(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-123928(P2021-123928A)
(43)【公開日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】無動力防水扉装置
(51)【国際特許分類】
E06B 5/00 20060101AFI20210802BHJP
E06B 3/36 20060101ALI20210802BHJP
E05F 1/02 20060101ALI20210802BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20210802BHJP
【FI】
E06B5/00 Z
E06B3/36
E05F1/02 A
E04H9/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2020-17444(P2020-17444)
(22)【出願日】2020年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】592111746
【氏名又は名称】穴井 知興
(74)【代理人】
【識別番号】100140006
【弁理士】
【氏名又は名称】渕上 宏二
(72)【発明者】
【氏名】穴井 知興
【テーマコード(参考)】
2E014
2E039
2E139
2E239
【Fターム(参考)】
2E014AA02
2E014DA00
2E014DB00
2E039AC04
2E139AA09
2E139AC19
2E239AC04
(57)【要約】
【課題】災害発生時に人手を要さずに作動する防水扉を提供する。
【解決手段】無動力防水扉装置30は、一組の防水扉32と、防水扉32を対面した状態から互いに離反する方向に自重で回動するように支持する防水扉支持装置34と、浮力によって作動する浮力発生装置38を備える。豪雨や高潮などの影響によって水溜部42に水が流入し、浮力発生装置38に浮力が発生すると、浮力発生装置38の上昇に伴って防水扉32が上昇する。通常時は防水扉32の下端部が水溜部42の内側にあって自由な回動が規制されているが、水溜部42の外側まで上昇すると規制が解除されて自重による回動を開始し、地上開口部100を遮蔽して地下構造物への浸水を未然に防止する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物への浸水を防止するための無動力防水扉装置であって、
前記地下構造物に繋がる開口部を封鎖する方向に自重によって回動する防水扉と、
前記開口部周辺の水位の上昇に伴って浮力を発生する浮力発生装置と、を備え
前記防水扉が、前記浮力発生装置に浮力が発生したことを契機として回動を開始することを特徴とする、
無動力防水扉装置。
【請求項2】
前記開口部の前面の地上面に対して固定される支柱をさらに備え、
前記防水扉が、前記支柱に対して回動可能に装着され、
前記浮力発生装置が、前記支柱の前方に形成される凹部に設置され、前記凹部の内側の水位の上昇に伴って浮力を発生することを特徴とする、
請求項1に記載の無動力防水扉装置。
【請求項3】
前記防水扉が、前記浮力発生装置の上部に設置され、前記浮力発生装置によって発生した浮力によって前記凹部の外側まで上昇したときに回動を開始することを特徴とする、
請求項2に記載の無動力防水扉装置。
【請求項4】
前記防水扉の回動を制限する防水扉固定装置をさらに備え、
前記防水扉固定装置が、前記浮力発生装置の上部に設置され、前記浮力発生装置によって発生した浮力によって上昇したときに前記防水扉の回動の制限を解除することを特徴とする、請求項2に記載の無動力防水扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物への浸水を防止する無動力式の自動防水扉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本全国で豪雨による浸水の被害が増加している。特に地下鉄駅構内や地下街などの地下構造物は浸水に被害に遭いやすく被害による影響も甚大である。従来、構造物等を浸水の被害から護ることを目的として、水の侵入を遮蔽によって阻止する防水扉が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3206941号公報
【特許文献2】特開2008−150829号公報
【特許文献3】特開2011−140786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された防水扉は油圧ジャッキで防水扉を昇降させる方式を採用しているが、スペースとコストの関係から設置できる場所は極めて限定的である。これに対し、特許文献2と特許文献3には手動で防水扉を開閉させる構造が記載されている。手動式であることから、油圧機構等の動力を用いる形式のものに比べるとスペースやコストの点で有利ではあるが、特許文献2はスライドさせた防水扉を収納するためのスペースが必要になり、これも設置できる場所が限られる。特許文献3は水平状態から起立するタイプの防水扉であり、これらの中では最もスペース効率に優れている。しかし、浸水や冠水の発生時に現場に人がいないと有効に作動しないという問題がある。被害に備えて予め作動させておくことも考えられるが、場所によっては通行の妨げになるし、設置された全ての防水扉を事前に作動させる労力を考えると現実的には非常に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の課題を解決するため、本発明は以下のように構成される。
【0006】
本発明は、地下構造物への浸水を防止するための無動力防水扉装置であって、前記地下構造物に繋がる開口部を封鎖する方向に自重によって回動する防水扉と、前記開口部周辺の水位の上昇に伴って浮力を発生する浮力発生装置と、を備え、前記防水扉が、前記浮力発生装置に浮力が発生したことを契機として回動を開始することを特徴とする無動力防水扉装置である。
【0007】
このように構成される無動力防水扉装置は、豪雨や河川の氾濫等に起因して開口部周辺の水位が上昇したときに、防水扉が自動的に回動を開始して地下構造物に繋がる開口部を封鎖する。防水扉は開口部の全てを封鎖するか、十分な効果が期待できる高さまで封鎖することで地下構造物への流水の浸入を遮断する。
【0008】
本発明は、前記開口部の前面の地上面に対して固定される支柱をさらに備え、前記防水扉が、前記支柱に対して回動可能に装着され、前記浮力発生装置が、前記支柱の前方に形成される凹部に設置され、前記凹部の内側の水位の上昇に伴って浮力を発生することを特徴とする無動力防水扉装置とすることもできる。
【0009】
このように構成される無動力防水扉装置は、開口部周辺の水位の上昇を凹部の内側の水位の上昇によって捕捉することができる。また強固な土木構造物である支柱に防水扉を安定した状態に固定することができる。さらに凹部を形成するための構造物と支柱とを一体的に構成することで、製造コストおよび施工コストの削減に寄与することができる。
【0010】
本発明は、前記防水扉が、前記浮力発生装置の上部に設置され、前記浮力発生装置によって発生した浮力によって前記凹部の外側まで上昇したときに回動を開始することを特徴とする無動力防水扉装置とすることもできる。
【0011】
このように構成される無動力防水扉装置は、防水扉は凹部の内側に接触しているために回動を制限されているが、浮力によって凹部の外側まで上昇すると、凹部と非接触状態となって回動を開始する。
【0012】
本発明は、前記防水扉の回動を制限する防水扉固定装置をさらに備え、前記防水扉固定装置が、前記浮力発生装置の上部に設置され、前記浮力発生装置によって発生した浮力によって上昇したときに前記防水扉の回動の制限を解除することを特徴とする無動力防水扉装置とすることもできる。
【0013】
このように構成される無動力防水扉装置は、防水扉は防水扉固定装置によって回動を制限されているが、浮力によって防水扉固定装置が上昇すると、制限が解除されて回動を開始する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無動力防水扉装置は、地下構造物に繋がる開口部を封鎖する方向に自重によって回動する防水扉を備え、水位の上昇がない通常時には防水扉が回動を制限されており、開口部周辺の水位の上昇に伴って制限が解除されて防水扉の回動を開始するように構成されているため、動力機構や電源が不要であり、設置に要するスペースやコストを最小限に抑えることができる。また、装置を構成する部品が少なく比較的簡素な構造であるため、故障しにくくメンテナンスも容易である。さらには、豪雨や河川氾濫等に起因する水位上昇を契機として自動的に開口部が封鎖されるため、現地への人員の派遣も無用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】無動力防水扉装置の第1の実施形態を示す側面図および正面図
【
図4】無動力防水扉装置の第2の実施形態を示す側面図および正面図
【
図5】無動力防水扉装置の第2の実施形態を示す側面図および正面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら説明する。
〔無動力防水扉装置の概要〕
図1および
図4において、無動力防水扉装置10、30は、地上開口部からの水の流入による地下構造物の浸水を未然に防止するための構造物であり、豪雨や河川の氾濫、高潮などの影響によって地上開口部100の周辺の水位が上昇する緊急時には、防水扉12、32が自動的に地上開口部100を遮蔽して地下構造物への浸水を阻止する。防水扉12、32は地上開口部100を遮蔽する方向に自重によって回動するように構成されており、通常時は物理的手段によって回動を規制されているが、緊急時には、
図2、3および
図5に示すように、自動的に規制が解除されるように構成されている。
【0017】
〔無動力防水扉装置の第1の実施形態の構成および作用〕
図1、2、3において、無動力防水扉装置10は、水平方向において並列する一組の防水扉12と、防水扉12を対面した状態から互いに離反する方向に自重で回動するように支持する防水扉支持装置14と、防水扉12が対面した状態を維持するように回動を規制する防水扉固定装置16と、浮力によって作動する浮力発生装置18を備える。地上開口部100は地下鉄や地下街などへの出入口となる土木構造物である。この地上開口部100に無動力防水扉装置10を設置するための鉄筋コンクリート製のフレーム20を固定する。
【0018】
防水扉12は、金属製の矩形状の平板である。風雨にさらされる野外に設置されることが多いため、耐候性、耐腐食性などが要求される。また高い水圧に対して容易に変形しない剛性も必要である。防水扉12は、地上開口部100の全幅および全高に適合するサイズに設定する。幅方向は2枚の防水扉12を並列した状態で地上開口部の全幅を遮蔽し得るサイズとし、高さ方向は地上開口部の全高もしくは水位上昇が想定される高さに適合するサイズとする。地上開口部100の全幅がさほど大きくない場合は一枚の防水扉12で対応することも可能である。防水扉12は防水扉支持装置14によってフレーム20に回動可能に装着され、通常時における地上開口部100への出入りを妨げることのないように導線に沿った向きに設置される。
【0019】
防水扉支持装置14は、防水扉12の上端側と下端側の2箇所に設置された軸受けと軸とで構成される。フレーム側に軸受けを設ける場合は防水扉側に軸を設けるが、その逆のパターンでもよい。防水扉12が自重で回動するように軸受けは鉛直方向に対して僅かに傾いた向きに設置する。防水扉支持装置14にグラビティヒンジを採用しても同様の効果を得ることができる。
【0020】
防水扉固定装置16は、防水扉12の自重による回動を規制する装置である。防水扉固定装置16は、防水扉12の上端部に上から被せるように設置され、持ち上げると防水扉12の上端部から簡単に離脱できるように構成されている。
【0021】
浮力発生装置18は、浮力を発生させるための中空もしくは軽量材によって形成されたフロートを主体とする。浮力発生装置18は、地上面を掘削して設置した凹状の水溜部22の内側に設置される。地上開口部100の周辺の水位が上昇すると、水溜部22に流入した水によって浮力発生装置18に浮力が発生し、水溜部22の内側で上昇する。浮力発生装置18と防水扉固定装置16は連結されているため、浮力発生装置18の上昇と連動して防水扉固定装置16も上昇する。これにより防水扉固定装置16は防水扉12から離脱し、規制から解除された防水扉12は自重による回動を開始する。
【0022】
〔無動力防水扉装置の第2の実施形態の構成および作用〕
図4、5において、無動力防水扉装置30は、前述の無動力防水扉装置10と基本的な構成は同じであるが、無動力防水扉装置10では水位の上昇に伴って防水扉固定装置が上昇し、防水扉の回動の規制が解除されるのに対し、無動力防水扉装置30では防水扉自体が上昇し、上昇動作の過程において回動の規制が解除されるように構成される。
【0023】
防水扉32は、防水扉支持装置34によってフレーム40に対して回動可能および上下動可能に装着されるとともに浮力発生装置36の上部に設置される。緊急時に水溜部42に水が流入して浮力発生装置38に浮力が発生すると、浮力発生装置38の上昇に伴って防水扉32も上昇する。通常時は防水扉32の下端部が水溜部42の内側にあって自由な回動が規制されているが、水溜部42の外側まで上昇すると規制がなくなり、自重による回動を開始する。
【0024】
〔無動力防水扉装置の設置方法〕
無動力防水扉装置10、30は、水溜部22、42をそれぞれフレーム20、40と一体的に構成することも可能である。水溜部とフレームが一体化していれば、地表面に埋設された水溜部と地上開口部100に固定されたフレームによって無動力防水扉装置10、30は強固に固定される。水溜部とフレームを設置するための比較的軽易な土木工事の後に、防水扉や防水扉支持装置、浮力発生装置、防水扉固定装置などのパーツを装着するだけの簡単な作業で無動力防水扉装置10、30を設置することができる。
【0025】
〔無動力防水扉装置の効果〕
このように構成される無動力防水扉装置10、30は、豪雨や河川の氾濫、高潮など地上構造物への浸水が予想される事態が発生した緊急時の際には、防水扉12が自動的に作動して地上開口部100を封鎖し、浸水を未然に防止する。 従って、現地に作業員等を派遣する必要がなくなるため、人件費を削減することができるだけでなく、作業員等を危険に晒すようなこともない。また、防水扉の作動に動力や電力を必要としないため、設置や運用、保守点検等にかかるコストを大幅に削減することもできる。
【符号の説明】
【0026】
10、30 無動力防水扉装置
12、32 防水扉
14、34 防水扉支持装置
16 防水扉固定装置
18、38 浮力発生装置
20、40 フレーム
22、42 水溜部