(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-124104(P2021-124104A)
(43)【公開日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】ロケットエンジンノズル、ロケットエンジン及びロケット
(51)【国際特許分類】
F02K 9/82 20060101AFI20210802BHJP
F02K 9/97 20060101ALI20210802BHJP
【FI】
F02K9/82
F02K9/97
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-20213(P2020-20213)
(22)【出願日】2020年2月8日
(71)【出願人】
【識別番号】720000937
【氏名又は名称】須田 広志
(72)【発明者】
【氏名】須田 広志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】重量の増大を抑制しつつ、内壁面からの燃焼ガスの剥離を防止し、かつ、大きな推力を得ることができる技術を提供する。
【解決手段】ロケットエンジンノズルは、ノズル本体20と、ノズル本体の内部にガスを噴射するガス噴射装置30を備える。ノズル本体は、ロケットエンジン40からの燃焼ガス60が流入するノズル入口21と、ノズル入口に流入した燃焼ガスを排出するノズル出口24と、ノズル入口とノズル出口の間に設けられたスロート部22と、スロート部からノズル出口に向かって径が徐々に拡大する拡径部23を備える。ガス噴射装置は、拡径部の内部に拡径部を流れる燃焼ガスの圧力とは異なる圧力を有するガス70を噴射可能である。ガス噴射装置からガスを噴射することで、拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離することが防止可能となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットエンジンに用いられるロケットエンジンノズルであって、
ノズル本体と、
前記ノズル本体の内部にガスを噴射するガス噴射装置と、を備えており、
前記ノズル本体は、
ロケットエンジンからの燃焼ガスが流入するノズル入口と、
前記ノズル入口に流入した前記燃焼ガスを排出するノズル出口と、
前記ノズル入口と前記ノズル出口の間に設けられたスロート部と、
前記スロート部から前記ノズル出口に向かって径が徐々に拡大する拡径部と、を備えており、
前記ガス噴射装置は、前記拡径部の内部に前記拡径部を流れる前記燃焼ガスの圧力とは異なる圧力を有するガスを噴射可能であり、
前記ガス噴射装置からガスを噴射することで、前記拡径部の内壁面から前記燃焼ガスが剥離することが防止可能となっている、ロケットエンジンノズル。
【請求項2】
当該ロケットエンジンノズルを装備するロケットが予め設定された高度以下を飛行するときに、前記ガス噴射装置からガスを噴射するように構成されており、
前記スロート部と前記ノズル出口の断面積比は、前記ロケットが予め設定された高度より高いところを飛行するときに前記拡径部の内壁面から前記燃焼ガスが剥離しないように設定されており、
前記ロケットが予め設定された高度以下を飛行するときは、前記ガス噴射装置から噴射されるガスによって、前記拡径部の内壁面から前記燃焼ガスが剥離することが防止される、請求項1に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項3】
前記ガス噴射装置は、
前記ノズル本体の外部に設けられるガス取入口と、
前記拡径部の内部に配置され、前記ノズル本体のノズル軸線の近傍に開口するガス噴出口と、
前記ガス取入口と前記ガス噴出口とを接続し、前記ガス取入口から取り入れたガスを前記ガス噴出口に導くガス導入管と、を備える請求項1又は2に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項4】
前記ガス噴射装置は、前記ガス導入管に設けられ、当該ガス導入管を流れるガスの流量及び圧力を調整する流量圧力調整器をさらに備える、請求項3に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項5】
前記ガス導入管は、当該ロケットエンジンノズルが装備されるロケットエンジン本体に取付けられるように構成されている、請求項3又は4に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項6】
前記ガス導入管は、当該ロケットエンジンノズルが装備されるロケット機体に取付けられるように構成されている、請求項3又は4に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項7】
前記ガス取入口は、前記ノズル本体の周囲の空気を取り入れるように構成されている、請求項3〜6のいずれか一項に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項8】
前記ガス取入口は、ロケットエンジンに装備されるターボポンプからの排気ガスが供給されるようになっている、請求項3〜6のいずれか一項に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項9】
前記ガス取入口には、低温の液体が供給され、
前記ガス取入口に供給された液体は、前記ガス導入管を流れる間に気化し、
前記ガス噴出口は、前記ガス導入管で気化したガスを噴出する、請求項3〜6のいずれか一項に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項10】
前記ガス導入管は、その一部が前記ノズル本体の内部に配置されており、
前記ガス導入管のうち少なくとも前記ノズル本体の内部に配置される部分には、当該部分を冷却するための冷却手段が設けられている、請求項3〜9のいずれか一項に記載のロケットエンジンノズル。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のロケットエンジンノズルと、
前記ロケットエンジンノズルが取付けられるロケットエンジン本体と、を備えるロケットエンジン。
【請求項12】
請求項11に記載のロケットエンジンと、
前記ロケットエンジンが取付けられるロケット機体と、を備えるロケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、ロケットエンジンノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットエンジンで発生する燃焼ガスは、ロケットエンジンノズルのノズル入口から流入し、スロート部を通ってノズル出口から排気される。燃焼ガスがロケットエンジンノズルの内壁面から剥離すると、推力が不安定になり異常振動等の不具合が発生する。このため、燃焼ガスがロケットエンジンノズルの内壁面から剥離しないように、スロート部とノズル出口の断面積比(すなわち、膨張比)が設定される。
一方、ロケットエンジンは、大気圧の高い地上と、高度が上昇して大気圧が低下した上空においても燃焼し、ロケットに推力を与える。このため、大気圧の高い地上に合わせて膨張比を設定すると、大気圧が低下した上空では燃焼ガスの圧力が周囲の圧力より高くなり、最大推力が得られない。一方、大気圧が低下した上空に合わせて膨張比を設定すると、大気圧の高い地上では、燃焼ガスのノズル出口の圧力が大気圧より低くなり、燃焼ガスがロケットエンジンノズルの内壁面から剥離してしまう。
かかる問題を解決するため、特許文献1の技術では、ロケットエンジンノズルの内周面に分離ボルトによって内筒が固定されている。ロケット打上げ直後の大気圧が高いときは、低膨張比となるように内筒が固定された状態で飛行する。一方、ロケットが高度を上げて大気圧が低くなると、高膨張比となるように内筒が分離された状態で飛行する。これによって、燃焼ガスがロケットエンジンノズルの内壁面から剥離することを防止しつつ、大きな推力が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−139431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ロケットエンジンノズルの内周面に内筒を分離可能に固定するための複雑な機構が必要となり、ロケットエンジンノズルの重量が増大する等の問題が生じる。
本明細書は、ロケットエンジンノズルの重量の増大を抑制しつつ、ロケットエンジンノズルの内壁面からの燃焼ガスの剥離を防止し、かつ、大きな推力を得ることができる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルは、ロケットエンジンに用いられるロケットエンジンノズルであって、ノズル本体と、ノズル本体の内部にガスを噴射するガス噴射装置と、を備えている。ノズル本体は、ロケットエンジンからの燃焼ガスが流入するノズル入口と、ノズル入口に流入した燃焼ガスを排出するノズル出口と、ノズル入口とノズル出口の間に設けられたスロート部と、スロート部からノズル出口に向かって径が徐々に拡大する拡径部と、を備えている。ガス噴射装置は、拡径部の内部に拡径部を流れる燃焼ガスの圧力とは異なる圧力を有するガスを噴射可能となっている。ガス噴射装置からガスを噴射することで、拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離することが防止可能となっている。
【0006】
上記のロケットエンジンノズルでは、スロート部からノズル出口までの空間に、当該空間を流れる燃焼ガスの圧力とは異なる圧力を有するガスが噴射可能となっている。このため、拡径部内にガスを噴射することで、燃焼ガスの膨張比(すなわち、スロート部の流路断面積と、ノズル出口における燃焼ガスの流路断面積との比)を調整することができる。その結果、拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離することを防止することができる。また、燃焼ガスの剥離防止のためにノズル出口の径を小さくする必要がないため、大きな推力を得ることができる。さらに、拡径部内にガスを噴射するだけでよいため、複雑な機構は必要がなく、重量の増大を抑制することができる。
【0007】
なお、本明細書に開示のロケットエンジンノズルは、ロケットエンジン本体に取り付けられてロケットエンジンとして用いることができる。また、このロケットエンジンはロケット機体に取付られてロケットとして用いることができる。このようなロケットエンジンやロケットは、大きな安定した推力によって飛行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係るロケットエンジンノズルを示した図である。
【
図2】実施例2に係るロケットエンジンノズルを示した図である。
【
図3】実施例3に係るロケットエンジンノズルを示した図である。
【
図4】実施例4に係るロケットエンジンノズルを示した図である
【
図5】実施例5に係るロケットエンジンノズルを示した図である。
【
図6】実施例6に係るガス導入管の一部を示した部分断面図である。
【
図7】実施例7に係るガス導入管の一部を示した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルは、当該ロケットエンジンノズルを装備するロケットが予め設定された高度以下を飛行するときに、ガス噴射装置からガスを噴射するように構成されていてもよい。このとき、スロート部とノズル出口の断面積比は、ロケットが予め設定された高度より高いところを飛行するときに拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離しないように設定されていてもよい。そして、ロケットが予め設定された高度以下を飛行するときは、ガス噴射装置から噴射されるガスによって、拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離することを防止してもよい。ロケットが予め設定された高度より高いところ(すなわち、高度が高い空間)を飛行するときに合わせてロケットエンジンノズルの膨張比(すなわち、高膨張比)を設定することで、大気圧の低下した高度の高い空間を飛行するときは、燃焼ガスを加速させて大きな推力を得ることができる。一方、大気圧が高く高度が低いところを飛行するときは、ガス噴射装置からガスを噴射することで拡径部の内壁面から燃焼ガスが剥離することを防止することができる。
【0010】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス噴射装置は、(1)ノズル本体の外部に設けられるガス取入口と、(2)拡径部の内部に配置され、ノズル本体のノズル軸線の近傍に開口するガス噴出口と、(3)ガス取入口とガス噴出口とを接続し、ガス取入口から取り入れたガスをガス噴出口に導くガス導入管と、を備えていてもよい。このような構成によると、拡径部に噴出するガスをガス取入口からガス噴出口まで導くガス導入管を設けるだけでよいため、ガス噴射装置を簡易な構成とすることができる。
【0011】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス噴射装置は、ガス導入管に設けられ、ガス導入管を流れるガスの流量及び圧力を調整する流量圧力調整器をさらに備えていてもよい。このような構成によると、ロケットの高度に応じて、ガス噴射装置から噴射するガスの流量及び圧力を調整できるため、ロケットエンジンノズルの膨張比を高度に応じて連続的に変化させることができる。
【0012】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス導入管は、当該ロケットエンジンノズルが装備されるロケットエンジン本体に取付けられるように構成されていてもよい。
【0013】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス導入管は、当該ロケットエンジンノズルが装備されるロケット機体に取付けられるように構成されていてもよい。
【0014】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス取入口は、ノズル本体の周囲の空気(すなわち、大気圧の空気)を取り入れるように構成されていてもよい。このような構成によると、ノズル出口の燃焼ガスの圧力がノズル本体の周囲の空気の圧力より低いときに(高度が低いときに)、ノズル本体周囲の空気を拡径部に噴射することで、燃焼ガスの内壁面からの剥離を防止することができる。また、ロケットの高度が上昇するのに応じて拡径部に噴射する空気の圧力が変化するため、ロケットの高度に応じて連続的に膨張比を変化させることが容易に実現することができる。
【0015】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス取入口は、ロケットエンジンに装備されるターボポンプからの排気ガスが供給されるようになっていてもよい。このような構成によると、ターボポンプからの排気ガスを有効に活用することができる。
【0016】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス取入口には、低温の液体、例えば液体窒素、液体空気叉は、ロケット燃料からなる液体が供給されてもよい。この場合、ガス取入口に供給された液体は、ガス導入管を流れる間に気化してもよい。そして、ガス噴出口は、ガス導入管で気化したガスを噴出するようにしてもよい。このような構成によると、ロケットエンジンノズルの周囲からガスを取入れることが難しい場合でも、ガス噴射装置から噴射するガスを確保することができる。
【0017】
本明細書に開示するロケットエンジンノズルにおいて、ガス導入管は、その一部がノズル本体の内部に配置されていてもよい。この場合、ガス導入管のうち少なくともノズル本体の内部に配置される部分には、当該部分を冷却するための冷却手段が設けられていてもよい。このような構成によると、高温の燃焼ガスの中に配置されるガス導入管を冷却手段により冷却することができる。
【実施例1】
【0018】
以下、実施例1に係るロケットエンジンノズル20について説明する。
図1に示すように、ロケットエンジンノズル20は、ロケットエンジン本体10の一端に取付けられており、ロケットエンジン本体10の他端にはロケット機体50が取付けられている。ロケット機体50は、ロケットエンジン40で発生する推力によって飛行する。
【0019】
ロケットエンジン40は、公知のロケットエンジン本体10 と、ロケットエンジンノズル20を有する。ロケットエンジンノズル20は、ノズル本体と、ガス噴射装置30を有する。ノズル本体は、内部に燃焼ガス60が流れる空間が形成された筒状を有しており、その内周面及び外周面の断面形状は円形状となっている。ノズル本体の一端にはノズル入口21が設けられ、その他端にはノズル出口24が設けられている。ノズル入口21には、ロケットエンジン本体10が取付けられている。ノズル本体には、ノズル入口21とノズル出口24の間に、ノズル径が最小となるスロート部22と、スロート部22からノズル出口24に向かってノズル径が拡大する拡径部23が設けられている。
ガス噴射装置30は、ガス導入管32を有する。ガス導入管32の一端にはガス取入口31が設けられ、ガス導入管32の他端にはガス噴出口33が設けられている。すなわち、ガス取入口31とガス噴出口33とは、ガス導入管32によって接続されている。ガス取入口31は、ガス供給源80に接続され、ガス供給源80からのガスが供給される。ガス供給源80は、ロケット機体50に設けられており、例えば、窒素ガスもしくはヘリウムガスもしくはアルゴンガスなどの不活性ガス及び空気もしくは燃焼ガス等が用いられる。ガス噴出口33は、拡径部23内のノズル本体の軸線上に位置しており、ノズル出口24に向かって開口している。したがって、ノズル供給源80からガス取入口31に供給されたガスは、ガス導入管32を通ってガス噴出口33より拡径部23内にノズル出口24に向かって噴射される。ガス噴出口33より拡径部23内に噴射されたガス70は、拡径部23内を流れてノズル出口24より排気される。ガス導入管32は、ロケットエンジンノズル20の軸線上に配置されており、ロケットエンジンノズル20のスロート部22の近傍からロケットエンジン本体10を通ってロケット機体50まで伸びている。ガス導入管32には、ガス導入管32を流れるガスの流量及び圧力を調整する流量圧力調整器34が設けられている。流量圧力調整器34を備えることで、ガス噴出口33より拡径部23内に噴射されるガスの流量と圧力を所望の値に調整することができる。なお、本実施例では、ガス導入管32に流量圧力調整器34を備えたが、流量圧力調整器34を備え無くてもよい。
【0020】
上述したロケットエンジンノズル20では、ロケットエンジン本体10から排気される燃焼ガス60は、ノズル入口21及びスロート部22を通り、拡径部23を通過する際に加速されノズル出口24から大気に噴射される。その際に、ノズル出口24での燃焼ガス60の圧力は、スロート部21とノズル出口24の断面積比すなわち膨張比によって決まり、膨張比が大きくなるほど燃焼ガス圧力が低くなる。燃焼ガス圧力が大気圧より著しく低い時は、燃焼ガス60が大気圧から押されノズル内壁から剥離してしまう。
【0021】
燃焼ガス60の剥離を防止するために、ガス供給源80に蓄積しているガスを、ガス取入口31からガス噴射装置30に取り込まれる。なお、ガス取入口31から取込まれるガスは、必要であれば、流量圧力調整器34にて適切な流量及び圧力に調整される。ガス取入口31から取込まれたガスは、ガス導入管32を通りガス噴出口33より拡径部23内部に噴射される。拡径部23内に噴射された噴射ガス70は、燃焼ガス60より高い圧力になるように調整されており、燃焼ガス60を拡径部壁面に押し付け、燃焼ガスが内壁面より剥離することを防止される。ノズル出口24において燃焼ガスが流れる断面積は、噴射ガス70が流れる面積分減少し、実際の膨張比をノズル形状で決まる膨張比より低くすることができる。その結果、ノズル出口24における燃焼ガス圧力をほぼ大気圧と同程度に調整でき推力が最大とすることができる。
【0022】
ロケットの飛行高度が上昇するにつれ、大気圧も減少していくが、噴射ガス70の圧力もロケットの飛行高度に対応して減少させることで、常に燃焼ガス60の圧力を大気圧と同程度にすることが可能となる。最終的にノズル出口24にて噴射ガス70を停止しても燃焼ガス60が剥離しない高度になった時点でガスの噴射を停止させる。この状態では、実際の燃焼ガスの膨張比は、ノズル形状から決まる膨張比となる。以後は従来のロケットエンジンノズルと同等の動作となる。
【0023】
実施例1のロケットエンジンノズル20では、ノズル形状を変化させずに、噴射ガス70の圧力を調整することで、燃焼ガス60の実際の膨張比を自由に変化させることが可能となる。このため、大気圧の低い高高度での推力を最大化するために高膨張比ノズルとした場合において、大気圧の高い地上での燃焼ガスの剥離防止が可能となる。特に、実施例1のロケットエンジンノズル20では、拡径部23内に噴射される噴射ガス70の流量及び圧力を調整できることから、燃焼ガス60の実際の膨張比をロケットの飛行高度に応じて連続的に変化させることができる。したがって、従来技術の2段階にしか膨張比の調整ができなかった場合と比較して、膨張比を連続的に変化させて、ロケットの飛行高度に応じた最適な膨張比で飛行することが可能となる。
【実施例2】
【0024】
以下、実施例2に係るロケットエンジンノズル20について説明する。
図2に示すように、実施例2に係るロケットエンジンノズル20は、ガス噴射装置30のガス取入口31が実施例1と異なり、ロケットエンジン本体10に設けられている。
図2より明らかなように、ガス取入口31は、ロケットエンジン本体10の側面から外側に解放しており、ロケットエンジンノズル20の周囲の空気(すなわち、大気110)が直接取り込まれるようになっている。そのため、実施例2ではガス供給源が不要となる。ガス取入口31では、大気圧に加えてロケット機体50の速度分の運動エネルギーが圧力に変換されることになるので大気圧より高くなる。一方ガス噴出口33での圧力は周囲を燃焼ガス60に取り囲まれており大気圧より低くなる。そのため、大気110が、圧力の高いガス取入口31からガス導入管32を通り圧力の低いガス噴出口33から噴射される。この場合、流量圧力調整器34を備えていても、備えていなくてもよい。流量圧力調整器34がない場合、高度が上昇するにつれて、ガス取入口31から取り込む大気110の圧力が減少するが、ガス噴出口33から噴射される噴射ガス70の圧力も低下する。その結果、燃焼ガス60の膨張比が増加してノズル出口24における燃焼ガス60の圧力は低下する。その結果大気圧と同程度となり実施例1と同様な効果を得ることができる。流量圧力調整器34を無くす場合、実施例1よりも構成を簡素化できる。
また、実施例2では、ガス取入口31にロケットエンジンノズル20の周囲の空気(大気110)が取込まれるため、ロケットの飛行高度に応じて自然に取り込まれる空気の圧力が変化する。このため、ロケットの高度に応じて噴射ガスの圧力を変化させることを、極めて容易に実現することができる。
【実施例3】
【0025】
以下、実施例3に係るロケットエンジンノズル20について説明する。
図3に示すように、実施例3のロケットエンジンノズル20では、ガス噴射装置30のガス取入口31が実施例1及び実施例2と異なり、ロケット機体50の側面についており、ロケット機体50の周囲の大気110(すなわち、ロケットエンジンノズル20の周囲の空気)が直接取り込まれる。その他は実施例2と同様である。この場合でも流量圧力調整器34は有っても無くてもよい。
【実施例4】
【0026】
以下、実施例4に係るロケットエンジンノズル20について説明する。実施例4に係るロケットエンジンノズル20では、
図4に示すように、実施例1に示すガス供給源80の代わりに、ガス取入口31に液体タンク90を接続する。液体タンク90には、低温の液体が蓄積される。液体の種類は問わない。一例として液体窒素でもよいし、液体空気もしくは液体燃料でもよい。液体は、流量圧力調整器34にて適切な流量圧力に調整された後、ガス導入管32を通過する際に、ガス導入管32を冷却すると同時に、燃焼ガス60により過熱されガス化し、ガス噴出口33より噴射される。その他は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0027】
以下、実施例5に係るロケットエンジンノズル20について説明する。実施例5に係るロケットエンジンノズル20では、
図5に示すように、噴射ガス供給源として、ターボポンプ100からの排気ガスを利用する。具体的には、ターボポンプ100からの排気ガスをガス噴射装置30に導き、ガス噴出口33から噴射する。その他は実施例1と同様である。このようにすることで、噴射ガス供給源を不要とすることができると同時に、ターボポンプ100の排気ガスを有効利用することができる。
【実施例6】
【0028】
以下、実施例6に係るガス導入管32について説明する。実施例1〜実施例5に示すガス導入管32は燃焼ガス60に直接さらされるため、冷却することが好ましい。実施例6では、
図6に示すように、ガス導入管32の内部に冷却流路35を形成し、冷却流路35に冷却材を流し、ガス導入管32を冷却する。冷却材はどのようなものであってもよい。例えば、低温の燃料でもいいし、ガス導入管専用の冷却材であってもよい。
【実施例7】
【0029】
以下、実施例7に係るガス導入管32について説明する。
図7に示すように、実施例7のガス導入管32は、実施例6に係る冷却通路の代わりに、ガス導入管32の表面にアブレーティブ冷却材36を塗布し、アブレーティブ冷却によりガス導入管32を冷却する。アブレーティブ冷却材の厚さを適切に設定することによりガスを噴射している時間のみガス導入管32を冷却し、ガス噴射を停止した後、ガス導入管33が燃え尽きるようにしてもよい。このように構成することで、高高度で不要になったガス導入管32を消去させることができ重量低減をすることができる。その他は実施例1〜実施例5と同様である。
【0030】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
10 ロケットエンジン本体
20 ノズル本体
21 ノズル入口
22 スロート部
23 拡径部
24 ノズル出口
30 ガス噴射装置
31 ガス取入口
32 ガス導入管
33 ガス噴出口
34 流量圧力調整器
35 冷却流路
36 アブレーティブ冷却材
40 ロケットエンジン
50 ロケット機体
60 燃焼ガス
70 噴射ガス
80 ガス供給源
90 液体タンク
100 ターボポンプ
110 大気