(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-129558(P2021-129558A)
(43)【公開日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を生産するサッカロマイセス・セレビシエKwon P1、2、3
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20210813BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20210813BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20210813BHJP
【FI】
C12N1/16 Z
C12N9/02
C12P21/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2021-22552(P2021-22552)
(22)【出願日】2021年2月16日
(31)【優先権主張番号】10-2020-0019858
(32)【優先日】2020年2月18日
(33)【優先権主張国】KR
(71)【出願人】
【識別番号】521069652
【氏名又は名称】ピコエンテック シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】PICOENTECH Co.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100188798
【弁理士】
【氏名又は名称】土田 幸広
(72)【発明者】
【氏名】權 興澤
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD04
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL03
4B064AG01
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA13
4B065AA80X
4B065AC14
4B065BA24
4B065CA24
4B065CA28
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】野生のサッカロマイセス・セレビシエ酵母を突然変異させて、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産能力を増加させる突然変異方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、グルタチオン(GSH)とアルデヒド脱水素酵素(Acetaldehyde dehydrogenase)を生産する酵母菌株に関する。より具体的には、本発明は、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に生産するサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae Kwon P−1 KCTC13925BP)とサッカロマイセスセレビシエKwon P−2 KCTC14122BP、及びサッカロマイセスセレビシエKwon P−3 KCTC14123BPの酵母菌株に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロマイセス・セレビシエKwon P−1 KCTC13925BP。
【請求項2】
サッカロマイセス・セレビシエKwon P−2 KCTC14122BP。
【請求項3】
サッカロマイセス・セレビシエKwon P−3 KCTC14123BP。
【請求項4】
サッカロマイセス・セレビシエ酵母にエチルメタンスルホネート(Ethylmethanesulfonate)又はニトロソグアニジン(nitrosoguanidine)を処理して突然変異を誘導し、メチルグリオキサール適応酵母を選別し、グルタチオンの生産能力が向上した突然変異酵母を製造する方法。
【請求項5】
サッカロマイセス・セレビシエ酵母にエチルメタンスルホネート又はニトロソグアニジンを処理して突然変異を誘導し、リシン適応酵母を選別して、アルデヒド脱水素酵素の生産能力が向上した突然変異酵母を製造する方法。
【請求項6】
サッカロマイセス・セレビシエ酵母を培養し、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に生産する方法。
【請求項7】
前記サッカロマイセス・セレビシエ酵母がサッカロマイセス・セレビシエKwon P−1 KCTC13925BPとサッカロマイセス・セレビシエKwon P−2 KCTC14122BP、及びサッカロマイセス・セレビシエKwon P−3 KCTC14123BPからなる群から選択されるいずれか、又はこれらの混合酵母である、請求項6に記載のグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン(GSH)とアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase)を生産する酵母菌株に関する。より具体的には、本発明は、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に生産するサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae Kwon P−1 KCTC13925BP)とサッカロマイセス・セレビシエKwon P−2 KCTC14122BP、及びサッカロマイセス・セレビシエKwon P−3 KCTC14123BPの酵母菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(Glutathione,γ−L−glutamyl−L−cysteinylglycine,GSH)は、細胞内に存在する生理活性物質としてグルタミン酸(glutamate)、システイン(cystein)、グリシン(glycine)の三つのアミノ酸で構成されたトリペプチドであって、動物、植物、及び微生物の細胞内で0.1〜10mMの濃度で存在し、細胞の総非タンパク質性活成分の90%以上を占めている。
【0003】
生体内においてグルタチオン(glutathione)は白血球の生成を通じた免疫活性の増加を引き起こすことにより、重要な抗ウイルス剤の役割をするものと知られており、GST(glutathione S−transferase)の基質として作用し、生体に有害な非生体物質(xenobiotics)のような毒性物質をコンジュゲーション(Conjugation)の形態で結合し、解毒作用に重要な役割をする。
【0004】
また、グルタチオンは、細胞内において酸化作用で細胞膜、核酸と細胞構造を損傷させて壊死させることを防ぎ、老化の原因である活性酸素種(Reactive oxygen species、ROS)の毒性を緩和させてくれる役割をする。このときの活性酸素種は、様々な生体物質の代謝作用で形成され、 スーパーオキシド(superoxide)、過酸化物(peroxide)、ヒドロキシルラジカル(hydroxyl radical)等が含まれ、物質の生体代謝産物として生成される内因性活性酸素種や、タバコ、放射能等の外因性活性酸素種に区分できる。
【0005】
活性酸素種に起因した酸化的ストレスは、認知機能に損傷を与え得(Liu et al.2002)、精子のDNAを破壊して男性不妊の原因となり(Wright et al.2014)、細胞タンパク質、脂質、及び核酸を損傷させて癌を誘発し得、生理的機能を低下させて各種疾病や老化の原因因子として作用する。従って、私たちの体は、疾病予防、免疫強化、老化防止などの役割をする抗酸化剤が非常に重要であり、細胞内で抗酸化の役割をするグルタチオンの機能は、酵素学、薬物学、治療、毒物学、内分泌学および微生物学を含む多くの医学分野で注目されている。
【0006】
このようなグルタチオンは、基本的に体内で合成されるが、疾病発生、免疫力弱化、老化など異常な状態が進行されるほど人体内の絶対的含量が少なくなり、健康を悪化させる。従って、外部から供給されるグルタチオンは、細胞内の活性酸素種を除去して健康を維持し、老化を遅らせることができる。
【0007】
このようなグルタチオンの人体内の生理活性要因により、現在グルタチオンは、食品、化粧品、飼料、及び医薬品の用途として使用されており、ますます使用量が増加している傾向にある。
【0008】
一方、グルタチオンの生産は、現在食用可能な微生物を用いて生産するが、微生物が生産し得るグルタチオン固有の含量は非常に低いため、突然変異及び組換え技術で微生物のグルタチオンの含量を増大させて、これを利用した発酵技法により高含量グルタチオンの生産菌株として大量に生産する研究が活発に進められている。
【0009】
従って、グルタチオン高含量菌株の開発は、経済的価値を高める根本的な素材を開発するものであって、グルタチオンを健康食品、医薬品、飼料など広範囲に使用できるようにする市場競合力を持たせるようにする。しかしながら、遺伝子組換え技術による菌株の開発は、現在イシューになっているGMO議論から自由になれないため、その使用範囲が制限されるが、突然変異技術による菌株の育種は、使用に制限がなく、様々な用途として広範囲に使用できる。従って、突然変異技術を利用した高含量のグルタチオン生産菌株の育種は、非常に必要な技術である。
【0010】
一方、韓国は経済成長と共に、飲酒に使用するアルコールの消費が急増しており、これによる国民健康の管理は重要なイシューであり、過度なアルコール摂取が国民の健康及び社会経済的な側面で大きな社会問題となっている。韓国の保健福祉部と疾病管理本部の調査結果によると、2016年基準の韓国内20歳以上の成人の場合、月1回以上飲酒した割合が約75%と報告されており、毎年その割合が増加している。のみならず、WHOの国別アルコール消費量の調査結果、2016年基準満15歳以上の韓国国民のアルコールの消費量は、1人当たり平均11.9Lで、世界のアルコールの平均消費量よりも4.8L高いレベルであって、飲酒量の消費は世界17位に該当し、西太平洋地域の国では1位を記録した。
【0011】
特に、韓国国民のうち、アルコール摂取により生成される体内のアルデヒド(Aldehyde)の過量残存は、 心血管系疾患、糖尿、神経退行性疾患、上部消化及び呼吸器がん、放射線皮膚炎、ファンコーニ貧血、末梢神経損傷、炎症、骨粗しょう症や老化のような酸化作用に起因した疾病をもたらすと報告されている(Chen et al.2014)。
【0012】
また、飲酒による社会経済的な損失規模が大半の国でGDP比約0.5−2.7%に至ることが報告されており、韓国の場合、2000年一年飲酒による社会経済コストが14条9,352億ウォンと推定されており、その中で、疾病、事故、二日酔いによる生産性の減少や損失額が6兆2,845億ウォンと推定されるという報告がある(チョン・ウジンet al.2006)。
【0013】
このような社会的問題を解決するために、エタノールの毒性を軽減させたり、毒性の発現を阻害することができる多くの物質に対する研究や実験が進められており、その結果物は様々な健康補助食品に関する製品として開発されている。体内に流入したアルコールは、胃腸又は小腸で吸収され、血管内に入って肝臓へ移されて、分解されて解毒される。
【0014】
肝細胞に存在するアルコール脱水素酵素(ADH、Alcohol Dehydrogenase)がアルコールを先にアセトアルデヒド(Acetaldehyde)に酸化させると、アルデヒドは再度肝細胞にあるアルデヒド脱水素酵素(ALDH、ALdehyde DeHydrogenase)により酢酸塩(Acetate)に分解されて、全身の筋肉や脂肪組織に移されて、最終的には炭酸ガスと水に分解される。エタノールの最初の代謝産物であるアセトアルデヒドは、エタノールに比べて反応性が非常に高く、毒性が強いため、二日酔い及びアルコール性肝障害の主要原因になる。
【0015】
人が持っているアルデヒド脱水素酵素は、19種類が報告されており(Marchitti et al.2007、2008)、この中で、ミトコンドリアに主に存在するアセトアルデヒド脱水素酵素(Acetaldehyde Dehydrogenase 2)は、酵素工学的に分析した結果、アセトアルデヒドを酵素の基質として分析したとき、他の種類のアルデヒドを基質として使用したときよりも、最も低いKm値(〜0.2μM)をもって、アルコールに由来するアセトアルデヒドを最もよく酸化させて除去することが示された。
【0016】
生体内エタノールの代謝で生成された二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドを酢酸塩に最も効果的に切り換えることにより、アルデヒドを除去することは人体健康に非常に重要である(Eriksson et al.1977,Klyosov et al.1996−1)。また、アセトアルデヒド脱水素酵素は、アセトアルデヒドだけでなく、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、多環式アルデヒドのようなアルデヒドの代謝過程にも用いられて、体内の毒性物質を除去する(Klyosov et al.1996−2)。
【0017】
代表的な例として、酸化的ストレス過程で発生する酸化アルデヒド物質である4−ヒドロキシ−2−ノネナール(4−HNE)とマロンジアルデヒド(MDA)を除去し、タバコの煙や自動車のばい煙で発生するアクロレイン(acrolein)を除去する役割をする(Chen et al.2010,Yoval−Sanchez et al.2012)。人体内のアセトアルデヒド脱水素酵素の酵素の発現が少ないか、この酵素の487番目のアミノ酸残基がグルタミン酸からリシンに変異された人は、顔が赤くなる紅潮現象を見せるなど、少ない量のアルコールにも敏感な反応を示すだけでなく、転換をすることができないため、飲酒時に血中アセトアルデヒドの濃度が高い(Yoshida et al. 1984)。
【0018】
特に、アセトアルデヒド脱水素酵素の同型接合体であるALDH2−2を有している場合、飲酒に弱いということが多くの研究を通じて知られており、このような遺伝的変異は、西洋人にはほぼ示されないが、韓国人、中国人、日本人には全人口の50%で見つかっている(Brooks et al.2009)。
【0019】
アルデヒド脱水素酵素に対する研究開発は、医療用の目的で体内のアルデヒド脱水素酵素の促進剤及び抑制剤に対する研究が活発に研究されることにより、アルデヒド脱水素酵素の重要性が強調されているが(Budas et al.2009、Chen et al.2014、M.zel et al.2018)、アルデヒド脱水素酵素2の高含量微生物の育種や大量生産技術の開発に対する研究は、まだ足りないのが実情である。
【0020】
アルデヒド脱水素酵素2の高効率生産菌株の開発は、大腸菌(E.coli)を宿主としたタンパク質発現システムを用いて、ヒト型アルデヒド脱水素酵素1と2のタンパク質を発現させて、このうち30%のみが活性のある可溶性形態の酵素として発現し、単に2−4mg/Lのタンパク質を生産したと報告されており(Zheng et al.1993)、ラット(Rat)のアルデヒド脱水素酵素2の場合、95%が活性のある可溶性タンパク質として発現されたが、1−2mg/Lの非常に少ないタンパク質を生産したと報告されている(Jeng et al.1991)。
【0021】
しかし、法的制限が小さく、活用が容易な突然変異方法を用いたアルデヒド脱水素酵素2の生産量を増加させた事例は報告されていない。従って、アルデヒド脱水素酵素2の使用範囲の拡大のために、突然変異方法による高活性のアルデヒド脱水素酵素2を有する微生物の開発が早急に要求される。
【0022】
一般に、微生物菌株から目的産物の生産性を増加させるための菌株の育種方法は、遺伝子組換え技術や突然変異技術等が多く使用されているが、遺伝子組換え技術による菌株改良の場合、法的制限要素が多く、適用範囲にも限界があり、突然変異の誘発方法は非常に有利である。
【0023】
菌株の改良のための突然変異誘発方法は、一般にEthylmethanesulfonate(EMS)又はMethylnitronitrosoguanidine(NTG)のような化学物質や紫外線(UV)等を用いて、菌株の遺伝子に突然変異を誘発させて特性を変化させた後、目的産物の生産に適した選択要素(Selection factor)を加えて、所望の形質を適応(Adaptation)し、所望の突然変異体を誘導して選別できる。
【0024】
生体遺伝子は、グアニン(Guanine)とシトシン(Cytosine)の遺伝子結合対は3重水素結合で、アデニン(Adenine)とチミン(Thymine)は2重水素結合で対をなしており、遺伝情報を保存している遺伝子の塩基配列は、3重、2重水素結合のため、必ずグアニンはシトシンと、アデニンとチミンと対になって構成されている。
【0025】
化学物質を突然変異の誘発源として使用する際には主に、化学的誘発剤であるEMSやNTGを使用する際にはグアニンをアルキル化してO−6−ethyl Guanineを形成し、結果として3重結合を妨害し、最終のチミンと2重結合を形成することになり、この部分の遺伝子塩基対が変わり得るようになる。
【0026】
このように遺伝子塩基が変わった状態でDNA複製が生じると、チミン部分はアデニンと対をなして、グアニン、シトシン部分がアデニンチミンに置換(Nahafi et al.2013)され、このようになると突然変異が生じる。
【0027】
また、適応による突然変異体の選抜は、メチルグリオキサール(Methylglyoxal)は該当過程及びアミノアセトンの循環で合成された毒性物質としてグリオキサール還元酵素(Glyoxal reductase)により乳酸に転換されるが、このシステムにグルタチオンが助酵素として関与する性質を用いてグリオキサールを添加した培地を使用し、グルタチオンの生産性が高い菌株に誘導することになる。
【0028】
即ち、グルタチオンが足りないと、このシステムが作動されないため、敏感性が増加し、グルタチオンが過剰生産されると、抵抗性が増加し得る。結果として、グルタチオンの過剰生産菌株の選別のための選別要素として、メチルグリオキサールが使用できるようになる(Ohtake et al.1990)(Hamad et al.2018)。
【0029】
アルデヒド脱水素酵素を多く生産する突然変異誘導体は、リシン(Lycine)を培地に添加して選別できる。リシンは陰電荷の細菌膜と作用した後、細胞膜の構造を崩して菌体の成長を抑制させるだけでなく、また、細胞内部に透過後、核酸と作用してタンパク質合成を阻害機能することで、微生物の成長を抑制させる。
【0030】
従って、高濃度のリシンが含有された条件で育てる耐性菌株は、菌株のタンパク質の合成能力を増加させることができ、結果、アルデヒド脱水素酵素を過量に生産する菌株選別方法として使用できる。
【0031】
しかしながら、以上で見たように、人体内に溜まる様々な有害物質のうち、特に活性酸素種や様々なアルデヒド類のような化学物質を除去するためには、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に使用すると効率性が高いが、これまでの調査では、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に生産する菌株の開発は報告されていない。
【0032】
本発明では、アルデヒド脱水素酵素とグルタチオンを同時に高効率で生産できる菌株を1次化学突然変異方法を使用し、突然変異株を作り、2次選択要素(Selection factor)適応(Adaptation)変異株を選抜して開発した。
【0033】
Ethylmethanesulfonate(EMS)又はMethylnitronitrosoguanidine(NTG)を使用した化学的方法を1次使用し、2次選抜の際には、これまで試みられていないメチルグリオキサールとリシンの2つの適応試験でグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に過量に生産株を最終選別した。
【0034】
グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に過量生産する突然変異菌株は、食品、健康食品、飼料、化粧品、及び医薬用の使用に問題がないGRAS(Generally Recognized As Safe)と報告されており、既に生産効率は低いが、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を全て生産する菌株として知られている野生のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を選抜して使用した。
【0035】
このように突然変異を通じてグルタチオンの生産能力が増加し、同時にアルデヒド脱水素酵素の生産能力も増加した新しい改良菌株であるサッカロマイセス・セレビシエ属(Saccharomyces cerevisiae sp.)を確保することにより、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】Budas,G.R.,Disatnik, M. H., & Mochly−Rosen,D.(2009).Aldehyde dehydrogenase 2 in cardiac protection:a new therapeutic target?.Trends in cardiovascular medicine,19(5),158−164.
【0037】
【非特許文献2】Chen,C.H.,Ferreira,J.C.B.,Gross,E.R.,& Mochly−Rosen,D.(2014).Targeting aldehyde dehydrogenase 2:new therapeutic opportunities.Physiological reviews,94(1),1−34.
【0038】
【非特許文献3】Eriksson,C.J.(1977).Acetaldehyde metabolism in vivo during ethanol oxidation.Advances in experimental medicine and biology,85,319−341.
【0039】
【非特許文献4】Hamad,G.M.,Taha,T.H.,Alshehri,A.M.& Hafez,E.E.,(2018).Enhancement of the Glutathione Production by Mutated Yeast Strains and its Potential as Food Supplement and Preservative.Res.J.Microbiol.,13:28−36.
【0040】
【非特許文献5】Jeng,J.,&Weiner,H.(1991).Purification and characterization of catalytically active precursor of rat liver mitochondrial aldehyde dehydrogenase expressed in Escherichia coli.Archives of biochemistry and biophysics,289(1),214−222.
【0041】
【非特許文献6】Klyosov,A.A.,Rashkovetsky,L.G.,Tahir,M.K.,& Keung,W.M.(1996−1).Possible role of liver cytosolic and mitochondrial aldehyde dehydrogenases in acetaldehyde metabolism.Biochemistry,35(14),4445−4456.
【0042】
【非特許文献7】Klyosov,A.A.(1996−2).Kinetics and specificity of human liver aldehyde dehydrogenases toward aliphatic,aromatic,and fused polycyclic aldehydes.Biochemistry,35(14),4457−4467.
【0043】
【非特許文献8】Liu,J.,Head,E.,Gharib,A.M.,Yuan,W.,Ingersoll,R.T.,Hagen,T.M., & Ames,B. N.(2002).Memory loss in old rats is associated with brain mitochondrial decay and RNA/DNA oxidation: Partial reversal by feeding acetyl−L−carnitine and/or R−α−lipoic acid.Proc.Natl.Acad.Sci.,99(4),2356−2361.
【0044】
【非特許文献9】Marchitti,S.A.,Deitrich,R.A., & Vasiliou,V.(2007).Neurotoxicity and metabolism of the catecholamine−derived 3,4dihydroxyphenyla cetaldehyde and 3,4−dihydroxyphenylglycolaldehyde:the role of aldehyde dehydrogenase.Pharmacological reviews,59(2),125−150.
【0045】
【非特許文献10】Marchitti,S.A.,Brocker,C.,Stagos,D., & Vasiliou,V.(2008).Non−P450 aldehyde oxidizing enzymes:the aldehyde dehydrogenase superfamily.Expert opinion on drug metabolism & toxicology,4(6),697−720.
【0046】
【非特許文献11】Najafi,MBH, & Pezechki,P.(2013)Bacterial mutation;types,mechanisms and mutant detection methods:a review.European Scientific Journal,4
【0047】
【非特許文献12】Ohtake,Y.,Satou,A.,& Yabuuchi,S.(1990).Isolation and Characterization of Glutathione Biosynthesis−deficient Mutants in Saccharomyces cerevisiae.Agric.Biol.Chem.,54(12),3145−3150.
【0048】
【非特許文献13】Wright,C.,Milne,S., & Leeson,H.(2014).Sperm DNA damage caused by oxidative stress:modifiable clinical,lifestyle and nutritional factors in male infertility.Reprod. BioMed.Online,28(6),684−703.
【0049】
【非特許文献14】Yoshida,A.,Huang,I.Y., & Ikawa,M.(1984).Molecular abnormality of an inactive aldehyde dehydrogenase variant commonly found in Orientals.Proceedings of the National Academy of Sciences,81(1),258−261.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0050】
本発明の目的は、野生のサッカロマイセス・セレビシエ酵母を突然変異させて、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産能力を増加させる突然変異方法を提供することである。
【0051】
本発明のまた別の目的は、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に高効率の生産能力を示すサッカロマイセス・セレビシエKwonP−1(Saccharomyces cerevisiae KwonP−1:KCTC13925BP)の突然変異酵母菌株を提供することである。
【0052】
本発明のまた別の目的は、野生のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を突然変異させて培養した、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産能力に優れるとともに、メチルグリオキサール(Methylglyoxal)耐性が強い、新規な酵母である寄託番号KCTC14122BPのサッカロマイセス・セレビシエKwonP−2を提供することである。
【0053】
本発明のまた別の目的は、野生のサッカロマイセス・セレビシエ酵母を突然変異させて製造した、リシン(Lysine)耐性が強い新規な菌株KCTC14123BPのサッカロマイセス・セレビシエKwonP−3を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0054】
以上のような本発明の目的を達成するために、本発明は、グルタチオン及びアルデヒド脱水素酵素の同時生産能力を増加させた変異微生物を作るために、野生のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)中、微量であるものの、グルタチオン及びアルデヒド脱水素酵素を生産することができる菌株を選抜使用した。
【0055】
このような基準に選抜した野生酵母を人為的に化学突然変異させた後、再度グルタチオンを過量生産する菌株は、メチルグリオキサール適応変異株、アルデヒド脱水素酵素の過量生産菌株の選抜は、リシン適応変異株の選抜方法として、最終的にグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に過量生産するサッカロマイセス・セレビシエを選抜した。
【0056】
以下、本発明の突然変異誘導方法と、選抜された突然変異酵母をより具体的に説明する。
【0057】
サッカロマイセス・セレビシエKwonP−1の突然変異菌株(KCTC13925BP)は、韓国産マッコリ、麹等から選抜された野生のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株の250種のうち、微量であるものの、グルタチオン及びアルデヒド脱水素酵素を同時に生産する菌株を20種選抜した後、同時生産性が最も高い菌株を1種最終選抜した。
【0058】
その後、選抜された20種の菌株にNTG(Nitrosoguanidine)又はEMS(Ethyl−methane−sulfonate)処理し、化学突然変異を誘発した突然変異の微生物のグルタチオンの生産性を高めるために、メチルグリオキサールの濃度、これに制限されないが、5乃至15mM、好ましくは10mMの濃度に対する適応性が高い耐性酵母微生物を1次選抜した。
【0059】
その後、再度2次選別は、アルデヒド脱水素酵素の生産性が高い微生物の選抜のために、リシンに対する適応耐性を有する新規な酵母突然変異菌株を選別するために、これに制限されないが、3乃至5%、好ましくは3%濃度のリシンで耐性を有する酵母微生物を選抜した。最終的に、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産性が高いサッカロマイセス・セレビシエKwonP−1(Saccharomyces cerevisiae KwonP−1)を選抜した。
【0060】
前記サッカロマイセス・セレビシエKwonP−1は、国際寄託機関に受託番号KCTC13925BPとして寄託されており、優れたグルタチオンの生産及びアルデヒド脱水素酵素の生産能力を有することを特徴とする。
【0061】
本発明の実施例において、前記サッカロマイセス・セレビシエKwonP−1の突然変異菌株(KCTC13925BP)は、サッカロマイセス・セレビシエの野生型菌株のうち、微量であるものの、グルタチオンの生産及びアルデヒド脱水素酵素の同時生産能力がある選抜菌株にNTG(nitrosoguanidine)又はEMS(Ethyl−methane−sulfonate)を処理して突然変異を誘発し、前記菌株からメチルグリオキサールに対する耐性を有し、リシンに対する耐性を有する菌株を選別したものであって、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の生成能が最初選抜されたや野生菌株に比べて、2つ物質の生産性に優れることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】本発明の実施例にかかり、メチルグリオキサールの処理濃度によるサッカロマイセス・セレビシエの野生型菌株の生存率曲線(curve)を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例にかかり、NTGの処理濃度によるサッカロマイセス・セレビシエの野生型菌株の生存率曲線(curve)を示すグラフであり、青色は24時間培養した野生のサッカロマイセス・セレビシエの生存率であり、オレンジ色は野生のサッカロマイセス・セレビシエを培養してOD値が0.5になった後に使用した。
【
図3】本発明の実施例にかかり、EMSの処理濃度によるサッカロマイセス・セレビシエ野生型菌株の生存率曲線(curve)を示すグラフであり、青色は24時間培養した野生のサッカロマイセス・セレビシエの生存率であり、オレンジ色は野生のサッカロマイセス・セレビシエを培養してOD値が0.5になった後に使用した。
【
図4】本発明の実施例にかかり、サッカロマイセス・セレビシエの突然変異菌株から生成されたグルタチオンの濃度分布結果を示すグラフである。この際、横軸は菌体当たりのグルタチオンの含量を示し、縦軸はコロニー(colony)の数を示す。
【
図5】本発明の実施例にかかり、リシンの処理濃度によるサッカロマイセス・セレビシエの野生型菌株の生存率曲線(curve)を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例にかかり、サッカロマイセス・セレビシエの突然変異菌株から生成されたアルデヒド脱水素酵素の濃度分析結果を示すグラフである。このとき、横軸の数字はサッカロマイセス・セレビシエそれぞれの突然変異菌株を意味するものであり、縦軸はサッカロマイセス・セレビシエの突然変異菌株のアルデヒド脱水素酵素の活性をサッカロマイセス・セレビシエの野生菌株のアルデヒド脱水素酵素の活性と比較し、相対的なアルデヒド脱水素酵素の活性を示すものである。
【
図7】本発明の1つの実施例にかかるサッカロマイセス・セレビシエの突然変異菌株KwonP−1の細胞形態を光学顕微鏡で観察した図である。
【
図8】本発明の1つの実施例にかかるサッカロマイセス・セレビシエの野生型菌株の細胞形態を光学顕微鏡で観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、次の実施例を通じて、本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明しようとする。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されるわけではない。
【0064】
[実施例1]
グルタチオンの生産能力が向上した菌株の選別
【0065】
グルタチオンの生産能力が向上した新規な突然変異菌株を選別するために、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の野生菌株に突然変異を誘導するためのEMS(Ethyl−methane−sulfonate)又はNTG(nitrosoguanidine)を処理し、メチルグリオキサール(methylglyoxal)に対する耐性を評価し、最終的にグルタチオンの生成能が向上した菌株を選別した。具体的には、下記のように実験を行った。
【0066】
実施例1−1:メチルグリオキサール(methylglyoxal)におけるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の野生型菌株の生存率分析
【0067】
グルタチオンの生成能が向上した新規な酵母突然変異菌株を選別するための実験条件を確立するために、メチルグリオキサールに対する耐性菌株を選別する前に生存率を測定し、処理濃度の範囲を決定した後に処理濃度を選定しようとした。このとき、野生で選別されたサッカロマイセス・セレビシエを母菌株として使用した。
【0068】
具体的に、まず、突然変異株の耐性菌株を選別するために、前記準備した酵母菌株のメチルグリオキサールの処理濃度を異にして生存率を調査した。このため、前記菌株をYPD培地(2%ペプトン、1%酵母抽出物、2%グルコース)に接種し、30℃でOD
600nm(Optical Density at 600nm)値が0.5になるまで成長させた後、菌体を回収した。前記回収した菌体をそれぞれ0mM、5mM、10mM、及び15mMの濃度のメチルグリオキサールが添加されたYPD寒天培地(寒天1.5%添加)に塗抹して接種した後に培養した。このとき、回収した菌体は、0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)で洗浄した後、OD
600nm値を1.0に調節してメチルグリオキサールが添加されたYPD寒天培地に塗抹した。塗抹後、30℃で48時間培養し、前記菌株の生存率グラフで作成した。
【0069】
その結果、下記の
図1に示すように、メチルグリオキサールを10mMの濃度で処理時、99.995%の死滅率が確認され、メチルグリオキサールを15mMの濃度で処理時、試験微生物100%が死滅した。
【0070】
ここに、グルタチオンの生成能が向上した新規な突然変異菌株を選別するために、前記結果に基づいて、野生型菌株のメチルグリオキサール耐性菌株を選別するためには、メチルグリオキサールが10mMの濃度で添加されたYPD寒天培地を使用した。
【0071】
実施例1−2:グルタチオンの生成能に優れた突然変異候補菌株の選別のための突然変異条件の確立
【0072】
前記実施例1−1でグルタチオンの生成能が向上した新規な突然変異菌株を選別するための実験条件を確立した。具体的に、野生型菌株のメチルグリオキサール耐性菌株の選別のために、YPD寒天培地にメチルグリオキサールを10mMの濃度で添加した。
【0073】
よって、野生型菌株からグルタチオンの生産に優れた突然変異菌株を選別するために、EMS(Ethyl−methane−sulfonate;エチル−メタン−スルホネート)又はNTG(Nitrosoguanidine)の処理濃度別の生存率曲線を作成した。
【0074】
具体的に、野生型菌株をYPD培地に接種し、OD
600nm値が0.5になるまでに、また24時間培養した後、2つの培養液を対象として4,000rpmで10分間遠心分離して沈殿した菌体を回収した。回収した菌体を0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を使用して2回洗浄し、遠心分離した後、最終的にOD
600nm値が1.0になるように、0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)で希釈して使用した。その後、突然変異を誘導するために、遠心分離後に回収された菌体に1%、2%、3%、及び4%濃度のNTGが含まれた0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加し、30℃の温度条件で30分間NTGを処理した。前記NTGが処理された突然変異株を4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した後、0.1Mクエン酸バッファー(citiric buffer、pH5.5)を使用して2回洗浄した。前記洗浄された菌体に1mlの0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加して混合した後、YPD寒天培地に塗抹した。
【0075】
一方、突然変異を誘導するための物質であるEMS処理によるメチルグリオキサール耐性突然変異菌株の選別のために、前記NTG処理条件と同じ条件で成長した酵母野生型菌株を1mL取って遠心分離した。前記遠心分離後に回収された菌体に1%、2%、3%、及び4%濃度のEMSが含まれた0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加し、30℃の温度条件で60分間EMSを微生物に処理した。前記EMSが処理された突然変異株を4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した後、0.1Mクエン酸バッファー(citiric buffer、pH5.5)を使用して2回洗浄した。前記洗浄された菌体に1mlの0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加して混合した後、YPD寒天培地に塗抹した。
【0076】
その結果、下記の
図3に示すように、EMSは24時間培養後、3%の濃度で処理時、99.4%の死滅が確認された。また、
図2に示すように、NTGは24時間培養後、1%の濃度で処理時、99.7%の死滅を示した。
【0077】
ここに、グルタチオンの生成能が向上した新規な酵母突然変異菌株を選別するために、前記結果に基づいて、野生型菌株のグルタチオン耐性菌株の選別のための最適のNTG、EMS処理濃度をそれぞれ1%、3%と選定した。
【0078】
実施例1−3:グルタチオンの生成能に優れた突然変異酵母菌株の選別
【0079】
前記実施例1−2、1−3でグルタチオンの生成能が向上した新規な酵母突然変異菌株を選別するための実験条件を確立した。具体的に、酵母野生型菌株のメチルグリオキサール耐性菌株の選別のために、YNB寒天培地にメチルグリオキサールを10mMの濃度で添加することとし、突然変異のためにNTG1%、EMS3%の条件を確立した。
【0080】
ここに、野生型菌株からグルタチオンの生産に優れた突然変異菌株を選別するために、メチルグリオキサール耐性突然変異菌株を選別し、これをYPD培地で菌体を成長させてグルタチオンの濃度を測定して、菌体内グルタチオンの含量(%、g/g−cell)で表記した。
【0081】
具体的に、野生型菌株をYPD培地に接種して24時間培養した後、培養液を収得して4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した。その後、前記回収した菌体を0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を使用して2回洗浄し、最終的にOD
600nm値が1.0になるように0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)で希釈して使用した。突然変異を誘導するために、それぞれEMS3%を含む0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)に10分間、NTG1%を含む0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)に30分間処理した後、突然変異された微生物を4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した後、0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加して混合した後、10mM濃度のメチルグリオキサールが添加されたYPD寒天培地に塗抹した。塗抹して培養した後、生存された菌株を回収し、これをYPD培地で48時間培養した。このときの培養条件として、培養温度は30℃であり、攪拌速度は160rpmであった。48時間培養した後、グルタチオンの濃度を測定し、菌体内グルタチオンの含量(%、g/g−cell)と表記した。
【0082】
このとき、グルタチオンの濃度分析のために培養された菌体を遠心分離し、沈殿した菌体に1mLの水を添加して2時間の間に85℃で1,000rpmで攪拌して抽出した。抽出した後、遠心分離機を利用して菌体を除去し、上澄液を0.22μmフィルタでろ過して回収した。HPLC(Shimazu LC−20AD)分析を通じて、前記回収したろ過液に含まれているグルタチオンの濃度を測定した。一方、グルタチオンの濃度は、グルタチオンの標準曲線を用いて分析し、HPLC分析の条件は、C18カラムを使用して分析した。移動相溶媒(2.02g/L Sodium 1−heptanesulfonate monohydrate,6.8g/L Potassium dihydrogen phosphate,pH3.0,メタノール混合)を1ml/minの流速で流して、紫外線検出器210nm波長で検出されたグルタチオンの濃度を測定した。
【0083】
総130の突然変異菌株が生成され、それぞれの突然変異菌株のグルタチオンの濃度を分析した結果、
図4のように、菌体内グルタチオンの含量が0.3%から0.5%未満の突然変異菌株は70種であり、0.5%から0.7%未満の突然変異菌株は30種であり、0.7%から0.85%未満の突然変異菌株は23種であり、0.85%から1.1%未満の突然変異菌株は7種であった。即ち、EMS又はNTG処理によるメチルグリオキサール耐性菌株のグルタチオンの生成能力は、48.6%が野生型菌株の菌体内グルタチオンの含量である0.42%に比べて優れて示され、このうち、下記の表1に示すように、7種の突然変異菌株が母菌株に比べて2倍以上向上したグルタチオンの生成能力を示した。
【0084】
これを根拠として、EMS処理によるメチルグリオキサール耐性突然変異菌株のうち、最もグルタチオンの生成能が良いサッカロマイセス・セレビシエems c7をグルタチオンの生成能に優れた突然変異の最終候補菌株として選別した。
【0085】
以下、実施例2では、NTG処理を用いた突然変異を使用し、前記選別した候補菌株のアルデヒド脱水素酵素の生成能を向上させた。
【0086】
EMS又はNTG処理による酵母のメチルグリオキサール耐性突然変異菌株の培養結果
【表1】
【0087】
[実施例2]
アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の生成能が向上した菌株の選別
【0088】
アルデヒド脱水素酵素の生成能が向上した新規な突然変異菌株を選別するために、実施例1で選ばれたグルタチオンの生産量が最も高いサッカロマイセス・セレビシエems c7をリシン(Lysine)に対する耐性を評価し、最終的にアルデヒド脱水素酵素の生成能が向上した菌株を選別した。具体的に下記のように実験を行った。
【0089】
実施例2−1:リシン(Lysine)でサッカロマイセス・セレビシエems c7菌株の生存率分析
【0090】
アルデヒド脱水素酵素の生成能が向上した新規な突然変異菌株を選別するための実験条件を確立するために、グルタチオン突然変異株サッカロマイセス・セレビシエems c7のリシンに対する耐性菌株を選別するための最適のリシン処理の濃度を選定しようとした。このとき、グルタチオンの生成能が向上したサッカロマイセス・セレビシエems c7を準備し、この菌株を母菌株として使用した。
【0091】
具体的に、サッカロマイセス・セレビシエ突然変異菌株のリシン耐性菌株を選別するために、前記準備したサッカロマイセス・セレビシエems c7菌株のリシン処理の濃度による生存率を調査した。このため、前記菌株をYPD培地(2%ペプトン、1%酵母抽出物、2%グルコース)に接種して、30℃でOD
600nm値が0.5になるまで成長させた後、菌体を回収した。前記回収した菌体をそれぞれ0%、3%、4%、5%、6%、及び7%濃度のリシンが添加されたYPD寒天培地(寒天1.5%添加)に塗抹した。このとき、回収した菌体は、0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)で洗浄した後、OD
600nm値を1.0に調節し、リシンが添加されたYPD寒天培地に塗抹した。塗抹後、30℃で48時間培養して前記菌株の生存率曲線(curve)を作成した。
【0092】
その結果、下記
図5に示すように、リシンを3%濃度で処理時、87.5%の死滅が確認した。
【0093】
ここに、アルデヒド脱水素酵素の生成能が向上した新規な突然変異菌株を選別するために、前記結果に基づいて、サッカロマイセス・セレビシエems c7菌株のリシン耐性菌株の選別のための最適のリシン処理の濃度を3%と選定し、リシンが3%濃度で添加されたYPD寒天培地を使用して選別した。
【0094】
実施例2−2:アルデヒド脱水素酵素の生成能に優れた突然変異候補菌株の選別
【0095】
前記実施例1−2、2−1でアルデヒド脱水素酵素の活性が向上した新規な酵母突然変異菌株を選別するための実験条件を確立した。具体的に、突然変異サッカロマイセス・セレビシエems c7菌株のリシン耐性菌株の選別のために、YPD寒天培地にリシンを3%の濃度で添加することとし、突然変異のためにNTG1%の条件を確認した。
【0096】
ここに、サッカロマイセス・セレビシエems c7菌株からグルタチオンの生産が優れた突然変異菌株を選別するために、リシン3%が含まれたYPD培地で菌体を成長させて、アルデヒド脱水素酵素の濃度を測定した。
【0097】
具体的に、酵母野生型菌株をYPD培地に接種して24時間培養した後、培養液を4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を使用して2回洗浄し、最終的にOD
600nm値が1.0になるように0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を追加して希釈した。突然変異を誘導するために、それぞれNTG1%を含む0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)に10分間処理した後、突然変異株を4,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した後、0.1Mクエン酸バッファー(Citiric buffer、pH5.5)を添加して混合した後、3%濃度のリシンが添加されたYPD寒天培地に塗抹した。塗抹して培養した後、生存された菌株を回収し、これをYPD培地で48時間培養した。このときの培養条件として、培養温度は30℃であり、攪拌速度は160rpmであった。48時間培養した後、アルデヒド脱水素酵素の活性を測定した。
【0098】
しかしながら、アルデヒドが揮発性であり、生産される量が微量であるため、既存の方法で測定は試料に対するばらつきが多く、安定したアルデヒドの測定方法の定立が必要であり、これに基づく正確な新しい酵素力価の測定方法の開発は、作られたアルデヒド脱水素酵素のQC(Quality Control)に絶対的に必要であり、実施例3で新しい方法を開発した。
【0099】
[実施例3]
新しいアルデヒド脱水素酵素力価の測定方法の確立と、突然変異菌株の酵素力価の測定
【0100】
既存のアルデヒド脱水素酵素の活性を測定する方法として、波長340nmでのNAD(P)+吸光度を測定する方法が広く使用されるが、これは、助酵素の変化量を見てみるため、間接的な結果といえ、使用できなかった。従って、酵素の基質に対する直接的な酵素のKm値を測定するために、本発明者らは、アルデヒドの定量のためにHPLC分析方法を利用した。但し、酵素ALDHにより消耗されるアルデヒドは非常に少ない量であり、アセトアルデヒドは常温でも揮発性が強いため、反応産物で直接定量することは技術的に困難があるという問題点がある。
【0101】
よって、問題点を解決するために、発明者らは、アセトアルデヒドに一定量の割合でDinitrophenylhydrazine(DNPH)を添加して一定の濃度で反応させると、アセトアルデヒド−ヒドラゾン(AcH−DNPH)化合物が形成され、これは、HPLC用C18カラムに移動相アセトニトリル(Acetonitrile)と水(water)を溶媒で展開し、360nmで検出されて定量できるという参考文献(Guan.et.al,2012)に基づいて、アルデヒド脱水素酵素の反応により減少したアルデヒドの量を分析した。酵素反応液としては、50mMリン酸カリウムバッファー(Potassium phosphate buffer)(pH8.0)、1mMアセトアルデヒド、測定微生物ライセート(lysate)10μLに酵素の補因子(Cofactor)1mM NADP+をそれぞれ添加してから30℃で反応後、ここに10mM DNPH50μlを添加した後、22℃で1時間アセトアルデヒド−ヒドラゾン(AcH−DNPH)のラベリングを進行した。ラベリングは、3M酢酸ナトリウム(3 M Sodium acetate)(pH9)を添加することで反応を終了させて、2倍体積のアセトニトリル(Acetonitrile)を添加することで、アセトアルデヒド−DNPH化合物が溶けている層を分離した後、HPLCに注入して分析した。ラベリングされたアルデヒドの濃度は、Aldehyde−DNPH(Sigma−Aldrich)の物質標準曲線を用いて分析し、HPLC分析の条件は、C18カラムを使用して溶媒(アセトニトリル、水)を1ml/minの流速で流して、紫外線検出器360nm波長で得て分析した。このとき、アルデヒド脱水素酵素の1unitは、分当たり減少したアセトアルデヒド−DNPHの濃度1mMを1unitとし、アルデヒド脱水素酵素の活性は、タンパク質mg当たりunitと示した。
【0102】
アルデヒド脱水素酵素の濃度を分析した結果、下記
図6で示すように、サッカロマイセス・セレビシエems c7菌株のNTG処理によるリシン耐性菌株のアルデヒド脱水素酵素の生成能力は、リシン耐性突然変異株の約42%が初期の母菌株とサッカロマイセス・セレビシエems c7(母菌株より110%優れる)より優れて示され、4種(#4、#8、#16、#21)は、140%以上生産能の向上が示された。このとき、アルデヒド脱水素酵素の生成能力に優れた4種のグルタチオンの含量は、#4番の突然変異菌株は0.9%、#8番の突然変異菌株は0.96%、#16番の突然変異菌株は0.93%、#21番の突然変異菌株は0.92%であり、ライセン処理によってもグルタチオンの生成能力の変化はなかった。
【0103】
前記アルデヒド脱水素酵素の活性が母菌株に比べて1.4倍以上向上した突然変異株4種に対する結果を表2に示した。これに基づいて、NTG処理によるリシン耐性突然変異サッカロマイセス・セレビシエ#8をアルデヒド脱水素酵素の生成能に優れた突然変異菌株として選別し、サッカロマイセス・セレビシエKwon P−1と名付けた。
【0104】
NTG処理による酵母のリシン耐性突然変異菌株のアルデヒド脱水素酵素の活性
【表2】
【0105】
[実施例4]
グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の生成能に優れた突然変異の形態変化
【0106】
前記実施例2−2でグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の生成能が向上した新規な酵母突然変異菌株を選別し、形態変化を観察するために光学顕微鏡を使用して突然変異菌株を観察した。突然変異菌株サッカロマイセス・セレビシエKownP−1の細胞形態を
図7に示し、野生型菌株酵母の野生型の形態を
図8に示した。光学顕微鏡の観察結果、突然変異菌株サッカロマイセス・セレビシエKwonP−1の細胞直径が60%以上増加した結果を確認し、細胞内小器官である液胞の大きさが肥大した特徴を確認した。以上の実施例で本特許のサッカロマイセス・セレビシエKwon P−1は、細胞の大きさが60%増加し、液胞が大きい独特な形態的特徴は、特許件を侵害した盗用を防止することができる重要な手段として使用できる特定化された形態である。
【0107】
[実施例5]
サッカロマイセス・セレビシエKwon P−1を用いたグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産
【0108】
サッカロマイセス・セレビシエKwon P−1を滅菌されたYPD液体培地(2%ペプトン、1%酵母抽出物、2%グルコース)に接種し、培養温度は30℃であり、攪拌速度は160rpmであり、16時間培養した種子培養(Seed culture)を行った。本培養は、滅菌したYPD滅菌液体培地に1%レベルで接種し、種子培養と同じ条件で48時間培養後、培養液のグルタチオンの濃度とアルデヒド脱水素酵素の活性を測定した。同じ条件で20個のフラスコを使用し、20回の繰り返し培養実験をした結果、表3のような菌体内グルタチオンの含量とアルデヒド脱水素酵素の活性結果を得た。特許菌株であるサッカロマイセス・セレビシエKwon P−1は、グルタチオンとアルデヒド脱水素酵素を同時に生産することができ、20回の繰り返し実験の平均生産値は、菌体内グルタチオンの含量は0.97%であり、アルデヒド脱水素酵素の活性は0.173Unit/mg−proteinであることを確認した。これは、特許菌株であるサッカロマイセス・セレビシエKwon P−1の突然変異菌株が、母菌に比べて、グルタチオンの含量は2.3倍、アルデヒド脱水素酵素は1.7倍の生産能力が増加することを示した結果である。
【0109】
フラスコ液体培養でサッカロマイセス・セレビシエKwon P−1のグルタチオンとアルデヒド脱水素酵素の同時生産を確認
【表3】
【受託番号】
【0110】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC13925BP
受託日:20190822
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC14122BP
受託日:20200130
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC14123BP
受託日:20200130