【解決手段】素線をらせん状に巻いて形成され、軸線X方向に単位ループ2が複数並んで配置されたコイルシースにおいて、単位ループ2は、長軸部位および短軸部位を有する非円形の第一ループ21および第二ループ22を有する。長軸部位の寸法は、他のループの短軸部位よりも長く、軸線X方向に見た正面視において、軸線Xを含む中央空間Sp1と、中央空間Sp1の周囲に位置する複数の周辺空間Sp2とを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡や、内視鏡用処置具において、挿入部を体内で湾曲できるようにしたいというニーズがある。これを可能にする構成として、湾曲コマや節輪等の円筒形部材を複数並べ、円筒形部材に形成した微小な穴にアングルワイヤを通した構成が知られている。
しかし、この構成は複雑であるため、特に外径が数ミリメートル程度の内視鏡用処置具には適用が難しい。
【0005】
上記事情を踏まえ、本発明は、湾曲操作可能な構成を容易に実現できるコイルシースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、素線をらせん状に巻いて形成され、軸線方向に単位ループが複数並んで配置されたコイルシースである。
このコイルシースにおいて、単位ループは、長軸部位および短軸部位を有する非円形の複数のループを有する。長軸部位の寸法は、他のループの短軸部位よりも長く、軸線方向に見た正面視において、軸線を含む中央空間と、中央空間の周囲に位置する複数の周辺空間とを有する。
【0007】
本発明の第二の態様は、細長の挿入部を有する医療デバイスである。
この医療デバイスは、挿入部の少なくとも一部が本発明のコイルシースで構成され、周辺空間に通された操作ワイヤを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコイルシースによれば、湾曲操作可能な構成を容易に実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るコイルシース1を示す模式図である。コイルシース1は、素線10が単位ループ2を形成しつつらせん状に巻かれて形成されている。コイルシース1は、軸線X方向に単位ループ2が繰り返し配列されて複数並んだ構成を有する。
【0011】
図2に単位ループ2の正面視(軸線Xの延びる方向に見た状態)形状を示す。単位ループ2は、非円形の第一ループ21および第二ループ22を有する。本実施形態において、第一ループ21および第二ループ22は、同一形状であり、長軸と短軸とを有する楕円形であるが、非円形形状は、軸線Xの延びる方向に直交する方向の寸法に長い部分(長軸部位)と短い部分(短軸部位)とがあればよく、楕円形には限られない。したがって、数学的な楕円形でなくてもよいし、ループの一部が直線状である長円形等であってもよい。
【0012】
第一ループ21および第二ループ22は、正面視において中心が一致する同軸状(略同軸を含む。以下同様)に配置され、互いの長軸が概ね90度をなす位置関係にある。これにより、第一ループ21と第二ループ22とは、正面視において中心部は重なるが、長軸方向両端部は重ならず、中心部の周囲に概ね回転角90度ごとに等間隔で位置する。
コイルシース1は、単位ループ2が軸線X方向に多数連続することにより、軸線Xを含み、軸線Xの周囲に位置する中央空間Sp1と、中央空間Sp1の周囲に等間隔で配置された4つの周辺空間Sp2とを有する。
【0013】
コイルシース1を製造する際は、第一ループ21と第二ループ22とを交互に形成するように素線10を巻いていく。例えば、第一ループ21と第二ループ22とが正面視で重なる点の付近から第一ループ21を巻き始め、1周巻いて第一ループ21が形成されたところで方向を変えて第二ループ22を巻く。これにより、単位ループ2が一つ形成されるため、これを所望の回数繰り返すことで、所望の長さのコイルシース1を製造できる。コイルシースの端部においては、単位ループを構成するループの一部(第一ループ21または第二ループ22)のみが余りとして存在してもよい。
素線10の材質としては金属や樹脂を例示できるが、中でも各種金属が好適である。
【0014】
本実施形態のコイルシース1は、素線10を巻くだけで形成できるにも関わらず、中央空間Sp1の周囲に、中央空間Sp1とは隔絶された複数の周辺空間Sp2を有する。したがって、周辺空間にアングルワイヤ(操作ワイヤ)を通すことにより、湾曲操作可能な細径構造を作製できる。コイルシース1を用いた湾曲構造の作製は、複数の節輪等に微小な穴を形成して連結する従来の方法に比べて著しく簡便であり、細径化も容易である。
【0015】
図3に、コイルシース1を適用した内視鏡用処置具の例を示す。
図3は、内視鏡の処置具チャンネルに通して使用する鉗子50の先端部を示す拡大図である。鉗子50は、一対の鉗子片52を有する処置部51と、処置部に接続された細長の挿入部60と、挿入部60に接続された操作部(不図示)とを備えている。挿入部60において、処置部51寄りの部分は、コイルシース1で形成された湾曲部61となっている。コイルシース1と操作部との間の挿入部は、円形のループが連続する一般的なコイルシース62で構成されている。
【0016】
図4は、
図3のI−I線における断面図である。コイルシース1の中央空間Sp1には、開閉ワイヤ55が通っている。開閉ワイヤ55の前端は一対の鉗子片52と接続されており、後端は、操作部に設けられたスライダ等に接続されている。スライダ等を操作することにより、開閉ワイヤを挿入部60内で進退させて一対の鉗子片52を開閉できる。
【0017】
4つの周辺空間Sp2には、それぞれアングルワイヤ(操作ワイヤ)56が通されている。各アングルワイヤ56の前端は、挿入部60の先端部または処置部51に固定されており、後端は、操作部まで延びてダイヤル等の不図示の操作機構に接続されている。アングルワイヤ56の一つを引くと、湾曲部61は、引かれたアングルワイヤが通された周辺空間Sp2側に湾曲する。
【0018】
図3では、内視鏡用処置具の例を示したが、本発明に係るコイルシースは、内視鏡にも適用できる。特に、細径(例えば直径3mm以下)の内視鏡の湾曲部を構成する等の場合に好適である。
【0019】
本発明の第二実施形態について説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
図5は、本実施形態のコイルシース101における単位ループ102を示す正面図である。単位ループ102は、第一ループ21および第二ループ22に加えて第三ループ103および第四ループ104を有し、4つのループによって構成されている。第三ループ103および第四ループ104は、第一ループ21および第二ループ22と同一の正面視形状を有しており、互いの長軸方向が概ね90度をなす位置関係にある。第一ループ21と第三ループ103とは、互いの長軸方向が概ね90度をなす位置関係にある。
【0021】
単位ループ102においては、第一ループ21、第三ループ103、第二ループ22、および第四ループ104の順で素線10が巻かれる。これにより、コイルシース101は、中央空間Sp1の周囲に8つの周辺空間Sp2が概ね等間隔に配置された構成を有する。
【0022】
本実施形態のコイルシース101も、第一実施形態と同様に、周辺空間Sp2にアングルワイヤを通すことによって、簡便に湾曲部を構成できる。すべての周辺空間にアングルワイヤを通すと、そのうちの一本を牽引することにより、8方向に湾曲させることができるし、一つおきに4つの周辺空間にアングルワイヤを配置すれば、第一実施形態と同様の態様で湾曲させることもできる。
【0023】
コイルシース101には、湾曲以外の機能を発揮させることができる。湾曲部を構成する場合は、単位ループにおける同一ループの周辺空間にアングルワイヤを通すが、この場合は、ワイヤが通る周辺空間を、隣接する別の周辺空間に順次変更していく。
例えば、
図5において、第一ループ21が形成する周辺空間Sp2−1にワイヤを通したら、次は、周辺空間Sp2−1に隣接し、第三ループ103が形成する周辺空間Sp2−2に通す。以後、同様の手順で、隣接する周辺空間Sp2−3、Sp2−4とSp2−8まで順次通していき、これを繰り返しながら操作部までワイヤを延ばす。
【0024】
このように配置されたワイヤは、コイルシース101の中央空間Sp1の外側にらせん状に配置された回転ワイヤ(操作ワイヤ)となる。この回転ワイヤと同様の態様で、軸線Xに対して対称となる位置関係(この場合は、Sp2−5から順次通していく)でもう一本回転ワイヤを配置すると、コイルシース101を用いて回転操作可能な回転部を構成できる。回転部において、各回転ワイヤの前端は、第一実施形態と同様に、挿入部60の先端部または処置部51に固定しておく。
【0025】
操作部において、2本の回転ワイヤを同時に牽引すると、各回転ワイヤは、らせん状に配置された状態から、軸線Xと平行な直線状になろうとする。その結果、回転ワイヤが通されている周辺空間が軸線Xまわりに順次ずれている状態から概ね軸線Xまわりに同一の位置に移動する。それに伴い、単位ループ102の各ループが回転し、各ループの回転量の総和分だけコイルシース101が回転する。その結果、コイルシース101に接続された処置部51等を回転させることができる。
【0026】
従来、内視鏡用処置具において、先端に設けられた処置部を回転させることは大変難しかった。これは、挿入部が長尺であることにより、手元側で加えたトルクが先端部まで十分に伝わらないことが主な原因である。
本実施形態のコイルシース101を用いて形成した回転部では、単位ループ102内の各ループの回転量はごくわずかであるため、各ループにおいて回転の減衰や消失等が生じにくい。したがって、操作部で加えたトルクによっても安定した回転動作を示す。また、コイルシース101の長さを増大することで、各ループの回転量の総和(積算量)を容易に増やすことができるため、軸線Xまわりに180度等の比較的大きな回転量も容易に実現できる。回転量との関係で積算量を多くしたい場合は、医療デバイスの挿入部全体を本発明のコイルシースとしてもよい。
【0027】
上述の説明では、一対の回転ワイヤを配置したが、回転ワイヤを1本だけ配置し、その回転ワイヤを牽引すると、コイルシースは回転しながら湾曲する。一対の回転ワイヤの一方をフリーとし、他方のみを牽引しても、同様の挙動を示す。このように、コイルシース101を用いて、回転および湾曲の両方の動作をする部位を構成することも可能である。
【0028】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が適宜組み合わされてもよい。
【0029】
・単位ループの数や配置は、上記実施形態に記載の物に限られず、適宜設定できる。
・単位ループを構成する複数のループの形状は、長軸部位と短軸部位とを有し、周辺空間が形成されればよく、複数のループが完全に同一でなくてもよい。周辺空間が形成されるためには、ループの長軸部位の寸法が、隣接する他のループの短軸部位よりも長ければよい。
図6に示す変形例のコイルシース1Aの単位ループ3は、第一ループ31、第二ループ32、第三ループ33、および第4ループ34の4つのループからなる。
図7に、第二ループ32の正面図を示す。第二ループ32の正面視形状は長円形であるが、軸線Xに対して非対称に配置されることにより、軸線Xまわりの一方向だけに周辺空間Sp3−2を生じさせている。他の各ループ31、33、および34は、第二ループ32と同形同大の正面視形状を有し、それぞれ軸線まわりの異なる一方向に周辺空間Sp3−1、Sp3−3、およびSp3−4を生じさせている。
単位ループ3における4つのループの形成順に特に制限はなく、適宜決定できる。
図8に、第一ループ31、第二ループ32、第三ループ33、および第4ループ34の順に形成された単位ループ3を有するコイルシース1Aの側面図を示す。
図9に、第一ループ31、第三ループ33、第4ループ34、および第二ループ32の順に形成された単位ループ3を有するコイルシース1Aの側面図を示す。両者は、ループの形成順が異なっているものの、周辺空間にアングルワイヤや回転ワイヤを通して操作すると概ね同様の挙動を示し、同様の効果を奏する。
【0030】
・本発明のコイルシースが適用される内視鏡用処置具は、上述した鉗子には限定されない。先端部を湾曲させることや、処置部を回転させることにメリットのある医療デバイスであれば、あらゆるものに適用できる。