【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 高分子学会予稿集68巻2号[2019]、発表番号3Pd100において公開、発行所:公益社団法人 高分子学会、令和1年9月11日発行 〔刊行物等〕 https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2019/index.php?id=3Pd100&place_num=1 https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2019/download_pdf.php?id=3Pd100(高分子学会予稿集68巻2号(WEB予稿集)、発表番号3Pd100)において公開、令和1年9月11日掲載 〔刊行物等〕 第68回高分子討論会(開催場所:福井大学 文京キャンパス)においてポスター発表、令和1年9月27日開催
【解決手段】実施形態に係る複合繊維は、キトサン繊維の表面および/または内部に、I型結晶構造を有しかつアニオン性官能基を有するセルロース繊維を担持してなり、かつ、−60〜0mVのゼータ電位を有し、膨潤度が3.0質量%以下であり、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の含有量が1.5mg/g以下であるものである。該複合繊維の製造方法は、キトサン塩水溶液を、前記セルロース繊維とアルカリを含む凝固液中に押し出して凝固させ、延伸してゲル状繊維を得る工程と、前記ゲル状繊維を洗浄し乾燥する工程とを含み、前記洗浄が水混和性有機溶媒および水からなる群から選択される少なくとも1種を用いて行われるものである。
キトサン繊維の表面および/または内部に、I型結晶構造を有しかつアニオン性官能基を有するセルロース繊維を担持してなり、かつ、下記(a)〜(c)を満たすことを特徴とする、複合繊維。
(a)前記複合繊維が−60〜0mVのゼータ電位を有する。
(b)前記複合繊維の膨潤度が3.0質量%以下である。
(c)前記複合繊維のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素含有量が1.5mg/g以下である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る複合繊維は、キトサン繊維(A)と、該キトサン繊維の表面および/または内部に担持したセルロース繊維(B)を含むものである。
【0015】
[キトサン繊維(A)]
キトサン繊維は、カチオン性多糖であるキトサンからなる繊維である。キトサンは、天然高分子であるキチンの脱アセチル化物であり、脱アセチル化により形成されたアミノ基を有する。キトサン繊維としては、特に限定されないが、例えばキトサン溶液を湿式紡糸して得られたものでもよい。
【0016】
キトサン繊維の平均繊維径は、特に限定されず、1〜1000μmでもよく、1〜400μmでもよく、1〜200μmでもよい。キトサン繊維の平均繊維径は、光学顕微鏡観察により20本の繊維の繊維径の相加平均により求めることができる。
【0017】
[セルロース繊維(B)]
セルロース繊維としては、I型結晶構造を有しかつアニオン性官能基を有するものが用いられる。
【0018】
セルロースI型結晶は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、セルロース繊維に水不溶性を持たせて、複合繊維の水に対する膨潤を抑えることができる。またセルロース繊維がI型結晶構造を有することにより、キトサン繊維との複合繊維の機械的強度が向上する効果が得られる。
【0019】
セルロース繊維がI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°〜17°付近と、2θ=22°〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0020】
セルロース繊維の持つアニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシ基は、酸型(−COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(−COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念である。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念である。
【0021】
一実施形態において、アニオン性官能基としてはカルボキシ基が好ましい。カルボキシ基を含有するセルロース繊維としては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロース繊維や、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロース繊維が挙げられる。
【0022】
セルロース繊維におけるアニオン性官能基の量は、特に限定されず、例えば、0.5〜3.0mmol/gでもよく、1.5〜2.0mmol/gでもよい。アニオン性官能基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5〜1質量%スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース試料質量(g)〕
【0023】
セルロース繊維は、キトサン繊維に担持されて複合化するものであるため、キトサン繊維よりも平均繊維径が小さいものを用いることが好ましい。より詳細には、セルロース繊維としては、例えば、平均繊維径が3nm以上500nm以下であるセルロース微細繊維(セルロースナノファイバー)を用いてもよい。セルロース微細繊維の平均繊維径は、より好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは3〜30nmである。
【0024】
ここで、セルロース微細繊維の平均繊維径は、次のようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1質量%のセルロース微細繊維の水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を平均繊維径とする。
【0025】
セルロース微細繊維の平均アスペクト比は、特に限定されず、例えば10〜1000でもよく、また、50以上でもよく、100以上でもよく、800以下でもよく、500以下でもよい。
【0026】
ここで、セルロース微細繊維の平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。すなわち、先に述べた方法に従い平均繊維径を算出するとともに、同様の観察画像からセルロース微細繊維の平均繊維長を算出し、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維径(nm)
【0027】
セルロース微細繊維は、解繊処理を行うことにより得られる。解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、セルロース微細繊維の水分散液を得ることができる。
【0028】
好ましい一実施形態に係るセルロース微細繊維としては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性された酸化セルロース微細繊維が挙げられる。酸化セルロース微細繊維は、木材パルプなどの天然セルロースをN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N−オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4−アセトアミド−TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロース微細繊維は、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されており、本実施形態でも使用することができる。なお、酸化セルロース微細繊維は、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよいが、アルデヒド基及びケトン基を実質的に有していないことが好ましい。
【0029】
[複合繊維]
本実施形態に係る複合繊維は、キトサン繊維の表面および/または内部に、上記セルロース繊維を担持してなるものである。
【0030】
なお、本実施形態に係る担持とは、キトサン繊維の表面にセルロース繊維が脱落、飛散なく、全体あるいは一部に付着もしくは被覆している状態、および/または、キトサン繊維の内部にセルロース繊維の少なくとも一部が包接、包含、含有されている状態を含み、より具体的には、化学的、物理的または電気的に結合、吸着または固定化している状態などを示す。セルロース繊維は、好ましくは、少なくともキトサン繊維の表面に担持されていることである。
【0031】
複合繊維におけるキトサン繊維とセルロース繊維の比率は、特に限定されない。例えば、キトサン繊維100質量部に対して、セルロース繊維が0.001〜50質量部でもよく、0.001〜20質量部でもよく、0.001〜10質量部でもよい。
【0032】
複合繊維の平均繊維径は10〜1200μmであることが好ましく、より好ましくは20〜500μmであり、更に好ましくは50〜300μmである。複合繊維の平均繊維径は、光学顕微鏡観察により20本の繊維の繊維径の相加平均により求めることができる。
【0033】
[ゼータ電位]
本実施形態に係る複合繊維は、−60〜0mVのゼータ電位を有する。該複合繊維は、後述の複合繊維の製造方法の通り、キトサン塩水溶液を、アルカリとともにセルロース繊維を分散させた塩基性の凝固液中で湿式紡糸することにより、キトサンの凝固に伴い、凝固液中のセルロース繊維とキトサンとの静電相互作用(詳細には、セルロース繊維のアニオン性官能基とキトサンのプロトン化されたアミノ基との相互作用)によりイオンコンプレックスが形成され、キトサン繊維の表面および/または内部に、セルロース繊維を担持したゲル状繊維が得られる。この時、無機塩も生成するため、後述の洗浄を行って無機塩を除去した後に乾燥することにより、−60〜0mVのゼータ電位を有する複合繊維を得ることができる。
【0034】
複合繊維のゼータ電位が0mV以下であることにより、塩基性物質に対する吸着性を向上することができる。また、複合繊維のゼータ電位が−60mV以上であることにより、酸性物質に対する吸着性を持たせることができる。複合繊維のゼータ電位は、より好ましくは、負のゼータ電位を有すること、すなわち0mV未満である。ここで、繊維のゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定される。
【0035】
[膨潤度]
本実施形態に係る複合繊維は、膨潤度が3.0質量%以下である。膨潤度が3.0質量%以下であることにより、水の吸収を抑えて、耐久性を向上することができる。膨潤度は、2.5質量%以下であることが好ましい。なお、膨潤度は0.0質量%でもよい。ここで、膨潤度は、複合繊維をリン酸緩衝液に24時間浸漬させたときに吸収するリン酸緩衝液の複合繊維に対する質量比率である。
【0036】
[アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の含有量]
本実施形態に係る複合繊維のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の含有量(以下、アルカリ(土類)金属含有量という)は、1.5mg/g以下である。アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが挙げられ、それらはキトサン塩水溶液やセルロース繊維に含まれるカルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などの塩として存在する。また、凝固浴の塩基性水溶液中に含まれる。また、本実施形態に係る複合繊維は、前述の通り、キトサン塩水溶液を、アルカリとともにセルロース繊維を分散させた塩基性の凝固液中で湿式紡糸することにより製造されるため、複合繊維の他に無機塩も生成される。これらの塩が複合繊維の表面や内部に存在すると、水に対する膨潤度が高くなったり、また例えば複合繊維を吸着剤として使用する際、無機塩が複合繊維の表面に析出し、複合繊維の表面電位の変動や溶媒中への溶解により、吸着能を低下したりする恐れがある。そこで、本実施形態では、アルカリ(土類)金属含有量を1.5mg/g以下としており、これにより、無機塩による、膨潤性への影響や、酸性物質や塩基性物質の吸着への影響を低減することができると考えられる。なお、アルカリ(土類)金属含有量は0mg/gでもよい。
【0037】
ここで、アルカリ(土類)金属含有量は、ICP発光分光分析装置を用いて測定される、複合繊維に含まれるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総含有量(複合繊維1g当たりの含有量(mg))である。従って、複合繊維がアルカリ金属元素を含み、アルカリ土類金属元素を含まないときは、アルカリ金属元素の含有量であり、複合繊維がアルカリ土類金属元素を含み、アルカリ金属元素を含まないときは、アルカリ土類金属元素の含有量であり、複合繊維がアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素を含むときは、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素の合計の含有量である。
【0038】
[複合繊維の製造方法]
一実施形態に係る複合繊維の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)キトサン塩水溶液を、セルロース繊維とアルカリを含む凝固液中に押し出して凝固させ、延伸してゲル状繊維を得る工程、及び、
(2)得られたゲル状繊維を洗浄し乾燥する工程。
【0039】
詳細には、キトサンを酸性水溶液に溶解してキトサン塩水溶液を調製する(カチオン性高分子であるキトサンは酸との組み合わせにより塩を形成する)。得られたキトサン塩水溶液を凝固液中に押し出して凝固させる。すなわち、キトサン塩水溶液を紡糸原液(ドープ液)としてノズルから圧力を加えて吐出して、アルカリを含む塩基性の凝固液中で湿式紡糸する。その際、本実施形態では凝固液にアルカリとともにセルロース繊維を分散させておく。これにより、キトサンの凝固に伴い、凝固液中のセルロース繊維とキトサンとの静電相互作用(詳細には、セルロース繊維のアニオン性官能基とキトサンのプロトン化されたアミノ基との相互作用)によりイオンコンプレックスが形成され、キトサン繊維表面および/または内部に、セルロース繊維が担持される。このようにして湿式紡糸した後に延伸することにより、キトサン繊維にセルロース繊維を担持してなるゲル状繊維が得られる。ここで、ゲル状繊維とは、該イオンコンプレックスが、その内部まで溶媒を含む状態の繊維であり、該溶媒が実質的に蒸発などすることなしに保持され、延伸した状態にあるものをいう。
【0040】
キトサン塩水溶液におけるキトサンの濃度は、キトサン繊維の紡糸が可能であれば特に限定されず、例えば0.1〜10質量%でもよく、1〜5質量%でもよい。
【0041】
凝固液としては、アルカリを含む塩基性水溶液を用いることができ、溶媒としては、水単独でもよく、水とともに、メタノールやエタノールなどのアルコール、アセトンなどの水混和性有機溶媒を用いてもよい。アルカリとしては、特に限定されず、例えば、NaOH,KOH,NH
4OH,NaHCO
3、Ca(OH)
2、CaCl(OH)、MgCl(OH)等の無機物や水溶性のアミン化合物等が挙げられる。凝固液中のアルカリの濃度は、0.01〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20質量%であり、0.5〜10質量%でもよい。
【0042】
凝固液中のセルロース繊維の濃度は、0.001〜0.4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.3質量%であり、0.005〜0.1質量%でもよい。
【0043】
上記凝固液で湿式紡糸されたゲル状繊維は、次いで二次凝固浴としてのアルコール浴に浸漬されてもよい。該アルコール浴としては、例えばメタノールやエタノールなどが挙げられる。ゲル状繊維は、アルコール浴に浸漬することにより、ゲル状繊維中の水分がアルコールに置換されて、ゲル状繊維を固く締まった形態にできるため、後に続く延伸を行いやすい利点がある。
【0044】
湿式紡糸後の延伸については、特に限定されず、例えば、例えば上記凝固液または二次凝固浴としてのアルコール浴から引き出されたゲル状繊維を、延伸ローラを用いて所定の延伸倍率に引き伸ばすことにより行うことができる。延伸倍率としては、特に限定されず、例えば1.05〜30倍でもよい。延伸後のゲル状繊維は、例えば、巻き取るロールによる巻き取りを行ってもよい。
【0045】
次いで、延伸後のゲル状繊維に対して洗浄を行う。洗浄は、水混和性有機溶媒および水からなる群から選択される少なくとも1種を用いて行われ、これにより、複合繊維に含まれるアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の由来による水溶性無機塩を除去することができる。その際、複合繊維が中性(即ち、pH7)になるまで洗浄してもよい。複合繊維に含まれる水溶性無機塩を除去することにより、塩などの不純物による、酸性物質や塩基性物質の吸着への影響を低減することができる。また、複合繊維の吸着剤としての使用において、無機塩の複合繊維表面への析出や、複合繊維の表面電位の変動や溶媒中への溶解による吸着能の低下を抑制することができる。
【0046】
洗浄に用いる水混和性有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどが挙げられ、これらはいずれか1種のみ用いてもよく、2種以上組み合わせ用いてもよい。水混和性有機溶媒として、好ましくはアルコールを用いることであり、より好ましくは炭素数3以下の一価アルコールを用いることであり、更に好ましくはエタノールおよび/又はメタノールを用いることである。
【0047】
洗浄溶媒としては、少なくとも水を用いることが好ましく、すなわち、水、または水混和性有機溶媒と水との混合液を用いて洗浄することが好ましく、より好ましくは、水、またはアルコールと水との混合液を用いて洗浄することである。水を用いることで無機塩の除去効果を高めることができる。水混和性有機溶媒(好ましくはアルコール)と水との混合液を用いる場合、両者の比は特に限定しないが、容量比で、水混和性有機溶媒(好ましくはアルコール)/水が、5/5〜1/9でもよく、4/6〜2/8でもよい。
【0048】
洗浄方法は、特に限定されず、例えば、延伸後のゲル状繊維を、洗浄溶媒に所定時間浸漬することにより行ってもよい。その際、洗浄は、一工程で行ってもよく、洗浄溶媒の種類を換えて複数工程で行ってもよい。例えば、洗浄工程は、水混和性有機溶媒を主成分とする洗浄溶媒に浸漬する第1洗浄工程と、水を主成分とする洗浄溶媒に浸漬する第2洗浄工程と、水混和性有機溶媒を主成分とする洗浄溶媒に浸漬する第3洗浄工程とを含んでもよい。より好ましくは、洗浄工程は、水混和性有機溶媒(好ましくはアルコール)に浸漬する第1洗浄工程と、水または水混和性有機溶媒(好ましくはアルコール)と水の混合液に浸漬する第2洗浄工程と、水混和性有機溶媒(好ましくはアルコール)に浸漬する第3洗浄工程とを含むことである。このように乾燥前の洗浄工程において水混和性有機溶媒を用いることにより、その後の乾燥工程において乾燥しやすくなる。なお、これら各洗浄工程において、洗浄溶媒は一回または複数回、新しい洗浄溶媒に交換してもよい。
【0049】
洗浄溶媒に浸漬する時間としては、特に限定されず、例えば、トータルの洗浄時間で1〜200時間でもよく、10〜180時間でもよく、20〜150時間でもよい。
【0050】
このようしてゲル状繊維を洗浄した後、乾燥を行う。乾燥方法は、特に限定されず、例えば、室温にて風乾により乾燥してもよい。これにより、キトサン繊維の表面および/または内部に、セルロース繊維を担持した複合繊維が得られる。
【0051】
[作用効果]
本実施形態によれば、カチオン性のキトサン繊維とアニオン性のセルロース繊維とのイオンコンプレックス形成により、キトサン繊維の表面および/または内部に、セルロース繊維を担持した複合繊維が得られる。このようにセルロース繊維を担持することで、セルロース繊維が有するI型結晶構造により、キトサン繊維の水に対する膨潤を抑えることができ、機械的強度を向上できる。また、複合繊維化により、機械的特性を向上することができるため、複合繊維の巻取りや組紐化が可能になる。
【0052】
また、凝固液中のセルロース繊維、および、アルカリの濃度を調整することにより、複合繊維の繊維径を変化させることが可能である。
【0053】
また、該複合繊維はキトサン繊維を含み、キトサンはそれ自身が抗菌活性を有するため、セルロース繊維単体の場合に比べてカビの発生や腐敗を抑制することができる。
【0054】
本実施形態に係る複合繊維であると、また、上記イオンコンプレックス形成に使用されていない両天然高分子由来の両性の官能基(即ち、キトサン繊維のカチオン性のアミノ基と、セルロース繊維のアニオン性官能基)を有し、−60〜0mVのゼータ電位を有する。そのため、アニオン性基を有する誘導体や、酸素酸塩や、等電点が生理的pHよりも酸性側にある、あるいは複数のカルボキシ基を持ったアミノ酸を多く含む酸性タンパク質などの酸性物質だけでなく、含窒素化合物や、等電点が生理的pHよりも塩基性側にある、あるいは複数のアミノ基を持ったアミノ酸を多く含む塩基性タンパク質等の塩基性物質もより強固に吸着することができ、生理活性物質や含窒素化合物に対する吸着材として用いることができる。
【0055】
ここで、本実施形態に係る生理的pHとは、ヒト体液内で通常生ずる比較的狭い範囲、一般的には、7.0〜7.5の範囲にあるpHを言う。
【0056】
さらに、該複合繊維のアルカリ(土類)金属含有量が1.5mg/g以下であるため、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の由来による塩などの不純物による、膨潤度への影響や、酸性タンパク質や塩基性タンパク質の吸着への影響を低減することができる。
【0057】
また、該複合繊維の膨潤度は3.0質量%以下であるため、水に対する耐久性を向上することができ、吸着剤として好適である。
【0058】
本実施形態に係る複合繊維であると、抗菌性を有する吸着材及びその担体として、例えば、飲料水や魚介類の成魚や稚魚の養殖における水浄化、生体分子の精製と分離材料、アンモニアなどの人体に有害な生理活性物質、タンパク質、細菌、ウイルス、有機物、無機物の除去材料として利用できる。吸着材の形態としては、特に限定されず、例えばフィルター、組紐化したメッシュ、ろ布、網状のろ過剤、膜などの形態や、複合繊維を裁断や粉砕してペレットや粒子として得られるものをカラムに充填しカラムクロマトグラフィーとして利用する形態が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
複合繊維の平均繊維径、ゼータ電位、膨潤度、およびアルカリ(土類)金属含有量については以下の方法により測定した。
【0061】
[複合繊維の平均繊維径]
光学顕微鏡観察を行い、20本の繊維の繊維径の相加平均から平均繊維径を求めた。
【0062】
[ゼータ電位の測定]
複合繊維のゼータ電位は、複合繊維を平板試料用セルユニット(大塚電子(株)製)のセル上面に固定し、ゼータ電位測定システム(大塚電子(株)製、ELSZ−1000)にセットし、電気泳動光散乱法により測定した。溶媒として10mM塩化ナトリウム水溶液、モニター粒子として、ヒドロキシプロピルセルロース(Mw=30、000)によりコーティングしたポリスチレン製のラテックス粒子(粒子径:約500nm、大塚電子(株)製)を用い、室温(25℃)で3回測定を行い、森・岡本の式およびSmoluchowskiの式によって算出された値の3回の平均値をゼータ電位の値とした。
【0063】
[リン酸緩衝液の調製]
リン酸緩衝剤粉末(1/15mol/l pH6.8)(和光純薬工業株式会社製)を用い、pH6.8、67mMのリン酸緩衝液を調製した。以後、実験に使用したリン酸緩衝液は、pH6.8、67mMのリン酸緩衝液とした。
【0064】
[膨潤度の測定]
複合繊維を25℃のリン酸緩衝液中に24時間浸漬後に取り出し、ろ紙で表面のリン酸緩衝液を取り、質量「W
1」を求めた。続いてその複合繊維を105℃の乾燥機で3時間乾燥した後、質量「W
2」を求めた。得られた質量「W
1」および「W
2」から、下記式により複合繊維の膨潤度を算出した。
膨潤度(質量%)={(W
1−W
2)/W
2}×100
【0065】
[アルカリ(土類)金属含有量の測定]
複合繊維30mgを王水5mLを用いて溶解後、300℃にて蒸発乾固し、超純水10mLを用いて、4回洗浄を行った。続いて、25mLメスフラスコを用いてメスアップを行った後、ICP発光分光分析装置により、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の含有量を測定した。実施例および比較例では、いずれもナトリウム元素以外は検出されなかったので、下表では複合繊維1g当たりのNa含有量(mg/g)として示した。
【0066】
[第1実施例]
[複合繊維Aの調製]
キトサン10g(甲陽ケミカル株式会社製、FM−80)と1質量%酢酸240mLを6時間、130rpmで混合し、4質量%のキトサン酢酸塩水溶液を調製した。得られたキトサン塩水溶液をカラムに注入し、カラムの先端に紡糸ノズルを装着した。紡糸ノズルは、直径0.2mmの紡糸穴を30穴持つものである。
【0067】
NaOH水溶液にTOCNを加えた凝固浴(一次凝固浴)(NaOH濃度:2質量%、TOCN濃度:0.01質量%)に、紡糸ノズルを入れ、上記キトサン塩水溶液の入ったカラムを0.03MPaで加圧することによりキトサン塩水溶液を凝固浴に押し出し、凝固させることでTOCNとキトサン繊維が複合化したゲル状繊維を得た。続いて、得られたゲル状繊維は、二次凝固浴としてのメタノール浴に浸漬した後、延伸ローラにて延伸し、巻取りロールにて巻取りを行った。
【0068】
ここで、TOCNとしては、第一工業製薬(株)製「レオクリスタI−2SX」(セルロースI型結晶構造を有するTEMPO酸化セルロースナノファイバー、数平均繊維径=4nm、平均アスペクト比=280、アニオン性官能基量(カルボキシル基量)=1.9mmol/g)を用いた。
【0069】
また、一次凝固浴の長さは100cm、メタノール浴の長さは50cmとし、延伸ローラの引き取り速度は、上流側:6.4m/分、下流側:7.0m/分とし、延伸倍率を1.1倍とした。
【0070】
巻取りしたゲル状繊維をメタノールに4日間浸漬し、その間、メタノールの交換を5回行って洗浄した後、室温で風乾することにより、キトサン繊維にセルロース繊維を担持した複合繊維Aを調製した。
【0071】
[複合繊維Bの調製]
巻取りしたゲル状繊維をメタノールに4日間浸漬し、その間、メタノールの交換を5回行って洗浄した後、メタノールと水の4:6(容量比)の混合液に24時間浸漬し、さらにメタノールに24時間浸漬することにより洗浄した後、室温で風乾すること以外は、複合繊維Aと同様の方法により、複合繊維Bを調製した。
【0072】
[複合繊維Cの調製]
巻取りしたゲル状繊維をメタノールに4日間浸漬し、その間、メタノールの交換を5回行って洗浄した後、水に24時間浸漬し、さらにメタノールに24時間浸漬することにより洗浄した後、室温で風乾すること以外は、複合繊維Aと同様の方法により、複合繊維Cを調製した。
【0073】
[複合繊維Dの調製](比較例)
巻取りしたゲル状繊維の洗浄を行わず、室温で風乾すること以外は、複合繊維Aと同様の方法により、複合繊維Dを調製した。
【0074】
[キトサン繊維Xの調製]
凝固浴(一次凝固浴)にTOCNを加えないNaOH水溶液を用いること以外は、複合繊維Aと同様の方法により、キトサン繊維Xを調製した。
【0075】
得られた複合繊維A〜Dおよびキトサン繊維Xについて、平均繊維径、ゼータ電位、および膨潤度を測定した。また、複合繊維A〜Cおよびキトサン繊維XについてNa含有量を測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、実施例1〜3および比較例2の複合繊維であると、比較例1のキトサン繊維に対して、セルロース繊維の担持により繊維直径の増加が確認された。比較例2では、紡糸延伸後に洗浄しなかったため、Na含有量が多く、膨潤度およびゼータ電位の値が高かった。これに対し、実施例1〜3の複合繊維であると、洗浄によりNa含有量が少なく、即ち不純物が低減されていたことから、膨潤度が小さく、ゼータ電位の値も小さいものであった。
【0078】
[第2実施例]
凝固浴(一次凝固浴)中におけるNaOH濃度を下記表2に示す通りに変更し、その他は[複合繊維Aの調製]と同様の方法により、複合繊維E〜Gを製造した。得られた複合繊維について、平均繊維径、ゼータ電位、膨潤度およびNa含有量を測定した。
【0079】
【表2】
【0080】
結果は表2に示す通りであり、凝固浴のTOCN濃度を固定して比較したところ、NaOHの濃度増加に伴い、繊維直径の増加が確認された。このことから、凝固浴のNaOHの濃度が高いほど、TOCNの複合化量が多くなり、TOCN比率の高い複合繊維が得られることが分かる。
【0081】
[第3実施例]
凝固浴中におけるTOCN濃度を下記表3に示す通りに変更し、その他は[複合繊維Aの調製]と同様の方法により、複合繊維H,Iを製造した。得られた複合繊維について、平均繊維径、ゼータ電位、Na含有量および膨潤度を測定した。また、複合繊維A,H,I及び比較例1のキトサン繊維Xについて破断強度と破断伸度を、下記方法により評価した。
【0082】
[破断強度・破断伸度]
乾燥した繊維20本を1つの束にして、卓上型万能材料試験機(エー・アンド・ディ(株)製)により、破断強度と破断伸度を測定した。
【0083】
【表3】
【0084】
結果は表3に示す通りであり、実施例1,7,8の複合繊維であると、キトサン繊維Xに対して膨潤度が低く、破断強度および破断伸度について改良効果が認められた。
【0085】
[第4実施例]
[キトサン繊維Yの調製]
凝固浴(一次凝固浴)にTOCNを加えないNaOH水溶液を用いることと、巻取りしたゲル状繊維をメタノールに4日間浸漬し、その間、メタノールの交換を5回行って洗浄した後、メタノールと水の4:6(容量比)の混合液に24時間浸漬し、さらにメタノールに24時間浸漬することにより洗浄した後、室温で風乾すること以外は、複合繊維Aと同様の方法により、キトサン繊維Yを調製した。
【0086】
[複合繊維のタンパク質の吸着性評価]
塩基性タンパク質であるリゾチーム(等電点=11)と酸性タンパク質であるウシ血清アルブミン(等電点=4.9)に対する吸着量を評価した。
【0087】
(1)リゾチームの吸着試験
複合繊維A,B,Dおよびキトサン繊維Xについてリゾチームの吸着試験を行った。詳細には、複合繊維またはキトサン繊維50mgと、25mg/Lまたは50mg/Lのリゾチームの純水溶液25mLを、密閉容器内で60分、25℃、195rpmで撹拌した。撹拌した液をろ過し、ろ液について可視・紫外分光光度計により280nmでの吸光度を測定し、別途測定して得られた純水中のリゾチーム量と吸光度との関係を示す検量線により、ろ液のリゾチーム量(mg/L)を算出した。リゾチームの複合繊維またはキトサン繊維への吸着量(%)は、初期のリゾチーム量(mg/L)からろ液中のリゾチーム量(mg/L)を差し引きし、初期のリゾチーム量(mg/L)で割り算した比率により表記した。結果を下記表4に示す。
【0088】
(2)ウシ血清アルブミン(BSA)の吸着試験
複合繊維B,C,Dおよびキトサン繊維YについてBSAの吸着試験を行った。詳細には、複合繊維またはキトサン繊維50mgと、25mg/Lまたは50mg/LのBSAの純水溶液25mLを、密閉容器内で60分、25℃、195rpmで撹拌した。撹拌した液をろ過し、ろ液について可視・紫外分光光度計により280nmでの吸光度を測定し、別途測定して得られた純水中のBSA量と吸光度との関係を示す検量線により、ろ液のBSA量(mg/L)を算出した。BSAの複合繊維への吸着量(%)は、初期のBSA量(mg/L)からろ液中のBSA量(mg/L)を差し引きし、初期のBSA量(mg/L)で割り算した比率により表記した。結果を下記表5に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
結果は表4および表5に示す通りであり、実施例に係る複合繊維であると、酸性タンパク質だけでなく、塩基性タンパク質に対しても吸着性に優れていた。
【0092】
[第5実施例]
[キトサン繊維または複合繊維の耐久性試験]
下記表6に示すキトサン繊維および複合繊維を用い、リゾチーム濃度が0mg/mL(純水中)および25mg/mLの試験溶液に浸漬した。浸漬後、繊維を洗浄し、室温で風乾後、走査型電子顕微鏡により繊維表面の状態を観察し、下記基準により耐久性を評価した。
図1〜5に走査型電子顕微鏡の観察画像を示す。
【0093】
[複合繊維の耐久性の評価基準]
◎:繊維表面が平滑であり、水に対する耐久性に優れる。
〇:繊維表面に突起物や荒れが少なくほぼ平滑である。
×:繊維表面に突起物や荒れが目立ち、水に対する耐久性に劣る。
【0094】
【表6】
【0095】
結果は表6および
図1〜5に示す通りであり、実施例に係る複合繊維Bであると、水ないし水溶液に浸漬し、洗浄乾燥した後における繊維表面の荒れが抑制されており、水に対する耐久性に優れていた。
【0096】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。