜30℃の温度で5分〜20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0043】
〔加水分解物(シリカゾル加水分解物)の調製〕
上記調製された混合液と有機酸、無機酸又はチタン化合物からなる触媒とを混合する。このとき液温を好ましくは30℃〜80℃の温度に保持して好ましくは1〜24時間撹拌する。これにより、ケイ素アルコキシドとアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解物(以下、シリカゾル加水分解物ということもある。)が調製される。加水分解物は、ケイ素アルコキシドを2〜50質量%、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを0.005質量%〜3質量%、炭素数1〜4の範囲にあるアルコールを20質量%〜98質量%、水を0.1質量%〜40質量%、有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として0.01質量%〜5質量%の割合で混合してケイ素アルコキシド、エポキシ基含有シラン及びフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解反応を進行させることで得られる。フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランが下限値の0.005質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性が生じにくく、上限値の3質量%を超えると、不織布の繊維表面に密着しにくい。
【0044】
炭素数1〜4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、塗布膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0045】
加水分解物中のSiO2濃度(SiO2分)は1質量%〜40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0046】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸による不織布の繊維の腐食等の不具合を生じる。
【0047】
フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランは、下記一般式(3)及び式(4)で示される。上記式(3)及び式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)〜式(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0048】
【化3】
(3)
【0049】
【化4】
(4)
【0050】
【化5】
(5)
【0051】
【化6】
(6)
【0052】
【化7】
(7)
【0053】
【化8】
(8)
【0054】
【化9】
(9)
【0055】
【化10】
(10)
【0056】
【化11】
(11)
【0057】
【化12】
(12)
【0058】
【化13】
(13)
【0059】
また、上記式(2)及び式(3)中のXとしては、下記式(14)〜式(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0060】
【化14】
(14)
【0061】
【化15】
(15)
【0062】
【化16】
(16)
【0063】
【化17】
(17)
【0064】
【化18】
(18)
【0065】
ここで、上記式(14)〜式(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0066】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0067】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi−O−Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0068】
ここで、上記式(3)及び式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(19)〜式(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)〜(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0069】
【化19】
(19)
【0070】
【化20】
(20)
【0071】
【化21】
(21)
【0072】
【化22】
(22)
【0073】
【化23】
(23)
【0074】
【化24】
(24)
【0075】
【化25】
(25)
【0076】
【化26】
(26)
【0077】
【化27】
(27)
【0078】
上述したように、本実施の形態の油水分離膜形成用液組成物に含まれるフッ素含有官能基成分は、分子内にペルフルオロエーテル基とアルコキシシリル基とをそれぞれ1以上有する構造となっていて、酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0079】
〔油水分離膜形成用液組成物〕
本実施の形態の油水分離膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と、溶媒とを含む。このフッ素含有官能基成分は、上記の一般式(1)及び式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%含まれる。
【0080】
上記溶媒は、水と炭素数1〜4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1〜4のアルコールと上記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である。ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(5)〜式(27)で示される構造を挙げることができる。
【0081】
本実施の形態の油水分離膜形成用液組成物がシリカゾル加水分解物を主成分として含むため、膜の不織布の繊維への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の油水分離膜が得られる。またシリカゾル加水分解物が上記一般式(1)又は(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を含むため、撥水並びに撥油の効果があり、また不織布が硬化する。フッ素含有官能基成分の含有割合が0.01質量%未満では形成した膜に撥水撥油性を付与できない。10質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素含有官能基成分の含有割合は0.1質量%〜5質量%である。
【実施例】
【0082】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。初めに、油水分離膜を形成した後、凍結及び解凍を行わない不織布で構成された油水分離フィルターに関する実施例1〜6及び比較例1〜6を説明し、次に油水分離膜を形成した後、凍結及び解凍を行った不織布で構成された油水分離フィルターに関する試験例1〜3及び比較試験例1〜4を説明する。
【0083】
<実施例1>
ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)8.52gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM−403)0.48gと、フッ素含有官能基成分として式(19)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.24gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)17.34gとを混合し、更にイオン交換水3.37gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.05gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾル加水分解物を含む油水分離膜形成用液組成物を調製した。この調製内容を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
得られた油水分離膜形成用液組成物のシリカゾル加水分解物には、フッ素含有官能基成分が4.5質量%と、炭素数7のアルキレン基成分が7.8質量%含まれていた。次に油水分離膜形成用液組成物のシリカゾル加水分解物1.0gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP−7)29.0gを添加混合して、液組成物の希釈液を調製した。この希釈液に、油水分離フィルターの基材として、2.5ml/cm2/秒の通気度を有する二層の不織布を30秒間ディッピングした。二層の不織布は、上層がガラス繊維からなる不織布と下層がPET繊維からなる不織布の積層体であった。希釈液から二層の不織布を引上げ、水平の金網の上に拡げ、室温で30分間放置して、脱液した。その後100℃に維持された乾燥機に二層の不織布を30分間入れて乾燥し、油水分離フィルターを得た。この油水分離フィルターの通気度は1.2ml/cm2/秒であった。二層の不織布のディッピング前の質量と乾燥後の質量の差から、不織布の繊維表面に形成された油水分離膜の質量として換算した。この結果、油水分離膜は不織布1m2当り4.0gと算出された。以上の結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
<実施例2〜6、比較例2〜4>
実施例2〜6及び比較例2〜4について、表2に示すように、油水分離フィルターの不織布の種類及びフッ素系化合物の種類を選定し、実施例1に示されるTMOSの添加量、GPTMSの添加量及びフッ素含有シランの添加量をそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6、比較例2〜4の油水分離膜形成用液組成物を得た。これらの液組成物に実施例1と同一の工業アルコールを添加し、実施例1と同様にして、不織布ディッピング用の希釈液を調製した。これらの希釈液に表2に示す不織布を実施例1と同様にディッピングし、乾燥して、表2に示す特性を有する油水分離フィルターを得た。なお、表2において、フッ素系化合物として式(19)〜式(23)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0088】
なお、実施例5,6及び比較例4に用いた不織布は、実施例1の不織布と異なり、PET繊維とガラス繊維の混合繊維(質量比でPET:ガラス=80:20)からなり、それらの通気度(希釈液ディッピング前)は、それぞれ12.0ml/cm2/秒、12.0ml/cm2/秒及び24.0ml/cm2/秒であった。また希釈液ディッピング後の油水分離フィルターとしての通気度はそれぞれ9.6ml/cm2/秒、7.7ml/cm2/秒及び12.0ml/cm2/秒であった。また比較例1〜3に用いた不織布は、実施例1と同一に構成されたガラス繊維の不織布とPET繊維の不織布の二層からなり、その通気度(希釈液ディッピング前)は、それぞれ2.5ml/cm2/秒、2.5ml/cm2/秒及び1.1ml/cm2/秒であった。また希釈液ディッピング後の油水分離フィルターとしての通気度は、それぞれ2.3ml/cm2/秒、0.02ml/cm2/秒及び0.03ml/cm2/秒であった。
【0089】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と同一の不織布を用いたが、シリカゾル加水分解物中にフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを含まなかった。
【0090】
<比較例5>
比較例5では、油水分離フィルターの基材として、市販されている目開き1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターを未処理のまま用いて、これを油水分離フィルターとした。実施例1のような油水分離膜形成用液組成物の希釈液にはディッピングしなかった。
【0091】
<比較例6>
フッ素系化合物として、特許文献1の撥油性付与基及び親水性付与基(撥油親水性)を有する合成例1で示される下記式(28)で示されるフッ素系化合物を準備した。このフッ素系化合物0.5gを実施例1と同一の工業アルコール99.5gに溶解し、希釈液(濃度0.5質量%)を調製した。
【0092】
【化28】
(28)
【0093】
この希釈液に、1.1ml/cm2/秒の通気度を有する実施例1と同一に構成された二層の不織布を30秒間ディッピングした。それ以外は実施例1と同様にして、油水分離フィルターを得た。この油水分離フィルターの通気度は1.1ml/cm2/秒であり、油水分離膜は不織布1m2当り1.0gと算出された。
【0094】
<比較試験その1及び評価>
実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた12種類の不織布のみからなる油水分離フィルターを、それぞれ別々に、図4に示す油水分離試験装置100に取り付けた。この試験装置100では、図1に示した油水分離装置10に対応する要素の各符号に100を加えて、試験装置100の各符号を示している。この油水分離試験装置100では、乳化油としては、日立産機製スクリュー圧縮機用油HISCREW OIL NEXT0.25gとイオン交換水5リットルとを9000rpmで3分間混合し、白濁した油濃度が50ppmである乳化油(水と油とを含む混合液体)を用いた。この乳化油を混合液体流入部112に供給し、油水分離フィルター113でろ過した。油水分離フィルター113を通過して貯水部(枝付きフラスコ)117に貯えられたろ過液114を採取し、そのろ過液の濁度と、ろ過液の油濃度を次の方法により評価した。その結果を表3に示す。なお、油水分離フィルター113は金属製の目皿120で支持した。また乳化油をろ過するに際して、フラスコ117の枝管121に接続された図示しない吸引ポンプにより、実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた12種類の油水分離フィルターを所定の真空度(−10kPa)に調節しながら、フラスコ内を減圧して、油水分離フィルター113を吸引ろ過した。符号122は真空計である。
【0095】
(a) ろ過液の濁度
ろ過液の濁度は、ラコムテスター濁度計TN−100(アズワン社製)を用いて測定した。濁度は小さい方が油水分離性が良好であり、1.5以下が合格水準である。
【0096】
(b) ろ過液の油濃度
ろ過液の油濃度は、油分測定計(堀場製作所社製、OCMA−555)を用いてろ過液の残留油分を測定し、ろ過液の油濃度とした。この油分測定計の検出限界は油種により異なるが、用いた乳化油では1ppmである。
【0097】
【表3】
【0098】
表3から明らかなように、比較例1では、シリカゾル加水分解物中にフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを含まなかったため、油水分離フィルターを通過したろ過液の濁度は3.0であり、またろ過液には油が15.0ppm混入していた。
【0099】
比較例2では、シリカゾル加水分解物中のフッ素含有官能基成分の含有量が11.6質量%と多過ぎたため、油水分離フィルターを混合液体が通過せず、ろ過できなかった。
【0100】
比較例3では、不織布1m2当りの油水分離膜の質量が33.0質量%と多過ぎたため、油水分離フィルターの通気度が0.03ml/cm2/秒と低過ぎたため、油水分離フィルターを混合液体が通過せず、ろ過できなかった。
【0101】
比較例4では、通気度が12.0ml/cm2/秒である油水分離フィルターを用いたが、不織布1m2当りの油水分離膜の質量が0.05gと少な過ぎたため、油水分離フィルターの撥油効果が不足し、ろ過液の濁度は2.0であり、またろ過液に油が8.0ppm混入し、油の除去が十分でなかった。
【0102】
比較例5では、油水分離フィルターとして、PTFE製のメンブレンフィルターを用いたが、フィルターを混合液体が通過せず、ろ過できなかった。
【0103】
比較例6では、油水分離フィルターの油水分離膜に親水撥油性が付与されており、混合液体が乳化油であったため、ろ過液の濁度は3.0であり、またろ過液には油が13.0ppm混入し、油の除去が十分でなかった。
【0104】
それに対して、実施例1〜6の油水分離フィルターは、油水分離膜が不織布1m2当り0.15g〜28gの割合で形成され、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分がシリカゾル加水分解物中、0.02質量%〜9.8質量%の割合で含まれ、油水分離フィルターの通気度が0.08ml/cm2/秒〜9.6ml/cm2/秒であって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、評価試験を行ったところ、ろ過液の濁度は1.5以下で合格であり、ろ過液の油濃度は、ノルマルヘキサン抽出物質含有許容量(鉱油類含有量)の5ppmを満たしており、実施例1〜6の油水分離フィルターは油水分離性能があることを確認できた。
【0105】
次に、油水分離フィルターを凍結させた後、解凍した油水分離フィルター油水分離性能を測定するための試験例1〜3及び比較試験例1〜4を説明する。
【0106】
<試験例1>
試験例1では、実施例1で得られた油水分離フィルターの不織布を、大気中、100℃の温度で12時間熱処理した。この熱処理した不織布の一面(水と油とを含む混合液体が流入する面)における下記の接触子による初期の動摩擦係数と、この接触子を10往復移動した後の動摩擦係数とを次の条件で測定し、初期の動摩擦係数を100%としたときの10往復移動させた後の動摩擦係数の低下率(以下、単に「動摩擦係数の低下率」という。)を算出した。
(1) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(2) 測定条件:
・移動距離:20mm
・垂直荷重:50g
・移動速度:5mm/秒
・接触子:20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルム
【0107】
動摩擦係数を測定した不織布を、容器に入れた水にディッピングし、−22℃の温度で20時間保持して、不織布を凍結させた。次いで、40℃の温水を容器に流入して、不織布を解凍した後、脱水し、露点温度マイナス50℃の湿度条件で、24時間保持して不織布を乾燥した。実施例1の不織布の熱処理条件及び動摩擦係数の低下率を表4に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
<比較試験例1>
比較試験例1では、実施例1で得られた油水分離フィルターの不織布を熱処理することなく、不織布の動摩擦係数を試験例1と同じ条件で測定した後、その低下率を算出した。続いてその不織布を、容器に入れた水にディッピングした。以下、試験例1と同一条件で不織布を凍結させ、試験例1と同一条件で不織布を解凍し、乾燥した。
【0110】
<試験例2〜3、比較試験例2〜3>
試験例2〜3及び比較試験例2〜3では、実施例1で得られた油水分離フィルターの不織布について、表4に示す条件で熱処理し、不織布の動摩擦係数を試験例1と同じ条件で測定した後、その低下率を算出した。続いてその不織布を、試験例1と同一条件で凍結させ、試験例1と同一条件で不織布を解凍し、乾燥した。
【0111】
<比較試験例4>
比較試験例4では、比較例6で得られた油水分離フィルターの不織布について、表4に示す条件で熱処理し、不織布の動摩擦係数を試験例1と同じ条件で測定した後、その低下率を算出した。続いてその不織布を、試験例1と同一条件で凍結させ、試験例1と同一条件で不織布を解凍し、乾燥した。
【0112】
<比較試験その2及び評価>
試験例1〜3及び比較試験例1〜4で得られた7種類の油水分離フィルターを、それぞれ別々に、比較試験その1と同様に比較試験その2を行った。比較試験その2では、図4に示す油水分離試験装置100において、油水分離フィルター113は金属製の目皿120で支持した。そして吸引ポンプにより、−10kPaの真空度で比較試験その1と同一かつ同量の水と油を含む混合液体を吸引ろ過した。ろ過液の濁度とろ過液の油濃度を比較試験その1と同様に測定した。また比較試験その1と同様に上記混合液体の油水分離フィルターを通過する時間も測定した。その結果を表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
表5から明らかなように、比較試験例1では、不織布を熱処理しなかったため、不織布の一面の動摩擦係数の低下率は8%と大きくなかったが、油水分離試験装置において、−10kPaの真空度でろ過吸引したときに、ろ過液の油濃度が1ppmと低く、またろ過液の濁度も0.5と低かった。しかし、ろ過液の通過時間は1500秒(25分)と長くかかった。このため、比較試験例1では油水分離性能が若干劣化していた。
【0115】
比較試験例2では、熱処理温度が150℃と高すぎたため、不織布の一面の動摩擦係数の低下率は15%と大きかった。そして油水分離試験装置において、−10kPaの真空度でろ過吸引したときには、ろ過液の油濃度が38ppmと高く、またろ過液の濁度も25と高かった。更にろ過液の通過時間は55秒と短かった。このため、比較試験例1では油漏れが見られ、不織布が破損したと考えられた。
【0116】
比較試験例3では、熱処理時間が36時間と長すぎたため、不織布の一面の動摩擦係数の低下率は17%と大きかった。そして油水分離試験装置において、−10kPaの真空度でろ過吸引したときには、ろ過液の油濃度が45ppmと高く、またろ過液の濁度も51と高かった。更にろ過液は3600秒(60分)経過しても油水分離フィルターを通過し切れず、途中でろ過試験を中止した。比較試験例1では油漏れが見られ、油水分離性能が劣化していた。
【0117】
比較試験例4の特許文献1の油水分離フィルターでは、油水分離膜を構成するフッ素系化合物がシリカゾル加水分解物を含まないため、熱処理が120℃で3時間の条件で行われたものの、不織布の一面の動摩擦係数の低下率は35%と大きかった。そして油水分離試験装置において、−10kPaの真空度でろ過吸引したときには、ろ過液の油濃度が41ppmと高く、またろ過液の濁度も48と高かった。更にろ過液は3600秒(60分)経過しても、油水分離フィルターを通過し切れず、途中でろ過試験を中止した。このため、比較試験例4では油水分離性能が劣化していた。
【0118】
それに対して、試験例1〜3の油水分離フィルターは、実施例1の不織布を用い、第6の観点の熱処理条件を満たしていることから、評価試験を行ったところ、ろ過液の濁度は0.6以下で合格であり、ろ過液の油濃度は、ノルマルヘキサン抽出物質含有許容量(鉱油類含有量)の5ppmを満たしており、油水分離の処理時間も150秒以下であり、油水分離性能があることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の油水分離フィルターは、油がエマルジョン化した乳化油又は水溶性油から、油を分離して水を回収する必要のある分野に用いられる。
【符号の説明】
【0120】
13、23 油水分離フィルター
20 不織布
20a 不織布の一面
20b 不織布の他面
20c 不織布の繊維
20d 不織布の気孔
21 油水分離膜
22 油粒子
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2020年12月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
水と油とを含む混合液体が流入する一面と、この一面に対向する前記混合液体が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルターであって、
前記一面を、20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルムの接触子が垂直荷重50g、移動速度5mm/秒、移動距離20mmで移動するときに、初期の動摩擦係数に対する10往復移動した後の動摩擦係数の低下率が10%未満であり、
前記繊維表面に油水分離膜が前記不織布1m当り0.1g〜30gの割合で形成され、
前記油水分離膜は、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、
前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、
前記油水分離フィルターの通気度が0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒であって、
前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とする油水分離フィルター。
【化1】
【化2】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
請求項1記載のフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と溶媒とを混合して油水分離膜形成用液組成物を調製する工程と、前記油水分離膜形成用液組成物とアルコールとを混合して希釈液を調製する工程と、前記希釈液に不織布をディッピングし、前記不織布を脱液して乾燥することにより、前記不織布の繊維表面に油水分離膜を形成する工程と、前記油水分離膜を形成した不織布を大気中、30℃〜120℃の温度で1時間〜24時間熱処理する工程とを含むことを特徴とする油水分離フィルターの製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明の第1の観点は、水と油とを含む混合液体が流入する一面と、この一面に対向する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルターであって、前記一面を、20mm角のポリエチレンテレフタレートフィルムの接触子が垂直荷重50g、移動速度5mm/秒、移動距離20mmで移動するときに、初期の動摩擦係数に対する10往復移動した後の動摩擦係数の低下率が10%未満であり、前記繊維表面に油水分離膜が前記不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成され、前記油水分離膜は、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、前記油水分離フィルターの通気度が0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒であって、前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とする油水分離フィルターである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本発明の第6の観点は、第1の観点のフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と溶媒とを混合して油水分離膜形成用液組成物を調製する工程と、前記油水分離膜形成用液組成物とアルコールとを混合して希釈液を調製する工程と、前記希釈液に不織布をディッピングし、前記不織布を脱液して乾燥することにより、前記不織布の繊維表面に油水分離膜を形成する工程と、前記油水分離膜を形成した不織布を大気中、30℃〜120℃の温度で1時間〜24時間熱処理する工程とを含むことを特徴とする油水分離フィルターの製造方法である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図2の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には油水分離膜21が形成される。油水分離膜21は、不織布の繊維表面に不織布1m2当り0.1g〜30gの割合で形成される。油水分離膜21は、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥水撥油性を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物により形成される。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれる。繊維表面に油水分離膜21が形成された油水分離フィルター13の状態で、不織布20は0.05ml/cm2/秒〜10ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度はJIS−L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
油水分離膜が不織布1m2当り0.1g未満又はフッ素含有官能基成分が0.01質量%未満では、撥水撥油性の効果に乏しく、油水分離性能が不十分となり、不織布1m2当り30gを超えると、通気度が0.05ml/cm2/秒未満となる。フッ素含有官能基成分が10質量%を超えると、不織布への密着性が悪くなる。不織布1m2当り0.5g〜10gが好ましい。またフッ素含有官能基成分はシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.1質量%〜5質量%の範囲で含まれることが好ましい。通気度が0.05ml/cm2/秒未満では、通水性に劣り、ろ過液を得るのが困難になる。10ml/cm2/秒を超えると、不織布の気孔20dの大きさが混合液体中の油粒子22よりも遙かに大きくなり、油粒子22が水とともに不織布の気孔を通して油水分離フィルター13から抜け落ち、水と油とを分離することができない。通気度は0.1ml/cm2/秒〜5ml/cm2/秒であることが好ましい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%〜40質量%、好ましくは2.5質量%〜20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布の繊維に膜を形成した場合に、繊維への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1〜40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布の繊維がガラス繊維等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布の繊維が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.5〜20質量%含むことが好ましい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
〔加水分解物(シリカゾル加水分解物)の調製〕
上記調製された混合液と有機酸、無機酸又はチタン化合物からなる触媒とを混合する。このとき液温を好ましくは30℃〜80℃の温度に保持して好ましくは1〜24時間撹拌する。これにより、ケイ素アルコキシドとアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解物(以下、シリカゾル加水分解物ということもある。)が調製される。加水分解物は、加水分解物を100質量%とするとき、ケイ素アルコキシドを2〜50質量%、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを0.005質量%〜3質量%、炭素数1〜4の範囲にあるアルコールを20質量%〜98質量%、水を0.1質量%〜40質量%、有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として0.01質量%〜5質量%の割合で混合してケイ素アルコキシド、エポキシ基含有シラン及びフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解反応を進行させることで得られる。フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランが下限値の0.005質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性が生じにくく、上限値の3質量%を超えると、不織布の繊維表面に密着しにくい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
加水分解物を100質量%とするとき、SiO2濃度(SiO2分)は1質量%〜40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0079】
〔油水分離膜形成用液組成物〕
本実施の形態の油水分離膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と、溶媒とを含む。このフッ素含有官能基成分は、上記の一般式(1)及び式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%含まれる
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
【表1】
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
得られた油水分離膜形成用液組成物のシリカゾル加水分解物には、フッ素含有官能基成分が4.5質量%と、炭素数7のアルキレン基成分が7.8質量%含まれていた。次に油水分離膜形成用液組成物1.0gに、溶媒として工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP−7)29.0gを添加混合して、液組成物の希釈液を調製した。この希釈液に、油水分離フィルターの基材として、2.5ml/cm2/秒の通気度を有する二層の不織布を30秒間ディッピングした。二層の不織布は、上層がガラス繊維からなる不織布と下層がPET繊維からなる不織布の積層体であった。希釈液から二層の不織布を引上げ、水平の金網の上に拡げ、室温で30分間放置して、脱液した。その後100℃に維持された乾燥機に二層の不織布を30分間入れて乾燥し、油水分離フィルターを得た。この油水分離フィルターの通気度は1.2ml/cm2/秒であった。二層の不織布のディッピング前の質量と乾燥後の質量の差から、不織布の繊維表面に形成された油水分離膜の質量として換算した。この結果、油水分離膜は不織布1m2当り4.0gと算出された。以上の結果を表2に示す。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0104】
それに対して、実施例1〜6の油水分離フィルターは、油水分離膜が不織布1m2当り0.15g〜28gの割合で形成され、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するフッ素含有官能基成分がシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.02質量%〜9.8質量%の割合で含まれ、油水分離フィルターの通気度が0.08ml/cm2/秒〜9.6ml/cm2/秒であって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、評価試験を行ったところ、ろ過液の濁度は1.5以下で合格であり、ろ過液の油濃度は、ノルマルヘキサン抽出物質含有許容量(鉱油類含有量)の5ppmを満たしており、実施例1〜6の油水分離フィルターは油水分離性能があることを確認できた。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
比較試験例3では、熱処理時間が36時間と長すぎたため、不織布の一面の動摩擦係数の低下率は17%と大きかった。そして油水分離試験装置において、−10kPaの真空度でろ過吸引したときには、ろ過液の油濃度が45ppmと高く、またろ過液の濁度も51と高かった。更にろ過液は3600秒(60分)経過しても油水分離フィルターを通過し切れず、途中でろ過試験を中止した。比較試験例3では油漏れが見られ、油水分離性能が劣化していた。