(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-123783(P2021-123783A)
(43)【公開日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】めっき部材およびめっき部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20210802BHJP
【FI】
C25D5/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-20236(P2020-20236)
(22)【出願日】2020年2月10日
(11)【特許番号】特許第6892638号(P6892638)
(45)【特許公報発行日】2021年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】517201507
【氏名又は名称】新和メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】瀧見 直人
(72)【発明者】
【氏名】瀧見 直晃
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA05
4K024AA19
4K024AB02
4K024BA01
4K024BB02
4K024BB09
4K024BB28
4K024CA01
4K024DA04
4K024DA06
4K024DB04
4K024GA01
4K024GA04
(57)【要約】
【課題】被めっき部材の表面に微小な空孔や凹凸がある場合でも、被めっき部材に対する亜鉛ニッケル合金めっきの密着性を高めることができ、これにより、めっき部材の耐食性を高め、めっき不良を低減することができる、めっき部材およびめっき部材の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材10を有し、被めっき部材10の上に亜鉛めっき層20が形成され、亜鉛めっき層20の上に亜鉛ニッケル合金めっき層30が形成される、めっき部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材を有し、
前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層が形成され、
前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層が形成される、めっき部材。
【請求項2】
前記被めっき部材はダイカスト法により鋳造された亜鉛ダイカストである、請求項1に記載のめっき部材。
【請求項3】
前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有する、請求項1または2に記載のめっき部材。
【請求項4】
少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材を亜鉛めっき処理することで、前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層に形成する亜鉛めっき工程と、
前記亜鉛めっき層が形成された被めっき部材を亜鉛ニッケル合金めっき処理することで、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層を形成する亜鉛ニッケル合金めっき工程とを有する、めっき部材の製造方法。
【請求項5】
前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有する、請求項4に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛めっき工程において、亜鉛めっき液における亜鉛の濃度を8g未満として前記亜鉛めっき処理を行う、請求項4または5に記載のめっき部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛ニッケル合金めっき処理を施しためっき部材およびめっき部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、めっき部材に高い耐食性を付与するために、亜鉛ニッケル合金めっき処理を施す技術が知られている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−003040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被めっき部材の表面に微小の空孔や凹凸が存在する場合、空孔や凹凸の周辺において亜鉛ニッケル合金めっきの密着性が低下してしまい、時間の経過とともに、いわゆる「こぶ」や「膨れ」などと称されるめっき不良が生じる原因となっていた。
【0005】
本発明は、被めっき部材の表面に存在する微小の空孔や凹凸を原因とした耐食性の低下を抑制することで、めっき不良を低減することができる、めっき部材およびめっき部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るめっき部材は、少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材を有し、前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層が形成され、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層が形成される。
上記めっき部材において、前記被めっき部材はダイカスト法により鋳造された亜鉛ダイカストであるように構成することができる。
上記めっき部材において、前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有するように構成することができる。
本発明に係るめっき部材の製造方法は、少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材を亜鉛めっき処理することで、前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層に形成する亜鉛めっき工程と、前記亜鉛めっき層が形成された被めっき部材を亜鉛ニッケル合金めっき処理することで、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層を形成する亜鉛ニッケル合金めっき工程とを有する。
上記めっき部材の製造方法において、前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有するように構成することができる。
上記めっき部材の製造方法において、前記亜鉛めっき工程において、亜鉛めっき液における亜鉛の濃度を8g/L未満として前記亜鉛めっき処理を行うように構成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被めっき部材の表面に微小な空孔や凹凸がある場合でも、亜鉛ニッケル合金めっきの密着性を高めることができ、これにより、めっき部材の耐食性を高め、めっき不良を低減することができる、めっき部材およびめっき部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るめっき部材の概要を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るめっき部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】亜鉛ダイカスト上に銅めっきおよび亜鉛ニッケルめっきを順に積層させた比較例1の断面写真である。
【
図4】亜鉛ダイカスト上に亜鉛ニッケルめっきを直接積層した比較例2の断面写真である。
【
図5】亜鉛ダイカスト上に亜鉛めっき、亜鉛ニッケルめっきを順に積層させた実施例の断面写真である。
【
図6】本実施形態に係るめっき部材の耐食性を塩水噴霧試験で試験した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図に基づいて、本発明に係るめっき部材を説明する。なお、本発明に係るめっき部材は、特に限定されず、たとえば、電子機器用、自動車用、ガス器具用の部材などに用いることができる。
【0010】
図1は、本実施形態に係るめっき部材1の概要を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るめっき部材1は、被めっき部材10を基材とし、被めっき部材10の上に亜鉛めっき層20と、亜鉛ニッケル合金めっき層30とを順に積層して構成される。
【0011】
被めっき部材10は、少なくとも表面が亜鉛により構成された部材であれば、特に限定されないが、本実施形態では、被めっき部材10として、ダイカスト法により鋳造された亜鉛ダイカストを用いる。被めっき部材10の表面、特にダイカストで鋳造された被めっき部材10の表面には、微細な空孔や凹凸(たとえば5〜100μm程度の空孔や突起)が存在し、従来のめっき方法では、このような空孔や凹凸の周辺において、めっきが剥れやすくなり、「こぶ」や「膨れ」などと称されるめっき不良の原因となっていた。しかしながら、本実施形態に係るめっき部材1では、後述するめっき方法により、このような被めっき部材10を用いても、めっき不良を低減することができるため、表面に微細な空孔や凹凸が存在しやすいダイカスト部材において特に有用である。また、本実施形態では、被めっき部材10として、亜鉛ダイカストを用いることで、以下の点において有用である。すなわち、亜鉛は鋼鉄ほど固い物質ではないため、鋼鉄部材と比べて、加工が容易であり大量生産も可能である。また、亜鉛ダイカストは、鋼鉄部材と比べて、複雑な形状への加工も容易であり、バリ取りや研磨などの後処理も比較的少なく済み、その分、低コストで製造することができる。
【0012】
本実施形態に係るめっき部材1では、
図1に示すように、被めっき部材10である亜鉛ダイカストの上に、亜鉛めっき層20が形成されている。亜鉛めっき層20の厚さは、特に限定されないが、1〜10μmとすることが好ましく、3〜6μmとすることがより好ましい。亜鉛めっき層20は、通常厚いほど耐食性は高くなるが、本実施形態に係るめっき部材1では、被めっき部材1の表面と亜鉛めっき層20とが主に亜鉛で構成されるため、被めっき部材1の表面と亜鉛めっき層20との密着性が高く、被めっき部材1の表面と亜鉛めっき層20との間の腐食電位は低くなる。そのため、亜鉛めっき層20の膜厚を、通常よりも薄くしても十分な耐食性を得ることができる。また、本実施形態に係るめっき部材1では、後述するように、亜鉛の濃度が低い(たとえば5g/Lの)亜鉛めっき溶液を用いてめっき加工を行うことで、亜鉛めっき層20の厚さを薄くした場合でも、非めっき部分が生じやすい表面の空孔や凹凸周辺においても亜鉛めっき層20を適切に形成することができ、非めっき部分の発生を防止することができる。
【0013】
また、本実施形態に係るめっき部材1では、より高い耐食性を得るために、
図1に示すように、亜鉛めっき層20の上にさらに同じく亜鉛を含む亜鉛ニッケル合金めっき層30が形成される。亜鉛ニッケル合金めっき層30の組成は、少なくともNiおよびZnを含めばよいが、Sn、Cr、Coなどの他の元素をさらに含んでいてもよい。亜鉛ニッケル合金めっき層30の厚さは、特に限定されないが、本実施形態では5〜20μmとすることが好ましく、8〜15μmとすることがより好ましい。また、亜鉛ニッケル合金めっき層30のZn/Ni比率も、特に限定されないが、質量比で2〜10とすることができ、好ましくは4〜8、さらに好ましくは5〜7とすることができる。また、亜鉛ニッケル合金めっき層30は、いわゆる「ハイニッケル」めっき層とすることができる。
【0014】
さらに、本実施形態に係るめっき部材1では、
図1に示すように、亜鉛ニッケル合金めっき層30の上に3価クロメート層40が形成される。3価クロメート層40は、水酸化クロムを主成分とする混酸に、亜鉛ニッケル合金めっき層30を積層した被めっき部材10を浸漬することで、亜鉛ニッケル合金めっき層30の上に形成された、3価クロム化成皮膜である。3価クロメート層40の付着量は、特に限定されないが、耐食性を高めるために、金属クロム換算で片面あたり5〜200mg/m
2とすることができる。なお、3価クロメート処理した後に、めっき部材1を熱風乾燥などの乾燥工程を経て3価クロメート層40を形成させる。
【0015】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係るめっき部材1の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係るめっき部材1の製造方法を示すフローチャートである。なお、以下に説明するめっき部材1の製造方法では、めっき部材1の基材となる被めっき部材10として、ダイカスト法により既に製造された被めっき部材10を用いるものとして説明する。
【0016】
ステップS101では、被めっき部材10の表面に付着した不純物を落とすために、被めっき部材10の洗浄が行われる。たとえば、洗浄処理として、水による洗浄処理を行うことができる。また、前処理として、苛性ソーダなどのアルカリを用いて被めっき部材10の表面を脱脂するアルカリ処理や、硫酸などの酸を用いて被めっき部材10の表面を活性化する酸処理などを行ってもよい。
【0017】
ステップS102では、亜鉛めっき処理が行われる。たとえば、ステップS101で前処理した被めっき部材10に、電気めっき法により、亜鉛めっき処理を行うことで、被めっき部材10の上に亜鉛めっき層20を形成することができる。また、通常の亜鉛めっき処理では、亜鉛めっき液として、亜鉛金属の濃度を10g/L、苛性ソーダの濃度を120/Lなどとしているところ、本実施形態では、複雑な部品形状の全面に対して、また、表面の微小な空孔や凹凸にも亜鉛めっき層20を形成するため(すなわち、均一電着性を向上するため)、亜鉛金属の濃度を8g/L未満、より好ましくは4g/L以上かつ6g/L未満とし、導電性の苛性ソーダの濃度を100g/Lとした亜鉛めっき液を用いて亜鉛めっき処理を行う。これにより、亜鉛めっき工程におけるめっき析出速度を遅くし、被めっき部材10において電流密度のバラツキが生じる場合でも、均一電着性を向上することができる。当該方法により、本実施形態では、被めっき部材10の表面に微小な空孔や凹凸がある場合においても、亜鉛めっき層20が適切に形成される程度(亜鉛めっき層20の非被覆部が存在しない程度)まで、均一電着性を高めることができる。そして、亜鉛めっき層20を形成した被めっき部材10を水洗した後、ステップS103に進む。
【0018】
ステップS103では、亜鉛ニッケル合金めっき処理が行われる。亜鉛ニッケル合金めっき処理方法は、酸性浴法でもよく、アルカリ浴法でもよい。ステップS102で形成した亜鉛めっき層20を形成した被めっき部材10に、亜鉛ニッケル合金めっき処理を行うことで、亜鉛めっき層20の上に亜鉛ニッケル合金めっき層30を形成することができる。そして、亜鉛ニッケル合金めっき層30を形成した被めっき部材10を水洗した後、ステップS104に進む。
【0019】
ステップS104では、3価クロメート処理が行われる。たとえば、亜鉛ニッケル合金めっき層30を形成した被めっき部材10を、3価クロム化成処理溶液に、たとえば10〜80℃の液温で5〜600秒間浸漬し、3価クロム化成皮膜を0.1〜0.3μm程度の厚みで亜鉛ニッケル合金めっき層30の上に形成する。なお、3価クロム化成皮膜の光沢を増すために、3価クロム化成処理前に被めっき部材10を稀硝酸溶液に浸漬させてもよい。さらに、このようにして形成された3価クロム化成皮膜を仕上げ処理する場合は、3価クロム化成皮膜を有する被めっき部材10を、水洗した後または水洗することなしに、その3価クロム化成皮膜を水溶液の形態にある仕上げ剤に接触させ(好ましくは仕上げ剤水溶液に浸漬し)、仕上げ剤を付着させ、水洗なしに脱水乾燥して、3価クロム化成皮膜上に仕上剤の層を形成させる。仕上げ処理の接触温度(好ましくは浸漬温度)は通常10〜80℃であり、接触時間(好ましくは浸漬時間)は3〜30秒、乾燥温度は50℃〜200℃、乾燥時間は5分〜60分である。また、仕上層の厚みは、任意とすることができるが、0.05〜0.3μm程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、本実施形態に係るめっき部材1の実施例について説明する。本実施例では、まず、本実施形態に係るめっき部材1の断面構造を観察するとともに、耐食性と、密着性について試験を行った。さらに、本実施形態に係るめっき部材1の均一電着性を検討するために、ハルセル試験を行った。以下に、各試験について説明する。
【0021】
(めっき部材1の断面の観察)
まず、実施例1として、上述しためっき部材1の製造方法に基づいて、亜鉛ダイカスト部材に亜鉛めっき層を形成し、その上に亜鉛ニッケル合金層を形成しためっき部材を製作した。また、比較例として、亜鉛ダイカスト部材に銅めっき層を形成し、その上に亜鉛ニッケル合金層を形成しためっき部材(比較例1)と、亜鉛ダイカスト部材に直接、亜鉛ニッケル合金めっき層を形成しためっき部材(比較例2)とを製作した。
【0022】
そして、集束イオンビーム−走査イオン顕微鏡(FIB−SIM)を用いて、実施例1および比較例1,2のめっき部材の断面を観察した。
図3は、亜鉛ダイカスト部材に銅めっき層を形成し、その上に亜鉛ニッケル合金層を形成した比較例1のめっき部材断面のSIM像であり、
図4は、亜鉛ダイカスト部材に直接、亜鉛ニッケル合金めっき層を形成した比較例2のめっき部材断面のSIM像である。また、
図5は、亜鉛めっき層を形成し、その上に亜鉛ニッケル合金層を形成した実施例1のめっき部材断面のSIM像である。なお、実施例1および比較例1,2ではめっき部材の切断による損傷を保護するために、めっき部材1の表面に炭素から構成される保護層を形成している。また、
図3〜5において、(A)は4000倍に拡大した像であり、(B)は10000倍に拡大した像である。
図5に示すように、実施例1では、亜鉛ダイカストと亜鉛ニッケル合金めっき層との間に亜鉛めっき層を形成することで、亜鉛ダイカストと亜鉛めっき層、および、亜鉛めっき層と亜鉛ニッケル合金層とがそれぞれ密着して形成されていることが分かる。同様に、
図3に示す比較例1でも、亜鉛ダイカストと亜鉛ニッケル合金めっき層との間に銅めっき層を形成することで、亜鉛ダイカストと銅めっき層、および、銅めっき層と亜鉛ニッケル合金層とがそれぞれ密着して形成されていることが分かる。これに対して、
図4に示すように、比較例2は、亜鉛ダイカストの上に亜鉛ニッケル合金めっき層を形成したにもかかわらず中間層が形成された。この中間層はスマットなどによるものと考えられる。亜鉛ダイカストの上に亜鉛ニッケル合金めっき層を直接積層する場合、このような中間層(スマット)が、めっきの密着性が低下する要因となると考えられる。
【0023】
(耐食性試験)
次に、本実施形態に係るめっき部材1の耐食性を、塩水噴霧試験法(JIS Z 2371)により試験した。また、本試験では、上述した、実施例1および比較例1,2のめっき部材に加えて、亜鉛ダイカスト部材に銅めっき層およびニッケル層を順に形成した後、さらに3価クロメート処理を行っためっき部材(比較例3)を用いて試験を行った。具体的には、実施例1および比較例1〜3のめっき部材を、濃度50g/LおよびpH7の塩水を連続噴霧した雰囲気中に240時間さらし、白錆の発生を目視により確認した。
図6に塩水噴霧試験の試験結果を示す。
【0024】
図6に示すように、実施例1のめっき部材では、240時間経過後においても白錆の発生は見られなかった。これに対して、比較例1では、200時間経過後から白錆の発生が確認された。また、比較例2では72時間後から白錆の発生が確認され、比較例3では200時間から白錆の発生が確認された。このことから、亜鉛ダイカスト部材に亜鉛めっき層および亜鉛ニッケル合金層を形成した実施例1のめっき部材では、比較例1〜3のめっき部材では白錆が発生する条件下においても、白錆の発生を防止することができ、比較例1〜3のめっき部材に比べて耐食性が優れていることが分かった。
【0025】
(密着性試験)
また、本実施形態に係るめっき部材1のめっきの密着耐を、クロスカット法(JIS K 5600−5−6)により試験した。本試験では、耐食性試験と同様に、実施例1および比較例1〜3のめっき部材を用いて試験を行った。また、本試験では、(1)めっき処理後であって、塩水噴霧試験を行っていない実施例1および比較例1〜3のめっき部材と、(2)めっき処理後に240時間の塩水噴霧試験を行った後の実施例1および比較例1〜3のめっき部材とに対して、それぞれクロスカットを実施した。
【0026】
下記表1にクロスカット法による試験結果を示す。なお、下記表1において、めっきが剥がれなかった場合を「なし」として記載し、めっきが剥がれた場合を「あり」として記載した。
【表1】
【0027】
表1に示すように、めっき処理後であり、塩水噴霧試験を行っていない状態では、実施例1および比較例1〜3のめっき部材の全てについて、めっきの剥がれは確認できなかった。これに対して、上述した塩水噴霧試験を行った後のめっき部材のうち、亜鉛ダイカスト部材に直接、亜鉛ニッケル合金めっき層を形成した比較例2のめっき部材においては、めっきの剥がれが生じた。このことから、亜鉛ダイカスト部材に亜鉛めっき層および亜鉛ニッケル合金層を順次形成した実施例1のめっき部材では、少なくとも、亜鉛ダイカスト部材に直接、亜鉛ニッケル合金めっき層を形成した比較例2のめっき部材と比べて、めっきの密着性が良好であることが分かった。
【0028】
(均一電着性試験)
さらに、本実施形態に係るめっき部材1の均一電着性を検討するために、ハルセル試験を行った。本試験では、電流密度を5A/dm
2、4A/dm
2、3A/dm
2、2A/dm
2、1A/dm
2、0.5A/dm
2、0.2A/dm
2、0.1A/dm
2、0.05A/dm
2とした9つのレーンにおいて、亜鉛めっきと亜鉛ニッケル合金めっきとを5分ずつ行った。試験結果を下記表2に示す。
【表2】
【0029】
表2に示すように、亜鉛ニッケル合金層に対して、亜鉛めっき層の膜厚は、電流密度への依存度が少なく、電流密度が低い場合でも膜厚を比較的厚くすることができる。たとえば、表2に示す例では、電流密度が5A/dm
2と0.05A/dm
2の場合の膜厚の比((0.05A/dm
2での膜厚)/(5A/dm
2での膜厚))を見てみると、亜鉛ニッケル合金めっき層では0.15/6.57=0.02となるのに対して、亜鉛めっき層では0.68/0.87=0.78となる。亜鉛めっき層は、このように電流密度による影響が小さく、電流密度が低い場合(または電流密度のバラツキが大きい場合)でも一定の厚みの膜厚を形成することができるため、亜鉛ダイカストの表面に空孔や凹凸が存在し、空孔や凹みの内部の電流密度が低い場合でも空孔や凹みの中までめっきを適切に施すことができ、非めっき部分を形成してしまうという問題を有効に防止することができる。
【0030】
以上のように、本実施形態に係るめっき部材1は、少なくとも表面が亜鉛で構成された被めっき部材10を有し、被めっき部材10の上に亜鉛めっき層20が形成され、さらに、亜鉛めっき層20の上に亜鉛ニッケル合金めっき層30が形成されている。このように被めっき部材10の少なくとも表面を亜鉛で構成し、同じ亜鉛を含む亜鉛めっき層20をその上に積層することで、被めっき部材10と亜鉛めっき層20との密着性を高くすることができるとともに、腐食電位差を小さくすることができる。また同様に、亜鉛めっき層20の上に同じ亜鉛を含む亜鉛ニッケル合金めっき層30を積層することで、亜鉛めっき層20と亜鉛ニッケル合金めっき層30との密着性を高くすることができるとともに、腐食電位差を小さくすることができる。特に、被めっき部材10の上に亜鉛ニッケル合金めっき層30を直接積層する場合と比べて、被めっき部材10と亜鉛ニッケル合金めっき層30との間に亜鉛めっき層20を形成することで、亜鉛ニッケル合金めっきと比べて均一電着性の高い亜鉛めっきが被めっき部材10の表面に形成された微小な空孔や凹凸をカバーし、亜鉛ニッケル合金めっき層30の被めっき部材10への密着性をより向上することができ、その結果、「こぶ」や「膨れ」などと称されるめっき不良を低減することができ、耐食性を向上することができる。たとえば、従来のように、被めっき部材に、シアン化銅ストライクとニッケルクロムめっきとを施した部材と比べて、本実施形態に係るめっき部材1では、めっき不良が約1/5まで低減することができる。また、本実施形態に係るめっき部材1では、亜鉛ニッケル合金めっき層30を有することで、塩化物イオンに対して強く、塩害地でも高い耐食性を発揮できる。
【0031】
また、被めっき部材10は、ダイカスト法により鋳造された金属部材とすることができる。ダイカスト法により鋳造された金属部材は、通常、複雑な構造・形状を有するため、被めっき部材10の上に亜鉛ニッケル合金めっき処理を直接行った場合に、電流密度にバラツキが生じ、電流密度が比較的低くなりめっき処理が施されていない非めっき部が生じ、耐食性が低下する場合がある。これに対して、本実施形態では、亜鉛ニッケル合金めっきに対して均一電着性が高い亜鉛めっきを下地に行うことで、複雑な構造・形状を有するダイカスト部材に対しても比較的均一にめっき処理を施すことができ、耐食性を高めることができる。このように、本実施形態に係るめっき方法では、特に、亜鉛ダイカストを被めっき部材10とする場合に特に有用である。
【0032】
さらに、従来は、防錆のために、被めっき部材としてステンレス素材を用いることが考えられるが、本実施形態に係るめっき部材1では、ステンレスよりも安価な金属亜鉛を用いることで、コストを低減しながらも、耐食性の高いめっき部材1を提供することができる。また、従来では、被めっき部材に対するめっきの密着性を高めるため、シアン化銅を用いためっきを施した後に、ニッケルめっきやクロムめっきを施すことが行われているが、シアンは環境負荷が高いという問題もある。これに対して、本実施形態に係るめっき部材1では、シアンを用いないでも、高い密着性を実現することができ、環境にとっても優れためっき部材1を提供することができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1…めっき部材
10…被めっき部材
20…亜鉛めっき層
30…亜鉛ニッケル合金めっき層
40…3価クロメート層
【手続補正書】
【提出日】2021年2月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が亜鉛ダイカストで構成された被めっき部材を有し、
前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層が形成され、
前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層が形成される、めっき部材。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層は、電気めっき法により亜鉛メッキ処理を行うことで形成された層である、請求項1に記載のめっき部材。
【請求項3】
前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有する、請求項1または2に記載のめっき部材。
【請求項4】
少なくとも表面が亜鉛ダイカストで構成された被めっき部材を亜鉛めっき処理することで、前記被めっき部材の上に、亜鉛めっき層に形成する亜鉛めっき工程と、
前記亜鉛めっき層が形成された被めっき部材を亜鉛ニッケル合金めっき処理することで、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層を形成する亜鉛ニッケル合金めっき工程とを有する、めっき部材の製造方法。
【請求項5】
前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有する、請求項4に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛めっき工程において、亜鉛めっき液における亜鉛の濃度を8g/L未満として前記亜鉛めっき処理を行う、請求項4または5に記載のめっき部材の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明に係るめっき部材は、少なくとも表面が
亜鉛ダイカストで構成された被めっき部材を有し、前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層が形成され、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層が形成される。
上記めっき部材において、
前記亜鉛めっき層は、電気めっき法により亜鉛メッキ処理を行うことで形成された層であるように構成することができる。
上記めっき部材において、前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有するように構成することができる。
本発明に係るめっき部材の製造方法は、少なくとも表面が
亜鉛ダイカストで構成された被めっき部材を亜鉛めっき処理することで、前記被めっき部材の上に亜鉛めっき層に形成する亜鉛めっき工程と、前記亜鉛めっき層が形成された被めっき部材を亜鉛ニッケル合金めっき処理することで、前記亜鉛めっき層の上に亜鉛ニッケル合金めっき層を形成する亜鉛ニッケル合金めっき工程とを有する。
上記めっき部材の製造方法において、前記被めっき部材は表面に5μm以上の深さまたは高さの空孔または凹凸を有するように構成することができる。
上記めっき部材の製造方法において、前記亜鉛めっき工程において、亜鉛めっき液における亜鉛の濃度を8g/L未満として前記亜鉛めっき処理を行うように構成することができる。