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特開2021-127694シリンダボア壁の保温具、内燃機関、自動車
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-127694(P2021-127694A)
(43)【公開日】2021年9月2日
(54)【発明の名称】シリンダボア壁の保温具、内燃機関、自動車
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20210806BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20210806BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20210806BHJP
【FI】
   F02F1/14 Z
   F01P3/02 A
   F02F1/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2020-21163(P2020-21163)
(22)【出願日】2020年2月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 辰徳
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA21
3G024AA28
3G024AA40
3G024BA10
3G024BA11
3G024BA13
3G024CA01
3G024CA05
3G024CA08
3G024CA11
3G024EA01
3G024FA03
3G024HA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくしたシリンダボア壁の保温具を提供すること。
【解決手段】シリンダボア壁の保温具36aは、膨張材料からなり、中央部に膨張後に冷却水保持部となる空間部25を有し、膨張後に前記溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する膨張部材31aと、前記膨張部材31aを押し付けるように付勢する弾性部材33が付設されており、前記膨張部材全体を背面側から前記溝状冷却水流路の前記シリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面側押し付け部32と、前記膨張部材31aの接触面側に設けられ、内側に前記第1開口301を有し、前記背面側押し付け部32とで、前記膨張部材31aの外縁側を挟み込むための前記正面側当て板30と、前記膨張部材31a、前記背面側押し付け部32、および正面側当て板30を一体の保温部として固定する1以上の固定部と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁のうちの一部のボア壁を保温するためのシリンダボア壁の保温具であり、
膨張材料からなり、中央部に膨張後に冷却水保持部となる空間部を有し、外縁が正面側当て板の第1開口より外側に位置し、且つ、内縁が前記正面側当て板の前記第1開口より内側に位置する形状であり、膨張後に前記溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する膨張部材と、
前記膨張部材の背面側に設けられ、前記膨張部材を押し付けるように付勢する弾性部材が付設されており、前記膨張部材全体を背面側から前記溝状冷却水流路の前記シリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面側押し付け部と、
前記膨張部材の接触面側に設けられ、内側に前記第1開口を有し、前記背面側押し付け部材とで、前記膨張部材の外縁側を挟み込むための前記正面側当て板と、
前記膨張部材、前記背面側押し付け部、および正面側当て板を一体的に固定する1以上の固定部と、
を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具。
【請求項2】
前記膨張部材が2以上の分割体で構成されており、且つ、前記膨張部材の外縁の形状及び内縁の形状が矩形である請求項1記載のシリンダボア壁の保温具。
【請求項3】
該1以上の固定部から外れた位置で該正面側当て板に設けられ、該膨張部材に向けて突出し、該背面側押し付け部材との間で該覆い部材を挟み込む1以上のビードを有する請求項1に記載のシリンダボア壁の保温具。
【請求項4】
該1以上の固定部から外れた位置で該背面側押し付け部材に設けられ、該膨張部材に向けて突出し、該正面側当て板との間で該覆い部材を挟み込む1以上のビードを有する請求項1に記載のシリンダボア壁の保温具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリンダボア壁の保温具を有する内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関を有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックのシリンダボア壁の溝状冷却水流路側の壁面に保温部が接触させて配置されるシリンダボア壁の保温具、及びそれらを備える内燃機関及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、ボア内のピストンの上死点で燃料の爆発が起こり、その爆発によりピストンが押し下げられるという構造上、シリンダボア壁の上側は温度が高くなり、下側は温度が低くなる。そのため、シリンダボア壁の上側と下側では、熱変形量に違いが生じ、上側は大きく膨張し、一方、下側の膨張が小さくなる。
【0003】
その結果、ピストンのシリンダボア壁との摩擦抵抗が大きくなり、これが、燃費を下げる要因となっているので、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることが求められている。
【0004】
そこで、従来、シリンダボア壁の壁温を均一にするために、溝状冷却水流路内にスペーサーを設置し、溝状冷却水流路内の冷却水の水流を調節して、冷却水によるシリンダボア壁の上側の冷却効率と及び下側の冷却効率を制御することが試みられてきた。例えば、特許文献1には、内燃機関のシリンダブロックに形成された溝状冷却用熱媒体流路内に配置されることで溝状冷却用熱媒体流路内を複数の流路に区画する流路区画部材であって、前記溝状冷却用熱媒体流路の深さに満たない高さに形成され、前記溝状冷却用熱媒体流路内をボア側流路と反ボア側流路とに分割する壁部となる流路分割部材と、前記流路分割部材から前記溝状冷却用熱媒体流路の開口部方向に向けて形成され、かつ先端縁部が前記溝状冷却用熱媒体流路の一方の内面を越えた形に可撓性材料で形成されていることにより、前記溝状冷却用熱媒体流路内への挿入完了後は自身の撓み復元力により前記先端縁部が前記内面に対して前記溝状冷却用熱媒体流路の深さ方向の中間位置にて接触することで前記ボア側流路と前記反ボア側流路とを分離する可撓性リップ部材と、を備えたことを特徴とする内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−31939号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、引用文献1の内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材によれば、ある程度のシリンダボア壁の壁温の均一化が図れるので、シリンダボア壁の上側と下側との熱変形量の違いを少なくすることができるものの、近年、更に、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることが求められている。
【0007】
従って、本発明の課題は、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくしたシリンダボア壁の保温具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明により解決される。すなわち、本発明(1)は、 シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁のうちの一部のボア壁を保温するためのシリンダボア壁の保温具であり、
膨張材料からなり、中央部に膨張後に冷却水保持部となる空間部を有し、外縁が正面側当て板の第1開口より外側に位置し、且つ、内縁が前記正面側当て板の前記第1開口より内側に位置する形状であり、膨張後に前記溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する膨張部材と、
前記膨張部材の背面側に設けられ、前記膨張部材を押し付けるように付勢する弾性部材が付設されており、前記膨張部材全体を背面側から前記溝状冷却水流路の前記シリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面側押し付け部と、
前記膨張部材の接触面側に設けられ、内側に前記第1開口を有し、前記背面側押し付け部材とで、前記膨張部材の外縁側を挟み込むための前記正面側当て板と、
前記膨張部材、前記背面側押し付け部、および正面側当て板を一体の保温部として固定する1以上の固定部と、
を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0009】
また、本発明(2)は、前記膨張部材が2以上の分割体で構成されており、且つ、前記膨張部材の外縁の形状及び内縁の形状が矩形であることを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0010】
また、本発明(3)は、該1以上の固定部から外れた位置で該正面側当て板に設けられ、該膨張部材に向けて突出し、該背面側押し付け部材との間で該膨張部材を挟み込む1以上のビードを有するシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0011】
また、本発明(4)は、該1以上の固定部から外れた位置で該背面側押し付け部材に設けられ、該膨張部材に向けて突出し、該正面側当て板との間で該膨張部材を挟み込む1以上のビードを有するシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0012】
また、本発明(5)は、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のシリンダボア壁の保温具を有する内燃機関を提供するものである。
【0013】
また、本発明(6)は、(5)に記載の内燃機関を有する自動車を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくしたシリンダボア壁の保温具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示す模式的な平面図である。
図2図1のF2−F2線の位置に沿った模式的な断面図である。
図3図1に示すシリンダブロックの斜視図である。
図4】本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示す模式的な平面図である。
図5】本発明のシリンダボア壁の保温具に係る保温部の形態例を作製する様子を示す模式的な斜視図である。
図6】本発明のシリンダボア壁の保温具に係る保温部を示す模式図であり、内側から見た図である。
図7図2に示す保温具をさらに詳細に示す断面図である。
図8】弾性部材付設部材の作製手順を示す模式図である。
図9】本発明のシリンダボア壁の保温具に係る保温部の形態例を示す模式的な正面図である。
図10】弾性部材が付設されている背面側押し付け部材を示す模式的な斜視図である。
図11】本発明のシリンダボア壁の保温具に係る保温部の形態例を作製する様子を示す模式的な斜視図である。
図12】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図13】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図14】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図15】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図16】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図17】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図18図17中の膨張部材の係合部分近傍の拡大図である。
図19】膨張部材の形態例を示す模式図である。
図20】膨張部材の分割体の作製方法を示す模式図である。
図21】膨張部材の分割体の作製方法を示す模式図である。
図22】膨張部材の分割体の作製方法を示す模式図である。
図23】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第1実施形態を示す模式的な正面図である。
図24図23に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図25】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第2実施形態を示す模式的な正面図である。
図26図25に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図27】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第3実施形態を示す模式的な正面図である。
図28図27に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図29図27のF29−F29線の位置に沿った断面図である。
図30図29のA部を拡大して示す断面図である。
図31】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第4実施形態を示す模式的な正面図である。
図32図31に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図33】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第5実施形態を示す模式的な正面図である。
図34図33に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図35】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第6実施形態を示す模式的な正面図である。
図36図35に示す保温部から正面側当て板を取り外した状態を示す正面図である。
図37】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第7実施形態を示す模式的な正面図である。
図38図37に示す保温部から正面側当て板および膨張部材を取り外した状態を示す正面図である。
図39図37のF39−F39線の位置に沿った断面図である。
図40図39のB部を拡大して示す断面図である。
図41】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第8実施形態を示す模式的な断面図である。
図42】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第9実施形態を示す模式的な正面図である。
図43】本発明の第一の形態および第二の形態のシリンダボア壁の保温具の凸部の第10実施形態を示す模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の内燃機関について、図1図9を参照して説明する。図1図4は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示すものであり、図1及び図4は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図であり、図2は、図1のF2−F2線断面図であり、図3は、図1に示すシリンダブロックの斜視図である。図5は、本発明のシリンダボア壁の保温具の形態例を作製する様子を示す模式的な斜視図である。図6は、本発明のシリンダボア壁の保温具を示す模式図であり、内側から見た図である。図7は、図2の保温具の詳細を示す断面図である。
【0017】
図1図3に示すように、シリンダボア壁の保温具が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック11には、ピストンが上下するためのボア12、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路14が形成されている。そして、ボア12と溝状冷却水流路14とを区切る壁が、シリンダボア壁13である。また、シリンダブロック11には、溝状冷却水流路11へ冷却水を供給するための冷却水供給口15及び冷却水を溝状冷却水流路11から排出するための冷却水排出口16が形成されている。
【0018】
このシリンダブロック11には、2つ以上のボア12が直列に並ぶように形成されている。そのため、ボア12には、1つのボアに隣り合っている端ボア12a1、12a2と、2つのボアに挟まれている中間ボア12b1、12b2とがある(なお、シリンダブロックのボアの数が2つの場合は、端ボアのみである。)。直列に並んだボアのうち、端ボア12a1、12a2は両端のボアであり、また、中間ボア12b1、12b2は、一端の端ボア12a1と他端の端ボア12a2の間にあるボアである。端ボア12a1と中間ボア12b1の間の壁、中間ボア12b1と中間ボア12b2の間の壁及び中間ボア12b2と端ボア12a2の間の壁(ボア間壁191)は、2つのボアに挟まれる部分なので、2つのシリンダボアから熱が伝わるため、他の壁に比べ壁温が高くなる。そのため、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17では、ボア間壁191の近傍が、温度が最も高くなるので、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17のうち、各シリンダボアのボア壁の境界192及びその近傍の温度が最も高くなる。
【0019】
また、本発明では、溝状冷却水流路14の壁面のうち、シリンダボア13側の壁面を、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17と記載し、溝状冷却水流路14の壁面のうち、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面を壁面18と記載する。
【0020】
また、本発明において、各シリンダボアのボア壁とは、1つ1つのシリンダボアに対応する各ボア壁部分を指し、図4では、両矢印22a1で示す範囲が、シリンダボア12a1のボア壁23a1であり、両矢印22b1で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b1であり、両矢印22b2で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b2であり、両矢印22a2で示す範囲が、シリンダボア12a2のボア壁23a2であり、両矢印22b3で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b3であり、両矢印22b4で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b4である。つまり、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b1、シリンダボア12b2のボア壁23b2、シリンダボア12a2のボア壁23a2、シリンダボア12b1のボア壁23b3及びシリンダボア12b2のボア壁23b4が、それぞれ、各シリンダボアのボア壁である。
【0021】
シリンダブロック11の片側半分のボア壁21bには、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b3、シリンダボア12b2のボア壁23b4及びシリンダボア12a2のボア壁23a2と、4つの各シリンダボアのボア壁が含まれる。シリンダブロック11の他の片側半分のボア壁21aには、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b1、シリンダボア12b2のボア壁23b2及びシリンダボア12a2のボア壁23a2と、4つの各シリンダボアのボア壁がある。
【0022】
本実施形態では、保温具36aは、ボア壁23a2に対応する位置で、冷却水供給口15に対向する位置に設けられている。なお、本実施形態では、この位置に保温具36aが設置されているが、保温具36aの設置位置はこれに限られるものではない。すなわち、保温具36aは、冷却水供給口15が設けられる片側半分のボア壁21bのうち、ボア壁23a1、ボア壁23b3、或いはボア壁23b4に対応する位置に設けられていてもよい。また、保温具36aは、冷却水供給口15が設けられない他の片側半分のボア壁21aのうち、ボア壁23a1、ボア壁23b1、ボア壁23b2、或いはボア壁23a2に対応する位置に設けられていてもよい。
【0023】
保温具36aは、図5に示すように、金属板バネ39が付設され円弧状断面を有する弾性部材付設部材33と、円弧状に成形されている背面側押し付け板32と、膨張部材31aと、円弧状に成形されている正面側当て板30と、これらを一体の保温具36aとして固定する固定部と、を有する。固定部は、弾性部材付設部材33の上端に形成されている折り曲げ部331aと、弾性部材付設部材33の下端に形成されている折り曲げ部331bと、弾性部材付設部材33の右端に形成されている折り曲げ部332aと、弾性部材付設部材33の左端に形成されている折り曲げ部332bと、を有する。
【0024】
図6に示すように、折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、正面側当て板30側に折り曲げられて、これらと弾性部材付設部材33との間に、背面側押し付け板32、膨張部材31a及び正面側当て板30を挟み込む。このようにして、保温具36aは、一体に作製される。なお、図6に示す形態例では、弾性部材付設部材33と背面側押し付け板32とが組み合わされて、背面側押し付け部が構成されている。
【0025】
シリンダボア壁の保温具36aは、シリンダボア側の壁面に、膨張部材31a及びその接触面26が設けられる。膨張部材31aの接触面26は、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に接触できる。また、シリンダボア壁の保温部36aの背面側では、金属板バネ39が、膨張部材31aとは反対側に向けて張り出している。そして、溝状冷却水流路内で膨張部材31aが膨張すると、金属板バネの39の張り出した先端27が、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面18に接触する。
【0026】
膨張部材31aは、中央に開口を有する枠状をなした弾性体で構成される。膨張部材31aは、溝状冷却水流路内で膨張し、各シリンダボアのボア壁22に直接接触して、ボア壁22の保温箇所を囲む部材である。そして、膨張部材31aが、溝状冷却水流路内で膨張して、シリンダボアのボア壁22に接触することにより、膨張部材31aとシリンダボアのボア壁22と背面側押し付け板32とで、冷却水保持部を形成する。内燃機関の運転中に、冷却水保持部に保持された冷却水が、膨張部材31aと同程度の温度まで加温されることにより、各シリンダボアのボア壁22が保温される。膨張部材31aは、中央部に、溝状冷却水流路内で膨張することにより冷却水保持部を形成させるための空間部25を有する。また、背面側押し付け板32は、円弧状断面を有し、膨張部材31aの全体を膨張部材31aの背面側から押し付けることができるように、膨張部材31aの背面側(接触面26側とは反対側の面)に沿う形状である。
【0027】
また、弾性部材付設部材33は、円弧状断面を有し、背面側押し付け板32の背面側(感熱膨張ゴム31とは反対側の面)に沿う形状であり、弾性部材である金属板バネ39を有する。金属板バネ39は、縦長の長方形の金属板であり、長手方向の一端が弾性部材付設部材33に繋がっている。金属板バネ39は、先端27が金属板バネ付設部材33から離れるように、他端側28で、弾性部材付設部材33に対して折り曲げられている。弾性部材付設部材33は、枠形状をなした枠部33Aを有してもよい。弾性部材付設部材は、複数の板を連結して円弧状をなすように形成されてもよい。弾性部材付設部材は、枠部から下側に突出して設けられる1以上の脚部100と、枠部から上側に突出して設けられ浮き上がりを防止する1以上のストッパ部101と、を有してもよい。脚部100は、例えば、「L」字状に折り曲げられてもよく、溝状冷却水流路14の底部に当接して保温具11全体を支持することができる。ストッパ部101は、例えば、逆「L」字状に折り曲げられてもよく、シリンダヘッドに当接して、保温具11が溝状冷却水流路14から浮き上がってしまうことを防止できる。図5では、脚部100およびストッパ部101を1つずつ示しているが、脚部100およびストッパ部101の数を2以上としてもよい。
【0028】
正面側当て板30は、円弧状断面を有し、枠形状をなすとともに内側に矩形状の開口301を有する。そして、弾性部材付設部材33の上端に形成されている折り曲げ部332a、332b、弾性部材付設部材33の下端に形成されている折り曲げ部331a、331b、弾性部材付設部材33の右端に形成されている折り曲げ部332a、及び弾性部材付設部材33の左端に形成されている折り曲げ部332bが、正面側当て板30側に折り曲げられる(カシメられる)。これによって、折り曲げ部332a、332b、331b、332a、332bと弾性部材付設部材33との間に、背面側押し付け部材32、膨張部材31及び正面側当て板30が挟み込まれて、これらが固定されている。なお、膨張部材31aにおいて、背面側押し付け部材32側とは反対側の面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接する接触面26である。
【0029】
図6に示すように、保温具36aを内側から見たときに、膨張部材31aの内縁、すなわち、膨張部材31aの空間部25の輪郭は、正面当て板30の開口301より内側に位置している。また、図7に示すように、膨張部材31aの内縁部は、正面当て板30の開口301より外側に位置している。図7に示すように、膨張材料31aの内縁部は、正面当て板30と背面側押し付け部材32により挟み込まれておらず、正面当て板30の開口301からシリンダボア側の壁面17に向けてはみ出している。膨張部材31aの外縁部は、正面当て板30と背面側押し付け板32により挟み込まれて、固定される。
【0030】
図6に示すように、正面側当て板30には、外側端が折り曲げ部により挟み込まれている部分と、折り曲げ部に挟み込まれない部分と、がある。つまり、保温具36aでは、正面側当て板30の上側部に、外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の下側部に、外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の右側部に、外側端が折り曲げ部332aに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の左側部に、外側端が折り曲げ部332bに挟み込まれている部分と、が存在する。また、保温具36aでは、正面側当て板30の上側部に、外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれていない部分と、正面側当て板30の下側部308bに、外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれていない部分と、が存在する。
【0031】
正面側当て板30のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分には、凸部が形成されている。つまり、正面側当て板30のうち、上側部の外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30の上側部の長手方向に延びる凸部(ビード)302aが形成されている。また、正面側当て板30の下側部の外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30の下側部の長手方向に延びる凸部(ビード)302bが形成されている。
【0032】
図7に示すように、正面当て板30に形成されている凸部302a、302bは、膨張部材31aにめり込んでいる。このことにより、膨張部材31aは、保温部に強く固定されるので、位置ずれを起こし難くなる。内側から見たときに、凸部302aが形成されている位置は、膨張材料31aの外縁より内側である。
【0033】
シリンダボア壁の保温具36aは、例えば、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置される。
【0034】
シリンダボア壁の保温具36aが、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14内に設置された後、自動車および内燃機関が運転されると、膨張材料31aが膨張する。そして、図7に示すように、膨張材料31aの内縁部は、正面側当て板30の内側部分に形成されている開口301を通って、シリンダボア側の壁面17に向かって膨張し、接触面26がシリンダボア側の壁面17に接触する。このとき、金属板バネ39の反発力により、弾性部材付設部材33は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に向かって押される。その結果、弾性部材付設部材33により押された背面側押し付け部材32は、膨張部材31aを溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に押し付ける。つまり、膨張部材31aの膨張および金属板バネ39の反発力により、膨張材料31aが溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17にさらに強く押し付けられる。このようにして、シリンダボア壁の保温具36aの膨張材料31aの内縁側311が、溝状冷却水流路のシリンダボアのボア壁面に接触する。
【0035】
このとき、膨張材料31aの内縁側311が膨張して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接触することにより、膨張部材31aの内縁側311と、壁面17と、背面側押し付け部材32とに囲まれている冷却水保持部25が形成される。自動車および内燃機関が運転されているときに、冷却水保持部25には、冷却水が保持される。冷却水保持部25に保持された冷却水は、冷却水保持部25内に留まっているため、徐々に温度が上昇し、膨張部材31aの内縁側と同程度の温度になる。このことにより、冷却水保持部25に保持された冷却水は、膨張材料31aと同等かそれ以上程度の保温性を発揮する(膨張材料31aよりも冷却水のほうが熱容量が大であるため)。
【0036】
このため、冷却水保持部25に保持された冷却水及び膨張部材31aの内縁側311が、保温部位として機能する。冷却水保持部25は、内燃機関が運転される際に、完全な密閉状態を維持してもよく、これによって冷却水保持部25の内外で冷却水の移動を規制してもよい。この構造であれば、保温対象となるシリンダボアのボア壁の下部および中間部の保温を確実に行うことができる。冷却水保持部25は、内燃機関が運転される際に、完全な密閉状態とはならずに、膨張部材31aの一部から冷却水が入れ替わることを許容してもよい。この構造であれば、内燃機関が運転されているときに、冷却水保持部25に保持された冷却水が微量ずつ冷却水保持部25の内外で入れ替わることになる。これによって、内燃機関が長時間運転されたり、高い回転数で運転されたりした場合に、冷却水を微量ずつ入れ換えることで、保温対象となるシリンダボアのボア壁の温度が上がり過ぎることを防止することができる。
【0037】
本発明の第一の形態の保温具は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁のうちの一部のボア壁を保温するためのシリンダボア壁の保温具であり、
膨張材料からなり、中央部に膨張後に冷却水保持部となる空間部を有し、外縁が正面側当て板の開口より外側に位置し、且つ、内縁が前記正面側当て板の前記第1開口より内側に位置する形状であり、膨張後に前記溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する膨張部材と、
前記膨張部材の背面側に設けられ、前記膨張部材を押し付けるように付勢する弾性部材が付設されており、前記膨張部材全体を背面側から前記溝状冷却水流路の前記シリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面側押し付け部と、
前記膨張部材の接触面側に設けられ、内側に前開口を有し、前記背面側押し付け部材とで、前記膨張部材の外縁側を挟み込むための前記正面側当て板と、
前記膨張部材、前記背面側押し付け部、および正面側当て板を一体の保温部として固定する1以上の固定部と、
を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具である。
【0038】
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、円弧状断面を有し、弾性部材が付設されている背面側押し付け部と、溝状冷却水流路内で膨張して、接触面が溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する膨張部材と、円弧状断面を有する正面側当て板と、が順に重ね合わされ、且つ、背面側押し付け部の上端に形成されている折り曲げ部、背面側押し付け部の下端に形成されている折り曲げ部、背面側押し付け部の右端に形成されている折り曲げ部、及び背面側押し付け部の左端に形成されている折り曲げ部が、正面側当て板側に折り曲げられて、背面側押し付け部と折り曲げ部との間に、膨張部材及び正面側当て板が挟み込まれることにより、これらが固定されている。なお、本発明において、保温部において、上端、下端、右端及び左端とは、それぞれ、内側から、言い換えると、膨張部材の接触面側から見た時の上端、下端、右端及び左端のことを指す。
【0039】
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材は、溝状冷却水流路内で膨張し、接触面が各シリンダボアのボア壁に直接接触して、シリンダボアのボア壁と背面側押し付け部とで、冷却水保持部を囲むことにより、冷却水保持部を、ボア壁の保温箇所に形成させるための部材である。なお、膨張材料では、背面側押し付け部材側とは反対側の面が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接する接触面である。
【0040】
膨張部材は、膨張材料(弾性体)からなる。膨張材料としては、感熱膨張ゴム、水膨潤性ゴム、セルロース系スポンジ等が挙げられる。
【0041】
感熱膨張ゴムは、溝状冷却水流路内で加熱されることにより膨張するゴムである。感熱膨張ゴムは、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が感熱膨張ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され、感熱膨張ゴムに熱が加えられることで、感熱膨張ゴムが膨張して、所定の形状に膨張変形する。
【0042】
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0043】
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス等の各種熱可塑性化合物が挙げられる。
【0044】
水膨潤性ゴムとしては、水膨潤性ゴムは、ゴムに吸水性物質が添加された材料であり、水を吸収して膨潤し、膨張した形状を保持する保形性を有するゴム材である。水膨潤性ゴムとしては、例えば、ポリアクリル酸中和物の架橋物、デンプンアクリル酸グラフト共重合体架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール等の吸水性物質がゴムに添加されたゴム材が挙げられる。また、水膨潤性ゴムとしては、例えば、特開平9−208752号公報に記載されているケチミン化ポリアミド樹脂、グリシジルエーテル化物、吸水性樹脂及びゴムを含有する水膨潤性ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が水膨潤性ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され冷却水が流されて、水膨潤性ゴムが水を吸収することで、水膨潤性ゴムが膨張して所定の形状に膨張変形する。
【0045】
セルロース系スポンジは、水を吸収して膨潤し、膨張した形状を保持する保形性を有する。
【0046】
膨張部材は、円弧状断面を有する。膨張部材は、正面側から見たときに、中央部に膨張後に冷却水保持部となる空間部を有する。膨張部材の外縁は、正面側当て板の開口より外側に位置し、且つ、膨張材料の内縁、すなわち、空間部の輪郭は、正面側当て板の開口より内側に位置する。そのため、膨張部材の外縁側が、正面側当て板と背面側押し付け部材とで挟み込まれているので、膨張部材が保温部に固定され、且つ、膨張部材の内縁側が、正面側当て板の開口からはみ出しているので、溝状冷却水流路内で膨張し、接触面がシリンダボアの壁面に接触する。
【0047】
そして、溝状冷却水流路内で、膨張材料の内縁側が膨張して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触することにより、膨張材料の内縁側と、シリンダボアのボア壁と、背面側押し付け部材とに囲まれている冷却水保持部が形成される。内燃機関が運転されているときに、冷却水保持部には、冷却水が保持される。冷却水保持部に保持された冷却水は、冷却水保持部内に留まっているため、徐々に温度が上昇し、膨張材料の内縁側と同程度の温度になる。このことにより、冷却水保持部に保持された冷却水は、膨張材料と同等又はそれ以上の保温性を発揮するので、冷却水保持部に保持された冷却水及び膨張材料の内縁側が、保温部位として機能する。
【0048】
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る背面側押し付け部は、円弧状断面を有し、膨張部材の全体を膨張部材の背面側から押し付けることができるように、膨張部材の背面側(接触面側とは反対側の面)に沿う形状であり、膨張材料の背面側全体又はほぼ背面側全体を覆う形状である。また、背面側押し付け部は、冷却水保持部の背面側を閉じる材料でもある。そのため、膨張部材の空間部の全体を背面側から覆っている。
【0049】
背面側押し付け部の上端、下端、右端及び左端には、折り曲げ部が形成されている。背面側押し付け部の折り曲げ部は、背面側押し付け部材、膨張部材及び正面側当て板が順に重ねられた状態で、正面側当て板側に折り曲げられることにより、折り曲げ部と背面押し付け部との間で、膨張部材及び正面側当て板を挟み込むための部位である。
【0050】
背面側押し付け部は、図5に示す形態例のように、膨張部材を背面側から溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付ける部材(例えば、背面側押し付け板32)と、折り曲げ部が形成されている部材(例えば、弾性部材付設部材33)との組み合わせで構成されていてもよく、あるいは、図10図11に示す形態例のように、膨張部材を背面側から溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付ける部位と、折り曲げ部との両方を有する1つの部材で構成されていてもよい。図10図11に示す背面側押し付け部47は、背面側押し付け部位321を有し、折り曲げられることにより、折り曲げ部と背面押し付け部材との間で、膨張部材及び正面側当て板を挟み込むための折り曲げ部331c、331d、332e及び332fと、基体部材に保温部を固定するための折り曲げ部37aが形成されており、弾性部材39が付設されている。
【0051】
背面側押し付け部の材質は、弾性部材により背面側から押されたときに、膨張部材を溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けることができるよう変形できるものであればよく、適宜選択されるが、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属板が好ましい。背面側押し付け部の厚みは、弾性部材により背面側から押し付けられたときに、弾性部材を溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けることができるよう変形できるものであればよく、適宜選択される。
【0052】
背面側押し付け部には、弾性部材が付設されている。弾性部材は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が、溝状冷却水流路に設置され、膨張材料が膨張することにより、弾性変形し、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、背面側押し付け部材が感熱膨張ゴムを押し付けるように、弾性力により付勢するための部材である。
【0053】
弾性部材は、保温部を上から見たときに、円弧方向に、1つ以上付設されている。そして、弾性部材は、円弧方向に、2つ以上付設されていることが、膨張材料が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けられる力にバラツキが少なくなる点で好ましく、保温部の円弧方向の中央又は中央近傍に1か所、保温部の一方の端側寄りに1か所、他方の端寄りに1か所の合計3か所に付設されていることがより好ましい。更に、膨張材料の溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面への密着性を高めるために、保温部の円弧方向の4か所以上に弾性部材が付設されていてもよい。
【0054】
弾性部材の形態は、特に制限されず、例えば、板状の弾性部材、コイル状の弾性部材、重ね板バネ、トーションバネ、弾性ゴム等が挙げられる。弾性部材の材質は、特に制限されないが、耐LLC性が良く及び強度が高い点で、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が好ましい。弾性部材としては、金属板バネ、コイルバネ、重ね板バネ、トーションバネ等の金属弾性部材が好ましい。
【0055】
背面側押し付け部に形成されている折り曲げ部のうち、右端及び左端に形成されている折り曲げ部は、図6に示す形態例のように、背面側押し付け部材の右端又は左端の上下方向の全部に亘って形成されていてもよいし、あるいは、図9に示す形態例のように、背面側押し付け部の右端又は左端の上下方向の一部に形成されていてもよい。また、折り曲げ部が、背面側押し付け部の右端又は左端の一部に形成されている場合は、正面側当て板のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分には、凸部が形成されていることが、膨張部材が位置ずれを起こし難くなる点で好ましい。図9に示す形態例の保温具36aでは、正面側当て板30aの右側部のうち、外側端が折り曲げ部332cに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30aの右側部の長手方向に延びる凸部302cが形成されており、また、正面側当て板30aの左側部のうち、外側端が折り曲げ部332dに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30aの左側部の長手方向に延びる凸部302dが形成されている。
【0056】
背面側押し付け部の右端及び左端の折り曲げ部は、直線状に折り曲げられるため、図6に示す形態例のように、背面側押し付け部の右端又は左端の上下方向の全部に亘って形成されていても、正常に折り曲げられる。そして、背面側押し付け部の右端及び左端の折り曲げ部は、弾性部材付設部材の右端又は左端の上下方向の全部に亘って形成されており、膨張材料及び正面側当て板の右側又は左側の上下方向の全部を挟み込んでいることが、膨張部材が位置ずれを起こし難くなる点で好ましい。
【0057】
保温具の上端及び下端は、上から見たときに円弧状であるため、背面側押し付け部の上端及び下端に形成されている折り曲げ部の幅が長過ぎると、折り曲げ部が正常に折り曲げられず、また、膨張材料及び正面側当て板が正常に固定されない。そのため、背面側押し付け部の上端及び下端に形成されている折り曲げ部の幅は、正常な折り曲げが可能となり且つ膨張材料及び正面側当て板の正常な固定が可能となる範囲で、適宜選択される。背面側押し付け部の上端及び下端に形成されている折り曲げ部の数は、保温部を上から見たときに、保温部の円弧方向に、2つ以上である。
【0058】
なお、背面側押し付け部の作製方法としては、例えば、図8に示すように、金属板43を用意し、図8(A)中の点線の位置で、金属板43を打ち抜くことにより、図8(B)のように、金属板バネ39、折り曲げ部332a、332b、331b、332a、332b及び折り曲げ部37を形成させて、金属板の打ち抜き物45を作製する。次いで、金属板の打ち抜き物45全体を円弧状に成形し、且つ、金属板バネ39を背面側に曲げることにより、弾性部材付設部材33を作製する。次いで、背面側押し付け板となる金属板を、円弧状に成形して、背面側押し付け板32を作製する。そして、弾性部材付設部材33と背面側押し付け板32とを組み合わせることで、背面側押し付け部材とする。
【0059】
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る正面側当て板は、円弧形状を有し、正面側から見た時に、内側には、略矩形の開口が形成されている。そして、保温部では、膨張部材の外縁側が、背面側押し付け部と正面側当て板との間に挟み込まれることにより、膨張部材が固定されている。
【0060】
正面側当て板には、外側端が折り曲げ部により挟み込まれている部分と、外側端が折り曲げ部に挟み込まれない部分と、がある。保温部では、正面側当て板の少なくとも上側部及び下側部には、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分がある。また、保温部では、正面側当て板の右側部及び左側部には、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分があってもなくてもよい。言い換えると、保温部では、正面側当て板の右側部及び左側部は、外側端の上下方向の全部が折り曲げ部に挟み込まれていてもよいし、一部が挟み込まれていてもよい。
【0061】
正面側当て板のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分には、背面側押し付け部材に向かって凸である凸部が形成されていてもよいし、凸部が形成されていなくてもよいが、背面側押し付け部材に向かって凸である凸部が形成されていることが、凸部が膨張部材にめり込むことにより、膨張部材が保温部に強く固定されて、位置ずれを起こし難くなる点で好ましい。正面側当て板の上側部のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分に凸部が形成される場合、正面側当て板の上側部の長手方向に延びる凸部が形成され、また、正面側当て板の下側部のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分に凸部が形成される場合、正面側当て板の下側部の長手方向に延びる凸部が形成され、また、正面側当て板の右側部のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分に凸部が形成される場合、正面側当て板の右側部の長手方向に延びる凸部が形成され、また、正面側当て板の左側部のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分に凸部が形成される場合、正面側当て板の左側部の長手方向に延びる凸部が形成される。
【0062】
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具について、図10図11を参照して説明する。
【0063】
保温具36aは、図11に示すように、円弧状に成形されている背面側押し付け部材33b、膨張部材31aと、円弧状に成形されている正面側当て板30と、これらを固定する固定部と、を有する。保温具36aは、背面側押し付け部材33b、膨張部材31a、および正面側当て板30が順に重ね合わされて形成される。固定部は、背面側押し付け部材33bの上端に形成されている折り曲げ部332a、332bと、背面側押し付け部材33bの下端に形成されている折り曲げ部331a、331bと、背面側押し付け部材33bの右端に形成されている折り曲げ部332aと、及び背面側押し付け部材33bの左端に形成されている折り曲げ部332bと、を有する。固定部に含まれるこれらは、正面側当て板30側に折り曲げられる。固定部は、折り曲げ部332a、332b、331b、332a、332bと背面側押し付け部材33bとの間に、膨張部材31a及び正面側当て板30を挟み込む。
【0064】
シリンダボア壁の保温具36bでは、シリンダボア側の壁面に、膨張部材31aの接触面26が向き、膨張部材31aの接触面26が、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に接触できるように、保温具36aが固定されている。
【0065】
シリンダボア壁の保温部36bに固定されている保温具36aは、図11に示すように、正面側当て板30と、膨張部材31aと、背面側押し付け部材(背面側押し付け部)33bと、これらを固定する固定部と、を有する。固定部は、背面側押し付け部材33bの上端に形成されている折り曲げ部331aと、背面側押し付け部材33bの下端に形成されている折り曲げ部331bと、背面側押し付け部材33bの右端に形成されている折り曲げ部332aと、背面側押し付け部材33bの左端に形成されている折り曲げ部332bと、を有する。
【0066】
膨張部材31aは、溝状冷却水流路内で膨張し、各シリンダボアのボア壁22に直接接触して、ボア壁22の保温箇所を囲む部材である。そして、膨張部材31aが、溝状冷却水流路内で膨張してシリンダボアのボア壁22に接触すると、膨張部材31aとシリンダボアのボア壁22と背面側押し付け部材33bとで囲まれた冷却水保持部が形成される。冷却水保持部に保持された冷却水は、各シリンダボアのボア壁22を保温できる。膨張部材31aは、中央部に、冷却水保持部を形成するための空間部25を有する。
【0067】
また、背面側押し付け部材33bは、膨張部材31aの全体を膨張部材31aの背面側から押し付けることができるように、膨張部材31aの背面側(接触面26側とは反対側の面)に沿う形状である。また、背面側押し付け部材33bは、円弧状断面を有し、膨張材料31aの背面側に沿う形状である。図10に示すように、背面側押し付け部材33bは、弾性部材である金属板バネ39を有する。金属板バネ39は、縦長の長方形の金属板であり、長手方向の一端が背面側押し付け部材33bに繋がっている。金属板バネ39は、先端27が背面側押し付け部材33bから離れるように、背面側押し付け部材33bに対して斜めに設けられている。
【0068】
図11に示すように、正面側当て板30は、円弧状断面を有し、内側から見た時に、外縁が組形状であり、矩形状の開口301が形成されている。
【0069】
保温具36aを内側から見たときに、膨張部材31aの内縁、すなわち、膨張部材31aの空間部25の輪郭は、正面当て板30の開口301より内側に位置している。また、膨張部材31aの外縁は、正面当て板30の開口301より外側に位置している。そのため、膨張部材31aは、外縁側が、正面当て板30と背面側押し付け板32により挟み込まれて、固定される。また、膨張材料31aの内縁側は、正面当て板30と背面側押し付け部材33bにより挟み込まれておらず、正面当て板30の開口301から、はみ出している。
【0070】
正面側当て板30には、外側端が折り曲げ部により挟み込まれている部分と、折り曲げ部に挟み込まれない部分と、がある。つまり、保温具36aでは、正面側当て板30の上側部に、外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の下側部に、外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の右側部に、外側端が折り曲げ部332aに挟み込まれている部分と、正面側当て板30の左側部に、外側端が折り曲げ部332bに挟み込まれている部分と、が存在する。また、保温具36aでは、正面側当て板30の上側部に、外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれていない部分と、正面側当て板30の下側部308bに、外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれていない部分と、が存在する。
【0071】
正面側当て板30のうち、外側端が折り曲げ部に挟み込まれていない部分には、凸部が形成されている。つまり、正面側当て板30のうち、上側部の外側端が折り曲げ部332a、332bに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30の上側部の長手方向に延びる凸部302aが形成されている。また、正面側当て板30の下側部の外側端が折り曲げ部331a、331bに挟み込まれていない部分には、正面側当て板30の下側部の長手方向に延びる凸部302bが形成されている。
【0072】
正面当て板30に形成されている凸部302aは、膨張部材31aにめり込んでいる。このことにより、膨張部材31aは、保温部に強く固定されるので、位置ずれを起こし難くなる。内側から見たときに、凸部302aが形成されている位置は、膨張材料31aの外縁より内側である。
【0073】
シリンダボア壁の保温具36bが、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14内に設置された後、内燃機関が運転されると、膨張材料31aが膨張する。そして、正面当て板30と背面側押し付け部材33bにより挟み込まれていない膨張材料31aの内縁側は、正面側当て板30の内側部分に形成されている開口301を通って、シリンダボア側の壁面17に向かって膨張し、接触面26がシリンダボア側の壁面17に接触する。このとき、金属板バネ39の反発力により、背面側押し付け部材33bは、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に向かって押される。その結果、膨張部材31aは、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に対してさらに押し付けられる。このようにして、シリンダボア壁の保温具36bの保温具36aの膨張材料31aの内縁側が、溝状冷却水流路14のシリンダボアのボア壁面に接触する。
【0074】
このとき、膨張材料31aの内縁側が膨張して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接触することにより、膨張部材31aの内縁側と、壁面17と、背面側押し付け部材33bとに囲まれている冷却水保持部が形成される。内燃機関が運転されているときに、冷却水保持部には、冷却水が保持される。冷却水保持部に保持された冷却水は、冷却水保持部内に留まっているため、徐々に温度が上昇し、膨張材料31aの内縁側と同程度の温度になる。このことにより、冷却水保持部25に保持された冷却水は、膨張材料31aと同等かそれ以上程度の保温性を発揮する(膨張材料31aよりも冷却水のほうが熱容量が大であるため)。
【0075】
冷却水保持部25に保持された冷却水及び膨張材料31aの内縁側は、保温部位として機能する。冷却水保持部25は、内燃機関が運転される際に、完全な密閉状態を維持してもよく、これによって冷却水保持部25の内外で冷却水の移動を規制してもよい。この構造であれば、保温対象となるシリンダボアのボア壁の下部および中間部の保温を確実に行うことができる。冷却水保持部25は、内燃機関が運転される際に、完全な密閉状態とはならずに、膨張部材31aの一部から冷却水が入れ替わることを許容してもよい。この構造であれば、内燃機関が運転されているときに、冷却水保持部25に保持された冷却水が微量ずつ冷却水保持部25の内外で入れ替わることになる。これによって、内燃機関が長時間運転されたり、高い回転数で運転されたりした場合に、冷却水を微量ずつ入れ換えることで、保温対象となるシリンダボアのボア壁の温度が上がり過ぎることを防止することができる。
【0076】
次いで、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に用いられる膨張部材の形態について説明する。
【0077】
図12に示す膨張部材31aでは、外縁の形状が矩形であり、且つ、内縁の形状、すなわち、空間部の輪郭が矩形である。膨張部材31aは、一つの部材からなる。つまり、膨張部材31aは、複数の分割体で構成されているものではない。
【0078】
図13に示す膨張部材31bでは、外縁の形状は、矩形の上側及び下側の一部が、外に向かって張り出している形状である。膨張部材31bの内縁の形状は矩形である。膨張部材31bは、一つ部材からなる。なお、図13に示す形態例では、矩形の上側及び下側に張り出し部を有しているが、これに限定されず、矩形の右側及び/又は左側に張り出し部を有する形状であってもよい。また、図27に示す形態例では、矩形の一辺に2つの張り出し部を有しているが、これに限定されず、張り出し部を有する場合、一辺に一つ以上の張り出し部を有することができる。
【0079】
つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材の外縁の形状は、外縁が正面側当て板の開口より外側に位置し、正面側当て板と背面側押し付け部材との間に挟まれて、保温部に固定されることができるのであれば、矩形であってもよいし、矩形でなくてもよい。
【0080】
図14に示す膨張部材31cは、(A)に示すように、第一分割体31c1と第二分割体31c2とで構成されている。そして、(B)に示すように、第一分割体31c1と第二分割体31c2が、合わせ部40cで合わされることより、膨張部材31cの形状となる。膨張部材31cの外縁の形状は矩形であり、且つ、内縁の形状は矩形である。このとき、合わせ部40c同士の間には、隙間を設けても良いし、隙間を設けなくてもよい。隙間を設けない場合には、保温対象となるシリンダボアのボア壁の下部および中間部の保温を確実に行うことができる。合わせ部40c同士の間に隙間を設ける場合には、当該隙間の幅寸法は、例えば、0.5〜2.0mm程度であることが望ましい。このような隙間を設けた場合には、この隙間から冷却水が微量ずつ入れ替わることとなる。このため、内燃機関が長時間運転したり、内燃機関が高回転数で運転したりした場合に、入れ替わる冷却水によって熱を冷却水保持部25の外に逃がすことができ、保温対象となるシリンダボアのボア壁の温度が上がり過ぎることを防止することができる。
【0081】
図15に示す膨張部材31dは、(A)に示すように、第一分割体31d1と第二分割体31d2とで構成されている。そして、(B)に示すように、第一分割体31d1と第二分割体31d2が、合わせ部40dで合わされることより、膨張部材31dの形状となる。膨張部材31dの外縁の形状は矩形であり、且つ、内縁の形状は矩形である。このとき、合わせ部40d同士の間には、隙間を設けても良いし、隙間を設けなくてもよい。隙間を設けない場合の効果および隙間を設けた場合の効果は、図14の例と同様である。
【0082】
図16に示す膨張部材31eは、(A)に示すように、第一分割体31e1と第二分割体31e2と第三分割体31e3と第四分割体31e4とで構成されている。そして、(B)に示すように、第一分割体31e1と第二分割体31e2と第三分割体31e3と第四分割体31e4が、合わせ部40eで合わされることより、膨張部材31eの形状となる。膨張部材31eの外縁の形状は矩形であり、且つ、内縁の形状は矩形である。このとき、合わせ部40e同士の間には、隙間を設けても良いし、隙間を設けなくてもよい。隙間を設けない場合の効果および隙間を設けた場合の効果は、図14の例と同様である。
【0083】
つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材は、複数の分割体で構成されていてもよい。分割体の数は、2又は4が、分割体の形状が互いに同一又は対称な形状となるため、分割体の作製が容易又は製造コストが低減される点で好ましい。
【0084】
図17に示す膨張部材31fは、(A)に示すように、第一分割体31f1と第二分割体31f2とで構成されている。そして、(B)に示すように、第一分割体31f1と第二分割体31f2が、合わせ部40fで合わされることより、膨張部材31fの形状となる。膨張部材31fの外縁の形状は矩形であり、且つ、内縁の形状は矩形である。この膨張部材31fでは、分割体の一方に形成されている凸部412と分割体の他方に形成されている凹部411が係合することにより、第一分割体31f1と第二分割体31f2が、合わせ部40fで合わせられている。このとき、合わせ部40f同士の間には、隙間を設けても良いし、隙間を設けなくてもよい。隙間を設けない場合の効果および隙間を設けた場合の効果は、図14の例と同様である。
【0085】
図18に、膨張部材31fの合わせ部40f近傍の拡大図を示す。(A)に示すように、第一分割体31f1に形成されている凸部412と、第二分割体31f2に形成されている凹部411とが、係合している。この状態から、第一分割体31f1が横方向461に動いても、第一分割体の凸部412が、第二分割体の凹部411の横部401fを押すため、第一分割体31fと第二分割体31fが分離することが防がれる。それに対して、(B)に示すように、第二分割体31f2が縦方向462に動くと、第一分割体31fと第二分割体31fとの間に隙間47が生じる。しかし、第二分割体31f2の動く量が、第二分割体の凹部411の縦部401fの長さの範囲内であれば、第一分割体31f1と第二分割体31f2が完全に分離することはない。そして、第二分割体31f2の動く量が、第二分割体の凹部411の縦部401fの長さの範囲内であれば、第二分割体の凹部411の縦部401fが、第一分割体の凸部412と接触しているので、この接触部分が、冷却水が冷却水保持部から膨張部材31fの外に流出するのを防ぐシール部となる。
【0086】
図19に示す膨張部材31gは、(A)に示すように、第一分割体31g1と第二分割体31g2と第三分割体31g3と第四分割体31g4で構成されている。そして、(B)に示すように、第一分割体31g1と第二分割体31g2と第三分割体31g3と第四分割体31g4が、合わせ部40gで合わされることより、膨張部材31gの形状となる。膨張部材31gの外縁の形状は矩形であり、且つ、内縁の形状は矩形である。この膨張部材31gでは、分割体の一方に形成されている凸部412と分割体の他方に形成されている凹部411が係合することにより、第一分割体31g1と第二分割体31g2と第三分割体31g3と第四分割体31g4が、合わせ部40gで合わせられている。第一分割体31g1、第二分割体31g2、第三分割体31g3及び第四分割体31g4に形成されている凸部又は凹部の機能は、図32に示す凸部及び凹部の機能と同様である。このとき、合わせ部40g同士の間には、隙間を設けても良いし、隙間を設けなくてもよい。隙間を設けない場合の効果および隙間を設けた場合の効果は、図14の例と同様である。
【0087】
つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材は、複数の分割体で構成されていており、分割体の一方に形成されている凸部と分割体の他方に形成されている凹部が係合することにより合わせられている。そして、膨張部材が、複数の分割体からなり、分割体の一方に形成されている凸部と分割体の他方に形成されている凹部が係合することにより合わせられていることにより、分割体の一部が振動により動いても、分割体が完全に分離することが防がれると共に、冷却水が冷却水保持部から膨張部材の外に流出することが防がれる。
【0088】
図15に示す膨張部材31dでは、外縁の形状及び内縁の形状が矩形であるため、図20に示すように、一枚の大きな膨張材料シートから切り抜いて、膨張部材31dの第一分割体31d1と第二分割体31d2を作製するときに、左から順に、第一分割体31d1を打ち抜いた後、第一分割体31d1の内縁に第二分割体31d2の外縁を一致させて第二分割体31d2を打ち抜き、次いで、第二分割体31d2の内縁に第一分割体31d1の外縁を一致させて第一分割体31d1を打ち抜き、次いで、第一分割体31d1の内縁に第二分割体31d2の外縁を一致させて第二分割体31d2を打ち抜くということを繰り返して、分割体を作製することができる。
【0089】
また、図17に示す膨張部材31fでは、外縁の形状及び内縁の形状が矩形であるため、図21に示すように、一枚の大きな膨張材料シートから切り抜いて、膨張部材31fの第一分割体31f1と第二分割体31f2を作製するときに、左から順に、第一分割体31f1を打ち抜いた後、第一分割体31f1の内縁の近傍に第二分割体31f2の外縁を位置させて第二分割体31d2を打ち抜き、次いで、第二分割体31f2の内縁の近傍に第一分割体31f1の外縁を位置させて第一分割体31f1を打ち抜き、次いで、第一分割体31f1の内縁近傍に第二分割体31f2の外縁を位置させて第二分割体31f2を打ち抜くということを繰り返して、分割体を作製することができる。
【0090】
図16に示す膨張部材31eでは、外縁の形状及び内縁の形状が矩形であるため、図22に示すように、一枚の大きな膨張材料シートから切り抜いて、膨張部材31eの第一分割体31e1と第二分割体31e2と第三分割体31e3と第四分割体31e4を作製するときに、左から順に、第一分割体31e1を打ち抜いた後、第一分割体31e1の内縁に第三分割体31e3の外縁を一致させて第三分割体31e3を打ち抜き、次いで、第三分割体31e3の内縁に第一分割体31e1の外縁を一致させて第一分割体31e1を打ち抜き、次いで、第一分割体31e1の内縁に第三分割体31e3の外縁を一致させて第三分割体31e3を打ち抜くということを繰り返し、且つ、左から順に、第二分割体31e2を打ち抜いた後、第二分割体31e2の内縁に第四分割体31e4の外縁を一致させて第四分割体31e4を打ち抜き、次いで、第四分割体31e4の内縁に第二分割体31e2の外縁を一致させて第二分割体31e2を打ち抜き、次いで、第二分割体31e2の内縁に第四分割体31e4の外縁を一致させて第四分割体31e4を打ち抜くということを繰り返し、分割体を作製することができる。
【0091】
つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材は、複数の分割体で構成されており、外縁及び内縁が矩形であることにより、膨張部材用原材料シートから、分割体を切り抜いて作製するときに、一の分割体の内縁に他の一の分割体の外縁を一致させるか又は一の分割体の内縁の近傍に他の一の分割体の外縁を位置させて、分割体を作製することができるので、膨張部材が一つの部材で構成されている場合に比べ、同じ大きさの膨張部材用原材料シートから、多くの膨張部材を作製することができる。つまり、膨張部材が一つの部材で構成されている場合は、空間部を形成させるために切り抜かれた部分は、他の膨張部材の作製に使用することができないので、空間部に対応する部分が全て無駄になる。それに対して、膨張部材が、複数の分割体で構成されていており、外縁及び内縁が矩形である場合は、一の分割体の空間部に対応する部分の全て又は一部が、他の一の分割体の作製に用いられるので、原材料シートの無駄が少ない。よって、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る膨張部材は、複数の分割体で構成されていており、外縁及び内縁が矩形であることにより、膨張材料の原材料シートの歩留まりを高くすることができる。
【0092】
次いで、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る凸部(ビード)およびその周辺構造の第1〜第11実施形態について説明する。
[凸部の第1実施形態]
【0093】
図23図24を参照して、保温具36aの凸部(ビード)およびその周辺構造の第1実施形態について説明する。
保温具36aは、固定部材を有する。固定部材は、弾性部材付設部材33、背面側押し付け部材32、膨張部材31a、および正面側当て板30を互いに固定する。固定部材は、一例として弾性部材付設部材33と一体的に設けられているが、弾性部材付設部材33とは分離して設けられてもよい。
【0094】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bと、正面側当て板30の一対の湾曲辺42に対応して設けられた複数の折り曲げ部331a、331bと、を有する。複数の折り曲げ部332a、332bおよび複数の折り曲げ部331a、331bは、いずれも保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0095】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向(冷却水の流れ方向Sと直交する方向)に延びる板金として形成され、保温具36aの縦方向の全長に亘って連続的に設けられている。折り曲げ部332aは、保温具36aの右側端部に設けられ、折り曲げ部332bは、保温具36aの左側端部に設けられる。
【0096】
折り曲げ部331a、331bは、所定幅で横方向(冷却水の流れ方向S)に延びる板金として、短冊状に形成される。複数の折り曲げ部331a、331bは、正面側当て板30の湾曲辺42の左側端部から湾曲辺42の全長の1/3の長さ分移動した位置と、正面側当て板30の湾曲辺42の右側端部から湾曲辺42の全長の1/3の長さ分移動した位置と、の2か所(上側の折り曲げ部331aと下側の折り曲げ部331bとを合算すると計4か所)に設けられる。
【0097】
折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、弾性部材付設部材33から突出するように形成された板金であり、プレス機械によってカシメ加工(折り曲げ加工)されることで略U字形に折り曲げられている。このため、折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、挟み込み部を形成している。折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、折り曲げ部331a、331b、332a、332bと弾性部材付設部材33との間に、背面側押し付け部材32、膨張部材31a、および正面側当て板30を挟み込んでこれらを保持できる。折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、弾性部材付設部材33、背面側押し付け部材232、膨張部材31a、および正面側当て板30を互いに固定している。
【0098】
折り曲げ部331a、331b、332a、332bは、上記板金の折り曲げ加工に限られず、例えばねじ、リベット、ハトメ、溶接、ろう付け、バーリング加工等で形成されてもよい。
【0099】
上記したように、弾性部材付設部材33には、複数の金属バネ39が設けられる。金属バネ39は、軸部28Aと、軸部28Aの先端部に設けられる当接部28Bと、を有する。当接部28Bは、軸部28Aに対して折れ曲がるように配置されており、シリンダボア13側の壁面17とは反対側の壁面18に当接できる。
【0100】
図23図24に示すように、正面側当て板30は、方形枠状の平板をシリンダボア壁13の壁面17に沿って湾曲するように折り曲げて形成されている。正面側当て板30は、矩形状の第1開口46を有する。正面側当て板30は、金属板、例えばステンレス鋼板によって形成される。正面側当て板30は、縦方向に延びる一対の非湾曲辺41と、横方向に延びる一対の湾曲辺42と、を有する。さらに、正面側当て板30は、一対の非湾曲辺41に対応して縦方向に延びる一対の縦枠部27Aと、一対の湾曲辺42に対応して横方向に延びる一対の横枠部27Bと、を有する。左側の一つの縦枠部27Aは、左側の一つの折り曲げ部332bによって挟まれて保持されている。右側の一つの縦枠部27Aは、右側の一つの折り曲げ部332aによって挟まれて保持されている。
【0101】
正面側当て板30の横枠部27Bは、複数の凸部302a、302bを有する。複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に設けられている。あるいは、複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331b同士の間に設けられているとも言い換えられる。
【0102】
図23図24に示すように、各凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って横方向に延びている。凸部302a、302bは、膨張部材31a(背面側押し付け部材32)に向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302bは、横枠部27B内で、直列的に設けられている。
【0103】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。本実施形態では、折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、凸部302a、302bが設けられる位置で背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に冷却水が侵入してしまうことが防止される。このため、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。
【0104】
以下の第2〜第7実施形態は、主として上記凸部の第1実施形態と異なる部分を説明し、凸部の第1実施形態と共通する部分については、図示および説明を省略する。
[凸部の第2実施形態]
【0105】
図25図26を参照して、第2実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0106】
図25図26に示すように、膨張部材31aは、略方形の平板状で、且つシリンダボア壁15に沿って湾曲するように成形されている。膨張部材31aは、温度上昇によって膨張する性質のあるゴム材料で形成される。シリンダボア13のシリンダボア壁15に直接接触して、シリンダボア壁15の保温箇所を覆い、各シリンダボア13のシリンダボア壁15を保温するための部材である。
【0107】
図26に示すように、膨張部材31aは、四角の角に対応する位置に設けられる第1切欠部52と、折り曲げ部331a、331b同士の間の位置に設けられる第2切欠部53と、空間部25と、を有する。第1切欠部52は、複数の固定部から外れた位置で、角部を除去するように設けられている。第1切欠部52は、折り曲げ部331a、331bよりも外側(冷却水の流れ方向Sに関して端部側)に位置する。第1切欠部52は、凸部302a、302bに対応して設けられ、膨張部材31aが凸部302a、302bを避けるように設けられている。
【0108】
第2切欠部53は、折り曲げ部331a、331bに対応する箇所よりも膨張部材31aの中心側に後退して設けられる。しかしながら、第2切欠部53は、凸部302a、302bを避けるように設けられていない。このため、膨張部材31aは、第2切欠部53に隣接した位置に、凸部302a、302bと重なり合う保持部54を有する。したがって、この位置では、保持部54は、膨張部材31aの外縁を構成している。この位置では、保持部54よりも外側に膨張部材31aが配置されない。膨張部材31aの保持部54は、凸部302a、302bと背面側押し付け部材32との間に挟まれて保持される。
【0109】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。本実施形態では、冷却水の流速の影響が大きい角部の位置に第1切欠部52が設けられる。このため、この位置に膨張部材31aが配置されることがなく、この位置で膨張部材31aにちぎれや破損を生じることが防止される。また、第1切欠部52の外側には、第1切欠部52を保護するように凸部302a、302bが配置される。このため、この位置で膨張部材31aにちぎれや破損を生じることがさらに防止される。第2切欠部53に隣接した保持部54は、凸部302a、302bと背面側押し付け部材32との間に挟まれて保持される。このため、保持部54が設けられた位置において、膨張部材31aと背面側押し付け部材32との間の密着性を向上できる。これによって、第2切欠部53の付近において、膨張部材31aと背面側押し付け部材32との間に冷却水が侵入してしまうことが防止される。これによって、シリンダボア壁の保温具36aから膨張部材31aが脱落してしまう不具合を防止できる。
【0110】
第2実施形態によれば、以下のことがいえる。該膨張部材31aは、該固定部から外れた位置で、角部を除去するように設けられた第1切欠部52を有する。この構成によれば、冷却水の流れの影響でちぎれを生じやすい角部の位置に切欠部を設けているため、膨張部材31aにちぎれ等の不具合を生じることを防止できる。
【0111】
該膨張部材31aは、該複数の固定部同士の間の位置に設けられた第2切欠部53と、第2切欠部53に隣接して設けられ該凸部302a、302bと該背面側押し付け部材32との間に挟まれて保持される保持部54と、を有する。この構成によれば、保持部54の外側には、膨張部材31aが配置されない。このため、冷却水の流れの影響で保持部54の周辺で膨張部材31aにちぎれを生じてしまうことを防止できる。また、保持部54は、凸部302a、302bと背面側押し付け部材32との間に挟まれて保持されるために、この位置で背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間の密着性が向上する。このため、背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に冷却水が侵入してしまうことを防止できる。これによって、背面側押し付け部材32から膨張部材31aが浮き上がってしまうことが防止され、保温具36aから膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。
[凸部の第3実施形態]
【0112】
図27から図30を参照して、第3実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0113】
図27図30に示すように、膨張部材31aは、複数の凸部302a、302bに対応するように設けられる複数の貫通孔55を有する。複数の貫通孔55は、正面側当て板30の一対の湾曲辺42に沿って(冷却水の流れ方向Sに沿って)、細長い長穴状に形成される。したがって、本実施形態では、複数の凸部302a、302bは、複数の貫通孔55の内側に差し込まれる。膨張部材31aに設けられる複数の貫通孔55は、例えば、長円形の金型等によって厚み方向に膨張部材31aを打ち抜くことで形成できる。
【0114】
図30に示すように、本実施形態の凸部302a、302bの高さhは、膨張部材31aの厚さtと略同等である。本実施形態では図29図30に示すように、背面側押し付け部材32を省略してもよい。
【0115】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。本実施形態では、貫通孔55の内側に凸部302a、302bが通される。このため、膨張部材31aにちぎれを生じない限り、保温具36aから膨張部材31aが脱落することがない。したがって、本実施形態では、膨張部材31aの位置が安定し、保温具36aに対して膨張部材31aが移動してしまうという不具合を生じることがない。
【0116】
第3実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、該膨張部材31aに設けられ、該1以上の凸部302a、302bが通される1以上の貫通孔55を有する。この構成によれば、膨張部材31aが保温具36aから脱落してしまう不具合を極力防止できる。
[凸部の第4実施形態]
【0117】
図31図32を参照して、第4実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。なお、以下の第4〜第10実施形態では、基体部材34aの図示が省略されている。
【0118】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bと、正面側当て板30の一対の湾曲辺42に対応して設けられた複数の折り曲げ部331a、331bと、を有する。複数の折り曲げ部332a、332bおよび複数の折り曲げ部331a、331bは、いずれも保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0119】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向に延びる板金として形成され、保温具36aの縦方向の全長に亘って連続的に設けられている。折り曲げ部332a、332bの一つは、保温具36aの左側端部に設けられ、折り曲げ部332a、332bの他の一つは、保温具の右側端部に設けられる。
【0120】
折り曲げ部331a、331bは、所定幅で横方向に延びる板金として、短冊状に形成される。複数の折り曲げ部331a、331bは、正面側当て板30の湾曲辺42の中間部に対応する位置の上下の2か所に設けられる。
【0121】
正面側当て板30の横枠部27Bは、複数の凸部302a、302bを有する。複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に設けられている。各凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って横方向に延びている。凸部302a、302bは、膨張部材31aに向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302bは、横枠部27B内で、直列的に設けられている。
【0122】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、膨張部材31aが背面側押し付け部材32から浮き上がって膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。また、本実施形態では、第1実施形態等に比して、折り曲げ部331a、331bの数が低減されている。このため、折り曲げ部331a、331bを略U字形に折り曲げ加工する際に必要な工数が低減される。
【0123】
第4実施形態によれば、以下のことがいえる。該正面側当て板30は、一対の湾曲辺42と、一対の非湾曲辺41と、を有し、該複数の固定部は、該一対の湾曲辺42の所定の位置に設けられ、該複数の凸部302a、302bは、該一対の湾曲辺42に沿って該所定の位置を間に挟んだ両側に設けられる。
【0124】
この構成によれば、湾曲辺42に沿って凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を防止できる。また、固定部の代わりに凸部302a、302bを配置することで、固定部の数を低減できる。これによって、シリンダボア壁の保温具36aの組み立て時に、固定部の固定に要する工数を削減して、組み立て作業を簡略化できる。
[凸部の第5実施形態]
【0125】
図33図34を参照して、第5実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0126】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bを有する。本実施形態の固定部材には、横方向に延びる折り曲げ部331a、331bは含まれていない。複数の折り曲げ部332a、332bは、保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0127】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向に延びる板金として形成され、保温具36aの縦方向の全長に亘って連続的に設けられている。折り曲げ部332a、332bの一つは、保温具36aの左側端部に設けられ、第1固定部の他の一つは、保温具36aの右側端部に設けられる。
【0128】
正面側当て板30の横枠部27Bは、複数の凸部302a、302bを有する。複数の凸部302a、302bは、正面側当て板30の横方向(冷却水の流れ方向S)の略全幅に亘って設けられている。各凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って横方向に延びている。凸部302a、302bは、膨張部材31aに向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302bは、横枠部27B内で、連続的に設けられているが、一部が不連続になっていてもよい。
【0129】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。正面側当て板30の横方向の略全幅に亘って凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を防止できる。また、本実施形態では、折り曲げ部331a、331bが省略されている。このため、折り曲げ部331a、331bを略U字形に折り曲げ加工する際に必要な作業が削減される。
【0130】
第5実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、該正面側当て板30は、一対の湾曲辺42と、一対の非湾曲辺41と、を有し、該1以上の固定部は、該一対の非湾曲辺41に対応する位置に設けられるとともに、該一対の湾曲辺42に対応する位置には設けられず、該1以上の凸部302a、302bは、該一対の湾曲辺42に沿って設けられる。
【0131】
この構成によれば、湾曲辺42に沿って凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aが脱落してしまう不具合を防止できる。また、固定部の代わりに凸部302a、302bを配置することで、固定部の数を低減できる。これによって、シリンダボア壁の保温具36aの組み立て時に、固定部の固定に要する工数を削減して、組み立て作業を簡略化できる。
[凸部の第6実施形態]
【0132】
図35図36を参照して、第6実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0133】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bを有する。本実施形態の固定部材には、横方向に延びる折り曲げ部331a、331bは含まれていない。複数の折り曲げ部332a、332bは、いずれも保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0134】
正面側当て板30の縦枠部27Aおよび横枠部27Bは、複数の凸部302a、302b、302を有する。複数の凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って、正面側当て板30の横方向(冷却水の流れ方向S)の略全幅に亘って設けられている。横方向に延びる凸部302a、302bの一つは、上側の横枠部27Bに設けられ、横方向に延びる凸部302a、302bの他の一つは、下側の横枠部27Bに設けられる。
【0135】
複数の凸部302は、正面側当て板30の非湾曲辺41に沿って、正面側当て板30の縦方向(冷却水の流れ方向Sと直交する方向)の略全幅に亘って設けられている。縦方向に延びる凸部302の一つは、左側の縦枠部27Aに設けられ、縦方向に延びる凸部302の他の一つは、右側の縦枠部27Aに設けられる。縦枠部27Aに設けられる凸部302は、折り曲げ部332a、332b同士の間に設けられている。
【0136】
凸部302a、302b、302は、膨張部材31aに向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302b、302は、横枠部27B又は縦枠部27A内で、連続的に設けられているが、一部が不連続になっていてもよい。
【0137】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。折り曲げ部332a、332b同士の間に凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。また、湾曲辺42に沿って横方向に延びる凸部302a、302bが一対に設けられる。これらによって、凸部302a、302bが設けられる位置で背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に冷却水が侵入してしまうことが防止される。これらによって、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を防止できる。また、本実施形態では、折り曲げ部331a、331bが省略されている。このため、折り曲げ部331a、331bを略U字形に折り曲げ加工する際に必要な作業が削減される。
【0138】
第6実施形態によれば、以下のことがいえる。該正面側当て板30は、一対の湾曲辺42と、一対の非湾曲辺41と、を有し、該複数の固定部は、該一対の非湾曲辺41上の複数個所に設けられ、該1以上の凸部302a、302bは、該一対の非湾曲辺41に沿って該複数の固定部同士の間に設けられる。
【0139】
この構成によれば、非湾曲辺41に沿って凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、膨張部材31aが背面側押し付け部材32から浮き上がって膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。
[凸部の第7実施形態]
【0140】
図37図40を参照して、第7実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0141】
図37図38に示すように、固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bと、正面側当て板30の一対の湾曲辺42に対応して設けられた複数の折り曲げ部331a、331bと、を有する。複数の折り曲げ部332a、332bおよび複数の折り曲げ部331a、331bは、いずれも保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0142】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向に延びる板金として形成され、保温具36aの縦方向に連続的に設けられている。折り曲げ部332a、332bは、保温具36aの縦方向の略中間部に設けられている。折り曲げ部332a、332bは、正面側当て板30の縦方向の長さの2/3以上を保持している。折り曲げ部332a、332bの一つは、保温具36aの左側端部に設けられ、折り曲げ部332a、332bの他の一つは、保温具36aの右側端部に設けられる。
【0143】
折り曲げ部331a、331bは、所定幅で横方向に延びる板金として、短冊状に形成される。複数の折り曲げ部331a、331bは、正面側当て板30の湾曲辺42上の所定の位置に離散的に設けられる。
【0144】
図38に示すように、背面側押し付け部材32は、正面側当て板30の横枠部27Bに対応する位置に複数の凸部302a、302bを有する。複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に設けられている。あるいは、複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331b同士の間に設けられているとも言い換えられる。
【0145】
各凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って横方向に延びている。図53図54に示すように、凸部302a、302bは、正面側当て板30に向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302bは、横枠部27Bに対応する位置で、直列的に設けられている。
【0146】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。折り曲げ部331a、331b同士の間に、凸部302a、302bが設けられるために、この位置から背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に冷却水が侵入してしまうことが防止される。このため、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。
【0147】
第7実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、複数の円弧を連続させた形状を有するとともに、各円弧に第2開口42を有する基体部材34aと、該複数の円弧のうちの1つに固定される少なくとも1つの保温具36aと、を有する。該保温具36aは、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に接触し、該壁面17を覆うための膨張部材31aと、該膨張部材31aの背面側に設けられ、該膨張部材31aを背面側から該溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に向かって押し付けるための背面側押し付け部材32と、該膨張部材31aの接触面側に設けられ、第1開口301を有し、該背面側押し付け部材32との間に、該膨張部材31aの外縁部を挟み込むための正面側当て板30と、該背面側押し付け部材32の背面側に設けられる弾性部材付設部材33と、該弾性部材付設部材33に設けられ、該開口に差し込み可能で、該壁面22に向かって該膨張部材31aを押し付けるように該壁面22と対向する該溝状冷却水流路14の対壁23に当接する弾性部材28と、該弾性部材付設部材33との間に、該背面側押し付け部材32、該膨張部材31a及び該正面側当て板30を挟み込む1以上の固定部材と、該1以上の固定部材から外れた位置で該背面側押し付け部材32に設けられ、該膨張部材31aに向けて突出し、該正面側当て板30との間で該膨張部材31aを挟み込む1以上の凸部302a、302b、302と、を備える。
【0148】
この構成によれば、固定部材から外れた位置に1以上の凸部302a、302bが設けられるために、凸部302a、302bの位置で膨張部材31aを圧縮する圧力を高くすることができる。このため、凸部302a、302bが設けられる位置で背面側押し付け部材32に対する膨張部材31aの密着性が良好になり、背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に隙間を生じることが防止される。このため、背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に溝状冷却水流路14内の冷却水が侵入することが防止される。これによって背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aが保温具36aから脱落してしまう事態を防止できる。また、背面側押し付け部材32と正面側当て板30との間で膨張部材31aを保持する保持力が増大するために、冷却水の水流によって膨張部材31aにちぎれを生じたり、保温具36aから膨張部材31aが脱落してしまったりすることを防止できる。さらに、固定部材の代わりに凸部302a、302b、302を配置することで、固定部材の総数を低減できることができ、これによって保温具36aの組み立て時に固定部の固定に要する工数を削減できる。このため、保温具36aの組み立て作業の効率化を図ることができる。
【0149】
以下の第8、第9実施形態は、主として上記第7実施形態と異なる部分を説明し、第7実施形態と共通する部分については、図示および説明を省略する。
[凸部の第8実施形態]
【0150】
図41を参照して、第8実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。
【0151】
背面側押し付け部材32は、正面側当て板30の横枠部27Bに対応する位置に複数の凸部302a、302bを有する。複数の凸部302a、302bの配置は、第7実施形態の図52と同様である。複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331bを間に挟んだ両側に設けられている。あるいは、複数の凸部302a、302bは、折り曲げ部331a、331b同士の間に設けられているとも言い換えられる。
【0152】
膨張部材31aは、複数の凸部302a、302bに対応するように設けられる複数の貫通孔55を有する。複数の貫通孔55は、正面側当て板30の一対の湾曲辺42に沿って、細長い長穴状に形成される。複数の貫通孔55は、図52の複数の凸部302a、302bとオーバーラップする位置に設けられる。本実施形態では、複数の凸部302a、302bは、複数の貫通孔55の内側に差し込まれる。その構造の一例を図55に示す。膨張部材31aに設けられる複数の貫通孔55は、例えば、長円形の金型によって厚み方向に膨張部材31aを打ち抜くことで形成できる。
【0153】
図41に示すように、本実施形態の凸部302a、302bの高さhは、膨張部材31aの厚さtと略同等である。
【0154】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。本実施形態では、貫通孔55の内側に凸部302a、302bが通される。このため、覆い部材にちぎれを生じない限り、保温具から覆い部材が脱落することがない。したがって、本実施形態では、覆い部材の位置が安定し、背面側押し付け部材32に対して膨張部材31aが移動してしまうという不具合を生じることがない。
【0155】
第8実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、該膨張部材31aに設けられ、該1以上の凸部302a、302bが通される1以上の貫通孔55を有する。この構成によれば、膨張部材31aが背面側押し付け部材32と正面側当て板30との間から脱落してしまう不具合を生じる危険性を極力防止できる。
[凸部の第9実施形態]
【0156】
図42を参照して、第9実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。図42では、膨張部材31aの図示を省略している。
【0157】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた折り曲げ部332a、332bを有する。本実施形態の固定部材には、横方向に延びる折り曲げ部331a、331bは含まれていない。折り曲げ部332a、332bは、保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0158】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向に延びる板金として形成され、保温具36aの縦方向の全長に亘って連続的に設けられている。折り曲げ部332aは、保温具36aの右側端部に設けられ、折り曲げ部332bは、保温具36aの左側端部に設けられる。
【0159】
背面側押し付け部材32は、正面側当て板30の横枠部27Bに対応する位置に凸部302a、302bを有する。凸部302a、302bは、背面側押し付け部材32の横方向(冷却水の流れ方向S)の略全幅に亘って設けられている。凸部302a、302bは、膨張部材31aに向かって凸になるように突出して設けられる。凸部302a、302bは、横枠部27B内で、連続的に設けられているが、一部が不連続になっていてもよい。
【0160】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。本実施形態では、背面側押し付け部材32の横方向の略全幅に亘って凸部302a、302bが設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、膨張部材31aが背面側押し付け部材32から浮き上がって膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。また、本実施形態では、折り曲げ部331a、331bが省略されている。このため、折り曲げ部331a、331bを略U字形に折り曲げ加工する際に必要な作業が削減される。
【0161】
第9実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、該背面側押し付け部材32は、一対の湾曲辺42と、一対の非湾曲辺41と、を有し、該1以上の固定部は、該一対の非湾曲辺41に対応する位置に設けられるとともに、該一対の湾曲辺42に対応する位置には設けられず、該1以上の凸部302a、302bは、該一対の湾曲辺42に沿って設けられる。この構成によれば、湾曲辺42に沿って凸部302a、302bが設けられるために、凸部302a、302bの位置で膨張部材31aが圧縮される圧力が向上する。このため、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。また、固定部の代わりに凸部302a、302bを配置することで、固定部の数を低減できる。これによって、シリンダボア壁の保温具36aの組み立て時に、固定部の固定に要する工数を削減して、組み立て作業を簡略化できる。
[凸部の第10実施形態]
【0162】
図43を参照して、第10実施形態のシリンダボア壁の保温具36aについて説明する。図43では、膨張部材31aの図示を省略している。
【0163】
固定部材は、正面側当て板30の一対の非湾曲辺41に対応して設けられた複数の折り曲げ部332a、332bを有する。本実施形態の固定部材には、横方向に延びる折り曲げ部331a、331bは含まれていない。複数の折り曲げ部332a、332bは、保温具36aの外周部(外縁付近)に設けられている。
【0164】
折り曲げ部332a、332bは、縦方向に延びる板金として形成される。折り曲げ部332aは、保温具36aの右側端部に一対に設けられる。折り曲げ部332bは、保温具36aの左側端部にも一対に設けられる。右側端部に設けられた一対の折り曲げ部332aは、正面側当て板30の縦方向における両端部に設けられる。左側端部に設けられた一対の折り曲げ部332bは、正面側当て板30の縦方向における両端部に設けられる。
【0165】
折り曲げ部332a、332bは、弾性部材付設部材33から突出するように形成された板金であり、プレス機械によってカシメ加工されることで略U字形に折り曲げられている。このため、折り曲げ部332a、332bは、挟み込み部を形成しており、折り曲げ部332a、332bと弾性部材付設部材33との間に、背面側押し付け部材32、膨張部材31a、および正面側当て板30を挟み込んでこれらを保持する。
【0166】
背面側押し付け部材32は、正面側当て板30の縦枠部27Aおよび横枠部27Bに対応する位置に、複数の凸部302a、302b、302を有する。凸部302a、302bは、正面側当て板30の湾曲辺42に沿って、背面側押し付け部材32の横方向(冷却水の流れ方向S)の略全幅に亘って設けられている。横方向に延びる凸部302aは、上側の横枠部27Bに対応するように設けられ、横方向に延びる凸部302bは、下側の横枠部27Bに対応するように設けられる。
【0167】
複数の凸部302は、正面側当て板30の非湾曲辺41に沿って、背面側押し付け部材32の縦方向(冷却水の流れ方向Sと直交する方向)の略全幅に亘って設けられている。縦方向に延びる凸部302の一つは、右側の縦枠部27Aに対応するように設けられ、縦方向に延びる凸部302の他の一つは、左側の縦枠部27Aに対応するように設けられる。縦枠部27Aに対応する位置に設けられる凸部302は、折り曲げ部332a、332b同士の間に設けられている。
【0168】
凸部302a、302b、302は、膨張部材31aに向かって凸になるように突出して設けられる。複数の凸部302a、302b、302は、横枠部27B又は縦枠部27Aに対応する位置で、連続的に設けられているが、一部が不連続になっていてもよい。
【0169】
本実施形態のシリンダボア壁の保温具36aの作用について説明する。折り曲げ部332a、332b同士の間に凸部302a、302b、302が設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。また、湾曲辺42に沿って横方向に延びる凸部302a、302bが一対に設けられる。これらによって、凸部302a、302bが設けられる位置で背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に冷却水が侵入してしまうことが防止される。このため、背面側押し付け部材32から浮き上がった膨張部材31aがシリンダボア壁の保温具36aから脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。また、本実施形態では、折り曲げ部331a、331bが省略されている。このため、折り曲げ部331a、331bを略U字形に折り曲げ加工する際に必要な作業が削減される。
【0170】
第10実施形態によれば、以下のことがいえる。シリンダボア壁の保温具36aは、該正面側当て板30は、一対の湾曲辺42と、一対の非湾曲辺41と、を有し、該複数の固定部は、該一対の非湾曲辺41上の複数個所に設けられ、該1以上の凸部302は、該一対の非湾曲辺41に沿って該複数の固定部材同士の間に設けられる。
【0171】
この構成によれば、非湾曲辺41に沿って凸部302が設けられるために、この位置から冷却水が背面側押し付け部材32と膨張部材31aとの間に侵入してしまうことが防止される。これによって、膨張部材31aが背面側押し付け部材32から浮き上がって膨張部材31aが脱落してしまう不具合を生じることを防止できる。
【0172】
本発明の内燃機関は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関である。
【0173】
本発明の自動車は、本発明の内燃機関を有することを特徴とする自動車である。
【符号の説明】
【0174】
11 シリンダブロック
12 ボア
12a1、12a2 端ボア
12b1、12b2 中間ボア
13 シリンダボア壁
14 溝状冷却水流路
15 冷却水供給口
16 冷却水排出口
17 溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面
17a、17b 片側半分側の壁面
18 溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面
21a、21b 片側半分のボア壁
23a1、23a2、23b1、23b2 各シリンダボアのボア壁
25 空間部
26 接触面
30 正面側当て板
31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g 膨張部材
32 背面側押し付け板
33 弾性部材付設部材
35a、35b 保温材カートリッジ
36a、36b、36c、36d シリンダボア壁の保温具
37、37a、331a、331b、332a、332b、332c、332d 折り曲げ部
38 冷却水流れ仕切部材
39 金属板バネ
40c、40d、40e、40f、40g 合わせ部
43 金属板
45 金属板の打ち抜き物
191 ボア間部
192 溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各シリンダボアのボア壁の境界
301 開口
302a、302b、302c、302d 凸部
401f 分割体の凹部の縦部
411 分割体の凹部
412 分割体の凸部
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